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太田述正コラム#8875(2017.1.25)
<米帝国主義の生誕(幕間)>(2017.5.11公開)

1 始めに

 このシリーズの主題と関わる、別本の書評がNYタイムスに出ていたので、そのさわりをご紹介しておくことにしました。
 その別本とは、ロバート・D・カプラン(Robert D. Kaplan)の新著『ロッキー山脈を得て--いかにチリが米国の世界における役割を形成しているか(EARNING THE ROCKIES How Geography Shapes America’s Role in the World)』です。
 また、カプランは、「1952年・・・ニューヨークのユダヤ系の家庭に生まれる。[父親は新聞社のトラック・ドライバー。]1973年、[水泳の奨学金をもらって入学した]コネチカット大学卒業[(英語)]。[大報道諸企業に入れず、海外旅行に片道切符で出かけ、やがてイスラエル軍の陸軍兵士になる。その後、]・・・次第にフリーランスの国際ジャーナリストとしての地位を築いてい<った。>[現在、マサチューセッツ州在住。]」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3_(%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88)
https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_D._Kaplan ([]内)
という人物です。

2 カプランの主張

 「・・・「米国は普通の国ではない。
 すなわち、その地理の恵み(bounty)が、米国に世界大国になる可能性を与え、その力でもって、米国は、長続きする諸義務を積み上げて行った(developed)。
 そして、それら諸義務を、米国は、他の諸大国に比べて、より、大きな経済的・社会的ダイナミズムのおかげで、遵守してきている。」と著者は記す。
 「我々は・・・<世界を>指導することが運命づけられているのだ」、と彼は言う。
 地理から文化にわたる、沢山の諸理由から、他のいかなる国にも同じ役割は演じられない、と。・・・
 地理と団結(union)が、米国を覇権国にし、その諸賛助(auspices)が全球化のための諸条件を創造するものの、全球化は米国の地理的諸利点を縮小させ、米国の団結を掘り崩す。
 話が変わるが、全球化は<世界の各>地方<特有>の諸経済と諸規範を根こそぎにし、通信革命はジハード主義から極右(alt-right)に至る、あらゆる、部族的やイデオロギー的な諸アイデンティティを族生させる。
 <その結果として>「今起こっているのは、諸文明の衝突というよりは、人工的に再構成された(reconstructed)諸文明の衝突なのだ」、と著者は記す。

⇒カプランは、典型的には、Isisをそういうものと見ている、ということなのでしょうが、私がそうは考えていないことはご承知の通りです。
 私自身は、現在は、単純に諸文明の衝突の時代である、と見ています。
 但し、申し上げるまでもなく、私自身は、諸文明の衝突中、最も根幹的にして最大の衝突は、人間主義文明と非人間主義文明の間の衝突である、と考えているわけです。(太田)

 最後に更に一点。
 米国の影響力(influence)の産物であると共に<世界の>混沌に対する防波堤であるところの全球化は、米国の影響力を掘り崩し、新しい諸混乱(disruptions)を生む。
 比類なき軍事力と経済力にもかかわらず、米国は、「もはや世界に秩序をもたらすことはできない」、というのだ。
 我々がせいぜい期待することができるのは、無秩序(disorder)を減少させることだ。
 それを行うためには、力を投射することが求められるのはむろんだが、「軽く微妙な足跡」でもってそれを行わなければならない、と。
 それは、容易くはない。・・・
 <とにかく、>米国は引き続き<世界を>指導し続ける。
 なぜなら、そうしなければならないからだ、と。」
https://www.nytimes.com/2017/01/24/books/review/earning-the-rockies-robert-d-kaplan.html?hp&action=click&pgtype=Homepage&clickSource=story-heading&module=mini-moth®ion=top-stories-below&WT.nav=top-stories-below&_r=0

3 総括的コメント

 カプランは、出身も能力もそこそこのユダヤ人として、一旦は米国から逃げ出しつつ、大変な努力でもって、米国でカムバックし、一流ジャーナリストとしての地位を築いたと想像されます。
 さて、この本の原稿が完成したのは、まだ、トランプが大統領選に出馬する前だったとこの書評(の非引用部分)に記されていましたが、「全球化は米国の地理的諸利点を縮小させ、米国の団結を掘り崩す。」との指摘は鋭いものがあり、書評子も(非引用箇所で)書いていましたが、まるでトランプ大統領の誕生を予言したかのようです。
 そのカプランが提示した処方箋は、(恐らく、クリントン大統領候補の処方箋でもあったと思われますが、)「米国は引き続き指導し続ける。なぜなら、そうしなければならないからだ」が、「「軽く微妙な足跡」でもってそれを行わなければならない」、というものであるところ、オバマもトランプも、そうではなく、米国を世界の指導的立場から退かせていくべきだと考えており、違いは、かかる考えに基づく政策を、オバマは静かに実施してきたところ、トランプはそれを引き続き、但し、今度は声高に、実施しようとしているだけである、と私は考えているのです。
 但し、私は、オバマは米国には世界を指導する能力・資格など元々なかった、と考えているのに対し、トランプの場合、米国にそんな能力・資格があるかどうかになど関心がない、より端的に言えば、世界のことになど関心はなく、米国のことだけに関心がある・・America first!・・、と見ている次第です。(コラム#省略。但し、若干、非既述の見解も記した。)

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