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太田述正コラム#8743(2016.11.20)
<ナチス時代のドイツ人(その5)>(2017.3.6公開)

 (2)書評群から

 「著者は、彼の読者達に対し、この戦争<(=独ソ戦ないし第二次世界大戦における欧州戦線)>は、肉体的かつ心理的に、もっぱら非軍人に係わるものであったことに注意を喚起することから始める。
 非軍人達は、この戦争の暴力の断トツの最大の犠牲者達であって、しかも、この本が容赦なくはっきりさせているように、彼らは、その暴力の最大の促進者(facilitator)達でもあった、と。・・・
 「人間なるもの一般は存在しない(Man as such does not exist)」、と、ドイツの人種政策局(Office of Racial Policy)<(注7)>のヴァルター・グロス(Walter Gross)<(注8)>局長は断言した。

 (注7)ナチス党内の組織であって、当初の名称は、国家社会主義人口政策・人種構成啓蒙局(National Socialist Office for Population Policy and Racial Welfare )だったが、グロスが局長の時に、1934年、人種政策局(Office of Racial Policy)に変更した。
http://kurokiyorikage.doorblog.jp/archives/cat_60307353.html
https://en.wikipedia.org/wiki/Walter_Gross_(politician)
 (注8)1904〜45年。人種政策局長のまま、ドイツ敗戦直前にベルリンで自殺した。
https://en.wikipedia.org/wiki/Walter_Gross_(politician) 上掲
 ゲッティンゲン大卒の医師であった「グロスは「奇怪な容姿を持つユダヤ人に対して、美しいゲルマン人<(掲載されている、北欧系女性とユダヤ人女性を対比した写真参照)>の血統を守ろうと呼びかけた・・・<また、>ドイツのフォルク<(民族)>は、人種の繁栄について何を知っているのだろう。今日に至るまでフォルクは何も知らない。彼らは自分を個人として考え、偉大なる生命の鎖にリンクした一人ということすら気づかない」と嘆いていた。」・・・(クローディア・クーンズ 『ナチと民族原理主義』・・・)・・・グロスはこう<言い方もしている>。我々が持つ体と魂は、我々が生まれる以前の先代から受け継いだものである。60年ないし80年も経てば我々は生きていないだろうが、その遺伝子は我々の子供とその子供の子供に伝承されるのだ。我々がこのことに気づけば、数百数千年間に亙って流れてきた血の大河がすぐに見えてくる。つまり、これがドイツ民族なのだ。(1934年10月10日, Rasse. Eine Rundfunkrede von Dr. Gros, Rassenpolitisches Amt der NSDAP, Berlin, 1934)・・・<そして、彼は、>「ルック(Look)」誌や「ライフ」誌をモデルにし<たところの、>・・・一般向けの絵入り雑誌「新しいフォルク(Neues Volk)」を発行し<て、このような見解をドイツ国民に浸透させようとした。>」
http://kurokiyorikage.doorblog.jp/archives/cat_60307353.html 前掲 

⇒余談にわたりますが、上掲典拠執筆者の黒木頼景が、何から転載したのか書いてありませんが、ユダヤ人の女性の写真で、私がすぐ思い出すのは、一人はカイロの小学校で成績を競い合ったユダヤ人少女のリヴァナちゃん、もう一人は、イスラエルで首相を務めたゴルダ・メイア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%A2
であり、二人とも、黒木転載写真のユダヤ人女性に顔つきと体型がそっくりなもので・・ゴメンねリヴァナちゃん・・、自分が少年であったカイロ時代を思い出し、しばし、感慨に耽りました。
 (次に思い出した、ユダヤ人女性4人中、アイン・ランド
http://eiga.com/news/20110501/2/1/01/
とローザ・ルクセンブルク
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF#/media/File:Zetkin_luxemburg1910.jpg
はその系統であるところ、ファニー・メンデルスゾーン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%B3
は文字通り北欧系美女であるものの、残されているのは当然肖像画だけなので美化されているであろうことから対象外とした方が無難であるものの、ハンナ・アーレントは、ハイデッガーの愛人だったことがあるくらいで、北欧系と言っても通りそうな美形
http://k1968k.blog106.fc2.com/blog-entry-1371.html
ですが・・。)(太田)

 「<ナチスドイツでは、>諸種<の一つ>、ないし人間(humanity)、という観念は、<部分概念にしてエセ概念でもある(太田)>人種<という観念>に席を譲り、捨てられた(dropped)」、と著者は記している。・・・
 「人々は互いに助け合ったが、彼らは、互いに裏切り合いもした」、と<も>著者は記しているが、それがぞっとするほど明白なのはドイツそれ自体においてだった。
 すなわち、そこでは、友人達や隣人達が、古い諸偏見やより現実的な(pragmatic)状況的諸恐怖の双方でもって煽られ、互いに刺激し合い、多くの諸場合において、何年も知己であった人々を当局に引き渡した。」(A)

(続く)

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