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太田述正コラム#7954(2015.10.6)
<キリスト教の天使と悪魔(その1)>(2016.1.21公開)

1 始めに

 3年近く前に出版された本だが、当時、その書評が1つしか出ず、翌年になってもう1つ増えたものの、まだコラムにするのは早いと思って忘れかけていたところ、先日、大分前に書評が更に1つ増えていたことを発見し、ようやくコラム(シリーズ)にする気になりました。
 その本とは、ヴァレリー・リース(Valery Rees)の『ガブリエルからルシファーまで--諸天使の文化史(From Gabriel to Lucifer: A Cultural History of Angels)』です。

A:http://www.guardian.co.uk/books/2012/dec/21/gabriel-lucifer-valery-rees-review
(2012年12月22日アクセス)
B:http://www.spectator.co.uk/books/8778741/the-beating-of-heavenly-wings/kindle/manifest/
(2013年2月4日アクセス)
C:https://newhumanist.org.uk/articles/4087/flaming-swords-gossamer-wings
(2015年9月26日アクセス)

 なお、リースは、ケンブリッジ大修士(歴史学)で、高校でラテン語の教師を17年間務めてからフリー、という、お孫さんが何人もいる女性です。
http://www.ashacentre.org/index.php?option=com_k2&view=item&id=400:valery-rees&Itemid=3

2 キリスト教の天使と悪魔

 (1)序

 「・・・2010年に行われた<ある>調査によれば、英国の国民の30%超が天使達の存在を信じている。・・・
 聖書は、全くもって、エデンの園を守っていたケルビム(Cherubim)<(注1)>から、マリアに良い知らせをもたらしたガブリエル(Gabriel)<(注2)>に至るまで、天使達に満ち満ちている。

 (注1)ケルブ(Cherub)の複数形。智天使。「旧約聖書の創世記によると・・・神はアダムとエバを追放した後、命の木への道を守らせるためにエデンの園の東に回転する炎の剣とともにケルビムを置いたという。また、契約の箱[(Ark of the Covenant)]の上にはこの天使を模した金細工が乗せられている。・・・
 エゼキエル書10章21節によれば、四つの顔・・・<すなわち、>人間の顔・・・、右に獅子の顔、左に牛の顔、後ろに鷲の顔・・・と四つの翼を持ち、その翼の下には人の手のようなものがある。ルネッサンス絵画ではそのまま描写するのではなく、翼を持つ愛らしい赤子の姿で表現されている。これをプット(Putto)という。
 「彼はケルブに乗って飛び、」(サムエル記下22章11節)「主はケルビムの上に座せられる。」(詩篇99編1節)といった記述があり「神の玉座」「神の乗物」としての一面が見られる。
 ケルブの起源はアッシリアの有翼人面獣身の守護者「クリーブ(kurību)」といわれている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%BA%E5%A4%A9%E4%BD%BF
 契約の箱とは、モーゼが神から授けられた十戒を刻んだ2つの石板を収納した聖櫃。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%91%E7%B4%84%E3%81%AE%E7%AE%B1
 (注2)「旧約聖書『ダニエル書』にその名があらわれる天使。ユダヤ教からキリスト教、イスラム教へと引き継がれ、キリスト教ではミカエル、ラファエルと共に三大天使の一人であると考えられている(ユダヤ教ではウリエルを入れて四大天使)。・・・神のことばを伝える天使・・・受胎告知<を行った天使でもある。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%96%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%AB

 この同じガブリエルが、イスラム教においても、コーランをムハンマドに啓示した天使として、大役を演じている。・・・
 とはいえ、確かに聖書類は天使達だらけではあるけれど、彼らが何者であって何をすることになっているのか、についての合意は殆んどないままだ。
 ところが、今や、<これらを解明するための>助っ人<である本>が目の前にある。
 この新しい本・・・の中で、ヴァレリー・リースは、天使達の役割と本性について余すところのない説明を提供している。
 あらゆる宗教に、それぞれ天使的な諸存在(figures)が見いだせることを認めつつ、彼女は、三つのアブラハム系諸宗教の天使達をもっぱら取り上げている。
 それと同時に、彼女は、古典時代<(ギリシャ・ローマ時代)>の諸存在との諸類似性について、注意深く時系列を追う(chronicle)。・・・」(C)

 「・・・15世紀の哲学者のマルシリオ・フィチーノ(Marsilio Ficino)<(注3)(コラム#411、412)>は、全部で399,920,004の天使達が存在すると主張したし、コーランでは三つの翼群を持つ天使達が大役を演じている<(注4)し>、ピオ12世(Pius XII)<(コラム#3094、4846、4848、5410)>は、聴衆として集まった信仰深き人々の守護天使達がサン・ピエトロ広場に群がっているのを見たと主張した・・・。・・・

 (注3)1433〜1499年。「イタリア・ルネサンス期の人文主義者、哲学者、神学者。メディチ家の保護を受け、プラトンなどギリシア語文献の著作をラテン語に翻訳した。・・・
 中世<欧州>ではスコラ学のなかでアリストテレスは知られていたものの、プラトンについては・・・ほとんど知られていなかった・・・フィチーノによるプラトン全集の翻訳はルネサンス期の新プラトン主義(ネオプラトニズム)隆盛の元になった。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%8E
 (注4)確認することができなかった。

 コーランに記されているところによれば、ムハンマドと彼の反対者達との間の諸不同意点の核心にあったのは、天使達の本性についての議論だった、と現在多くの学者達が主張している。<(注5)>

 (注5)確認できなかった。

 また、中世のキリスト教圏で、修道院改革諸運動や全ての法王庁における革命を繰り返し鼓吹したのは、天国における天使達による聖歌群に負けないように(emulate)しようという大志だった。<(注6)>

 (注6)確認できなかった。

 更にまた、プラトン的天使学(Platonic angelology)<(注7)>の形而上学<何たるか>を推し量ろうとする欲求が、ルネサンスの多くの部分のスーパーチャージャーになった(supercharged)。・・・」(A)

 (注7)プラトン的天使学を集大成したのは、17世紀のイギリス人たる哲学者、神学者のヘンリー・モア(Henry More。1614〜87年)・・ケンブリッジ大卒、同大修士・・であるとされている
https://books.google.co.jp/books?id=5k369JJ4dgAC&pg=PA158&lpg=PA158&dq=Platonic+angelology&source=bl&ots=3Gz3JciMFK&sig=r6stniNorplm3qc2fMgWv7HVsVM&hl=ja&sa=X&ved=0CB0Q6AEwAGoVChMIiMact5SryAIVSJmUCh1_ngfF#v=onepage&q=Platonic%20angelology&f=false
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%82%A2
ところ、それが、14世紀から16世紀のルネサンス・・イタリアのそれ・・
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%B9
といかなる関係があるのか疑問に思われるが、彼がケンブリッジ・プラトン学派の一人(上掲)であって、同学派が、エラスムスが1509年にケンブリッジにおいてネオプラトニズムを伝えたことが淵源となって17世紀になってから成立した
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%88%E3%83%B3%E5%AD%A6%E6%B4%BE
ことからすれば、まんざら牽強付会でもない、ということになりそうだ。
 肝心のプラトン的天使学がいかなるものであるかは確認できなかったが、「プラトンの『饗宴』<に>・・・、愛(エロース)は神ではなくむしろ「偉大なダイモーン」であると<か、>・・・全てのダイモニオン(ダイモーン的なもの)は神と死すべき人間の中間にある」といった記述があり、また、同じくプラトンの「『ソクラテスの弁明』の中でソクラテス<に>、自分には「ダイモニオン」(字義的には「神的な何か」)というものがあり、間違いを犯さないように「声」の形でしばしば<自分>に警告したが、何をすべきかを教えてくれることはなかったと主張<させている>」ところだ。
 「ただし、プラトンの描くソクラテスはダイモニオンがダイモーンだとは全く述べて<おらず、>それは常に非人格的な「何か」であり「しるし」であ」ることに注意が必要だ。
 ちなみに、「ダイモーンはユダヤ・キリスト教のデーモン(人間を誘惑したり、苦しませたり、取り憑く悪霊)をも指し、デーモンに相当する西洋諸語(英: demon, 独: Damon, 仏: demon)は、これより派生したものであ<って、>主として古代ギリシアやヘレニズム哲学におけるダイモーンに対して「ダイモーン」という呼称を適用し、ユダヤ・キリスト教におけるダイモーン/デーモンには「デーモン」という呼称を適用して、両者を区別するのが通例」。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%B3 (「」内)

(続く)

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