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太田述正コラム#7782(2015.7.12)
<ギリシャ危機>(2015.10.27公開)
1 始めに
一昨日、TAさんから、「フォーリン・アフェアーズの2015年8月号・・・で面白そうな記事があったのでご紹介します。↓
<マーク・ブリス米ブラウン大学教授の>「ギリシャ危機の虚構―― 救済対象はギリシャではなく、独仏の銀行だった」<です。>
金融・経済のことなどさっぱりわかりませんが、コラム#5668と同じく、金を借りた方ではなく貸した方に着目している点で、興味深いことを言っている気がした次第です。」という口上付で、このコラムが送られて来たので、そのさわりを紹介しがてら、ギリシャ危機について、再度、考えてみたいと思います。
2 ブリスの主張
ブリス(Mark Blyth。1967年〜)は、スコットランド人たる米政治学者であり、緊縮策(austerity)一般の批判者として知られている人物です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mark_Blyth
彼は、スコットランドのダンディー(Dundee)で育ち、米コロンビア大で1999年に博士号を取得し、1997年から2009年まで米ジョンズホプキンス大学で教鞭を執った後、現職(国際政治経済学教授)、という経歴です。
http://www.amazon.com/Austerity-The-History-Dangerous-Idea/dp/0199389446
「・・・なぜヨーロッパはギリシャが受け入れるような合意をまとめないのか。なぜギリシャのような小国がユーロに対するモラルハザードの脅威を突きつけると考えられているのか。
その一部については、・・・急進左派連合が突きつける政治リスク、つまり、ヨーロッパで、スペインのポデモスなどが反債権国連合を組織することを警戒していることで説明できる。だが一方でこれは、ヨーロッパのエリートたちがギリシャへのベイルアウト(救済)策として問題を処理したいからでもある。
本当は、ベイルアウトはギリシャではなく、ヨーロッパのメガバンクそして、ギリシャが返済を拒否しているために請求書を支払えずにいるユーロ中核諸国の納税者のためのものだ。ギリシャが緊縮策の受け入れにノーと言い続け、ヨーロッパが問題を解決できずにいるのは、この水面下のゲームのためだ。・・・
ギリシャはドイツとフランスの銀行を救済する目的のための道筋に過ぎなかった。メディアではギリシャへの融資が何度も取り上げられたが、提供された2300億ユーロの融資のなかで、ギリシャ国家を動かすための融資はわずか270億ユーロだったと試算されている。つまり、融資の65%はギリシャを経由して中核国の銀行の金利や満期資金の支払い、そして貸し手が求めた国内銀行の資本増強に用いられた。なかには、90%の救済資金がギリシャを完全に素通りしているとみなす試算もある。・・・
伝統的な政党が衰退し、急進左派連合のような政党が台頭しているだけに、このような事実を誰かが白状することはないだろう。・・・」
⇒こういった主張が出て来る背景にあるものを、想像を逞しくしてあけすけに申し上げれば、一、米国が、本件で、EU、とりわけ、ユーロ圏の、ギリシャに多額の資金を貸し付けている諸国に比べて、気楽な立場である、二、米国では政治学者達が激しい競争下にあって、筆者が奇をてらったことを言うことで注目を浴びたいと思っている、三、しかも、米国政府が、ギリシャが救済されることを、対露、対中等の観点から希っていることから、彼はこのような主張をすることが米国の国益に沿っていて喝采を博すと思っている、といったところでしょうか。
で、私に言わせれば、「なぜヨーロッパはギリシャが受け入れるような合意をまとめないのか」については、「ドイツとフランスの<大>銀行」、とりわけ「ドイツの<大>銀行」、更には、その背後にいるドイツの「納税者」達が、ギリシャ人達が根性を入れ替えて節約に励んでくれるという心証が得られない限り、諸大銀行が貸金が焦げ付き損切りをする事態に陥っても仕方がない、また、その場合、最悪、諸銀行を税金を投入して救うことも止むを得ない、と判断した上で、とにかく、この際、カネのブラックホール的なギリシャとは縁を絶ちたい、と思い詰めているためであることは明白なのであって、ブリスの主張はナンセンスです。(太田)
3 終わりに
仮に、再度、ギリシャが資金援助を得ることに成功したとしても、その前途がいかに険しいものであるかが、下掲コラムから良く分かります。
http://foreignpolicy.com/2015/07/11/a-problematic-proposal-from-greece-eurozone-bailout-germany/?wp_login_redirect=0
昨日のユーログループ蔵相会議がまとまらなかったことから、日本時間の今朝の時点で、早くも英ガーディアンは、ギリシャのユーロ離脱は近い、という記事
http://www.theguardian.com/world/2015/jul/11/greece-euro-exit-bailout-alexis-tsipras
を掲載したところです。
現地時間の日曜のユーログループ首脳会談は、開かれることは開かれるようであり、各国首脳が、現在、ブリュッセルに集まりつつあるようですが、メルケル首相は、「議論は大いなる困難に陥っている。」、「どんな犠牲を払ってでも合意に達しなければならないというものではない。」と語っており、
http://www.bbc.com/news/world-europe-33499650
緊迫感が高まりつつあります。
<ギリシャ危機>(2015.10.27公開)
1 始めに
一昨日、TAさんから、「フォーリン・アフェアーズの2015年8月号・・・で面白そうな記事があったのでご紹介します。↓
<マーク・ブリス米ブラウン大学教授の>「ギリシャ危機の虚構―― 救済対象はギリシャではなく、独仏の銀行だった」<です。>
金融・経済のことなどさっぱりわかりませんが、コラム#5668と同じく、金を借りた方ではなく貸した方に着目している点で、興味深いことを言っている気がした次第です。」という口上付で、このコラムが送られて来たので、そのさわりを紹介しがてら、ギリシャ危機について、再度、考えてみたいと思います。
2 ブリスの主張
ブリス(Mark Blyth。1967年〜)は、スコットランド人たる米政治学者であり、緊縮策(austerity)一般の批判者として知られている人物です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mark_Blyth
彼は、スコットランドのダンディー(Dundee)で育ち、米コロンビア大で1999年に博士号を取得し、1997年から2009年まで米ジョンズホプキンス大学で教鞭を執った後、現職(国際政治経済学教授)、という経歴です。
http://www.amazon.com/Austerity-The-History-Dangerous-Idea/dp/0199389446
「・・・なぜヨーロッパはギリシャが受け入れるような合意をまとめないのか。なぜギリシャのような小国がユーロに対するモラルハザードの脅威を突きつけると考えられているのか。
その一部については、・・・急進左派連合が突きつける政治リスク、つまり、ヨーロッパで、スペインのポデモスなどが反債権国連合を組織することを警戒していることで説明できる。だが一方でこれは、ヨーロッパのエリートたちがギリシャへのベイルアウト(救済)策として問題を処理したいからでもある。
本当は、ベイルアウトはギリシャではなく、ヨーロッパのメガバンクそして、ギリシャが返済を拒否しているために請求書を支払えずにいるユーロ中核諸国の納税者のためのものだ。ギリシャが緊縮策の受け入れにノーと言い続け、ヨーロッパが問題を解決できずにいるのは、この水面下のゲームのためだ。・・・
ギリシャはドイツとフランスの銀行を救済する目的のための道筋に過ぎなかった。メディアではギリシャへの融資が何度も取り上げられたが、提供された2300億ユーロの融資のなかで、ギリシャ国家を動かすための融資はわずか270億ユーロだったと試算されている。つまり、融資の65%はギリシャを経由して中核国の銀行の金利や満期資金の支払い、そして貸し手が求めた国内銀行の資本増強に用いられた。なかには、90%の救済資金がギリシャを完全に素通りしているとみなす試算もある。・・・
伝統的な政党が衰退し、急進左派連合のような政党が台頭しているだけに、このような事実を誰かが白状することはないだろう。・・・」
⇒こういった主張が出て来る背景にあるものを、想像を逞しくしてあけすけに申し上げれば、一、米国が、本件で、EU、とりわけ、ユーロ圏の、ギリシャに多額の資金を貸し付けている諸国に比べて、気楽な立場である、二、米国では政治学者達が激しい競争下にあって、筆者が奇をてらったことを言うことで注目を浴びたいと思っている、三、しかも、米国政府が、ギリシャが救済されることを、対露、対中等の観点から希っていることから、彼はこのような主張をすることが米国の国益に沿っていて喝采を博すと思っている、といったところでしょうか。
で、私に言わせれば、「なぜヨーロッパはギリシャが受け入れるような合意をまとめないのか」については、「ドイツとフランスの<大>銀行」、とりわけ「ドイツの<大>銀行」、更には、その背後にいるドイツの「納税者」達が、ギリシャ人達が根性を入れ替えて節約に励んでくれるという心証が得られない限り、諸大銀行が貸金が焦げ付き損切りをする事態に陥っても仕方がない、また、その場合、最悪、諸銀行を税金を投入して救うことも止むを得ない、と判断した上で、とにかく、この際、カネのブラックホール的なギリシャとは縁を絶ちたい、と思い詰めているためであることは明白なのであって、ブリスの主張はナンセンスです。(太田)
3 終わりに
仮に、再度、ギリシャが資金援助を得ることに成功したとしても、その前途がいかに険しいものであるかが、下掲コラムから良く分かります。
http://foreignpolicy.com/2015/07/11/a-problematic-proposal-from-greece-eurozone-bailout-germany/?wp_login_redirect=0
昨日のユーログループ蔵相会議がまとまらなかったことから、日本時間の今朝の時点で、早くも英ガーディアンは、ギリシャのユーロ離脱は近い、という記事
http://www.theguardian.com/world/2015/jul/11/greece-euro-exit-bailout-alexis-tsipras
を掲載したところです。
現地時間の日曜のユーログループ首脳会談は、開かれることは開かれるようであり、各国首脳が、現在、ブリュッセルに集まりつつあるようですが、メルケル首相は、「議論は大いなる困難に陥っている。」、「どんな犠牲を払ってでも合意に達しなければならないというものではない。」と語っており、
http://www.bbc.com/news/world-europe-33499650
緊迫感が高まりつつあります。
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
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