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太田述正コラム#2153(2007.10.29)
<防衛省不祥事報道に思う(続x9)>

1 始めに

 本日、守屋氏の証人喚問を東京新聞の本社の一室のTVで視聴しました。
 この時、同時並行的にこの新聞社の記者による私への取材が行われ、この取材に基づく記事が明日の朝刊に載ると思うので、興味のある方はお目をお通しください。
 また、10月31日(水)17:25位〜(コーナーは12分)に放送される日本テレビ「NEWSリアルタイム」の「ここがわからん!」コーナーに出演することになり、明日夜、ビデオ撮りがあります。
 他のゲスト出演者は、自民党の平沢勝栄議員と民主党の原口一博議員のお二人です。
 平沢さんには、彼が官房審議官として警察庁から防衛庁に出向して来た時に、私は一度ご挨拶をしたことがあるのですが、先方は覚えていないかもしれません。
 原口さんについては、ご縁ですね、と言うほかないですね。

2 守屋氏の新たなゴルフ接待疑惑

 「守屋前防衛事務次官が、2001年7月から2004年9月までの間、富士通・・と同社の防衛関連子会社「富士通特機システム」(川崎市)からもゴルフ 接待を7回にわたり受けていたことが・・わかった。両社は防衛省と取引関係にあり、自衛隊員倫理規程に触れる可能性もある。富士通によると、接待をしていたのは、富士通の特機システム本部長や「富士通特機システム」社長を経て、現在、同社常任顧問を務める男性(64)。接待は毎回顧問の部下が同伴し、東京近郊のゴルフ場で行っていた。1回に一人あたり約2万5000円のプレー代金は会社側が全額負担していた という。」 (
http://www.asahi.com/national/update/1029/TKY200710290277.html
。10月29日アクセス)

 おい、守屋よ。
 この分じゃ、まだまだ完全ロハ・ゴルフ接待が出てきそうだよな。
 とても、お前をかばいきれんぞ。
 まいったね。
 さすがにあきれたよ。

3 守屋喚問

 守屋喚問は、私が予想したように、自民党と民主党の裏取引が行われた模様であり、守屋の倫理規程違反だけで決着させるというシナリオの下でのうわべだけの質疑で終わりました。
 自民党議員が、山田洋行への天下りの話と小沢さんが政治資金をもらった話をしたけれど、民主党議員は、この自民党の小沢疑惑ちらつかせ戦術のせいで萎縮しきった感じであり、(東氏の件もこれあり?)天下りの話について完全パスしていましたね。
 また、遺憾なことに、社民党も共産党も、小沢さんが「友党」たる民主党の党首であるためか、小沢さんの疑惑を追及しようとはしませんでした。
 私の率直な印象としては、(公明党など言及するのもアホらしいので止めときますが、)この4党は全部つるんでいるな、というものです。
 私がもう一つ理解しがたいのは、守屋のGEとの関係の追及を行った党はあったものの、どの党からも、GE幹部、とりわけGEジャパン幹部の証人喚問を要求する声が出なかったことです。

 いずれにせよ、最大の問題は天下りなのです。
 皆さん、覚えておられると思いますが、石破防衛相は、防衛装備品の海外からの調達に商社を介在させているのはそもそもおかしいと述べています。
 これは、山田洋行(日本ミライズを含む)は、防衛装備調達に関し、実質的には何の仕事もしていない、と言ったに等しいと私は思います。
 ということは、少なくとも、山田洋行の顧問にやるべき仕事など全くない、と考えてよいでしょう。
 (とりあえずは、山田洋行以外の防衛関係企業への天下りや、他の省庁における天下りの問題にまで議論を広げないことにする。)

 何度も繰り返して恐縮ですが、守屋のゴルフ等接待という形で山田洋行が防衛省にキックバックした金額に比べ、荒っぽい計算ではあるものの、実にその100倍もの金額を山田洋行は、天下った防衛省OBの給与の形で防衛省にキックバックしています。
 にもかかわらず、この重要な問題を喚問中に取り上げたのは自民党だけであり、しかも、まことにおざなりな取り上げ方をしただけです。(顧問たる東氏への給与は計算に入れていない。)
 他方、野党は全く天下りの問題を取り上げませんでした。
 まことに困ったものです。
 こんなことでは、日本の国会は、全く機能していないと申し上げざるをえません。

太田述正コラム#2145(2007.10.25)
<防衛省不祥事報道に思う(続x5)>

1 始めに

 コラム#2141で「私はゴルフ代は守屋(夫妻)が全額払っていたとみなすべきだと考えている」と書いたのに、どなたも、何のコメントもお寄せにならないので拍子抜けしています。
 そこで、このことをもう少し説明しておきます。

2 英国でのこと

 1988年に英国の国防省の大学校(Royal College of Defence Studies)に「留学」した時、「留学生」に特権が与えられたことに目を丸くしました。
 5つくらいのクラブ・・イギリスのクラブ、social club のことですよ・・の一年間の名誉会員にしてもらえたのです。
 その中には、ゴルフクラブが一つと、ロンドンの都心の一等地のペルマルにあるクラブハウス(2階以上は宿泊施設、地下にはプール)に加え郊外にもクラブハウスのあるクラブが一つ含まれていました。
 前者はロンドンの西方のヒースロー国際空港に近い市中にあるRoyal Surrey Golf Club(RSGC)であり、後者は、Royal Automobile Club (RAC。日本のJAFに相当する組織のクラブ)でした。後者の郊外のクラブハウスは、ゴルフコース付きのクラブハウスでした。このゴルフコースはロンドンの南方の郊外のエプソムの競馬場の近くでした。
 宿舎(英陸軍の官舎)からは、前者は車で15分、後者は車で30分の距離でした。
 何せ20年近く前のことなので、若干の記憶違いはあるかもしれません。
 RSGCでは、平日名誉会員であり、夏場はロンドンの日没は遅く、かつ大学校の「授業」が終わるのは午後一時なので、それからでも十分1ラウンドのプレーができます。水曜は、「学生」のコンペの日でした。
 RACでは、週末もプレー可能な名誉会員であり、しかも、「学生」の配偶者も名誉会員扱いでした。
 (名誉会員証は確か与えられたと思うし、ゴルフコースでは名誉会員証を提示したことがあったのではないかと思いますが、ペルマルのRACのクラブハウスを初めて訪れた時、ドアを開けてくれたスタッフが、私の顔を見た瞬間、「太田様、いらっしゃいませ、お待ちしておりました」と会釈したのにはたまげました。顔写真が事前に配布されていたのでしょうが、留学生だけで40人くらいの顔と名前を全部覚えたということですから・・。日本の例えば学士会の学士会館には、非会員も、来館目的を記して署名すれば入館できますが、イギリスのクラブには、会員同伴でなければ入館できなかったと思います。ちなみに、食堂に女性は入れません。ただし、RACの場合、ゴルフコースのクラブハウスの食堂には女性も入れました。)
 
3 私が言いたいこと

 「学生」達は、英国の「学生」も外国からの「学生」も、大佐か准将クラスで、少数いたシビリアンも大佐か准将相当でしたが、この程度(?)でも、大学校の格式が高いということもあるのでしょうが、以上のような待遇を受けるわけです。
 忘れてはならないことは、日本以外の世界の国々では、そもそも軍人は特別扱いされる対象だということです。
 ですから、海外に行けば自衛官だって特別扱いされるし、そのお相伴で当時の私のようなシビリアンだって特別扱いされる場合がある、ということなのです。
 どうしてかって?
 命をかけて公のために働いている人々である軍人が尊敬の対象になるのは当たり前ではありませんか。
 また、たまたま取り上げた二つのクラブの名称にどちらもRoyalがついていることにお気づきになりましたか?
 英国の海軍と空軍の正式名称もRoyalから始まります。(陸軍にはRoyalがつかないのは面白いですね。その代わり、王族達が連隊の名誉連隊長等を勤めます。)
 つまり、王室と近しい関係にある組織・機関は、特に軍人を大切にする、ということです。
 これも万国共通であり、国家元首にとって最も重要な役割は、軍隊の総指揮官としての役割であり、軍人は国家元首にとって最も近しい存在なのです。
 これにひきかえ、戦後の日本は何と異常な国なのでしょうか。
 日本の軍人たる自衛官は国ために死ぬことを禁じられています。
 もちろん日本の皇室から自衛隊は完全に切り離されています。
 死ぬことを禁じられている軍人なんて、単なる不労所得者、と言って悪ければ単なる年金生活者ではありませんか。
 そんな自衛官に対し、国民の多くが敬意を抱くどころか内心蔑み哀れんでいたとしても不思議ではありません。だからこそ前回のコラムで引用した加藤氏のような不用意な発言も飛び出すのです。
 われわれは全員米国の保護国に住む原住民です。
 宗主国米国は、自立心を忘れ、倒錯の世界に生きているわれわれを、「蔑み哀れんで」見下しています。
 保護国の原住民としての生き様に徹するのなら、自衛隊を廃止して、防衛費は思いやり経費だけにして全部宗主国の米国に貢いでしまえばいいのです。そうすれば、今のままではドブに棄てているに等しい防衛費も米国によってより活かされるでしょう。われわれは、米国からの更なる「蔑み哀れ」みの視線に耐えればいいだけのことです。
 いずれにせよ、そんな日本が、米国と合邦したい、連邦議会に代表を送りたい、大統領選挙にも加わりたいと言っても、相手にされないこと請け合いです。

4 終わりに

 防衛省キャリアは、国内からと米国からの二重の蔑視に晒され続ける生涯を送ります。 やがて、彼らは蔑視に鈍感になっていきます。蔑視に晒されていることすら忘れようとします。自己防衛機能というやつです。
 しかし、いかに蔑視に対する耐性ができたとしても、防衛省キャリアの大部分の精神が蝕まれ、ゆがんで行くのはごく自然なことなのです。
 (正確には、日本国民一般に比べて、より精神が蝕まれ、ゆがんで行くと言うべきでしょうね。)
 彼らには、大集団を統率し、防衛装備を使い、訓練をするという、自衛官の幹部のような逃げ道すら与えられていないのですよ。
 その彼らの手に5兆円近くの防衛費が、気前のよいこと夥しい国民から、本来の用途以外に使えと言われて委ねられているわけです。
 好き放題に使ってなぜ悪いのですか。
 当然その彼らに政治家と業者、更には基地周辺住民が群がり、防衛費をむさぼりあう。
 それが、今回の守屋事件の背景です。
 
 守屋氏は悪い。
 しかし、ゴルフを、会員なら8,000円のところを、夫婦共々、1人1万円も出してプレーしていた点だけをとらえれば、守屋氏は何も悪いことをしていません。
 そのゴルフ場が、うさんくさい山田洋行の関係会社のゴルフ場であったことは確かですが、日本の一流ゴルフ場の中に、自衛官の将官クラスやこれに相当する防衛省のシビリアンに、名誉会員証を提供する所が一箇所もない日本がおかしいのです。
 守屋氏をこれ以上叩くのは止めましょう。
 守屋氏は、あなた方がつくったのです。あなた方の被害者なのです。
 加藤氏のような政治家はいくら叩いても良い。
 心優しい皆さんには、その政治生命を復活させる用意があるからです。
 しかし、防衛官僚は、一度水に落ちてしまえば、後は死ぬだけだからです。あなた方には防衛官僚を復活させる手段も意思もないからです。
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太田述正コラム#2146(2007.10.25)
<防衛省不祥事報道に思う(続x6)>

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