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太田述正コラム#5268(2012.1.29)
<第一次性革命はあったのか(その4)>(2012.5.14公開)

 ダボイワラは、放蕩者の文学を読むことに時間を費やし過ぎて、16〜18世紀の英語圏の世界で最も大量の出版物が宗教的な性格のものであったことに注意を止めない。
 ポルノ文学は、それを求めた者は常に入手することができた。・・・
 1612年に姦淫の咎で鞭打ち刑に処せられることとされた男女のケースを彼は引用するが、そこから、彼は、「欧米史の大部分において」係る非違行為を仕出かした者が公に罰せられることは「ごく普通の出来事」であったことが分かると言う。
 <しかし、>シェークスピアの弟のエドマンド(Edmund)<(注14)>は、ヘタクソな俳優だったところ、庶子の子の父となり、認知し、洗礼を受けさせ、彼の教区の教会に埋葬したけれど、彼やこの子の母親が鞭打たれたという話は、寡聞にして聞かない。

 (注14)Edmund Shakespeare。1580〜1607年。この子はEdward Shakespeare(1600?〜1607年)。なお、教区の教会は、サザーク(Southwark)の聖救世主(St Saviour's)教会。
http://en.wikipedia.org/wiki/Edmund_Shakespeare

 <それどころか、>シェークスピアの教区の教会で1560年代に結婚した女性の実に3分の1近くは妊娠していた。
 ダボイワラが「イギリス文明の曙以来、宮廷と教会は、禁制のセックスはコミュニティによって許されないという原則を遵守させてきた」と言うのは、要するに本当ではないのだ。
 本当であったのは、しばしば、隠されたひどい動機に基づき、禁制のセックスに係る諸法を遵守させる発作的な試み、が<時たま>宗教的及び世俗的諸当局によってなされたことだ。
 サザークの雑多な人々から、何年もの間、地代を集めていた地主はウィンチェスター(Winchester)の司祭だった<ことを想起して欲しい>。
 <もとより、>姦淫に対する非難は、いつの時代においても見出すことができる。
 しかし、それが実際の慣行とどう関わっていたかを見極めることは事実上不可能だ。
 それなのに、ダボイワラは、<単純に、公式の非難がなされていたこと>を証拠として扱う。
 教会の神父達は、結婚前の妊娠を痛烈に非難するかもしれないが、しばしば、その両親の結婚式の数か月後、いや、数週間後にさえ、幼児達に洗礼が授けられたという教会記録を調べれば、そんな非難に耳を貸した者が果たしていたのかどうか分かったものではなかろう。
 確かに、イギリスでは16世紀になるかならないかの頃に、人々が<、このような公式の>非難に耳を貸し始めたけれど、それこそ、どうしてそうなったかを説明することが求められる。
 金持ちの男は、いつも、カネさえ支払えば、庶子をつくることで咎められることはなかった。
 庶子づくりへの非難は、庶子連中を「教区のカネで」育てなければならないことへの懸念が、通常、その背景にあった。
 経済的利害が怒りと同期した場合に限って、その結果が、体系的迫害となったのだ。
 町の人々の半数が貧民救済の対象になっていたような場合、教会と町(corporation)が未婚の母達に対する迫害の一群に加わる立派な理由が生じた。・・・

→まことにもって、イギリスは大昔から福祉社会だったのですね。(太田)

 ダボイワラにとっては、「欧米史の全て」は中世のどこかで始まるのだが、あらゆる紳士は、その感じやすい青春期において、悪徳をペトロニウス(Petronius)<(注15)>、オヴィディウス、マルティアリス(Martial)<(注16)>、そしてヴェルギリウス(Virgil)<(注17)(コラム#3444、3926)>から学んだものなのだ。

 (注15)20?〜66年。「ローマ帝国ユリウス・クラウディウス朝期の政治家、文筆家である。第5代皇帝ネロの側近であった人物として知られ、小説「サテュリコン」の作者と考えられている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%82%B9
 『サテュリコン(Satyricon) 』は、「ネロ期の堕落した古代ローマを描いた小説。その内容の退廃性や登場人物の悪徳ぶりからピカレスク小説にも分類されるが、風刺的な内容もふんだんに含まれている。現在には完全な形では残っていない。その中でも比較的分量の残っている「トルマルキオの饗宴」の場面は有名。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%86%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%B3
 (注16)Marcus Valerius Martialis。40年〜102…104年。イベリア半島出身のラテン語詩人。「86年から103年の間に発表された12巻のエピグラム(エピグラムマタ、警句)の本で知られている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%B9
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%B9
 「古代ギリシアのエピグラム・・・(警句、寸鉄詩、epigram)・・・は、神聖な場所に奉納する運動選手の像などの捧げもの、および墓碑に刻む詩として始まった。・・・古代ローマのエピグラムは、多くをギリシアのものに負ってはいるものの、より風刺的で、効果を狙って猥褻な言葉が使われることも多かった。・・・ラテン語のエピグラムの巨匠といえば、マルクス・ウァレリウス・マルティアリスだろう。マルティアリスは最終行にジョークを置く風刺詩は現代の、ジャンルとしてのエピグラムの概念にかなり近いものである。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%94%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0
 (注17)Publius Vergilius Maro。BC70〜BC19年。古代ローマのガリア出身の詩人。「。『牧歌』、『農耕詩』、『アエネイス』という3つの叙情詩及び叙事詩・・・を残した。・・・遺稿として残された『アエネイス』(「アエネアースの物語」の意)はウェルギリウスの最大の作品であり、ラテン文学の最高傑作とされる。・・・『アエネイス』は十二巻からなり、ホメーロスの『イーリアス』と『オデュッセイア』に範を取った叙事詩である。・・・トロイアの王子でウェヌスの息子であるアエネアースが、トロイア陥落後、地中海を遍歴し、保護者となったカルタゴの女王ディードー<(コラム#2789、3269)と>の恋愛を棄て(第4巻)、イタリアにたどり着く。ティベリス川を遡り、パラティヌス丘にのちにローマ市となるパッランテウム市を建設したエウァンデルと同盟を結び、土着勢力ルトゥリ族の首長トゥルヌスを倒して、ラウィニウム市を建設する。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%82%B9

 また、<あらゆる紳士>は、自分の政治的敵対者達を、胸糞が悪くなるような好色漢として描くことによって中傷する、という方法を身に着けたものだ。
 ダボイワラは、ロチェスター(Rochester)<(注18)>による、チャールズ2世に関する有名な風刺文を引用する。

 (注18)John Wilmot, 2nd Earl of Rochester。1647〜80年。イギリスの放蕩詩人、チャールス2世の友人、風刺的かつ卑猥な詩を多く書いた。金持ちの家督相続人たる妻を持ちながら、当時の有名女優のエリザベス・バリー(Elizabeth Barry)を始めとする大勢の情婦を抱えた。ロチェスターの生涯を映画化したのが、ジョニー・デッブ主演の映画『リバティーン(The Libertine)』(2004年)だ。
http://en.wikipedia.org/wiki/John_Wilmot,_2nd_Earl_of_Rochester

 この国王の笏(sceptre)とペニスの長さが同じであったとする風刺文を・・。
 しかし、ダボイワラは、この詩の中で、この国王のフィクション的な持続勃起症(priapism)が、その絶対権力への欲望を意味していることに、明らかに気付いていない。
少なくとも、ジュヴェナル(Juvenal)<(注19)>以来、猥褻性は、政治的風刺の本質的道具であり続けた。

 (注19)デキムス・ユーニウス ユウェナーリス(Decimus Iunius Iuvenalis)。古代ローマの1世紀末から2世紀初にかけて活躍した詩人。サトゥラェ―諷刺詩(Satires)の著者。
http://en.wikipedia.org/wiki/Juvenal
http://www.amazon.co.jp/s?_encoding=UTF8&search-alias=books-jp&field-author=Decimus%20Iunius%20Iuvenalis

 政治的敵対者の評判を悪くする一つの方法として、性的逸脱の汚名を着せることは、常にそうだったけれど、<とりわけ、>苦労して息をしなければならない(pursy)病的状態(fatness)の時代にあっては、効果的だった。
 <例えば、>野心的な同性愛の男性政治家達は、それでも、女性と結婚する必要があった<ところ、彼らの評判を悪くする効果的な方法と言えば、自ずから明らかだろう。>・・・」
http://www.guardian.co.uk/books/2012/jan/22/origins-of-sex-review
(1月23日アクセス)

3 終わりに

 改めて、セックスが芸術活動の原動力になってきたこと、かつ、セックスが芸術活動の重要なテーマとなってきたことを痛感させられました。

 もう一点。
 ダボイワラ言うところの、(少なくともイギリスにおける)第一次性革命なるものは存在しなかった、という批判に私は与します。
 というのは、私は、特定の社会における性意識は、その社会が抱懐している文明の基本に関わるが故に、変わりにくいと考えているからです。

 ところで、英ヨークシャー州立大学のジョージ・ポットマン教授が、欧米は、キリスト教の贖罪の思想から、押しなべて一貫してマゾ文化の社会であったのに対し、日本は、男性の女性遍歴を描いた源氏物語からも分かるように、昔から一貫してサド文化の社会であったのが、平成に入ってから急速にマゾ文化の社会に変貌しつつある、と主張しています
http://www.pideo.net/video/youku/e80ec82dfcc5cecb/
(コラム#5267参照)が、これも同様の早とちりではないでしょうか。
 ご存じのように、私は日本文明の基底は手弱女振りの縄文モードであり、この基底の上に薄く乗っているだけの、益荒男振りの弥生モードへと時々振れる(逸脱する)、というサイクルを繰り返してきたのが日本の歴史である、と考えており、昭和期から平成期というのは、日本が縄文モードへどんどん回帰して行っている時代である、という認識です。
 すなわち、平成に入ってから、日本の手弱女振り化、すなわち日本人、とりわけ日本人男性の中性化、が顕著になってきていることは事実であるものの、それを日本のサド文化からマゾ文化の社会への変化ととらえること、いわんや、それを日本における初めての変化ととらえることは、早とちりだと私は思うのです。
 この話は、機会があれば、改めて取り上げたいですね。
 
(完)

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太田述正コラム#5266(2012.1.28)
<第一次性革命はあったのか(その3)>(2012.5.13公開)

4 批判一辺倒の書評

 「・・・ダボイワラの典拠は、びっちりと100頁にわたって印刷されているが、それらの典拠は、彼が論じることとしたトピックに関する流行を追った理論的議論に係るものだ。
 <しかし、>彼は、自分の基本的諸仮定を<人々の>実際のふるまい<と突き合わせること>で検証するすることをやっていない。・・・
 <そもそも、>放蕩者的テキストやリバタリアン的テキストは、<18世紀どころか、>文学発生以来存在する。
 ダボイワラのこの分野に関する説明が余り説得力がないのは、彼が英語<文献>だけを用いているからだ。
 歴史的には、反体制文学(subversion)とポルノ文学は、女性や召使いには読めない言語で書かれた危険でエロな著作を集めて貸し借りをし合うという選択肢を持ったところの、教育程度の高い紳士達の領域に属した。
 例えば、<彼らは、>オヴィディウスの『愛の歌(Elegies)』<(注6)>は、ラテン語のものを容易に入手することができた。

 (注6)原題はAmores(The Loves(英語)=恋の歌)だが、英語圏ではエレジー集(Elegies)とも呼ばれるようだ。オヴィディウス(Ovid(英語)=Publius Ovidius Naso。BC43〜AD17年)は、「古代ローマ、「アウグストゥスの世紀」に生きた詩人<であり、>・・・彼は『愛の歌』をギリシア神話を参考に書いたが、あまりに露骨な性的描写が多かったため、実際に読んだアウグストゥス帝が激怒し、紀元8年、黒海沿岸の僻地であるトミス(現在のコンスタンツァ)へ流されそこで没した。最も有名な作品は、『変身物語』である。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A6%E3%82%B9
http://en.wikipedia.org/wiki/Ovid
http://www.poetryintranslation.com/PITBR/Latin/Amoreshome.htm

 この本がマーロウ(Marlowe)<(コラム#479、916、3844)>によって英語に翻訳された時になって、<初めて、イギリスで>この本は燃やされた。・・・
 ダボイワラが、バイロン<(コラム#3373、3734)>の極めて反体制的な諸観念を何度も引用するが、バイロンがイギリスを嫌悪感を抱いて1816年に去ったのは、<イギリスでは>いかなる種類の革命も展望することができなかったからだ、ということに気が付いていないことは明白だ。
 色欲と偽善のルールは、<大昔から>今日に至るまで挑戦されることなく存続しているのではないか。・・・
 少年や妾との、子作りを目的としない、工夫をこらしたセックスなどというものは、<一貫して>欧州社会の極めて恵まれた階級が当然視した特権だった。
 1526年<時点でも>、いかなる当局でも、それがどんなに高い地位の当局であれ、フェデリゴ・ゴンザガ(Federigo Gonzaga)<(注7)>が、自分のパラッツォ・デル・テ(Palazzo del Te)<(注8)>の飾り棚に飾るためにジュリオ・ロマーノ(Giulio Romano)<(注9)>に裸体の男女が16の異なった体位で性交しているイラストを提供するよう委嘱することを妨げるどころか、止めるよう説得することすらできなかった。

 (注7)マントゥア・・北部イタリアの臍の位置にある都市・・侯爵Federico II Gonzaga。後の公爵。1500〜40年。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mantua
http://en.wikipedia.org/wiki/Federico_II_Gonzaga
 (注8)イタリア語で正規にはPalazzo del Tと称される。マントゥア(Mantua)に、1524〜34年に、ギウリオ・ロマーノの設計で建設されたところの、マナリズム(mannerist)建築の最も優れたものの一つ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Palazzo_Te
 (注9)1499?〜1546年。ラファエルの弟子のイタリアの画家、建築家。ちなみに、件のイラスト集のタイトルが最初に出版されようとした時のタイトルは、まことに露骨な、『やり方(The Ways=I Modi)』だった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Giulio_Romano
 『やり方』に収録されていた16のイラスト(を彫版し、印刷したもの)をご覧になりたい方は下掲の下方の16の小さい画像を、それぞれクリックされたい。
http://en.wikipedia.org/wiki/I_Modi

 マルカントニオ・ライモンディ(Marcantonio Raimondi)<(注10)>によって、そのイラスト集を印刷するための版木がつくられた段になって、ようやく時の法王クレメンス(Clement)7世が介入し、版木は破壊され、ライモンディは投獄されようとした。

 (注10)1480?〜1534?年。イタリアの彫版師。もっぱら絵画を彫版し、絵画の大量頒布を可能にした人物の一人。件の咎で短期間投獄されたが、有力者達のとりなしにより、釈放された。
http://en.wikipedia.org/wiki/Marcantonio_Raimondi
 ライモンディは、まだロマーノが原画を描いている最中にそれを見に来て、それを勝手に彫版し、1524年に出版したことが咎められたもの。
 ロマーノが咎められなかったのは、公刊する意図があって描いたわけではなかったからだ。
http://en.wikipedia.org/wiki/I_Modi 前掲

 <それでも、>ロマーノのイラスト集のいくつかは生き残った。
 <そして、今度は、>1527年に、ピエトロ・アレティーノ(Pietro Aretino)<(注11)>が、(人々の使っていたイタリアの共通の言葉で)『16の色情ソネット集(Lust Sonnets=Sonetti lussuriosi)』を<この>イラスト集を<、それに自作の詩を書き込んだ形で、>世に出した。

 (注11)1492〜1556年。イタリアの著述家、劇作家、詩人、風刺家
http://en.wikipedia.org/wiki/Pietro_Aretino

 <しかし、こうしてできたところの、イラスト集の>この第2版の版木も没収され破壊された。
 それでも、『アレティーノの体位集(Aretino's Postures)』と呼ばれるところとなったところのものは、その評判が欧州中に鳴り響いた。
 <実に、あの>シェークスピアが言及した唯一の芸術家は、「あの稀なるイタリア人の巨匠、ジュリオ・ロマーノ」だった、ときたものだ<(注12)>。・・・

 (注12)シェークスピアの『冬物語(The Winter's Tale)』の第2幕第5場に、女王ハーマイオニー(Hermione)の彫像が「あの稀なるイタリア人の巨匠、ジュリオ・ロマーノ」によってつくられたとというくだりがある。もっとも、ロマーノは彫刻家ではなかったが・・。(ジュリオ・ロマーノのウィキペディア前掲)

 性革命が起こったのか起こらなかったのかはともかくとして、『アレティーノの体位集』については、いまだにまともな英訳が出ていない。
 2008年には、<ロンドンの>カドガン・ホール(Cadogan Hall)でのマイケル・ナイマン(Michael Nyman)による『色情ソネット集』からとったいくつかの色情歌<(注13)>の演奏が行われる段取りが決まろうという時に、これらの詩の英訳を見せたところ、ホール当局は、慌ただしくこの<演目の演奏禁止と>演奏会のプログラム回収を命じた。

 (注13)ナイマンは、2007年に、アレティーノの作詩した16のソネットのうち8つに音楽を付けた。(アレティーノのウィキペディア前掲)

 アレティーノは、まだイギリス人が扱うにはアブナ過ぎた、というわけだ。

(続く)

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太田述正コラム#5264(2012.1.27)
<第一次性革命はあったのか(その2)>(2012.5.12公開)

3 批判も織り込んだ書評

 「・・・近代物理学の基礎がアイザック・ニュートンによって敷かれたとすれば、色欲と誘惑に関する近代的諸観念は、ニュートンの時期以降のジャーナリスト、宮廷人、放蕩者(rake)、小説家、哲学者、社会改革者の一群(roll-call)によって打ち立てられた。
 <この近代的諸観念の>新しい諸仮定には、性的欲望は自然の衝動であるからして自然のはけ口が追求されるべきであること、婚姻外性交は人生にはつきものであることからセックスの道徳性において同意が決定的な役割を果たしうること、しかし、同時に、女性は生来、より「貞淑」であることから<、この同意形成の>標準的パターンは無辜の女性の男性による誘惑によるものであること、といった諸仮定も含まれていた。
 この結果、不可避的に二重基準が導かれた。
 すなわち、男性が大勢の女性と寝るのは遊んでいる(have fun)に過ぎないけれど、複数の男性と寝た女性は売春婦であって、彼女はその本質的に女性らしいところの本性を放棄している、という二重基準が・・。・・・
 ・・・そうすると、すぐに問題が生じる。・・・<これとは対蹠的な、19世紀の>ヴィクトリア期の抑圧的な性道徳をどう説明するかという問題が・・・。
 ちなみに、この本は、18世紀のそれと異なった姿勢が<性に対して>ヴィクトリア期にとられるようになったことについての説明を行っていない。
 <この本の>現代の読者達は、グラッドストーンが「堕ちた女性達」を捜すために、深夜、ロンドンの街路を徘徊した<(コラム#3798)>と聞いてくすくす笑うかもしれない。
 しかし、堕ちた女性達に憑りつかれることは、ヴィクトリア期の道徳主義の中心的様相であっただけでなく、18世紀・・・(その後永続化するところとなる)良い心を持った身持ちの悪い女(tart with a heart)という近代的フィクションの原型の1740年代における出現・・・の直接的承継物でもあるのだ。 
 上流社会向けの高級売春婦(courtesan)達は、全国的な有名人となり、自分の名声を気味の悪いほど現代的な方法で演出(manage)した。
 宣伝的な離れ業として、<高級売春婦の>ファニー・マレー(Fanny Murray)は、(現在なら2,000ポンドに相当するところの)20ポンド紙幣をサンドイッチに挟んで食べることで、こんな金額は無に等しいと、<少額のカネに対する>侮蔑意識を示そうとした。

→同じ18世紀に、江戸に花魁が登場し、「人気の花魁は「遊女評判記」などの文学作品に採り上げられたり、浮世絵に描かれることもあった」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E9%AD%81
ことを思い起こさせる。(太田)

 このような、売春に対する、<以前に比べて>より寛容な姿勢は、彼女達は<、男性達によって、>そのより善い自然の姿に反して甘言で誘い込まれた、という新しい仮定の下における、この女性達を「救う」ための眦を決した努力、と一対のものだった。
 <こうして、>1750年代には、ロンドンに二つの新しい施設が開設された。
 懺悔した売春婦の教護院(reformatory)である「モードリン病院(Magdalen Hospital)」<(注4)>と、誘惑される危険性があると見なされた貧しい少女達が召使いになるための訓練を受けた「ロンドン保護施設(London Asylum)」<(注5)>の二つだ。

 (注4)1758年にロンドンに開設された。かかる目的のための世俗的な施設としてはイギリス最初のもの。
http://www.jstor.org/pss/3787385
 (注5)インターネット上では、この施設に言及したとおぼしきものは下掲のみ。↓
http://books.google.co.jp/books?id=xlsDAAAAMAAJ&pg=PA146&lpg=PA146&dq=London+Asylum;girl;servant&source=bl&ots=Zc1ekJvOZB&sig=OrzTcOcOIOw1gSZfUqQcpa8lAcg&hl=ja&sa=X&ei=36giT8qQCe6ziQeQn_XhAw&sqi=2&ved=0CFcQ6AEwBg#v=onepage&q=London%20Asylum%3Bgirl%3Bservant&f=false

 いわゆるモードリン・ハウスの方は、すぐに世界の英語圏全体に広まり、その1世紀足らず前には考えられなかったことだが、それは、人気のある慈善活動の中の主要な重点の一つとなった。・・・

→最初から福祉社会であったイギリスの面目躍如たるものがありますね。(太田)

 ・・・<しかし、ダボイワラは、18世紀に性革命が起こった・・ヴィクトリア期にはそれがまた変化したように見える・・というが、イギリス人の性意識には、「第一次性革命」以前から、一貫してそれほど大きな変化はないのではなかろううか。>
 例えば、<「第一次性革命」期とヴィクトリア期の過渡期たる>1800年には、結婚する女性の40%は妊娠していた<、という事実がある>。・・・
 また、この著作の大いなる強みは、社会、文化、文学、及び哲学にわたる全ての種類の要素を渉猟しているところにあるけれど、性に対する姿勢における<第一次>革命の実際の原因を突き止める段になると、それが障害になったとさえ言えそうだ。
 <すなわち、著者は、原因を絞り込むことに成功していない。>・・・
 もう一つの問題は、ダボイワラが援用する諸要因、例えば、1688年の「名誉革命」のイデオロギー的諸帰結<として第一次性革命が起こったとも言える>、というのは、<「第一次性革命」が、まるで>イギリスないし英国特有のことで<あるかのような話で>あるけれど、<このような>性に対する諸姿勢<の変化>は、啓蒙時代の間に残りの欧州で生じた諸変化とほぼ同じようなものである、という点だ。・・・
 この本の最初のあたりで、彼は、女性の方が好色で貪欲な性であると<ずっと>見られていたけれど、それが17世紀末になって、男性が女性を誘惑する傾向があるということが一般の注意を引くに至った、と主張する。
 もとより、私は、何世紀にもわたって、神学者達や医学理論家達が、より劣り、より理性的でない女性の本性について書いてきた、ということに疑いをさしはさむつもりはない。
 しかし、<性についての>研究成果として知識人達が書いたことと、酒場で一般の人々が<性について>思<い語>っていたこととの間に違いがずっとあった可能性もまた、否定できないのだ。・・・」
http://www.telegraph.co.uk/culture/books/bookreviews/9027439/The-Origins-of-Sex-by-Faramerz-Dabhoiwala-review.html
(1月24日アクセス)

(続く)

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太田述正コラム#5260(2012.1.25)
<第一次性革命はあったのか(その1)>(2012.5.10公開)

1 始めに

 「イギリス史とロシア史が共鳴した瞬間」シリーズを書き綴っていて、何となく陰陰滅滅たる気分になってきたので、「明るい」シリーズを、途中で挿入して生気を取り戻すことにしました。
 ネタは、ファラマーズ・ダボイワラ(かな?)(Faramerz Dabhoiwala)の『セックスの起源--第一次性革命の歴史(The Origins of Sex: A History of the First Sexual Revolution)』です。
 近々公刊されるこの本の抜粋、この本の主張に対する批判も織り込んだ書評、そして批判一辺倒の書評、のそれぞれのさわりを順次ご紹介し、私のコメントを付そうと思います。

 なお、ダボイワラは、1969年にイギリスのブリストルで生まれ、様々な国を転々としつつも、主としてアムステルダムで育ち、その後イギリスに戻り、ヨーク大学とオックスフォード大学に学び、後者で博士号を取得し、そのオール・ソウルズ校(All Souls College)を経て、現在エクセター校(Exeter College)で歴史学の講師を務めています。
 この本は、彼の初めての本です。
http://www.history.ox.ac.uk/staff/postholder/dabhoiwala_f.htm
http://www.dabhoiwala.com/Home.html

2 本の抜粋

 「・・・1600年代においては、イギリス、スコットランド、北米、及び欧州全般では、人々は、まだ姦通罪で処刑されていた。
 欧米のすべてで、婚姻外のセックスは違法であり、教会、国家、及び一般の人々は、それを暴き処罰することに巨大な努力を傾注していた。・・・
 イギリスのアングロサクソン<時代>の国王達の諸法典においては、女性を動産(chattel)扱いするとともに、既婚の男性が自分の奴隷と姦淫することを禁じ、私通男(fornicator)達は公的に辱められ、財産を没収され、その耳や鼻を切り落とされるものとされていた。
 このような厳しさは、キリスト教の教会の、セックスを危険なまでに汚染性のある力とする見解、及び女性は男性よりも好色で道をはずれがちであるという家父長的通り相場、を反映していた。
 中世末期においては、ロンドン、ブリストル、そしてグロースター(Gloucester)といった場所では、有罪と決したところの、売春婦達、売春宿経営者達、私通男、姦婦(adulterer)は精緻なる儀式的処罰の対象となった。
 すなわち、彼らは、髪の毛が剃り落されたり、特別に卑しめられた出で立ちをさせられたりして、ひどく鞭打たれ、晒し台か檻で晒し者にされ、公的に屈辱を与えるために引き回され、コミュニティから永久に追放された。
 宗教改革は、これらの態度の一層の強固化をもたらした。
 最も熱心なプロテスタント達は、姦通等の性的犯罪に対して聖書に基づく死刑を再び科すべく激しく運動をした。
 ピューリタンの原理主義者達が権力を掌握した所・・ジュネーブ、ボヘミア、スコットランド、ニューイングランドの植民地群、そしてイギリスそれ自体・・全てで、彼らはこの目的を追求した。
 ピューリタン達がイギリス内戦で議会側を勝利に導き、国王を処刑し君主制を廃止すると、彼らは、1650年の姦通罪法を採択した。
 爾後、姦通者達と度し難い私通者達と売春宿経営者達は、それまでの男色者達と両刀使い者達同様、単純明快に処刑されることとなった。・・・
 17世紀の・・・婚外子達の数・・・は極めて低かった。
 1650年にはイギリスで生まれた子のわずか約1%しか非嫡出子はいなかった。
 ところが、1800年においては、<教会の>祭壇の前に<イギリスの>40%近くの花嫁が妊娠して現れ、最初の子供達全員の約4分の1は非嫡出子だった。・・・
 そして、1800年までには、男と女の間の同意によるセックスの大部分の形態は、法の領域外の個人的なものとして扱われるようになった。・・・
 <しかし、>特に、同性愛の行為は、次第に暴力的な度合いが増大する形で迫害されるようになった。
 18世紀を通じて、男色に対して日常的に処刑が行われた。
 1830年にはこの罪を犯したものが絞首刑に処されることはなくなったが、その後においても、何千人もの男達が、その自然に反する倒錯に対して晒し台で公的に屈辱を与えられるか刑務所にぶちこまれた。
 オスカー・ワイルド(Oscar Wilde)<(注1)>が1895年に重労働付きの2年間の投獄に処されたのは、単に最もよく知られた例に過ぎない。・・・

 (注1)Oscar Fingal O'Flahertie Wills Wilde。1854〜1900年。「アイルランド出身の詩人、作家、劇作家。・・・出獄後、失意から回復しないままに没した。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%89

 男色は世界の最も偉大なる諸文明全てにおいて受け入れられている、というのが若き僧職たりトマス・キャノン(Thomas Cannon)<(注2)>の『古代と現代の対少年鶏姦(Ancient and Modern Pederasty)』(1749年)の主題の一つだった。

 (注2)イギリスの18世紀の著述家。最初の近代的性愛文学たる『ファニー・ヒル(Fanny Hill)』・・原書で読めば英語の勉強に絶好!・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%92%E3%83%AB
の著者のクレランド(John Cleland)は、キャノンの借金を返さなかった廉で投獄され、獄内でこの小説を執筆するも、その間も両人の関係は更に悪化し、出獄してから、クレランドはキャノンを男色等で告発したため、キャノンは3年間国外逃亡をする羽目となり、結局、帰国後、キャノンは再び執筆等の活動をすることなく生涯を終えることとなる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_Cannon

 「ちょっとした通(dabbler)なら誰でも、自分が読んだ古典を通して、少年愛は啓蒙的な時代のほとんどにおいて、最高に洗練された行為だったことを知っている」と彼は指摘する。
 ヨークシャーの淑女たるアン・リスター(Anne Lister。1791〜1840年)<(注3)>がその日記の中で英語によるものとしては初めてレスビアン愛を完全に正当化したこと、そして、当時の最も影響力ある改革者であったベンサム(Bentham)が数えきれないほどの個人的議論や何百頁もの覚書や論文で同性愛者の権利を擁護したこと、によって、同種の議論が体系的に発展せしめられた。・・・

 (注3)地主、日記作家、登山家、旅行家。日記の6分の1にあたるところの、自分の性愛を赤裸々に描いた部分は、代数と古典ギリシャ語を組み合わせた暗号で書かれていたが、これが1930年代に解読された。彼女は、しばしば、最初の近代的レスビアンと呼ばれる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Anne_Lister

 欧米文明の夜明け以来、女性は男性よりも好色であると見なされてきた。
 女性は、メンタルに、道徳的に、そして肉体的に男性よりも弱いために、自分の情熱をコントロールする能力が低く、男性よりももっと、(イヴのように)他者を誘惑して罪を犯させる存在である、というのだ。
 しかし、1800年までには、そのまさに正反対の考えが根強くなった。
 今日では、男性は、女性よりも生来的に性衝動が強く、女性を誘惑しがちであると信じられている。
 女性達は、男性に比較してデリケートで性的に防御的で男性の強欲に対して常に警戒を怠ってはならないものとされる。
 女性達の相対的な性的受動性の観念は、欧米世界全般の性的動態にとって基本的なものとなったのだ。
 このことの効果は遍在的なものとなったが、今もなおそうだ。・・・
 近代的思考方法において同じく重要なのは、<特定の>人種と階級の次第に募る性欲化(sexualisation)だ。
 下層階級と非白人女性が性的により抑制的ではないとの仮定は、調査事項兼心地よい興奮(titillation)事項とあいなったのだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/books/2012/jan/20/first-sexual-revolution
(本の抜粋。1月22日アクセス)

(続く)

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太田述正コラム#4232(2010.9.3)
<性差は自然なものかつくられたものか(その2)>(2010.10.3公開))

 (2)性差はつくられたもの

 「・・・両性間には基本的なふるまい上の差があるけれど、これらの差は年を経るに従って増大するということを銘記すべきだ。
 これは、我々の子供達の知的諸傾向(bias)が、我々の性分化的(gendered)文化によって誇張され強化されるからなのだ。・・・
 ・・・少年達が改善された空間<把握>能力を発達させるのは、生来の優越によるのではなく、彼等が、とったり投げたりすることにおける専門的識能が求められるスポーツにおいて強いことを期待され励まされるからだ。
 同様に、少女達はより感情的で饒舌であることが予想されているがゆえに、彼女達の言語能力が先生方や両親達によって強調される。・・・
 ・・・小さい子供達の言語発達のわずか3%しか性に起因していない<というのに>。・・・」(A)

 「・・・2つの問題がある、とファイン博士は言う。
 第一に、様々な研究によっても、新生児の脳の両半球に差は発見されていないことだ。
 女性の方が大きいとされる脳梁についても<本当にそうなのかどうか、>議論がある。
 しかし、仮にこの大きさの差が事実存在するとしても・・実際大型のネズミでは差は存在する・・「脳<の差>からふるまい<の差>への因果関係を立証することは容易ではない、と彼女は言う。
 仮に脳に性差が存在するとしても、「それが頭の<働きの>差に実際いかなる意味を持つのか?」と。
 バロン=コーエン(Baron-Cohen)博士は、この理論を前提にして、テストステロンの低い水準が女性に共感(empathy)の「E型」の脳をもたらし、中位の水準の分泌量(yield)は均衡のとれた脳をもたらし、高い水準は男性に体系化的(systemizing)な「S型」の脳をもたらす、と示唆した。
 中位の水準<の分泌量>は、少女達の幾ばくかが体系化的であって少年達の幾ばくかが共感的であることを説明する、と。
 バロン=コーエン博士の実験室で行われた、両親による性差の無意識のうちの教え込みが行われる前の、生後1日半の乳児達に関する研究がある。
 この研究を行った大学院生の1人・・・は、動くオモチャ(mobile)を見せてから、彼女自身の顔を乳児達に見せた。
 その結果、生まれたばかりの男の子達は動くオモチャの方を、そして女の子達は顔の方をより長く見つめたことが示された。
 ファイン博士は、とりわけ<この研究の>設計上の諸欠陥・・<上記大学院生>がこの赤ん坊達の幾人かの性を知っていたという事実・・に言及することで、この研究をぶち壊す。
 この赤ん坊達が見つめていたのは彼女の顔であり、彼女が動くオモチャを持ち上げていたのだから、彼女は、「不注意にも、男の子達に対しては、動くオモチャをより多く動かしたし、女の子達に対しては、より直接的に、或いはより大きな目をして見つめたかもしれない」とファイン博士は言う。
 もちろん、この研究を、これらの欠陥を除去して再度行うことは可能だ。
 そして、同じ結果が出るかもしれない。
 しかし、ファイン博士は問いかける。
 「新しく生まれた子供達が何を見つめることを好むかが、将来の能力や関心を探るための・・それがどれほど汚れたものであれ・・一種の窓たりうる、とどうして考えることができるのか」と。
 この研究を総括して、彼女は、「存在しない脳梁構造の性差によって調停されるところの、存在しない言語の脳半球の左右分化が、存在しない言語能力の背差を説明する、と広く信じられている」と記す。
 これらすべてを踏まえると、結論は、そんな<思い込み>は神経性差主義(neurosexism)とでも呼ばれるべき代物だということだ・・・と。・・・」(D)

3 終わりに

 ボーボワールは、『第二の性』(コラム#3965)の中で、「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」と主張した
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E4%BA%8C%E3%81%AE%E6%80%A7
わけですが、ファインの主張が正しければ、ボーボワールは正しかったということになるわけです。
 そして、もしそうであれば、私自身、日本における男女共同参画社会、男女平等社会の実現を強く訴えてきたにもかかわらず、例えばコラム#4039におけるように、性差を強調するとともに、いささか女性を貶めるような記述を行ってきたことに反省を迫られることになります。
 それはそれとして、ジェンダー論の分野でも、学問は日進月歩だな、とつくづく思いますね。

(完)

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太田述正コラム#4230(2010.9.2)
<性差は自然なものかつくられたものか(その1)>(2010.10.2公開)

1 始めに

 私は、かねてより日本において男女平等社会の構築も目指しているところ、コーデリア・ファイン(Cordelia Fine)の 『性の思い違い(Delusions of Gender)』 という、性差はつくられたものであるとする本が出たからには、ぜひ紹介しなければなりますまい。

A:http://www.guardian.co.uk/world/2010/aug/15/girls-boys-think-same-way
(書評。8月15日アクセス)
B:http://content.usatoday.com/communities/sciencefair/post/2010/08/neurosexism-cordelia-fine-interview/1
(著者との一問一答。8月29日アクセス(以下同じ))
C:http://www.huffingtonpost.com/cordelia-fine/a-career-in-gender-think_b_673261.html?view=print
(著者による解説)
D:http://www.nytimes.com/2010/08/24/science/24scibks.html?_r=1&pagewanted=print
 (書評(以下同じ))
E:http://www.newsweek.com/blogs/we-read-it/2010/09/01/delusions-of-gender-how-our-minds-society-and-neurosexism-create-difference.print.html
(9月2日アクセス)

 なお、ファインは、ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジで認知神経科学の博士号を取得し、オーストラリアのマッカリー(Macquarie)大学を経て、現在、メルボルン(Melbourne)大学でリサーチ・フェローしています。(D、B、E)

2 性差は自然なものかつくられたものか

 (1)性差は自然なもの?

 「・・・神経学者のチャールス・ダナ(Charles Dana)博士は、脊髄と脳幹における性差は、女性に投票権を与えることの妥当性について注意深く考える必要性を示している、と・・・示唆<した。>・・・」(C)

 「・・・過去においては、人々は、女性が票を投じることや大学に通ったり、医学、法、あるいは生物学を学ぶことを想像することには明らかに困難を覚えていたものだ。
 今日、比較的短い期間で<女性に対する見方に>大きな変化が生じたにもかかわらず、我々は、いつの日か女性がフィールズ賞とノーベル賞をかっさらうようになるかもしれず、そのことによって、ハードウエア上の理由によって数学と科学能力において<女性が男性よりも>劣っているという諸仮説が、高等教育が女性を不妊にしてしまうとの観念同様に間違っているということになるとは、容易に想像できないのだ。・・・」(B)

 「・・・最近では、みんなが、男性と女性との間に生来的な差があることを指摘しているように見える。
 ルーアン・ブリゼンダイン(Louann Brizendine)の『男性脳(The Male Brain)』は、単純に、男性は女性よりも感情的ではないと主張する。
 レナード・サックス(Leonard Sax)は、女の子と男の子の異なったニーズを満たすために男女別教育をしなければならない、と先頭に立って次第に強く呼びかけてきた(注)。

 (注)「<男女の>脳の違いというのは、インチキ(junk)科学の産物なのかもしれない。しかし、男女別教育は必ずしも悪いことではない。ある研究は、女子学生が女子大に長く在籍していればいるほど、女性がリーダーシップをとることを当たり前だと思う傾向が高まることを発見した。これは、<多くの>女性の教授陣の薫陶を受ける結果であると思われる。<逆に、>女子学生達が共学の大学にいると、その大学に長くいればいるほど、女性が権力の座にすわることを当然視しなくなる傾向が高まるのだ。」(E)

 世界経済フォーラムでさえ、最近、企業は男性と明確に異なるところの女性の能力を活用することに失敗している、と示唆した。・・・」(E)

 「・・・専門家達は、男女不平等は、かつて、女性の「能繊維の繊細さ(delicacy)」に起因するとしていた。
 次いで、女性の脳が小さいということになった。(ヴィクトリア朝の人々は、「<女性に>欠けている5オンス」とそれを表現した。)
 次いで、頭蓋骨の立て幅と横幅の比率のためだ、ということになった。
 また、1915年には、・・・ニューヨークタイムスに、チャールス・L・ダナ博士が、女性の脊椎上部が男性よりも小さいので、それが女性の「コミュニティー組織における政治的イニシアティブないし司法的権威(authority)」を評価する「効率性」に<悪い>影響を及ぼしており、彼女達の投票能力を阻害している、と書いた。
 当時は、男女不平等は、神経学的な差、すなわち、胎児の生育第8週目に起きるテストステロンのシャワーが脳の右半球と左半球の相対的大きさ、及びこの両半球を連結する神経細胞の束である脳梁に影響を及ぼすという観念、によって最も一般的に説明されていた。
 そして、1980年代にノーマン・ゲシュウィンド(Norman Geschwind)は、<この>シャワーは、男性の左半球を小さくし、右半球を発達させるより大きな潜在的可能性をもたらし、それが、彼に言わせれば、<男性に>「芸術的、音楽的、あるいは数学的能力といった右半球的能力の優越」をもたらす、という考えを提示した。
 女性の脳では、両半球はより協力的であり、そのことが、女性の言語能力の優越を説明する、というのだ。・・・」(D)

(続く)

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太田述正コラム#3315(2009.6.4)
<調理が人類を誕生させた?(続)>(2009.10.13公開)

1 始めに

 表記について、コラム#3299を書いた時点でみつけられなかった資料や、その後登場した資料をもとに、続編を提供することにしました。 
 コラム#3299との間の、また、私が今回紹介する各種資料の間における若干の重複は大目に見て下さい。

2 調理が人類を誕生させた?

 「・・・消化器の大きさと脳の大きさの関係を最初に発見したのはレズリー・アイエロ(Leslie Aiello)とピーター・ウィーラー(Peter Wheeler)だった・・・。・・・
 チンパンジーは・・・食物を分かち合おうなどとはほとんどしない。せいぜい、連中はこそ泥を看過する程度だ。
 他方、人間は、すべての文化において、配偶者達、子供達、そしてより遠い親戚のネットワークの中で、調理された食物を儀式的に分かち合う。
 <仮にリチャード・ランガム(Richard Wrangham)の新理論が正しいとすると、我々は狩猟採集者を>狩猟採集調理者(hunter-gatherer-cooks)<と呼ぶべきかもしれない>。・・・
 彼に言わせると、女性達が大部分の社会で調理の大部分を行っており・・彼はこれを生物学的必要性としてではなく歴史的現象として叙述する・・、食料に係る分業が婚姻契約及び典型的人間家庭の前駆形態の始まりだったのかもしれないのだ。
 もしそうだとすると、ランガムは、結婚は、大部分の人類学者達が主張するような、父性を確保するための原初的契約なのではなく、もっぱら経済目的の契約なのではないか、と主張する。・・・
 ・・・調理のプロセスで、ビタミンCのような化合物や栄養素は破壊されるが、他の多くのもの、例えばリコピン(lycopene<=トマトに多く含まれる赤い色素でカロテノイドの一種>)や各種の抗酸化剤(antioxidant)は増強される。・・・
 調理の一番の果実は、<人間に与えられる自由>時間だ。・・・」
http://www.slate.com/id/2219162/
(6月4日アクセス。以下同じ)

 「・・・火の効用としては、<通常、>捕食動物を追い払ったり熱源や光源として用いたり<することがあげられている>。・・・
 ・・・道具をつくることを学んだことによって、我々の祖先はより多くの動物をつかまえることができるようになった。
 これが、ホモ・エレクトゥスをしてより多くの肉を食べることを可能とし、肉は同じ容量の植物よりカロリー価が高いことから、より小さい消化器で足りるようになったとされる。
 ランガムは異論を唱える。すなわち、人間は生の肉を簡単には消化することはできないので、我々のより小さくなった消化器官は、調理が行われるようになった結果そうなったに違いないと。・・・ 完全に生だけの食生活を送っている者は、その食料を狩猟したり採集したりするために必要なエネルギーを費やす必要がないというのに、例外なく体重を失う。
 我々の祖先には、そんな贅沢は許されなかったことを考えれば、彼らが生の食物だけに依存していたとは考えられない。そんなことをしていたら餓死していたことだろう。・・・
 調理はあらゆることを劇的に変化させた。
 一つには、それは食物を粉砕し噛んだり消化するのにより少ないエネルギーを使えば足りるようにした。
 調理はまた、タンパク質を変性(denature)させ、セルロースのような消化できない炭水化物をより消化しやすい細片へと粉砕することで、食物からより多くのエネルギーを吸収することを可能にしたのだ。・・・」
http://www.newscientist.com/article/mg20227112.500-books-how-fire-made-us-human.html

 「・・・調理は、澱粉から得られるエネルギーを増加させる。というのは、調理されない澱粉の細粒は、しばしば我々の身体をそのまま通過して<排泄されて>しまうからだ。
 熱は、タンパク質を変性し、消化酵素が作用されるようにする。
 また、調理は食物をやわらかくし、消化し易くするので、消化に必要なエネルギーが減少する。
 我々は、食べる食事のカロリーの10%しか消化するために使わない。<このように、一般の動物より少なくて済むのは、>我々が調理するからこそだ。・・・
 生の食物を食べている猿は、ただひたすら噛むのに半日もかける。人間は、噛むのに毎日1時間もかけない。このことによって、我々は創造的かつ社会的な諸活動を行う時間がとれる。・・・
 ・・・チンパンジーだって調理された食物の方を好む。舌で粘度やじゃりじゃり感(grittiness)といった食感を検出する結果、<人間以外の>動物だって自分にとって良い、柔らかい食物を見極めることができるわけだ。・・・」
http://www.publishersweekly.com/article/CA6649179.html

 「・・・農業や肉食や道具の到来よりも、調理の発明の方が人間らしさの向上により多く貢献した。・・・
 ・・・脳は、実に身体のエネルギーの4分の1を費消する。・・・
 調理は、初期の人間がより生産的な活動に自らを投じることを可能とし、やがて道具、農業、そして社会的ネットワークの発達を可能にした。
 調理された食物は、同時に、身体が摂取した食物を単に消化するために費やすエネルギーを減少させた。・・・
 他の学者達は、肉食がホモ・エレクトゥスの興隆を約180万年前に可能にしたとするが、ランガムは、これらの諸理論は、ホモ・エレクトゥスのより小さくなった顎と歯<という事実>と整合しないと言う。
 彼は、そうではなくて、肉食は、それより50万年以上前の、オーストラロピテクス(Australopithecine)からホモ・ハビリス・・チンパンジーと同じくらいの大きさだが、より大きな脳を持つ・・への変遷を可能にしたのだ、と主張する。・・・
 ホモ・サピエンスは、食物窃盗が、それが容易に行える時にさえ、余り行われることがない唯一の種であり続けている。・・・」
http://www.medicalnewstoday.com/articles/152295.php

 「・・・ホモ・エレクトゥスは、160万年から190万年前に初めて登場した我々の祖先だ。
 このホモ・エレクトゥスの脳は、その前任者であるホモ・ハビリスよりも50%も大きく、両者を比べた場合の歯の大きさの減少度合いは、人類が進化において経験した最も大きいものだ。・・・
 大脳組織は、骨に付いている筋肉に比べて22倍ものエネルギーを必要とする。・・・
 ホモ・エレクトゥス・・ホモ・サピエンスとほぼ同じ大きさ・・は、生存するために必要なカロリーを得るためには、毎日約12ポンドの生の植物か、6ポンドの生の植物に加えて生肉を食べなければならない。・・・
 高エネルギーの生肉を食べたとしても、<人間にとっては>大した助けにはならない。
 ランガムは、<人間が>チンパンジー並に噛んだとしても、毎時400カロリーしか得られないことを発見した。ホモ・エレクトゥスだったら、生肉を毎日5.7から6.2時間噛み続けなければ必要なエネルギーを充足できなかったことだろう。
 つまり、食物を集めていない時は、文字通り残りの日がな、その食物を噛み続けていなければならなかっただろうということだ。・・・
 <これに対して、>アイエロとウィーラーは、調理ではなく、濃エネルギーの動物由来の食物、例えば柔らかい髄や脳、の摂取が<小さい顎、歯、消化器といった>特徴をもたらした、と考えているわけだ。・・・」
http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=cooking-up-bigger-brains&print=true

 「・・・チンパンジーについては、平均して、その食物の60%が果実だ・・・<しかし、我々が現在食べているような果物を想像してはならない。食べ易くないしほとんど甘くもないし腹にも良くないのだ。>・・・
 ・・・平均的な人間の食事は、狩猟採集者が摂っている繊維が多い食事ですら、消化できない繊維は5〜10%に過ぎない。しかし、チンパンジーの研究によれば、連中は32%もの消化できない繊維を食べている。・・・
 ある時点までは、<我々の祖先の>肋骨は、チンパンジーやゴリラのようながっしりした体躯のためのものだったが、ホモ・エレクトゥスが登場した時、肋骨は平らになった。つまり、より平らな体躯、よってより小さな消化器、を持ったということを意味する。・・・
 生肉だって<人間にとって>魅力的ではない。カモシカが最もありふれているが、このほかカバとかサイとかのような、アフリカのサバンナのストレスの多い条件下で棲息している動物から切り取った肉の類は特にそうだ。・・・
 ・・・動物性タンパク質<は生のままでは>変性しておらず、タンパク質は固まっている(unfolded)。
 それは通常、内側は疎水性(hydrophobic)物質によって、外側は親水性(hydrophilic)物質によって固く凝縮している。
 変性は、それを解き放つプロセスだ。
 そして、一旦解き放たれると、タンパク質加水分解酵素(proteolytic enzyme)が作用し始める。
 熱は変性を起こさせるので、・・・調理の主要な効果の一つはタンパク質を変性させ、それをタンパク質加水分解酵素が働き得る状態にまで解き放つことにあると考えられる。・・・」
http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=evolving-bigger-brains-th&print=true

3 終わりに

 ランガムの新理論の輪郭がかなり鮮明になってきたように思いますが、いかがでしょうか。
 ところで、結婚が男女間の便宜的な分業契約に過ぎないとすると、かかる分業の合理性がほぼ失われた現在、結婚制度が崩壊していないことの方がむしろ不思議だ、ということになりますね。
 また、調理によって自由時間が飛躍的に増えたおかげで、我々の脳が発達したとして、その後、その脳が人間社会を次第に進歩させ、毎日の自由時間のみならず、平均寿命の延伸によって生涯累計自由時間を加速度的に増やしてきていますが、得られた自由時間を、仕事、生殖/子育て、遊び、創造的活動等にどう配分するか、もっと我々は真剣に考えた方がよさそうですね。

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太田述正コラム#3299(2009.5.27)
<調理が人類を誕生させた?>(2009.10.7公開)

1 始めに

 英米の主要紙を読んでいると、めまぐるしいほど次々に新しい学説が紹介されるのですが、本日は、リチャード・ランガム(Richard Wrangham)の 'Catching Fire: How Cooking Made Us Human' という、人類の起源についての全く新しい説を打ち出した本が上梓されたことを知りました。
 ランガム(60歳)は、英国生まれで40年間にわたってアフリカで野生のチンパンジーの生態を観察してきた人物であり、1989年からハーバード大学で教鞭をとっている生物学的人類学の教授です。
 さっそく、彼の新説のさわりをご披露したいと思います。

2 調理が人類を生誕させた

 「・・・調理された食物は我々おなじみの様々なことをしてくれる。・・・
 それは食物をより安全にし、こくのある(rich)おいしい味をつくりだし、棄てる部分(spoilage)を減らす。
 熱を加えることで、硬い食物を開き、切り、すりつぶすことが可能になる。
 しかし、これら全ての利点は余り知られていない側面・・調理は我々の身体が食物から得られるエネルギー量を増大させる・・ほど重要ではない。
 ・・・この追加的なエネルギーが、最初に調理をした者に生物学的な優位を与えた。
 彼らは、それまでに比べてよりうまく生存し生殖できるようになった。
 彼らの遺伝子は広くばらまかれた。
 <そして、>彼らの身体は、生物学的に調理された食物に適応すべく対応するため、自然淘汰を通じて新しい食事の利点を最大限に生かすように形成される至ったのだ。
 人体構造、生理機能、生態系、個体の発生から死までの生活史(life history)、人間心理、及び人間社会に変化が生じた。
 ・・・調理された食物・・それが肉であれ植物であれその両方であれ・・を食べることで、消化が容易になり、その結果消化器官は次第に短くなった。
 それまで我々が消化に費やしていたエネルギー・・消化にはあなたが想像するよりはるかに多くのエネルギーが必要とされる・・が解放され、我々の脳・・やはり莫大な量のエネルギーを費消する・・が大きくなることを可能にした。
 <また、>火がもたらした暖かさは我々の体毛を抜けさせ、我々はオーバーヒートすることなくより遠くまで走って狩りをすることができるようになった。
 食物を漁った場所で食べることを止め、その代わり火の周りに集まるようになったために、我々は社交的になることを学び、我々の気質は次第に穏和になって行った。
 人類の祖先にとって、このほかにも<調理するようになったことで>良いことがあった。
 ・・・夜、火が守ってくれたので、彼らは地上で眠ることが可能になり、木登りの能力を失い、女性達は男性達のために調理を始めたと考えられ、その結果、男性達はより多くの時間を肉や蜂蜜を探すのに費やせるようになった。
 他のホモ・ハビリス(Homo habilis)・・道具を使用する前人類・・達がアフリカの他の場所で数10万年の間食物を生で食べ続けたのに対し、幸運な集団がホモ・エレクトゥス(Homo erectus)となり、ここに人類史が始まったのだ。・・・
 ・・・完全に生の食物の食事は、適切なエネルギーの確保を保証することができないのであって、ある研究によれば、このような食事をしている女性の50%は月経が止まってしまうことが判明している・・・。
 こんな食事では、人類の祖先は生殖はおろか、生存すら不可能だったろう。
 ・・・<しかも、>生の食事はあなたに頻繁に小便をさせ、<体をおかしくしてしまう。>
 <逃亡者や探検家等の>はぐれ者(castaway)達ですら、・・・生存するためには食物を調理する必要があった<ことが、文献上明らかだ。>・・・

 ・・・<しかし>調理は、女性を男性の権威に対しより脆弱にした・・・。
 調理した食物に依存することで<人間同士の>協力の機会が創出されたが、同じく重要なことは、調理者が搾取されがちになったことだ・・・。
 調理には時間がかかり、調理人達は自分達だけでは、自分の食物がなくて腹を空かせた男性達といった悪意の盗人から調理されたもの等を守ることは困難だった・・・。
 だから、<調理を担当することとなった>女性達は、男性による保護を必要とするようになったのだ。
 結婚制なる・・・「原始的な保護装置」が生まれたのはそのためなのだ。・・・
 ・・・こうして調理は、・・・女性達を男性支配の文化によって押しつけられた新たな従属的役割という罠に陥らしめたのだ。
 ・・・<すなわち>調理は、・・・男性の文化的優位なる新たなシステムを創造し、これを永続化させたのだ。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/05/27/books/27garn.html?_r=1&hpw=&pagewanted=print

 「これまでは、科学者達は、道具作りと肉食が人類への進化の前提条件であるとしてきたところ、・・・<それはあながち間違いではないが一番重要なことを忘れている。>・・・
 チンパンジーは一日の大部分を恐ろしく繊維だらけの食物を発見しそれを噛むことに費やしている。
 連中の食事は人類には向いていない。
 しかし、我々の祖先は、約180万年前に調理された食物を食べ始め、彼らの食事はよりやわらかく安全かつはるかに栄養価の高いものになった。
 そのことが、我々が現代人類と結びつけて考えるところの、直立した身体と大きな脳の発達を促した。
 初期の祖先達は、比較的大きな消化器官と猿のような体型をしていた。
 これに対し、我々の直接の祖先であるホモ・エレクトゥスは、長い脚と長大で大股で歩く身体を持っている。・・・
 一旦人間達が、火のある特定の魅力的な場所に惹き付けられるようになると、彼らは多くの時間を一緒に過ごすようになった。
 これは、チンパンジー的な、ほっつき歩き、欲する場所で眠り、何か社会的紛争があればいつでも集団を去ることができるシステムとは、明確、かつ非常に異なったシステムだ。
 我々は互いに相手の目を見ることができなければならなくなった。
 我々は衝動的に対応してはならなくなった。
 一旦火の周りに腰を下ろすようになると、社会的混沌に導くような衝動的感情の発出を抑制する必要が生じたわけだ。
 こうして、火の周りで、我々はおとなしくなった。
 ・・・180万年前に火を使った者がいたという証拠がない、<との批判があることは承知しているが、>イスララエルで約80万年前に火を使った証拠が発見されている。
 いつかは我々は、<180万年前に火を使った>証拠を手にすることになるだろう。
 <現時点で>既に我々は、強力な生物学的証拠を手にしている。
 我々の歯と消化器は180万年前に小さくなった。
 この変化は、我々の祖先が、より多くの栄養と柔らかい食物を得ていたということによってしか説明することはできない。
 そして、これは、彼らが調理をしていたからこそ起きた、としか考えられないのだ。
 現在のチンパンジーが摂っているような、漁った得た<生の食物の>食事では、<人間には>十分なエネルギーが得られない。・・・

 ・・・<皮肉なことに、>我々は、<調理した>食事に<このように>適応するに至ったところ、我々のライフスタイルは<調理した>食事に適応できていない。・・・
 ・・・必要量よりもはるかに多い量を摂取している<ために、我々がメタボに悩まされていることを想起せよ。>」
http://www.nytimes.com/2009/04/21/science/21conv.html?ref=todayspaper?_r=1&pagewanted=print

 「・・・<要するに、>人類が文明的テクノロジーをつくりだしたのではなく、文明的テクノロジーが我々人類をつくりだしたのだ。・・・」
http://www.publishersweekly.com/article/CA6642078.html

3 終わりに

 人類の生誕に関するこの新説の説得力は高いと思います。
 しかし、この本が上梓されたばかりで、書評や紹介がまだ余り出ていないためだとは思いますが、上記の書評や紹介を読んだ限りでは、調理が女性の男性への隷属と結婚制度をもたらした、という部分については、いささか説明不足の感があります。

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太田述正コラム#3246(2009.4.30)
<女性を惹き付ける方法(おまけつき)>(2009.6.11公開)

1 始めに

 何というタイトルだと思われた読者がいらっしゃるかもしれませんが、あのスレート誌ご推奨の、米エスクワイア(Esquire)誌の一連の記事のうちの一つなので、ご理解をいただきたいと思います。
 なお、米国セックス事情というおまけもつけました。
 私にとっては、どちらのトピックスについても、首をひねる箇所と頷ける箇所がありますが、読者の皆さんがそれぞれどのように受け止められるか、興味があるところです。

2 女性を惹き付ける方法

 「・・・500年前、潜在的な番(つがい)の相手の健康状態や生殖力(virility)を決定する血液検査などなかった頃、最も重要な<判断>基準は外的な美しさだった。
 女性達は、男の身だしなみを、あたかもそれが、どれだけ彼が生殖能力(fertile)を持っているか、つまり、自分にたくましい子供を授けてくれることができるかに関する暗記用問答カード(flash card)のように受け止める。
 人間<の脳>は相互の美を探すよう配線されており、そうするのは避けることができない。
 だから、もしあなたがもう年をとったので、中身が立派な人間であれば、腹<の出具合>や肌<の艶>については全く気にかけなくてもいいと思っているとすれば、それは間違いだ。・・・
 あなたが世界中の女性達に質問したとして、理想的な顎の形や目と目の間の距離については議論百出だろうが、彼女達全員が美しい肌を好むと答えるだろう。
 どうしてか?
 肌は、我々の最も大きな器官であり、常に我々の内なる健康状態を写す鏡だからだ。
 だから、肌を、あなたの髪やウエスト回りとともに手入れすることを怠ってはならない。
 そうすれば、あなたは主観的な自分と客観的な自分とのギャップを埋めることができるかもしれないのだ。・・・
 <では、惹き付けた女性を逃がさないようにするにはどうすればよいのだろうか。>
 あなたが初めて<女性の>誰かに出会った時、あなたはドーパミンを分泌する。これは中毒症状を起こさせるホルモンだ。その人と離れている時の<耐え難い>気持ちを人々は「恋の病」と呼ぶ。あなたは、実際に短期間、他人に対して物理的に中毒症状に陥っているのだ。
 それから更に5年間ほどの長期にわたる関係が始まる。(これは抱擁(cuddling)ホルモンとしても知られるオキストチンによって引きおこされる。)
 これは、このペアが結びついて子供を育てるのにちょうどぴったしの年月なのだ。
 その時点で、化学的な手錠ははずされる。
 ここで話を複雑にする要素がある。
 女性達はその男がそうなることができる<(=将来、自分の理想の男にきっとなってくれる)>であろうと思う男と結婚し、その後彼を<この理想の男に>つくり変えようとするのに対し、男性達は彼らが欲する<(=そのままでいてくれたらそれで十分な)>女と結婚するのだけれど、その後彼女が<(いつまで経っても理想の男に近づかないあなたに失望する結果?)>変わってしまうからだ。
 二人の人間が違った方向へ向かう動きをするのだから、もしあなたが7年ごとに相手と再び結びつく努力を怠るならば、あなたと彼女は違った方向へと漂流して行ってしまうのだ。
 <どうやって、再び結びつけばいいのかって? 休暇をとる、新たなセックスの体位を試みてみる、出会った頃の関係を取り戻したいと口に出して彼女に言う、等様々な方法が考えられる。>・・・
 女性達にとって、前戯は前日から始まる。
 男性達にとって、それはセックスの約6分前からだ。
 もしあなたが明日セックスをしたいのであれば、今日何かいいことをやってあげなきゃいけない。その目的は、彼女にオキストチンを分泌させることだ。
 本を買ってやる、朝食をつくってやる、理由なく声をかける。それはむつかしいことではない。・・・
 <いつも、チョコレートを贈呈することは効果的だ。>
 ・・・チョコレートは、媚薬効果のあるフェニレチラミン(phenylethylamine)、トリプトファン(tryptophan)、とアナンダミド(anandamide)を含んでいるからだ。・・・」
http://www.esquire.com/features/ask-dr-oz/dr-oz-advice-0509?click=main_sr
(4月25日アクセス。以下同じ)

3 おまけ・・米国セックス事情

 エスクワイアの一連の記事を読んで、そのうちの一つが、2007年の米国セックス事情の記事にリンクされていることに気付き、リンク先に目を通してみました。
 そこには、同誌が、2006年の10月末から11月初頭にかけて、全米の21歳から49歳までの男女を対象に行った調査の結果が掲げられていました。
 詳細はご自分でお読みいただきたいが、私が特に興味深いと思った箇所をご披露しておきましょう。

 マスターベーションの回数は男性は週4.9回、女性は2.8回。
 買春したことのある男性は15%、女性は1%。
http://www.esquire.com/women/sex/ESQ0207stateofsex?click=main_sr

 好む体位は、共和党支持者の男性は女性上位、民主党支持者の男性はワンワンスタイル。
 一回限りのセックス(one-night stand)の満足度は男性が女性の3倍、後悔度は女性が男性の2倍。
http://www.esquire.com/women/sex/ESQ0207stateofsex-2

 男性の12%、女性の7%は、セックスの最中に電話に出たり、Eメールに返信したりしたことがある。
http://www.esquire.com/women/sex/ESQ0207stateofsex-3

 女性の80%は浮気をしたことがない。男性の66%は浮気をしたことがない。
 男性は、基本的に、所得が多いほどセックスの回数が多い。
 男性のルックスは、20代の女性にとっては一番大事なことだが、40代の女性にとっては一番どうでもよいことだ。男性の知力は、既婚女性及び高額所得者たる女性にとっては一番どうでもよいことだ。
http://www.esquire.com/women/sex/ESQ0207stateofsex-4

 恥毛を手入れをしているか、パイパンにしている女性の割合は、20代で84%、30代で75%、40代で55%。
http://www.esquire.com/women/sex/ESQ0207stateofsex-5

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太田述正コラム#3204(2009.4.9)
<不況と米国のカップル達>(2009.5.24公開)

1 始めに

 大不況の艱難辛苦(観念上のものを含む)は人間、とりわけカップルにいかなる影響を及ぼすのでしょうか。
 ニューヨークタイムスが特集を組んだので、そのさわりをご紹介しましょう。
 これは、特定のカップルがたまたま経済的困難に直面した場合にもあてはまると思います。

2 ニューヨークタイムスの特集より

 「<大不況の米国で恋愛小説がバカ売れしている(コラム#3195)。>・・・ハーレクィーン・エンタープライズは、恋愛小説の世界の女王だが、昨年の第4四半期の売り上げが前年同期に比べて32%アップしたと発表した。・・・
 成人向けフィクション全体の売り上げは基本的に伸びなかったというのに、書籍の小売りの約70%をカバーしている・・・統計によると、それまでの4年間はほぼ変わらなかった恋愛小説の売り上げが昨年は7%も伸びている。・・・
 <戦前の>大不況の時代にマーガレット・ミッチェルの『風とともに去りぬ』がバカ売れしたように、今日の読者達も、レイオフ・倒産・縮小する401(K)残高といった厳しい現実から逃避できる<心ときめくハッピーエンドの>小説を求めているのだ。・・・
 <ちなみに、サイエンスフィクションやファンタジー小説も売れている。>・・・
 恋愛小説は、電子書籍の形でも、他の分野の本よりも大きい割合で売れている。
 大抵の出版社は、売り上げの約1%が電子書籍だと言っているが、ハーレクィーンは、自分の社では、電子版の売り上げが3.4%も占めていると言っている。・・・
 ・・・恋愛小説の読者は貪欲な読者であり、即時にダウンロードして読み始めることができることが彼らにとっては他の分野の読者に比べて、無意識的にせよ、はるかに重要なのだ。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/04/08/books/08roma.html?hpw=&pagewanted=print
(4月9日アクセス。以下同じ。)

 「・・・不安、鬱とストレスが、その多くは顕著な経済的損失を被っているわけではないけれど、そうなるかもしれないと心配するため、あるいは全般的に不確実となっている現状への反応として、ありとあらゆる人々を苦しめている。・・・
 <心理セラピストのところに、>「ひどい不安に陥ったり、夫婦げんかが増えたり、若干の家庭内暴力や若干のゆゆしい虐待<に苦しんだり、>といった問題を抱え、以前よりたくさんの人々がやってくるようになった。」・・・
 <心理セラピストを対象にした昨年>9月の調査によれば、80%が、経済が大きなストレスを自分にもたらしていると答えたが、4月当時にはそのように答えたのは66%にとどまっていた。
 <別の昨年秋の調査によれば、>27%の人が経済的不安から睡眠障害に陥っているということだ。
 全米自殺防止ライフラインへの電話も、多くの場合経済的ストレスを「主因として」、2008年1月には39,465件だったところ、2009年1月には50,158件にはねあがった。・・・
 影響は子供にまで及んでいる。
 ・・・<すなわち、>「より多くの家族が危機に陥っている」ため、子供達において、「不安と鬱の徴候が増え」、「悪夢を見る者が増え」、「行動に異常をきたしている者が増えている」。・・・
 「失うべきものを余り持っていない人々はむしろうまく対処している部分がある。というのは、彼らのアイデンティティは、どれだけカネを持っているかに、それほどとらわれてはいないからだ。」・・・
http://www.nytimes.com/2009/04/09/health/09stress.html?hp=&pagewanted=print

 「歴史は興味深い様相を呈している。
 職と収入が失われると夫婦けんか、別居、離婚が増えると思うだろうが、大不況の時は経済的困難が余りに巨大であったため、多くのカップルは離婚などできなかったのだ。
 もっとも、離婚率は減ったけれど、家庭内暴力や別居は増えた。
 しかも、失業した男達は、彼らの妻達が仕事にでかけた時に家事と育児をやるのを拒否した。彼らは、「稼ぎ手」としての役割の喪失を、「女の仕事」など行わないという男性的大権に固執することで補償しようとしたのだ。・・・
 <女性が働くのが当たり前になった現在では、さすがにそんなことはなくなったが・・。>
 <こういう時に>大切なことは、カップルがお互いについて尊敬していた事柄を思い出し、それを口にするかどうかだ。
 ストレスの下にある人は、往々にしてパートナーや子供が自分のためにやってくれたことを感知し認めることを止めてしまい、彼らが自分をいらつかせたことにしか反応しなくなってしまう。
 こうなってしまうと、健康な家族内の相互信頼と相互義務を維持するところの「感謝の経済(economy of gratitude)」が掘り崩されてしまい、カネ詰まり(credit crunch)と心理的同等物をつくりだしてしまう。・・・
 <既に触れたように、不況になると離婚が増えるというものではない。>
 婚姻率と離婚率は、マクロ経済的変化よりは劇的な社会的変化によって変化するものなのだ。
 経済の好況、不況というより、戦争やセックス革命や結婚の意味の変化のせいにすべきなのだ。
 離婚率は、1960年代と70年代に急速に上昇したけれど、爾来・・・27年間にわたって・・・下降し続けている。・・・2009年においてもその傾向は続くのではないか。
 これはそう驚くべきことではない。
 厳しい経済という嵐をやり過ごすのに、よかれあしかれ絆を交わした(committed)人と家庭を共にすること以上に良い方法があろうか。・・・
 ・・・大卒<以上>のカップルは、<高卒以下のカップルに比べて、>財政的辛苦に耐えるためのより大きな社会的経済的資源を持っているので、困難な時が結婚生活に及ぼす感情的試練を和らげることができる。・・・
 厳しい時が人々に及ぼす打撃は一様ではない。
 脆弱な結婚生活にとっては、とりわけ収入と地位がカップルの一方または双方にとって中心的な価値であれば、失業は<このカップルへの>最後の一撃になってしまうだろう。
 こんなケースにおいては、愛は崩壊し侮蔑が生まれるかもしれない。そして二人の関係は弱められ、通常は終焉を迎える。
 もとより、困難な時は、真剣な議論を促すことで、時には一層の緊密さを構築する場合だってある。
 すなわち、艱難によって結婚生活や内縁関係が強化される場合があるのだ。・・・
 カップルは普段、それぞれが心の奥底で抱いている価値観・・自己犠牲についての思い、仕事より二人の関係を重視するかどうか、子育てについては、等々・・について十分話し合いをしていないことが往々にしてある。
 とりわけ、カネのことについてはそうだ。<いざというとき、>どうやってやりくりをするかとか、「幸せ」であるためにはどれだけカネがあればよいのかといったことだ。
 経済状況の悪化は、人々をして、このようなむつかしい会話をやらざるをえないようにしむけることがある。
 カップルが、互いに誠実で思いやりがあって、一つのチームとして対処することを学べば、二人はよりよい関係を構築することができるかもしれないのだ。・・・
 (・・・<ちなみに、こういう時には>男女関係の構築が、そもそも促進されるものだ。
 パーフェクトマッチ・コム(Perfectmatch.com)のような出会い系サイトは・・・去年の12月以来、会員数が大幅に増えている。・・・)
http://roomfordebate.blogs.nytimes.com/2009/04/08/husbands-wives-and-hard-times/?pagemode=print

3 終わりに

 日本も大不況のはずなのに、日本の主要メディアの電子版には、この種の記事が出ませんね。
 読者の皆さんでパートナーのいらっしゃる方々は、このコラムを読んでどのような印象を持たれましたか。

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太田述正コラム#3172(2009.3.24)
<売春事情の最先端(その2)>(2009.5.7公開)

3 欧州の売春非合法化

 「・・・<最初に、欧州での売春非合法化の動きをまとめておこう。>

スウェーデン:セックスの対価を払うことが1999年に禁止される。
ノルウェー:セックスを買うことが2009年1月に非合法化される。
イギリス/ウェールズ:議員達の間で「被支配下の女性(controlled women)からセックスを買うことの禁止を目指す動きあり。
オランダ:内閣が、<人身>密輸された人々のセックスを買うことの禁止が提案された・・・。

 「ニュージーランドは隔離されている場所にあるので事情が異なる」と、<ノルウェーの>オスロにある、<人身>密輸業者や犯罪者から救出された売春婦達の面倒を見る教会経営のシェルターたるナドハイム(Nadheim)女性センターの・・・は言う。
 「<それに対し、>欧州では移民が多く、欧州外との境界は開放されている」と彼女は述べ、売春婦に対価を払ってつかまった者を重い罰金か6ヶ月の投獄に処するというノルウェーの新しい法律を擁護する。
 このアプローチの背後にある考え方は、犠牲者たる売春婦を標的にするのではなく、彼女達に力を貸す(empower)、というものだ。
 彼女達の業務に対する需要を摘発することによって、彼女達を餌食にしている連中の力を削ぐことが期待される、というのだ。
 同じ理屈が英国議会での法案づくりにおいても用いられている。
 この法案は、「売春を強要された」か「他者の利益のために支配されている」者とのセックスに関し、対価を支払うことを犯罪とするものだ。
 <イギリスで>売春をしている女性の80%くらいが麻薬の売人、ひも、あるいは<人身>密輸業者によって支配されている<というのだ>・・・。・・・
 ・・・<確かに>2007年の推計では、英国には約25,000人も性奴隷がいることになっている。
 しかし、性労働者達のために弁ずる人々は、この類の数字に異を唱える。そして彼らは、性労働者達の権利と安全は、更なる抑圧よりもむしろ・・・ニュージーランドのような・・・自由化によってよりよく守られるはずだと信じている。
 イギリス売春婦組合(English Collective of Prostitutes)の・・・は、・・・ロンドンの売春宿で働いている女性の80%が外国人だと推定している。・・・
 人々はこのことから、性労働者の80%が銃で脅されてこの世界に連れ込まれ、建物の中に閉じ込められているという風に理解しているが、これはとんだ誤解だ・・・。・・・警察の定義によるところの「密輸された」<性労働者>に該当するのは5%未満に過ぎないのだ。・・・
 この割合は、たまたまだが、ニュージーランド議会報告書で強制的に<性労働を>やらされていると推計されたところの、全売春婦中の4%という割合と大差ない。・・・
 ニュージーランド売春婦組合も、そして性労働者達を代表する欧州の諸団体も、この産業の大部分の女性達は意識的な選択を行っているのであって、スウェーデン流の諸法は、存在しないと言っても過言ではないような問題を「是正」しようとしているのだと主張している。・・・
 ・・・こんな法律の効果と言ったら、警察を自分達に対して敵対的に見るように仕向ける結果、性労働者達をより脆弱な立場に追い込む結果が招来さえるであろうことくらいだ、という。
 ・・・それくらいなら、むしろ単に売春を禁止する方が、「より公正でより誠実」なのではないかというわけだ。「警察がおためごかしに彼女達を犠牲者達として追っかけ回すより、彼女達を犯罪者達としてくれた方がマシだ」と。・・・
 ・・・公衆の意識は、虐待経験を持つ売春婦達を支援する諸団体の意識に大きな影響を受けている。
 確かにそのような売春婦達は存在するし、これらの諸団体は重要な役割を果たしているけれど、彼らは例外的状況を相手にしているのだ。・・・
 <喩えて言うならば、夫婦間暴力(Domestic violence)の存在でもって夫婦関係全体を推し量ってはならない、ということだ。>
 2000年に売春宿を合法化したところの、自由主義的なオランダですら、北欧流の禁止政策の影響を受けつつある。
 ・・・密輸された女性に係るセックスの購入を政府によって禁止しようとする動きがオランダ議会内にあるのだ。・・・
 ・・・<人身>密輸が頻繁に行われていることは事実だが、だからといってそれに強制が伴っているということでは必ずしもない。
 密輸された女性達の多くは、自分達が性労働者として働くことになることを承知の上<であえて密輸されたの>だから・・・。」

→BBCの記者、ひいてはBBCの主張に軍配を上げざるをえないですね。
 わがNHKが、売春の問題でなくてもいいのだけれど、国会の動きを真っ向から批判する報道を行うことなど、まず考えられません。BBCにだって問題なしとしませんが、このような点に関する限り、NHKはBBCの爪の垢でも煎じて飲んで欲しいものです。(太田)

(完)

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太田述正コラム#3170(2009.3.23)
<売春事情の最先端(その1)>(2009.5.5公開)

1 始めに

 BBCのヘンリ・アスティア(Henri Astier)記者の2回に分けた、売春事情の最先端に関する記事がBBC電子版に掲載されました。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7927461.stm
(3月18日アクセス)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7933973.stm
(3月19日アクセス)

 その内容をかいつまんでご紹介しますが、この際、彼、ひいてはBBCの売春に対する姿勢の是非について、ご自分でもお考えいただければと思います。

2 ニュージーランドの売春合法化

 「・・・ニュージーランド<では、>・・・2003年の売春改革法<施行>以来、売春宿はおおむね自由に運営できることになっている。・・・
 <この法律の要旨は次のとおりだ。>

・売春宿を運営することは認められる。
・4人以下の売春婦が平等なパートナーとして共同経営体(collective)を設立することができる。
・売春の広告は合法である。
・売春宿<の開業に>は許可と裁判所における登録が求められる。
・売春労働は、通常の雇用扱いとされ、そのようなものとして健康と安全性の基準を満たさなければならない。

 ・・・一方、欧州では正反対の傾向が見られる。スウェーデンは、1999年に性サービスの購入を犯罪化したが、その他のいくつかの国でも、人身密輸と戦うとの意図の下、似たような法律が導入されつつある。
 しかし、ニュージーランドの売春労働者達にスウェーデン流の規制(strictures)についてどう思うか聞くと、ほぼ異口同音に否定的な返答が戻ってくる。・・・
 <ニュージーランドの高級売春宿では、>一時間コースの料金は・・・200米ドル相当だ。・・・
 「私は小売業で働いていた時に得ていたカネの2倍稼げるの。私はお客達と私のボスに感謝されている。私は自分が働きたい時だけ働けばいいの。これは私がこれまでやった仕事の中で最もやりがいのある仕事だわ」と<そこで働く売春婦は>言う。
 <ちなみに、特定の客の相手がしたくない場合には、売春婦に拒否権が通常認められている。>
 彼女の支配人・・・もまた、<スウェーデンのように、>お客達を犯罪者にするのはこの産業にとって災難であり、売春婦達を危険に晒すことになると信じている。
 「そんなことをすれば上質のお客達を遠ざけてしまうことになる。我々は危険な連中とだけ残されることになる。悪い男どもは遠ざかりはしないからね」と彼女は言う。・・・
 ニュージーランド売春婦組合(New Zealand Prostitutes Collective =NZPC)・・・によれば、より良く、より安全な売春業務が今や当たり前のことになったという。
 もう一つの非犯罪化による主要な便益は、・・・警察との関係における巨大な変化だという。
 「もしあなたが犯罪を犯しているとなれば、警察に助けを求めようとはしないでしょ」。今では売春婦達は法執行機関の職員達が自分達の味方だと思っている、と<彼女は>言う。・・・
 ただし、ニュージーランドにおける性商売が革命的に変わったとは言い難い。なぜなら、社会はいまだにそれに顔を顰めているからだ。
 昨年、完全に合法なことなのだというのに、ある教師が売春婦としてアルバイトしていたことが露見した時、彼女は首になった。
 多くの性労働者達は通常のパート労働もやっている。履歴書に不審な空白を設けないためだ。
 彼女達は、本当に信頼の置ける友人達にしか、本業を明かさない。
 そもそも、この記事のために取材した売春婦やおかみ達は自分達の本当の名前を明かそうとはしなかった。
 売春宿は合法だけれど、ニュージーランド人の大部分はその隣に住みたいとは思わないのだ。・・・
 <ある売春婦は、>売春婦として働くことは大好きだと言う。「セックスができて、その上カネが入って男にも不自由しないんだから」と。・・・
 <しかし、上述したように、>売春に対する態度は、ニュージーランドと欧州とでは、地理的にそうであるように、ほとんど180度反対だ。
 ニュージーランド人達は性商売の無制限の自由化を選んだのに対し、欧州人達は次第に性商売に対する規制を強めつつあるのだ。・・・」

→ここまででどういうご感想ですか。
 基本的に結構ずくめのような売春の非犯罪化(自由化)が、どうして欧州ではむしろ後退しつつあるのか、不思議にさえ思えてきた方が男性読者には少なくないのではないでしょうか。
 いずれにせよ、戦前まで郭文化が咲き誇っていたこの日本で、全くと言ってよいほど売春の非犯罪化の是非についての議論が起こっていないのは理解に苦しむところです。(太田)

(続く)

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太田述正コラム#3106(2009.2.19)
<バレンタインデー抄(続)(その2)>(2009.4.1公開)

3 妬みについて

 (以下に掲げる記事抄訳の冒頭に出てくる研究は、コラム#3093でちょっととりあげた日本での研究です。)

 「・・・日本の国立放射線研究所の研究者達と彼らの同僚達は脳スキャン研究の結果を発表した。被験者達は、自分達が社会的ドラマの出演者であって高い地位/業績や低い地位/業績の役の出演者と共演するというシチュエーションを想像するように言われた。
 被験者にとって妬ましいと認められる出演者と共演する場合は、物理的な痛みを司る部位が活性化した。
 その妬み(=envy=羨ましさ)の度合いが大きければ大きいほど、大脳の痛み中枢・・・とその関連部位は勢いよく「炎上」した。
 反対に、・・・被験者がこの妬ましい出演者が落ちぶれた場合を想像するように言われると、大脳の報償回路が活性化した。その度合いは、それまでの妬みの度合いが大きければ大きいほど大きかった。・・・
 ケンタッキー大学の心理学教授のリチャード・H・スミス(Richard H. Smith)は、「これは、飢えや渇きの作用と同じようなニーズ処理システムの一種なのだ。・・・飢えや渇きの度合いが大きければ大きいほど、やっと食べたり飲んだりできた時の喜びは大きくなる」と言う。
 スミス博士は、現在の経済危機は、金融関係者達が「単なる」百万長者にとどまるという恥を回避するために競い合ったといった、とどまるところを知らない妬みが原動力になった可能性があると示唆する。・・・
 嫉妬(jealousy)は三角形であり、愛する人をもう一人の抱擁の中へと失うことを恐れるわけだ。
 これに対し、妬みは二者間の話だ。一人の貪欲な胸から、恵まれたもう一人の心に向かって矢が伸びる。その妬みは、疲れを知らず社交的であり、徒党同士、優等生一覧(honor rolls)同士、果ては国民国家同士でも生じる。
 ・・・コネチカット大学心理学准教授のコリン・W・リーチ(Colin W. Leach)は、「我々が、地位(status)、誰がうまくやっていて誰がそうではないか、自分が他人に比較してどうなっているのか、をひどく気にかけるというのは隠しようがない事実だ」と言う。・・・
 これは一種のパラドックスだが、このような最も社会的に触発される感情なのに、それを告白することは最も社会的に認められていない。
 恋敵に対する嫉妬の敵意は会話の話題として認められている。しかし、職業上の競争相手に対する妬みの敵意は、打ち明けてはならない恥ずかしい肉体反応であるかのように扱われている。
 研究者達が被験者達に妬みについて尋ねると、彼らは、「私は密かに自分自身を恥じている」と答えるのが通例だ。・・・
 研究者達は、我々の妬み衝動が、他の大部分の霊長類の社会より人間の社会の方が相対的により階統的(hierarchical)でないことの原因ではないか、という仮説を提示している。<人間は、妬みが強いがゆえに、>荒っぽい平等主義に傾きがちであり、異常に貪欲な国王達や大身達に叛乱を起こしがちであるというわけだ。
 妬みは我々が自らを律することを助けてくれることもある。つまり、何とかイイ人に見せたいし、公明正大にイイことをやらなくっちゃと思ったりするわけだ。・・・
 <英国の哲学者の>バートランド・ラッセル(Bertrand Russell)は、「もしあなたが栄光を欲するのであれば、君はナポレオンを妬むことだろう。しかし、ナポレオンはカエサルを妬み、カエサルはアレキサンダーを妬み、アレキサンダーは、思うにヘラクレスという、実在しなかった人物を妬んだ」と言った。
 もし妬みが文明に課された税金だとすれば、それは誰しもが払わねばならない税金なのだ。」
http://www.nytimes.com/2009/02/17/science/17angi.html?pagewanted=print
(2月17日アクセス)

 どうやら、民主主義は妬みの産物、ということになりそうですね。
 また、ナショナリズムやファシズムは、被治者の妬みの感情を他国ないし他民族へと上から誘導するイデオロギー、そして共産主義は、妬みの感情を過渡的には国内の金持ち階級に、その後は国外の「帝国主義」国家へと誘導するイデオロギーであって、そのねらいはいずれも、被治者の妬みの感情が統治者に向けられないようにするところにある、ってことになりそうです。
 となると、政治とは妬みの統制である、ということになりますかね。
 
 もともとは、嫉妬と妬みの相違についても、もっと掘り下げるつもりだったのですが、バレンタインデー抄、長くなったのでこれくらいにしましょう。

(完)

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太田述正コラム#3104(2009.2.18)
<バレンタインデー抄(続)(その1)>(2009.3.30公開)

1 始めに

 今度は、性欲の話と妬みの話をしましょう。
 いいかげんにしてくれって?
 いやいや、どちらも政治と密接に関わる話題なんですよ。
 論より証拠。さっそく始めましょう。

2 性欲について

 カリフォルニアでセックスクリニックをやってきた心理学者のマイケル・ベーダー(Michael Bader)が、改めて"Male Sexuality: Why Women Don't Understand it and Men Don't Either"という本を書きました。
 彼のかねてよりの持論の一端をご紹介しましょう。

 「・・・パートナーとのセックス(romantic relationship)の多くがダメになるのは、正常かつ健康的な利己主義を抑圧するからだ。治療法は? 「性的容赦なさ(Sexual ruthlessness)」だと彼は言う。
 「性的容赦なさとは、短時間、他人の快楽に配慮することを止めて自らの快楽に身を委ねること、すなわち、短時間、他人を傷つけたり落胆させたりすることを心配するのを止めることだ。「容赦なさ」とは、他人を「利用する」能力をいう。他人が利用されることでどう思うかについて心配することを止めて・・。これは健康な性欲に関して正常で必要なことなのだ」とベーダーは主張する。」
http://www.washingtonpost.com/wp-srv/community/groups/index.html?plckForumPage=ForumDiscussion&plckDiscussionId=Cat%3aa70e3396-6663-4a8d-ba19-e44939d3c44fForum%3a1a2d74ae-8f34-4030-981d-e66a0cda15f1Discussion%3af52ee75f-25a1-4d65-ba30-199530759c27
(2月17日アクセス)

 「ベーダー博士の研究によれば、性欲がかき立てられるの(sexual arousal)は性感帯が刺激された結果として生じる自動的ないし純粋に物理的な現象ではない。・・・いかに心理的な手がかりやメッセージが・・・そのために不可欠であるか<ということだ>。人々が抱く信条が性欲がかき立てられるのを阻害する場合があるのだ。社会、家庭、友人、メディア等が何が「OK」なのかを規制していると言ってよかろう。
 どうやったらこのやっかいな規制を乗り越えられるのだろうか。これらのプログラムされた信条が我々に恥、罪、懸念等の気持ちをもたらす。これらは最大限に性欲がかき立てられることと両立しない。・・・
 <例えば、男性的なフェミニストの女性学者は、夫相手では性欲がかき立てられず、夫とのセックスの最中、掃除夫に机の上でレイプされる空想をしてしのいでいる。これは、彼女が男性的であるが故に夫を心理的に傷つけていないかといつも余計な心配しているため、性欲がかき立てられないのだ。逆に、配偶者のいる人間にかえって性欲がかき立てられて不倫をしてやっかいな事態に陥ってしまう場合があるのは、自分が異性を惹き付ける魅力を持っているか不安を持っている人には、自分の魅力の力の限界を試してみようという心理が働くからだ。>・・・」
http://personallifemedia.com/podcasts/213-taste-of-sex-guest-speaker/episodes/3329-dr-michael-bader-secret-logic-sexual
(2月18日アクセス)

 「<米国で、政治生命を絶たれる恐れがあるというのに、売春婦を買ってそれがばれて、事実失脚に追い込まれる政治家が後を絶たないのはどうしてだろうか。>
 ・・・私は、売春婦を買わなくてはすまないという男達をたくさん治療してきたが、その大部分にしてみれば、カネさえ払えば、女が彼の喜悦、満足、世話、幸福のために男に完璧に尽くすよう訓練されていることがこたえられないのだ。
 男の方は、売春婦を喜悦させることも、幸福にさせることも、彼女の感情的ニーズや欲求について心配することも必要がない。
 彼は相互性の重荷抜きで与え、受け取ることができる。彼は完全に利己的たりうる。
 彼が超攻撃的でも超受動的でも女は取り乱すことなく、性的にかき立てられたように振る舞ってくれる。
 彼は彼女に対し、いかなる意味でも責任がない。彼女は完全に彼の方を向いてくれ続ける。・・・もちろん売春婦は演技をしているわけだ。だけどそんなことは関係ない。・・・迫真性の幻想だけで十分なのだ。・・・
 彼らは、女は世話してやらねばならないものだと思っており、女性を幸福にするのは義務だと思っている。こんな信条は、往々にして誇張されており、女性は世話が焼けるもので、頼りなく、不幸せになったり不満を抱いたりしがちだという信条と認識に由来している。
 これらの信条は、子供時代に形成され、我々の文化によって補強されたものだ。これらの信条の多くは誤りだが、男達の性的関係にブレーキをかけることがあるのだ。
 現実の女性との関係においては、彼らは常にそこに見えざる対価の支払いを感じ取る。沢山与えない限り多くをもらうことはできない、欲しているものを得るためには高い代償を払わなければならないと。
 こうなると、当然ながら、緊密な関係は傷ついてしまう。・・・
 男の政治家の場合、これが極端な形で現れがちだ。
 つまり、彼らは権力をふるい、他人を利用すると同時に他人が自分達の自己愛的ニーズに奉仕してくれることを期待する。
 しかし、政治家が住んでいる対価のやりとりの世界では、誰も何らかの見返りを期待することなくして何かをやってくれるということがない。・・・
 最も健康的なケースにおいては、彼らは家族とともに自宅にいるときはそんなことを忘れて、無条件の愛にひたることができる。
 しかし、あまりにもしばしば、彼らの結婚生活と家族生活は、彼らの政治的キャリアの犠牲となり、そのように・・・機能しなくなってしまっているのだ。・・・」
http://www.alternet.org/sex/79635/

 これでようやく、米国だけでなく、英国でも、売春婦禍で政治家廃業に追い込まれる議員が何年かに一度出る理由が分かりました。
 日本では、お妾さんないし愛人による蜂の一刺しに遭う政治家はいても、買春で大恥かいた政治家がいない理由も・・。

(続く)

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太田述正コラム#3100(2009.2.16)
<バレンタインデー抄(その3)>(2009.3.28公開)

 (5)キスの科学

 キスの科学の最新状況については、コラム#3093で英テレグラフ紙の記事を引用してご紹介したところですが、その後も報道が続いているので、改めて取り上げることにしました。
 中身に入る前に、米スレート紙とワシントンポストが、それぞれキスの写真の大特集を組んでいるので、お時間のある方は、ご覧下さい。
 なお、スレート紙は現在ワシントンポスト系列だからということなのか、写真は一部オーバーラップしています。
http://todayspictures.slate.com/20090213/
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/gallery/2009/02/13/GA2009021303312.html?hpid=artslot

 まず、基礎的事実からです。

 「・・・<実は>キスの科学を現す言葉が存在し、フィレマトロジー(philematology)という。・・・
 何世紀にもわたるところのキスの意義は多様だ。聖パウロは我々に「聖なるキスで他人に挨拶せよ」と教えた。このキスは増殖を続けた。・・・中世の中頃までには「聖なるキス」は、洗礼、叙任、司教の就任、戴冠式、懺悔者への赦し、そして結婚式において与えられ、または交換されるに至った。
 宗教改革の時代には、プロテスタント達はこういった公的キスの全てが邪なものであると主張した。
 にもかかわらず、400年前のイギリスでは愛情の公的表現は我々の現在の基準に照らしても大胆なものだった。<当時イギリスを>訪問した外国人達は、家庭の女性達が、見ず知らずの人に対し口にキスをして挨拶する姿を記している。
 ところが今日においては、<イギリスの>いくつかの場所では、カネを払ってもキスをしてもらえない。一般的に言って、売春婦達は、それが愛情と親しさを含意していることから、とりわけキスを行うことに消極的だ。・・・
 <ちなみに、>男性と女性を問わず、全人類の約3分の2がキスをする際、彼らの頭を右に傾ける。左利きだろうが右利きだろうが関係ない。・・・
 ギャラップの調査によれば、「キスは女性にとっては非常に強力な効力があり、彼女達はそれを否定するが、一度キスが始まると、キスにのめり込んでしまう・・」・・・
 良いキスとは舌の接触、唾液の交換とうめき声を伴うものであるとするのは、女性より男性に多い。・・・
 キスによって生じるホルモンと神経伝達物資のシャワーには、(心拍数を増加させる)アドレナリン、(幸福感をもたらす)エンドルフィン、(愛情を育む)オキシトチン、(雰囲気を盛り上げる)セロトニン、(脳が感情を処理することを助ける)ドーパミンが含まれている。
 この結果心拍数は増加し、血管は拡張し、体は酸素をより多く受け入れ、体のすべての部位が影響される。耳たぶも膨張する。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/02/13/AR2009021303465_pf.html
(2月15日アクセス。以下同じ)

 「・・・人間社会の90%以上でキスが行われている」とニュージャージー州にある米ラトガース大学の人類学者のヘレン・フィッシャー(Helen Fisher)は・・・述べた。・・・
 ある研究によれば、女性の66%、男性の59%が、相手との最初のキスで関係が壊れた経験があることが分かった。まさに死のキスとでも言おうか。・・・」

 そろそろ「科学」に入りましょうか。
 
 「・・・フィッシャー博士は、キスが行われるようになったのは、潜在的な番の相手を「審査する(screening)」メカニズムとしてであって、彼女は、番と生殖のための三つの主要脳系と彼女が叙述したところのものを刺激するのがキスの目的であると信じている。
 このうち第一のメカニズムは性衝動だ。・・・
 彼女は、男性の嗅覚はにぶく、口を開けてキスをすることにより、「彼らは女性のオストロゲン(oestrogen)系の痕跡を拾い上げ、彼女の生殖能力いかんを見極めようとしているのかもしれない」という。
 第二のメカニズムは、恋愛(romantic love)だ。
 「キスは、少なくとも男女関係の初めにおいては目新しいものであって、目新しいが故にドーパミンを分泌させる。このことが恋愛を起こす」とフィッシャー博士は言う。
 第三のメカニズムだが、キスは、彼女が言うところの、「愛情(attachment)」ないし「番関係成立(pair bonding)」を増進させる。・・・

 米ラファイエット単科大学の神経科学者のウェンディ・ヒル(Wendy Hill)博士は、 <実験で男女に15分間キスをさせ、>「その後で彼らの唾液中のコルチゾル・・ストレスホルモン・・の量を調べた。
 キスをした集団では全員この分量は減少した。・・・」
 <また、>信頼感と性的緊密性を起こさせる伝達分子、オキシトチン・・・は男性においては増加した。
 しかし、女性では、オキシトチンが減少した事例すら観察された。
 <これは、実験場所が大学の健康センターという、学生が病気の時に行く所であったことから、女性はロマンティックな気持ちになれなかった可能性がある。>

 フィッシャー博士は、同じ実験を「もっとロマンティックなセッティングで」再度行いつつある。
 「二人きりの、ソファー、花、蝋燭、そして軽いジャズのCDがかけられている部屋でね」と。
 面白いことに、妊娠抑制ピルを服用している女性は、キスが始まる前から顕著に高いオキシトチンの分量を示した。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7890517.stm

 「・・・ヘレン・フィッシャー<は、「キス>は基本的に番の相手を評価する道具なのだ。大脳皮質(cortex)の多くが唇、頬、舌、そして鼻の周辺的から感覚を拾い上げることに専念する。また、12の頭蓋神経(cranial nerves)のうち5つが口の周辺からデータを拾い上げる」と語る。・・・
 例えば、女性は男性の免疫系諸タンパク質が彼女のそれらとは異なっているかどうかを感知することができ、<そのような男性と番うことで、>健康な子孫が生まれる確率を増大させる。
 「女性は、抗体系(histocompatibility system)が似通っている男性より、異なった男性にはるかに惹かれることは明白だ。彼女達はそれを臭いで、あるいはキスを通じて察知する。」・・・
 <しかし、これほどキスには意義があるというのに、最近の>ギャラップ世論調査によれば、男性の52.9%、そして女性でさえ、その14.6%が、キスなんてすっとばしてセックスに向かってまっしぐらでもよいと考えるようになっている。・・・」
 (以上、ワシントンポスト上掲による。)

→皆さん、恋しそうになったら、まずはその相手とフレンチキッスを試みましょう!(太田)

(完)

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太田述正コラム#3098(2009.2.15)
<バレンタインデー抄(その2)>(2009.3.27公開)

 (3)愛の科学

 「ヘレン・フィッシャー(Helen Fishe)が書いた"Why Him? Why Her?: Finding Real Love by Understanding Your Personality Type,"<のさわりをご紹介しよう。>・・・
 「性格(character)は、育った環境における経験を通じて形成される。
 <しかし、これだけで人の人格(personality)を説明することはできない。>残りの要素が気質(temperament)なのだ。気質は、親から受け継いだ生物学的諸傾向のすべて、すなわち人の感じ方、考え方、振る舞い方の一貫したパターンを子供時代の初期に出現させる諸特徴だ。
 気質はある人がある人であることの基礎なのだ」と彼女は言う。・・・
 <気質には、>探検家(Explorer)、建設家(Builder)、監督家(Director)、そして交渉家(Negotiator)がある。・・・
 これまでたくさんの研究が示すところによれば、我々は似通った社会的経済的バックグラウンド、同等の知性と見栄えの人々に惹かれる。・・・
 <しかし、こんなドンピシャな相手でも、愛するようになるのはその一部にとどまる。一体それはどうしてなのだろうか。>
 ドーパミン(dopamine)とノレピネフリン(norepinephrine)が多い人は冒険家だ。こんな人は、リスクをとり、柔軟でエネルギッシュで、自発的に物事を行い、ルーティンワークにはすぐ飽きてしまう。
 セロトニン(serotonin)が多い人は建設家だ。穏やかで、管理に長け、忠実で秩序正しく良心的だ。
 テストステロン(testosterone)は監督家を突き動かす。こんな人は負けず嫌いで、自己規律がしっかりしていて、往々にして他人に厳しく集中力が高く、システム<を動かすのに>長けている。
 交渉家は・・・人を信頼し、心が広く、他人のことを思いやり、理想主義的で、エストロゲン(estrogen)とオキシトチン(oxytocin)が多い。・・・
 探検家は探検家を好み、建設家は建設かを欲し、監督家と交渉家もまた、それぞれがあい惹かれ合うのだ。・・・」
http://www.latimes.com/features/books/la-et-whyhim14-2009feb14,0,5530570,print.story
(2月14日アクセス)

→フィッシャーは、米国の世界最大のインターネット出会い系サイトから2004年に研究委託され、最終的にこの本をまとめたものです。まだまだ眉唾だけど、血液型で相性を占うよりかは、はるかに科学的でしょうね。(太田)

 (4)同棲と結婚のはざまで・・フランスの新しい試み

 「・・・民事結婚(civil union)・・・同棲と結婚の中間形態<を認める>・・・民事連帯協定(Civil Solidarity Pact=PACS)<がフランスにはある。>・・・
 <PACSにおいては、通常の結婚同様>統合所得税戻入金<が認められ、>相続税も<同棲の場合より減免される>。・・・
 <また、>パートナーの一方または双方が文書でPACSを解消したいと裁判所に申し出れば、PACSは終わるが、どちらの側も他の側の財産や扶養料について要求することはできない。・・・
 PACSは10年前にフランスの当時の社会党政府によって導入された。・・・念頭にあったのは、同性愛者のカップルの結びつきを法律で認知するところにあった・・・。・・・
 <ところが、>・・・同性愛と異性間の結びつきを合わせ、導入初年の1999年には6,000組だったのが、2008年には140,000組を超えた。
 <今や、>結婚2に対し、PACS1の割合になっており、PACSカップルは50万組にも達していて、その数は着実に増えている。・・・
 PACSのうち異性の男女のものは、当初は42%だったが、昨年は92%に達した。・・・
 フランスで生まれる赤ちゃんの半分以上は、(PACSカップルから生まれるものを含め、)結婚していないカップルから生まれるに至っている。・・・
 <ちなみに、>PACSカップルで結びつきを解消するケースの6分の1は、結婚するためだ。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/02/13/AR2009021303365_pf.html
(2月15日アクセス)

→少子化の解消を図る一つの方策として、PACSの導入を日本でも考えたらどうですかねえ。(太田)

(続く)

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太田述正コラム#3096(2009.2.14)
<バレンタインデー抄(その1)>(2009.3.26公開)

1 始めに

 英米の主要メディアはバレンタインデーの話題でもちきりです。
 その中からいくつかをご紹介します。

2 話題

 (1)「バレンタイン」デー

 「・・・聖バレンタイン(Valentine)は、269年にローマで殉教死した。・・・
 一説によれば、ローマの一司祭として、当時の<キリスト教を禁止していた>法律に逆らってキリスト教徒のカップルを結婚させ続けたという。
 彼が処刑された夜、彼は・・・かつて彼が目を見えるようにしてやったとされる・・・看守の・・・(既に愛する人がいた)・・・娘に宛て、「あなたのバレンタインより」から始まるメモを残したという。・・・ 「このメモは恋愛的な内容では全くなかったのだが、この物語から、感謝のメモを送るという習慣が形作られた」のだという・・・。・・・
 <これに対し、>伝説によれば、聖ラファエル(Raphael)は、トビアス(Tobias)がサラ(Sarah)と結婚するのを助けた。サラはそれまで、結婚式の夜、7人の新郎を立て続けに失ってきた女性だ。
 <カトリック教会によれば、>彼こそが、並み居るカトリックの聖人達のなかで、伴侶を結びつけることと正しく関連している人物なのだ。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/7888539.stm
(2月14日アクセス。以下同じ。)

→イマイチ説得力のない議論ですね。(太田)

 (2)カネと性欲

 「・・・米ラトガース大学のヘレン・フィッシャー(Helen Fisher)教授は、・・・一般的に言ってカネのことが心配でストレスがかかっていたり、とりわけ失業の心配がある時には、脳中の化学物質ドーパミン(dopamine)の分量が増えると言う。このドーパミンは恋と関連がある物質だ。・・・
 <実際、米国の>出会いサイトの・・・と・・・は、どちらも過去数ヶ月でアクセス数が20%増えたという。・・・

 <しかし、逆の話もある。>
 セックス・カウンセラーの・・・は、「経済的不安定は人々をより不安に駆り立てる。しかも、往々にして人々は、職を失ったパートナーの分をカバーしようと、もう一つ職に就こうとしたり、より長い時間働いたりしがちだ。その結果、彼らは長い一日が終わった時点で性的活動をしたいと思う気持ちが減退してしまう場合が多い」と言っている。
 これに加えて、初期において性的紐帯への欲望をかき立てたところの不安が、同時にその一方で快楽を覚える能力を減退させてしまうのだ。
 不況の時には自尊心が傷つく、とりわけ失業した人の場合はそうだ、ということは言うまでもない。   
 同様、経済的に苦境に陥った配偶者への尊敬の念も落ち込んでしまう。
 こうして、<性的>欲望もまた自尊心と尊敬の念とともに急速に減衰する、というわけだ。・・・
 自信喪失は、男性の精力に影響を及ぼすとはよく言われることだが、これは古典的な「パーフォーマンス不安」の事例だ。また、セックスの際、感情的安心感が欠如していると女性の性的興奮に影響を及ぼす。・・・
 英ニューカッスル大学のトーマス・ポレット(Thomas Pollet)博士は、金持ちの男性は彼らのパートナー達によりオルガスムを与えるということを示唆している。このことからすれば、金銭面で窮地に陥った男性は、<パートナーの女性に>より少ない絶頂感しかもたらさないと考えられる。・・・

 この堂々巡りを解決する理論としては、有名なマクベスの一節をもじって、不況は「欲望をかき立てるがパーフォーマンスは奪い去る」といったあたりか。
 恐らく、経済的困窮は我々の紐帯をもたらすけれど、この紐帯の果実を我々が享受することを不可能にする、ということなのだろう。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/7874408.stm

 「<最近の中共での大規模な調査によれば、>結婚相手の男性が金持ちであればあるほど、女性はセックスの際にオルガスムに達しやすいことが分かった。・・・
 女性の教育レベルも自己申告された幸福度も、この結果には全く影響を及ぼしていなかった。
 研究者達は、この発見は発達心理学で一般的なものとなっている理論、すなわち女性は物質的に良く貢いでくれる男性をみつけようとする衝動に突き動かされているという理論、と矛盾がないとしている。
 女性はこんな相手を見つけると、セックスの時によりいい気持ちになるわけだ。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-srv/community/groups/index.html?plckForumPage=ForumDiscussion&plckDiscussionId=Cat%3aa70e3396-6663-4a8d-ba19-e44939d3c44fForum%3a1a2d74ae-8f34-4030-981d-e66a0cda15f1Discussion%3a40f5e805-e51c-494a-8e75-8009a29eb893

→カネはバイアグラより媚薬としての効験あらたかだ、ということのようですよ。男性の皆さん。(太田)

(続く)

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太田述正コラム#3080(2009.2.6)
<日進月歩の人間科学(続x3)>(2009.3.22公開)

1 始めに

 米国の、どちらも心理学者であるところの<カリフォルニア大学バークレー校の>キャロライン・ペープ・コーワン博士とフィリップ・コーワン博士夫妻は、1991年、一般に、第1子が誕生すると、婚姻満足度が急激に低下し、婚姻上の紛争が増大することを発見しました。
http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9D0CE0DD1530F937A15754C0A967958260&sec=&spon=&pagewanted=print
(2月6日アクセス。以下同じ)

 さて、両親が離婚した子供はそうでない子供に比べて2〜3倍感情面や行動面で問題を抱えていることが、当時から明らかになっていました。(NYタイムス上掲)
 
 「・・・ジョンズ・ホプキンス大学の社会学者のアンドリュー・J・チャーリン(Andrew J. Cherlin)<は1999年、>離婚前の家庭諸問題(後に<彼は>・・・「前障害的(pre-disruptive)諸効果」呼ぶこととなった)こそ、離婚家庭の男の子達が<そうでない家庭の男の子達に比べて>追加的に抱えることになるところの、行動面及び学業成績面の諸問題の原因の約半分であることを発見した。・・・
 <この結果、夫婦仲がうまくいかなくなったらむしろ離婚すべきだという声が米国で高まった。しかし、これに異議を唱え、やはり離婚はよくないという声が高まるきっかけをつくったのが>経済学者のリチャード・ギル(Richard T. Gill)だ。・・・
 ギルは、離婚率の高い社会では、うまくいかなくなった結婚が離婚にまで至る可能性が高いだけでなく、よりたくさんの結婚がうまくいかなくなり不幸になりがちなのではないかと考えた。
 すなわち、結婚の永続性観念が弱化するにつれ、かつまた、円満な結婚が実際に少なくなってきたように見え出すと、人々はどんどん、結婚のリスクヘッジを行い出す。すなわち、結婚へのコミットメントがより不十分となり、離婚のオプションをより用意しがちになる。・・・
 <このギルの異議を補強したのが、>離婚した両親の子供が成人になると、そうでない両親の子供との精神的健康度の格差が顕著に増大するという事実だ。・・・」
http://72.14.235.132/search?q=cache:hkniTS_olFcJ:www.propositionsonline.com/html/the_shift__cont__.html+Philip+%EF%BC%9B+Carolyn+Cowan,&hl=ja&ct=clnk&cd=29&gl=jp

2 新しい発見

 冒頭で紹介したように、「子供ができると、婚姻生活の質が、しばしば急速に劣化するというのは・・・定説だ。だから「巣立ち後」症候群なんてものは忘れて良い。子供達が家を去ると、配偶者達の結婚の幸福度は増大するのだから。・・・
 <このたび>・・・フィリップとキャロライン・コーワンは、・・・一般的に見られるところの、結婚満足度の低下のほとんど全てが、配偶者達が子供をつくることについて意見が食い違っていたり、どっちつかずの気持ち(ambivalent)であったケースであることを<新たに>発見した。
 他方、配偶者達が計画的に、または喜んで妊娠した場合は、子供が生まれてから結婚満足度が維持され、増加する場合さえありがちなのだという。
 また、結婚の質は、両親が伝統的な性役割に退行した場合も劣化しがちなのだという。
 子供が生まれると、有給育児休暇がとれない場合、妻は仕事を辞め、夫は仕事を増やすことになりがちだ。これが双方に不満を生む。妻は夫が子育てと家事に参加しないことを怒るし、夫は、家族を支えるために長時間働いていることへの感謝の念が妻にないことを怒る。・・・
 <ただし、>一緒に子供をつくることを決め、子育てに共に携わったとしても、それで結婚が安泰というわけでは必ずしもない。・・・彼らはしばしば子育て中心の生活をやってしまう結果、お互いへの注意を払うことを怠りかねないからだ。

 今日の両親達は、40年前に比べてはるかに長い時間を子供のために費やしている。
 社会学者の・・・<の3人は、>2000年の母親達は1965年の母親達より子供達と過ごす時間が20%も増えたことことを明らかにした。また、結婚している父親達は、子供達と2倍も過ごすようになったと。・・・これらの増加は、母親達がより多く働くようになったにもかかわらず起こったのだ。
 配偶者達は、このための時間を捻出するため、子供がおらず二人だけであった頃、友人達や親戚を訪問したり、クラブの活動に関わったりしていた時間を削っているのだ。
 しかし長い目で見ると、子供達のために大人向けのこのような諸活動を削ることは結婚にとって良いことではない。
 そもそも、・・・が発見したところによれば、大部分の子供達は、両親が思っているほど両親と一緒にいたいと思っているわけではない。彼らはただ、両親達と一緒にいる時に、両親達がもっとくつろいでいて欲しいと願っているだけなのだ。
 配偶者達は二人の関係を刷新するためには二人だけの時間が必要なのだ。
 彼らはまた、友人達や家族による支援網を維持する必要がある。それをやらずに、子供達にばかり投資して結婚に十分投資しなかった配偶者達は、子育て中心の生活が終わった時に、共に子供をつくろうと望んだ当初の時点の二人の関係を回復することができなくなるのだ。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/02/05/opinion/05coontz.html?ref=opinion&pagewanted=print
(2月6日アクセス)

3 終わりに

 結婚しようと思っている相手のいてかつ子供が欲しいと思っている人、結婚してまだ子供がいないけれど子供が欲しいと思っている人、そして結婚していて子供が生まれようとしている人は、特に以上を熟読玩味してくださいね。

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太田述正コラム#3072(2009.2.2)
<読者によるコラム:中性化論のまとめ>(2009.3.20公開)

 (これは、MSさんによるコラムです。)

一、始めに(コラム#276,2780)

 「縄文・弥生モード論」の中では、戦後日本の中性化傾向、就中男性の中性化傾向(コラム#276)もまた、縄文的メンタリティーの顕在化であるとし、現在の日本が縄文モードであることが論じられてきた。

 その一方で、イリノイ州のブラッドレー大学の心理学者シュミット博士らによる実証的研究により、縄文・弥生モード論は部分的な修正を迫られるている。

 シュミット博士は、心理学上男女の性差に与える社会的ストレスの影響に関する彼らの心理学上の研究結果に基づき、「ある意味で、近代的で進歩した諸文化はわれわれを心理的に狩猟採集時代のルーツへと連れ戻しつつある」と論じる。「つまり、全般的な高度の社会政治的男女平等の下で、男女が異なった領域に対して生来的な興味を示すわけだ。伝統的農業社会のストレスが解消すると男性は、そしてより少ない程度において女性は、より「自然な」個性を顕在化させることになろう」と。

 もしこのシュミット博士の推論が正しいとするのならば、なぜ狩猟採集社会の一つである縄文社会のメンタリティが顕在化している現代日本で中性化がすすんでいるのであろうか?

 この問題を考えるにあたって、あらためて太田コラムの記述を振り返ってみた。一部私の文と太田さんの文が混じっているため、文のリズムやつながりがおかしいところがありますが、ご容赦ください。

二、中性化の定義(#2780)

 1. そもそも性とは何か?

 中性化を議論するときに、そもそも性をどのように定義すべきか?wikipediaのジェンダー分類学(Gender taxonomy)の項目を参考に議論する必要がありそうだ。これに関しては今後の課題である。

(http://en.wikipedia.org/wiki/Gender#Gender_taxonomy

a. chromosomes(染色体):

46xx, 46xy, 47xxy (Klinefelter's syndrome), 45xo (Turner's syndrome), 47xyy, 47xxx, 48xxyy, 46xx/xy mosaic, other mosaic, and others

b. gonads(生殖線):

testicles(睾丸), ovaries(卵巣), one of each (hermaphrodites(両性具有者)), ovotestes(卵精巣), or other gonadal dysgenesis (生殖線発育不全)

c. hormones(ホルモン):

androgens(アンドロゲン;男性ホルモン)including testosterone;

estrogens(エストロゲン;発情[卵胞]ホルモン)? including estradiol, estriol, estrone; antiandrogens and others

d. genitals(生殖器):

primary sexual characteristics, see diagram for the "six class system"

e. secondary sexual characteristics:

dimorphic physical characteristics(同質二形の肉体的特徴),
other than primary characteristics
(most prominently breasts or their absence)

g. brain structure: special kinds of secondary characteristics,
due to their influence on psychology and behaviour

h. gender identity: psychological identification with either of the two main sexes

i. gender role: social conformity with expectations for either of
the two main sexes

j. erotic preference(性愛の好み): gynophilia(女性に性的に引き付けられること), androphilia(男性に性的に引き付けられること), bisexuality(両性愛), asexuality(セックスに無関心) and various paraphilias(性的倒錯).

 例えば、上記のg,h,iあたりに当てはまるかもしれないものとして以下のような事実がある。

 ミシガン州のグランド・バレー・州立大学の心理学者のロバート・ディーナー(Robert Deaner)は、女性が男性に比べて非競争的であることを徒競走走者についての長年にわたる研究等を通じて明らかにしたところによると、平均的に、女性はより非競争的(注)、控えめ(nurturing)、慎重、にして感情が豊かであるのに対し、男性はより、競争的、自己主張的、向こう見ず、にして感情が乏しいことが明らかになっている。そして、このような違いは幼少期に出現し、決して解消することはない。

 2. いろいろな中性化

 以上のように性(ジェンダー)の分類一つとっても、議論は尽きないところだが、仮に男性、女性というものが明確に定義されたとして、中性化(性差の縮小)の定義も以下のようなさまざまなものが考えられるだろう。

 男性が女性に近づく(男性→女性)、女性が男性に近づく(男性←女性 )、男性も女性も性の特徴がなくなる(男性→中性←女性)、もしくは、男性も女性も今までになかった新たな性的特徴をもつようになる(男性、女性→?)など。

 つまり中性化という現象自体、様々に分類されうるもので、「将来的にはどの性の分類に関して、どの型の中性化現象が起こっているのか?」という分類を明示しながら、議論を行う必要があるであろう。


三、現代日本は中性化しているか?(#276、807、2600、2602)

 以上のような性、中性化の分類の仕方をひとまず今後の課題とした上で、これまで太田コラムでどのようなデータに基づき中性化が論じられてきたかを振り返ってみたい。

性的・暴力的エネルギーの増減をしめす統計データ

-- 性的エネルギー --

 1. セックスレス

 日本人のセックスの回数は、一人当たり年間42回と世界最低に近い。

(図:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2318.html

2. 強姦発生件数の少なさ

 強姦発生件数(1996年の件数)は日本での発生件数を1とすると、米国は29、韓国は9.3、台湾は3.5、ニュージーランドは6.3であり、人口を考慮すると、米国は日本の10倍以上、ニュージーランドは百数十倍にもなる。

-- 暴力的エネルギー --
    
 3. 他殺率の低さ

 日本の他殺率は世界的に低い水準である。

(表: http://profiler.hp.infoseek.co.jp/crime_international.htm

 長谷川寿一東大教授によると、「現代日本でも、全体として、殺人の主要原因は男性間競争にあることは変わりなかった。しかし、年齢曲線を描くと、現代日本の殺人率はこれまでどの社会でも報告されていないパターン、すなわち20 代男性におけるピークの欠如が示された(一方、中高年男性の相対的殺人率は異例に高い)。この現象は、社会的摩擦を嫌い、引きこもりがちな現代若者男性の特徴とよく符合している。伝統的な男らしさ
の低下が社会全体にどのような影響をもたらすのか。男女共同参画社会を築く上でも注目すべき課題であるように思われる。」(MSによる追加)
http://idaten.c.u-tokyo.ac.jp/sympo/11/hasegawa_11sympo.pdf
  
 4. 自殺率

 近年の日本の青年自殺率は横ばいないし、微増している。

(図:http://kangaeru.s59.xrea.com/G-Jisatu.htm

 5. 事故死率

 日本では事故死率の男女差が小さい。長谷川寿一東大教授によれば、男性が「男らしさが減り、危険に近づかなくなっている」ためとのこと。

-- その他 --

 6. 社会に対する従属の強化(⇔自己顕示欲の低下)

 伝統的な社会的・文化的性に対し、(おそらくは自身・他者双方に対して)「そうであるべき」と肯定した割合いが、日本は米中韓に比べて低かった。(アンケート結果なので、質問内容にも大きく左右される、元の資料を要チェックかもしれない。)

 7. 自己顕示欲の低下

 くだらない口論から発展する男性の殺人は自己顕示欲の現れ。その底には配偶者獲得の競争があると考えられる。(専修大学法学部教授 長谷川真理子)
http://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000000265_01.html

 8. 戦争と殺人率の関係

 米カリフォルニア大学サンタクルズ校のデーン・アーチャー教授によると、自らも参加した、110カ国の70年間にわたる(戦争の前後5年間の)データを用いた共同研究の結論は、戦争に参加した国の殺人者率は上がる、というものだったとし、日本の殺人者率の低さは反戦・平和主義が極めて長い間続いてきたためではないか、と語っている。

まとめ:

 1〜3は、性的・暴力的エネルギーの低減をしめしているように見える。一方、4は、一見それに相反して見える。他殺、自殺率に関しては、失業率との相関が大きいため、日本が抱える社会保障制度の欠陥にその原因を求めるべきかもしれない。しかし、すくなくとも1,2に関しては、国際的水準に比べると極めて特殊であり、日本社会が中性化していることを示していると考えられる。

 また、3、5〜7に基づくと、性的エネルギーと暴力的エネルギーは必ずしも無関係なものではなく、性的エネルギーの減少が、男性の配偶者獲得の競争への意欲の低下を引き起こし、自己顕示欲の低下を通して、殺人率の低下を招いているとみることができるかもしれない。つまり、性的エネルギーの低減→暴力的エネルギーの低減という因果関係であるが、これは逆かもしれない。その場合は、8のように戦後日本が軍事を放擲(縄文モードへの転換)したことが、暴力的エネルギーの低減、ひいては性的エネルギーの低減(中性化)の根本原因かもしれない。

四、他の国では?(#2878,785,872)

 以上のように、仮に軍事を放擲した社会で中性化が起こるとすると、頻繁に戦争をしている国ではどうであろうか?以下のようにそれらの国でも中性化が起こっているという主張がある。

 1. 戦争をしている国(イスラエル?)

 このところ、戦争の文化が衰弱する傾向が散見される。この傾向を先取りしていたと言えるのかもしれないのが、シオニズムが彼らに力を与えるまで、あたかも風がない日の旗のように弱々しく腰をかがめていたユダヤ人・ディアスポラ(パレスチナの外で離散して暮らすユダヤ人のこと(太田))だ。このような中性化した(epicene)男性が欧米で増えている。(イスラエルの軍事史家で軍事理論家であるクレヴェルド(Martin van Creveld。1946年〜)が最近上梓した、『戦争の文化(The Culture of War)』)

書評子による反論

 「中性化した・・・男性が欧米で増えている」については、一定の欧州諸国にはあてはまるかもしれないが、米軍が、1980年代初期からほとんど絶え間なく中東等で戦闘作戦に従事してきたことから、米国にはあてはまらない、との批判がある書評子から投げかけられています。
 「ユダヤ人・ディアスポラ」が中性化した、という点についても、ある書評子は、何千ものユダヤ系米国人とともにノルマンディからベルリンまで戦い抜き、朝鮮戦争でも戦った自分の父親がとんでもない、と言うだろうと指摘しています。
 また、「女性兵士は効果的戦闘を困難にし・・・」については、ある書評子が、自分が会った米空母トルーマンに搭乗している2歳の子供の母親であるF-18航空隊司令・・同隊のパイロットのうち5人は女性・・が同意するとは思わないと批判しています。

 2. 英国

このような女性管理職の急速な増大に伴い、女性の上司に仕えなければならない男性を代表する形で、英BBCの元キャスターの男性が、問題提起を行ったことが英国で話題になっています。

 この元キャスターは、英国における「男女の力関係の変化は」行きすぎてしまい、今や男性は単なる「失業者たる精子提供者」に成り下がってしまったと語りました。

 BBCの二つのTVチャンネルの総支配人はいずれも女性だった(その後一人は男性に代わった)のですが、彼は、「彼女たちがわれわれの見るべきもの、聞くべきものを決定する。」その結果、「われわれは女性のルールに則って生きるようになってしまい・・伝統的に男性と結びつけられてきた、無口(reticence)・禁欲(stoicism)・ひたむきさ(single-mindedness)、 は姿を消してしまった・・そのため、男性は女性みたいになりつつある。スポーツ界の英雄である<サッカーの>デービット・ベッカム(David Beckham)や、言いたくないが、<テニスの>ティム・ヘンマン(Tim Henman)を見よ。」と語ったのです。

→ 英国は中性化???(MS:あまり説得力を感じない議論。)

まとめ:戦争を活発にしている国の中性化がすすんでいるという説得力のある話はあまりなさそうだ。それらの国では、中性化が起こっていないか、起こっていても日本ほど急激でないというのは確かかもしれない。

五、日本社会の特殊性(#1513)

 以上のように日本に関してのみ際立った中性化が起こっていると考えると、その原因はなんであろうか?
 原因が日本が戦後縄文モードに転換したということかどうかはともかくとして、性に対して日本人が下記のような特徴的な意識をもっていることと関係しているかもしれない。

-- 性に対して境界線がない社会 --

 娯楽に関して、子供と大人の間に境界線が引けないだけでなく、欧米においては、大人の隠微な世界に属する「性」が、堂々と・・しかも子供にまで・・開陳されているのも江戸時代の日本人の「民族的特性」の一つですが、これも現代の日本にそのまま受け継がれています。
 子供がTVで見るアニメ番組の中に、猥雑なもの、エロチックなものが少なからずある国、週刊誌やスポーツ新聞で、硬派の記事とエロ記事やヌード写真が同居しているものが少なくない国、更にはこのような週刊誌のどぎつい広告を電車の中で目にすることができる国、は世界広しと言えども日本くらいであることは、海外経験のある方ならお気づきでしょう。
 昨年、『週刊新潮』2005.07.20号の、「母親と弟が、熱心な<創価>学会員である<AV女優由美香>・・二人は由美香の職業を理解し、97年公開のドキュメンタリー形式アダルト映画「由美香」にも出演している。AV業界関係者によると、学会には AV関係者が多く、学会にはAVを表現活動として認める環境がある、とのこと。AV監督や女優が、自分のビデオを学会の集会に持ち込み、みんなで鑑賞することも。

六、性科学の未来(#739,2798)

 以上のような日本人の特徴的な性に対する意識は、愛に対する意識とともに、性科学が進歩することで解明され、さらには、性科学に基づいた技術によってコントロールすることができるようになるかもしれない。

-- 性衝動のメカニズムの解明 --

 アルギニン・ヴァソプレッシン(Arginine vasopressin)というホルモンは、雌よりも雄にとってより重要なホルモンで、多くの哺乳類の雄の攻撃的ポーズ、臭いによる領域のマーキング、求婚とセックスを仲介している。

-- 愛のメカニズムの解明 --

 社会的単婚の数少ない哺乳類の内、プレイスリー・ハタネズミ(prairie vole)から、ヴァソプレッシン受容器の密度が増やす遺伝子が見つかった。

→ 日本人のホルモンの分泌や遺伝子の解析から、日本人の性と愛の変化、ひいては中性化に関するデータが得られるかもしれない。

-- 薬物によるコントロール --

 Prozacは鬱で自信喪失した女性に処方されることが多く、Ritalinは躁で自信過剰な青年男性に処方されることが多い。要するに女性も男性も中性化ないし社会適応型化させられるわけだ。

七、縄文モードと中性化の関わり

 以上のように、中性化は、性の分類、中性化現象の分類、また、依拠すべきデータ、最新性科学との関わりなどにおいて、議論のつきることのないテーマである。
 しかし、今までのところ、おおむね日本では中性化現象が進んでいることが確認される。
 私(MS)自身は、特にオフ会参加者等の議論なども踏まえ、男性が女性化している傾向があるのでは?という印象を持っているが、まだまだデータが不足しているというのが正直な感想ではある。
 これもオフ会で指摘されたことではあるが、様々な統計データを男女別に表示したものが手には入ればもう少し色々なことがわかるかもしれない。

 いずれにしろ、3の最後で述べた中性化のメカニズム、
戦後日本が軍事を放擲(縄文モードへの転換)
→ 暴力的エネルギーの低減
→ 性的エネルギーの低減(中性化)
と1でのべたシュミッド博士の推論ははたして矛盾するであろうか?
 この答えのカギは、縄文社会を普通の狩猟採集社会とみるかどうかにかかっていると思う。

 Nichlas Wade ”Before the Dawn" によると、狩猟採集経済下の人類の三分の二は恒常的戦争状態にあり、彼らは毎年人口の0.5%を戦争で失っていた。(注:この率でいくと、20世紀には20億人の(広義の)戦死者が出る計算にあるが、20世紀の戦争や共産主義・ファシズムによる殺戮を全部併せても、その10分の1程度に過ぎない。)

 戦争による死亡率がかくも高かったのは、敵対勢力は絶滅させるのが習いだったからだ。未開時代には人々は平和に暮らしていたが、文明が戦争をもたらした、という観念が依然根強いが、むしろその逆が正しい(注:私(太田)の日本ないし日本史観は、縄文時代の平和が弥生時代に破られた、という前提に立ち、縄文モードと弥生モードが交替する形で日本史が展開していく、というものだが、ウェードの指摘が正しいとすると、この前提たる私の認識は誤りだということになるのか、それとも、縄文人は、恒常的な戦争状態にはない三分の一に属するのか。

 つまるところ、縄文社会は生計を狩猟採集にたよってはいたけれど、数千年間の間におよぶ大規模集落における定住生活(三内丸山遺跡)を可能にしたという意味では、例外的に平和な狩猟採集社会だったのではないだろうか?
 このことが国際的な水準から見て非常に例外的な現象(中性化、軍事の放擲)が起こっている原因かもしれない。

(三内丸山遺跡のwiki:
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%86%85%E4%B8%B8%E5%B1%B1%E9%81%BA%E8%B7%A1 )

八、謝辞

 本コラムは太田コラムの記述に基づき2008年11月太田コラムオフ会出席者有志で結成されたメーリングリストにおいて行われた議論をまとめたものである。
 特にかなりの部分を、同メーリングリストのメンバーであるFSさんとMSとの、一つ一つの事象(データ)の吟味、また、事象の分類(性の分類、中性化現象の分類)に関する議論によっている。
 一部データの信用性に関する議論に関しては、話を簡単にするために今回は割愛したが、将来的にはのりこえないといけない課題かもしれない。
 また、七の縄文モードと中性化とシュミッド博士の推論との関係性に関しては、FS氏と目下議論の最中であるが、まずは私の見解を記させていただいた。また、一部にオフ会当日の議論の内容を反映させていただいた。

 以上のようにこのコラムを書くにあたり議論に参加していただいた、メーリングリストの皆様、特にFSさん、オフ会で議論してくださった参加者の皆様、そして何よりもコラムを通じて、面白い現象と深い洞察力に基づいたモデルを提供してくださり、さらにはオフ会においてその発表の機会を与えてくださった太田述正さんに、感謝の意を表したいと思います。

<太田>

 MSさん、FSさんとともに、すばらしい整理を行っていただき、ありがとうございました。
 オフ会で私が発言したことを敷衍する趣旨で、コラム#52からの引用を以下に掲げておきます。

 「・・・1万2000年前(一説によれば、1万6000年以上前)に、世界最古の土器文化たる縄文時代の文化<が生まれ>ます・・・。
 土器を獲得した日本人は、これで煮炊きすることによって、世界で初めて木の実や海産物を広範に食物化するに至り、狩猟のみに依存する生活から脱却し、定住化を果たします。・・・
 ・・・縄文時代の日本人の精神は、自然との共生をめざすものでした。そして、縄文時代におけるその生活面かつ文化面での現れが縄文土器であり、土偶です。
 縄文時代を通じて、このような、狩猟・漁労・採集(三内丸山遺跡から明らかになったように、少なくとも5500年前位にはこれに更に栽培が加わります・・・)を組み合わせた、バランスがとれ、豊かだが節度のある日本人の生活が1-2万年もの長期間続きます。
 (このことをもって、日本文明に、江戸時代の鎖国において再び示されるような停滞指向があるととらえることは、鎖国時代に日本が決して停滞していなかったという指摘もあるだけに一面的に過ぎるでしょう。)
 そして、結果的に、日本人は、農耕
(=特定の栽培作物に時間、人手を投入して増収を図る。そして増収の目論見を効率よく成就できるような社会的な仕組みが組織される。さらに農地の拡大を指向する過程で集団間の戦争を惹起し、やがて地域的統合から国家の形成へと発展する)
生活に入るのが「異常に」遅れます・・・。
 このことが、日本人の精神構造に残した刻印には決定的なものがあったに違いありません。・・・
 韓国人の呉善花さんが言っているように、「日本の場合・・アジア的な農耕社会以前の時代(つまりは縄文時代・・太田)に文化的な面で精神構造が完成されしまっている」可能性が大きいのです。・・・」

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太田述正コラム#3056(2009.1.25)
<性科学の最新状況(続x3)>(2009.3.8公開)

1 始めに

 本日新たに公開したコラムに引きずられて、「ディスカッション」で性科学の話が出たところで、また表記のようなコラムを読まされるなんて食傷気味だとクレームがつきそうですが、本日目にしたニューヨークタイムス記事
http://www.nytimes.com/2009/01/25/magazine/25desire-t.html?ref=magazine&pagewanted=print
(1月25日アクセス)の内容は、人類に関する最大の謎の一つに迫ったものであり、何をおいてもお伝えすべきだと思いました。

2 女性の性的欲望について

 (1)分かっていたこと

 今まで女性と性については、女性がイクことがあるのは、クリトリス、Gスポット、あるいは子宮頸部(cervix)を刺激された場合であるところ、ごくわずかの女性は何の刺激も加えられなくても空想だけでイク場合があることが分かっています。
 また、バイアグラ等は男性には有効だけれど、女性の膣の血液の循環を活発化し愛液を分泌させはしても女性の性的欲望を喚起はしないために、女性には有効でないことも分かっています。
 更に、性的幻想、自慰、性的活動の頻度から見て、女性の方が男性より性的衝動は少なく、また、長期間の関係において、女性の方が男性より性交への関心を失いがちであることも分かっています。

 (2)新たな発見

 男性と女性に、散歩している男性、美容体操をしている女性、男性のマスターベーション、女性のオナニー、異性間の性交、男性同士の「性交」、女性同士の「性交」、ボノボの性交を見せた場合の、男性器及び女性器の反応、及び男性と女性の性的欲望の自覚について実験したところ、以下のことが分かりました。
 
 「・・・男性は、平均的に言って、・・・同性愛の気がない場合、異性間の性交または女性同士の「性交」、マスターベーション、オナニーを見せられると性器が膨張した。大部分は散歩している男を見せられても反応がなかった。同性愛の気のある男性はその逆だった。・・・ ボノボの性交では、同性愛の気のない男性も気のある男性も反応がなかった。
 また、男性の被験者に関しては、性器膨張と性的欲望の自覚は合致していた。男性の気持ちと性器は合致していたわけだ。
 女性の場合は全く違った結果が出た。
 同性愛の気のあるなしについての申し出いかんにかかわらず、全般的に言って、男性同士、女性同士、異性間の性交ないし「性交」を見せられると、強力かつ迅速に性器の興奮が起こったのだ。<興奮が起こらなかったのは、ボノボの性交を見せられた時だけだった。>・・・
 そして女性の場合、特に同性愛の気のない女性の場合、気持ちと性器は同じ人物のものとは思えない結果が出た。性器の興奮度と性的欲望の自覚とは乖離していたのだ。・・・」

 (3)仮説
 
 第一の仮説は、この実験を行った学者による仮説です。
 男性器は外に露出しており、その反応は容易に感知でき意識に影響を及ぼすのに対し、女性の場合は、体の構造と文化により、このあたりが曖昧模糊としており、自分達の性器のエロティックなメッセージについてぼんやりした意識しか生じないのではないか、というのです。
 そもそも男性の場合、状況的手がかりに依存しがちな女性に比べて、ストレスが高まった時の心臓の鼓動の増加を感知して自分達の感情の状態を把握し易いのではないか、とも。
 性的なきっかけ(cue)に対して自動的にヴァギナを反応させなかった女性の先祖達は、欲さざるヴァギナ貫通により負傷し、その結果病気、不妊、そして悪くすると死に至る可能性が高く、このような性向を子孫に伝えることができなかったと考えられるというわけです。
 つまり、進化の結果、女性は防御的意味合いからも、自分達の回りの性的ヒントを感知した時に濡れやすくなったというわけです。
 上記実験において、同性愛の気のない女性の性器が、美容体操をしている女性を見せられた時の方が散歩している男性を見せられた時よりも興奮したところ、これは恐らく、美容体操中の女性の陰部の傾き具合(tilt)が性の信号と受け止められたのに対し、男性の勃起していないペニスはそう受け止められなかったということではないかというのです。

 第二の仮説は、女性の性的欲望は、一般に考えられている以上に、緊密な関係、つまりは感情的紐帯によって決まるというものです。
 仮にそうだとすると、女性の性的欲望は、変幻自在であり、惹かれる対象は、相手が人間であれば、男性と女性とを問わないということになります。
 エストロゲンがらみのオキストチンは女性の脳の中に男性の脳の中よりもたくさん存在していますが、これが女性の性的欲望と緊密な関係との関わりを説明するというのです。

 第三の仮説は、性的欲望の対象となること、すなわちナルシシズムが女性の性的欲望を喚起するというものです。
 女性の場合、緊密な関係でないからといって性的欲望が喚起されないということはないし、緊密な関係だからといって性的欲望の喚起が保証されているわけではないというのです。
 エロティックな憧憬と性的欲求の対象になりたいという欲求、つまりは自己愛への渇望が女性の性的欲望喚起の鍵だというわけです。
 女性のリビドーをかき立てるためには、男性の場合に比して大きな刺激が必要なのに、固定的関係の中では、もはや男性に選ばれ、捕らえられる対象ではなくなってしまったことから、欲望の対象にされるという観点からの刺激が顕著に減少してしまうというのです。
 女性は壁の前に追い詰められることを望むと同時に本当に危険に瀕することは望んでいないという困った存在だというのです。
 暴力的に、あるいは脅迫の下に、あるいは眠っている時に、あるいはまた酔った時に無理矢理性的行為を強いられるという幻想に、3分の1から半数以上の女性は、しばしば性交の最中にふけるし、少なくとも女性のうち10人に1人は、少なくとも1ヶ月に1回は性的攻撃を受ける幻想に嬉々としてふけっているのだと。

3 感想

 まだまだ先は長いけれど、ここまで分かってきたというのは感動ですね。

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太田述正コラム#2745(2008.8.22)
<恋と愛について>(2009.2.23公開)

<真井>

 太田述正コラム#2673「性科学の最新状況」

 「愛(love)とは一体何なのでしょうか。愛とは、番う相手探しを、暫定的にせよ打ち切り、番うことそのものに専念させるために起きる感情にほかならない、と考えるべきだとする説が有力です。皆さんは、このような領域に科学のメスがどんどん入っていくことをどうお考えですか。愛とは番う相手探しを打ち切ることなり、なんて言われてしまうとまことに興醒めですが、なるほど、と思われた方も少なくないのでは?」

 このコラムにはびっくりしました。
 生殖が始めにあって、愛は生殖のためにあると、信じ込んでいるのですね。
 生殖と愛と、どちらが先なのか、どうやって決めたのでしょう? 愛が始めにあって、生殖は愛のためにあるのかもしれないではないですか。
 いずれにせよ、仏教では「色即是空、空即是色」といいますから、どちらも空であり色であり「信じていること」に過ぎないので、どちらが真実ということではありません。
 その上で、あなたを幸せにするのは、どちらの信仰でしょうか。生殖が先の方でしょうか。愛が先の方でしょうか。
 太田さんは仏教を持ち上げていらっしゃいますが、仏教の考え方をよくご存知ないのですね。
 私としては、生殖行為なしに生きることはできても、愛が皆無の状態で生きられる人間がいるとは思えないのですが。
 また、太田述正コラム#2703「不貞について」でもそうですが、男女の愛を生殖にばかり結びつけるのも一体どういうわけでしょうね。
 ノンフィクションの怒涛の人生の影響でしょうか(笑)
 愛は社会的なものでしょう。人間の存在を生殖だけに還元するなんて非現実的ですから。

<太田>

1 始めに

 反響が全然なかった二つのコラム(いずれも未公開)にコメントをお寄せいただいたことにまずはもって礼申し上げます。
 しかし、申し訳ありませんが、誤解されておられますね。
 どちらのコラムも、典拠の忠実な紹介に努めたものであり、私自身は、紹介した典拠の内容をendorseしているわけでは必ずしもないからです。
 ただし、私が「ノンフィクションの怒涛の人生」を送って来たこと、その結果、私がこういった分野については、極めてオクテであること、そしてそのことが私のコラムや言動に歪みをもたらしていることはご指摘の通りだと言わざるをえません。
 私は、遅ればせながら昨年春から、恋と愛について、色々考えて来ました。
 上記2コラムも踏まえた、私の現時点での考えを、ごくかいつまんで申し上げておきたいと思います。

2 恋・愛・婚姻

 (1)性愛の重要性

 漫画家の一条ゆかりさんは「<自分の>マンガ家人生を支えるのは欲望」、「人をもっとも成長させるものが恋愛なんです」、「愛情の欠落が人をゆがめる」と指摘されています(
http://www.asahi.com/showbiz/manga/TKY200808190278.html
。8月20日アクセス)。
 つまり、露骨に言い換えさせていただくと、性愛こそ人生で最も大事なことだと言われているわけです。
 また、作家の石田衣良氏は、「<源氏物語以来、>性愛とか恋愛を書くのは、日本の小説の正統派」、「今は格差社会とか、ものすごく上下に引きちぎられている時代ですよね。この厳しい不安な世の中で、序列を一気にひっくり返す力が性愛にはある。誰もがそういう生きる力を持っている」、「どれほど金があっても、愛情やほんとうにいいセックスは買うことができない」と指摘されています(
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080820/acd0808200743003-n1.htm
。8月20日アクセス)。
 石田氏も性愛は極めて重要であり、それを買うことはできないよと言われているわけです。

 (2)恋と愛の峻別
 
 冒頭言及された最初のコラム、及び一条、石田ご両名の言葉の使い方は、いささか雑ぱくだと思います。
 「性愛」的な観念には、「恋」(特定の異性とセックス、すなわち生殖行為をしたいという感情)と「愛」が不分明な形で解け合っているところ、「恋」と「愛」は峻別して論じるべきである、というのが私の考えです。
 このように考えるに至ったのは、エーリッヒ・フロム(Erich Fromm)の『愛するということ(The Art of Loving)』(1956年)という本の存在を知ったことがきっかけです(注)。

 (注)1967年に東大に入学した時、共通の推薦図書としてフロムの『自由からの逃走(Escape from Freedom)』(1941年)等が大学側から示され、フロムのこの本を読んだ記憶があるが、フロムの本で世界的に一番売れたのは『愛するということ』の方
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Art_of_Loving
だとは知らなかった。今にして思えば、大学側は、むしろ後者を推薦図書にすべきだった。「自由」より「愛」の方がより人間存在の根源にかかわるからだ。

 フロムは次のように指摘しています。

 「・・・どの時代のどの社会においても、人間は、いかに孤立を克服するか、いかに合一を達成するかという共通の問題の解決に迫られてきた。いかに個人的な生活を超越して他者との一体化を得るか、という問題である。・・・性的な交わりは、ある程度、孤立感を克服する自然で正常な方法であり、孤独の問題に対する部分的な答である。・・・<ただし、>愛のないセックスは、男と女のあいだに横たわるくらい川に、ほんの束の間しか橋を架けない・・・恋に「落ちる」という最初の体験と、「愛している」あるいはもっとうまく表現すれば、愛のなかに「とどまっている」という持続的な状態とを混同して<はならない。>・・・愛は技術<であって>学ばなければならないことがあるのだと考えている人はほとんどいない。・・・どうすれば人を愛せるようになるかを学びたければ、他の技術、たとえば音楽、医学、工学などの技術を学ぶときと同じ道をたどらなければならない。・・・」(
http://mythology.cocolog-nifty.com/koiosurukoto/2005/09/erich_fromm_b3a5.html
http://mythology.cocolog-nifty.com/koiosurukoto/2005/06/erich_fromm_0d96.html
(どちらも8月10日アクセス)による。)

 この恋と愛を峻別する考え方を、分かりやすく説明しているのが、スコットペック(M.Scott peck)の『愛と心理療法』です。

 「・・・愛<は>自分の限界を広げる・・・。自分の限界とは自我の境界である。愛を通じて自らの限界を広げるのは、愛する人に向かいその成長を願って、いわば手をさしのべることによる。そのためには、対象がまず自分にとって愛すべきものにならねばならない。言い換えれば、自己の境界を越えて 自分の外にある対象に引きつけられ、のめりこみ、関わりあう必要がある。・・・永年にわたって何かを愛し、<このようにして>自分の境界を 拡げてゆくと、徐々にではあるが、たえず自己が拡大し、外の世界が内に取り入れられ、自我境界は薄れると同時に伸長し成長していく。それとともに自己と外界との区別が曖昧になっていく。そして外界と一体になる。こうして自我境界の一部が崩壊すると、「恋におちる」時と同じ種類の恍惚感を経験しはじめる。ただ、一人の恋人と、一時的にしかも非現実的に一体化するかわりに、現実的に、より恒常的に外界と融合するところが異なる。外界全体との「神秘的結合」が築かれる。この結合に伴う恍惚感、あるいは至福の感情は、恋をする時に比べて、ずっと穏やかで、劇的ではないがより安定した持続的なものであり、究極的にはより充実したものである。これが恋愛に典型的な「絶頂経験」と、エイブラハム・マズローのいう「プラト−経験」との違いである。高みが、ちょっと垣間見られて再び消えるのではない。一度到達すれば永久に失われないものである。
 性的行為と愛は、同時に起こるかもしれないが関連のないことも多い、愛の営みそれ自体は愛の行為ではない。オーガスム体験を愛する人と分かちあうことがその恍惚感を高めることがない、というのではない。それは可能である。しかし、愛する人でなくても、あるいは全く相手なしでも、オーガスムによる自我境界の崩壊は全的なものでありうる。一瞬、自分が誰なのか忘れ、我を忘れて時間と空間のなかをさまよい、うっとりしてしまう。外界と融けあうのだが、ほんの一瞬のことである。恋をしたり、性交渉を持ったり、ある種のドラッグを使う事によって自我境界から一時的に解放され、涅槃を垣間見ることはできるかもしれないが、それは涅槃そのものではない。涅槃、あるいは持続的な悟りや本当の成長は、たえず本当の愛を働かせることによってしか得られない。要約すると、恋愛や性交渉に伴う自我境界の一時的喪失が、他の人々との深い関わりへ我々を導いて、そこから本当の愛が始まるかもしれない。また恒久的な恍惚感をかいま見させてもくれる。このような恍惚感が、恋が冷めた後も自分のものとして残る事がある。したがって、恋は愛そのものではないけれども、偉大なかつ神秘的な愛の図式の一部ではある。」(
http://mythology.cocolog-nifty.com/koiosurukoto/2005/09/post_d748.html
。8月10日アクセス)

3 終わりに

 してみると、事実婚を含むところの婚姻関係が持続するかどうかは、男女が互いに相手を愛する努力をどれだけするかにかかっているということになりそうですね。
 ところが、青少年に対して性教育は行われているものの、愛の技術教育は全く行われていません。
 これは、少子化にもつながっているところの、深刻な問題ではないでしょうか。

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太田述正コラム#2701(2008.7.31)
<インド文明とセックス>(2009.2.6公開)

1 始めに

 コラム#1769で登場したダリンプル(William Dalrymple)が、インド文明とセックスについて論じた論考(
http://www.nybooks.com/articles/21557  
。6月11日アクセス)の内容をかいつまんでご紹介しましょう。

2 ダリンプルの指摘

 (1)総論

 インドでは、伝統的にセックスは、洗練された研究の正当な対象とみなされてきた。
 英領植民地になる前のインドでは、宗教、形而上学、そしてセックスは互いに敵対するものとは考えられていなかった。それどころか、この三つは密接に関連していると考えられていた。
 それどころか、エロは劇や礼儀作法の本においてさえも中心的な要素だった。エロチックな性愛は、現存している大量のサンスクリット文献における、疑いもなく最も重要なテーマだった指摘する者までいる。それは、一件を除くすべての宮廷戯曲の中心的テーマだった。

 (2)カーマスートラ

 古典期のインドは、有名なカーマスートラ(Kamasutra)において、性愛の微細な点についての上品かつ伝授された洗練さを発展させた。カーマスートラは、サンスクリット文学における愛に関する主要著作だ。
 ヒンズー主義においては、禁欲的なもの(ascetic)と官能的なもの(sensual)との間に常に強い緊張関係が存在した。
 3世紀前後に、恐らくは、現在のパトナ(Patna)付近のガンジス川の畔の大都会であったパタリプトラ(Pataliputra)において編纂されたカーマスートラは、都会的かつコスモポリタンな宮廷階級を読者に想定しており、人生、感性、ムード、喜びの経験といった、単に性的ということではなく、より広範に官能的な、音楽、良い食べ物、香水等々への指針たるべきことをねらいとしていた。
 カーマスートラは、色んな意味合いにおいて、3世紀のナガリカ(nagarika=都市の青年達)の放蕩的生活様式に疑問を投げかけ始めていたヒンズー教と仏教の禁欲的ピューリタニズムのうねりに対する抵抗行為だった。
 この本は、余りに有名であるところの64の性交方法を挙げており、これらのテクニックを習得することはナガリカにとって必須のたしなみであるとみなされており、仮にこれらを習得していなければ、そんな人物は有識者の集会での会話においてほとんど尊敬されることはなかった。

 (3)タントラ

 他方、7世紀以降のヒンズー教における、女性原理であるシャクティー(性力)の教義・・性欲など諸欲望を積極的に取り入れた密教の信仰・・を説く経典であると一般に説明されるところのタントラ(Tantra)は、一般のヒンズー教が、肉とアルコールを避け、火葬場のような汚い場所に近づかず、体液のような汚い物質を避けることで穢れなきよい生活ができると信じていたのに対し、タントラは、この正反対なことをやることこそ救済への道だとした。
 そしてタントラは、宗教儀式にセックスを取り入れ、性的分泌液を口で飲むことを薦めた。
 タントラの教えを実践する伝統は13世紀前後に、恐らくはイスラム勢力の侵攻によってほとんど根絶やしにされてしまったが、現在でも、ベンガル地方の一部でタントラの教えが受け継がれており、生理中の女性とセックスしたり、精液、血液、及びその他の体液を混ぜ合わせたものを飲んだりする儀式を行う場合がある。

 (4)転機

 イスラム勢力は、肉欲の罪深さ、セックスの危険性という観念、更に場合によってはセックスの放棄や処女性の理想化をインドにもたらした。
 このような傾向を決定的なものにしたのが、英国によるインド支配であり、とりわけ19世紀半における様々なキリスト教宣教団のインド到着だった。

3 終わりに

 インド文明からわれわれが学ぶべきものは、仏教以外にも色々ありそうです。
 ダリンプルの指摘のような読み方をすれば、カーマスートラは、性をタブー視しない日本人のわれわれにとってもっともっと身近な本になりそうですね。

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太田述正コラム#2979(2008.12.17)
<セックス中毒(その2)>

4 セックス中毒女性二人の自伝

 米国で立て続けに、セックス中毒経験者の女性二人の自伝が出版されました。
 スーザン・チーヴァー(Susan Cheever)(1943年〜)の"Desire"とラチェル・レズニック(Rachel Resnick)(1963年〜)の"Love Junkie"です。
 彼女達がどんなことを書いているかをご紹介しましょう。

 まず、チーヴァーからです。

 「セックス中毒は愛を不可能にする・・・
 ・・・あらゆる中毒は一つの中毒なのだ。中毒になるということは、モノ(substance)や活動(activity)それ自体というよりは、気分の転換(mood addiction)に係る中毒になったということなのだ。・・・
 2002年から2005年の間の50から59歳までの成人における非合法薬物使用率はほとんど2倍になった。白人の中年の米国人は米国でヤク漬けの割合が最も急速に増えつつある人々なのだ。・・・」
http://www.latimes.com/features/books/la-et-book8-2008dec08,0,7262059,print.story。  
(12月9日アクセス)
 
 「・・・長期にわたる不倫相手が私の三番目の夫になったが、彼は、粋な大酒飲みの・・・ジャーナリストだった。・・・
 中毒は、常に破られた約束を伴う。その約束は自分自身とのものか他人とのものかを問わない。自分自身ともう酒は飲まない、ドアマンとセックスはしない、と約束したとして、常にその約束を破ってしまうというのであれば、あなたはリハビリ・センターに行かなきゃいけない。・・・ 
 <セックス中毒の原因としては、>子供の頃のトラウマ、遺伝、社会、潜在的心理状況、長命、といった理論が頭に浮かぶ。
 一番最後の理論が私のお気に入りだ。
 7年目の浮気心が襲ってくるまでにあなたが死んでしまう時代には、奥方に誠実であり続けることは、より容易だったはずだからだ。
 結局のところ、これらの理論のすべてが正しい、というより、恐らくより正確には、これらの理論のそれぞれが少しずつ正しいのだと私は思う。・・・」
http://www.iht.com/bin/printfriendly.php?id=17822517
(12月13日アクセス。以下同じ)

 「・・・インターネットが世代横断的にたくさんのポルノ中毒を生んでいるのではないか。
 いずれにせよ、中毒に罹りやすい性格があるのであって、渇望の対象が食べ物かアルコールか薬かセックスかにさしたる違いはないのだ。・・・」
http://www.usatoday.com/life/books/reviews/2008-10-29-cheever-review_N.htm

 「・・・中毒者はストーリーをつくることにかけては天才だ。私の父親はまさにそうだった。・・・
 私は自分の人生を振り返ってみて、それが大冒険と熱情、と同時にトラウマと中毒の人生であったと実感する。・・・」
http://www.newsday.com/features/booksmags/ny-f5884799oct19a,0,6996315.story

 次にレズニックです。

 「・・・この本を、セックス中毒をテーマにしたところの、山あり谷ありのエロオモロイ回顧録だと思われるかもしれないが、実はこの本は、子供の時の虐待がどんなに人間を不可逆的に破壊してしまうかを示す、大真面目な物語なのだ。・・・」
http://www.bookslut.com/nonfiction/2008_10_013646.php

 「私が恋におちるのは、決まって私の父親の面影のある男達、つまりは危険な男達だった。私は彼らとは約束を守れなかったし、彼らはまた、私を捨て、私を裏切ったものだ。もちろん彼らは、魅力的かつ恵まれた資質を備えて私の前に立ち現れるわけだ。
 他方、私を姉妹的愛、守ってあげたいという気持ち、からかいたくなる気持ち、そして深く永続的な愛情、で充たすのは、私の兄弟の面影のある男達だった。・・・
 私が男が欲しくなるのは、ヤクが欲しくなる中毒者と同じことだ。・・・
 セックス中毒者は、セックスを愛と勘違いする。セックス中毒者はまた、感情的な痛みを聖なるものと、そして拒否されると、それを、もう一度求めておいでと言われたかのように、そして時にはもっとおねだりしなさいと言われたかのように、思い違いをする。セックス中毒者は、このような思い違い人間なのだ・・・」
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2008/12/12/DDKQ14F76O.DTL

5 終わりに

 性的禁忌が、アングロサクソン世界に比べると少ないはずの日本で、セックス中毒が論じられることがなく、当然セックス中毒クリニックもなく、セックス中毒経験者の女性が回顧録を書くことなんてありえない、というのは、一体どうしてなのでしょうね。
 
 最後に、ちょっとこのシリーズのテーマからはずれますが、
 「・・・米国の恋愛は「カジュアル」→「コミットメント」→「ステディ」→「エンゲージ」→「結婚」と進んで行くようだ。・・・」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20081216/180336/
(12月17日アクセス)
というのは興味深いですね。
 日本は、「恋愛」→「内縁」→「結婚」くらいのものだから、男女関係が単純って言えば単純ですね。

(完)

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太田述正コラム#2971(2008.12.13)
<セックス中毒(その1)>(2009.1.28公開)

1 始めに

 英米の高級紙にたびたび登場するけれど、日本の主要メディアでは、まずお目にかかったことがないのがセックス中毒(sex addiction)についての記事です。
 お隣の韓国では、朝鮮日報がセックス中毒の一種であるポルノ依存症についての記事を掲げたことがあります
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200810/200810250002.html
(10月25日アクセス)が、日本の記事としては、セックス中毒の婉曲的表現とも言うべき恋愛中毒についてのダイヤモンド誌の記事
http://news.goo.ne.jp/article/diamond/life/2008121204-diamond.html  
(12月12日アクセス)くらいのものです。
 日本人はセックス中毒から目を背けている、と言えるのかもしれません。
 それでは、英米でどのような議論が行われているのか、ご紹介しましょう。

2 セックス中毒について英米での最新の学説

 セックス中毒は、「通常の生活の妨げとなり、家族、友人、愛する人、及び本人の仕事環境に強度のストレスを及ぼすところの、あらゆるセックスに関連する強迫的行動」と定義される。・・・
 中毒者は、インターネット・ポルノに何時間も耽ったり、不倫をしたり、犯罪的なセックス行動をとったりすることを止めると誓ってもその誓いを守れない。・・・
 <もっとも、健康専門家の中には、中毒の対象が自分自身だというのでは、病気とは言えない、とする者がいる。>
 セックス中毒は<今のところ米国の精神障害マニュアルでは障害の中に挙げられてないが、2012年に予定されている次の版で挙げるかどうか、現在検討がなされている。>・・・
 オーガスムの際には、アルコールを摂取した時と同様、薬物であるところの、大脳内で快楽を引き起こすドーパミン(dopamine)が分泌される・・・ので、セックス中毒は薬物中毒であると見ることも可能だ。・・・
http://www.nytimes.com/2008/09/07/fashion/07sex.html?_r=3&oref=slogin&ref=fashion&pagewanted=print
(10月1日アクセス)

 ・・・人はセックスだろうが、例えば食事、買い物、ギャンブル、メールだろうが、どんな行動にだって「中毒」になりうるとの考え方が、この四分の一世紀の間に次第に科学者の間で多数を占めつつある。・・・
 1973年に大脳内で麻薬受容器が発見され、我々の通常の快楽的反応は、薬物でハイになっている状況の縮小版といった感じのものであることがはっきりした。
 逆に言うと、ヘロインやモルヒネは、我々の大脳の薬物まがいの働きがあり、中脳辺縁系神経路(mesolimbic pathway)を過度に刺激するのだ。・・・
 仮に、食事をすることやセックスをすることが、ヘロイン、モルヒネやコカインと同様に快楽中枢を活性化するのだとすれば、かかる行動が繰り返されることによって依存症になりうるとみなすところまではほんの一歩だ。・・・
 「セックス中毒」という言葉が最初に医学誌に登場したのは1978年だ。・・・
 ポルノは何人かの心理学者によって「エロトトキシン」と形容されるようになった。それは神経伝達物資(neurotransmitter)とホルモンからなる中毒性カクテルの分泌を促すというわけだ。・・・
 一部には、中毒は神経障害と自由意思の中間的なものであるという通俗的な考え方があるが、・・・そうではあるまい。
 ・・・健康な大脳は不健康な衝動や欲望をかわすことができるけれど、大脳が機能不全を起こすと、我々は衝動的行動を押さえ込む能力を失う、と考えるべきなのだ。・・・
http://www.slate.com/id/2201172/
(10月1日アクセス)

3 英米におけるセックス中毒の状況

 米国の著名人であるラッセル・ブランドとデーヴィッド・ドゥチョヴニー(David Duchovny)が相次いでセックス中毒の治療を受けるためにリハビリセンターに入所したことで、セックス中毒が脚光を浴びることになった。・・・
 セックス中毒は英国の男性の間で大きな問題になりつつある。
 我々が接触したセックス・セラピストの80%が、男性でセックス中毒で助けを求める人の数が増えていると言っている。
 米国では現在8つ以上のクリニックがこの障害で苦しむ人々に対して専門的な治療を行っている。・・・
 米国でのセックス中毒者の80%は男性だ。・・・
 米国人の3〜5%がこの障害で苦しんでいる。
 彼らの行動は強迫的にオンライン・ポルノを見たりから、あらゆる機会をとらえて売春婦(夫)の所に行ったりまで多岐にわたる。・・・
 中毒者の多くは児童虐待ないし問題のある養育といった複雑な過去を背負っていることから、トラウマの治療が必要だと思っている。・・・
 <治療者の一人>は、「セックス中毒が結構なこと(glamorous)だと思ったことはない」と言う。
 「私が治療をしている中毒者はしばしば、自分達は決して気持ちいいと思っていないことにふけっている、と語っている。」
 「彼らは、自分達が赴く場所や自分達がとる行動に関して自分達自身を憎んでいる・・・。」・・・
 <リハビリ・センターへの入所には>2万英ポンド前後の費用がかかり、何週間も入所しなければならない・・・。
http://news.bbc.co.uk/newsbeat/hi/health/newsid_7771000/7771758.stm  
(12月10日アクセス)
http://news.bbc.co.uk/newsbeat/hi/health/newsid_7774000/7774735.stm  
(12月11日アクセス)も同工異曲の記事だ。)

(続く)

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太田述正コラム#2673(2008.7.17)
<性科学の最新状況>(2009.1.25公開)

1 始めに

 性科学の最新状況(ただし、2年ほど前の時点のものを含む)をご紹介しておきましょう。

2 判明したこと

 (1)発情期

 人間の女性の場合、他の雌の哺乳類に見られるような、発情期(Oestrus=heat)の性器の充血は見られませんが、声がセクシーになります。このほか、性的感受性が増し、臭覚も鋭敏になります(
http://www.newscientist.com/channel/being-human/mg19826544.300-sexy-voice-gives-fertile-women-away.html
。6月17日アクセス)。

 ちなみに、ストリップ嬢が観衆から受け取るチップの金額は発情期に増加します。
 これは、発情期にはストリップ嬢を含め、女性の顔、香り、そして着衣がより魅力的になることや、女性に自信がつくことがこれまでの研究で分かっており(注)、これらの変化を観衆が敏感に感じ取るためであろうと考えられています(
http://www.newscientist.com/article.ns?id=mg19626255.100
。6月17日アクセス)。

 (注)発情期には、女性は肌の露出が多くなり、いつもよりおしゃれをするようになり、いつもより派手なアクセサリーやジュエリーを身につけるようになるということが分かっている(
http://venacava.seesaa.net/article/25895630.html
。6月17日アクセス)。

 他方女性は、発情期に、低い声の男性に性的魅力を感じることが分かっています。
 これは、低い声の男性は、その声の低さが男性ホルモンであるテストステロン分泌量が多いことを示すことから、このような男性は健康で生殖活動に最適であると女性の本能が判断するためだと考えられています。
 ただし、長期的関係を結ぶには、声が高めでやや女性的な男性のほうが、相手を思いやる能力にたけているとして女性には魅力的に映るという研究結果もあります。
 (以上、
http://www.japanjournals.com/dailynews/060228/news060228_2.html
(6月17日アクセス)による。)

 (2)番う相手の発見

 人間の男女は番う相手をどのように見つけるのでしょうか。
 万国共通なのは、美貌・頭脳・富の三点セットです。
 さりとて、高望みしていてはいつまで経っても番う相手が決まらないので、人々は同じ程度の美貌・頭脳・富を持つ人を番う相手に決める傾向があります。
 また、病原体と戦う能力に係るMHC(major histocompatibility complex)がより共通していない人を番う相手に決めるということも分かっています。
 この場合、香りが決め手になっています。MHCがかけ離れている異性の香りは魅力的に感じるのです。
 なお、ピルを飲んでいる女性は、逆にMHCが似通っている男性の香りを魅力的に感じるので注意が必要です。
 また、本来番うべき相手ではなくても、その相手とセックスをすると大脳でオキシトチン(oxytocin)が分泌され、その相手に暖かい、愛に近い親近感が生まれ、子育てを容易にするところの社会的絆が生まれてしまうので、やはり注意が必要です。

 では、愛(love)とは一体何なのでしょうか。
 愛とは、番う相手探しを、暫定的にせよ打ち切り、番うことそのものに専念させるために起きる感情にほかならない、と考えるべきだとする説が有力です。

 ちなみに、時間を節約しつつ番う相手を探す最適方法は、対象中から無作為に抽出した9%に探す相手を限定するという方法であることが、数学的に明らかにされています。
 (以上、
http://www.newscientist.com/article.ns?id=mg19025491.300
(6月17日アクセス)による。)

3 終わりに

 皆さんは、このような領域に科学のメスがどんどん入っていくことをどうお考えですか。
 愛とは番う相手探しを打ち切ることなり、なんて言われてしまうとまことに興醒めですが、なるほど、と思われた方も少なくないのでは? 

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太田述正コラム#2915(2008.11.15)
<バーチャル不倫>(2008.12.24公開)

1 始めに

 バーチャル不倫がもとで離婚騒ぎになった英国人夫妻の話が英ガーディアン紙に載った(
http://www.guardian.co.uk/technology/2008/nov/14/second-life-virtual-worlds-divorce
。11月14日アクセス)と思ったら、次の日には米タイム誌でもとりあげられました(
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1859231,00.html
。11月15日アクセス)。
 さっそく、どういうことかご紹介しましょう。
 記事には、この夫と妻の本名やアバター名等が出てきますが、便宜上、すべてアルファベットに置き換えました。

2 ことの次第

 イギリスのコーンウォールで女性A(28歳)が夫のB(40歳)に対し離婚訴訟を提起した。
 理由は、Bが セカンド・ライフ(Second Life)というバーチャル世界で浮気をしたから、というもの。
 セカンド・ライフでは、利用者はアバターを用いて動き回ったり、友人をつくったり、バーチャル通貨で買い物をしたりできる。現実世界ではできない自由奔放な言動をバーチャル世界ではとることができるのがミソだ。
 AはBと2003年にオンライン・チャットを通じて知り合い、ロンドンに住んでいたAがコーウォール地方に住んでいたBの所に赴き、同棲生活に入った。
 二人は、AのアバターであるαとBのアバターであるβをセカンド・ライフの中でも同棲させた。
 ちなみに、Aとα、Bとβはそれぞれ身長・体重、出で立ち、生活態度等がかなり違っている。
 ところが、ある日昼寝から目覚めたAは、セカンド・ライフでβが売春婦とセックスしているのをBがパソコン画面で眺めているのを発見した
 怒ったAは、セカンド・ライフでのαとβの関係を終了させたが、実生活におけるBとの同棲は続けた。
 その後、AはBを試すため、セカンド・ライフで私立探偵を雇ってある女性にβを誘惑させた。しかし、βはαへの強い思いを語り、この女性を退けた。
 そこで、セカンド・ライフで美しい熱帯雨林の中でαとβは結婚し、実生活においても2005年にAはBと正式に結婚登録所に婚姻届を提出した。
 ところが今年4月、Aは米国人の女性(55歳)Cのアバターであるγをβがソファの上で抱きしめているのをBがパソコン画面で眺めているのを発見した。
 Bはβはγとセックスをしたわけではなく、単にチャットをしていただけだと抗弁したが、Aは聞き入れず、離婚訴訟を提起したわけだ。
 ちなみに、その後、Aはセカンド・ライフ以外のバーチャル世界で出会った男性とつきあい始めたし、Bは上記Cと毎晩2時間も電話でのおしゃべりを続けており、住んでいる場所が遠く離れていることもあって当分会うつもりはないけれど、将来は彼女と結婚したい意向だという。

3 終わりに

 コラム#2800でポルノを見ることは不倫ではない、という記事をご紹介しましたが、ポルノがインターアクティブになったらどうなるのか、というような話ですね。
 バーチャルな世界で男性のアバターが女性のアバターと不倫することは、その男性が不倫相手のアバターの主の女性のアイデンティティーを知らなければ不倫にはならないけれど、アイデンティティーを知っておれば不倫になるのではないでしょうか。
 いずれにせよ、頭がおかしくなりそうです。
 果たして日本でも、今や同様の話が起きても不思議はない状況になっているのでしょうか。

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太田述正コラム#2800(2008.9.19)
<性科学の最新状況(続々)>(2008.11.6公開)

 コラム#2798中の「2 記事のあらまし」冒頭の、
 「このたび、スウェーデンの研究者夫妻が、哺乳類の雄に、番(=単婚=一夫一婦制)を維持することを容易にする遺伝子が存在する、との研究成果を明らかにした。」
を、
 「このたび、スウェーデンの研究者夫妻が、哺乳類の雄に、番を維持すること(=単婚=一夫一婦制)を容易にする遺伝子が存在する、との研究成果を明らかにした。」
に訂正します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1 始めに

 引き続き性の問題を考えてみましょう。

2 人工授精によるシングルマザーの増大

 コラム#2799でのバグってハニーさんの注意喚起を踏まえれば、人間でも遺伝子的に単婚を維持するのが困難な雄(男性)がいるようです。(コラム#2798参照)
 困難な度合いがどの程度か、そのような男性の割合がどれくらいか、にもよりますが、ひょっとすると、単婚(一夫一婦制)の全男性への強制は非人道的なのかもしれませんね。
 さて、以上はすべて男性の話であって、女性についてはまだよく分かっていませんが、その手がかりとなるような記事がガーディアンに出た(
http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2008/sep/17/women.family  
。9月17日アクセス)のでご紹介しておきます。

 英国では、人工授精をしてシングルマザーになる女性は前からいました。
 でもそうする女性は30台後半か40台前半が普通でした。
 しかし、もはやそうではありません。
 今週発表された世論調査の結果によれば、56%もの女性が、ある一定の年齢に達しても伴侶を見つけることができなければ、男性の誰かから精子の提供を受けて人工授精で妊娠することを考慮すると答えました。
 そして、最もそう答えた割合が多かったのが、28歳から31歳の比較的若い女性だったのです。
 精子の提供を受けることは、これまでは常に最後の手段でしたが、今や最初の手段になりつつあります。
 多くの女性がこれまでよりも人生の早い時期に経済的独立を達成し、シングルマザーになることが汚点であるとは思わない人が大部分になっているのです。

 米国でも、生涯にわたる伴侶を得ることよりも子供を得ることの方が重要だと考え、どうせなら早く子供を得た方がよいと考えている女性が多数を占めるに至っています。

 どうやら、人間の女性の多数にとっては、単婚(一夫一婦制)どころか、番うこと(セックスをすること)すら、子供を産み育てることより優先順位は低いようですね。
 換言すれば、女性の多数は、特定の男性の存在を子供の妊娠及び養育にとって不可欠なものなどとは全く思っていないらしい、ということです。
 そうだとすると、私を含む男性の女性観は、抜本的な修正を求められているのではないでしょうか。
 もちろん、十把一絡げにしてはいけないのであって、女性の中に、子供を産み育てることを重視しない、あるいは子供を産み育てたくない人がいることも忘れてはならないでしょうが・・。

3 ポルノの普及と不貞

 米アトランティック誌が、「ポルノは姦淫なりや(Is Pornography Adultery?)」という記事を掲載しています(
http://www.theatlantic.com/doc/200810/adultery-porn.  
。9月17日アクセス)。
 その概要をご紹介しましょう。

 女性は昔よりはポルノを見るようになったが、男性より遙かにポルノに敵意を持っており、ポルノを見る割合は男性に比べると顕著に低い。
 インターネット世代たる米大学の学生を対象に昨年行われた調査によれば、女子学生の70%は一度もポルノを見たことがないのに対し、見たことのない男子学生は14%しかいなかった。そして、男子学生の半分近くが少なくとも週に1回はポルノを見ているのに対し、そうしている女子学生は3%しかいなかった。

 以上を踏まえて、二つの見方がある。
 一つは、ポルノは男子にほとんど遍く見られる無害でちょっぴりばかげている習慣であるという見方だ。
 もう一つは、ポルノは、より深刻な裏切りへと導く入り口であるという見方だ。
 2004年の研究によれば、不倫をしなかった既婚カップルに比べて、不倫をした既婚カップルの少なくとも一方がインターネット・ポルノを利用していた度合いは3倍にも達する。 
 実際、夫が他の女性が目の前で性的演技をやるのを眺めるのは裏切りだとすれば、それをパソコンやテレビで見るのだって裏切りではないだろうか。(もちろん、レアケースではあれ、これは夫と妻とを入れ替えても同じことだ。)

 他方、次のような調査結果がある。
 2003年にイリノイ大学が、ポルノを利用している男性と性的関係にある女性を対象として行った調査では、約三分の一はポルノを見る習慣は裏切りであり不貞であると答えた。しかし、多数は中立的ないし好意的に受け止めていた。
 いずれにせよ、はっきりしているのは、1980年から2004年にかけて、ポルノの種類が増え、またポルノへのアクセスが極めて容易になったにもかかわらず、性的暴力は85%も減ったことだ。また2006年の研究では、インターネット・ポルノへのアクセスが10%増えると、申告される強姦が7%減ることが分かった。(コラム#1666、1667参照)

 結論的にはこういうことだろう。
 ポルノは悪いことかもしれないけれど、悪いことの中じゃもっともタチのいいものだということだ。
 ポルノを利用している男性は、性的に関係ある女性を性的に裏切っていることは事実だが、彼はポルノに登場する女性に感情を込めているわけではない。彼の裏切りは、性交に伴うところの、妊娠から性病に至るリスクを伴ってはいない。そして彼は、カネのためにセックスをしている女性を相手に裏切りを行っているわけであり、これらの女性は街娼や最高級の娼婦より安全な状況下でセックスをしていることも忘れてはなるまい。

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太田述正コラム#2798(2008.9.18)
<性科学の最新状況(続)>(2008.11.4公開)

1 始めに

 コラム#2673で「愛とは、番う相手探しを、暫定的にせよ打ち切り、番うことそのものに専念させるために起きる感情にほかならない」という説が最近有力だと申し上げたところです。
 ただしこれは、コラム#2745でご紹介したフロムの主張であるところの、「「恋」(特定の異性とセックス、すなわち生殖行為をしたいという感情)と「愛」は峻別して論じるべきである」を踏まえれば、「恋とは、番う相手探しを、暫定的にせよ打ち切り・・」と読み替えなければなりますまい。
 その上で、「愛」を、特定の異性と長期にわたって互いに協力しつつ(子育てを含め)生活を共にしていきたい気持ち、と定義することにしましょう。
 フロムは、「愛は技術<であって>学ばなければならない・・・どうすれば人を愛せるようになるかを学びたければ、他の技術、たとえば音楽、医学、工学などの技術を学ぶときと同じ道をたどらなければならない。」とも主張しているわけですが、このたび、愛する能力の有無は遺伝子的に決まっている可能性が高い、とする研究成果が出ました。

 この研究成果を紹介するニューヨークタイムスの記事(
http://judson.blogs.nytimes.com/2008/09/16/a-commitment-pill/index.html?ref=opinion
。9月18日アクセス)のあらましをご紹介しましょう。

2 記事のあらまし

 このたび、スウェーデンの研究者夫妻が、哺乳類の雄に、番を維持すること(=単婚=一夫一婦制)を容易にする遺伝子が存在する、との研究成果を明らかにした。
 哺乳類の雄と雌とが長期にわたって番(つがい)を維持する・・性的に互いに忠実な関係を維持しつつ、ともに子供達を育てる・・ということは希であることが知られています。
 すなわち、哺乳類の番がこのような関係の近似的な関係を長期にわたって維持するケースを含めたとしても、その割合は5%にも達しません。
 近似的な関係とは、社会的単婚のことであり、性的に互いに忠実な関係抜きの単婚を指します。
 社会的単婚の哺乳類としては人類のいくばくかのほか、プレイリー・ハタネズミ(prairie vole)等があげられます。
 いずれにせよ、哺乳類において単婚がかくも希であるということは、単婚が必ずしも(授乳等に始まる)子供の養育に適合的でないものであることを示唆しています。

 さて、アルギニン・ヴァソプレッシン(Arginine vasopressin)というホルモンが知られています。
 このホルモンは雌よりも雄にとってより重要であり、多くの哺乳類の雄の攻撃的ポーズ、臭いによる領域のマーキング、求婚とセックスを仲介しています。
 ヴァソプレッシン受容器は、大脳内に存在する分子群であって、ヴァソプレッシンだけに反応します。つまり、この受容器は、このホルモンの効果に影響を及ぼすのです。

 プレイリー・ハタネズミは、しばしば生涯にわたって番を維持し、雄も雌も子供の面倒を見ます。
 夥しいセックス・・ヴァスプレッシンを分泌させる・・を伴うプロセスを経て番が形成されると、プレイリー・ハタネズミの雄は雌とくっつきあい、世話をしあうという時間を多く過ごすようになります。

 このたび、次のことが分かりました。
 プレイリー・ハタネズミのある遺伝子を大脳の腹部(=ventral)pallidum と呼ばれる部位に注入すると、ヴァソプレッシン受容器の密度が増えるということが。
 すなわち、メドウ(meadow)ハタネズミは本来単婚ではないのですが、その雄を、結果的にこの雄と番うこととなったところの、初対面の雌と24時間過ごさせた後、この雌に加えて、それまで何度も番った雌と一緒にしたところ、上述の遺伝子を注入されていたメドウ・ハタネズミは、それまで何度も番った方と一緒の時間を過ごすようになったというのです。
 注入されていなかった雄はそんな行動はとりませんでした。

 (これは、雄についての研究であって雌についての研究はこれからの課題です。)
 
 もとより、この遺伝子だけで雄の雌に対する愛を説明できるとは限りません。
 他の遺伝子だって愛の形成に影響を及ぼしているかもしれませんし、環境要因、とりわけ子供時代の環境要因が影響を及ぼしている可能性もあります。
 しかし、人間の男性に対して働くところの、EDの治療薬ならぬ、愛の形成薬ができて、誰しもが女性と長期にわたる愛情ある関係を維持することができるような時代が将来やってくるかもしれません。

3 終わりに

 仮に人間の男性には上述の遺伝子が備わっていないとすると、彼らが愛を形成して単婚を維持するためには、全員がフロムの主張通り愛の技術を習得する必要があるけれど、将来は、愛の形成薬の助けを借りることによって、愛の技術の習得なしに全員が愛を形成できるようになるかもしれないし、仮に人間の男性には上述の遺伝子が備わっている人と備わっていない人がいる、あるいは上述の遺伝子の働きが十分な人と不十分な人がいるとすると、現在は、愛の技術の習得が必要な男性と不要な男性が存在するけれど、将来は遺伝子が備わっていない男性も遺伝子の働きが不十分な男性も、愛の形成薬の助けを借りることによって、愛の技術の習得なしに愛を形成できるようになるかもしれない、ということになります。

 IQの高さについて、nature(生まれつき)かnurture(養育)のせいかかの論争がありますが、近い将来、愛についても同様の大論争が起きそうですね。

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太田述正コラム#2780(2008.9.9)
<拡大する男女の性差>(2008.10.30公開))

1 始めに

 男女の性差に関するニューヨークタイムスの記事(
http://www.nytimes.com/2008/09/09/science/09tier.html?pagewanted=print
。9月9日アクセス)がとても興味深いので、その概要をご紹介しましょう。

2 記事の概要

 ・・・平均的に言って、女性はより、非競争的(注)、控えめ(nurturing)、慎重、にして感情が豊かであるのに対し、男性はより、競争的、自己主張的、向こう見ず、にして感情が乏しいことが明らかになっている。そして、このような違いは幼少期に出現し、決して解消することはない。・・・

 (注)ミシガン州のグランド・バレー・州立大学の心理学者のロバート・ディーナー(Robert Deaner)は、女性が男性に比べて非競争的であることを徒競走走者についての長年にわたる研究等を通じて明らかにした。

 <ところが、このような>男女の個性の違いは、インドやジンバブエといった伝統的文化社会ではオランダや米国よりも小さいように見える。家父長的なボツワナの部族における夫と専業主婦の方が、デンマークやフランスの共稼ぎのカップルよりも男性との性差が少ないのだ。男性と女性が平等の権利を持ち同じような仕事をするようになればなるほど、男女相互の個性が乖離していくように見える。・・・
 イリノイ州のブラッドレー大学の心理学者・・・のシュミット(David P. Schmitt)博士は、豊かな近代社会が男女間の外的障壁を解消するにつれて、古の両性間の内在的相違の幾ばくかが復活するのではと考えている。
 <シュミット等の>研究者達が確認したところによれば、最大の変化は女性ではなく男性の個性に生じる。伝統的な農業社会の貧しい諸国の男性は、欧州と北米の最も進歩した豊かな諸国の男性に比べて、より慎重で心配性で、より自己主張的でなく、より競争的でないときているのだ。
 ・・・シュミット博士<ら>は、貧しい諸国における生活の厳しさを指摘する。動物の中には、環境ストレスがより体躯の大きい方の性に不均衡に影響を及ぼし、年季の入っている第二次性徴(例えば雄の鳥の羽毛の柄)を薄れさせることに注目する。彼らは、人間でもストレスが生物学的な性差を薄れさせる実例があると指摘する。例えば、男女間の身長の平均的格差は貧しい諸国では金持ちの諸国とは違って余り目立たない。というのは、男の子達の成長は栄養不良や疾病といったストレスによって女の子に比べて不均衡に妨げられるからだ。
 個性は身長よりも複雑であることはもちろんだが、シュミット博士は、それが物理的なストレスだけでなく、伝統的農業社会における社会的ストレスによって影響を受けると考えている。つまり、このような社会における村人達は、彼らの個性を、近代的な西側の諸国や狩猟採集社会における部族におけるよりも、一層、拘束的な掟、ヒエラルキー、男女に期待される役割、に適応しなければならないというわけだ。
 「人間にとって、一神教、農業に立脚する経済、そして少数の男性が権力と資源を独占する体制の下で生きていくのは色んな意味で不自然なことなのだ」とシュミット博士は言う。狩猟採集社会の方が相対的に平等主義的である証拠があることを博士は匂わせる。「ある意味で、近代的で進歩した諸文化はわれわれを心理的に狩猟採集時代のルーツへと連れ戻しつつある」と彼は論じる。「つまり、全般的な高度の社会政治的男女平等の下で、男女が異なった領域に対して生来的な興味を示すわけだ。伝統的農業社会のストレスが解消すると男性は、そしてより少ない程度において女性は、より「自然な」個性を顕在化させることになろう」と。・・・

3 終わりに

 この、シュミット博士らによる実証的研究の結論は、私の縄文・弥生モード論に部分的な修正を迫るものです。
 私は狩猟採集時代たる縄文時代が著しく長かった日本において、縄文時代の平和と自然環境との調和を志向するメンタリティーが日本人のメンタリティーの基調を形作ったとし、先の大戦前後からこのメンタリティーが顕在化した、と考えており、この点に変更を加える必要は認められないものの、その一方で私は、戦後日本の中性化傾向、就中男性の中性化傾向(コラム#276)を指摘しつつ、これもまた、縄文的メンタリティーの顕在化であると考えていたところ、こちらの方は修正を加える必要が出てきたのかもしれない、ということです。
 ご意見をお寄せいただければ幸いです。

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太田述正コラム#2703(2008.8.1)
<不貞について>(2008.9.9公開)

1 始めに

 5月に、分量があることもあり、URLだけ記録しておいた、米ニューヨーク・マガジン記事
http://nymag.com/relationships/sex/47055/
を本日読みました。
これは、有り体に申し上げれば、不貞に関する記事です。
 結論から申し上げれば、こういった類の話題については、科学的研究が余り行われていないためか、散漫な印象の記事でした。
 しかし、米国に係るこの問題に関する興味深い記述がいくつかなかったわけではないので、ご紹介しておきましょう。

2 興味深い記述

 遺伝子データベースの最近の解析によれば、父親と言うことになっている人物と違う男性から生まれた人が10%にのぼることが明らかになった。
 女性が不貞を働き、しかも伴侶たる男性に気取られなかった事例だけでこんなにある、ということだ。
 しかし、結婚している男性の不貞率は約25%、結婚している女性の不貞率は約15%といったところであり、男女差は歴然たるものがある。
 だからこそ、既婚の人々がセックスの遊び相手を求めるmeet2cheatというウェブサイトでは、三ヶ月会費として、男性からは59米ドル、女性からは9米ドル徴収している。
 そして、トルストイの大作、『アンナ・カレーニナ』を読めば分かるように、不貞は女性をより美しくする(太田。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~michimar/book/113.html
(8月1日アクセス))かもしれないが、男性より高くつく。すなわち、女性の不貞が露見すると、結婚は終焉を迎えがちだが、男性の不貞が露見しても、結婚生活は続く場合が大部分だ。
 これは、マスターベーションの回数を見ても分かるように、男性の方が女性に比べて性的欲求が高いことから、不貞が大目に見られる度合いが大きいというのが一つの理由だ。
 より大きな理由は、不貞の社会的経済的インパクトが男性の場合には甘く女性の場合には厳しいからだ。
 ところで、どうして不貞はいけないことなのだろうか。
 性的排他性(sexual exclusivity)を求める人が多いからだ。
 このような人々が恋に落ちると嫉妬心が起きる。特定の女性を愛するようになると、彼女が別の男性と関係を持つと落ち込んでしまう。寝込んでしまうことすらある。逆に恋に落ちていない状況下では、あらゆることが許される。
 ちなみに、貞節(faithfulness)とは性的排他性の、宗教的含意のある別呼称だ。
 性的排他性を求める人が多いからこそ、結婚制度がある。
 しかし昨今、性的欲求の強い人々の中から、嫉妬心や所有者意識を持たず、性的排他性を求めない人々が出てきている。
 こういう人々にとっては、結婚制度は意味を持たない。
 なお、結婚年齢はどんどん上がってきており、結婚前の性行為を女性は8.2年、男性は10.7年経験するに至っていること等から、性行為と結婚が次第により切り離されつつあることにも注目すべきだろう。
 欧州諸国では、米国よりもこういった点で先に行っている。
 例えばドイツでは、自由恋愛の容認の下で、夫と妻は別々にバカンスをとるようになっている。

3 終わりに

 日本では、米国同様、いまだに性的排他性を求める人が多そうですが、私としては、少子化を婚外子を増やすことによって打開するためにも、日本人が徐々に意識を変えることが望ましいと考えていますが、なかなかむつかしいでしょうね。

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太田述正コラム#2018(2007.8.23)
<第3の性(その2)>(2007.9.26公開)

3 ブラジル性転換手術無料化へ

 8月15日、ブラジルの連邦裁判官達の委員会(panel)が、政府に対し、性転換手術を一般の疾病の治療同様無償で実施できるように30日以内に措置しなければならないとした上で、遅延すれば、毎日5,000米ドル相当の罰金を科すと決定しました。
 ちなみに、ブラジルでは、憲法上の権利として国民は医療を無料で受けることができることとされています。

 この決定に対し、ブラジル政府は、抗告しないことにしました。
 なお、誰に対して性転換手術を受ける資格を与えるかについては、地方ごとに保健担当官吏が決定すべきこととなりました。
 いずれにせよ、世界で初めて、ブラジルでは性転換手術を無料で受けることができることになったわけです。

 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-briefs18.s4aug18,1,5573105.story?coll=la-headlines-world  
(8月19日アクセス)による。)

 日本では、性転換手術はもちろん保険ではカバーされていないと思いますが、ブラジルは何と進んでいることでしょうか。

4 「性同一性障害」の原因論をめぐる米国での騒動

 しかし、この性転換手術の対象にもなるところの、性同一性障害の原因について、研究者の間でコンセンサスが成立している、というわけではなさそうです。
 米ノースウェスタン大学の心理学者のベイリー(J. Michael Bailey)が2003年の春に出版した本“The Man Who Would Be Queen”をめぐって米国で激しい議論が行われています。
 この本の中でベイリーは、男として生まれた人が女になろうとするのは、生物学的なミスマッチで男の体にくるまれた女性として生まれてしまったからであるとの通説に異論を唱え、女性になって行うセックスへのあこがれ(erotic fascination)からである、と主張したのです。
 
 爾来、通説を当然視する大部分の学者達や性同一性障害者達から、ベイリーは、非科学的謬見を唱えるものであってナチと同じだ、といった厳しい非難を受けています。
 ベイリーを支援している学者等も少数ながら存在するものの、ベイリーの説の支持を表明している人はほとんどおらず、もっぱら、批判者が学問的批判の域を超えた人格攻撃が行われていることへの懸念の表明にとどまっています。

 (以上、
http://www.nytimes.com/2007/08/21/health/psychology/21gender.html?pagewanted=print  
(8月22日アクセス)による。)

 このような面については日本よりはるかに進んでいる米国においても、なおタブーが存在しているらしいことが分かりますね。

5 終わりに

 日本には、芸の上での異性装者、すなわち歌舞伎や大衆演劇の俳優たる女形が存在します。
 中には時々立役を行う女形の俳優がいますし、女形しかやらない俳優の中にも、日常生活は普通の男性として送る人と日常生活においても女性的な生活を送る人がいると承知しています。
 異性装者にしても、性同一性障害者にしても、第3の性の世界は奥行きが深そうですね。

(完)

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太田述正コラム#2016(2007.8.22)
<第3の性(その1)>(2007.9.25公開)

1 始めに

 情報屋台のコラムニストの一人に性同一性障害者の杉山文野さんがいます。
 杉山さんによれば、性同一性障害(Gender Identity Disorder=GID)とは、身体(からだ)の性別(sex)とこころの性(gender)との間に食い違いが生じ、それゆえに何らかの "障害" を感じている状態を指すのだそうですが、杉山さんは、身体は女性でこころが男性の性同一性障害者です。
 その逆のケースが、おすぎさんやピーコさん、そしてカバちゃんやカルーセル麻紀さんであり、これも杉山さんによれば、このうち、カルーセル麻紀さんはニューハーフで、それ以外はおかまなのだそうです。
 (以上、
http://johoyatai.com/?page=yatai&yid=73&yaid=441
による。)

 この性同一性障害者に、異性装者(transvestite)・・いわゆる「女装者」や「男装者」のこと・・を加えて第3の性と呼ぶことにしましょう。

 日本は現在でも、先進国最悪の男女差別国です(
http://www.nytimes.com/2007/08/06/world/asia/06equal.html?ref=world&pagewanted=print  
。8月7日アクセス)。
 私が1974年に米国カリフォルニア州のスタンフォード大学に留学した時、最初にびっくりしたのは、ゲイの権利を叫ぶ性同一性障害者たる学生達のデモが連日のようにキャンパス内で繰り広げられていたことです。
 当時の日本では、男女差別状況は現在の比ではありませんでしたが、性同一性障害者は更なる差別の対象であり、その存在すらほとんど抹殺されていたので、上記のデモに私がびっくりしたのは当然です。
 その日本でも、今回の参院選に、大政党から立候補が認められたケースとしては初めてだと思いますが、比例区から民主党の候補者として元大阪府議の尾辻かな子さん(32歳)が、同性愛者であることを宣言して立候補するような時代になりました。(29位で落選。)(
http://news.livedoor.com/article/detail/3172831/  
。8月18日アクセス)
 ところが米国では、同性間の結婚が公に認められている州まで出現しています。
 日本では第3の性について、もっともっと光があてられなければならない、と痛切に思います。
 本シリーズでは、この第3の性をめぐる諸問題を取り上げることにしました。

2 アルバニアの男装者

 つい最近まで、女性が地方選挙で選挙権を行使することが認められず、土地を買うこともできず、就ける仕事や、入れる施設にも多くの制限があった北部アルバニアでは、少なくとも15世紀以来、女性が生涯処女であることを誓うことによって男性として生きることができる、という慣習があります。
 性転換手術のようなことをする必要はなく、髪を短く切り、男性の衣服を身に纏い、通常男性が従事するところの、羊飼いとかトラックの運転手とか政治家になったりするのです。
 そして回りの人々は、「誓約処女」が女性であることを知りつつ、男性として扱うのです。 
 この慣習の起源は、一家の家父長が死んでその後を継ぐ男性がいなかった時に、女性を家父長の座につける必要が生じたためであろうと考えられていますが、その後、独立心の旺盛な女性や親が決めた結婚を回避したいけれど相手の一家の名誉を傷つけたくない女性等が「誓約処女」の道を選ぶようになったようです。
 誓約は通常地域の長老達の前で行いますが、私的に行う場合もあります。
 現在アルバニア全体で「誓約処女」は30人から40人しか残っていないと見られています。
 中には、「誓約処女」になったことを悔いている人もいますが、以前と違って、誓約を破っても殺されることこそなくなったとはいえ、再び女性として認知されることはありえないことから、どうしようもないのだそうです。
 もう新しく「誓約処女」になる女性は出てきていないので、早晩この慣習は消え失せることでしょう。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/08/10/AR2007081002158_pf.html 
(8月12日アクセス)による。)

(続く)

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太田述正コラム#1667(2007.2.21)
<ポルノと強姦(その2)>(2007.3.23公開)

3 ポルノ普及説が「普及」しない理由

 このようなポルノ普及説が米国で「普及」しないのはなぜなのでしょうか。
 アングロサクソン諸国共通のビクトリア時代的性意識が邪魔をしている、というのが私の考えです。
  実は、強姦率の高い順に世界の国や地域名を書き出してみると、次のようになります。
 南アフリカ、セイシェル諸島、豪州、モンセラット、カナダ、ジャマイカ、ジンバブエ、ドミニカ、米国、アイスランド、パプアニューギニア、ニュージーランド、英国(
1998??2000年のデータ(
http://www.nationmaster.com/graph/cri_rap_percap-crime-rapes-per-capita)。
 このうち、南アフリカ・セイシェル諸島(Seychelles。1814年に仏領から英領へ)・ジャマイカ・ジンバブエ・パプアニューギニアは旧英国領ですし、モンセラット(Montserrat)は英国領ですし、豪州・カナダ・米国・ニュージーランド・英国は言わずと知れたアングロサクソン諸国です。
 逆に言うと、非アングロサクソン系は、ドミニカとアイスランドだけであり、アングロサクソン系のオンパレードといった趣があります。
 そして、アングロサクソンは、イギリスのビクトリア時代の、慎み深く、性的に抑制されており、どんなささいな誘惑に対しても自分自身を注意深く防御した英国人(
http://www.victorianweb.org/gender/sextheory.html
。2月21日アクセス(以下同じ))に象徴されているように、セックスへの無関心ないし嫌悪感を装う傾向があります。
 だからこそ、というべきか、近代ポルノの起源こそ、16世紀のイタリアや17世紀のフランスに譲ったものの、イギリスは、18世紀には空前の傑作であるファニーヒル(Fanny Hil)を生み出し、19世紀に入ると1850年頃、ギリシャ語のporne(娼婦)とgraphein(書く)を合成した新語、pornography(ポルノ)をつくり出すのです。
 できそこないのアングロサクソンたる米国民もこの点に関しては、本家イギリス以上にアングロサクソン的であり、上記ファニーヒルの出版が公式に認められたのは、信じがたいことに、1960年代になってからでした。
(以上、
http://uktv.co.uk/index.cfm/uktv/History.item/aid/529865
による。)
 ですから、米国では、現在でもポルノに対する嫌悪感が強く、ポルノ普及説に対する反発も、フェミニストを中心に大きい(
http://www.rawstory.com/news/2006/Porn_up_rape_down_0922.html
)のです。
 ちなみに、ニクソン米大統領は、猥褻とポルノに関する審議会(Commission on Obscenity and Pornography)をつくり、ポルノと非行や犯罪との間に因果関係なし、という結論が答申されると激怒し、これに懲りたレーガン米大統領は、同様の審議会を設置した際、イデオロギー的なリトマス試験紙にかけた上で審議委員を選任し、しかも司法長官を委員長に据えたおかげで、反対の結論の答申を得ることができました(
http://anthonydamato.law.northwestern.edu/Adobefiles/porn.pdf前掲)。
 このため、ワシントンポストやロサンゼルスタイムスでさえ、いまだに本当のことを報じることを躊躇せざるを得ない、ということなのです。

4 終わりに

 日本は、極めて強姦の少ない国です(コラム#785)。
 その理由は、「娯楽に関して、子供と大人の間に境界線が引けないだけでなく、欧米においては、大人の隠微な世界に属する「性」が、堂々と・・しかも子供にまで・・開陳されているのも江戸時代の日本人の「民族的特性」の一つですが、これも現代の日本にそのまま受け継がれています。子供がTVで見るアニメ番組の中に、猥雑なもの、エロチックなものが少なからずある国、週刊誌やスポーツ新聞で、硬派の記事とエロ記事やヌード写真が同居しているものが少なくない国、更にはこのような週刊誌のどぎつい広告を電車の中で目にすることができる国、は世界広しと言えども日本くらいである・・・」(コラム#1513)ところに求められると思っています。
 ですから、米国、そして広くアングロサクソン諸国は、性意識において日本化しつつある、と言ってもよいのではないでしょうか。
 私は、米国等で強姦が減っているのは、インターネット/ポルノの普及だけでなく、性的要素がちりばめられているものが少なくない、日本のアニメの米国等への普及も原因の一つだと思っているのです。

5 蛇足

 ところで、米下院で、慰安婦問題での日本政府の対応を非難する決議が通りそうだと話題になっています(例えば、
http://www.sankei.co.jp/news/060914/kok014.htm
。10月2日アクセス)。
 慰安婦への日本官憲の関与があったかなかったか、どの程度あったかが議論されていますが、旧軍の慰安所を含むところの公娼制度・・江戸時代の廓制度に遡る歴史を持つ・・が戦前の日本にあり、それが戦後、ビクトリア時代の性意識を引きずっていた占領軍の要求によって廃止された(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%B2%E6%98%A5%E9%98%B2%E6%AD%A2%E6%B3%95
。2月21日アクセス)ことをわれわれは思い出す必要があります。
 公娼に「官憲」が衛生や「労働」条件等の観点等から関与するのは当たり前のことです。
 それがどうして問題なのだ、と決議を推進している米議員達に対し、性意識教育を含む説得をすべきでしょう。
 そもそも、欧州諸国の多くには公娼制度が現在でもあり、米国ですら、ネバダ州の一部には公娼制度があるのであって、当然、これらの国々や地方の「官憲」は関与をしているはずです。
 公娼に係る業者と売春婦となった女性本人(やその家族)との間の私契約の公序良俗性の問題は残りますが、これは基本的には「官憲」の責任外の話です。
 憲法第9条の「押しつけ」同様、公娼制度の廃止も占領軍の行った愚行の一つであり、憲法第9条がいまだに存続しているだけでなく、公娼制度がいまだに復活していないことは、あえて、日本が米国の保護国であり続けている証であると言わせてもらいましょう。
 
(完)

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太田述正コラム#1666(2007.2.20)
<ポルノと強姦(その1)>(2007.3.20公開)

1 継続的かつ大幅に減少した米国での強姦

 タイトルを見て仰天した読者もおられるかと思いますが、至って真面目なコラムですのでご安心を。
 昨年6月18日付のワシントンポスト電子版は、1970年代に比べて、米国における強姦件数が85%も減ったと報じました。すなわち、米司法省の12歳以上の人々を対象とする社会調査に基づく推計によれば、1000人当たりの強姦発生率は1979年には2.8件であったのに、2004年には0.4件まで減ったというのです。
 強姦の非申告率が増えたわけではありません。
 同じく米司法省の推計によれば、1996年には非申告率が69%であったところ、現在は61%まで減っているからです。
 ところが、この記事は、強姦のこのような劇的な減少がどうして起こったかについては、ほとんど触れていません。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/06/18/AR2006061800610_pf.html
(2月20日アクセス)による。)
 半年以上経った今年の2月18日、ロサンゼルスタイムスは、同じ趣旨の記事を電子版に掲載しました。
  目新しいことと言えば、強姦発生率の低下は、統計を取りだした1959年から一貫して続いているということと、若年層になればなるほど、強姦する率についても強姦される率についても、低下が大きい、ということを報じた点くらいです。
 そして、やはり、どうして減ったかについて、説得力ある説を紹介していません。
(以上、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-op-males18feb18,0,2951664,print.story?coll=la-opinion-rightrail
(2月19日アクセス)による。)
 少なくとも後者の記事は不誠実であるとの批判を免れません。
 というのは、昨年8月までに、かなり説得力のある、衝撃的な説が発表されていたからです。

2 ポルノ普及説

 (1)ダマト教授の説

 昨年、米ノースウェスタン大学ロースクール教授のダマト(Anthony D’Amato)は、強姦減少の理由はポルノの普及にあるという説を発表しました。
 この説の概要は次のとおりです。

 強姦が減った理由として、通常、麻薬がらみの犯罪全体が減った、女性が防衛する術を教えられた、強姦を犯すような人物の多くは他の罪で服役中である、性教育の結果青年達はダメなものはダメだという観念をたたき込まれた、といったことが挙げられているが、説得力に乏しい。
 本当の原因はポルノの普及にある。
 ハードコアポルノ映画「ディープ・スロート(Deep Throat)」が封切られたのは1972年であり、その後ポルノがVHS、更にはDVDでレンタルショップで簡単に借りられるようになっていく。1970年代と80年代にはポルノ雑誌も数が爆発的に増えた。やがて、インターネット・ポルノの時代となる。その売り上げは三大ネットワークであるABC、CBS、MBCの売り上げの合算額を超えるに至っている。これによって、事実上、未成年もポルノ漬けになっている。
 さて、米国でインターネット普及率が最も低い4つの州で、強姦発生率は1979年以来の25年間で53%も増えたのに対し、インターネット普及率が最も高い4つの州では、強姦発生率は27%も減っていることからも明らかなように、ポルノが普及したからこそ、強姦が少なくなったのだ。
 その理由としては二つ考えられる。
 一つは、ポルノを見ることで、欲望が満たされ、実行に移す必要がなくなってしまうことであり、もう一つは、ポルノがセックスから神秘性をはぎとってしまって強姦の魅力が減退したことだ。
 (以上、
http://anthonydamato.law.northwestern.edu/Adobefiles/porn.pdf
(2月20日アクセス。以下同じ)による。)

 (2)傍証

 このところ、米国では凶悪犯罪全体が減少してきているのですが、1980??85年と2000??2005年は凶悪犯罪全体は減少しなかったにもかかわらず、強姦はこの間も一貫して減少し続けました(http://abstractnonsense.wordpress.com/2006/08/30/porn-and-rape/)。
 ですから、強姦の減少は、凶悪犯罪の増減とは別の理由で生じていることは間違いありません。

 ダマト教授の説の傍証は、豪州、デンマーク、そして日本でも得られています。
 豪州での最新の研究によれば、1995年から2005年にかけて、18歳以上で強姦の被害を受けた者は0.6%から0.3%に減少したのに対し、インターネットを導入している家庭は1998年の20%から2004??2005年には56%に増えています。
 また、デンマークでの最新の研究では、18歳から30歳の年齢層の男性の98%、女性の80%がポルノを見たことがあり、その女性の約半分は少なくとも1月1回は、多くはパートナーと一緒にポルノを見ており、男性の約38%が週3回以上ポルノを見ていることが判明しました。
 1991年の研究によれば、このデンマークでも、そしてスェーデンでもドイツでも、強姦の増加率は凶悪犯罪全体の増加率を下回っています。
 日本の1999年の研究でも、ポルノとインターネットについて、同じ結論が得られています。
 (以上、
http://www.melonfarmers.co.uk/aswhywar.htm
による。)

(続く)

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太田述正コラム#1516(2006.11.19)
<美人論(その2)>

 (本扁は、コラム#1511の続きです。)
 (ある知人に、黄金分割と美、ないし美人の関係について話したところ、「先だって、TVの番組で同じ話をやっていた。その時、白銀分割の話も出ていた」とのこと。日本の民放の番組編成にかける熱意はすごいなと思いました。それにしても、「私は知っていたよ」と言ってこられた方が一人もおられないところを見ると、わが読者は、皆さん忙しい方ばかりで、碌にTVもご覧になっていない、ということのようですね。)

3 美人論

ここから先は、Von Drehle自身が展開している議論です。

 歴史のほとんどの期間を通じて、庶民は、美女や美男を目にする機会はなかった。
 美女や美男の絵や彫刻は、宮殿や寺院の中にあり、他方で庶民の大部分は草むす田舎で生涯を送ったからだ。
 しかし、今や、映画やTVの誰もが日常的に美女や美男を目にすることができる。
 だから、みんながみんな、美女や美男になりたがる。美人の民主化が起こったのだ。
 米国では、この10年間で美容整形手術数は5倍に増えた。手術の平均費用は1,000米ドルもする。
 また、米国人は毎年、化粧品や香水に335億ドル、フィットネスクラブに150億ドルも使う。更に、何10億ドルも美容院やネイルサロンや背中塗油店(back-waxing emporium)に費やす。歯へのレーザー照射や漂白も盛んだ。女性だけでなく、男性もファッションに惜しげなく金をかける。
 美などというものは存在せず、みんなが「美人」関連産業に踊らされて誤った強迫観念にとらわれているだけだ、特に、「美人」関連産業は、男性達の意向を受けて、仕事や家庭や政治で力を増しつつある女性達の力を削ごうとする陰謀に加担している、といった議論がしばしばなされるが、美人には、科学的根拠がある、というマルカートの主張を踏まえれば、必ずしもそうは言えない。
 さりとて、すべてがマルカート流の美の科学理論で説明できるわけでもない。
 美女や美男の観念には、階級的要素があるからだ。また、この観念には、時代によって、また人種によって微妙な違いもある。
 例えば、白人の場合、貧しい人達が農場で働いていた時代には、日焼けした肌は貧困の印であったことから、金持ちの女性達(や時には男性達も)は顔におしろいを塗りたくったものだ。しかし、産業化時代が到来すると、貧しい人たちは都市の工場で働くようになり、青白い顔つきをするようになった。すると今度は、日焼けしているように見えることがステータスになった。
 また、かつては腹を空かしている人が沢山いたので、太っていることが金持ちであることの証だったが、最近では、やせていることが格好いいということになった。それが行き過ぎたので、最近のマドリードにおけるファッションショーで、やせすぎのモデルが閉め出されるようなことが起きた(注3)。

 (注3)前年の参加モデルの30%が失格となるという厳しい基準が採用された(http://www.cnn.com/2006/WORLD/europe/09/13/spain.models/index.html
。11月19日アクセス)(太田)。

 もう一つ。ギリシャ・ローマ時代から17世紀のルーベンスの時代まで、絵や彫刻に登場する美女や美男達(ギリシャ神話の神様を含む)はみんな小太りだが、単に小太りであるだけでなく、成熟した体つきをしており、女性の場合は、経産婦のように見える者が多い。
 このことを考えると、現代の米国人は、美に取り憑かれている以上に、若さに取り憑かれているように見える。

4 コメント

 読者の中から、「美」についてのhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8E、及び「美人」についてのhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8E%E4%BA%BA、の二つのウィキペディアに、美の科学理論を加筆する方が出て欲しいものです。
 「美人」に関しては、日本人にとっての美人像の変遷についても、もう少し書き込んで欲しいと思います。

(完)

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太田述正コラム#1511(2006.11.16)
<美人論(その1)>

1 始めに

 ワシントンポストの編集委員(staff writer)のDavid Von Drehle(ドイツ語読みならドレーレだが、英語読みなら何て読む?)が書いたLooking Good という、記事(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/11/08/AR2006110801477_pf.html
。11月14日アクセス)を読んだ時、紹介されていたところの、科学的な美の理論に基づいた美人論にびっくりしました。

 しかし、ひょっとして知らなかったのは自分だけかも知れないと不安になり、ウィキペディアの「美」http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8E(日本語)、及びhttp://en.wikipedia.org/wiki/Beauty(英語)、並びに「美人」http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8E%E4%BA%BA(日本語)にあたってみました(いずれも11月16日アクセス)。

 その結果、これらのどこにも上記記事に書いてあった話が出てこないので、これはぜひ皆さんに紹介すべきだと考えた次第です。
 最初のあたりは数学が出てきますが、それから先には出てこないので、しばらく我慢してください。
 (以下、特に断っていない限り、ワシントンポスト上掲による。)

2 科学的な美の理論

 南カリフォルニアの整形外科医のマルカート(Stephen Marquardt)は、美とは、われわれのDNAに組み込まれている観念であると主張している。

 単純な例から始めれば、美人になればなるほど体が左右対称であることが分かっている。
 最近ポーランドで行われた実験によれば、24歳から36歳までの女性で、左右の薬指の長さの違いが2ミリ以上違う者を左右非対称とみなして、左右対称の者と比較したところ、生殖能力を司るホルモンestradiolの量が、前者のグループは後者のグループより13%少なかった。
 このうち、経済状況が悪く生活が厳しいのでホルモン分泌が異常である可能性がある農村地帯の女性達を除外したところ、左右非対称のグループのestradiolの量は左右対称のグループより28%も少なかった。

 マルカートは、美人とは、顔が左右対称であって、かつ目、鼻、唇等の配列が黄金比(Golden Mean=Golden Section=黄金分割)(注1)に合致している者であることを発見し、ここから、美とは黄金比及び黄金比と密接な関係のあるフィボナッチ数(Fibonacci numbers)(注2)で構成されたものに係る観念である、という理論(
http://goldennumber.net/
。11月14日アクセス)を導き出した。

 (注1)黄金比とは、線分ABをPで分けるとき、AB:AP = AP:PB または、AB×PB=AP2 となる比率を指す。数学的には、1:(√5+1)/2=1:1.618・・・、のこと。これをφ(=Φ=ファイ)と表示することがある。面白いことに、1:φ=0.φ:1 なのだ。貝殻の渦や細胞の成長にも見られ、日本の官製はがきの縦横の比率もこれに近い。
http://www.nowdo.com/production/j_golden_sec.htm。11月16日アクセス)

 (注2)フィボナッチ数とは、1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, 610, 987, 1597, 2584, 4181, 6765, 10946, 17711, 28657... という、どの項もその前の2つの項の和となっている数列の各項の数を指す。フィボナッチ数(数列)とφとの関係式は、テキストファイルでは書き表せないので、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%9C%E3%83%8A%E3%83%83%E3%83%81%E6%95%B0
(11月16日アクセス)を参照のこと。

(続く)

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太田述正コラム#10832006.2.17

<解明されつつある人間の秘密(続々)>

1 米国の男女の結婚観の違い

 米国で行われた調査によれば、結婚相手に対して男性が求めるのは、ユーモアのセンス・自分の家族との協調性・安定した仕事/借金を踏み倒した前歴がないこと(この二つは同順)・子作りの意欲・キッスが上手なこと(注1)、の順なのであるのに対し、女性が求めるのは、安定した仕事・お金の支払いがきちんとしていること・ユーモアのセンス・自分の家族との協調性・子作りの意欲・無違反の運転歴、の順であることが分かりました。

 これを見ると、男性はロマンティスト、女性はリアリストである、という感を改めて深くしますね。

 (以上、http://www.latimes.com/business/la-021306love_lat,0,7205585,print.story?coll=la-home-headlines(2月14日アクセス)による。

 ホリエモンは、カネで買えないものはない、とうそぶきましたが、どうやら、女はカネで買えるようです。

 (注1)キッス(接吻)が登場するあたりは、いかにも米国らしいと思うが、日本にも昔から男女間の口吸いの「習慣」があった。紀貫之の「土佐日記」、今昔物語や秀吉(肥前名護屋)の淀君(大阪城)宛の手紙にもこの言葉が登場する(http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=1188474。2月17日アクセス)。

     なお、豪州における研究によれば、青少年がディープキッスを行うと、髄膜炎や敗血症を引き起こすバクテリア(meningococcal bacteria。青少年の1割が感染している)の感染が起こりやすく、ディープキスの「普及」の結果、1990年代を通じ、米英の青少年の髄膜炎・敗血症罹患率及びそれに伴う死亡率が急上昇したという(http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4696974.stm。2月11日アクセス)。

2 仕事こそ幸福の源

 スェーデンにおける研究によれば、カネも愛も成功も人を幸福にはしないのであって、次々に目標を設定して、懸命に仕事を続ける人こそ幸福である、ということが分かりました。目標を達成すると、幸福にはなるが、その一瞬後にはそれが当たり前になってしまって幸福感は消え失せてしまうから(habituation effect)だというのです。

 私に言わせれば、こんなことはアングロサクソンや日本人にとっては、当たり前すぎる話であり、欧州だからこそニュースになったのでしょう(コラム#125参照)(注2)。

 (以上、http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1695387,00.html(1月29日アクセス)による。)

 (注2)レーガン米大統領は、仕事嫌いで有名であり、「懸命に働くことは害ではないと人は言う。しかし、私はそれが正しいかどうか検証するつもりはない」と言ったとされる。ガーディアン紙のコラムニストのAlexander Chancellorは、「さすがレーガンは元俳優だっただけのことはある。演技がうまいねえ」とおちょくっている。

3 複雑な意志決定はカンで

 オランダにおける研究によれば、熟考する人(Conscious thinkers)は単純な状況下の意志決定を得手とするけれど、カンに頼る人(unconscious thinkers)は複雑な状況下の意志決定を得手とすることが分かりました。

 これは、熟考すると一時に少数のことにしか集中できないため、複雑な状況下では特定の要素を必要以上に重視しがちであるからであり、何度も熟考しているとその都度自分の下した判断が若干ずつ違ってしまって訳が分からなくなるからでもある、というのです。

 ただし、この研究結果を鵜呑みにしてはならない、という意見は少なくありません。

 ある学者は、複雑な状況下の意志決定にあたっては、まず熟考した上でしばらく時間を置いてから意志決定をすべきだと主張していますし、別の学者は、まず熟考した上で、カンに頼って意志決定をすべきだと主張しています。

(以上、http://www.guardian.co.uk/science/story/0,,1711859,00.html(2月17日アクセス)による。)

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太田述正コラム#10662006.1.31

<解明されつつある人間の秘密(続)>

 (本篇は、コラム#932の続きです。)

1 人間の交尾期の謎解明さる

動物の中で、人間だけは雄はもとより、雌までも(自分の)交尾期が分からない不思議な存在だと(コラム#932で)申し上げたところですが、つい最近まではそんなことはなかった、ということが明らかになりました。

チェコの研究チームが、排卵日前後には女性のわきがの臭いが一番低くなることをつきとめたのです。それ以外の期間は、わきがの臭いが強くなるため、臭覚に敏感であった大昔の男性は、興ざめしてその気がなくなったと考えられる、というのです。

この同じ研究チームは、既に、女性は排卵日前後には嗅覚が鋭くなり、やはり嗅覚に敏感であった大昔には、並み居る男性のうち、最も遺伝学的に優性(dominant)な者を選び取ることができたと考えられることも明らかにしています。

(現在でも、沢山の男性の脇にガーゼを挟んでおいてそのガーゼを次々に女性に嗅がせると、排卵日前後に限って、女性は最も優性な男性、すなわち最もセクシーなわきがの臭いを持つ者、をあてることができたとのこと。)

(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4614842.stm(1月16日アクセス)による。)

2 出産・育児はアタマを良くする

 今度は米国の研究チームの成果です。

 彼らが、二種類のネズミと人間を対象に行った実験によれば、これまでの常識とは正反対に、出産・育児は脳を活性化し、その効果は長期間残る、ということが分かったのです。

 まず、妊娠・出産・産後のホルモンの変化は脳に刺激を与え、いくつかの領域における脳神経単位(neuron)のサイズを大きくし、女性はより感覚系が鋭敏になります。(子供の居場所をわずかな臭いと音でつきとめるためです。)

 また育児は女性にとって、全く新しい、感動的で大変な経験であるだけに、その脳を革命的にと言ってよいほど活性化します。

更に、これも従来の常識には反し、40台で子供を産み育てた女性は、一般には脳の機能が低下し始める時期に脳が再活性化されるためか、それよりも若く子供を産み育てた女性より長生きすることも分かりました。

この研究チームは、哺乳類が卵生動物に比べて、大きな進化を遂げることができたのは、この出産・育児の脳活性化効果によるのではないか、と考えています。

残念ながら、男性は出産するわけにいきませんが、育児に積極的に協力すれば、そうしない男性に比べて、脳が活性化することも分かりました。

(以上、http://observer.guardian.co.uk/uk_news/story/0,6903,1686984,00.html(1月16日アクセス)による。)

3 男性は女性より復讐好き

 最後にもう一つ。

 別の米国の研究によれば、被験者とサクラ達(被験者はサクラであることを知らない)にゲームをやらせ、サクラのうち一名がインチキをするとそのサクラが軽い電気ショックを加えられる、という実験を行ったところ、男性の同情(empathy)を司る大脳の部位の活動レベルは変わらず、快楽(pleasure)を司る大脳の部位の活動は活発化するのに対し、女性の場合はその正反対であることが分かりました。

 この男女差は、生まれつきのものか、生まれてから獲得されたものなのかはいまだ定かではないものの、歴史的に見て、もっぱら男性が、社会的ルールに違反した者を処罰する役割を担ってきたのはなぜかが、この実験結果から説明できそうです。

 (以上、http://www.nytimes.com/aponline/science/AP-Schadenfreude-Study.html?pagewanted=print(1月19日アクセス)、及びhttp://www.slate.com/id/2134380/(1月20日アクセス)による。)

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太田述正コラム#9322005.11.4

<解明されつつある人間の秘密>

1 始めに

 生物としての人間に関わる科学も日進月歩です。

 今回は、それでもなお解けない謎、解明への手がかりが得られた謎、そして、解明された謎、を一つずつご紹介しましょう。

2 依然として解けない排卵日の謎

 オギノ式の避妊法は、基礎体温表をつけることから始まりますが、これは、女性自身が自分の排卵日が分からないことから来ています。

 しかし、つがうべき時期が分からない、というけったいな有性動物は人間だけです。

 人間に一番近い哺乳類である猿でさえ、お尻が赤くなることで、つがうべき時期は一目瞭然であることを考えれば、これはまことに不思議なことだと言わざるを得ません。

 よくそんなことで、人間はいままで絶滅を免れえたものだ、と言いたくなるくらいです。

 すなわち、他人はもとより、本人の女性までもが自分の排卵日が分からない、というしくみにいかなる意味があるのかは、依然として大きな謎なのです。

(以上、http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-barash27aug27,0,3693433,print.story?coll=la-news-comment-opinions(8月28日アクセス)による。)

3 手がかりが得られた言語と音楽の起源

 次は、謎が解明される手がかりが得られたケースです。

 ネズミの雄が、人間の耳には聞こえない高周波の声を出すことは以前から知られていましたが、最近、雄が雌の性フェロモン(sex pheromon)(注1)の臭いを嗅いだ時に出す声が録音され、分析したところ、一種の歌であることが分かりました(注2)。しかも、個体によってその「歌」には個性があることも分かったのです。

 (注1)フェロモンというのは、というのはもともと主に昆虫が交信用に放出する分子の総称で、性フェロモンはその一種であり、異性を惹き付ける役目を持っている。哺乳類でも象や豚は性フェロモンを持っているが、人間は持っていない、と考えられている。なお、性フェロモンは雌の専売特許では必ずしもなく、豚の場合は雄が性フェロモンを持っている。(http://www1.accsnet.ne.jp/~kentaro/yuuki/pheromon/pheromon.html11月3日アクセス)

 (注2)この「歌」を4オクターブ下へと周波数変換を行って人間にも聞こえるようにした音声ファイルと、そのテンポをゆっくりにして、「リズム」や「音の高さ」や「メロディー」が分かるようにした音声ファイルが下掲のガーディアン・サイトに掲げられている。

 これまで、鳥類や、哺乳類では鯨やイルカや手長猿(gibbon)の「歌」が知られていましたが、ネズミもその仲間入りをしたわけです。

 鳥類の多くの場合、「歌」のメロディーが優れている雄を雌がつがい相手として選ぶのですが、果たしてネズミでも、「歌」が雌のつがい相手選びにかかわっているのか、また、メロディーが優れている雄を雌が選ぶのかどうかはまだ分かっていません。

 ネズミについてのこの発見が画期的である理由は、ネズミは繁殖率が高いために、遺伝に係る様々な実験が容易にでき、しかもこれが人間の謎の解明にもつながるからであり、この研究を掘り下げていくことによって、人間の言語や歌(音楽)が生まれた経緯の解明ができるのではないか、と期待されています。

(以上、http://www.guardian.co.uk/science/story/0,3605,1605806,00.html11月2日アクセス)による。)

4 解明された美人の秘密

 大きな謎が解明されたケースもあります。

 英セント・アンドリュース大学の研究チームがこのほど、美人とは、大きな目、広い額、小さなあご、大きな唇、を持っている女性であって、このような女性は、女性らしくて魅力的であり、エストロゲン(oestrogen)(注3)の分泌量が多く、従って多産である、ということを明らかにしました。

(3)女性ホルモンのひとつで「卵胞ホルモン」とも呼ばれるもの。排卵の準備をするホルモンで、生理の終わりごろから排卵前にかけて分泌が高まる。40代半ば頃から分泌が急激に減少しはじめ、うつやイライラ、不眠、倦怠感などのさまざまな更年期症状の原因となる。(http://www2.health.ne.jp/word/d1020.html

 これは、(まことにお気の毒ながら、)醜女は子作りの対象としても不適格だ、ということを意味します。

 古来女性が化粧(make-up)に血道を上げてきたのは、男性の目をあざむくことによって、自分は子作りの対象として必ずしもふさわしくないにもかからわず、男性を惹き付け、つがうためだ、とすればその意義が大変良く分かりますね。

(以上、http://www.guardian.co.uk/science/story/0,3605,1606586,00.html11月3日アクセス)による。)

5 最後に

 こうして女性にとっての化粧の意義は解明されたわけですが、大抵の動物では、雄が色鮮やかで華やかであるというのに、人間だけは(化粧される顔だけでなく、全身について)雌が色鮮やかで華やかなのはなぜか、ということはまだ解明されていません(ロサンゼルスタイムス上掲)。

冒頭に挙げたところの、排卵日が分からないという謎、等も併せ、解明される日が来るのが待ち遠しいですね。

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太田述正コラム#8162005.8.7

<生殖・セックス・オルガスム(その6)>

 (本篇は、7月31日に上梓しました。8月4日から12日まで夏休みをとるので、コラムの上梓頻度を増しています。なお、前回のコラム#815について、「霊長類」と「類人猿」の用法を誤っていたのを改める等の修正を加えて、ホームページの時事コラム欄とブログに再掲載してあります。)

 (3)アルカーイダ系テロリズム論(試論)

  ア 近代化が困難なイスラム社会

 随分以前(コラム#602002年に)、「客観的に見れば無謀としか言いようのなかった攘夷運動があったからこそ明治維新が実現したと考えれば、昨年の同時多発テロでクライマックスに達したアルカイーダの対米闘争が、逆説的にイスラム世界の革命的近代化をもたらす可能性もまた否定できないのではないでしょうか。」と指摘したことがあります。

 この指摘は今でも間違っているとは思いません(注19)。

 (注19)アルカーイダ系テロリズムが攘夷運動であるという見方は米国にもある(http://slate.msn.com/id/2123010/。7月21日アクセス)。

 しかし、攘夷運動は必然的に伝統回帰を伴うものであるところ、幕末の日本の場合は尊「皇(天皇制)」という伝統に回帰できたのに対し、イスラム世界においては「イスラム主義」という伝統に回帰せざるをえないことから、イスラム世界においては攘夷運動が容易に社会の近代化(アングロサクソン的社会化)につながらないどころか、むしろ社会を退行させてしまいがちである、という悩ましさがあるのです。

  イ それはどうしてなのか

 そもそも、(最初から個人主義社会であり近代社会であったアングロサクソン社会にはあてはまりませんが、)近代化とは、前近代的婚姻制度(家制度)から個人を解放し、社会を個人主義的社会につくりかえることであると言ってもいいでしょう。

 家制度をコアとする前近代社会(非アングロサクソン的社会)は、人間一人一人が持っている利己的・利他的ポテンシャルの十全な発揮を妨げる社会です。

 なぜなら、個人が自分の利己的ポテンシャルを発揮して財産・権力・安全を増大することができたとしても、その成果の相当部分を家の構成員全員に分かち与えなければならない以上、個人が自分の利己的ポテンシャルを最大限発揮するようなことは、まずありえないからです。(女性の場合は、家の中で男性に隷属していることから、利己的ポテンシャルを発揮する機会をそもそも与えられません。)

 このため前近代社会は、全般的な貧しさの中で、ごく少数の富んだ家の構成員達と、圧倒的多数の貧しい家の構成員達とから成っているのが典型的な姿です。

 また、前近代社会においては、社会全体のために発揮されるべき個人の利他的ポテンシャル(忠誠心=royalty・自己犠牲の精神=altruism・惻隠の情=caregiving、等)が、基本的に家の中に封じこめられ、家の中で費消され尽くしてしまい(この発想は、Stephanie Coontz, MARRIAGE, A HISTORY--From Obedience to Intimacy or How Love Conquered Marriage, Viking 2005 に係るhttp://archives.econ.utah.edu/archives/marxism/2005w18/msg00203.htm(7月16日アクセス)から得た)、家を超えた公の観念が希薄なのです

 このため前近代社会は、本来的に不安定な社会です。

 すなわち前近代社会は、公の観念が希薄であるために無政府状態が常態であり、この中から強力な家(外来系勢力であることが多い)が他のすべての家を搾取するところの専制政府が樹立されたとしても、やがてその専制政府は必然的に衰亡し再び無政府状態に戻る、というのが前近代社会の典型的な姿なのです。

 ですから、前近代社会が近代化するということは、家制度(前近代的婚姻制度)を近代的婚姻制度に切り替え、個人を家の桎梏から解放して個人の利己的・利他的ポテンシャルを十全に発揮させ、もって豊かで安定的な社会を構築する、ということなのです。

 この過程で、当該社会は深刻なアイデンティティークライシスに陥る懼れがあります。このアイデンティティークライシスを回避してくれるのが、コインの両面たる攘夷と伝統回帰なのです。近代化しようとしているのではなく、近代化拒否の攘夷を行うために古き良き時代に回帰しようとしているのだ、と自分に言い聞かせるわけです。

 それが最もうまくいった事例が、尊「皇(天皇制)」攘夷の旗印の下で近代化に完全に成功した日本です。

 中共は尊「毛沢東主義」の旗印の下で近代化に一定程度成功しつつありますし、インドもやはり、尊「ヒンズー主義」の旗印の下で近代化に一定程度成功しつつあります。

 この場合、「天皇制」、「毛沢東主義」、「ヒンズー主義」が、それぞれ近代化に適合的な形に読み替えられていることは言うまでもありません。

 ところがイスラム社会の場合、攘夷しようとすると「イスラム主義」へと伝統回帰しがちであるわけですが、それはコーランとコーランに基づくシャリア(イスラム法)への回帰を意味するところ、コーランは神の発した言葉とされていることから、一切の読替が許されない点が問題なのです。これでは攘夷は破壊と退行しかもたらしません。(イラン革命とアルカーイダ系テロリズムがそれぞれ何をもたらしてきたかを想起してください。)

 とりわけ、コーラン(とシャリア)が、前近代的婚姻制度を当然視している点が最大の問題なのです。

 ですから私は、イスラム社会が近代化するためには、イスラム化以前へと伝統回帰するほかない、と思っています。

 これを試みたのがトルコです。イスラム化以前からトルコ民族なるものが存在していた、と措定し、攘夷と尊「トルコ民族主義」という旗印を掲げたおかげで、トルコの近代化に一定程度成功しつつあります(コラム#163?167)。

 このように見てくると、英国で近代的婚姻制度を当然視する圧倒的多数の人々に取り囲まれて暮らしている(前近代的婚姻制度の下にある)イスラム教徒達が、英国社会に統合されず、移民層の最底辺を形づくり、かつその一部からアルカーイダ系テロリストを輩出したのは、不思議でも何でもないということになりそうですね(注20)。

 (注20)米国はサラダボール社会であり、最近の移民を中心に前近代的婚姻制度の下にある人々がいくらでもいる。その米国に住むイスラム教徒達に関しては、英国におけるような問題が余り見られないのは興味深い。もっとも、米国のイスラム教徒には、米国の大学に留学してそのまま帰国しなかったインテリが多い、という英国のイスラム教徒とは異なった事情もある。http://www.nytimes.com/2005/07/21/nyregion/21immigration.html?pagewanted=print。7月21日アクセス)

      なお、英国の場合、(日本と同様、)上記の圧倒的多数の人々の間で近代的婚姻制度が崩れ始めているわけだが、英国のイスラム教徒達から見れば、英国の人々の多くは、許し難いほど背徳的に見えることだろう。

(完)

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太田述正コラム#8152005.8.6

<生殖・セックス・オルガスム(その5)>

 (本篇はコラム#807の続きであり、7月30日に上梓しました。8月4日から8月12日まで夏休みをとるので上梓頻度を増しています。)

8 補論

 (1)前近代的婚姻制度について

 前近代的婚姻制度として最も普遍的に見られる形態は、財産(土地や流動資産)・権力・安全(財産・権力及び生命を災害や戦争等から守ること)、の全部または一部を確保するために婚姻によって家と家が結びつく、というものです。

家と家が婚姻で結びつけば、財産・権力・安全の全部または一部を確保するための人的資源を(成人たる拡大家族員の拡大とその拡大家族への子供の生誕によって)増やすことができるのですから、このような前近代的婚姻制度は、非個人主義社会(非アングロサクソン社会)にあっては、極めて合理的な社会制度であると言えるでしょう(注17)。

(注17)婚姻によって財産・権力・安全の分布が大きく変わるような場合、婚姻をめぐって紛争が起きることがめずらしくなかった。トロイ戦争(コラム#463468)は、ホメロスによれば、まさにそのようにして起こった。だから紛争防止ために、古典ギリシャ時代のアテネでは、婚姻には議会の同意を要した。

財産も権力も安全も確保するためには膂力が必要であることから、家長には男性が就き、家長たる男性は、配偶者を含め、家の女性に対し優位に立ち、その生殺与奪の権利を持っている場合すらあります。

 ですから、前近代的婚姻制度においては婚姻に、愛情、より直截的に言えばセックス、更に直截的に言えばオルガスム、といったあやふやで移ろいやすい要素が介在する余地は全くありません(注18)。

 (注18)古典ギリシャにおいては、男性の愛は男性だけを対象とする崇高な感情だった。父親が跡継ぎなくして死亡すると、結婚していても女性は強制的に離婚の上、父親の最近縁の男性と再婚させられた。

     古代ローマ時代には、家と家の結びつきを強化するために、妻と妻の交換を行うことがよく行われた。

     中世の欧州においては、貴族は、結婚式で初めて新郎新婦が会ったものだし、庶民も地域によっては、領主が決めた相手と結婚させられ、それが嫌なら領主に上納金を納めなければならなかった。

カトリック教会が、かつて愛は結婚の必要条件ではないとし、今でも結婚は性的欲求を充足させるために行うべきものではない、としているのは、前近代的婚姻制度に完璧なまでに適合的な考え方なのだ。ちなみに、バレンタイン・デー(Valentine's Day)は、カトリック教会によって、性的欲求(オルガスムへの欲求)が抑制できていることを確認する日として498年に制定された、という経緯がある。現在ではその趣旨が反対になってしまっている。

 この前近代的婚姻制度の下では、家の存続と勢力拡大が至上命題であることから、上流階級では、妻に子供ができなければその女性は離婚の上実家に戻されるのが通例ですし、仮に妻に子供ができても、夫は妾や愛人をつくって子供作りに励むことが奨励されています。また、下流階級では、足入れ婚を行い、子供ができてから正式に結婚をするのが通例です。

 (2)婚姻以外の男女の結びつき方について

 近代婚姻制度や前近代婚姻制度以外に男女の結びつき方がないわけではありません。

 そもそも、人間以外の霊長類(primate)が皆乱婚であることからして、長期にわたる男女の一対一の結びつきを基本とする婚姻制度は、人間の本性に反する不自然な制度であるはずなのです。

 ただし、人間と、人間に一番近い霊長類である類人猿(anthropoid)との間でさえ、大きな違いが一つあります。

 それは、人間の場合、子供が成人になるまで長い年数を要するという点です。

 ここから、類人猿とは違って、子育てに父親の協力も得る必要が出てくるのです。

 だからこそ、子育てに気長につきあってくれる男性を選別する必要に迫られて、前に(このシリーズ冒頭で)紹介したように、自分のオルガスムが容易に得られない女性が自然淘汰の結果生き残って来たわけです。

 しかし、だからと言って、人間の女性が一人の男性としかセックスをしない、ということにはなりません。類人猿の頃からセックスに関しては余り進化していない人間の男性が色々な女性とオルガスムを味わいたい(セックスをしたい)のと同じく、女性だって子育てに気長につきあってくれる意欲と能力がある男性でさえあれば・・この条件を満たす新たな男性を見つけるのは容易ではないけれど・・違う相手とオルガスムを味わいたい(セックスをしたい)ことに変わりはないからです。

 ここから、前近代婚姻制度や近代婚姻制度が確立する以前は、人間社会は一夫一妻制ではなく、多数が一夫多妻制(Polygamy)的乱婚社会であり、少数が一妻多夫制(polyandry)的乱婚社会であったはずであることが容易に想像できます。

 このような観点から前近代婚姻制度を改めて見てみると、この制度には一夫多妻制的乱婚の時代の名残りがあることが分かります。してみると、イスラム教における一夫多妻制は、前近代婚姻制度の中でそれほど特異な形態とは言えないのではないでしょうか。(他方、初期のモルモン教における一夫多妻制は、近代婚姻制度の中では極めて特異なものであると言うべきでしょう。)

 他方、一妻多夫制は、チベット・ネパール・スリランカ・北インド・ラダク・支那の雲南地方・サハラ以南のアフリカ、ブラジル北西部、の部族の一部、でかつて見られたところです(http://en.wikipedia.org/wiki/Polyandry。7月30日アクセス)。

 日本の平安時代の貴族は母系相続であり、女性が住んでいる家に「夫」(時には複数)が通ってきて、子供が生まれるとそのまま自分の家で育てる場合がありました(典拠省略)が、これは事実上の一妻多夫制と言えるのではないでしょうか。

(以上、特に断っていない限りhttp://www.amazon.com/gp/product/product-description/067003407X/ref=dp_proddesc_0/104-3120900-9991169?%5Fencoding=UTF8&n=283155http://hnn.us/roundup/comments/10248.htmlhttp://cms.psychologytoday.com/articles/pto-20050506-000006.html(7月16日アクセス)http://commentary.org/article.asp?aid=12001081_1、、http://hnn.us/roundup/entries/12910.html(以上、上掲)、及びAlain Macfarlane,Marriage and Love in England 1300-1840, Basil Blackwell 1986(コラム#88による。)

 近代婚姻制度の崩壊が目前に迫っている日本の皆さんが、男女の結びつき方が今後どうなっていくのかをお考えになるにあたって、以上を参考にしていただければ幸いです。

(続く)

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太田述正コラム#8072005.7.29

<生殖・セックス・オルガスム(その4)>

 

 (本篇は、コラム#798の続きであり、7月26日に上梓しました。)

6 セックスレス時代へ

 2000年のデータでは、日本の25歳から29歳までの男性の70%、女性の54%は結婚していません。しかも、依然婚外子に対する強い偏見が日本の社会にはあります。これでは少子化が進行するはずです。

 しかし、日本の少子化の原因はそれだけではありません。

 日本の既婚女性の26%が夫と過去一年間全くセックスをしていない、というデータがあります。日本人の離婚率は過去10年で二倍近くに増えていますが、その原因の多くは、昔のように夫の浮気ではなく、妻の夫に対する性的不満です。

 配偶者とセックスレスであっても、夫の方は、オルガスムを得る手段はポルノとかセックス産業とかいくらでもあるのに対し、妻の方は、仮にオルガスムを求めた場合、これを得る手段がないだけに切実です。

 このため、悩みを抱える妻の相談を受けたセックスカウンセラーが、有志の男性をセックスフレンドとして斡旋するケース・・ホテル代は両者で折半する・・まで報じられています。

(以上、http://www.guardian.co.uk/japan/story/0,7369,1451704,00.html(4月4日アクセス)による。)

 独身男性の多くにも問題が見られます。

 秋葉原のコスプレ喫茶に集うオタクこそ現在の日本の独身男性を象徴する存在です。

彼らオタクが萌え市場で使うカネは26億ドル相当にも達しているという推計があり、オタクはそれなりに日本経済に貢献しています。

 問題なのは、彼らはマンガやパソコンゲームの世界でバーチュアルに美少女と恋愛し、セックスを行うだけで、ホンモノの女性と交際したりセックスをしたりすることはもとより、女性に声をかけることすら苦手だということです。

(以上、http://www.guardian.co.uk/japan/story/0,7369,1529706,00.html(7月16日アクセス)による。)

以上から、今や日本にセックスレス時代が到来していることが良く分かります。

日本にこのようにセックスレス時代が到来した背景としては、以前(コラム#276で)申し上げたように、日本の男女の中性化、すなわち性的・暴力的エネルギーの低下があり、更にその原因として、日本が弥生モードから縄文モードに切り替わって久しい上に吉田ドクトリンを墨守してきたために日本が半世紀以上にわたって意識の上でも実態においても平和であったことが挙げられます(注15)。

 (注15)「吉田ドクトリン」と「縄文モード・弥生モード」(私の造語)は、「アングロサクソン文明・欧州文明」とともに、私のコラムを貫くキーワードであり、ぜひともコラム#276等を読んで、これらキーワードの意味をしっかり把握していただきたい。

 セックスレス時代が到来している以上、政府がこれまでと異なる全く新たな発想に立って強力な手段を講じない限り、日本の少子化はとどまることなく進行し、早晩日本が世界一の少子社会になるのは必定でしょう。

 セックスレス時代が到来したのは、今のところ世界で日本だけです(注16)が、平和の普及・普遍化に伴い、今後世界中の国々において、性的・暴力的エネルギーが低下して行くことが予想されるのであって、良かれ悪しかれこの点で、日本は世界の趨勢の先取りをしている、と私は考えています。

 (注16)セックスレス社会日本を取り上げたガーディアン・・つまりは英国人・・の目のつけ所はすごい、と思います。

7 結論

 以上見てきたように、イギリスの結婚制度に発する近代婚姻制度は、最新の性科学が明らかにした男女の性的不均衡を踏まえた、極めて合理的な制度であり、その極限形態が戦後の米国に発する夫婦役割分担制(専業主婦制)ですが、膂力が仕事に要求されないようになって女性が社会進出を果たし、更に女性が男性より優位に立つ社会が見えてくるとともに、夫婦役割分担制、ひいては近代婚姻制度そのものが崩壊し始めています。

そして近代婚姻制度が崩壊した時代においては、オルガスムを自分だけであるいは同性または異性の他人の手を借りて求めるか否か、同性または異性とセックスをするか否か、(異性と)生殖活動をするかどうか、生殖活動をしないであるいは生殖活動をした上に養子をもらうかどうか、結婚生活を同性または異性と行うかどうか、結婚生活を行うとして事実婚にとどめるかどうか、等が完全に男女個々人の自由に委ねられることとなることでしょう。

つまり、これからの時代においては、生殖・セックス・オルガスムが完全にオプショナルになるだろう、ということです。そして、英国・米国・日本が、それぞれ異なった切り口からこの時代を切り開きつつあることを見てきました。

その中で、最も先端を走っていると私が思っているのが、セックスレス時代が到来した日本なのです。

最後に、イギリスの結婚制度すなわち近代婚姻制度ならぬ、前近代的婚姻制度とはいかなるものであるか、そして、第三世界の大部分がいまだにこの前近代的婚姻制度の下にあることが、いかなる問題を現代の世界で引き起こしているかを論じて、本シリーズを終えることにしたいと思います。

(続く)

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太田述正コラム#7982005.7.20

<生殖・セックス・オルガスム(その3)>

 以上申し上げてきたことを念頭に置いて、それぞれ世界の最先端を走っていると私が考えている英国、米国、日本の三つの国で、何が起こっているかを見て行くことにしましょう。

4 女性優位の時代へ

 史上初のフェミニストたるウォルストーンクラフト(コラム#71471517600)女史を生んだ英国は、経済面等における男女同権が近い将来実現しようとしており、女性優位の時代の到来すら視野に入ってきました。

 まず経済面です。

50万英ポンド以上の資産を持っている人の数が、18歳から44歳までと65歳以上で、女性が男性を上回っていることが先月公表された調査の結果明らかになりました。

 65歳以上については、女性の寡婦が夫の資産を相続するケースが多いからですが、既に44歳までについては、女性が実力で男性を凌駕している以上、早晩、45歳から54歳までを含め、女性が完全制覇する時代が目前に迫っています。

 この背景には、過去30年間で、女性の幹部(manager)の数が2%から三分の一近くまで増え、女性の就業率が42%から70%に伸び、女性の大学進学率が男性を上回るようになった、という現実があります。

(以上、http://money.guardian.co.uk/news_/story/0,1456,1531203,00.html(7月19日アクセス)による。)

 政治面でも、アングロサクソン諸国の中で最初に最高権力者の座に女性が就いたのは英国でした。「鉄の女(Iron Lady)サッチャー首相(首相在位1979?90年)がそうです。

今にして思えば、これは政治のみならず、英国における、経済面を含む女性優位時代の前兆だったのです(注8)。

 (注8)サッチャー語録の一つ、「もし誰かに言ってほしい事があれば、男に頼みなさい。でもやってほしい事があるときは女に頼みなさい。」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC。7月19日アクセス)は意味深長だ。

 そもそも、女性の方が男性より、沢山の仕事を同時にこなす能力・分別・冷静さ・忍耐力・現実的(実際的)であること・非攻撃的であること・助言を聞いて受け入れる能力、等において優れており、社会的な仕事をするのに向いていると言われている(ガーディアン上掲)だけに、仕事において基本的に膂力が必要でなくなった以上、経済面でも政治面でも男性が女性に追いつかれ、追い抜かれて行くのは必然なのかもしれません。

5 婚姻制度は崩壊へ

 婚姻制度が崩壊する最前線に立っているのは米国です。

 米国では、1900年までに、様々な避妊法が生まれる一方で、世界一離婚率が高くなっていました。

 先の大戦後、(その大戦のおかげで大恐慌の後遺症から完全に脱し、かつ大戦の被害が僅少であったことによる)圧倒的な豊かさを背景として、米国において、近代的婚姻制度を極限まで推し進めたところの、外で働く夫及び専業主婦の妻並びに二人強の子供からなる夫婦役割分担制(breadwinner/homemaker model)が世界で初めて実現し(注9)、それが世界のアングロサクソン社会やアングロサクソン的社会において模範視され、継受されて行くことになります(注10)。

 (注9)近代的婚姻制度においては、家業で夫が主、妻が従となって共に働くというのが基本であり、夫婦間で役割分担はなかった。それが、欧米で19世紀に入ってから、夫婦役割分担制を理想とする考え方が出てきた。

 (注10)ただし、日本の夫婦役割分担制は、妻が財産管理について主導権を持っていた点で、米国の夫婦役割分担制とは大きく異なる。米国では、(州によって差があるが、)歴史的経緯もあり、夫が法的にも実態的にも財産管理権を独占していた。例えば、夫は台所に水道を引くことを拒否でき、仮にその家庭に財産があったとしても、妻がそのための経費を夫に支出することを求めることは裁判上認められないとした最高裁判決が1950年代に出ている。

 そこへ、1960年に米国でピルが生まれ、婚姻や生殖とセックスが完全に切り離されます。逆に、不妊治療技術も、格段の進歩を遂げます。

 また、基本的に仕事に膂力が必要でなくなったこと(前述)から1970年代から独身女性の社会参画が進んで行くのですが、この頃までの電気掃除機・電子レンジ・全自動皿洗い機・ディスポーザー・全自動洗濯乾燥機等(注11)の電化製品の普及で、家事の負担が著しく軽減されたおかげで、妻たる女性も家事から解放されて、その社会参画も進んで行きます。それに伴い、夫による財産管理権の独占も突き崩されて行くことになります。

 (注11)日本では、ディスポーザーについては下水道の容量と流速の制約から使用が禁止されており、全自動洗濯乾燥機についても、電圧が米国等の二分の一であることから、普及が遅れた(私の知識)。

 こうして米国で、早くも1960年代半ばには、戦後実現した夫婦役割分担制は崩壊を始めます。

 ただし、夫婦役割分担制を前提とした制度や社会規範はそのまま残ったため、そのしわ寄せに働く女性は長く苦しめられることになります。

 他方、このように男女間において、婚姻・生殖とセックスとが切り離され、子供ができなくてもつくる様々な手段が開発され、役割分担構造が崩れたのを目の当たりにして、世界で初めて米国においてゲイやレスビアンが社会的認知・婚姻・子造り/子育ての権利を主張し始めます(注12)。

 (注12)かつて欧米では、同性愛は犯罪だった。同性愛の非犯罪化を初めて主張したのはイギリスのベンタム(Jeremy Bentham1748?1832年)とフランスのコンドルセ侯爵(Marie Jean Antoine Nicolas de Caritat CondorcetMarquis de Condorcet1743?94年)だった。

更に米国ではこの10年来、近代的婚姻制度そのものが崩壊しつつあります。

米国では、1981年に比べると現在離婚率こそ26%低下しています(注13)が、その反面、この10年間で結婚せずに同棲しているカップルが70%以上増加する一方で少子化が進行しています。また、「独身」の母親を世帯主とする家族の数は両親がそろっている世帯の5倍のスピードで増え続けています。ゲイやレスビアンによる子育ても少しも珍しくなくなりました(注14)。

(以上、Stephanie Coontz, MARRIAGE, A HISTORY--From Obedience to Intimacy or How Love Conquered Marriage, Viking 2005 に係る、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/06/23/AR2005062301564_pf.html(6月26日アクセス)、及び、http://www.contemporaryfamilies.org/media/news%20128.htmhttp://commentary.org/article.asp?aid=12001081_1http://www.citypages.com/databank/26/1280/article13408.asphttp://hnn.us/roundup/entries/12910.htmlhttp://sciencepolitics.blogspot.com/2005/06/stephanie-coontz-on-marriage.htmlhttp://archives.econ.utah.edu/archives/marxism/2005w18/msg00203.htm(以上、7月16日アクセス)による。)

(注13)ただし、教育水準の高い夫婦の離婚率が大きく低下する一方で、教育水準の低い夫婦の離婚率は高止まりを続けている。

(注14)注意すべきは、だからといって、米国で社会的混乱が増大してきているわけではないことだ。1990年代を通じて米国では、殺人等の重大犯罪や未成年者の犯罪・妊娠の発生率のみならず、絶対数が減り続けている、

(続く)

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太田述正コラム#7962005.7.18

<生殖・セックス・オルガスム(その2)>

3 改めてアングロサクソンの結婚観について

 このような、性科学の最新の成果(注4に接すると、改めてイギリス人(アングロサクソン)の結婚観の「先進性」を思い知らされます。

 (注4)それにしても、まだまだ性科学は遅れている。http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/women/kitamura/(7月16日アクセス)を読んであきれてしまった。

 イギリスは、昔から個人主義社会であり(注5、「イエ」の必要性も、従って観念もない、極めてユニークな社会でした。

 (注5)個人主義社会、という言葉で分かったような気になる前に、ぜひ過去の「アングロサクソン論」シリーズ、就中「豊かな社会」に関するコラ#54、「反産業主義」に関するコラム#81、そして「個人主義」そのものを扱ったコラム#8889、に目を通していただきたい。

つまりイギリス人の両親は、子供に対し、家内労働力として期待することも老後の扶養・介護者として期待することもありませんでした。子供はペット以外のなにものでもなかったのです(6)。ですから、イギリス人男性にとっての理想は独身で一生を終えることであり、結婚はどうでもよいことでした。(コラム#54

(注6)当然、イギリスは、昔からバースコントロールに血道をあげる少子社会であり、静止人口社会だった。近代の一時期にイギリスの人口がかなり伸びたのは、例外的現象にほかならない。

 男性が結婚するとすれば、相手の女性が、若年の頃は情婦、中年の頃は友人、晩年には看護婦、となってくれるかどうかを慎重に見極めた上でのことでした。女性の方は女性の方で、その男性の持つ(顕在的または潜在的な)経済力や社会的地位によって自分がどれだけメリットを受けられるかを慎重に検討しました。そして、両者の条件がぎりぎり折り合った時に、婚姻契約を結んだ、つまり結婚したのです(注6)。(コラム#88

 (注6)イギリス人男性にとって、独身が理想とされた理由はお分かりだろう。結婚すれば、仕事に注ぐべき時間とエネルギーのかなりの部分を妻や子供に奪われてしまう。むしろ仕事に専念し、そのことによって経済力や社会的地位を確保しつつ、友人は経済力や社会的地位によって相対取引で獲得し、情婦や看護婦は公開市場で経済力を用いて購入することとした方が「男らしい」・・ハイリスク、ハイリターンを求めるのが男性の性(さが)だ・・からだ。

 注意すべきは、子供のことは、婚姻契約を締結する際の計算の中に全く登場しないことです。

ペットたる子供をつくるかどうかは、特定の趣味(消費財)にカネを出すかどうかの問題であり、夫婦となった男女がたまたま子供という消費財に係る選好(趣味)を共有しておれば、結婚後子供をつくる、というだけのことです。子供がいても養子をもらう人が少なくないことも、アングロサクソンにとって子供がペットであることを示しています。

 このようなイギリスの結婚制度は、最新の性科学が明らかにした上述の男女の性的不均衡を踏まえた、まことに合理的な制度であることがお分りいただけると思います。

 (契約時点においては、若年の頃のリターンの方が割引率の関係で圧倒的に大きな考慮対象となることから、)イギリス人の婚姻契約(結婚)の核心部分は、男性の提供する経済的・社会的メリットと女性の提供するオルガスムの交換だからです。

 このような合理性を内包したイギリスの結婚制度は、近代婚姻制度として、アングロサクソンの世界制覇のプロセスと平行して、世界に普及していくことになります。

 このことが、不可避的にもたらしたのが、アングロサクソン文明を継受したアングロサクソン的社会における婚姻率の低下、少子化、そしてその病理現象としての人口減少なのです。

 それだけではありません。

アングロサクソン社会やアングロサクソン的社会は現在、婚姻制度の崩壊という新たな問題に直面し始めています。

 産業社会の成熟化に伴い、財・サービスの生産が膂力とは殆ど関係なく行われるようになったことから、経済力や社会的地位を得る上での男性の女性に対する比較優位性が突き崩されてしまったことが原因です。女性は自分自身の力で経済力や社会的地位を獲得する方がコストエフェクティブになったのです。

 この結果、女性にとって、結婚するメリットが殆どなくなってしまいました。

 つまり、婚姻率の低下どころか、近代婚姻制度そのものの崩壊が避けられなくなったのです。

(続く)

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太田述正コラム#7952005.7.17

<生殖・セックス・オルガスム(その1)>

1 始めに

 何ともどぎついタイトルだとお思いになったかもしれませんが、シリアスな内容なのですぞ。

 トランスヒューマニズムを論じたシリーズ(コラム#739747748)で、われわれは不死の時代の到来に備えなければならない、という趣旨の話をしました。

 その不死の時代より先に到来すると思われるのがセックスレスの時代です。

どうして私がセックスレスの時代の到来が必然であると思っているのか、そしてセックスレス時代が到来すると人類はどうなると私が考えているのか、ご説明することにしましょう。

2 女性のオルガスム論

 6月に女性のオルガスム(Orgasm)に関する新しい研究成果が英国で公にされました。

 19歳から83歳までの4,036人の一卵性の双子と非一卵性の双子の女性(ほぼ同数)を調査した結果だそうです。

 これらの女性のうち、セックスでオルガスムに達したことがないか達したことが殆どない人が32%もいるのに対し、必ずオルガスムに達する人は14%しかいませんでした。他方、マスターベーションでは、オルガスムに達したことがないか達したことが殆どない人が21%いるのに対し、必ずオルガスムに達する人は34%いました。

 ちなみに、男性ではセックスでオルガスムに達しない人は2%しかいません。

 ここまでは、目新しくもないのですが、この研究の目新しさは、オルガスムに達する頻度が非一卵性の双子に比べて一卵性の双子の方がよりそろっていることが分かったことです。すなわち、オルガスム到達度は遺伝され(注1)、遺伝はセックスの際のオルガスム到達度の34%以上、マスターベーションの際のオルガスム到達度の45%以上の決定因子であることが判明しました。

 (注1)これを司っている遺伝子はまだ特定されていない。

 この結果、女性のオルガスムは妊娠促進のため(注2)というより、男の選別のために存在している可能性が高くなりました。

 (注2)女性は、排卵期にほんのちょっぴりだがオルガスムに達しやすくなる。また、オルガスムに達すると精子の取り込み量が増加する。しかし、オルガスムが妊娠促進のためだけのものであれば、女性だって男性並に98%オルガスムに達してしかるべきだ。

 つまり、女性をオルガスムに到達させることができる男は、優しくて信頼ができ、力強く精力があり、忍耐があって思いやりがあり、子供の面倒もきちんと見てくれる可能性が高い、というわけです。

 ですから、遺伝的にオルガスムに簡単に達する女性は、男を見る眼がない女性、男運が悪い女性、ということになります。

 別の研究で女性はオルガスムに達するまでに平均12分もかかるのに、男性は平均30秒しかかからないことが判明していますが、これは、簡単にはオルガスムに達しない女性が自然淘汰の結果生き残ったことを示しているのでしょう。

(以上、http://www.guardian.co.uk/life/science/story/0,12996,1501314,00.html(6月8日アクセス)、http://news.yahoo.com/s/ap/20050608/ap_on_he_me/orgasm_genes;_ylt=At8u6qolALXQZYRy6VEvqW9vieAA;_ylu=X3oDMTBiMW04NW9mBHNlYwMlJVRPUCUl(6月9日アクセス)、及びhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4616899.stm(6月9日アクセス)による。)

 このような研究成果は研究成果として、注意すべきは、セックスに関する女性の心理は男性よりもはるかに複雑であって、女性にとってオルガスムに達するか否かは、必ずしもセックスの満足度に直結していないことです(ヤフー上掲)。

 いずれにせよ、重要なことは、女性にとってセックスとオルガスム・・快楽・・とは結びついていない、という厳然たる事実です。

 ではオルガスムに達したい女性はどうすればよいのでしょうか。

マスターベーションは、成功率は三分の一で(平均12もの)時間のムダに終わる可能性が高いのでは、お勧めではありません。

喜ばしいことに、と言うべきか、最近、もっと確実な方法が次々に発見されています。

2001年には、脊髄の特定の部位に端末を埋め込み、電気パルスを送ると女性はオルガスムに達することが発見され(http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/1158429.stm。7月15日アクセス)、機器を小型化して体内に埋め込んでおけば、女性は好きなときにオルガスムに達することができる、という可能性が出てきましたし、2002年には、いわゆるG-スポット(注3)の「感覚」を司っているタンパク質が発見され(http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/2090434.stm。7月15日アクセス)、遠くない将来、このタンパク質を使った服用薬や塗布薬が開発される可能性が出てきました。

(注3)ドイツの産婦人科医グラーフェンベルグ(Ernest Grafenberg1881?1957年)が1940年代に「発見」し、1982年に、ある本で彼の名前にちなんでにそう命名された。(なぜ「発見」がカギ括弧付きなのかを含め、http://www.quikcondoms.com/content.jsp?id=73&ch=safety_girl及びhttp://www.themarriagebed.com/pages/biology/female/gspot.shtml(どちらも7月16日アクセス)参照。)

これらとマスターベーションを組み合わせれば、女性が自分だけで確実にオルガスムに達することができる日がやってくるのはそう遠くなさそうです。

そうなれば、マスターベーションで確実にオルガスムに達することができる男性と、女性は史上初めて性的同権を実現できるのです。

(続く)

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太田述正コラム#722(2005.5.14)
<人類最古の職業(その2)>
3 売春と人身売買

 世界的に見れば、売春がらみの最もホットな話題は、女性の国際人身売買です。
 欧州においては、モルドバ・ルーマニア・ウクライナが主要「原産地」であり、彼女達は、ブルガリア等を中継点として、欧州の先進諸国に送り込まれているといいます。

 その背景には、中央アジアとコーカサス以外の旧ソ連・東欧諸国では、強制売春の女性一人当たり売り上げが年間23,500米ドルに過ぎないのに、欧州の先進諸国や米国では、67,200米ドルにもなる、という現実があるというのです。
 (以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/business/4532617.stm(5月12日アクセス)による。)

 上記BBC報道は、ILOのレポートに拠っているのですが、この報道に対する、BBCサイトへの読者の書き込みのいくつかが指摘しているように、こんなことは、人身売買でも強制売春でもなく、「被害者」の暗黙の同意に基づく正常な国際商取引に過ぎない、という見方もできそうです。

 私自身、どちらかというと、このような見方に賛成です。
 さもないと、日本の旧軍のいわゆる慰安婦についても、やっぱり人身売買に基づく強制売春だった、ということになりかねないからです。

4 米国史の恥部

 しかし、これからご紹介する米国のケースは、いかなる言い訳も許されない、文字通りの人身売買に基づく強制売春です。

 米国では1664年にメリーランド州が、初めて白人と黒人との間の婚姻を禁じる法律を施行しました。19世紀中には、米国の大部分の州で同様の法律(anti-miscegenation statute、anti-race mixing law。ただし、対象が黒人以外のすべての非白人へと拡大された)が施行され、1960年代に至るまで41の州でこれらの法律が生きていました。

 実にこの状態は、1967年に米最高裁がこの種の法律を違憲と断じる判決(Loving v. Virginia)を下すまで続いたのです。
 (以上、http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A17600-2005Feb11?language=printer(2月13日アクセス)による。)

 何度も申し上げているように、いかに米国が異常な国であり、できそこないの(bastard)アングロサクソンか、分かりますね。
 そして改めて、日本と先の大戦を戦った当時の米国が、(大部分の州でこれらの法律が生きていた点に端的に示されているような、)ひどい人種差別国家であったことを忘れないようにしたいものです。

 さて、上記法律が大部分の州で施行されており、かつ奴隷制がなお合法であった1850年から1860年の間に、黒人奴隷の数は約20%増えたのですが、奴隷たる白黒混血児(mulatto)の数は何と67%も増えました。
 これが意味するところは明らかです。

 黒人奴隷の持ち主である家の主人やその家族の男性は、その家の女性の黒人奴隷と盛んに性交渉を行っていた、ということです。
 人身売買されてきた、移動の自由のない女性、しかも要求を拒むことを許されない(拒んだら殺されても文句を言えない)女性が性交渉を行うわけですから、これぞ強制売春そのものです。
 そもそも、奴隷商人は、女性の奴隷をしばしばレイプしてから販売したと言われています。

 そしてもちろん、こんな話が米国の教科書には載っているはずはありません。
 (以上、http://www.csmonitor.com/2005/0504/p09s01-coop.html(5月4日アクセス)による。(注4))

(注4)この論説の筆者まで、この米国での強制売春のケースを日本の慰安婦と同様のものだと言っているのには開いた口が塞がらない。これにひきかえ、最近韓国で、日本によって強制徴用されたのは慰安婦の2割に過ぎず、8割は貧しさに由来する普通の売春婦だったと主張する勇気ある評論家が現れた(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200504/200504140028.html。4月15日アクセス)ことには敬意を表したい。強制徴用された慰安婦など全くいなかった、と主張する韓国人が現れるまで、後一歩だ、と信じたい。

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太田述正コラム#720(2005.5.12)
<人類最古の職業(その1)> 
1 始めに

 人類最古の職業と言った場合、それが売春を指すことはご存じのことと思います。
 では二番目に古い職業は?
 スパイです。
 モーゼ(Moses)に率いられてエジプトを脱出したイスラエルの民は、モーゼの死後、父祖の地に攻め入ります。モーゼの後継者のヨシュア(Joshua)は、二人の部下を敵地エリコ(Jericho)に潜入させて敵情を探らせます。これが文献に残るスパイの初登場の場面です。ところが、この二人のスパイが隠れ家にするのがエリコの売春宿なのです。ですから、売春の方がスパイより前から存在していた、ということになるわけです(注1)(http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/3490120.stm。2004年2月27日アクセス)。

  • (注1)旧約聖書では、創世(Genesis)記・ヨシュア記(上記)・ホセアHosea)記・ミカ(Micah)記に売春婦が登場する(http://biblia.com/sex/prostitution.htm。5月12日アクセス)。

 閑話休題。
 今回のテーマは売春です。

2 売春の合法化

 世界の大部分の国では売春自体は合法です。
 売春自体を違法としているのは、米国(ただし、ネバダ州の10の郡を除く)、インド、若干のイスラム諸国、数多の共産主義国だけです。
 ただし、売春自体は合法としている国でも、売春に関し、広告・勧誘・ポン引きを行うことや、売春宿を所有したり経営したり売春宿で働いたり、といった売春周辺行為が違法とされている国が多く(注2)、これらの国では売春を合法的に行うことは殆ど不可能です。
 (以上、http://search.localcolorart.com/search/encyclopedia/Prostitution/(5月12日アクセス)による。)

  • (注2)1949年に国連で、ポン引きや買収宿の所有者・経営者の処罰と売春婦に対する特別措置や登録制の廃止を規定した条約が採択され、現在89カ国がこの条約を批准している。この中に、ドイツ・オランダ・米国は含まれていない。

 最近、売春自体を合法としている国の一部で売春周辺行為を合法化する動きが見られます。
 第一に、米国で禁酒法が施行されていた1920年から1933年の間、人口一人当たりアルコール飲料消費量が殆ど減らなかったこと、殺人発生率が66%も増加し、禁酒法が廃止された以降1940年代の中頃には禁酒法施行前の率に戻ったこと、及び第二に、1973年の妊娠中絶を合法とした米連邦最高裁判決によって、ヤミ堕胎による妊婦の死亡が減ったこと、がしばしば売春周辺行為を合法化(米国のネバダ10郡以外にあっては売春自体の合法化を含む)する必要性を説明する際に引用されます。
 単婚(monogamous)は生物の種の2%にしか見られず、人類に最も近いチンパンジーは群婚であること、厳格な単婚が社会規範となっている国では離婚や不貞が多いこと、が挙げられることもあります。
 売春周辺行為を合法化すれば、売春産業を国家規制の下に置くことができ、売春婦に労働法上の権利を与え、その健康を保護することも可能になります。要するに売春婦を暴力と搾取から守ることができるようになるわけです。しかも国は税収を得ることもできます。
 (以上、http://www.liberator.net/articles/prostitution.html(5月12日アクセス)による。)
 こうして、オランダでは4年前に、ドイツでは2年前に売春周辺行為が合法化されましたし、ベルギーでも合法化すべく検討が行われています。
 ドイツでは、現在40万人の売春婦がおり、一日120万人の顧客が「サービス」を受け、売春産業は年間60億ユーロの売り上げがあると推定されています。これはポルシェやアディダス並の売り上げです。
 しかし、そのドイツで困った事態が起こっています。
 一年以上失業中の55歳未満の女性が職業斡旋機関から売春宿での売春婦の仕事を提示されてこれを断ると、失業手当を打ち切られてしまう、という笑い話です。
 しかし、税金をとられる見返りに得られるものが小さいこともあって、依然としてヤミで売春をする売春婦が多い、という問題は、売春周辺行為の合法化そのものに疑問を投げかけています。
 最大の問題は、外国人の違法労働者は法の保護の外に置かれていることです。これはドイツとオランダに共通する問題であり、両国の売春婦の6割は外国人の違法労働者であることからすれば、看過できない問題です。
 こういうわけで、欧州では、売春周辺行為の合法化をめぐって再び喧しい議論が行われています(注3)。
 (以上、http://www.csmonitor.com/2005/0511/p15s02-woeu.html(5月11日アクセス)による。)

  • (注3)スエーデンは、欧州諸国の先鞭をつけて30年も前に売春周辺行為を   合法化したが、1998年に再び違法化した。

(続く)

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