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太田述正コラム#7402(2014.1.3)
<河野仁『<玉砕>の軍隊、<生還>の軍隊』を読む(その11)>(2015.5.20公開)

 「「バトルフィールド・コミッション(戦場任官)」という臨時の将校任命制度は米陸軍組織の柔軟性を象徴する制度である。
 これは、一時的な昇進であって、戦争が終結すればもとの階級に戻ることもありうる。
 この制度は海兵隊にはない。・・・

⇒前にも指摘したように、米海兵隊はまともな軍隊、米陸軍はまともでない軍隊、というだけのことです。(太田)

 そもそも、民兵制はもともと市民社会の民主主義の伝統を反映した組織である。
 民兵組織では指揮官は互選によって選出されていた。
 その民兵制の伝統から考えれば、この「戦場任官」制度は民主的、かつ合理的な制度であるともいえる。

⇒直近の上官が、「昇進」対象者を評価する最適任者である保証はありません。
 直近の上官が、この対象者の入隊時の成績なり入隊後の初任教育訓練の成績なりを全て把握しているケースはまずないでしょうから、対象者の直近の戦闘時の言動だけを踏まえた偏った評価を下しがちであると思われることから、「戦場任官」なるものは不合理な制度である、と断定してよいでしょう。
 まともな軍隊においては、(軍医等の非戦闘職種の将兵は対象外ですが、)階級順、そして、同一階級であれば昇任順(先任者)、でもって、自動的に指揮権が継承されます。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14115252384 (←余り権威はない典拠だが、常識に近い話であるし、回答が収斂しているので、これでもよかろう、と判断した。)(太田)

 米軍では、この制度により、小隊長が戦死または負傷して不在となった場合、中隊長が独断で小隊長となるべきものを少尉に任官させ、小隊長に任命することができる。
 年功や序列に縛られず、リーダーシップの能力があると認められる者が、それにふさわしい階級と職位を与えられ、その機能を果たすことができるわけである。
 実質的には小隊長の役割を果たしながら、あくまでも階級は曹長や軍曹のままであった日本陸軍の官僚主義的な戦闘組織ではありえない柔軟性を持つ制度だった。
 日本軍は官僚制的なフォーマル組織の「硬直性」をインフォーマルな組織を発達させることで柔軟に補ってきたわけだが、米軍組織においてはこれらの組織の二つの側面をなるべく乖離させない方策がとられていたことになる。
 ただし、戦場任官の候補となった兵士にも「任官を拒否」する権利があった。
 一方的な命令ではないところが、これまた民主的でおもしろい。」(247〜248)

⇒上述したところを再読して欲しいですね。
 河野は、軍隊どころか、大組織とはいかなるものか、そこにおける人事とはどのようなもの(であるべき)なのか、が全く分かっていません。
 また、そもそも、部下が上官を選ぶのであればまだしも、上官が部下の人事を決めることのどこが「民主的」なのでしょうか。
 たとえ、その部下が当該人事を拒否できるとしても・・。(太田)
 
 「<ガダルカナルでは、>日本軍の将兵が飢餓に苦しんでいるころ、米軍の兵士たちは補給不足に苦しみながらも、1日2回の食事にありついていた。
 陣地内には炊事所が設営され、7時には朝食にホットケーキとコーヒー、17時の夕食には温めた缶詰(Cレーション)や携帯口糧(Kレーション)が支給された。
 昼食は非常用のチョコレート・バー(Dレーション)ですませた・・・。・・・
 缶詰には夕食用の肉と豆の煮物、肉と野菜のシチュー、もしくは肉と野菜の細切れ(ハッシュ)の入った缶詰、朝食用のビスケット、キャンディ、粉末飲料の入った缶詰があった。・・・
 携帯口糧は防水加工の紙袋に入っており、チーズか練り肉の缶詰、ビスケット、キャンディ、粉末飲料、チューインガム、タバコ2本が詰められていた。・・・
 クリスマスには七面鳥のほかジャガイモ、オレンジ、セロリなどの新鮮な野菜や果物が支給された。」(252〜254)

⇒河野が、一方の日本軍の兵士達の糧食の状況については、「飢餓に苦しんでい<た>」の一言だけで片付けてしまっていて、具体的に説明していないのは、片手落ちです。
 もとより、米軍の兵士達の糧食についての説明だけで、その充実ぶりについては、否応なしに得心がいきますが・・。(太田) 

(続く)

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