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太田述正コラム#1770(2007.5.16)
<サルコジ新フランス大統領(続)>(2007.6.24公開)

1 始めに

 このところコラム書きに精神集中ができない事情が生じています。
 最近、私のコラムに対してコメントが寄せられていないのは、そのせいでないことを祈るばかりです。
 その事情についてもご説明する緊急オフ会の19日(土)が近付いてきました。もう出席者はいらっしゃいませんか。
 さて、本日ニコラス・サルコジが正式にフランス大統領に就任しました。
 もう少し彼の話をすることにしましょう。

2 サルコジの母親

 サルコジの母親は、アンドリー・サルコジ(Andree Sarkozy)81歳ですが、フランスで大統領選が話題となったこの一年ちょっと、TVによく出ては息子のイメージ向上に努めてきました。こんなことは今までのフランスの大統領選挙ではなかったことです。
 彼女は、離婚後、三人の男の子達を1人で育て上げました。引っ越しした先は、彼女のお父さん・・ギリシャのサロニカからやってきたユダヤ人医師・・のパリのマンションの4つの空き部屋でした。彼女は、子供達が起き出すまでの早朝に勉強して弁護士になります。
 そう言えば、サルコジも弁護士になったのですね。
 彼女は、例えば、サルコジは感情の起伏が激しいと世上言われていることを否定し、小さいときはそうだったけれど、ずっと前にそうではなくなった、と語ったのです。
 サルコジは、このお母さんを通じて女性への敬愛の念を培ったようです。
 彼は、社会主義者のロワイヤル(Segolene Royal)女史を最大のライバルとした今次大統領選挙戦において、決して彼の「男らしさ」で勝負しようとはしませんでした。それどころか、盛んにシモーヌ・ヴェイル(Simone Veil。妊娠中絶解禁論者)等女性の弁士の応援を頼んだのです。
 そして、サルコジの選挙公約の一つは、15人の閣僚の半分を女性にすることでした。
 フランスは、議会の議員の14%しか女性ではなく(注)、EU諸国の中では女性の政治進出度がビリに近い国であることを考えると、これは画期的な試みです。
 彼は決して向こうウケを狙ったのではなく、どうやらサルコジは、男性より女性の方を信頼し、男性より女性とともに仕事をすることを好むようなのです。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/france/story/0,,2079022,00.html  
(5月16日アクセス)による。)

 (注)世界で初めて女性が男性より多い内閣が成立したのは1999年のスウェーデンにおいてだ。20人中11人を女性が占めた。なお、本年4月、このスウェーデンの記録を上回る内閣がフィンランドで成立した。実に60%(20人中12人)を女性が占めたのだ。ちなみにフィンランドは、2000年以来、大統領に女性が就いている国でもある。また、現在、中央議会で女性議員の割合が世界で最も高いのはスウェーデンであり47.3%に達する。
    ついでだが、デンマークで1924年に世界最初の女性閣僚(教育相)が誕生し。スリランカで1960年、世界最初の(選挙で選ばれた)首相・・バンダラナイケ(Sirivamo Bandaranaike)・・が誕生している。

2 サルコジの父方のルーツ

 かつてサルコジ家は、ハンガリーのブダペスト東方60マイルに城館を構えた貴族の家でした。
 しかし、この城館は1919年に占領していたルーマニア軍が引き揚げる時に火を付けられて灰燼に帰してしまいます。そして、サルコジ家の領地は1930年代に売られてしまい、やがて第二次世界大戦が勃発し、ソ連によってハンガリーは占領されることになります。
 サルコジの父親のポール・サルコジ(Paul Sarkozy)は、1948年にハンガリーを脱出し、苦労の果てにパリにたどりつき、ここで上記アンドリーと出会い、結婚するのです。
 ただ、二人の間の男の子達三人がまだ小さいときに二人は離婚してしまい、サルコジはハンガリーの言語や文化に直接触れることなく成長することになるわけです。
  
3 感想

 このように、フランスで、ギリシャから来たユダヤ人の娘とハンガリーから来た貴族が結びついてサルコジが生まれたというのに、そのサルコジが北アフリカ系の怒れる若者達をクズ呼ばわりしたり(コラム#945)、アフリカ移民の流入規制やトルコのEU加盟反対を唱えたりしているのは、皮肉と言えば皮肉です。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.nytimes.com/2007/05/15/opinion/15tue4.html?pagewanted=print  
(5月16日アクセス)による。)
 それはともかく、日本で閣僚の半分を女性が占めたり、日本で両親とも外国移民系の首相が誕生したりするのはいつの日のことなのでしょうね。

太田述正コラム#1765(2007.5.11)
<サルコジ新フランス大統領>(2007.6.10公開)

1 始めに

 サルコジ(Nicolas Sarkozy。1955年〜)前仏内相が5月6日、フランスの新大統領に選出されました。
 サルコジがどんな人物で、サルコジの当選がいかなる意味があるか、ご説明したいと思います。

2 サルコジ?

 サルコジの父親はハンガリーの貴族の家に生まれたフランスへの難民であり、母親はギリシャ系のユダヤ人ですが、サルコジはパリ圏で生まれ育ったカトリック教徒です。
 父親がサルコジを含め3人の子供達を残して出奔してしまったため、彼は爾後母親の手で育てられ、フランス人の女性と結婚した時にユダヤ教からカトリックに改宗したところの、ドゴール心酔者の母方の祖父の強い影響を受けて人となります。
 彼は165センチと背が低かった上、子沢山の母子家庭であったために生活が決して豊かではなかった、という二重のコンプレックスを背負っていました。
 サルコジは、学業成績は余りぱっとせず、フランスの指導者としてはめずらしく高等行政学院(ENA)の卒業生ではなく、弁護士の資格を持っています。
 彼は、最初の妻との間に2人の子供がいますが強引に離婚し、離婚直後に結婚したところの、作曲家のアルベニスのひ孫でロシア人を父とする現在の妻との間に10歳の息子がいます。
 サルコジもこの現在の妻も、互いに不倫の噂が絶えません。一年前から別居していた二人ですが、最近はよりを戻しています。
 彼は弱冠20代で、彼の生まれ育ったパリ近郊の市の市長に当選し、20年近く勤めあげ、その任期の末期近くから中央政界で活躍して現在に至っています。
 彼は、これまたフランスの指導者としてはめずらしく、英語がしゃべれませんが、英国のブレア首相の政治思想とそのメディアを活用した政治スタイルとをともに尊敬していると言われます。
 (以上、
http://en.wikipedia.org/wiki/Nicolas_Sarkozy
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6631001.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/3673102.stm
(いずれも5月11日アクセス)による。)
 当選してから1時間後にサルコジはブレアに電話し、首相になる人物だとして上院議員のフィロン(Francois Fillon。53歳)を電話口に出しました。 フィロンが首相になれば、フランスの歴代首相の中で初めて英国人(ウェールズ出身)を配偶者とする人物ということになります。(http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/europe_diary/default.stm。5月10日アクセス)。
 
3 サルコジ当選の意味

 サルコジは、決選投票で53.1%の得票率を得て当選しましたが、投票率は84.8%にのぼり、これは1981年の大統領選挙以来の高投票率でした。
 フランスでは過去20年間に渡って投票率が長期低落傾向にあったのに、それが一変したことになります。フランスの政治アパシー状態に終止符が打たれた観があります。
 しかも、第一回目の投票を見ると、極右と極左に対する投票率が下がったことも注目されます。ファシスト的主張をしているルペン(Jean-Marie Le Pen)候補の得票率は2002年には18%もあったのに、今回は10%にとどまりましたし、共産党の候補は30年以上にわたって20%程度の票を集めてきたのに、今回は2%以下という有様です。
 最も注目すべきことは、上述したように、サルコジがアングロサクソン的自由主義の旗を掲げていることです。サルコジは、シラク現大統領の(対イラク戦に係る)反米国的スタンスに批判的でもあります。
 サルコジの当選は、フランスのドゴール主義的伝統、そしてジャコバン的伝統が二つながら終焉を迎えたことを意味する、と評する人もいます。
 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/05/09/2003360149
(5月10日アクセス)による。)
 果たしてフランス国民の期待に応えて、サルコジが、失業率9%、24歳未満の若者の失業率25%というフランスの現状(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6631001.stm
上掲)を変えることができるか、お手並み拝見というところです。

4 早くもミソをつけたサルコジ

 ところが、サルコジの当選に怒った人々が暴動を起こし、連日何百台もの車に火をつけ、何百人もの逮捕者が出ているさなか、サルコジが豪華ヨットでマルタ島を訪問する3日間のバカンスに出かけたため、フランス人はバカンス好きであるにもかかわらず、左右両翼から批判の集中砲火を浴びてしまいました。
 この17人のクルーつきの12室もあるヨットは、フランスの13番目の大金持ちが所有しており、借りたら一日38,000米ドルはする代物ですが、サルコジ一家(本人と現在の妻とこの妻との間の子供)はタダで使わせてもらったというのです。
 「サルコジは大金持ちの味方か」、とか、「タダほど高いものはない。高額所得者への税金を低減させる等の便宜供与を迫られるのは必至である」、とサルコジが批判されるのも当たり前です。
 (以上、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6638301.stm
(5月10日アクセス)、及び
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/05/09/AR2007050902622_pf.html
(5月11日アクセス)による。)

5 感想

 今までに比べれば進歩が見られるけれど、フランスの政治が英国の政治のレベルに追いつくことは、当分なさそうですね。

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