太田述正コラム#1854(2007.7.7)
<日本・韓国・米国>(2007.8.16公開)

1 始めに

 日本は1905年の第二次日韓協約によって朝鮮半島を保護国化し、1910年の日韓併合条約によって併合し、都合40年間にわたって朝鮮半島を支配します。
 他方日本は、1945年に米国に占領され、1952年に日本自ら米国の保護国となることを選んで現在に至っており、都合62年間にわたって米国の支配下にあります。
 (年代についての典拠は省略する。)
 このため日本は、韓国に対しては旧宗主国として、大きな影響を与え続けていますが、米国に対しても、現保護国として大きな影響を与え続けています。
 そのことは、本日の朝鮮日報や米スレート誌を一瞥するだけでも明らかです。

2 韓国に対する影響

 (1)そっくりバラエティー番組

 「最近、<韓国の>地上波テレビ各局が、日本の人気番組の形式を輸入し、全くそっくりな番組を制作する事例が急増している。このため視聴者たちの間で、日本のテレビ番組を真似たとする“盗作論争”が起こったり、後になって日本のテレビ番組の模倣という事実を知って抗議するケースが増えている。・・放送専門家らは、こうした「日本の番組のコピーブーム」が韓国のバラエティー番組の安易な制作態度を端的に見せていると批判している。過去に横行した“無断盗作”よりは一段階発展したとはいえ、“創作の苦痛”なしに簡単に視聴率を上げようとする、その場しのぎの手法だという主張だ。・・<ある放送専門家は、、>「日本の番組を輸入した形式で放送する際には、番組の原本まで明らかにすべき」と語った。」(
http://www.chosunonline.com/article/20020723000044  
7月7日アクセス)

 (2)松本大洋のマンガ

 「<日本のマンガ家>松本大洋の<韓国での>人気はとどまるところを知らない。出版業界では昨年以来、『ピンポン』(全5巻)や『花男』(全3巻)、『鉄コン筋クリート』(全3巻)の翻訳本が相次いで出版され、数日前には『GOGOモンスター』の翻訳本が450ページに及ぶ1冊の本となって出版された。これらの翻訳本は軒並み、初版で 3000部を軽く超える売り上げを達成した。翻訳本の編集・・担当<者>は「作家のイメージが先行する作品なので、担当の編集者たちもそれほど期待してはいなかったが…」と驚きを隠せない様子だった。・・
 <また、>大洋の出世作<である>『鉄コン筋クリート』<をアニメ化した>「宝町」という<、>架空の町に住む悪童クロとシロを通じ、現代都市の堕落ぶりや個人の孤独感を描い<た映画の>1週間の客席占有率は90%<に達している。これには、>蒼井優や二宮和也といった若手スターたちの声による演技も人気の背景にあ<ろう>が、それよりも原作者である松本大洋の人気によるところが大きい<と考えられている。この映画は、>大洋ファンとして知られる米国のマイケル・アリアス監督が2006年に<制作>した<ものだ>。・・
 <ある>漫画評論家・・は「<大洋>は世界の漫画史にあって最も優れたグラフィティの技法を大成した作家だ。デビューから10年経ってようやく翻訳本が韓国に入ってきたが、すでに多くの漫画家たちの本棚を飾る“漫画家たちの理想とする漫画家”だ」と評した。」
 (以上、
http://www.chosunonline.com/article/20070706000066
http://www.chosunonline.com/article/20070706000064
http://www.chosunonline.com/article/20070706000065  
(7月7日アクセス)による。)

 実のところ、日本のマンガの韓国への影響は以前から巨大なものがあったのです。
 韓国のある詩人にして建築家は、「<韓国の>3、40代の人たちは『少年アトム』が1979年までの28年間、日本で連載された『鉄腕アトム』の翻案であったことを知らなかった。『少年アトム』が実は日本の漫画だったという事実に、幼いながら裏切りに近い衝撃を覚えたものだ。なぜなら、私はホ・ヨンマンの『カクシタル(嫁の仮面)』で代表される対日抗戦の時代劇を観て育った漫画少年だったためだ。しかし、アトムだけではない。初めて私の神話的想像力を刺激した『火の鳥』や『ジャングル大帝』まで、すべてが日本の漫画だったという事実は、それらが全部韓国の漫画だとばかり思って、耽読していた私を深い劣敗感へと落とし入れた。これらの漫画が手塚治虫という人の手によって創造されたということを知った時、私は驚愕した。日本の誰かが、韓国に住む一人の少年の幼年時代を支配していたのだ。」(
http://www.chosunonline.com/article/20021018000033
。7月7日アクセス)と2002年に記しています。

3 米国に対する影響

 (1)映像技術

 マンガに由来する日本のアニメやホラー映画が米国に大きな影響を与えてきたことは、『鉄コン筋クリート』のアニメ化の話からも分かりますが、このことについては改めてとりあげるとして、このように映像ソフト面だけでなく、ハードたる日本の映像技術が米国に大きな影響を与えてきたことも忘れてはなりません。
 
 「まず、ソニーは1970年代にビデオ・テープレコーダーを生み出すことによって米国に全く新しい市場を創造した。・・ハリウッドの映画会社は、ソニーがこれを売ることを差し止めようと訴訟を提起した。・・ソニーは・・最終的に米最高裁でこの訴訟に勝利した。・・この結果巨大なビデオ・レンタル市場が開かれることとなり、映画会社の予見に反して彼らはむしろ救われることになるのだ。・・
 1990年代には、東芝やソニー・・はハリウッドをもっと根底から変えることになる決定を行った。ビデオカセットをデジタル・プラットホームで置き換えるという決定を・・。これに対しても、ハリウッドの映画会社は、このDVDが、金の卵になっていたビデオ・レンタル市場の足を引っ張るのではないかという懸念から、その投入に抵抗し<たものだ。しかし結果的には、ビデオ・レンタル市場に代わって>映画に係る小売産業が生まれ、<映画会社は更に大儲けすることになる。>
 <そして現在進行中なのが、東芝とソニーによる高解像度標準・・HD-DVDとブルーレイ・・の導入だであり、これに関連したソニーによるプレイステーション3の投入であり、映像ソフトとゲームの世界の融合だ。>」(
http://www.slate.com/id/2138334/
。2006年3月21日アクセス)
 これは、少し古いスレート誌の記事でしたが、お目こぼしを。

 (2)ハイブリッド車

 日本のハイテクと言えば、ガソリン価格の高騰や環境問題への関心の高まりから、日本のハイブリッド車への米国での関心の高まりは大変なものです。
 トヨタのプリウスが環境に優しいだけでなく、いかに高性能であるかを熱っぽく記したスレート誌の記事(
http://www.slate.com/id/2169925/  
。7月7日アクセス)を見ると、改めてそのことを感じます。
 
 (3)日本食

 健康志向の高まりもあり、米国で日本食が大流行です。
 とりわけ、寿司は、グルメにも大衆にも浸透しつつあります。
 スレート誌は、寿司をテーマにした、出版されたばかりの2冊の本の著者(女性と男性)との座談会を掲載しています(
http://www.slate.com/id/2169866/  
。7月7日アクセス)。
 この座談会の中で、現在の寿司の形態を日本全国に広めたのも、米国に寿司を持ち込んだのも米占領軍であったという話が出てきます。
 また、まぐろが寿司ネタとして日本で普及したのは、赤い牛肉を食べる習慣が米占領軍の影響で日本人の間に広まり、その関連で牛肉のように赤いまぐろが注目されたからだという話も出てきます。
 全部が全部その通りであるかどうかはともかく、支配者と被支配者が相互に影響され合う、ということがよく分かりますね。