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太田述正コラム#7452(2015.1.28)
<『超マクロ展望--世界経済の真実』を読む(その1)>(2015.5.15公開)
1 始めに
読者から水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』についての話題提供が(コラム#7429で)なされていますが、以下のような記事を目にしました。
「経済・経営学者やエコノミストら109人が選ぶ「2014年のベスト経済書」・・・1位となった『資本主義の終焉と歴史の危機』・・・」
http://astand.asahi.com/webshinsho/diamond/weeklydiamond/product/2015011300002.html?iref=comtop_btm
(1月18日アクセス)
そこで、随分前にMHさんから提供を受けていた、水野和夫・萱野稔人『超マクロ展望--世界経済の真実』(2010年)のさわりをご紹介し、私のコメントを付すつもりになりました。
(MHさん自身は、コラムで取り上げてもらうほどの本ではない、と言ってましたが・・。)
ちなみに、水野(1953年〜)は、早大(政経)卒、同大修士(経済)、埼玉大博士で、三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト等を経て民主党政権下で内閣官房内閣審議官、現在、日大国際関係学部教授、萱野(1970年〜)は、早大(文)卒、パリ第十大博士で、現在、津田塾大国際関係学科教授、という人物です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E9%87%8E%E5%92%8C%E5%A4%AB
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%90%B1%E9%87%8E%E7%A8%94%E4%BA%BA
(及び、この本の奥付)
2 超マクロ展望--世界経済の真実(水野:M、萱野:K)
K:・・・08年に起きた金融危機は、一過性の問題ではなく、近代資本主義システムが行き着くところまできたことを示す兆候なのではないか。そういった問題意識が私たちのあいだにはあります。(9)
M:新興国や途上国など・・・では、東インド会社の時代から1960年代まで交易条件・・・輸出物価を輸入物価で割ることで計算できる・・・は下がりつづけました。先進国が安く原材料を仕入れて高く完成品を売る一方で、周辺国は高い工業製品を買って安い原油<等>を売<ってきたわけです>。・・・
<ところが、>・・・70年代あたりから先進国の交易条件は下落傾向に、途上国は改善傾向にあり・・・とりわけ第一次オイル・ショック(1973年)を契機として、新興国、資源国の交易条件は急速に改善していきました。反対に先進国の交易条件は悪化しました。・・・先進国の企業が儲からなくなったということです。・・・
不況で賃金が下がるというのは、ある程度やむをえない<のですが>・・・、実際には日本では、93年までは不況下でも賃金が下落することはありませんでした。・・・
しかし、97年から賃金は、景気が良くても悪くても趨勢的に下がるようになりました。・・・
これは日本だけの現象ではありません。・・・アメリカでは90年代半ば以降、・・・売上高が増えると、逆に人件費が下がっていく<ようになりました。>・・・
<このような>所得の低下については、・・・先進国の交易条件が悪化したことが最大の原因<なの>です・・・。・・・
ただし、・・・交易条件は、あくまでモノやサービスなど、実物経済の状況をあらわしたもので、資産の売買回転率を高めることによって得られる売却益・・・<、例えば、>株式投資のキャピタルゲイン<や>・・・会社<の>運用損益・・・は交易条件の影響をうけません。・・・
そこ<で、>・・・先進国は・・・金融に儲け口をみいだしていくようになったのです。・・・
<今や、>アメリカ<では、>・・・労働人口<で見ると、>・・・20人中1人<しかいないというのに、>・・・金融機関で働いている人・・・が利益の半分を稼<ぐに至っていま>す。製造業で稼ぐ日本の経済とはかけ離れたすがたです。・・・
さらに先進国では少子化も進行していきます。日本もふくめたG7の各国では、70年代半ばから出生率がいっせいに2.1を下回っていきます・・・。つまり国内の市場も拡大していかないということになってくる。<つまり、>70年代半ばには、国外でも国内でも、市場の拡大が頭打ちになっていくんですね。」(20〜21、24〜28、32)
⇒ここまでの水野の指摘は首肯できますが、水野と萱野の冒頭の総括はいかがなものでしょうか。
資本主義・・アングロサクソンの生き様、よりは広い意味でのそれ・・には変わりはなく、全球的には、国家の壁があるので資本主義の地域・・ヒトの所得ではない!・・平準化機能が貫徹しない・・例えば、ヒトは自由に移動できないし、モノも関税・非関税障壁があるし、カネも(国内であれば、政府が行うことができる所得の)強制移転ができない・・という、これまた、昔も今も基本的に変わりがないことがもたらすものが、時代によって変わっていくだけのこと、のように私には見えます。(太田)
K:<以上のような変化>の背景には交易条件の変化があった。このことを考えると、やっぱり73年のオイル・ショックは大きかったですね。・・・
それまで植民地だった資源国が独立を果たし、自国の資源をその価格もふくめて自分たちで管理しようとしたことが、オイル・ショックの歴史的前提となった。・・・
M:<この>OPECの・・・<石油>価格決定権をアメリカが取り返そうとして1983年にできたのが、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物市場ですね。
石油の先物市場をつくるということは、石油を金融商品化するということです。・・・
驚くことに、アメリカのWTI先物市場にしても、ロンドンのICEフューチャーズ・ヨーロッパ(旧国際石油取引所)にしても、そこで取引されている石油の生産量は世界全体の1〜2%ぐらいです。・・・
ところが先物取引というのは相対取引で何度もやりとりしますから、取引量だけでみると1億バレル以上になる。・・・価格という点からみると、石油は完全に領土主権のもとから離れ、市場メカニズムのもとに置かれるようになった<のです。>・・・
<これに加え、>1995年に国際資本が国境を自由に越えるようになった・・・。つまり、95年以降、アメリカは事実上日本やアジアの新興国で余っているお金を自由に使えるようになったのです。・・・<これは、>世界の余剰マネーがアメリカの・・・ウォール街<の>・・・コントロール下に入ったということですね。」(32、35、40、42〜43)
⇒このくだりは、中長期的には、資本主義の地域平準化機能、より一般的に言えば、資本主義の全球性、は、どんな障害でも基本的に乗り越えて貫徹していくことを示している、と受け止めることができそうです。(太田)
(続く)
<『超マクロ展望--世界経済の真実』を読む(その1)>(2015.5.15公開)
1 始めに
読者から水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』についての話題提供が(コラム#7429で)なされていますが、以下のような記事を目にしました。
「経済・経営学者やエコノミストら109人が選ぶ「2014年のベスト経済書」・・・1位となった『資本主義の終焉と歴史の危機』・・・」
http://astand.asahi.com/webshinsho/diamond/weeklydiamond/product/2015011300002.html?iref=comtop_btm
(1月18日アクセス)
そこで、随分前にMHさんから提供を受けていた、水野和夫・萱野稔人『超マクロ展望--世界経済の真実』(2010年)のさわりをご紹介し、私のコメントを付すつもりになりました。
(MHさん自身は、コラムで取り上げてもらうほどの本ではない、と言ってましたが・・。)
ちなみに、水野(1953年〜)は、早大(政経)卒、同大修士(経済)、埼玉大博士で、三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト等を経て民主党政権下で内閣官房内閣審議官、現在、日大国際関係学部教授、萱野(1970年〜)は、早大(文)卒、パリ第十大博士で、現在、津田塾大国際関係学科教授、という人物です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E9%87%8E%E5%92%8C%E5%A4%AB
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%90%B1%E9%87%8E%E7%A8%94%E4%BA%BA
(及び、この本の奥付)
2 超マクロ展望--世界経済の真実(水野:M、萱野:K)
K:・・・08年に起きた金融危機は、一過性の問題ではなく、近代資本主義システムが行き着くところまできたことを示す兆候なのではないか。そういった問題意識が私たちのあいだにはあります。(9)
M:新興国や途上国など・・・では、東インド会社の時代から1960年代まで交易条件・・・輸出物価を輸入物価で割ることで計算できる・・・は下がりつづけました。先進国が安く原材料を仕入れて高く完成品を売る一方で、周辺国は高い工業製品を買って安い原油<等>を売<ってきたわけです>。・・・
<ところが、>・・・70年代あたりから先進国の交易条件は下落傾向に、途上国は改善傾向にあり・・・とりわけ第一次オイル・ショック(1973年)を契機として、新興国、資源国の交易条件は急速に改善していきました。反対に先進国の交易条件は悪化しました。・・・先進国の企業が儲からなくなったということです。・・・
不況で賃金が下がるというのは、ある程度やむをえない<のですが>・・・、実際には日本では、93年までは不況下でも賃金が下落することはありませんでした。・・・
しかし、97年から賃金は、景気が良くても悪くても趨勢的に下がるようになりました。・・・
これは日本だけの現象ではありません。・・・アメリカでは90年代半ば以降、・・・売上高が増えると、逆に人件費が下がっていく<ようになりました。>・・・
<このような>所得の低下については、・・・先進国の交易条件が悪化したことが最大の原因<なの>です・・・。・・・
ただし、・・・交易条件は、あくまでモノやサービスなど、実物経済の状況をあらわしたもので、資産の売買回転率を高めることによって得られる売却益・・・<、例えば、>株式投資のキャピタルゲイン<や>・・・会社<の>運用損益・・・は交易条件の影響をうけません。・・・
そこ<で、>・・・先進国は・・・金融に儲け口をみいだしていくようになったのです。・・・
<今や、>アメリカ<では、>・・・労働人口<で見ると、>・・・20人中1人<しかいないというのに、>・・・金融機関で働いている人・・・が利益の半分を稼<ぐに至っていま>す。製造業で稼ぐ日本の経済とはかけ離れたすがたです。・・・
さらに先進国では少子化も進行していきます。日本もふくめたG7の各国では、70年代半ばから出生率がいっせいに2.1を下回っていきます・・・。つまり国内の市場も拡大していかないということになってくる。<つまり、>70年代半ばには、国外でも国内でも、市場の拡大が頭打ちになっていくんですね。」(20〜21、24〜28、32)
⇒ここまでの水野の指摘は首肯できますが、水野と萱野の冒頭の総括はいかがなものでしょうか。
資本主義・・アングロサクソンの生き様、よりは広い意味でのそれ・・には変わりはなく、全球的には、国家の壁があるので資本主義の地域・・ヒトの所得ではない!・・平準化機能が貫徹しない・・例えば、ヒトは自由に移動できないし、モノも関税・非関税障壁があるし、カネも(国内であれば、政府が行うことができる所得の)強制移転ができない・・という、これまた、昔も今も基本的に変わりがないことがもたらすものが、時代によって変わっていくだけのこと、のように私には見えます。(太田)
K:<以上のような変化>の背景には交易条件の変化があった。このことを考えると、やっぱり73年のオイル・ショックは大きかったですね。・・・
それまで植民地だった資源国が独立を果たし、自国の資源をその価格もふくめて自分たちで管理しようとしたことが、オイル・ショックの歴史的前提となった。・・・
M:<この>OPECの・・・<石油>価格決定権をアメリカが取り返そうとして1983年にできたのが、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物市場ですね。
石油の先物市場をつくるということは、石油を金融商品化するということです。・・・
驚くことに、アメリカのWTI先物市場にしても、ロンドンのICEフューチャーズ・ヨーロッパ(旧国際石油取引所)にしても、そこで取引されている石油の生産量は世界全体の1〜2%ぐらいです。・・・
ところが先物取引というのは相対取引で何度もやりとりしますから、取引量だけでみると1億バレル以上になる。・・・価格という点からみると、石油は完全に領土主権のもとから離れ、市場メカニズムのもとに置かれるようになった<のです。>・・・
<これに加え、>1995年に国際資本が国境を自由に越えるようになった・・・。つまり、95年以降、アメリカは事実上日本やアジアの新興国で余っているお金を自由に使えるようになったのです。・・・<これは、>世界の余剰マネーがアメリカの・・・ウォール街<の>・・・コントロール下に入ったということですね。」(32、35、40、42〜43)
⇒このくだりは、中長期的には、資本主義の地域平準化機能、より一般的に言えば、資本主義の全球性、は、どんな障害でも基本的に乗り越えて貫徹していくことを示している、と受け止めることができそうです。(太田)
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
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