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太田述正コラム#9291(2017.8.21)
<イギリス論再び(その10)>(2017.12.4公開)
(4)著者のもう一つの解答?--孤高なる中庸
本ではどういう位置づけになっているのか分かりませんが、一人の書評子は、著者のもう一つの解答らしきものに言及しています。↓
「両極端の折り合いを付ける「コツ」と、著者はそれを定義する。
私が思うに、極めて説得力ある形で・・。
イギリス人であることは、陸と海、都市と田舎の地域、真面目さと軽薄さ、新と旧、の間を操舵することなのだ。
イギリス人であることは、行き過ぎといちゃつきながらも、常に、「分別のある中洲」に戻ることなのだ。・・・
我々は、いつも、派手に自慢したかと思えば、病的に自虐的になるし、饒舌に語ったかと思えば、その次の瞬間には陰鬱に打ち沈む。
また、全ての諸家族と同様、我々は、薔薇戦争と宗教改革、から、チャールズ1世(
Charles I)とオリヴァー・クロムウェル(Oliver Cromwell)の間の、或いは、ヴィクトリア期の両巨人たるウィリアム・グラッドストーン(William Gladstone)とベンジャミン・ディズレーリ(Benjamin Disraeli)の間の、大闘争に至る、争闘を、いつも好んできた。
そして、そこには、もっと何かがある。
我々イギリス人は、いつも、我々自身の国を、他とは異なった国である、と信じてきた。
我々は、自分達自身を、いつも、島国人達であって大陸人達ではない、と見てきた。・・・
⇒このことを身をもって感じたのが、二度目の「留学」で、1988年の一年間、英国に滞在したことの、私にとっての最大の成果だった、と思っています。
それは、イギリスが欧州と文明が違うからのはずだ、という結論を私は下し、そのことを、根拠と共に公にしてきたわけですが、(イギリス人達自身も私と同じ考えだと信じているものの、本件に限りませんが、)他にそういう指摘をしている人が、世界に他にいなさそうなことが、不思議でなりません。(太田)
イギリスは依然としてイギリスであり続けている。
雨と海によって形成され、その人々は、陽気であると同時に運命論者的であり、慇懃であると同時に喧嘩っ早く、無気力であると同時に発明の才があり、未来の構築者達であると同時に、一度もそんなことはなかったところの過去を振り返り続けることを決して止めることができない、という・・。」(D)
⇒「無気力であると同時に発明の才があ<る>」は、「怠惰であるが故に楽に稼ぐための発明を行う」ということであり、矛盾などない、と私はかねてから指摘してきたところです。
ここでは立ち入りませんが、他の「矛盾」諸点にについても、同様の説明が可能なのだと思っています。(太田)
(5)批判
「私と、文字通り、切っても切り離せない関係にある一人の移民の息子は、たまたま、マーマイト(Marmite)<(注26)>、ライビーナ(Ribena)<(注27)>、クリケット(cricket)、田舎の地域、本物のエール(ale)<(注28)>、そして、イギリス民俗音楽、に憑りつかれている。
(注26)「ビールの醸造過程で増殖して最後に沈殿堆積した酵母、いわばビールの酒粕を主原料とし、主にイギリス及びニュージーランドで生産されているビタミンBを多く含む食品。・・・濃い茶色をしており、粘り気のある半液状で塩味が強く、独特の臭気を持つ。主にトーストに塗って食されるほか、クラッカーに塗る、スープに溶かすなどの利用法もある。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%88
(注27)「イギリスのカーターズ社が開発し、現在はルコゼード・ライビーナ・サントリー社が製造販売する清涼飲料水。もともとはクロスグリ(黒酸塊、カシス)の果汁を使った濃縮タイプのもの」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%8A
(注28)「ビールの一種。上面発酵で醸造される。大麦麦芽を使用し、酵母を常温で短期間で発酵させ、複雑な香りと深いコク、フルーティーな味を生み出したビールのスタイルである。・・・ビールの他のスタイルはラガーであり、下面発酵である。・・・一般に、上面発酵のほうが醸造は容易である。19世紀以降にラガーが爆発的に普及するまでは、ビールといえばエールであった。また、東洋より茶が入る以前のイギリスでは、ホップを用いないエールが水とならんで最も日常的に飲まれた飲料であった」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB_(%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%AB)
⇒英国滞在中、エールこそ飲んだけれど、マーマイトともライビーナともご縁がありませんでしたね。
一年間じゃ、飲食も訪問先も、全てはこなせません。(太田)
しかし、旧いランカシャー州(Lancashire)の綿花の諸町では様子が異なる。
この産業を救う空しい試みのためにパキスタンから募集された移民達の三世や四世でさえ、家ではパンジャブ語をしゃべり、モスクを中心とした生活を送り、原住民達としばしば最低限の接触しか行わない。
この状況こそ、ブレグジットへの主要な駆動原因となったのだ。」(E)
「私は、地理と政治を分離できるかどうか、全面的には確信が持てない。
結局のところ、狼達の虐殺だって、それ自体、政治的決定だった。
しかし、この本は、政治を中心とした歴史の諸本に対する、鋭利な諸突きだらけの、歓迎されるべき解毒剤ではある。」(E)
(続く)
<イギリス論再び(その10)>(2017.12.4公開)
(4)著者のもう一つの解答?--孤高なる中庸
本ではどういう位置づけになっているのか分かりませんが、一人の書評子は、著者のもう一つの解答らしきものに言及しています。↓
「両極端の折り合いを付ける「コツ」と、著者はそれを定義する。
私が思うに、極めて説得力ある形で・・。
イギリス人であることは、陸と海、都市と田舎の地域、真面目さと軽薄さ、新と旧、の間を操舵することなのだ。
イギリス人であることは、行き過ぎといちゃつきながらも、常に、「分別のある中洲」に戻ることなのだ。・・・
我々は、いつも、派手に自慢したかと思えば、病的に自虐的になるし、饒舌に語ったかと思えば、その次の瞬間には陰鬱に打ち沈む。
また、全ての諸家族と同様、我々は、薔薇戦争と宗教改革、から、チャールズ1世(
Charles I)とオリヴァー・クロムウェル(Oliver Cromwell)の間の、或いは、ヴィクトリア期の両巨人たるウィリアム・グラッドストーン(William Gladstone)とベンジャミン・ディズレーリ(Benjamin Disraeli)の間の、大闘争に至る、争闘を、いつも好んできた。
そして、そこには、もっと何かがある。
我々イギリス人は、いつも、我々自身の国を、他とは異なった国である、と信じてきた。
我々は、自分達自身を、いつも、島国人達であって大陸人達ではない、と見てきた。・・・
⇒このことを身をもって感じたのが、二度目の「留学」で、1988年の一年間、英国に滞在したことの、私にとっての最大の成果だった、と思っています。
それは、イギリスが欧州と文明が違うからのはずだ、という結論を私は下し、そのことを、根拠と共に公にしてきたわけですが、(イギリス人達自身も私と同じ考えだと信じているものの、本件に限りませんが、)他にそういう指摘をしている人が、世界に他にいなさそうなことが、不思議でなりません。(太田)
イギリスは依然としてイギリスであり続けている。
雨と海によって形成され、その人々は、陽気であると同時に運命論者的であり、慇懃であると同時に喧嘩っ早く、無気力であると同時に発明の才があり、未来の構築者達であると同時に、一度もそんなことはなかったところの過去を振り返り続けることを決して止めることができない、という・・。」(D)
⇒「無気力であると同時に発明の才があ<る>」は、「怠惰であるが故に楽に稼ぐための発明を行う」ということであり、矛盾などない、と私はかねてから指摘してきたところです。
ここでは立ち入りませんが、他の「矛盾」諸点にについても、同様の説明が可能なのだと思っています。(太田)
(5)批判
「私と、文字通り、切っても切り離せない関係にある一人の移民の息子は、たまたま、マーマイト(Marmite)<(注26)>、ライビーナ(Ribena)<(注27)>、クリケット(cricket)、田舎の地域、本物のエール(ale)<(注28)>、そして、イギリス民俗音楽、に憑りつかれている。
(注26)「ビールの醸造過程で増殖して最後に沈殿堆積した酵母、いわばビールの酒粕を主原料とし、主にイギリス及びニュージーランドで生産されているビタミンBを多く含む食品。・・・濃い茶色をしており、粘り気のある半液状で塩味が強く、独特の臭気を持つ。主にトーストに塗って食されるほか、クラッカーに塗る、スープに溶かすなどの利用法もある。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%88
(注27)「イギリスのカーターズ社が開発し、現在はルコゼード・ライビーナ・サントリー社が製造販売する清涼飲料水。もともとはクロスグリ(黒酸塊、カシス)の果汁を使った濃縮タイプのもの」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%8A
(注28)「ビールの一種。上面発酵で醸造される。大麦麦芽を使用し、酵母を常温で短期間で発酵させ、複雑な香りと深いコク、フルーティーな味を生み出したビールのスタイルである。・・・ビールの他のスタイルはラガーであり、下面発酵である。・・・一般に、上面発酵のほうが醸造は容易である。19世紀以降にラガーが爆発的に普及するまでは、ビールといえばエールであった。また、東洋より茶が入る以前のイギリスでは、ホップを用いないエールが水とならんで最も日常的に飲まれた飲料であった」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB_(%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%AB)
⇒英国滞在中、エールこそ飲んだけれど、マーマイトともライビーナともご縁がありませんでしたね。
一年間じゃ、飲食も訪問先も、全てはこなせません。(太田)
しかし、旧いランカシャー州(Lancashire)の綿花の諸町では様子が異なる。
この産業を救う空しい試みのためにパキスタンから募集された移民達の三世や四世でさえ、家ではパンジャブ語をしゃべり、モスクを中心とした生活を送り、原住民達としばしば最低限の接触しか行わない。
この状況こそ、ブレグジットへの主要な駆動原因となったのだ。」(E)
「私は、地理と政治を分離できるかどうか、全面的には確信が持てない。
結局のところ、狼達の虐殺だって、それ自体、政治的決定だった。
しかし、この本は、政治を中心とした歴史の諸本に対する、鋭利な諸突きだらけの、歓迎されるべき解毒剤ではある。」(E)
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
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