カテゴリ: 防衛施設庁談合事件

太田述正コラム#1556(2006.12.9)
<地方の官制談合に思う>

 当方、公私含めてネット空間ではほとんど情報発信をしていないのですが、読者が増えないと太田さんのコラムが読めなくなるようでは、ブログ開設などを少し考えなければならないかと思っている次第です。(といってもまだ実行レベルに辿り着いていませんが・・・)
 最近のコラムでは、「韓国での按摩騒動」において、江戸時代における日本の按摩専業制について知り、またしても我が日本の「過去の」素晴らしさに感銘を受けました。一方で、現代の「格差容認」「優しさがない」社会と比較すると、日本人の退潮ぶり(とその緒要因)に背筋が寒くなります。
 近年、縄文期や近代などバラバラですがだいぶ歴史を学びつつあり、今は松村久子女史の「驕れる白人と闘うための日本近代史」を読んでいます。まだ緒についたばかりですが、興味深い情報が得られそうな本です。とはいえ、面白がってばかりでは無意味ですので、得られた情報と知識を現代の社会と国際関係にどのように活かすべきか、それを考えるように努めてまいりたいと思います。
 それでは、これからも素晴らしいコラムをお待ちしております。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――1 地方の官制談合の構造

 官制談合で県知事の逮捕が続いています。福島県、和歌山県に続いて、12月8日には宮崎県でも辞めたばかりの安藤忠恕前知事が逮捕されました。
 その共通の背景として、中小の県でも2億円を超えるカネがかかる知事選挙の実態があります。
 (以上、
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/061207/jkn061207001.htm
(12月7日アクセス)等による。) 

 宮崎県のケースについて、もう少し詳しく見てみましょう。
宮崎県は、都道府県が発注する2005年度の公共事業の平均落札率(予定価格に対する落札価格の割合)が全国で最も高い95.8%であり、最も落札率が低かった長野県に比べて20ポイント以上も高いことだけからも、談合が常態化している可能性がうかがえます(
http://news.www.infoseek.co.jp/society/story/28kyodo2006112801000426/
。12月9日アクセス)。
 しかも、宮崎県には、同県の建設土木業界が宮崎県OBの再就職を受け入れ、代わりに県は発注の際、「地元優先」に配慮するというシステムがあり、今年4月末現在、100人を超すOBが土木建設業界に天下っています(
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20061209i101.htm?from=main1
。12月9日アクセス)。
 これだけ状況証拠がそろっておれば、宮崎県のほとんどの公共事業で官制談合が行われている、と考えてよいでしょう。

2 崩壊必至の談合構造

 小泉首相が就任する前の2000年度には、全国の公共工事は年間30兆円もありましたが、2005年度にはそれが19.9兆円に減り、2006年度には更に18.2兆円へと縮小する見通しです。安倍政権も、引き続き年率3%程度ずつ公共事業予算の削減を進める考えを打ち出しています。
 これに加えて、談合禁止法制の強化もあって、大手ゼネコンが2005年暮れに談合決別宣言を行う等、国のレベルでは談合構造が急速に崩れつつあります。
 他方、地方にはまだ談合構造が残っているところが少なくない、というのが実情ですが、談合構造の崩壊は遅かれ早かれ確実に地方でも起きることでしょう。
 (以上、
http://headlines.yahoo.co.jp/column/bp/detail/20061129-00000000-nkbp-bus_all.html
(12月9日アクセス)による。)

3 宮崎県前知事の罪

 県庁職員出身の安藤前宮崎県知事は、宮崎県に官制談合構造が存在すること、他方、これを支える(民民の)談合構造そのものがやがて崩壊する運命にあること、を熟知していたはずです。
 だから、安藤氏は、知事に就任したら、この官制談合構造をなくすために率先して尽力すべきであったのです。
 ところが、知事選挙で世話になった東京のヤマト設計の社長からの強い要請を受けると、安藤氏は、漠然とした形ながら、天の声を発してしまったということのようです(読売前掲)。

4 感想

 宮崎県のケースを通して見えてきた地方の官制談合の構造は、防衛施設庁をめぐる官制談合の構造と全く同じであることが分かります。
 ところが、宮崎県の場合は、政治家である前知事が逮捕され、役人である県の出納長や部長が逮捕され、更に民間人のヤマト設計の社長らも逮捕されたり起訴されたりしているというのに、防衛施設庁の場合、同庁の官制談合システムに寄生した自民党の政治家連中は逮捕どころか取り調べすら免れ、この官制談合システムの存在を知りつつ放置しただけでなく、このシステムを自分達の再就職に、あるいは政治家へのゴマスリに活用し続けてきた防衛庁キャリアもまた、誰一人責任をとっていません。逮捕・起訴されたのは、末端の役人だけです。
 防衛施設庁官制談合事件に関し、今年、コラムで何度も政治家と防衛庁キャリアの責任を追及してきましたが、我が身の非力をかこつ年の瀬です。

太田述正コラム#13002006.6.16

<施設庁談合事件はどうなった?(番外編)(その3)>

社会保険庁不祥事についても、疑い出すときりがありません。

(株)ネットラーニング設立、代表取締役社長の岸田徹氏(http://www.yukan-fuji.com/bn/archives/2004/07/post_61.html。6月15日アクセス)が、私がざっと見たところ、ネットの世界では最も的確に直近の社会保険庁不祥事についての論考をものされている(http://kishida.biz/column/2006/20060530.html。6月15日アクセス)ので、まずはその論考の概要をご紹介しましょう。

一、タイトル:はめられた村瀬<清司社会保険庁>長官

二、社会保険庁が年金保険料の免除申請を勝手にやった「不祥事」は、そのための事務コストが我々の納めた社会保険料や税金から賄われたことと、それを行った公務員が文書偽造罪に問われるということだけの問題であって、基本的に国民に不利益を蒙らせたわけではない。(保険料が免除された人にとっても、受け取る年金が三分の一になってしまうものの、受け取る年金がゼロになるところを救われた、と見ることもできる。)

三、たったそれだけの話が、社会保険庁解体論に発展し、村瀬長官の辞任論に至ってしまっているのは異常だ。

四、村瀬氏が20047月に民間から長官に就任した理由は、当時グリーンピアなどの年金財源の無駄遣いや国会議員の年金未納問題などが騒がれ、国民年金の納付率も下がりっぱなしであったところ、民間から社会保険庁に活力を与えるためだった。

五、厚生労働省が、当時損害保険協会の会長だった損保ジャパン(旧・安田火災)の平野社長に長官の務まる人材を紹介してくれと依頼し、損保ジャパン内で人選を行った結果、代表取締役副社長だった村瀬氏(旧・安田火災海上保険出身。http://www.sankei.co.jp/life/kaeyo/050414_001.htm。6月15日アクセス)が行くことになった。

六、年金保険料の納付率が一挙に10%近く下がったのは2002年だが、それは、保険料の徴収をそれまで地方の自治体が行なっていたのを社会保険庁が行うようになったためだ。理由は、小泉「改革」の一環として、地方の自立を中央が要請したものだから、今まで中央の仕事を地方に委任していたものを引上げなくてはならなくなり、市区町村の方が地方税の納付状況を把握しているので徴収事務は地方に残した方がよかったのに、国民年金の徴収事務も引き揚げてしまったことによる。そこで、200410月に国民年金法が改正され、社会保険事務所が市町村から住民の所得情報の提供を求めることができるようになった。各地の社会保険事務所で不正免除を行なうようになったのはこの時からだ。

七、この「不祥事」を朝日新聞社(週刊朝日と朝日新聞)が知るところとなったが、5月23日に記事になる前に、大阪・長崎・東京等の社会保険事務局が公表した。

八、これは、この頃までに「不祥事」を把握しつつあった社会保険庁中央、すなわち厚生労働省キャリア官僚達が、村瀬長官を蚊帳の外に置いたまま、朝日新聞社にこの「不祥事」をリークするとともに、上記社会保険事務局を指導し、記事になる前にこの公表を行わせたと考えるべきではないか。

5月23日は、過度なノルマの行き過ぎたセールス体制の下、お客が支払うべき保険料を社員が立て替えて保険契約を結んだとして近々損保ジャパンに厳しい業務停止命令が金融庁から出ることになっているという記事が夕刊(日経)に出た日でもある。厚生労働省キャリア官僚達は、このタイミングに合わせて「不祥事」をプレイアップすることによって、損保ジャパン出身の村瀬長官が同社の「過度なノルマの行き過ぎたセールス体制」を社会保険庁に持ち込んだことがこの「不祥事」の原因であるという印象を醸成し、村瀬長官を辞任に追い込むとともに、今国会に上程されていたところの、社会保険庁の解体につながるとされる社会保険庁改革関連法案の成立阻止を図った、と考えられる。

九、このところ金融庁は、業界トップを狙うために過度なノルマの行き過ぎたセールス体制をとったという点で共通する、アイフル、明治安田生命、三井住友銀行、そして損保ジャパンに立て続けに厳しい処分を行ってきた。しかし、本来、行き過ぎたセールス体制かどうかを判断し是正するのが役人であってはならない。行き過ぎかどうかは、顧客や社内の役職員、あるいは「被害」を報道するマスコミやその報道に接した市民が判断することであり、行き過ぎたセールスが市場で認められなければ、悪評が立ち顧客や株主も去っていくというルールが民主主義経済の基本のはずだ。

 これは素晴らしい論考であり、私も全くそのとおりだと思います。

 この(東大)経済学部出の岸田氏(夕刊フジ前掲)の論考に、私の役人時代の知識経験を踏まえたスパイスをほんのちょっときかせてみましょう。

五について:損保業界は、旧大蔵省(現金融庁)の所管であり、財務省から出向している総理秘書官・・厚生労働省は秘書官を出していない・・を通じて、小泉首相に損保業界から社会保険庁長官を起用すべきことを吹き込んだ上で、損保ジャパンに村瀬氏を差し出すように「指示」したと考えるのが自然です。また、村瀬氏は、社会保険庁長官就任にあたって、旧大蔵省関係者に「指示」を仰いだはずであり、その際、(将来の一般会計歳出からの補填を回避するため)納付率アップを「指示」された可能性があります。

六について:住民の所得情報の基本は住民税納付情報であり、その典拠は国の所得税納付情報です。財務省主税局(ないし国税庁)は住民の所得情報を社会保険事務所がどのように「活用」しているかに関心を持ってフォローし、村瀬氏に対する上記納付率アップ「指示」を行った経緯もあることから、早い時点で「不祥事」に気付いていた可能性があります。

七について:旧大蔵省勢力は日本経済新聞と経済記事に関して強い競争関係にある朝日新聞に対し、政府関係経済情報の最有力ソースとしての優越的地位を背景に、「不祥事」情報をリークした上で、記事にすることと、そのタイミングを「指示」した可能性があります。

 そのねらいは、社会保険庁の徹底的な権威失墜(三参照)であり、解体した上での社会保険庁の国税庁への吸収、すなわち歳入庁への改組でしょう(注3)。

 (注3)社会保険庁の最高顧問(無給)をしている堀田力氏(元法務省官房長・元東京地裁特捜部検事)も歳入庁論者だ(http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/hotta.cfm。6月15日アクセス)

八について:旧大蔵省勢力が、財務省の予算査定権を背景に、民間人長官の「押しつけ」に反発し、社会保険庁解体に怯える厚生労働省(特に旧厚生省)のキャリア官僚達に対し、目先のニンジンをぶらさげて振り付けをすることはいとも簡単なことだったでしょう。

九について:金融庁は、旧大蔵省勢力の一環として、規制・準司法的権限を駆使することによって、旧大蔵省時代の裁量行政の復活と金融庁の肥大化を図っている、と考えられます。前にも申し上げたように、その先には、財務省と金融庁(と歳入庁!)の合併によるスーパー大蔵省の復活と大増税が待っている(?)のです。

 いささか先を急ぎすぎましたが、四でも言及されているように、社会保険庁に関しては、現在議論の的になっている「不祥事」以外にも、これまで次々に不祥事が明るみ出てきたことはご記憶のことと思います。

 これらの不祥事についても、旧大蔵省勢力の陰謀を疑えば、疑えます。

(続く)

太田述正コラム#12992006.6.16

<施設庁談合事件はどうなった?(番外編)(その2)>

2 またも旧大蔵省の陰謀か

 村上ファンド(MF)問題は、このところ、福井俊彦日銀総裁「不祥事」問題へと変容した観があります。

 福井総裁がMF1999年秋、個人として1,000万円を拠出し、2003年に日銀総裁に就任した後も持ち続けていたことを13日に明らかにしたところ、ただちに総裁の道義的責任を問われた小泉純一郎首相は「正規の投資なら問題ない」と答え、与謝野馨金融・経済財政担当相は「総裁就任前に民間人として拠出したものであり、それ自体に問題はない。不適切との根拠は見出せない」との認識を示した(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060613k0000e020063000c.html(6月13日アクセス)、http://www.tokyo-np.co.jp/00/kei/20060614/mng_____kei_____001.shtml(6月14日アクセス)及び)というのに、翌14日には、全国地方銀行協会(地銀協)の瀬谷俊雄会長(福島市に本店がある東邦銀行の頭取。瀬谷氏は旧第一銀行(現みずほ銀行)出身)が、記者会見の中で、「問題あり」とよどみなく答えた(14日の民放TVニュース。チャンネルを思い出せない)ことにはびっくりしました。

 市中銀行の頭取が銀行の元締めとも言うべき日銀批判にわたるような発言を行ったことは事件だからです。

 しかし、地銀協の会長は、瀬谷氏の前任者までの28年間にわたって、旧大蔵省の事務次官やそれに準じるクラスから地方銀行に天下った頭取の指定席であったこと、かつ、市中銀行にとっては旧大蔵省は日銀以上に畏怖すべき存在であることを考えると、瀬谷氏には大変失礼ながら、氏の発言の背後に旧大蔵省勢力の「指示」があった可能性がある、という気がしてきました。

 (以上、地銀協や瀬谷氏についてはhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E9%8A%80%E5%8D%94(6月15日アクセス)によった。)

 その後、14日に谷垣財務相が、「法律に違反している訳ではないと思うが、金融というのは信頼が秩序の核にある。瓜田に履・・を納・・れず、李下に冠を正さずと言う。よく注意してもらいたい」福井総裁批判を行ったこと(http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20060614ib23.htm。6月15日アクセス)を知り、私の以上の解釈は確信に近いものに変わりました。

 慎重な谷垣氏が、いくらポスト小泉に色気を見せており、その存在感をアピールする必要があるとはいえ、野党が福井氏の辞職を求めている(http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20060614k0000m010167000c.html。6月14日アクセス)中でこんなアブナイ発言をするというのは、部下の財務官僚達からの強い要請があったからに違いない、と思ったからです。(与謝野氏には所管している金融庁の官僚達が要請をしなかったか、要請をしたけれど従わなかった、ということになりそうです。)

 では、旧大蔵省勢力のねらいは何か?

 言わずと知れたことですが、速見優・福井俊彦と二代にわたって日銀総裁の座を日銀出身者に占められている現状を打破し、財務省/金融庁出身者を総裁につけ、それを契機に、かつての日銀・大蔵出身者が交互に日銀総裁につく慣例を復活させようというのでしょう(注2)。

 (注2)ただし、私は福井総裁の弁護をするつもりはない。「超低金利で国民の利息収入を犠牲にした量的緩和策やゼロ金利政策を続ける一方で、ファンドへの投資で利益を上げたことに「庶民感覚と違う」・・という声や、「2月の解約申し入れはライブドアショックの直後。量的緩和策解除の直前に売り抜けようとしたという誤解を招きかねないと・・の・・指摘」(http://www.sankei.co.jp/news/060615/kei011.htm。6月15日アクセス。奇妙なことに、午前にはあったこのくだりが、1800現在、この電子版記事から消えてしまっている)は正しい。

 いくら何でも、そもそもMFの摘発が、福井総裁の失脚をねらったものであった、とまでは思いたくありませんが、こんなことばかり考えていると、気が滅入りそうになります。

 しかし、気持ちを奮い立たせて、もう少し、追及を進めることにしましょう。

(続く)

太田述正コラム#12912006.6.12

<施設庁談合事件はどうなった?(番外編)(その1)>

 (06/05/11 11:08:23 - 06/06/10 23:59:59の太田HPへの訪問者数は、30,976人でした。先月の31,739人(06/04/10 11:05:48 - 06/05/11 11:07:54過去最高)を若干下回りましたが、ほぼ同じ水準を維持したと言えそうです。(HPへの累計訪問者数は、714,970人です。)他方、太田ブログ(http://ohtan.txt-nifty.com/column/)への月間アクセス数は、萬晩報効果があった3ヶ月前の月の約9,500、そして先月の9,245を超えて、9,869(ただし、06/05/11 00:00:00??06/06/10 24:00:00)と新記録を達成しました。この訪問者数とアクセス数の単純合計で比較すると40,845人となり、過去最高であった先月の40,984人並の水準を維持しました。なお、メーリングリスト登録者数は1364名と、先月から3名減少しましたが、2ヶ月ぶりに幽霊メルアド(7名分)の削除を行っているので、現状維持と見てよいと思います。)

1 村上ファンド事件の補足

 村上ファンド(MF)事件に関して私が行った種々の指摘は、その正しさが一層裏付けられつつある観があります。

 村上が猿回しでライブドアの堀江以下は猿に他ならなかった、という指摘(コラム#1277)を裏付ける記事が次々に出てきています。(例えば、http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060607k0000m040147000c.html(6月7日アクセス)やhttp://www.sankei.co.jp/news/060610/sha028.htm(6月10日アクセス))

 また村上が、秋田男児殺害事件の容疑者並に往生際が悪いとの指摘(コラム#1278)についても、彼が逮捕直前の5日の記者会見の時に話したことを、それほど日が経たないうちに、いとも簡単に翻してしまったことで、よりはっきりしました。

というのも、一つには、ニッポン放送株の買い付けについて「フジテレビ、ニッポン放送の資本政策をいかにしたら直せるか一生懸命やっていた」などと記者会見で弁明していたけれど、一週間も経たないうちに、東京地検特捜部の調べに対し、インサイダー取引で買い付けたニッポン放送株について「利益を優先した」などと、高値売り抜けが目的だったことを認める供述をした(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060611k0000m040104000c.html。6月11日アクセス)といいますし、二つには、上記記者会見で「今日をもってこの<ファンドマネジャーの>世界から身を引く」と大見えを切ってからわずか2日後の7日に、東京拘置所に接見に訪れた弁護士にMFの投資銘柄の前日終値を質問した上で、翌日、株価をまとめた表を接見室の窓越しに示させ、銘柄を指定して売買方針を伝えたhttp://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20060611AT1G0905210062006.html。6月11日アクセス)というからです。

 こんな村上の人間性を見ていると、安月給の官僚になったのは不可解だ、と以前(コラム#1280で)申し上げたのも、まだ彼を買いかぶっていたのかもしれません。どうやら、幼少の頃からの株の相場師が、業界情報(インサイダー情報)を求めて旧通産省に入ったというだけのことだったようです(注1)。

 (注1)だから村上は、規制緩和が進む中で権限が縮小してゆく通産省に見切りを付けて退官した(http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060610/eve_____sya_____002.shtml。6月11日アクセス)のではなく、通産省でインサイダー情報を十二分に得、仕手筋としてやっていける自信がついたので退官した、ということだろう。

 しかも、その彼のMFが投資した、というより仕手戦をしかけた企業の業績は、ほとんど結果的には悪化している(http://www.asahi.com/business/update/0606/155.html。6月8日アクセス)といいいます。

それにもかかわらず、なお、一般のサラリーマンは村上に肯定的な見方をしている(http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20060607AT1D0607P06062006.html。6月7日アクセス)というのですから、困ったものです。

大企業経営者は村上に対して否定的な見方をしています(http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060607AT1D0606K06062006.html。6月7日アクセス)が、このように村上が大企業経営者達の「敵」であったからこそ、一般のサラリーマンは村上贔屓になるのかもしれませんね。

(続く)

太田述正コラム#12872006.6.10

<施設庁談合事件はどうなった?(その3)>

 (本シリーズの「その2」(コラム#1285に若干手を入れてブログとHPの再掲載してあります。)

 そうです。財務省/金融庁が、最高検察庁に対し、LD/MFの捜査に全面協力するので、施設庁談合事件の捜査を官僚一般や政治家に波及させないでくれと密かに申し入れ、検察側がこれを飲んだ可能性がある、・・それは官僚機構の走狗にして、自民党の権力維持に狂奔する小泉政権及び小泉後継政権に二重三重に貸しをつくって、財務省/金融庁の権力の回復・増大を図るためだ、・・と私は考えているのです。

 それこそ妄想だ、とおっしゃるのですか?

 しかし、考えてもみてください。

 そもそも、施設庁談合事件に至る一連の官製談合事件の摘発もまた、検察のイニシアティブというよりは、変身した公正取引委員会(公取)・・独禁法の番人・・の「熱意」が検察を動かした、というのが実態に近いことを(典拠省略)。

 では、誰が公取を変身させたのでしょうか。

 それは、2002年に小泉政権によって公取委員長に任命された、旧大蔵省出身(元国税庁長官)の竹島一彦です。

 竹島は、前職の内閣官房副長官補時代に、小泉首相のブレーンとして、診療報酬の引き下げと患者の負担増を柱とする医療改革・・小泉「改革」の第1幕・・を実現した立役者です。

 (以上、AERA2006.6.12 31??34頁による。)

 いかがですか?

 このところの華々しい検察の大活躍は、ことごとく旧大蔵省勢力の手のひらの上での踊りに他ならなかったことがお分かりでしょう。

 財務省/金融庁と検察との取引説は、かなり説得力があると思いませんか?(注3

(注3)前回引用した東京新聞の記事は、「検察内部には米軍再編問題や防衛庁の省昇格見送りを受け、捜査のこれ以上の長期化に難色を示す向きもある」と検察自身の見解らしきものを紹介しているが、苦しい言い訳にしか聞こえない。

 なげかわしいのは、マスコミの大勢がこの取引に加わっているかのように見えることです。

 実際、私の気がついた限りでは、5月以降、施設庁談合事件が官僚一般や政治家にまで波及しない不可思議さに触れた記事を載せたのは東京新聞だけです。

それどころか、本来マスコミが取り上げない問題を拾い上げるべきネットの世界も、この問題についてはほぼ沈黙しています(注4)。

(注4)これまで気づいた例外は、http://blog.mag2.com/m/log/0000017208/107303978?page=1#107303978(5月29日アクセス)くらいだ。

 私は、たとえ一人になっても、マスコミの改心に一縷の希望をつなぎつつ、この問題での戦いを続けようと思っています。

 ご支援ご声援をたまわれば幸いです。

(とりあえず、完)

太田述正コラム#12852006.6.9

<施設庁談合事件はどうなった?(その2)>

 (本篇はコラム#1264の続きです。)

 

 (1)疑問

 それにしても、検察は施設本庁の捜索で、山のような、しかもその大部分が違法な政治家の口利き情報を入手しながら(http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060530/mng_____sya_____014.shtml。5月30日アクセス)、その後全く捜査をしていないように見えるのはなぜなのでしょうか。

 また、施設庁建設部の官製談合システムを、防衛庁全体の幹部OB天下りシステムの一環として管理し、内局キャリアもこの官製談合システムに載せて天下りをさせてきた内局に捜査の手が及ばないのはどうしてなのでしょうか。はたまた、これを突破口にして、防衛装備品等の調達の見返りに内局や自衛官の幹部の天下りをさせる、という防衛庁の天下りシステムの奥の院にメスを入れようとしないのはなぜなのでしょうか。

 更に、このような観点から捜査をして行けば、政治家と全官庁との癒着や全官庁の天下りシステムが炙り出されてくる可能性すらあるというのに、検察はどうして動かないのでしょうか。

 検察はライブドア(LD)や村上ファンド(MF)の捜査で手一杯だから、というのは説明にはなりません。LDMFの事件は、合わせて一本であり(典拠省略)、特捜部の同じ班が担当していて、施設庁談合事件は別の班が担当しているからです(検察事情に詳しい知人の言による)。

 検事そのものは、退職しても弁護士になれるけれど、法務省全体としては矯正職員等の再就職問題を抱えているので、全官庁の天下りシステムの維持が困難になりかねない捜査・立件は回避した、というのがもう一つの可能性です。

 いずれにせよ、これまで田中元総理等の大物政治家の摘発を断行してきた検察が、政治家の摘発に躊躇するはずがない、と思いたいところです。いくら何でも摘発される政治家の数が多すぎ、自民党政権の崩壊につながることを懼れた?そんなことで捜査を中止したとすれば、内部告発者が出るのは必定でしょう。

 可能性としてはもう一つあります。

 検察が取引に応じざるをえなかった、という可能性です。

 (2)財務省/金融庁と検察とが取引?

LD/MF事件の捜査には金融や財務に関する高度に専門的な知識及び関連情報を必要とすることから、証券監視委員会や金融庁本体の協力が欠かせないところであり、捜査は証券監視委員会と特捜部が合同で行っています(http://www.sankei.co.jp/news/060605/sha088.htm。6月6日アクセス)。

 証券監視委員会を含む金融庁は、官庁の中の官庁と謳われた旧大蔵省の銀行局と証券局が、大蔵省不祥事等の結果、分離させられたものであり、旧大蔵官僚は、財務省と金融庁の再統合を悲願としています(典拠省略)(注1)。

(注1)そもそも、財務省と金融庁の分離は不徹底であり、地方支分部局たる財務局は、現在でも財務省と金融庁の合同地方支分部局だ。

 財務省/金融庁は、小泉政権を支え、小泉「改革」・・実態は米国の内政干渉の丸呑み(コラム#827)・・を演出し、公共事業や郵政事業を食い物にしてきた経世会つぶしに加担することで、森派を中心とする自民党の現主流派に貸しをつくるとともに、巧妙に財務省/金融庁の権限と天下り先の回復・拡大に努め、そのおこぼれを他官庁に与えることで、他官庁に対する支配力の回復・拡大にも努めてきました。その究極のねらいは財務省と金融庁の再統合であり、財政再建(緊縮財政・大増税)の実現です注2)。

 (注2)私は、かねがね、小泉政権は、日本最大の権益擁護集団に堕してしまった官僚機構の走狗である、と指摘してきた(例えば、コラム#846)。その官僚機構の盟主は旧大蔵省=現財務省/金融庁なのであるから、小泉政権は、旧大蔵省の走狗であると言っても良い。エコノミストの紺谷典子が、かねてからかかる主張を行ってきている(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik/2002-01-26/08_0301.html。6月9日アクセス)。最近、ひょんなことで、あのエコノミストの植草一秀も同じ考えであることを知った(植草「ウエクサ・レポート」市井文学200512月 463??465頁)。

 ここまでくれば、私が何を言いたいかお分かりでしょう。

(続く)

太田述正コラム#12642006.5.29

<施設庁談合事件はどうなった?(その1)>

1 始めに

 組織的に公共工事の違法な受注配分を続けてきた防衛施設庁の官製談合事件<で>東京地検特捜部に起訴された元施設庁幹部の三被告に<関>し、・・官製談合・・は・・約三十年前から・・組織的に行われた・・<ものであり、しかも>時効のために本来処分されるべき人物が責任をまぬがれ<ている。>・・三人だけにその責任を帰していいのか・・<と>同庁OBらが中心となって・・東京地裁に提出する<予定の>・・「寛大な処置」を希望する・・嘆願書の署名集めが行われている」のだそうです(http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060529/eve_____sya_____000.shtml。5月29日アクセス)。

 私も賛成です。

 また、施設庁では、「来週中にも内部調査の結果を最終報告としてまとめ、談合・・<や>証拠隠滅・・に関与した職員らを停職、減給などの懲戒処分とする方針を固めた」のだそうです。

 やむをえないでしょう。

 しかし、ちょっと変ですね。

 施設庁談合に関与していた防衛本庁(内局)の責任と政治家の責任はどこに行ったのでしょうか。

 また、今回は取り上げませんが、防衛本庁(内局)が直接行ってきた、防衛産業への内局や自衛官の幹部OBの押し込みとその見返りとしての高い買い物の問題はどこに行ったのでしょうか。こちらにもむろん、政治家が関与しているのですがね・・。

2 談合はようやく根絶やしにされようとしている

国土交通省が、これまで談合の温床となってきた指名競争入札を来年度に廃止し、一般競争入札を原則とする方針を打ち出したという記事(http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060406AT3S0501505042006.html。4月6日アクセス)が先月出ました。これに全省庁や全自治体が右へ倣えすることは必至でしょう。

しかも、談合はますます厳しく罰せられるようになってきています。

今年1月に施行された改正独占禁止法で、談合の事実を公取委に「自首」すれば、課徴金が減免される制度が導入されたほか、公取委に強制調査権限が与えられ、裁判所の令状に基づく捜索・差し押さえが出来るようになり、更に、これまで東京高検に限られていた独禁法違反での起訴が、全国の地検でも可能になりました。

司法当局による談合罪の摘発は個人が対象になるだけですが、公取委による独禁法違反の摘発(ただし、公取委の告発を受けて起訴するのは検察)は企業が対象であり、談合常習犯だった建築土木等の業界も震え上がり、意識を切り替えつつあるようです。

(以上、http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060528ig91.htm(5月29日アクセス)による。)

上記元施設庁幹部たる三被告のうちの一人である河野・前施設庁技術審議官は、4月26日付で懲戒免職処分を受け、退職金がない生活の中で、住宅ローンの返済をしながら、ハローワークで仕事探しをする毎日を送っているとのことですが、「不正な受注調整の・・仕事<は>・・できればやりたくなかった・・ここで一気に切れたことは良かったと思う」と語っています(http://www.asahi.com/national/update/0528/TKY200605270325.html。5月28日アクセス)。

 河野さん達の犠牲のおかげで、施設庁のみならず全省庁の官製談合が根絶やしにされようとしており、更には日本の談合全体が根絶やしにされる可能性まで出てきたのですから、もって瞑すべきでしょう。

3 内局と政治家の責任はどうした

太田述正コラム#11192006.3.12

<防衛施設庁談合事件等に思うこと(続x3)>

1 始めに

 このところ、ようやく防衛施設庁官製談合事件の成り行きが、私の思惑(注1)通りの進展を見せていることをうかがわせる記事が散見されるようになったので、この際、ご紹介しておきましょう。

 (注1)私の思惑とは、施設庁官製談合システムが、建設・土木業界で普遍的に行われている民民談合システムに寄生していること、防衛庁ぐるみの天下りシステムの一環として行われていること、全中央官庁が官製談合システムを含む天下りシステムを持っていること、国会議員が施設庁官製談合システム(ひいては全中央官庁の天下りシステム)に寄生していること、の4点が明らかになり、これらにメスが入れられることだ。(2(1)に掲げた、本件に係るこれまでの私のコラム参照。)

2 記事と私のコメント

 (1)取材攻勢

本件については、これまでコラム10652006.1.30付)、#10672.15に萬晩報転載)、10701071107610772.11付。2.16に萬晩報転載)と書きつづってきましたが、この間、2月6日から23日にかけて、新聞・TV・通信社・週刊誌にわたるマスコミ7社から取材を受けました(注2)。

(注2)このうち、私のコラムの読者である防衛庁関係者から私を紹介されたのが4社、萬晩報を見たのが1社、インターネット上の検索で私のコラムを発見したのが2社だ。私のコラムの読者にマスコミ関係者は何名もいるが、彼らは自社の同僚等には情報を教えないとみえる。いずれにせよ、インターネット上の情報を、今でもマスコミ関係者が余り活用していないことが分かる。

http://money4.2ch.net/test/read.cgi/seiji/1128414022/l50。3月9日アクセス)

きちんとフォローしているわけではないけれど、私から取材したことは、これまでのところ直接紙面等に反映されてはいないようです(注3)。

(注3)施設庁談合事件ではなく、海上自衛隊秘密漏洩事件で取材を受けた別の1社は記事にしてくれているのだが・・。「元防衛庁審議官の太田述正氏は「1998年ごろ、行政系システムの議論をしていた際、 行政系でさえウィンドウズではダメだという意見はあった。 同盟国でさえ互いにスパイしあう世界の現状からすれば、米国製OSを使うのは危険という正論だ」と振り返る。」(東京新聞2006227日朝刊22面)

 しかし、そんなことはともかく、下掲の各種報道から見て、事件の成り行きが私の思惑どおりの方向に進展している様子であることは心強い限りです。

 (2)民民談合の普遍性

産経新聞が、「防衛施設庁東京防衛施設局が14日に予定している陸上自衛隊松本訓練場(長野県)土木改修工事の入札について「建設会社に天下った東京防衛施設局のOBらが、落札予定企業を決めている」との談合情報が・・東京防衛施設局や共同通信に寄せられた・・通報者は・・共同通信社に・・「OBが『今回はこの企業をチャンピオン(落札予定企業)にしましょう』と話し、9日に決まった。8000万円くらいの工事だ。事件があるのに信じられない」と話した。通報者は落札予定企業名も明かした。」と報じました(http://www.sankei.co.jp/news/060311/sha001.htm。3月11日アクセス)。

この通報が事実だとすると、いくら何でもこんな状況なのですから、施設庁OBが「官」として動けるわけがない以上、この報道は、民民談合情報であり、民民談合がちょっとやそっとでは根絶できないことを示しています。その一方でこの報道は、民民談合への批判が関係者の間でも強まっていることも示しています。

 (3)防衛庁ぐるみ(内局の関与)

内局の関与については、朝日新聞が先鞭を切り、「施設庁次長や防衛庁契約本部長など幹部職で退職した元<内局>キャリア職員」が内局秘書課が、施設庁建設部建設企画課を通じて斡旋する形で、土木・建築会社に天下ったり、公益法人と兼務したりしている、と報じました(http://www.asahi.com/national/update/0307/TKY200603060341.html。3月7日アクセス)。

次いで東京新聞が、元施設庁幹部が、「防衛庁の内局から<官製談合で一旦決定した>受注配分を変えるように要請を受けたことがある」と語ったという検察情報と、別の元施設庁幹部が、「技術審議官のもとには政治家や政治家秘書、防衛庁内局などから特定の業者を推薦するような話があり、施設庁側に持ち込んでいた」と語ったとする独自取材情報を報じました(「http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060311/mng_____sya_____008.shtml。3月11日アクセス」。

私の呼びかけに答えてくれたわけでもないでしょうが、施設庁のOB達((4)も参照)がようやく重い口を開きつつあるようです。

 (4)全中央官庁ぐるみ(会計検査院も)

毎日新聞は、本来談合に目を光らせなければならない会計検査院が、そのOBを施設庁に頼んで土木・建築会社に天下りさせていると、以下のように報じました。

<取調中の>元技術審議官、生沢(いけざわ)守容疑者57が・・会計検査院の課長の天下り先をあっせんしていたことが分かった。当時<の>検査院の人事課長・・の要請を受けたもので、生沢容疑者らが大手総合建設会社(ゼネコン)の子会社に受け入れを要請し、実現させたという。施設庁関係者は「検査の懐柔が狙いだった」と証言して<いる。>」(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060312k0000m040140000c.html。3月12日アクセス)

981015日の衆院決算行政監視委員会。旧防衛庁調達実施本部(調本)を巡る背任・汚職事件を受け、会計検査院の疋田周朗院長(当時)が答弁に立った。逮捕・起訴された上野憲一被告(66)が、検査院OBらの再就職を防衛関連企業にあっせんし、検査院側が旧調本の不正経理を把握しながら報告書に盛り込まなかった点を「なれ合い」と批判されたことを受け「批判を真摯(しんし)に受け止める。今後、公正性に疑念を持たれないように努めたい」と語った。 ところが、検査院は姿勢を変えていなかった。ある省庁の元首脳は「その後、検査院から『天下り先が見つからない』と相談を受け、公益法人への再就職をあっせんした」と証言。今回表面化した施設庁を使った天下りも、国会答弁から約4年後のことだった。」http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20060312k0000m040141000c.html。3月12日アクセス)

 (5)国会議員の寄生

 ついに、本丸にとりついた感があるのが、東京新聞の下掲の報道です。

 「防衛施設庁の土木・建築工事をめぐる官製談合事件で、入札指名や施設庁担当者との面会など、建設業者からの要望を伝える国会議員の陳情メモが、施設庁建設部に大量に保管されていたことが明らかになった。陳情には施設庁幹部の特定企業への天下りを求めるものも多数あったという。施設庁では以前から天下りの受け入れ実績を基に違法な受注配分が行われており、東京地検特捜部は、議員側がそうした事情を知りながら陳情した可能性もあるとみて、詳しく調べているもようだ。・・関係者によると、業者の要望を伝える議員側からの陳情には、入札の指名に入りたいとする内容や施設庁幹部との面会申し込み、天下りの受け入れ希望が多数あったとされる。メモには陳情の日時、議員や秘書の名前と業者名、要望内容などが記され、建設部で大量に保管していた。面会には議員秘書が同行することもあり、メモには業者と秘書の名刺のコピーが添付されたものもあるという。関係者は「施設庁の幹部には国会議員の紹介がないとなかなか面会できない。天下りOBが有用なのは施設庁に先輩として出入りできるからだ」と証言している。一方、議員の陳情は施設庁に直接行われるだけでなく、防衛庁内局が取り次いで施設庁に伝えるケースもあったという。・・このため特捜部では、議員側の陳情に配分結果の変更を求めるものがなかったかどうかについても、慎重に調べを進めるものとみられる。」(http://www.tokyo-np.co.jp/00/sei/20060312/mng_____sei_____001.shtml。3月12日アクセス)

 この話が大化けすれば、自民党政権がこの夏までに倒れる可能性も絶無ではない、と私は密かに思っているのですが、どうでしょうか。

(続く)

太田述正コラム#10772006.2.11

<防衛施設庁談合事件等に思うこと(続々)(その2)>

 政策官庁がやっていることは、これまた単純化すれば、企業や個人の活動の規制や助長です。

 規制手段としては、罰則を伴う法律の策定がありますし、助長手段としては、減税や補助金の交付があるほか、この両者の組み合わせもありえます。

 政策官庁の「OB」は、知識と経験を本当に買われて天下りをするケースが、官需官庁、就中防衛庁に比べれば若干はあります。政策官庁の大部分は経済官庁ですが、日本は吉田ドクトリンの下、安全保障は蔑ろにしてきたけれど、経済は最優先してきたお国柄だからです。

 とはいえ、政策官庁の大部分の「OB」もまた、仕事をすることを期待されない形で企業に天下っているのです。どこが官需官庁と違うかと言えば、天下った「OB」に企業(業界団体を含む)が支払う年俸に対して当該企業が官庁側から受け取る対価が、計算式では表しにくいので、はたから見えにくいという点です。

 もとより、補助金が交付されている企業に天下るような場合は別です。

しかし、個人に補助金が交付される場合は、そのことで裨益する企業(例えば、個人が太陽電池を設置する場合、補助金が出るが、太陽電池をつくっている会社はそれによって裨益している)に天下りをすれば、対価関係はぼやけます。

 だから、政策官庁では、あまり天下りがらみの不祥事が露見しないのです(注4)。

 (注4)キャリア出身の大学教授をしばしば目にするが、若くして転身した場合はともかくとして、「OB」の場合は、官庁と大学との癒着関係の下での天下りが大部分だ。国公立大学は、(独立行政法人になった現在でも)、大部分が直接間接国費でまかなわれているし、私立大学も、国からの補助金なくしてはやっていけない。だから、財務省(旧大蔵省)や総務庁(旧自治省)のキャリアは容易に天下りできる。それ以外の政策官庁の場合も、審議会が沢山あり、その委員に大学の教授を任命することで、大学に貸しをつくり、天下りの資とすることができる。なぜ貸しになるかと言うと、委員になれば、その教授も教授の属する大学も共に箔が付くからだ。(教授については、将来、叙勲の等級が上がる、というメリットもある。)

ちなみに、ご存じの方もおられると思うが、中央官庁で課長以上の経歴のある者は、著書や論文が一つもなくても、日本の大学の教官になれることになっている。

3 防衛施設庁談合事件への取り組み

 このように、天下りシステムは全省庁共通であり、しかも前にも申し上げたようにこれに、自民党がからんでいるわけです。とは言え、これらの問題を一挙に是正するのは、政権交代でもなければ不可能です。

 しかし、防衛庁限りでできることがいくらでもあります。

 第一に、自民党が防衛庁の利権に寄生している構図を建設部事件を手がかりとして、白日の下に晒すことです(注5)。

(注5)そうそう。コラム#1067に誤りがあったので、忘れないうちに訂正しておく。

「民民談合の中で、仕切り役による官需割り当てに不満があり、受注を増やしたいのだけれど、役所のOBを(更に?)受け入れるつもりのない業者が、政治家に陳情すると、今度はその政治家は役所に対し、この業者の受注を増やすように「陳情」します。役所は、この企業が参加する入札を対象として、単発的に官製談合を行い、この企業に受注させることによって、「陳情」に答えるのです。」(誤)→「民民談合の中で、仕切り役による官需割り当てに不満があり、受注したい(受注を増やしたい)のだけれど、役所のOBを(更に)受け入れるつもりのない業者が、政治家に陳情すると、今度はその政治家は役所に対し、この業者について、入札の際に指名する(指名を増やす)ように「陳情」します。役所は、この企業を特別に指名することによって入札への参加実績をつくり(増やし)、民民談合の中で優先的に将来受注できるように取り計らうことによって、「陳情」に答えるのです。」(正)

「ところで額賀さん。あなたは調達実施本部の事件で防衛庁長官を辞任した後、内閣官房副長官に返り咲いていた時に、現在の河野さんの何代か前の施設庁技術審議官を官邸の副長官室に呼びつけていますね。その時、あなたは随分高圧的に話をされたようですね。同僚の鈴木宗男官房副長官(当時)のマネをされたのかもしれませんが、施設庁の建設部関係者の間で語りぐさになっていますよ。聞くところによると、それは、少なくとも談合防止の話ではなかったらしいじゃないですか。」(誤)→「ところで額賀さん。あなたは調達実施本部の事件で防衛庁長官を辞任した後、内閣官房副長官に返り咲いていた時に随分高圧的な物言いの電話を防衛庁にかけてきたことがありますよね。あわてて、(現在の河野さんの何代か前の)施設庁技術審議官があなたのところにかけつけたのでしたね。聞くところによると、それは、少なくとも談合防止の話ではなかったらしいじゃないですか。」

第二に、防衛庁の天下りシステムの全体像を、建設部事件を手がかりとして白日の下に晒すことです(注6)。

 (6)施設庁建設部の官製談合・天下りシステム(建設部システム)を用いて、建設部出身以外の施設庁「OB」のほか、内局キャリア「OB」も天下っている。このことだけをとっても、防衛庁事務次官・官房長・秘書課長のラインが建設部システムのからくりを熟知していたことは明らかだ。

 第三に、建設部システムに類似するシステムは、官需官庁共通に存在していることを示唆することです

(注7)今回理事長(前技術審議官)が逮捕された防衛施設技術協会の職員には、施設庁OB以外に会計検査院や旧建設省のOBがいる。これは、施設庁が建設部システムを用いて、会計検査院「OB」や建設省「OB」までも天下りさせることで、会計検査院や建設省に恩を売り、その見返りに便宜を図ってもらうという関係があることを推測させる。

 第四に、その上で、防衛庁の天下りシステムを完全に撤廃することです。

具体的には、勧奨退職制度をなくして年金受給開始年齢(65歳)まで全員を防衛庁にとどめることとする一方で、官製談合を止め、民民談合の徹底的な防止策を講じ、かつ官側から企業への天下りの働きかけを一切行わないこととし、「OB」の再就職にあたっては、厳格にその妥当性を審査することとすべきです。

その際、望むらくは、防衛庁職員だけを対象とした恩給制度の復活か、防衛庁職員を特別に優遇した年金制度の導入ですが、それが国民によって認められるかどうかは、第一から第四までの上記課題に防衛庁当局がどれだけ真摯に取り組むかにかかっているのではないでしょうか。

そのためにも、私は、心ある現役の防衛庁キャリア、キャリアたる技官、そして将官及びその「OB」の方々に訴えたいのです。

役所に入った時、任官した時の初心を思い出してください。

そして、一人でも二人でも真実を語ってください。

また、「OB」の方々は、一人でも二人でも天下り先企業から自発的に退職してください。

建設部の現役と「OB」の一部の人だけが厳しく罰せられるのを座視するような臆病者ばかりだとすれば、あなた方が有事の際に命を賭けて国民のために奉仕をし、戦ってくれるなどと誰が信じることでしょうか。

太田述正コラム#10762006.2.10

<防衛施設庁談合事件等に思うこと(続々)(その1)>

1 始めに

 防衛施設庁談合事件のその後の新聞報道等を見ていると、建設部とそのOBの話から余り広がりを見せていない感じがします。このまま、幕引きがなされるようなことは、今度こそないように祈っていますが、検察やメディアの尻をひっぱたく気持ちで、本稿を記しました。

2 天下りシステムは全省庁共通

 (1)始めに

 理念型的に単純化して言えば、中央官庁(関係団体を含む)の業務には、政策立案執行と官需調達とがあります。

 どの官庁でも、この二つの業務をやっていますが、官庁によって、両者のウェートが違います。総務省などの政策官庁は、前者のウェートが高いのに対し、国土交通省などの官需官庁は、後者のウェートが高いことはお分かりいただけると思います。

 どちらにせよ、企業との癒着の下でOBが天下りをしていることは同じです。

 しかし、官需官庁の方がどう考えても、天下りがらみの逮捕者がよく出ることは否めません。

 それはどうしてなのでしょうか。

 (2)官需官庁のケース

 まず、官需官庁について、私が比較的よく知っている防衛庁の例をご説明しましょう。

 防衛庁では、キャリア/準キャリアや自衛官の将官クラスの退職者(「OB」)については、事務次官・官房長・官房秘書課長のラインが、天下りシステム全体の管理・運営を行っているほか、キャリアの天下りについては、個別の天下り人事を行っています。

 キャリアについては、退職後、10年間最終年俸を保証するという時代もあったようですが、現在では最終年俸の8割以下で、期間もはるかに短くなっているようです。

 防衛庁で官需たる大型の装備品(艦艇・航空機等)等は、製造・供給できる企業が限定されるため、基本的に随意契約(随契)で調達されます。

随契にあたっては、積算内訳の中で一般管理費(利益)が計上されます。特定の随契相手企業がこの「利益」が毎年平均してどれくらい帰属するかは、防衛庁側に装備調達長期計画があるので、計算可能です。この計算を踏まえて、防衛庁側は、「OB」を、当該企業とのネゴを経て天下りさせて行くのです(注1)。

 (注1)こんなことは、入庁して数年も経った防衛庁キャリアなら、誰でもうすうす知っている。その頃から私は、絶対に天下りはしない、と心に決めていた。なお、1999年の調達実施本部不祥事以降も、このような天下り実態に全く変化はない。

他方、小物の装備品や建設・土木工事については、入札が行われ、落札企業から調達がなされます。

完全競争入札で調達が行われる場合もありますが、建設・土木工事の場合は、ほとんどにおいて指名競争入札が行われます。

 指名競争入札では、ことごとく建設・土木業界の仕切り役の采配の下、談合が行われています(注2)。

 

 (注2)防衛庁に限らず、あらゆる官需の建設・土木工事の全てについて談合が行われている、と大手建設・土木業界の友人(複数)が、入庁後10年くらい経った頃に教えてくれた。ただしここ数年来、公共事業費の縮小と、談合防止法制の強化によって、談合抜きで指名競争入札が行われるケースが散見されるようになっているようだ。談合が行われる場合とそうでない場合とで、落札価格において20?30%の開きが出るのが通例だ。

 特に、「OB」が天下っている企業に関しては、何年間かを平均して、毎年、その「OB」の年俸額以上の利益が当該企業に帰属するように、官製談合の下で、計画的に当該企業を入札で指名し、落札させていきます。逆に言うと、「OB」を天下りさせる際には、防衛庁側から天下り先企業に帰属利益「計画」を示した上で、その企業と天下り「OB」受け入れ数やその年俸額について「契約」を取り交わすわけです。(注3

 (注3)このカラクリは、さすがに入庁して20年経っても分からなかったが、ある日、建設・土木企業に天下った、準キャリアの知人の「OB」が教えてくれた。それでもまだ半信半疑だったが、仙台の施設局長をやった時に、指名入札の実態を見ていて、ようやく納得した。今回は、こちらの不祥事が浮上したわけだ。

 随契対象企業であれ、指名競争入札対象企業であれ、天下った「OB」は全く仕事はしていません。やることと言えば、時々、防衛庁の本庁や防衛庁の出先(地方の部隊や施設局等の機関)に、(多くの場合天下り先の企業の人と一緒に)顔を出して昔話に花を咲かせるだけです。

 (3)政策官庁のケース

(続く)

太田述正コラム#10712006.2.5

<防衛施設庁談合事件等に思うこと(続)(その3)>

 以上お話ししてきた、戦後日本の閉塞状況に風穴があく気配が見えたのが、1993年8月の細川護煕(1938年?)政権の誕生でした。

 このことを皆さんに感じ取っていただくために、私のただ一回限りの細川首相との「遭遇」についてご披露することにしました。

 1994年3月、防衛大学校(防大)の卒業式の10日ほど前のことです。

 総理秘書官から当時防衛庁の内局で教育課長(防大も所管している)をしていた私に電話がかかってきました。総理が急遽中共を訪問することになったので、総理が防大の卒業式に出席できなくなったというのです。

 防大の卒業式には総理が出席して祝辞を述べるのが恒例になっている(注3)ので、私は驚き、直ちに防大当局にその旨を伝え、協議した結果、総理が祝辞を述べるところをビデオに撮り、卒業式の前日に卒業予定者を一室に集めてこのビデオを見せようということになりました。

 (注3)総理が防大の卒業式に出席しなかったのは、後にも先にもこの一回切りだ。

 そこで、この話を総理秘書官に伝えたところ、総理の快諾が得られました。

 そこで私は、さっそく課員に本屋に行ってもらって、店頭に並んでいた細川氏の著書数冊を買ってきてもらい、それらに目を通し、かつ総理になってからの細川発言にもできる限り目を通した上で、細川氏になったつもりで祝辞の原案を書き上げました。そして一応上司に見せた後、この原案を官邸にFAX送付しました。

 官邸からの返事は、「総理が秘書官に口述筆記させた祝辞案を送る、なお、(官邸に隣接する)総理公邸で後日ビデオ撮りするので、その手配をせよ、また、ビデオ撮りの経費は防衛庁で負担せよ」、というものでした。

 驚いたのは、総理は、原稿を見ずに、ビデオカメラを見つめて祝辞を読みたいので、プロンプター(カメラの前に設置された透明な板に原稿の文章が順次投影される装置)を用意せよ、という総理の意向が示されたことです。米国の大統領のスピーチなどでは使われていると聞いていたけれど、それまでの日本の首相が誰も試みたことのない方式に挑戦しようというのです。

 一体どこに頼めばいいのですか、と総理秘書官に聞いても、初めてのことだから分からない。防衛庁で調べよ、と言われ、あちこち問い合わせて、ようやくつきとめ、ビデオ撮りを担当する会社も確保しました。

 いよいよ口述筆記された祝辞案が送られてきた時、私は仰天しました。

 私のつくった原案の痕跡も残っていないではありませんか。私の努力は何だったのか、とがっくりきました。

 弱ったのは祝辞案の中に、「防大卒業生が社会の各方面で活躍することを期待する」という趣旨の一節が含まれていたことです。

 これでは任官拒否を奨励しているようなものだからです。

 実は私自身は、総理のこの考えに全面的に賛成でした。学生に陰に陽に圧力をかけて自衛官以外の道を選ばせない、というやり方は望ましくない。そもそも防大卒業生の数に比べて自衛官の幹部(将校)定数が少なすぎるということもあり、文武両道を身につけた卒業生が、正々堂々と胸を張って社会の各方面で活躍してくれる方が長い目で見れば防衛庁・自衛隊のためになる、と考えていたのです。そのためにも、防衛医科大学校に倣って、何年間か任官義務を負わせ、「満期」以前に転身を図る者は、防大時代の教育費用の全部または一部を返戻させる制度を導入すべきだ、と思っていました。

 しかし、いかんせん話が唐突すぎました。防大側も強く反発したので、私は総理秘書官に頼み込んで総理を説得してもらい、このくだりを落とす了解をやっとのことで取り付けました。

 こうしてようやく祝辞が確定し、課員の一人がワープロ(当時はまだパソコンではなかった)でプロンプター用のフォーマットでこれをタイプしたのは、ビデオ撮り当日のことでした。ワープロの調子が悪かったため、一時もうダメかと観念しましたが、ぎりぎり所定の時間までにタイプ打ちが完了し、プロンプター担当の会社の人に渡すことができました。

 いよいよ公邸でのビデオ撮りの時がやってきました。

 それまで官邸の中には何度も入っていますが、総理公邸には、内局の予算班長の時に、経理局長の指示で、(当時の大蔵省出身の総理秘書官の目を盗んで)公邸の玄関前で中曽根首相(当時)の私設秘書に極秘資料を届けて以来であり、中にはいるのは初めてでした。

 玄関を入り、ビデオ撮りを行う洋間で待っていると細川首相が入ってきました。私の挨拶が済むと、総理が、ビデオカメラの位置や距離を自分でてきぱきと指示するのにまずびっくりしました。ビデオ撮りが始まってもう一つ驚いたのは、祝辞の中で空白にしておくよう指定されていた箇所にさしかかると、英国の詩人の長文の詩の日本語訳を、あたかもプロンプターに表示されているかのように、よどみなく暗唱し始めたことです。さすが熊本藩の細川家と貴族の近衛家の嫡流はすごい、と思いました。

 いかがですか。

 先例にとらわれない、官僚に依存しない、先見性がある、マスメディアの時代のコミュニケーション術を心得ている、教養がある、恐るべき人物だと思いませんか。

 この細川氏が率いる細川内閣は、何とその翌月の4月には突然終焉を迎え、超短期間の死に体の羽田孜内閣を経て、日本の政治の時計は逆戻りししてしまい、村山富市内閣という異例の形ながら、55年体制が復活し(注4)、現在に至っているのです。

 (注455年体制とは、私に言わせれば、どちらも吉田ドクトリン墨守政党たる自民党と社会党が事実上の連立関係を組んでいた体制を本来は指(拙著「防衛庁再生宣言」日本評論社58頁注25参照)し、1955年から細川内閣成立によって一旦中断したが、村山内閣成立によって、自民党と社会党が形式上も連立関係を組んだ形で復活した、と見ることができる。その後、社会党(社民党)は事実上消滅したが、自民党は、公明党と野合する形で政権にしがみついており、55年体制は依然続いている。

ちなみに、1995年1月の阪神大震災の時の村山内閣の失態は、55年体制の何たるかを如実に物語っている。村山氏が首相を辞任したのは1996年だが、その2年後くらいに、私的勉強会で、村山氏の話を直接うかがう機会があった。阪神大震災の朝、時間をおってどんな情報が自分の所に入ってきたか、そしてご自分がその都度何をされたかについて訥々と語られるのを伺った限りでは、村山氏に全く落ち度はないことははっきりしていた。最大の問題は碌に情報が入っていなかったことだ。私が総理だったら、いや、私が村山首相の秘書官だったら首相に進言し、自衛隊に対し情報収集と救援活動の実施を速やかに命じただろう。自衛隊は空中偵察・機動能力を豊富に持っているだけでなく、障害物を乗り越え、排除しつつ偵察・機動する能力のある日本で唯一の組織だからだ。ところが、当時、村山氏に誰もそんなことは教えなかったし、兵庫県知事も、自衛隊との関係が疎遠であったこともあり自衛隊への出動要請が大幅に遅れてしまった。この時、連立政権の相手方の自民党の総裁であった河野氏が総理であったとしても、防衛庁長官の経験もない彼が、村上氏以上のことができたとは思われない。

(完)

太田述正コラム#10702006.2.4

<防衛施設庁談合事件等に思うこと(続)(その2)>

 官需で入札が行われるものについては、そのほぼすべてで談合が行われています。

 談合当事者の中で、悪びれずにその事実を教えてくれる人は少なくありません。

 彼らに違法性の認識はあるのですが、20kmオーバー前後のスピード違反程度の認識です。(露見すれば、スピード違反より重く処罰される一方で、スピード違反を犯す者はドライバーの一部なのに対し、官需で入札に参加するほぼ全員が談合を犯すのですから、罪責の認識の度合いは同じくらいになるわけです。)

 ところで、談合がなぜ悪いか知っていますか。

 刑法等で談合が処罰の対象だから?

 それじゃあ、刑法等から消せば悪くなくなることになりますよね。

 談合が悪いのは、そうではなく、談合を認めるような制度を設計することは不可能だからです。私は、談合当事者達に、そんなに談合が必要なら、その旨を文書にして世間に訴えればいいじゃないか、といつもけしかけたものですが、そのとたん、彼らは一様に口をつぐんでしまいます。

 仲間内同士で順次国民から超過利潤の形で税金をくすねてそれを山分けするのが談合なのであり、よそ者を排除し、コスト感覚のない、技術革新にも不熱心な企業をつくってしまうような談合という代物について、胸を張って第三者に説明することなどできるわけがないのです。

 談合を禁止している文書たる刑法等と、文書の存在しない(きちんと説明することができない)談合なるものの蔓延という現実とが並存している、タテマエとホンネが完全に乖離した世界が戦後の日本なのです(注1)。

 (注1)日本の官需の対外開放を迫った米国に対し、官製談合の中に米国企業を引き入れることによってお茶を濁した、という笑えぬ話があった(典拠失念)ことがつい最近のように思い出される。

 戦後の日本には、OBの天下りに係る官僚機構と業界との癒着スキームもあり、こちらは全中央官庁(と恐らく全地方官庁)がこのスキームの「メンバー」ですが、更にもう一つ、自民党と(官僚機構を筆頭とする)権益擁護諸団体との癒着スキームもあり、この三つがオーバーラップしていることは既にご説明したとおりです。

 ところで、このようなタテマエとしての制度とホンネたる実態が乖離しているケースは戦後日本では他にも沢山あります(注2)。

(注2)明治期においては、欧米の制度をそのまま日本に移植したものが多く、当然実態と乖離があったのですが、その乖離が次第になくなっていったのに、戦後になって再び乖離が大きくなった、という感がある。これについては、いずれもう少し掘り下げてみたい。

 ここで私が言いたいことは、かかる乖離は、タテマエにホンネを合わせるか、タテマエをホンネに合わせるかしかないのであって、前者と後者のどちらにするかは、ホンネの妥当性をきちんと説明することができるかどうかにかかっている、ということです。

 そのためにも、日本国民の皆さん一人一人が、言挙げすることにお務めになる必要がある、と私はかねがね痛感しています。

 言挙げする、とはきちんとしたディベート(典拠付きの議論)を行う、と言い換えてもいいでしょう。

 幕末の時もそうなのですが、明治維新後の新政府において、後に明治の元勲と言われた人々が、議論を提起する時には、文書をよく用いた、という事実があります(典拠失念)。日本も当時は言挙げする国だったのです。

 今は、グローバル化の時代です。明治当時よりも、一層日本が言挙げする国になる必要がある、と私は思うのです。

 言挙げを回避する人は、私に言わせれば、談合を悪いとは思っていない人です。

4 細川首相の思い出

(続く)

太田述正コラム#10672006.2.1

<防衛施設庁談合事件等に思うこと(続)(その1)>

1 始めに

以前(コラム#1055で)「私のコラムの読者・アクセス数が伸び悩んでいるのは、軍事の重要性とか日本が米国の保護国であるとか、自民党が構造的に腐敗しているとか、気にはなるけど不愉快な話題をよく取り上げているからではないか。」と述べたところですが、もっとはっきり言いましょうか。

私のコラムの読者が自分自身の醜さを直視させられるからです。

しかし、このところ、ブログへの週間アクセス数は、記録更新が二週続き、その勢いはなお止まっていません。急にマゾの人が世の中に増えた、ということなのでしょうか。(その一方、コラムの購読者数は目減り傾向が依然続いています。)

とまれ、今回は、読者の皆さんの「醜さ」にズバリ切り込むことにしました。

2 あなたは昨年の総選挙で自民党や元自民党議員の候補に投票しましたか?

 イエス、と答える人がこのコラムの読者にも多いはずです。(海外にいらっしゃる読者は、日本の特定の選挙区に住んでいたとすれば、誰に投票したか、胸に手をあててお考えください。)

 その皆さんにお聞きするが、防衛施設庁談合事件で逮捕され、恐らく厳しい判決を受けることになる河野さんら3人は、当然の報いを受けた、とお思いですか。

 これにも、イエスと答える人が多そうですが、私に言わせれば、それはおかしい。

 自由民主党は、役所と業者との癒着のスキーム(天下りスキーム)と持ちつ持たれつの関係にあるからです。つまり、自民党をぶっつぶさない限り、このスキームを完全に解消することは困難なのです。

 持ちつ持たれつの関係とはいかなるものか。

 官需の調達に入札がからむケースにおいては、この天下りスキームは、談合システムの不可欠な一部分を占めています。

 官需の入札では、ほとんどすべて、談合で受注者が決まります。

 国や地方の役所(関係団体を含む)のOBが天下っている業者は、日本の全ての業者(A)の部分集合(B)です。他方、(党そのものではなく特定の)政治家に献金したり集票したりしている業者(C)もまたAの部分集合です。BCは部分的に重なり合っています。

 役所は、Bの業者に、その受け入れ天下りOB数に応じて、官製談合によって官需を割り振っていきます。その一方で役所は、天下りOBがいない業者同士が行う談合(民民談合)を黙認します。民民談合の仕切り役は、特定の業者であることが多いのですが、政治家の息の掛かった人が務める場合もあります。

 上記政治家達・・国会議員にあっては、そのすべてが自民党議員か元自民党議員なので自民党と言い換えても良い・・は、上記(天下りスキームを含むところの)談合システムの存在を認識しつつ、このシステムの安定的維持を図るという役割を担っています。そのことによって、自民党は、官僚機構という巨大な利益擁護団体に奉仕しているわけです。

 これに加えて、個々の政治家が動く場合もあります。民民談合の中で、仕切り役による官需割り当てに不満があり、受注を増やしたいのだけれど、役所のOBを(更に?)受け入れるつもりのない業者が、政治家に陳情すると、今度はその政治家は役所に対し、この業者の受注を増やすように「陳情」します。役所は、この企業が参加する入札を対象として、単発的に官製談合を行い、この企業に受注させることによって、「陳情」に答えるのです。当然、この業者のこの政治家への献金額は(少なくとも一時的に)増加します。

 では、自民党議員の中で、この種「陳情」を行わない人はどれくらいいると思いますか。

私の直接的経験と、信頼のおける友人・知人の話を総合すると、私の防衛庁在職時には、地方選出議員に関する限りほとんどいなかった、と言えます。この状況は、今でも基本的に変わっていないでしょう。

ですから、本日の国会で、1998年の「防衛庁調達実施本部を舞台にした背任事件で、参院での問責決議を受け防衛庁長官を辞任している」額賀福志郎防衛庁長官(茨城2区選出の衆議院議員)が、答弁で、98年の事件を機に防衛庁の調達実施本部解体やチェック体制強化に取り組んだと説明し、防衛施設庁について「問題を自らの問題としてきっちりと消化されていなかった。施設庁は占領軍時代の特別調達庁として発足し、ある意味で特権意識を持っていた。その中に不正の温床があった」と指摘した、という記事(http://www.asahi.com/politics/update/0201/004.html。2月1日アクセス)を見て、そのあまりの鉄面皮さに怒るのを通り越して笑ってしまいました。

ところで額賀さん。あなたは調達実施本部の事件で防衛庁長官を辞任した後、内閣官房副長官に返り咲いていた時に、現在の河野さんの何代か前の施設庁技術審議官を官邸の副長官室に呼びつけていますね。

その時、あなたは随分高圧的に話をされたようですね。同僚の鈴木宗男官房副長官(当時)のマネをされたのかもしれませんが、施設庁の建設部関係者の間で語りぐさになっていますよ。聞くところによると、それは、少なくとも談合防止の話ではなかったらしいじゃないですか。

 さて、読者のうち、昨年の総選挙で自民党や元自民党議員の候補者に投票した皆さん。

 皆さんは、まぎれもなく、日本の談合システムの存続に力を貸したのです。

 河野さん達のこのシステムからの足抜けがいかに困難であったかに改めて思いを致し、不運にも逮捕されてしまった彼らに一掬の涙を流してあげてください。

3 あなたはマジに談合が悪いと思っているのですか?

(続く)

太田述正コラム#10652006.1.30

<防衛施設庁談合事件等に思うこと>

1 始めに

 構造計算偽装事件・ライブドア事件に引き続き、東横イン事件があったかと思ったら、今度は防衛施設庁官製談合事件で施設庁幹部の逮捕、と不祥事のオンパレードです。

 最後の事件を中心に、思うところを申し述べたいと思います。

2 防衛施設庁談合事件

 民営化前の新東京国際空港公団を巡る官製談合疑惑が発覚した重電メーカー各社が、防衛施設庁(施設庁)発注の電機設備工事でも受注調整を行っていた疑惑が浮上し、施設庁の出先機関である東京防衛施設局が発注した電機設備工事の入札が捜査対象になっている、という報道(http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20051117AT1G1603O16112005.html20051117日アクセス)、http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20051124/mng_____sya_____007.shtml(同年1124日アクセス)がなされたのが昨年11月でした。

 そうしたら、いきなり本日、東京防衛施設局が発注した空調工事で、入札前に落札させる共同企業体(JV)を決めたうえ、他のJVには高値で応札させるなど、メーカー側に談合させた、という官製談合の疑いで、施設庁ナンバー3で技術系トップの技術審議官河野孝義氏ほか、河野氏の前任者たる施設庁OB1名と現職の施設庁幹部1名の計3名が東京地検特捜部に逮捕された、というニュースhttp://www.nikkei.co.jp/news/main/20060130AT1G3002C30012006.html。1月30日アクセス)が飛び込んできました。

 私は怒りで一杯です。

河野氏が、私の防衛大学校(防大)総務部長時代の部下(同校施設課長)で、私が防大創立50周年事業(キャンパス中心部の全面立て替え)を立ち上げた時の仲間であり、その河野氏をこんな目に会わせ、自らは安全圏にいる歴代の施設庁長官や防衛事務次官を始めとする防衛庁キャリア達に対する怒りで・・。

というのは、今回逮捕された河野氏らに違法性の認識があったことは間違いないものの、彼らは、防衛庁キャリアが作り上げた施設庁ぐるみ、ひいては防衛庁ぐるみの企業との癒着スキームの実行犯に過ぎず、彼らには、このスキームから足抜けすることなど不可能だからです。

企業との癒着スキームとは、防衛庁側から防衛庁が財・サービスを購入する企業にOBを押しつけ(再就職させ)(注1OB受け入れ数に見合った受注を当該企業にさせる、というものであり、特殊な装備品のようにメーカーが限られる場合はもちろんのこと、入札が行われる場合であっても、あらゆる官製談合的手段を講じてこのスキームの貫徹が図られます。

(注1)もちろん、受注をねらって企業側から退職予定者の受け入れを申し出ることも多い。

私が防衛庁に在職していた当時の調達実施本部の不祥事とか、昨今の国交省がらみの談合事件を見ておれば、時代がこんなスキームの存続を許さなくなっていることは明らかです。

にもかかわらず防衛庁が、OBの押しつけをやめる、という抜本的な対策をとろうとした形跡は全くありません(注2)。

(注2)防衛庁時代に仙台防衛施設局長等を務めた私自身の責任も回避するものではないが、在職中小悪は随分つぶしたものの、このスキームは相手として巨大過ぎた。このスキームに乗っかった形で再就職することは、文字通りの税金泥棒だと思い、これだけは回避しようと、防衛庁を自分で飛び出したことを、ぜひご理解いただきたい。

 現在の防衛事務次官、官房長(OB「人事」担当)、施設庁長官の出処進退ぶりを注目しましょう。

3 東横イン事件

 27日には、ビジネスホテルチェーン大手である(株)東横インが、ホテル建設に際し、法律や条例で義務づけられている身障者用設備や駐車場を設けた建物をいったん建てながら、市などの完了検査直後にこれらの設備を撤去・改造する工事をして開業していることが露見しました(http://www.asahi.com/national/update/0127/TKY200601260394.html。1月27日アクセス)

 その後、建築に係る法律や条令違反が続々と見つかっていますが、これらは、同社西田憲正社長の指示で行われたことが判明しています。

 西田憲正社長は、東横インの創業者として「駅前旅館の鉄骨版」というホテル・コンセプトの下、ホテル支配人に子育てを一段落した女性らを積極的に登用することによって、人件費を抑えるとともに、女性の「きめ細かさ」を前面に押し出す新しいビジネスモデルを確立し、1986年の創業以来、わずか20年弱の間に全国に展開するホテルチェーンを築き上げました。

西田氏は、1946年生まれで、日本大学商学部経営学科卒業、同大学大学院グローバル・ビジネス研究科修了(経営学修士)であり、日本大学グローバル・ビジネス研究科非常勤講師、国立大学法人山口大学工学部講師を務め、いくつか著書もあるだけに、みごとなできばえのビジネスモデルです。

(以上、http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060128/mng_____sya_____010.shtml、及びhttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4535584087/503-3004222-3109549(どちらも1月28日アクセス)による。)

ですから、建築関係の法律や条令、あるいはガイドラインの違反を積極的に犯してまでコスト削減に努める必要などなかったのに、西田氏が余りにもこすっからく、かつ順法精神が欠如していたために、大顰蹙をかうことになってしまったわけです。

4 耐震偽装事件とライブドア事件

 この両事件については、既にご説明してきたように、トップが綱渡り的ビジネスモデルを打ち出したため(綱渡り的ビジネスモデルしか打ち出す能力がなかったために)違法行為を犯す関係者が出現し、ビジネスが破綻するに至ったものです。

5 感想

 このように態様は異なっているものの、ずべてに共通しているのは、志の欠如であり、人間がカネにひざまずいているという構図です。

 危ういかな日本。

太田述正コラム#8092005.7.31

<天下り停止へ?(続)>

 (本篇は、コラム#776の続きであり、7月27日に上梓しました。8月4日から12日まで旅行のためコラムの上梓ができないので、その前の上梓頻度を上げています。)

1 道路公団副総裁の逮捕

 日本道路公団発注の鋼鉄製橋梁工事をめぐる談合事件で、東京地検特捜部は25日、同公団副総裁の内田道雄容疑者(60歳)を独占禁止法違反の幇助と背任の疑いで逮捕しましたhttp://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250376.html。7月26日アクセス)

具体的には、内田容疑者が技師長時代の20045月ごろ、公団OBから、ある橋の工事の「受注業者数を増やすために1工区ではなく、2工区に分けてほしい」と依頼を受け、同橋の分割発注を、(公団の経費が増えるので反対されたにもかかわらず、)指示した、という容疑です。

しかし、内田容疑者は、公団の橋梁工事の談合の仕切り役をしていたこのOBから受注(落札)予定企業が記載された「配分表」を示され、了承していたとも報じられています(注1)。

(以上、特に断っていない限りhttp://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20050727k0000m040155000c.html(7月27日アクセス)による。)

 (注1)談合一般にも言えることだが、官製談合の対象は大方、一般競争入札ではなく、指名競争入札だ。一般競争入札では参加できる企業が多すぎて仕切ることが困難だからだ。

     国土交通省は、「一般競争入札だと、落札価格が下がって品質低下を招く」との理由で、多くの工事で指名競争入札を採用し、これに他の中央官庁や公団等がならっているが、指名競争入札採用の本当のねらいは官製談合を行うためだと言ってよい。客観的に調査すると、落札率(予定価格に占める落札価格の割合)と工事の品質との間にはほとんど相関関係がない、という結論が得られるからだ。

    (以上、http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050716it01.htm(7月16日アクセス)による。)

    なお、官製談合においては、官側から「指名競争入札参加業者の指名」と、こうして「指名された業者のうち1社または複数社への予定価格の漏洩」が行われる。

予定価格の漏洩が行われていると、当然のことながら、過大に積算ミスをして予定価格を設定した場合でも、その予定価格に見合った「高い」落札価格になる(http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050720it01.htm。7月20日アクセス)。

今回の道路公団による官製談合においては、「落札業者の指名」まで行われていたわけだ。最近道路公団は、世間を慮って、指名した落札業者に予定価格よりかなり低い落札価格をつけるように指示していたhttp://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20050726k0000m040183000c.html。7月26日アクセス)、というから開いた口が塞がらない。

内田容疑者やこのOBが官製談合に血道を上げ、分割発注までして業者にまんべんなく利益が行き渡るようにしていたのは、できるだけ多くの業者をOBの受け入れ先として確保するためであったことも明らかになりつつあります(http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20050726dde001040068000c.html7月27日アクセス)(注2)。

(注2)この毎日の記事は次のように報じている。

200410月、公団の企画部長らが橋梁工事業者たる三菱重工に、20041月に退職した「元技師長を年収約2500万円で受け入れてほしい」と依頼した。三菱重工が、「公正取引委員会による立ち入り検査の直後なので遠慮したい」と回答したところ、企画部長らは「上の意向だから」と再度要求した。それでも応じなかったため、当時副総裁の内田容疑者が三菱重工幹部を公団本社に呼び、直接要求したため、三菱重工は受け入れを余儀なくされたが、年収に関しては「高額すぎる」と交渉を続け、年収約2000万円を条件に今年1月、顧問として受け入れた。

この道路公団の事件は氷山の一角であり、調達官庁や調達公団等においてはどこでも天下りとセットになった形で官製談合が行われている、と言って良いでしょう。

助長行政や規制行政をやっている官庁は、担当業界に係る助長行政や規制行政に手心を加え、その見返りに天下りを確保していますが、こちらは、手段と目的との関係が必ずしも単純明快でないだけに、司直の手が入ることがほとんどありません。しかし、実態は同じである、と思っていただいて間違いありません。

2 天下り停止の話のその後

 だからこそ、天下りをこのまま放置するわけにはいかないのです。

 しかし、残念ながら日本経団連は、711日、会長自らが発議していた天下り受け入れ停止の先送りを決定してしまいました。

ところが、今度は経済同友会が15日、「われわれは利益誘導を目的とした天下りを受け入れない」というアピールを採択し、北城代表幹事は、「(一定期間禁止されている)利害関係企業への天下りについて、基本的にずっと受け入れない」趣旨だと説明しました(http://www.sankei.co.jp/news/050715/kei088.htm。7月16日アクセス)(注3)。

(注322日の幹事会で了承が得られれば、約1400人の会員にも対応を要請するということだったが、どうなったか承知していない。

 実際にどこまで実行されるかはともかくとして、財界から次々に天下りを問題視する動きが出てきていることは、大いに評価したいと思います(注4)。

 (注4)こうした中、日本建設業団体連合会(日建連)会長の梅田・鹿島会長が21日、建設会社へ官僚や公団OBの天下りについて、「当社も学識経験者を必要としている。<>今後も>知識や技術を生かす必要があれば、(官僚・公団OBを)採用していく・・官製談合と天下りを直接結びつけるのはおかしい」と述べたhttp://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20050721ib25.htm。7月26日アクセス)のは、語るに落ちた、というべきか。

太田述正コラム#7762005.7.3

<天下り停止へ?>

退職した中央省庁の幹部が関係先の業界の企業に再就職する「天下り」が橋梁談合事件などの「官製談合」の一因となっているという認識の下、経団連が天下り受け入れ停止を検討している、というニュースが流れました。

奥田碩会長(トヨタ自動車会長)が11日の会長・副会長会議で提起し、賛同を得られれば、正式に会員企業に対して、天下りの受け入れを見合わせるよう要請する考えとのこと。

会長要請に強制力はありませんが、過去の例ではかなりの拘束力を持ってきたこと、また仮にこの要請に従わなければ当該企業がマスコミ等から袋だたきに遭いかねないこと、から1,500余の会員企業は天下りを見合わすことになると思われます。

(以上、http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20050702AT1F0103601072005.html及びhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20050702/eve_____sya_____001.shtml(どちらも7月2日アクセス)による。)

徐々に中央官庁の幹部の再就職規制は強化されてきており、現在は3年経たないと在職中に関係していた業界の企業には再就職できないことになっていますが、上記天下り受け入れ停止が、関係していた業界は永久に再就職を受け入れない、という趣旨だとしたら、これは画期的な措置だと言えるでしょう(注)。

(注)橋梁談合事件で焦点となっている道路公団については、現在退職者は関係先の企業にすぐ再就職できるので、再就職事情が激変するわけだ。しかし幸か不幸か、道路公団は近々民営化するので、民営化した時点で「天下り」規制は当然なくなることになる。

現在、官庁側ではたすきがけ人事といって、官僚aが関係していた業界の企業をA、官僚bが関係していた業界の企業をBとすれば、aBに、bをAに3年間再就職させ、その後aAに、bをBに再々就職させる、という姑息な脱法的方法で、天下り制度を温存継続しているところ、これが不可能になるからです。

 こうなれば、官庁と(規制・助長行政の対象たる)所管業界との癒着は基本的に解消されるとともに、官庁による財・サービス調達の際の競争入札や指名競争入札に係るの官製談合は大幅に減り、よく指摘されているように、落札価格が2割近く低下することになるでしょう。

 しかも、防衛庁の戦闘機や護衛艦のような随意契約で調達される大型装備品に関しても、納入企業への天下りがなくなれば、防衛産業との癒着がなくなり、防衛庁の装備品の性能等は向上し、かつ、契約価格が低くなること請け合いです。

 ちなみに防衛庁は、防衛施設庁が防衛施設の建設等を行っており、こちらは基本的に官製談合の世界です。

 私は、防衛庁の世話で天下りをすることは、国民の皆さんが払っておられる税金を無駄遣いすることになるので許されないと考え、自分の力で何とか再就職しようと考え、防衛庁を飛び出した人間です。

 それだけに、奥田さん・・官公需に依存せず、従って天下りを受け入れていない企業の会長・・の提案が実現することを心から願っています。

 仮にこの提案が実現したとして、残される課題を思いつくままに挙げると四つくらいあります。

一つ目は談合の完全廃止です。

すなわち、非官製談合つまりは企業サイドのみによる自主的談合の廃止と、政治家の官僚への強要による官製談合の廃止です。前者を実現するには、談合に対する刑罰を大幅に強化することであり、経団連にもこれまでの刑罰強化に対する消極的な姿勢は改めてもらう必要があります。後者を実現するためには、指名競争入札の指名プロセス、政治家の政治資金の流れ、及び指揮系統外の政治家と官僚との接触、をいずれも完全な情報公開の対象にする必要があります。

二つ目は、官僚の再就職の必要性をなくすことです。

そのためには、年齢加給を抑制しつつ官僚の定年を大幅に延長する(或いは定年を廃止する)か、それが困難な職種・・例えば自衛官・・にあっては年金を恩給に換え、支給額を大幅にアップすることです。

三つ目は、上記二つ目が実現するまでの間、官僚の関係法人への天下りの規制を飛躍的に強化することです。

何らかの形でこれをやらないと、企業活動の規制や助長行政に携わっているため関係法人の多い大部分の中央官庁の幹部と、防衛庁のように携わっていないため関係法人の少ない中央官庁の幹部との間で再就職に関して著しい不公平が生じるからです。

 四つ目は、地方自治体の幹部の天下り規制も強化することです。この必要性は申し上げるまでもないでしょう。

太田述正コラム#0238(2004.1.24)
<防衛庁の報道規制問題>

 このところ、しきりに防衛庁の報道規制問題が報じられています。

1 イラク方面派遣自衛隊に係る取材規制・・派遣部隊、隊員、更にはプレスの生命・安全確保の観点から福田官房長官が指示したとされている。制服自衛官サイド及びプレスはこれに反対している。(http://www.asahi.com/politics/update/0109/005.html。1月9日アクセス)
2 陸海空幕僚長の定例記者会見の廃止・・情報漏れ、情報のゆがみの防止のために福田官房長官が指示したとされている。内局は定例会見の数が多すぎることを理由にあげている。制服自衛官サイド及びプレスはこれに反対している。(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20040115AT1E1400H14012004.html(1月15日アクセス)及びhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040124/mng_____kakushin000.shtml(1月24日アクセス))

 まず興味深いことは、制服サイドとプレスが、同じ側に立って政府自民党や内局に抵抗していることです。
 調達実施本部事件(NEC事件。1998年)で内局が悪者とされたというレア・ケースを除き、これまでは一貫して政府・与党、防衛庁内局、及びプレスがよってたかって各幕(制服自衛官)を悪者にして叩いてきた(例えば、コラム#51参照。このよってきたる原因は、いずれ別稿で論じたいと思います)のであって、プレスが制服サイドに立ったのは、今回が自衛隊史上初めてではないかという気がします。
 もっともこれは、ことが報道の自由に関わる問題であるところからくる例外的な現象であって、上記の制服叩きの基本的な構図が崩れた、ということを意味するわけではありません。

 さて、今回の報道規制問題では、どちらの側の言い分が正しいのでしょうか。
 (プレスの言っていることは、この際、無視します。)
 まず1については、フツーの一市民としての常識からして制服サイドの方が正しそうです。
 というのは、「派遣部隊、隊員」の生命・安全確保を一番真剣に考えざるをえない立場の制服サイド・・しかも、何か起こったときに、第一義的に責任を負わせられる立場でもある・・が取材を受けてもよい、受けるべきだと主張している以上、官房長官が部隊や隊員の生命・安全の確保に言及して取材規制を指示するのは余計なお節介というべきです。
官房長官は、本当のところは2と同じく、制服サイドからの情報漏れを防ぎたいということなのでしょう。

 そこで肝心の2ですが、今度は私の防衛庁職員OBとしての常識に照らして、制服サイドの言い分の方が正しいと断言できます。
 日本には2001年まで秘密保全法制がなかったと以前に書きました(コラム#62)が、こんなトンデモない国で育った政治家には安全保障マターに係る秘密保全意識が全くありませんし、(内局官僚を含む)官僚もそれよりちょっぴりマシな程度です。
私が防衛庁に勤務していた時の経験では、(米国がらみの軍事機密を除き、)マル秘の話を政治家にしてそれが漏れなかったことがない、と言ってもいいと思います。政治家は癒着関係にある特定プレスにこの類の話を垂れ込み、そのプレスから見返りに情報をもらうということをやっている人ばかりだということです。内局官僚自身、気の効いた人間は政治家を見習って、有力政治家や特定プレスと癒着関係を積極的につくり、彼らにマル秘情報をリークし、政治家からは恩顧を、プレスからは見返り情報(政治家情報や官僚人事情報等)を獲得することに血道をあげています(コラム#8参照)。
他方、制服サイドについては、いくら自衛隊は軍隊ではないとはいっても、それなりに秘密保全教育は徹底していますし、米軍と共同訓練をやる都度、秘密保全意識を触発される、ということもあり、マル秘情報が漏れることは、(金で外国のエージェントに漏らすようなケースがたまに露見しているとはいえ、)まずありません。
 以上を踏まえれば情報漏れの犯人は、政治家たる防衛庁長官、副長官等ないし政府・与党首脳、及び内局幹部であり、政治家としては例外的に口が堅い官房長官が、制服サイドが犯人だとする内局幹部らからの話を鵜呑みにして、お門違いの指示を連発している、というのが真相でしょう。

 ところで、「情報のゆがみ」の話に触れませんでしたが、これに関連して自衛官には広報マインドが欠けている旨の発言が官房長官からあった(東京新聞サイト前掲)ことは、一種の職業による差別発言であり、それだけで問題ですが、自衛官はその職業の性格からあるべき市民像を体現した存在である、ということからすれば話はさかさまであり、官房長官はとんだ無知を曝け出したというところです。(詳しくは、拙著「防衛庁再生宣言」第三章を参照。)
 つまり、立派な自衛官であれば、内局官僚などより、はるかに広報マインドも身に着けているということです。(イラクに派遣された陸上自衛隊の先遣隊の佐藤隊長をご覧ください。)

 今回のドタバタ劇を契機としてプレスが目を覚まして前非を悔い、政治家や役所との癒着関係の清算に乗り出してくれることを期待しているのですが、期待するだけムダかもしれませんね。

太田述正コラム#0051(2002.7.25)
<防衛庁リスト事件等の真実>

月刊テーミスの2002年8月号(7月18日発売。84-85頁)に掲載された記事を転載します。末尾に、私のコメントを付しました。

リスト作成問題で露呈
          危機管理ゼロ 防衛庁の醜い権力闘争
 保身・隠蔽・対立が渦まく庁内で内局・海幕・陸幕の内部抗争が一気に噴き出た

情報公開制度の詳細を知らず

29名もの処分者を出した防衛庁リスト事件は、'98年にNECなどからの部品調達費用の水増しが発覚した「調達実施本部事件」の処分者31名に匹敵する、防衛庁の大不祥事となった。
 しかし、今回は処分で幕引きということにはなりそうもない。リスト事件を調べれば調べるほど、防衛庁は末期的症状で、あとどれだけ不祥事を抱えているのか分かったものではないという雰囲気がしてきたからだ。
 最初に、今回のリスト事件の事実関係をおさらいしておこう。
 防衛庁の内局と陸海空幕が、情報開示請求を行った市民のリストを作成していた。特に海上幕僚監部(海幕)の3佐が作成したリストには氏名、職業、所属先、記事など7項目が含まれていた。このうち、職業のところには、「受験生の母」、「反戦自衛官」等、記事のところには、「不服申し立て」等の記載があり、個人情報保護法に違反していたものだ。しかも海幕3佐は、リスト作成も配布も、個人情報保護法違反にあたることを承知していた。
 内局、陸幕、空幕のリストが庁内の構内情報通信網(LAN)に載せられていたことに関しては、違法性は認められていない。だが、情報公開担当者以外でも自由に見ることができ、防衛庁の個人情報保護に対する意識の低さが露呈した。
 3佐のこれら行為が発覚したとき、内局、陸幕、空幕の担当者は、それぞれの機関のLANに掲載していたリストも違法である可能性があると考え、あわててLANから削除した(しかし、内局では担当者が、リストが内局LANに掲載されていたこと、そのリストをLANから削除したことをすぐに上司に報告しなかった)。
だが後になって、LANに掲載されていたリストはどれも個人情報ファイルではないので、それを掲載しても個人情報保護法違反にはあたらないということになった。
 その後、3与党の幹事長等の「圧力」で、防衛庁がほぼ40ページで作られた報告書を、公表にはその概要にしかすぎない4ページのダイジェスト版しか出さず、すぐばれてしまった6月11日の事件、リスト事件の衆議院での集中審議を翌日にひかえた23日に、防衛庁幹部らと自民党を中心とした防衛関係議員がゴルフのコンペを行い、政官の癒着関係を天下にさらした「事件」までが起こってしまった。
 このような海幕3佐の暴走と内局、陸幕、空幕のドタバタ劇をふまえ、防衛庁が作成した報告書は、「個人情報保護に関する教育研修が十分に行われておれば、海幕3佐の違法行為を未然に防止でき、内局、陸幕、空幕のリストをめぐる混乱を回避することができた」(要旨)という結論を出した。
 実際、ごもっともであって、内局、陸幕、海幕、空幕の各情報公開室(いずれも'01年4月発足)の室員中、個人情報保護法の詳細について知っていたのは、内局5名中1名、陸幕9名中2名、海幕9名中6名、空幕10名中1名にとどまり、内局の「成績」は空幕に次ぐビリから二番目だ。
情報公開制度の導入準備が本格的に行われた'00年8月から'01年3月までの間、防衛庁内で企画・調整業務を担当したのが内局である。にもかかわらず、必要な教育研修を足元の担当者に対して行っていなかったのは、あまりにお粗末というほかない。
 海幕3佐が個人情報保護法違反であることを百も承知で、ご親切にも内局の業務に役立つと考え、'01年11月に内局情報公開室にリストを持参した。内局の担当者たちは、業務上必要な知識を授けられていなかったため、たしなめるどころか、何の問題意識も持たずにリストを受け取ってしまったのだ。

情報をリークしたのは内局か

しかも、内局において、導入準備中に当然やっておかなければならなかった(内局、各幕において作成が予想された)LAN掲載リストの法的妥当性の検討もさぼっていた。そのため、海幕3佐の行為が発覚するや、陸、空幕ともども慌てふためいてLAN掲載リストの削除に走ってしまい、大恥をかくはめになったというわけだ。
 だから、リスト事件の責任は、あげて内局にあるといっていいだろう。
 ところが、不思議や不思議。処分対象者の中に、現職の内局幹部や担当者は含まれているが、情報公開制度発足当時の内局の幹部や担当者が含まれていない。一体これはどうしたことか。
 この疑問を海幕の幹部にぶつけてみたところ、次のように答えた。
「インド洋派遣海上自衛隊部隊が、米軍の指揮下に入ることを海幕が容認したという朝日新聞の記事が出たのを覚えていますか。これが6月16日で、毎日新聞が防衛庁リスト事件をすっぱ抜いたのが5月28日です。
国会で有事法制案の取り扱いが焦点となっていたこの微妙な時期に、もともと有事法制に批判的な両新聞がこれらの記事を掲載したのは、明らかに有事法制つぶしでしょう」
それでは、一体誰が何の目的で情報をそれぞれの新聞にリークしたのか。この二つの記事がいずれも制服サイドの「独走」に警鐘を鳴らす内容でもあったことが、有力なヒントだ。
「朝日の記事は、昨年11月にバーレーンで行われた日米会議(その内容は海幕と内局しか知らない)を踏まえて書かれていますし、リスト事件の海幕3佐がリストを内局に渡したのは昨年の11月です。私は、昨年11月の時点で内局にいて、しかもどちらの情報にもアクセスできた人間が怪しいと思っています。11月の時点の情報が、どちらも半年もたってから記事になった点に、非常に作為的なものを感じるからです。
つまり、その人間が、制服、とりわけ海上自衛隊を叩く狙いで、毎日と朝日の記者に情報をリークし、お互いにとって最適な時期に記事にしてもらうように依頼したと考えられます。なお朝日の記事のほうは誤報です。朝日へ情報をリークした人間は、情報を海幕に不利な形にねじまげて提供したということです。毎日へ情報をリークしたのが同一人だとすれば、内局の人間としては例外的に、海幕3佐のリストの違法性を承知していた人間でもあるということになります」(前出の海幕幹部)   
なぜ内局が、海上自衛隊を叩く必要があるのか。
昨年9月に米国で同時多発テロが起こり、海上自衛隊の艦艇部隊がインド洋に派遣されることになった。部隊の現場を知らず、しかも不勉強な内局の人間にオペレーションのことを聞いても、ろくに説明ができない。その結果、政治家のところに海幕の人間が直接呼ばれる機会が増えていった。
「内局は、このままだと地盤沈下だと深刻な危機意識を持ったわけです。海幕がイージス艦派遣の根回しをして歩いているといった話が、内局サイドからマスコミに対して盛んに流されたのが10月、11月でした」(同)

背後には有事法制への牽制も

 しかし、内局の人間が有事法制つぶしに加担することがありうるのか、陸幕の幹部に話を聞いてみた。
「そんなことは考えたくもありませんが、有事法制のように、国会やマスコミで叩かれる可能性がある案件については、内局はいつも逃げ腰です。今回有事法制が国会に上程されるにあたっても、平素の自分の勉強不足は棚にあげて、内閣の安全保障室に責任を転嫁して他人事のように眺めているのが内局であることは確かです」
さらに、リスト事件がらみの内局内での争いのことを聞くと、「その件についてはよくわかりませんが、キャリアどうしがこれほど仲の悪い役所は、ちょっとほかにはないのではないですか。リスト事件で処分の対象にならなかった内局幹部が、競争相手が減ったと、こみあげる笑いを隠そうともしていないという話が、あちこちから聞こえてきます。不謹慎きわまりないとは、このことでしょう」と慨嘆していた。
 どうやら、報告書の記述や処分対象者をめぐって、各幕はもとより、防衛関係議員や一部マスコミを巻き込んだ形で、醜い権力闘争が内局で行われたようだ。その結果、情報公開制度発足当時の内局の幹部や、担当者の側(毎日や朝日に情報をリークした人間がこの中にいる?)が最終的に勝利をおさめた。この争いの途中経過の痕跡が、大急ぎでつくられた長大な報告書の結論部分での記述となって残った――と理解すれば、すべての話の辻褄が合う。
 昨年防衛庁を自ら退職し、内局批判の本を出版した元防衛庁官房審議官の太田述正氏(現在、評論家)が語る。
「いささか出来すぎた話ですが、以上の話がすべて事実だとしても私は驚かないでしょう。かねがね、私は防衛庁内局の堕落ぶりは外務省よりもひどいと指摘してきたのですから。」
                                  (以上)

ここから先は、私のコメントです。

この記事を読んでどう思われましたか。どこにでもころがっている大したことのない話だと思われましたか?その通りです。民間企業ではいくらでもある話でしょう。
問題は、そんな民間企業は早晩市場によって淘汰されるでしょうが、防衛庁は決してつぶれないということです。

その後も毎日や朝日による制服バッシングは執拗に続いています。

まず、朝日から:
「防衛庁海上幕僚監部(海幕)の幹部が今年4月10日、在日米海軍のチャプリン司令官と会談し、インド洋へのイージス艦やP3C哨戒機派遣に向けた「裏工作」をしたとする朝日新聞の報道に関し、民主党の長妻昭氏が3日の衆院有事法制特別委員会で、自らの調査をもとに「会談に先立ってイージス艦とP3Cの派遣を要請するペーパーを米側が非公式に日本側に渡していた」と指摘したうえで、「海幕幹部はそのペーパーをチャプリン司令官に説明したのではないか」とただした。長妻氏は、この幹部を香田洋二防衛部長だとし、「(香田氏)本人から直接事実関係を聞いた。(米側から)正式に要請があったときに話がつぶれないように、ということだったようだが、制服幹部の行為として文民統制のうえで問題ないのか」と指摘した。」
http://www.asahi.com/politics/update/0703/009.html。7月3日アクセス。)

 私には香田さんのやったことのどこが問題なのか全く理解できません。それよりも、よくもまあこんな話までリークされるものだという印象です。いずれにせよ、最近の熾烈な内局による制服いじめ(前掲テーミス記事参照)や、そもそも、内局と在日米軍との関係が断絶状態に近く、日米安保の信頼性をかろうじて維持しているのは各幕や部隊の努力だという事実(拙著「防衛庁再生宣言」4、10、18頁、41-42頁参照)、を踏まえずに、(よくあることですが、)新聞記事を片手に鬼の首をとったかのように海幕を追及する民主党の議員サンのお姿には、ただただ嘆息するほかありません。

 次は毎日です:
「米国・ハワイ沖での「環太平洋合同演習(リムパック)02」に参加している海上自衛隊が、現場の判断でカナダ海軍の掃海部隊の演習に、オブザーバーで参加していたことが分かった。・・防衛庁は前回(00年)のリムパックで初めて、・・オブザーバーで参加を認めた。・・昨夏はオーストラリアでの多国間戦闘訓練「カカドゥ」にも海上自衛官を派遣した。その際、海自はすべて海幕の了承と内局の決定を受けていた。現場判断で他国の演習にオブザーバー参加するのは初めて。米国中心の多国間による軍事活動が国際的な流れとなり、憲法上の制約を抱える日本がどう歩調を合わせるかが課題となっているが、オブザーバーでの参加が常態化している実態が明らかになった。自衛隊のリムパック参加は、集団的自衛権行使を禁じる憲法上の制約から、米軍との共同訓練に限られてきた。しかし、海自によると、カナダ海軍の掃海部隊が今月2日、オアフ島沖で掃海訓練を実施。海自第1掃海隊(広島・呉基地)所属の潜水員ら2人が、米やペルーの海軍の隊員とカナダ掃海艇に乗り、機雷処分などの訓練を見学し、意見交換したという。海幕は「カナダ海軍が急に受け入れることになり現場判断で参加した」と話している。今回のリムパックについて、海上幕僚監部は「米国との共同訓練しか行わず、他国の訓練へのオブザーバー参加はない」と説明していた。」
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/20020723k0000m010150000c.html。7月23日アクセス)

 この記事にもあきれました。そもそも、「会議にオブザーバーで参加する」という言葉はあります(・・発言できない場合と、発言できるが、意思決定には参画できない場合がありますね・・)が、「演習にオブザーバーで参加する」という言葉はおかしい。単に「演習を見学する」ということでしょう。自衛官にとって、演習だろうが実際の戦争だろうが、参考になったり、国際交流の観点からプラスになるような場合は、見学できる機会を逃す方が怠慢だと思います。とまれ、ここでも「内局の決定(と海幕の了承?)なしに、現場の独断で海上自衛官がカナダ海軍の演習を見学した」とご大層に毎日にリークに及んだ輩がいるようですね。

 それにしても、こんなに米軍との会議の中身等がしょっちゅうリークされるのでは、海上自衛隊はたまったものではないでしょう。状況証拠から、犯人は内局の中にいる可能性が濃厚です。しかも、この執拗さから言って、相当な大物がからむ組織的な陰謀のにおいを私は感じます。
 中谷防衛庁長官は一体何をしているのでしょうか。対イラク作戦計画のニューヨークタイムスへのリークに激怒して、徹底的な犯人探しと立件を命じたラムズフェルト米国防長官(http://www.nytimes.com/2002/07/20/international/middleeast/20LEAK.html。7月20日アクセス)の爪の垢でも煎じて飲んで欲しいものです。

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