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太田述正コラム#2131(2007.10.18)
<ブッシュとイラン・北朝鮮の核問題>

1 始めに

 ブッシュ大統領は17日の記者会見で、北朝鮮とイランに対する厳しい見解を表明しました。
 それぞれをどう受け止めるか、私見を申し述べたいと思います。

2 対北朝鮮

 ブッシュ米大統領は、北朝鮮の核問題に関し、「北朝鮮は核拡散活動に関するすべての申告とともに、プルトニウム、(核)兵器をどれくらい生産したのか完全な申告を行<わなければならない>」と述べるとともに、「6<か国>協議では、拡散問題は兵器の問題と同等の重みを持っている」と強調し、「北朝鮮が合意を守らなければ、代償を払うことになる」とくぎを刺しました(注1)(
http://www.asahi.com/international/update/1018/TKY200710170368.html
。10月18日アクセス)。

 (注1)10月3日に発表された6か国協議の合意文書では「すべての核計画の完全で正しい申告を年内に行う」とされたが、具体的な中身には触れていない。北朝鮮の6か国協議首席代表の金桂寛外務次官は、先月の6か国協議の際に開かれた韓国との協議等で、年内に行う申告に核兵器を含めない考えを示していた。

 朝鮮日報は、「最近米国で北朝鮮に対しあまりにも譲歩し過ぎているのではないかという世論が巻き起こっているのを意識した<発言の>ようにみえる。」と論評しています(
http://www.chosunonline.com/article/20071018000000
。10月18日アクセス)。
 しかし私は、このブッシュ発言は、北朝鮮が核計画の全貌を明らかにしなければならないということを明確に述べたものであり、シリアへの核協力といった弱みを抱えている北朝鮮としては、日本人拉致問題の全貌を明らかにすること以上の要求を突きつけられていることを意味するものである、と受け止めています。
 これまで(コラム#2123等で)何度も申し上げていることですが、この発言は、ブッシュ政権が一貫して北朝鮮の体制変革を追求してきているとの私の指摘を改めて裏付けるものです。

2 対イラン

 一方、イランの核問題については、ブッシュ大統領は、「もしイランが核兵器を保有することになれば、世界平和にとって危険な脅威となろう。だから私は、第三次世界大戦を予防しようというのなら、彼らが核兵器をつくるために必要な知識を獲得することを防止しようとすべきだと主張してきた。・・私は核兵器を持ったイランの脅威を極めて深刻に受け止めている」と述べています。
 「第三次世界大戦」というのは極めて強い表現であり、イランに対して軍事行動をとる選択肢を留保していることを示唆したものであると受け止められています。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2007/10/17/washington/17cnd-prexy.html?hp=&pagewanted=print
(10月18日アクセス)による。)

 しかし、これまた(コラム#2123等で)何度も申し上げてきているように、ブッシュの残任期中の米国の対イラン攻撃はありません。
 ありえないのです。

 現在米国の軍部には、反ブッシュ政権の気運が漲っています。
 一番最近では、2003年半ばから約1年間在イラク米軍総司令官を勤め、現在は退役しているサンチェス元米陸軍中将が、10月12日、ブッシュ政権の指導者達を無能で腐敗しているとし、イラク占領政策の失敗は、職務怠慢の極みであり、軍人であったら軍法会議にかけられてしかるべきだと激しく非難したことが話題になりました(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/10/12/AR2007101202459_pf.html
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7042805.stm
(どちらも10月14日アクセス)による)。

 それに以前(コラム#2074で)、「仮にブッシュ=チェイニー・ラインがイラン攻撃を命じたとしても、ゲーツ<米国防長官>は自らこのことをリークし、或いは制服幹部達がこのことをリークするのを黙認することによって、この命令を覆すことを目論むでしょうし、それで覆せなければ、今度はファロンが公然と異論を唱えて辞表を叩き付けることでしょう」と述べたところ、私の指摘を裏付ける、要旨以下のようなコラムがスレート誌に掲載されました。
 
 イラクの反省の上に立ち、今度、(将官達の間では絶対にやってはならないというコンセンサスができているところの)イラン攻撃を大統領から命ぜられた時にどうすべきか、侃々諤々の議論が米軍人達の間でなされてきた。
 合法的な命令には服さなければならないので、命令に服するのを頭から拒否するわけにはいかないというのが大前提だが、その上でどうすべきかについて、ようやく以下のようなコンセンサスができつつある。
 この種の軍事的にばかげた命令(注2)を大統領から受け、その命令に服すことが米国の安全保障を危うくすると信じた場合、軍人は、大統領に翻意を促す、プレスにリークする、学術論文を上梓してその中に主張を織り込む、議会でやらせ質問をしくんで言いたいことを証言する、こういったことを多数が一緒になってやる、と次第にエスカレートさせていき、それでもダメなら、辞任(resigning)するか何人かで一斉に退役(retiring)すると大統領に訴える(注3)、この辞任ないし退役を実行する、更に辞任ないし退役後速やかに声を挙げる、というものだ。
 (以上、
http://www.slate.com/id/2176122/
(10月18日アクセス)による。)

 (注2)「政治的に」ばかげた命令ではないことに注意。なお軍事的にばかげた命令には、誤った情報ないし歪曲された情報に基づいて大統領が発出した命令を含む。
 (注3)辞任と退役は全く違う。退役する場合は、医療サービス受給資格や士官クラブ会員資格等の便宜供与を引き続き受けることができるが、辞任すればこれら一切を擲つことになる。だからこそ、この40年来、辞任した将官は一人もいない。

 イラン攻撃はありえない、と信じていただけましたか?
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 有料版のコラム#2132(2007.10.18)「報道の自由「後進国」の日本・再訪」のさわりの部分をご紹介しておきます。
 コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://www.ohtan.net/melmaga/
・・・・今年も国際的NGOの「国境なき記者団」が「2007年世界報道自由度ランキング」を発表しました。
 それによると、調査対象169カ国中、昨年51位だった日本が37位に上昇し、31位だった韓国は39位に下がりました。
 ・・
 「2007年世界報道自由度ランキング」の原典・・にあたってみたところ、・・日本には閉鎖的な記者クラブ制度があること<等>が挙げられていました。
 これらは一貫して日本が批判されている点です(コラム#936参照)。
 ・・
 記者クラブの存在による病理であると最近思えてならないのが、防衛記者クラブ会員社であるところの新聞社やTV局等の主要マスコミが、どこもほとんどと言ってよいほど防衛省不祥事を取り上げていないことです。
 ・・
 その結果、おかしなことが起こっています。
 民主党が、・・防衛省の守屋武昌前事務次官の証人喚問を要求したのですが、守屋氏を証人喚問する理由が、氏が防衛局長時代に海上自衛隊のインド洋での給油活動での給油量の訂正や航海日誌の破棄などが相次いだことへの責任を問うためだけだというのです・・。
 ・・せっかく守屋氏を証人喚問するのであれば、少なくとも併せて防衛省不祥事についても問い質すべきでしょう。
 ・・
 民主党が取り上げようとしない最大にして唯一の理由は、主要マスコミが本件をいまだに報道していないことだと私は見ているのです。
 ・・
 コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://www.ohtan.net/melmaga/

太田述正コラム#2123(2007.10.14)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃(続x5)>

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<弁慶船長>(2007.10.11)

 開戦前夜。
NYフィルが北朝鮮に行くことになったという。
 そこまでなりふり構わず、北との妥協を目指す裏には、かなりの確率でイラン攻撃が予定されているはずだ。
 日米開戦前、ドイツのソ連侵攻までは、日米諒解案の交渉にもアメリカ側に相当の真剣さがあったように、アメリカは本当に叩きたい敵に集中するためには、第二の敵と妥協する可能性がある。北朝鮮はいま、それをうまく読み込んで、アメリカの妥協を引き出した。
 アメリカの眼中には、六カ国協議における日本の立場など、まったく見えていない。都合のいいときだけ日米同盟というアメリカを、どこまで信頼できるのか、それを見切ることのできる新しい日本のリーダーがどこにいるのだろうか。

<太田>

 米国によるイラン攻撃は少なくともブッシュ政権下ではない、という見通しを私はこれまで累次(最近ではコラム#2070、2074で)申し上げてきているところです。
 私と同様の見方が、日本でも
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071009/137071/?P=1
(10月10日アクセス)でなされています。
 他方、ブッシュ政権の最近の対北朝鮮政策についてはどう考えるべきなのでしょうか。イスラエル空軍機のシリア攻撃とのからみで、改めて解明してみたいと思います。
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1 始めに

 イスラエル空軍機のシリア攻撃について、ついにターゲットが何であったのかが明らかになりました。

2 シリア空爆のターゲット

 空爆のターゲットについては、シリアのアサド大統領が10月1日、「<空爆されたのは>建造中の軍事施設でまだ使用されてはいなかった。・・建造中なので中には誰もいなかった。兵士もいなかった。中には何もなかったのだから、われわれは<イスラエルがどうして空爆したのか>理由が分からない。はっきりしないのだ。・・ターゲットになった健造現場にはいかなる防備も防空システムも施されておらず、<空爆後、>放射能は出ていないし緊急措置がとられたということもない。・・われわれは北朝鮮と関係を持っているが、このことは秘密でも何でもない。・・われわれはいかなる意味でも核兵器には関心はない。」と語りました(
http://www.guardian.co.uk/international/story/0,,2181459,00.html
。10月2日アクセス)。
 通常、こういう話の全部がウソだということは稀です。
 どの部分が本当でどの部分がウソなのか、それが14日付のニューヨークタイムスの記事で明らかになりました。
 米国とイスラエルの政府筋からの情報に拠って書かれたこの記事のツボは以下の通りです。

 9月6日の空爆のターゲットは、北朝鮮の寧辺(ヨンビョン。Yongbyon)の原子炉そっくりの建造中の原子炉だった。
 イスラエルによる1981年のイラクのオシラク(Osirak)原子炉の空爆は、この原子炉が稼働する寸前だったのに対し、シリアの建造中の原子炉が完成するのはまだ数年先のことだった。
 だから、イスラエル政府がこの原子炉を空爆したいと米国に伝えた時に、米国政府はこれに反対した。(もっとも、オシラク原子炉の空爆の時も、当時の米レーガン政権は、イスラエル政府を非難した。)
 というのも、シリアは核拡散防止条約に調印しているものの、建造の初期段階の原子炉の存在を明らかにする義務はないし、発電のためであれば、そもそも原子炉を建造することは認められているからだ。
 イスラエルの狙いは、シリアはもとよりイランにも核保有は絶対に認めないとの意思を伝えることにあったと考えられるが、シリアを除き、いかなるアラブ政府も、そしてイランまでもがこの空爆を非難していないことは、イスラエルの狙いが一応奏効したということかもしれない。(シリア以外では北朝鮮だけが非難した。)
 シリアは、以前から研究用の小さな原子炉を持っている。
 これまでシリアは、本格的な原子炉をアルゼンチンやロシアから購入しようとして果たせていない。その都度イスラエルはシリアを非難したが、軍事行動をとるとは言わなかった。
 アサド大統領は、今年初め、シリアに核保有願望があることを一般論として述べている。
 なお、北朝鮮の原子炉そっくりだとはいえ、北朝鮮が原子炉そのものを売ったのか、設計図をシリアに渡しただけなのか、また、北朝鮮の専門家が空爆時に現地にいたのかは定かではない。北朝鮮からの技術の移転が数年前に行われた可能性もある。

 なるほど、これが真相だとすると、最近北朝鮮がシリアに核協力をしたという可能性は低く、だから米国が6カ国協議の場で北朝鮮を追いつめなかったのだな、と腑に落ちます。

3 シリア空爆と米対北朝鮮戦略

 ニューヨークタイムスは、10月10日付の記事(
http://www.nytimes.com/2007/10/10/washington/10diplo.html?pagewanted=print
(10月11日アクセス)と、上述の記事で、チェイニー副大統領等のブッシュ政権内タカ派が、シリアの核保有に北朝鮮が協力していることが明らかになった以上、6カ国協議に臨む米国のスタンスは見直しが必要であるし、来月米国のアナポリスで開催が予定されている中東和平会議へのシリアの招待もまた見直されるべきであると主張している、と報じています。
 日本では一般に、ブッシュ政権内のタカ派は北朝鮮の体制変革(transformation)を追求する路線であるのに対し、ハト派は北朝鮮に核保有を諦めさせ、その見返りに体制存続を認める路線であるとされ、ブッシュ大統領はタカ派からハト派に乗り換えた、と考えられています。

 しかし、私は必ずしもそう考えてはいません。
 何度も申し上げてきているように、ブッシュ政権の対北朝鮮戦略は、基本的にぶれることなく、政権内のコンセンサスに基づいて推進されている、と私は考えています。
 チェイニー副大統領やボルトン元米国連大使は、対北朝鮮悪役をあえて演じている、と見ているわけです。
 改めてその根拠を、ごく最近のワシントンポストと朝鮮日報から挙げてみましょう。

 ワシントンポストは10月12日付の社説で、ブッシュ政権と韓国のノムヒョン政権が、来るべき数ヶ月間で北朝鮮の体制変革が実現するかのように振る舞っていることに釘を刺すとし、北朝鮮がウラン濃縮計画とシリアへの核協力の全貌を明らかにし、IAEAによる北朝鮮の核計画の監査体制が確立し、その上で北朝鮮の核計画が完全に廃棄されて初めて北朝鮮の体制変革が実現する、と記しています(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/10/12/AR2007101202101_pf.html
。10月14日アクセス)。
 これは、米国では、北朝鮮の核計画の完全な廃棄と北朝鮮の体制変革がイコールであると考えられていることを示しています。
 私自身、なるほどそうだと思います。

 また、朝鮮日報の10月13日付の記事(
http://www.chosunonline.com/article/20071013000029
。10月14日アクセス)は、「米国が南北首脳会談以後の韓国の行き過ぎた行動を警戒する動きがさまざまな面で明らかになっ<た>」と記しており、米国が、北朝鮮が核計画の完全廃棄に向けて動いているかどうかを慎重に見極めながら対北朝鮮戦略を一歩ずつ進めていることが窺えるのです。
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 有料版のコラム#2124(2007.10.14)「海自艦艇インド洋派遣問題(続)(その6)」のさわりの部分をご紹介しておきます。
 コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://www.ohtan.net/melmaga/  ・・
 (本篇は、コラム#2119の続きでシリーズの最終回ですが、都合により非公開扱いにします。)
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<バグってハニー>

>また、これに関連し、「ときわ」が、ペコスに補給したのと同じ日に米イージス艦ポール・ハミルトンにも燃料を直接提供しており、 そのペコスがイラク戦争に参加した可能性があるという指摘もなされており、防衛相は、そのポイントは、ポール・ハミルトンが巡航ミサイルのトマホークを搭 載していた艦艇なのかどうかだとして、その点を米側に照会したいと国会で答弁しました・・。

 ポール・ハミルトン、イラク開戦時にトマホーク発射してますね。
 第五艦隊の“消えた”ウェブページから
http://nofrills.up.seesaa.net/image/5th-oif.png

On March 21, the night of "shock and awe," 30 U.S. Navy and coalition warships launched more than 380 TLAMs against significant, real-time military targets of interest. The U.S. ships which launched Tomahawks were USS Bunker Hill (CG 52),・・・ USS Paul Hamilton (DDG 60),・・・USS Cheyenne (SSN 773) and two Royal Navy submarines, HMS Splendid and HMS Turbulent.
−−−

 まあ、先生的にはトマホークを発射してようがしてまいが関係ない、ということなんでしょうが。給油から一ヶ月近くたった艦艇の作戦行動を縛ろうとするなんておこがましいですよね。

<太田>

 長々と神学論争にお付き合いいただき、恐縮です。
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4 終わりに代えて
 ・・
 政府と民主党の間の神学論争が延々と続いています。
 ・・
 この問題の核心は、政府・自民党の安全保障政策のホンネとタテマエが乖離している上に、何がホンネであるかについても、実のところはっきりしていないことです。
 これは、政府・自民党の安全保障政策が一貫して、米国の要請(指示)と世論との板挟みの中で落としどころを探す、というものであったところから来ています。
 
 平行して、民主党内でも神学論争が続いています。
 ・・。
 こちらの問題の核心も、・・民主党にいまだに党としての明確な安全保障政策がないことです。
 ・・
 私に理解できないのは、国会で誰も燃料を無償で提供していることを問題にしていないことです。
 そもそも世界の議会の原点とも言うべきイギリス議会は、国王(行政府)を戦費の承認の是非を通じてコントロールするものであった、ということを肝に命じて欲しいものです。
 ・・
 ・・米国防総省の諮問機関・国防科学委員会の・・シュナイダー氏は、日本に以下のような苦言を呈しています。
 「給油活動<は>1999年の日米防衛指針(ガイドライン)関連法成立後の・・日本の大きな政治的変化の産物・・だと評価<しているところ、>・・問われているのはその変化が長期的なものなのか、それとも一部の政治指導者の時代に限ったものだったのかということだ・・。控えめな給油活動も続けられない<というの>なら、・・米国と日本、豪州<等の国々>で21世紀の新たな同盟構造を模索しているが、日本にいかなる関与を期待できるのか疑問をもたらす・・さらに、・・日本が安全保障上の役割を受け入れることが困難なら、なぜ・・国連安保理常任理事国・・になる必要があるのか」・・と。
 神学論争をやっているヒマはないのです。
 ・・
 私は、インド洋でこれまで実施してきた無償の給油活動は止めさせ、その代わり、海自艦艇をOEF-MIOの一環としての海上阻止行動の本体に参加させることを提言します。
 ただし、インド洋派遣自衛艦には補給艦を随伴させることとし、他国が給油を求める時はこれに応じてもよいが、あくまでも有償(原価)で提供することとするのです。
 もっともそうなれば、ほとんど給油を求める国はなくなると思いますが・・。
 これは、民主党が小沢下ろしを行った上で、この案で党内コンセンサスを形成することが前提になります。
 こうでもしない限り、民主党は再び世論から見放されることでしょう。
 (私は、ISAFへの参加は、自衛隊関係の法整備が十分でない現状においては、隊員にとってリスクが大きすぎるので差し控えるべきだと思っていることを申し添えます。)
(完)

 コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://www.ohtan.net/melmaga/

太田述正コラム#2088(2007.9.27)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃(続x4)>

1 始めに

 イスラエル空軍機のシリア攻撃を踏まえて、ブッシュ政権が、本日(9月27日)から北京で再開される6か国協議にいかなる姿勢で臨もうとしているのかが、かなり鮮明になってきました。

2 シリア攻撃のターゲット

 「<イスラエルは、>空軍コマンド・チームを爆撃の数日前に現地に潜入させ、<爆撃>当日、レーザー・ビームを「農業研究センター」にあてて、戦闘機編隊を誘導させた。」と以前(コラム#2068で)記したところですが、この精鋭のサイエレット・マツカル(Sayeret Matkal)部隊に属するコマンド・チームの本当の潜入目的は、核物資のサンプルを現地で事前に入手するためであったようです。
 米国政府が、イスラエル政府に対し、明確な証拠の提供を求めたから、というのです。
 そして、イスラエルに持ち帰られた核物資の出所が分析の結果北朝鮮であることが判明し(注1)、ブッシュ政権はイスラエルによる爆撃にゴーサインを出した、というのです(注2)。

 (注1)この核物資がプルトニウムなのか濃縮ウランなのかは明らかにされていない。
 (注2)昨年12月にクウェートの新聞(Al Seyassah)がブリュッセルの欧州諜報筋の話として、シリアが東北地区で高度な核計画に従事している、と報じたことが今更のように注目されている。

 他方このところ、北朝鮮とシリアの間の、ミサイル及びミサイル用の化学弾頭に関する協力状況についても情報が明るみに出てきています。
 2004年4月22日(注3)に北朝鮮の列車が爆発・衝突事故を起こした際に、約10人のシリア人技術者達が死んでおり、北朝鮮の兵士達が防護服をつけて、シリア人達が乗っていた区画付近の残骸を片付けており、このシリア人達の遺体はただちに平壌空港からシリアの軍事輸送機でシリアに運ばれた、というのが第一点です。

 (注3)9月9日の間違いでは(コラム#473)?(太田)

 更に今年7月に、シリアの北方の都市アレッポ(Aleppo)で、スカッド・ミサイルに化学弾頭を装着しようとしていたシリアとイランの技術者達が、ミサイルの燃料が発火し爆発するという事故が起こったために何十人も死んだというのが第二点です。
 この爆発の結果、VX・サリン・マスタードガスが噴出したといいます。
 ちなみに、このスカッドは改良型であり、北朝鮮がミサイル本体の重量の軽減・筐体の強靱さの高上等に成功し、この新技術が最近シリアとイランに提供された、ということのようです。

 (以上、
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/middle_east/article2512105.ece
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/middle_east/article2489930.ece
(どちらも9月27日アクセス)による。)

3 ボルトンの発言

 元ブッシュ政権高官のボルトン(John R. Bolton)は26日、爆撃対象が北朝鮮がらみの核施設だったのかミサイル施設だったのか、また、北朝鮮とシリアの合弁事業だったのか北朝鮮単独の事業だったのかは分からないが、それ以外の可能性はない、と述べました。
 その上で彼は、6か国協議には反対しないと述べ、核廃棄の見返りに重油100万トンを供与するところまではよいが、北朝鮮をテロ支援国家のリストから削除し、更なる援助を行うことを可能にすべきではない、と付け加えました。

 (以上、
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1189411494860&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull  
(9月27日アクセス)による。)

 6か国協議に反対し続けてきたボルトン(コラム#1637、1659)が態度を豹変させたのですから、これは、ブッシュ政権とボルトンが、役割分担して対北朝鮮ハト派、タカ派をそれぞれ演じてきたところ、もはやその必要がなくなったということなのではないでしょうか。
 これに関連して、彼が、「核施設」説(コラム#2060、2078、2080)から「核施設またはミサイル施設」説へと軌道修正した点も注目されます。

4 ブッシュの演説

 このように見てくると、ブッシュ米大統領が25日に国連で演説し、「すべての文明化された国々は独裁制の下で苦しんでいる人々のために立ち上がる責任を負っている」とした上で、「ベラルス、北朝鮮、シリア及びイランでは残虐な体制がそれぞれの国民の、国連人権宣言に謳われている基本的人権を否定している」と述べたことが注目されます。
 ブッシュが2002年に北朝鮮を悪の枢軸の一つとしたことが米国と北朝鮮との関係を悪化させ、昨年の北朝鮮による核実験に至った、ということを思いを致せば、これは大変な発言であると言うべきでしょう。
 念が入ったことに、同じ日、ライス米国務長官は、「北朝鮮の体制の本質について理解していない人など全くいない。・・特に大統領と私はそうだ。われわれはこれが悪い体制であることを知っている」とTVインタビューで語っています。

 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/25/AR2007092500136_pf.html
(9月26日アクセス)、及び
http://www.ft.com/cms/s/0/d58f5830-6c6d-11dc-a0cf-0000779fd2ac.html
(9月27日アクセス)による。)

5 6か国協議の展望

 私は、ブッシュ政権は、核施設説が正しいことを知っていて、あえてミサイル施設説の可能性もプレスに流している、と考えています。
 つまり、核施設説で北朝鮮を追いつめて6か国協議をただちに挫折させるのではなく、重油の支援プラスアルファ程度で北朝鮮の寧辺(ヨンビョン。Yongbyon)の核関連施設を無能力化できれば、北朝鮮はプルトニウム生産能力を奪われ、これ以上核弾頭を生産することも、プルトニウムをシリア等に横流しすることもできなくなることのメリットが大きいので、テロ支援国家リストからの削除はしないという含みで、北朝鮮に決断を迫ることにした、と考えているのです。
 北朝鮮の濃縮ウラン製造技術がまだ初歩的段階にとどまっている、という判断も恐らくその背後にあるのでしょう。

 (以上、部分的に
http://www.csmonitor.com/2007/0926/p07s02-woap.htm
(9月26日アクセス)を参考にした。)

5 終わりに

 私は、一貫してブッシュ政権の対北朝鮮政策の基本はぶれていない、と指摘してきた(コラム#1637、1657等)ところですが、改めて私のこの指摘の正しさが裏付けられた思いがしています。
 再び崖っぷちに追いつめられた金正日がいかなる決断を下すかが楽しみですね。
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<太田>
 2篇コラムを書いた日の最初のコラムは、何も断っていなくても即時公開コラムです。
 なお、未公開の「ミャンマー動く」シリーズの昨日までのコラムを(典拠は削除した上)再構成して情報屋台(
http://writer.johoyatai.com/
。有料化されている)とMixiの太田述正コミュニティーの掲示板に掲載してあります。
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 コラム#2089(2007.9.27)「朝鮮戦争をめぐって(その1)」のさわりの部分をご紹介しておきます。
 ・・
1 始めに

 今年4月に交通事故で亡くなったハルバースタム・・の遺作・・についてのいくつかの書評を読んで感じたところをご披瀝したいと思います。

2 書評と感想

 (1)ワシントンポスト

 ・・

 「マッカーサー・・は、・・<朝鮮>戦争をリモート・コントロールで行った。「朝鮮半島の戦場でわずか一夜を過ごす」こともなかったのだ。・・。」

 →・・マッカーサーは・・専用機で水原に入り、自動車で前線を視察しただけでなく、自ら戦場を歩き回っています・・。確かにマッカーサーはその日のうちに日本に戻っているので、ハルバースタムの指摘は間違いではないとはいえ、何十万の軍隊を指揮する元帥が戦場にいなければならない、ということはないでしょう。第一、マッカーサーは戦場のすぐ近くの日本にいたのです。

 「・・マッカーサーは、<もともとからあった>第8軍・・と並列の第10軍団・・を編成した・・。自分の部隊を・・ハルバースタムに言わせれば「信じがたいことに」・・二つに分けたの<だ・>・・その結果マッカーサーは敵の追撃を一ヶ月遅らせてしまった」

 →第10軍団は仁川・・上陸作戦を敢行するために編成されたものであり、その間、半島内における追撃の速度が鈍ったとことはある意味で当然のことですし、海兵隊を交えた上陸作戦の特殊性に鑑みれば、新しい部隊を編成したことも決しておかしいとは言えないのではないでしょうか。
 ・・

 (2)ニューヨークタイムス1

 「朝鮮戦争は、議会ないし国民が理解しないままに疑わしい戦略的大義に基づき大統領が命じた、ハルバースタムの生涯中に生起した3つの米国の戦争の最初のものだった。
 朝鮮戦争は、米国が初めてその帝国的無能さをさらけ出し、軍事指導者達が二度とアジアにおける地上戦を行うまいと誓うことになった戦争でもあった。しかし・・ベトナム戦争とイラク戦争がその後に生起することになる・・。
 ・・アチソン・・国務長官<は、>定例演説で南朝鮮を米国のアジアにおける「防衛圏・・」に含めることを忘れ<てしまっ>た・・。
 
 <また>マッカーサーは・・日本においても、南朝鮮においても、攻撃に対して準備することを完全に怠っていた。・・
 マッカーサーは・・<仁川上陸・・>・・で答えた。これが逆説的により大きな大失敗を引き起こすことになる。・・<マッカーサーは、>自分はもはや不敗であると思い、・・中共が彼に挑戦するようなことはありえないと信じ込み、全北朝鮮の速やかな征服を命じた。
 ・・しかしその結果、・・またもや米軍が敗走<する羽目になっ>た時、マッカーサーの・・反応は核戦争をも辞さない、中共との全面戦争の扇動だった。・・彼はトルーマンによって1951年4月に馘首されなければならなかった。そのおかげで、対峙状況が招来され、二つの朝鮮の間のもともとの境界線が回復することになったのだ。」

 →ここは、まことにもってその通りですね。

 ・・
(続く)

太田述正コラム#2080(2007.9.23)
<新悪の枢軸をめぐって>

1 始めに

 ブッシュ政権は、イラク・イラン・北朝鮮を悪の枢軸と呼びましたが、イラクのフセイン政権打倒後は、シリアがイラクに代わり、シリア・イラン・北朝鮮が新悪の枢軸と目されて現在に至っています。
 この三者をめぐる、最新の動きをまとめてみました。

2 最新の動き

 (1)始めに

 最初に、読者との対話を掲げておきます。

<読者(KS)>

 私は専門家ではないので、米国によるイラン空爆はない、との太田様の分析(コラム#2074)に関して明確に反論することはできませんし、するつもりもありません。
 ただし、軍部上層部が軍の最高司令官である大統領に対して反旗を翻すことが、米国のイラン攻撃に対する抑止力になりうるか、については疑問を感じます。
 私はより本質的な問題として、イラン空爆の日本への石油供給の影響は如何か?ということに関心があります。
 仮にイスラエルがイランの核施設と思われる施設への限定空爆を行ったとして、この空爆が日本への石油供給に影響を及ぼす可能性はあるのでしょうか、それともないのでしょうか?

<太田>

 イスラエル空軍機のシリア攻撃について、アラブ諸国は沈黙を保っています(典拠省略)。
 核疑惑が報じられ、しかも対イラン核施設等への攻撃の予行演習を兼ねて行われたといった報道がなされているにもかかわらずです。
 というより、だからこそ、アラブ諸国は、アラブの国であるシリアが攻撃を受けても、(少なくともシリアが主張しているように領空を侵犯されても)沈黙を保つことによって、事実上イスラエル側に立った、ということだと私は理解しています。
 イラン国民の大部分はアラブ人ではありませんし、イラン国民の大部分は、アラブ諸国では少数派のシーア派です。
 ですから、イスラエルのイランの核施設等への攻撃に対し、イランがペルシャ湾の封鎖を行ったりすれば、アラブ諸国、とりわけ湾岸諸国は強く反発し、イランに対して軍事力を行使するとまでは思いませんが、米軍による封鎖解除、及びそれに関連する対イラン攻撃には積極的に賛成するのではないでしょうか。
 また、イランが、イスラエルに対する報復としてはいささか的はずれですが、イラク内の過激派やアフガニスタンのタリバンに手を回してイラクとアフガニスタンの米軍等に攻撃をしかけさせるようなことがあれば、ファロンだって喜んで対イラン攻撃の指揮をとることでしょう。
 すなわち、イランとしては、せいぜい報復としてイスラエルに地対地ミサイル攻撃を加えるぐらいでお茶を濁さざるを得ない、と思うのです。
 以上から、イランによるペルシャ湾封鎖はないし、いわんや湾岸諸国の石油施設への攻撃などありえない、という結論になります。
 また、イスラエルが攻撃したとしても、イランの核施設等が破壊されるだけなのですから、イランの石油関連施設は被害を受けず、イランにおける石油生産・石油輸出には影響は出ないでしょう。

 (2)イラン

 ファロン米中央軍司令官は21日、イランの革命防衛隊が強力かつ精緻な徹甲路傍爆弾の部品をアフガニスタンの叛乱分子に供給しているとし、これが続くようなら「断固とした対応をとる(act decisively)」と述べました。
 この発言は、ブッシュ政権内の対イラン強硬派のガス抜きをするために、とにかくイラン非難声明を出す必要があったけれど、イランがイラク国内の過激派を支援していることを証明できないので、より根拠のある上記事例を持ち出してイランを非難する、というねらいでなされた、と私は見ています。

 イランがイラク国内の過激派を支援していることの証明を米国ができていない証拠として、20日にイラクのタラバニ(Jalal Talabani。クルド人)大統領が、駐イラク米国大使宛に、米軍がクルド地方において、過激派に武器を提供し、訓練を施しているとの容疑で拘引した自称商業使節のイラン人をただちに解放するように求める書簡を送ったことが挙げられます。
 タラバニは、拘引されたイラン人はクルド地区への正規の商業使節である上、イランが拘引に怒ってクルド地区との国境閉鎖を口にしており、閉鎖されればクルド地区は大きな経済的打撃を受けるし、そもそもクルド地区で勝手に米軍が外国人を拘引するのは遺憾である、と記しているのです。

 このことと、ファロンの側近がわざわざ後で、ファロンが「断固とした対応をとる」と言ったのは軍事行動をとることを示唆したものではなく、アフガニスタン領内での、違法物資の差し押さえ活動を強化する可能性に言及しただけだと述べたことと、ファロン自身が、発言の際、イランはアフタニスタン西部に対して開発援助を行っていてこれには助かっているとも述べていることから、ファロン発言がガス抜きであったことは明らかだと思うのです。

 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-afghan22sep22,1,3783082,print.story?coll=la-headlines-world
http://www.cnn.com/2007/WORLD/meast/09/22/talabani.letter/index.html
(どちらも9月23日アクセス)による。)

 (3)北朝鮮とシリア

 北朝鮮が射程約435マイルのスカッドDミサイルをシリアが開発するのを助けたのは確かなのですが、シリアが核装備計画も追求しているかどうかは、ブッシュ政権内でかねてより議論が続いてきたところです。
 ボルトンが国務次官当時、2002年から2003年にかけて、米国政府としてシリアの核計画に公式に言及すべきだと主張し、それに対し諜報諸機関が確証がないとして反対したことが知られています。
 この主張のために、米連邦議会議員等は2005年にボルトンが正式に国連大使になることに反対したのです。
 ボルトンは、今回のイスラエル空軍機によるシリア攻撃によって、自分のこの主張が裏付けられたと述べていますが、米国政府もイスラエル政府も公式には何も言わないので、真偽の程を確かめようがないという状況が続いています。
 最近の目新しい話としては、米政府筋から、この夏、北朝鮮とシリアの間で2つ以上の技術貿易に係る協定が締結されているところ、これが核と関係したものであった可能性がある、という疑惑が語られたことくらいです。
 ニューヨークタイムスに、米国のアジアにおける密接な同盟国の2人の上級の外交官が、米国からいつも北朝鮮情報をもらっているが、今回の件では何もくれないとこぼしている、という話が出ています。
 これは、恐らく日本の外交官なのでしょう。
 この記事は、米国政府のこのようなガードの堅さは、情報の確度に自信がないせいか、それとも情報源の秘匿のためなのか分からない、と記しています。
 謎は深まるばかりです。
 6か国協議における米国の出方を注視しましょう。

 (以上、
http://www.nytimes.com/2007/09/22/world/middleeast/22weapons.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
http://www.chosunonline.com/article/20070922000017
(9月23日アクセス)による。)
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 コラム#2081(2007.9.23)「ミャンマー動く(続)(その1)」のさわりの部分をご紹介しておきます。
 ・・
 昨日、ミャンマーにおける反政府活動は、新たな次元に達したことが判明しました。
 僧侶達とアウンサン・スーチ女史との連携の兆しが現れたのです。
 ・・
 ヤンゴンで22日、雨の中を反政府デモに参加した少なく見積もっても約2,000人の僧侶達のうち約1,000人が、・・軟禁中の民主化運動指導者アウンサン・スーチー女史の自宅に向かいました。
 ・・
 女史が大勢の人の前に姿を見せたのは、2003年5月の拘束以来初めてであり、僧侶達が、反軍事政権の象徴である女史と連携する兆しが現れたことで、反政府の機運が一気に広まる可能性が出てきたのです。
 ・・
 翌23日の日曜日には、約10,000人の僧侶達がデモを行い、このデモを守るように約10,000の一般市民が人垣をつくりました。
 ・・
 軍部が頭を抱えているらしいことは、24日に開催を予定していた20人の地域軍司令官達による四半期ごとの会議を取りやめたことからも窺えます・・。
 ・・
 僧侶達はミャンマーに50万人近くいると見られています。
 ・・。
 ・・僧侶達は喜捨を受けて生活をしているために、ミャンマーの状況が一番良く分かっています。
 ・・
 次はスーチー女史についてです。

(続く)

太田述正コラム#2078(2007.9.22)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃(続x3)>

 (本篇は、即時公開します。)

1 始めに

 その後の英米のメディアによる、本件の報道内容を、私見を交えつつご紹介しておきましょう。

2 関係国の反応

 (1)イスラエル

 イスラエルの野党リクードの党首のネタニヤフ(Binyamin Netanyahu)元首相は20日、「首相がイスラエルにとって何か重要で必要なことを行う場合は、私は同意を与える」とイスラエル空軍機のシリア爆撃があったことを、イスラエルの関係者として始めて認めました(
http://www.guardian.co.uk/syria/story/0,,2173899,00.html
。9月21日アクセス)。

 その一方でイスラエル政府は、シリアとの緊張緩和に腐心しているように見えます。
 オルメルト首相は、国際法上は戦争状態にあるシリアと、無条件で平和交渉を再開する用意があると述べました。
 これは7月11日に同首相が述べたところの、「私はアサド・シリア大統領と平和について話し合う用意がある。シリアと平和を取り結ぶことができればうれしい。私はシリアに戦争を仕掛けたくはない」というスタンスに何ら変更がないことを意味しています。
 これに加えて、18日にはイスラエルのペレス(Shimon Peres)大統領が、「われわれはダマスカスとの対話の用意がある」と述べました。
 そもそも、爆撃にあたってわざわざ、ゴラン高原に展開している兵力の一部を、シリアに通報した上で、イスラエル南部のネゲブ砂漠に移駐させているのです。
 (以上、
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/II22Ak06.html
。9月22日アクセス)。
 イスラエル軍部自身、ゴラン高原をシリアに返還する件でのシリアとの交渉再開を上申したと伝えられています(
http://www.secure-x-001.net/SecureGeo/Issue/SecureObservationComments.asp?IssueFunction=103&Site=109&Portal=1
。9月22日アクセス)。

 イスラエル政府が、爆撃について箝口令を敷いていることと以上のことから、イスラエルがシリアとの関係を悪化させないよう、最大限の努力を払っていることは明らかです。
 そんなことをする目的は、何かもっと大事が控えているからとしか考えられません。
 やはり一番可能性があるのは、イスラエルがイランの核施設等への攻撃を真剣に準備中である、ということです。


 (2)米国

 他方、同じ20日、ブッシュ米大統領は、本件についてのコメントを何度も拒んだ上、「われわれは、北朝鮮が核兵器と核計画を放棄するという約束を守ることを期待しているし、もし彼らが核拡散を行っているのだとすれば、6か国協議を成功させたいのなら核拡散を止めることを期待している」と述べるに留めました(
http://www.ft.com/cms/s/0/4f50eef6-67a3-11dc-8906-0000779fd2ac.html
。9月21日アクセス)。
 米ブッシュ政権は、北朝鮮のシリアへの核資器財の提供疑惑が浮上した時点において、この問題を強く提起はしないという戦略的意志決定を行ったと報じらています。
 これは、2002年に当時のケリー米国防次官補が、確証のないまま、北朝鮮のウラン濃縮計画疑惑を追及したところ、北朝鮮との対話が途絶え、3ヶ月後に北朝鮮が核拡散防止条約からの脱退を声明した、という前例に懲りているからだ、というのです。
 (以上、FT上掲による。)

 9月6日の爆撃から1週間後、米国が北朝鮮に対し、核廃棄を実行すれば見返りに2,500万米ドル相当の重油を提供する意向を表明した(secure上掲)ことや、ブッシュ政権が、爆撃後、事実関係について、リークは黙認しつつも公式には沈黙を保っているのは、イスラエル政府の要請を受け容れたものであり、その上で、北朝鮮の出方を冷たく見守っている、ということであろうと私は考えています。

 (3)北朝鮮

 21日、中共は、北京で27日から4日間の日程で6か国協議が開催されると発表しました。
 これは、北朝鮮が、とにかく協議には出て米国の出方を見極めようとしたことを意味します。
 その一方で、21日に、平壌で崔泰福(Choe Tae Bok)朝鮮労働党中央委員会書記とダウード(Saaeed Eleia Dawood)シリア・バース党(Ba'ath Arab Socialist party)組織局長との間で会談が行われています(
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,2174292,00.html
。9月22日アクセス)。
 これは、両国の間で口裏合わせが行われたもの、と見るべきでしょう。

3 シリアと核計画

 2004年に当時のボルトン軍備管理担当国務次官が、シリアが核計画を推進している、とシリアを非難しました。
 これは、2003年の対イラク戦直後、米国はフセイン政権の重鎮達がシリアに逃亡したと指摘したにもかかわらず、彼らの大部分がイラク国内で拘束され、次いでイラクの大量破壊兵器がシリアに運ばれたと指摘したにもかかわらず、それが間違いであることが判明した後に行われた三番煎じのシリア非難でした。
 それでも捨て置けないので、IAEAが調査に乗り出したのですが、2004年6月26日にエルバラダイ事務局長が、米国の非難の根拠を見出すことは全くできなかったというコメントを発表し、調査は終了しています。
 (以上、アジアタイムス前掲による。)
 それだけに、やはりシリアは核計画を推進していたのか、という驚きの声と本当だろうかという疑問の声が出ているわけです。

4 新たに分かってきた事実

 トルコ領空を通ってイスラエルの編隊が目標に接近したという説がある(典拠失念)上、帰投する際に補助燃料タンクをトルコ領内に投棄したところから、イスラエルがトルコ軍部と事前に調整していた可能性が取り沙汰されています(secure前掲)。

 爆撃の前に、本件で米国がイスラエルと諜報面で協力していた、という報道もなされています。
 爆撃担当の戦闘機のパイロットは離陸後にようやく任務を明かされたところ、編隊中の制空担当の戦闘機のパイロットに至っては、任務の詳細を最後まで明かされなかったくらい、秘密厳守が徹底していたようです。
 もともと犠牲者の数を最小限にするために6日の未明に爆撃が敢行されたのですが、犠牲者がゼロだった可能性があるようです。
 爆撃の3日前に入港した北朝鮮の船については、核資器財を積載していたという説が有力ですが、ミサイル部品を積んでいただけだという説や、そんなものは一切積んでおらず、爆撃の時期と入港の時期がたまたま重なっただけだ、という説もあります。最後の説は、イスラエルは、メディアに情報が漏れることを心配して、早めに爆撃を敢行したのではないかというのです。

 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/20/AR2007092002701.html?hpid=topnews
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,2174292,00.html
(どちらも9月22日アクセス)による。)
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 コラム#2079(2007.9.22)「ミャンマー動く」のさわりの部分をご紹介しておきます。
 ・・
 今回の反政府活動のきっかけになったのは、8月15日に突然当局がガソリン等の燃料を2倍に値上げしたことでした。
 8月19日から、まず、軟禁中のアウンサン・スーチー(Aung San Suu Kyi) 率いる民主同盟(National League for Democracy=NLD)の指導者達や学生達が抗議行動の先頭に立ったのですが、当局の弾圧を受けて逮捕されたり逃亡したりして抗議行動が下火になったところへ、若い僧侶達が抗議行動に参加し始めた、という経緯をたどって現在に至っています。
 ・・
 ・・9月18日から、僧侶達による抗議行動が、ミャンマー最大の都市であり、つい最近まで首都であったヤンゴン(ラングーン)等で組織的に行われるようになったのです。
 ・・
 22日には、マンダレーで約4,000人の僧侶達を中核とする約10,000人のデモが行われました。
 これは、1988年の暴動以来の大規模なデモであると言えます。
 ヤンゴンにおいても、連日降りしきる雨の中で、21日の約1,500人の僧侶達によるデモに引き続き、22日、約1,000人の僧侶達に約800人の一般市民が加わる形でデモが行われました。
 この間、「全ミャンマー僧侶連盟(The All Burma Monks Alliance)」という耳慣れない団体が、一般市民に対し、僧侶達による抗議行動に加わるように促しました。
 「われわれは、僧侶を含むあらゆる人々を貧困に陥れている悪の軍事専制を全市民の的であると宣言する。・・この共通の敵である悪の体制をミャンマーの土地から永久に放逐するために、団結した大衆は団結した僧侶勢力と手を携える必要がある」と。
 こんなことは、独立以来、初めてのことです。
 ・・
 <しかし、>・・今後当局が強硬な弾圧に出てこないという保証はありません。

 米国の国連大使<や>・・英国の国連大使は、<ミャンマー当局に警告を発しています。>
 ・・
 北朝鮮とシリアの核開発提携疑惑にも、この風雲急を告げるミャンマー情勢にも余り日本のメディアは関心を示していないようで、まことに困ったものです。
 日本の数多ある市民団体はどうしてミャンマーの民主化勢力への連帯と支援のアッピールの一つくらい行わないのでしょうか。
 どうして日本の外務省は、ミャンマー当局に警告を発しようとはしないのでしょうか。
 現在の日本では、他人のことを顧みようとする人物など払拭しているということなのでしょうか。

太田述正コラム#2072(2007.9.19)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃(続々)>

 (本篇は、即時公開します。)
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 前回(コラム#2068で)本件を取り上げた際、下掲の3つの記事を読み忘れていました。
 ただ、目を通したところ、目新しかったのは、、作戦名が果樹園作戦(Operation Orchard)であったこと、攻撃編隊のパイロット達に目標が指示されたのは離陸してからだったこと、F-15が最新型のRaam F15I (補助燃料タンクをつければ戦闘半径2000kmでイラン全域をカバーできる)であったこと、帰投にあたってトルコ領内に落とした補助燃料タンクが2個であったこと、くらいでした。

http://observer.guardian.co.uk/world/story/0,,2170188,00.html  。9月16日アクセス
http://www.nytimes.com/2007/09/15/world/middleeast/15intel.html?ref=world&pagewanted=print  。9月16日アクセス
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/14/AR2007091402207_pf.html  。9月16日アクセス
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1 北朝鮮の反応

 北朝鮮外務省報道官は18日、同国がシリアの核開発に協力していると指摘した米国での報道について、「途方もない誤った報道だ(groundless and misleading)」と否定し、「われわれは責任ある核保有国として、既に2006年10月に核関連物資を移転しない旨宣言しており、爾来この宣言を順守してきている。この疑惑は、6カ国協議と米朝関係の前進を好ましく思わない、不純な勢力によって今回もでっちあげられたところの、できの悪い陰謀(unskilful conspiracy)以外のなにものでもない」と言明しました。
 (以上、
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/news/20070919k0000m030114000c.html
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7000171.stm
(どちらも9月19日アクセス。以下同じ)による。)

 しかし、中共が、恐らくは北朝鮮の要請に応えて、米国のヒル国務次官補が北京に出発する直前に、及び、19日から北京で行われる予定だった6カ国協議・・北朝鮮が核計画の詳細を明らかにすることになっていた・・の延期を関係国に申し入れたこと(
http://www.atimes.com/atimes/Korea/II19Dg01.html
)、シリアが6日のイスラエル空軍機による領空侵犯の事実を12時間ふせていたこと(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/6982331.stm
)や、シリアが空爆はなかったとし、イスラエル空軍機はシリア軍の反撃を受けて逃走する際に、身軽になるために爆弾を落としていっただけだと主張し続けている(
http://www.haaretz.com/hasen/spages/904953.html
)ことから、北朝鮮・シリア両国が何か重大な秘密を隠そうとして困惑している様子が明らかに見てとれます。

2 米国の反応

 イスラエルによるシリア核施設爆撃説について聞かれたヒル国務次官補は、直接答えず、6カ国協議の目的は「北朝鮮をして核稼業から足を洗わせることだ」とした上で、「われわれは核拡散問題を常に憂慮してきた。・・非核化は核拡散問題への取り組みを伴う。今回の話はこの目標を変更させるものではない。・・<いずれにせよ、>われわれとしては北朝鮮の核拡散計画の全貌を知る必要がある。北朝鮮が核拡散を行ったかどうかを知る必要があるのだ」と語りました。
 この発言は、北朝鮮への批判にわたる表現を慎重に回避してはいますが、ヒルが核拡散問題をこれほど強調したことはないだけに注目されるところです。
 ゲーツ米国防長官は、今回の話にもう少し踏み込んだ発言を行いました。
 ゲーツは、「仮に北朝鮮がシリアの核計画を支援していたとするならば、深刻な憂慮を抱かざるをえない(it would be a matter of great concern)。大統領が北朝鮮による更なる核拡散への動きは許さない(put down a very strong marker with)姿勢をとってきていることからすれば、シリアによる大量破壊兵器追求の動きがいかなるものであれ、それが憂慮の対象となることは当然だ」と語ったのです。

 (以上、アジアタイムス前掲及び
http://www.nytimes.com/2007/09/18/world/asia/18korea.html?ref=world&pagewanted=print
による。)

3 断定するのはまだ早すぎる

 今回の空爆については、イスラエル政府はブッシュ政権に直前に通報していたようなのですが、果たしてブッシュ政権がどのような返事をしたのかは不明です。
 そもそも、本件に関しイスラエル政府の情勢認識とブッシュ政権の情勢認識が一致していたかどうかも不明です。
 (以上、NYタイムス上掲)

 本件については、依然として様々な疑問の声があることも事実です。
 すなわち、北朝鮮がこの時期にこんなリスクを冒すだろうかという声、シリアに核開発できるようなカネや科学的能力はないのではとする声(NYタイムス上掲)、シリアが核施設をトルコとの国境付近に設置するだろうかとの声、核開発施設ではなく、かねてシリアが北朝鮮から提供されてきたミサイルやミサイル技術に係る施設ではないのかとする声(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7000717.stm
)が出ています。

4 終りに

 (1)PSI合同訓練

 日本が主催し、米・豪・ニュージーランド・シンガポール・英・仏の計7カ国が参加(英・ニュージーランド・シンガポールは初参加)する大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)に基づいた合同訓練が、来月13日から15日にかけて横須賀・横浜港で行われます。

 日本が主催するPSI訓練は、2004年10月に米・豪等が参加し東京湾で行われて以来2回目です。海上自衛隊は参加国の軍とともに核関連物資等を輸送している疑いのある船舶を停止させ、ヘリコプターで特殊部隊を船内に送り込み、核関連物質等を捜索・押収するとともに、疑わしい船舶が逃亡しようとした場合を想定した追跡訓練も並行して行われます。

 日本からは今回の訓練に護衛艦、P3C、AWACS、化学防護部隊、それに巡視船やSAT等が参加します。2004年の訓練では、憲法解釈に配慮して、自衛隊はP3Cが疑わしい船舶を発見して知らせる役割にとどまり、船舶の捜索訓練には参加しなかったところ、今回の訓練には自衛隊が本格的に参加するようです。
 (以上、
http://www.chosunonline.com/article/20070919000006
による。)

 (2)感想

 この訓練は当然北朝鮮を主として念頭に置いているわけであり、大変結構なことです。
 しかし、いくら自衛隊が能力を磨いても、またいくら日本が憲法解釈を柔軟化したとしても、日本は、独自の諜報能力を持たない限り、北朝鮮等の船舶が核関連物資等を輸送している疑いがあるかどうか、米国等がもたらす情報の真偽を検証することすらできません。
 今回イスラエルによるシリア爆撃があったのか、その目標が何であったのか等について、日本政府が全く沈黙しているのも当然です。
 それにしても、日本のメディアがほとんど本件に関心すら抱いていないように見受けられるのは、かえすがえすも残念です。

太田述正コラム#2068(2007.9.17)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃(続)>

 (本篇は、即時公開します。)

1 始めに

 イスラエル空軍が今月6日にシリア北部で行った空襲のターゲットについて、3つの説があると(コラム#2060で)申し上げたところですが、どうやら「北朝鮮がらみの核施設」説に収斂しつつあります。

2 ほぼ明らかになった事実

 表向きはセメントだけ積載だが、北朝鮮の核開発用資材も積載した1,700トンの、北朝鮮旗を掲げた貨物船(1965年就役)がレバノンのトリポリ港経由で9月3日、シリアのタルトゥス(Tartous)港に入港した。
 この核関連物資は、シリア北部のユーフラテス川畔の「農業研究センター」に運ばれたが、そこではウラン抽出が行われることになっていた。
 この数ヶ月間、北朝鮮は同じようなことを繰り返し行ってきた。
 また、北朝鮮の技術者達がシリアに派遣されているが、彼らが核開発を支援している可能性がある(米国国務省核不拡散担当のセンメル副次官補職務代行)。
 米国は約6ヶ月前に上記の予兆を探知していた。
 イスラエルの諜報機関モサドも上記の予兆を探知し、オルメルト首相に今春末報告していた。
 イスラエル政府は、シリアが核開発に成功し、核弾頭を北朝鮮製のスカッドCに搭載するようなことになることは絶対避けなければならないと決意した。
 そこで、イスラエルは6日未明、マーヴェリック空対地ミサイル(AGM-Maverick)と500ポンド爆弾を搭載した F-15とF-16戦闘機からなる8機編隊を地中海上空から超音速でシリア北部に侵入させ、シリアのレーダーと防空ミサイルを回避しつつ、「農業研究センター」を爆撃し、これを完全に破壊した。
 帰投する際、この戦闘機編隊は、トルコ領内へ、切り離した予備燃料タンクを落下させた。
 イスラエルは、この編隊を掩護するため、シリア高空に電子偵察機も侵入させた。
 また、空軍コマンド・チームを爆撃の数日前に現地に潜入させ、当日、レーザー・ビームを「農業研究センター」にあてて、戦闘機編隊を誘導させた。
 イスラエル政府は本件について完全黙秘を貫いているが、米国政府筋はかなり積極的にリークしている。
 これは、北朝鮮との核交渉の成り行きに懸念を持っている米国内の勢力に対し、米国が北朝鮮をきちんと監視していることをアピールするためだと考えられる。
 他方、北朝鮮が核開発用資材をシリアに密輸出してきたのは、シリアの懇請に答えると同時に、6か国協議の過程で破棄させられることとなる資材をあらかじめ隠匿しカネに替えるため、と考えられる。
 北朝鮮外務省が11日、イスラエルによるシリア空襲について、「非常に危険な挑発であり、シリアの主権に対する侵害で地域の平和と安保に脅威となる行為だ」と異例の激しい非難を行ったことは、北朝鮮の狼狽ぶりを示していると考えられている。
 なお、シリアは国連安保理にイスラエルの領空侵犯を訴えたが、常任理事国、非常任理事国を問わず、この訴えは完全に黙殺されている。

 (以上、
http://www.chosunonline.com/article/20070917000001
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903949.html
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903975.html
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903955.html
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903966.html
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,2170766,00.html
(いずれも9月17日アクセス)による。

3 感想

 自民党総裁選の報道ばかりで、日本の主要プレスの本日付の電子版がこの話を全く報じていないのはどういうわけでしょうか。
 日本の世論は、拉致問題を除き、北朝鮮にも安全保障にも依然として本当の意味での関心など持っていないということを日本のメディアはよく知っているということなのでしょうね。

太田述正コラム#2060(2007.9.13)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃>

 (本篇は、即時公開します。)

1 始めに

 イスラエルの空軍機が9月6日、シリア領空内に侵入し、シリア北東部の目標を少なくとも一箇所爆撃してから帰還しました。
 この空軍機は5機であり、地中海からトルコとの国境沿いにシリア空域に侵入したとされ、ラッカ(Rakka)という町の北方約100マイルで目撃されたとの情報があります。
 シリアはこのイスラエルの領空侵犯行為を非難しましたが、イスラエルは沈黙を保っています。
 このイスラエル空軍機の目標が何であったのかについて、三つの説が出ています。

2 三つの説

 (1)北朝鮮がらみの核施設

 ブッシュ政権筋が主張している説なのですが、ここ半年間、とりわけこの一ヶ月間の衛星画像をイスラエルが解析して、北朝鮮が協力していると思われるシリアの核施設らしきものを見つけたという情報が前米国連大使のボルトン(John Bolton)らによって流布していたところ、実際、北朝鮮が核物資をシリアに売却した可能性があり、その倉庫をイスラエル空軍機が爆撃したのではないか、というのです。
 なお、これは単なる倉庫ではなく、北朝鮮から移設された濃縮ウラン製造施設である可能性があるとする説もあります。
 2003年に北朝鮮が、核物質を第三国に移す(transfer)するかもしれないと脅した際、米国が北朝鮮が核技術を第三国に提供するようなことがあれば、一線を越えたと判断する、つまりは対北朝鮮攻撃もありうる、と警告したことがあることを覚えておられるでしょうか。
 ちなみに、シリアは核拡散防止条約に調印していますが、IAEAによる強化査察を受け容れるとの追加議定書にはまだ同意していません。

 (2)ヒズボラ用武器施設

 2006年6月にイスラエル空軍機がシリア領空に侵入し、アサド・シリア大統領の夏の邸宅の上を低空飛行した上で、イスラエルが、これはシリアのハマスへの支援に対する警告のメッセージであると発表したことがあることを引き合いに出し、国連安保理決議で禁止されているにもかかわらず、シリアがレバノンのヒズボラへの武器供給を行っていることへの警告のメッセージとして、イスラエルがレバノンのヒズボラ(Hezbollah)用の地対地ミサイルの倉庫ないし製造工場を爆撃した可能性がある、というのです。

 (3)防空ミサイル施設

 最近のロシア製の防空ミサイルの導入により、シリアの防空能力が強化されたかどうかを見極めるためにイスラエルが空軍機を侵入させた、という見方もあります。
 この説は、類似の防空ミサイルを導入しているイランの核施設を近い将来イスラエルが空軍機で爆撃するための予行であるとする説と、近い将来ヒズボラ用の武器の集積所等を爆撃するための予行であるとする説に分かれています。

 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/12/AR2007091202430_pf.html
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/6991718.stm
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,2163764,00.html
http://www.nytimes.com/2007/09/12/world/middleeast/12syria.html?pagewanted=print
http://www.dailymail.co.uk/pages/live/articles/news/worldnews.html?in_article_id=481446&in_page_id=1811&ito=1490
(いずれも9月13日アクセス)による。)

3 コメント

 一つの事件についてこれだけ沢山の説が乱れ飛ぶのは、情報が寸時に全世界を駆け巡る昨今では極めてめずらしいことです。
 シリアがはっきりしたことを言わないのは、またもイスラエルに鼻を明かされた屈辱からでしょうが、イスラエルが完全黙秘を貫いていること、米国の関係者も極めて口が重いことは、北朝鮮がらみの核施設攻撃説またはイラン攻撃予行説のどちらかが正しいのではないか、ということを推測させます。
 いずれにせよ、イスラエルによるシリア本格攻撃のための予行である、という説だけは出ていないことは、興味深いところです。

太田述正コラム#1845(2007.6.30)
<北朝鮮をいたぶる米国(続x4)>(2007.8.10公開)

1 最近の状況

 マカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)に凍結されていた資金の送金問題がおおむね解決したと思ったら、ヒル米国務次官補が6月21、22日の両日、北朝鮮の要請を受け容れて電撃的に北朝鮮を訪問しました。
 これは2002年10月に同じクラスの米高官であるジェームス・ケリー氏がが北朝鮮を訪問して以来のことです。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/06/21/AR2007062100454_pf.html  
(6月22日アクセス)による。)
 今回、ヒル氏は北朝鮮の迎賓館に相当する百花園招待所に泊まったのですが、ここは2000年の南北首脳会談の際、韓国の金大中大統領(当時)一行が泊まった所です。これは、2002年にケリー米国務次官補が訪朝した時には高麗ホテル泊であったことからすれば、今回ヒル氏は北朝鮮に破格の待遇を受けたといえるでしょう(
http://www.chosunonline.com/article/20070623000011  
。6月23日アクセス)。

 ポールソン米財務長官が、14日、BDA資金送金問題で北朝鮮に協力するのは今回限りであり、北朝鮮を国際金融システムに復帰はさせない、という趣旨の発言をあえて行った(
http://www.chosunonline.com/article/20070616000016  
。6月16日アクセス)というのに、それにもかかわらず、ここまで北朝鮮が米国に媚態を示したことは、金正日が、米国からどれだけいたぶられようと、六カ国協議での合意事項を、当分の間は遵守する方針をとることにした、ということなのでしょう。
 合意事項中、初期段階に実施することになっているIAEA査察下での核施設の封鎖の見返りとして得られる韓国等からの援助(
http://www.chosunonline.com/article/20070623000013  
。6月23日アクセス)を、北朝鮮が喉から手が出るほど欲しがっている、ということなのかもしれません。
 ただし、だからといって北朝鮮が、核開発を止めたわけではありません。
 六カ国協議合意以降も、北朝鮮は核物質を兵器化し小型化するなどの核開発を推進し続けており、このことを米国は把握しています(
http://www.chosunonline.com/article/20070616000005  
。6月16日アクセス)。
 北朝鮮のパトロンの中共政府自身、北朝鮮が本当に核計画の廃棄をするかどうか疑問視しています(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-norkor26jun26,1,2828837,print.story?coll=la-headlines-world  
。6月27日アクセス)。

2 米国の乱暴ないたぶり方

 それにしても、米国は乱暴に北朝鮮をいたぶっているものです。
 6月6日に米国政府は国連開発計画(UNDP)に対し、北朝鮮によるUNDP援助資金の新たな横流し疑惑を指摘した、と以前(コラム#1807で)申し上げたところですが、28日にUNDPはこの米国の指摘に対して、事実無根であるとして全面的な反論を行いました。
 国連の経済制裁を受けていたフセイン統治下のイラクに対し、イラクの石油とイラクへの食糧等の援助を交換する計画推進に当たって国連事務局が不祥事まみれであったことが判明している以上、今回の国連側の反論も全面的に信用するわけには行きませんが、米国の指摘が相当杜撰なものであったこともまた間違いないようです。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2007/06/29/world/asia/29nations.html?pagewanted=print  (6月30日アクセス)による。)
 米国の諜報能力が落ちており、まだ回復していない、ということもあるのでしょうが、さほど根拠がなくても、北朝鮮に対するいたぶりに利用できる事は何でも利用するのが現在の米ブッシュ政権の方針だ、ということなのではないでしょうか。

 金正日重病説がまたも囁かれています(
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=88671&servcode=500§code=500
。6月30日アクセス)が、今度という今度こそは、米国の執拗ないたぶりによって金正日が心因性の疾患で重篤になっている可能性はかなり高い、と私は見ているのです。

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