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太田述正コラム#7962(2015.10.10)
<キリスト教の天使と悪魔(その3)>(2016.1.25公開)
この図式(schema)は、多かれ少なかれ、普遍的にキリスト教圏で採用されたが、小競り合いが終わったわけでは全くなかった。
中世になると、リースが「天使学の時代」と呼ぶところの、天使達の生活の諸詳細に関する難解な議論が激しく行われ始めた。
すなわち、
天使達は悪(bad)たりうるか?
一体何対の翼群を彼らは持っているのか?
彼らの特別な諸力は何か?
一体何「人」いたのか?
こういう諸疑問が熱く議論され、グレゴリウス1世(Gregory the Great)<(注18)(コラム#7538)>、トマス・アクィナス(Thomas Aquinas)<(コラム#552、568等、1150、3663、5100、6445)>やダンテ(Dante)<(コラム#726、741、1186、3130、3407、4340、4387、4888、5117、5359、7496)>は、皆、どんどん精緻な諸解釈を提供した。
(注18)540?〜604年。法王:590〜604年)。「問答者グレゴリウス(Dialogos Gregorios)、大聖グレゴリウスとも呼ばれる。典礼の整備、教会改革で知られ、中世初期を代表する<法王>である。四大ラテン教父の一人。ローマ・カトリックでは聖人、・・・東方正教会でも聖人」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%82%B91%E4%B8%96_(%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E6%95%99%E7%9A%87)
そして、天使熱に罹ったのはキリスト教圏だけではなかった。
<ユダヤ教の>ラビ(Rabbi)のデーヴィッド・イブン・アビ・ズィムラ(David ibn abi Zimra)<(注19)>は、天使達と悪魔達との関係について悩んだ(worried away at)し、中世初期のイスラム教徒たる哲学者のナシール=イ=クスロー(Nasir-I-Khusraw)<(注20)>は、天使達は、実は、その肉体的(physical)諸欲望が強力過ぎたために天国に昇れなかった、と論じた。
(注19)1479?〜1573年、スペインに生まれたがユダヤ人故に追放された両親とともに現在のイスラエルに移住、現在のモロッコのフェスのユダヤ人指導者(nagid)の下のラビ法廷の一員となるも、オスマントルコによるユダヤ人指導者職の廃止を受け、エジプトのカイロで首席ラビとなり、爾後40年間その職にあったが、最晩年は現在のイスラエルで送った。
https://en.wikipedia.org/wiki/David_ben_Solomon_ibn_Abi_Zimra
(注20)1004〜1088年。ペルシャの詩人、哲学者、イスマイル派の学者、旅行家、文学者。現在のアフガニスタンで生まれ、死んだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Nasir_Khusraw
天使達が実際にどんな様相をしていたのかの問題についても、同様、コンセンサスは存在しない。
コーランは、天使達について、「2つ、3つ、そして4つの翼群でもって飛ぶ伝令達」と言及しているが、これは、旧約聖書の中の二人の最も影響力ある目撃者達の言と抵触している。
4人の天使達が火の雲の中から出現するのを見たエゼキエル(Ezekiel)<(注21)>は、<彼らは、>4つの翼群を持っているけれど、人間達のように見えた、と報告している。
他方、イザヤ(Isaiah)<(注22)>は、玉座におます主(Lord)を警護しているセラフィムの一人一人は6つの翼群を持っていることに極めて自信を有している。
(注21)「旧約聖書に登場する紀元前6世紀頃のバビロン捕囚時代におけるユダヤ人の預言者である。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%BC%E3%82%AD%E3%82%A8%E3%83%AB
(注22)「旧約聖書に登場する預言者。・・・ユダ王国後期の人。・・・ユダ<王国>の不正を糾弾し、バビロンへの流刑を警告<したが、その一方で、>・・・シオンは回復すると予告し・・・、メシアに関する預言を告げ<た。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%A4
「ユダ王国・・・は、紀元前10世紀から紀元前6世紀にかけて・・・存在した王国。もともとあった<ユダヤ人の国であるところの>統一イスラエル王国が北(イスラエル王国)と南に分裂して<できた国。>・・・<イスラエル王国がアッシリアに滅ぼされた後、>・・・ユダ王国<は、>・・・エジプトと結んで<新>バビロニアと対抗しようと<した>が失敗し・・・、紀元前586年にエルサレム全体とエルサレム神殿が破壊され、支配者や貴族たちは首都バビロニアへ連行され・・・た。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%80%E7%8E%8B%E5%9B%BD
シオンは、「イスラエルのエルサレム地方の歴史的地名。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AA%E3%83%B3
⇒全くバカバカしい限りですが、知的選良達が天使論(悪魔論)を侃々諤々してきたキリスト教圏を始めとするアブラハム系宗教圏の実相を知っておくことは、非アブラハム系宗教圏の我々にとってもそれなりに有意義ですし、我々にとってのオマケ的効用としては、欧州やイギリスの昔の絵画を鑑賞する際にしばしば遭遇する天使(悪魔)が身近に感じられるようになること請け合いです。(太田)
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[日本の仏教における閻魔等]
日本の仏教にも、例えば地獄がらみで、バカバカしい閻魔等の観念が存在するが、それらは、仏教の正経典上の記述にインドや支那や日本の土俗的迷信が織り混ぜられて生まれたものであり、キリスト教圏のように、聖書(正経典)だけに拠ったものではない。
地獄:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E7%8D%84_(%E4%BB%8F%E6%95%99)
<参考>
六道:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E9%81%93
三界:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%95%8C
餓鬼:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A4%93%E9%AC%BC
畜生:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%9C%E7%94%9F
閻魔/十王:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%BB%E9%AD%94
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E7%8E%8B#.E6.97.A5.E6.9C.AC 牛頭馬頭:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%9B%E9%A0%AD%E9%A6%AC%E9%A0%AD
三途川:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E9%80%94%E5%B7%9D
懸衣翁/奪衣婆:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%87%B8%E8%A1%A3%E7%BF%81
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%AA%E8%A1%A3%E5%A9%86
冥銭(六文銭):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%A5%E9%8A%AD
なお、これらを視覚化したフィギュアによる一連の展示が、仙台の赤門美術館内の人間教育館
http://www.mitoho.com/miyagi/sendai/16kamei-titei.htm
にかつてあり、1999年から2001年にかけての仙台在勤中に訪問して、私は目を丸くしたことがある。
日本で他に存在しない施設だったのではないかと思うが、残念ながら、既に閉鎖されているようだ。
http://bqspot.com/tohoku/miyagi/717
そのかつての展示の写真を見ることができる。↓
http://www.roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=130
-------------------------------------------------------------------------------
(続く)
<キリスト教の天使と悪魔(その3)>(2016.1.25公開)
この図式(schema)は、多かれ少なかれ、普遍的にキリスト教圏で採用されたが、小競り合いが終わったわけでは全くなかった。
中世になると、リースが「天使学の時代」と呼ぶところの、天使達の生活の諸詳細に関する難解な議論が激しく行われ始めた。
すなわち、
天使達は悪(bad)たりうるか?
一体何対の翼群を彼らは持っているのか?
彼らの特別な諸力は何か?
一体何「人」いたのか?
こういう諸疑問が熱く議論され、グレゴリウス1世(Gregory the Great)<(注18)(コラム#7538)>、トマス・アクィナス(Thomas Aquinas)<(コラム#552、568等、1150、3663、5100、6445)>やダンテ(Dante)<(コラム#726、741、1186、3130、3407、4340、4387、4888、5117、5359、7496)>は、皆、どんどん精緻な諸解釈を提供した。
(注18)540?〜604年。法王:590〜604年)。「問答者グレゴリウス(Dialogos Gregorios)、大聖グレゴリウスとも呼ばれる。典礼の整備、教会改革で知られ、中世初期を代表する<法王>である。四大ラテン教父の一人。ローマ・カトリックでは聖人、・・・東方正教会でも聖人」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%82%B91%E4%B8%96_(%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E6%95%99%E7%9A%87)
そして、天使熱に罹ったのはキリスト教圏だけではなかった。
<ユダヤ教の>ラビ(Rabbi)のデーヴィッド・イブン・アビ・ズィムラ(David ibn abi Zimra)<(注19)>は、天使達と悪魔達との関係について悩んだ(worried away at)し、中世初期のイスラム教徒たる哲学者のナシール=イ=クスロー(Nasir-I-Khusraw)<(注20)>は、天使達は、実は、その肉体的(physical)諸欲望が強力過ぎたために天国に昇れなかった、と論じた。
(注19)1479?〜1573年、スペインに生まれたがユダヤ人故に追放された両親とともに現在のイスラエルに移住、現在のモロッコのフェスのユダヤ人指導者(nagid)の下のラビ法廷の一員となるも、オスマントルコによるユダヤ人指導者職の廃止を受け、エジプトのカイロで首席ラビとなり、爾後40年間その職にあったが、最晩年は現在のイスラエルで送った。
https://en.wikipedia.org/wiki/David_ben_Solomon_ibn_Abi_Zimra
(注20)1004〜1088年。ペルシャの詩人、哲学者、イスマイル派の学者、旅行家、文学者。現在のアフガニスタンで生まれ、死んだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Nasir_Khusraw
天使達が実際にどんな様相をしていたのかの問題についても、同様、コンセンサスは存在しない。
コーランは、天使達について、「2つ、3つ、そして4つの翼群でもって飛ぶ伝令達」と言及しているが、これは、旧約聖書の中の二人の最も影響力ある目撃者達の言と抵触している。
4人の天使達が火の雲の中から出現するのを見たエゼキエル(Ezekiel)<(注21)>は、<彼らは、>4つの翼群を持っているけれど、人間達のように見えた、と報告している。
他方、イザヤ(Isaiah)<(注22)>は、玉座におます主(Lord)を警護しているセラフィムの一人一人は6つの翼群を持っていることに極めて自信を有している。
(注21)「旧約聖書に登場する紀元前6世紀頃のバビロン捕囚時代におけるユダヤ人の預言者である。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%BC%E3%82%AD%E3%82%A8%E3%83%AB
(注22)「旧約聖書に登場する預言者。・・・ユダ王国後期の人。・・・ユダ<王国>の不正を糾弾し、バビロンへの流刑を警告<したが、その一方で、>・・・シオンは回復すると予告し・・・、メシアに関する預言を告げ<た。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%A4
「ユダ王国・・・は、紀元前10世紀から紀元前6世紀にかけて・・・存在した王国。もともとあった<ユダヤ人の国であるところの>統一イスラエル王国が北(イスラエル王国)と南に分裂して<できた国。>・・・<イスラエル王国がアッシリアに滅ぼされた後、>・・・ユダ王国<は、>・・・エジプトと結んで<新>バビロニアと対抗しようと<した>が失敗し・・・、紀元前586年にエルサレム全体とエルサレム神殿が破壊され、支配者や貴族たちは首都バビロニアへ連行され・・・た。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%80%E7%8E%8B%E5%9B%BD
シオンは、「イスラエルのエルサレム地方の歴史的地名。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AA%E3%83%B3
⇒全くバカバカしい限りですが、知的選良達が天使論(悪魔論)を侃々諤々してきたキリスト教圏を始めとするアブラハム系宗教圏の実相を知っておくことは、非アブラハム系宗教圏の我々にとってもそれなりに有意義ですし、我々にとってのオマケ的効用としては、欧州やイギリスの昔の絵画を鑑賞する際にしばしば遭遇する天使(悪魔)が身近に感じられるようになること請け合いです。(太田)
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[日本の仏教における閻魔等]
日本の仏教にも、例えば地獄がらみで、バカバカしい閻魔等の観念が存在するが、それらは、仏教の正経典上の記述にインドや支那や日本の土俗的迷信が織り混ぜられて生まれたものであり、キリスト教圏のように、聖書(正経典)だけに拠ったものではない。
地獄:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E7%8D%84_(%E4%BB%8F%E6%95%99)
<参考>
六道:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E9%81%93
三界:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%95%8C
餓鬼:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A4%93%E9%AC%BC
畜生:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%9C%E7%94%9F
閻魔/十王:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%BB%E9%AD%94
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E7%8E%8B#.E6.97.A5.E6.9C.AC 牛頭馬頭:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%9B%E9%A0%AD%E9%A6%AC%E9%A0%AD
三途川:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E9%80%94%E5%B7%9D
懸衣翁/奪衣婆:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%87%B8%E8%A1%A3%E7%BF%81
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%AA%E8%A1%A3%E5%A9%86
冥銭(六文銭):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%A5%E9%8A%AD
なお、これらを視覚化したフィギュアによる一連の展示が、仙台の赤門美術館内の人間教育館
http://www.mitoho.com/miyagi/sendai/16kamei-titei.htm
にかつてあり、1999年から2001年にかけての仙台在勤中に訪問して、私は目を丸くしたことがある。
日本で他に存在しない施設だったのではないかと思うが、残念ながら、既に閉鎖されているようだ。
http://bqspot.com/tohoku/miyagi/717
そのかつての展示の写真を見ることができる。↓
http://www.roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=130
-------------------------------------------------------------------------------
(続く)
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