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太田述正コラム#7292(2014.11.9)
<米国知識人のロシア認識(番外編)(続)(その1)>(2015.2.24公開)
1 始めに
同じ問題意識を抱きつつ米国の主要メディアの電子版を眺めていると、前回と同工異曲の記事が目につきます。
改めて、そのうちの2篇のさわりをご紹介し、私の簡単なコメントを付そうと思います。
2 米国知識人の憤激(続)
「・・・米国政府が、1989年に統合(integration)ではなく除外(exclusion)の戦略を追求したため、それまでの諸敵との協力の機会の窓は用いられないまま閉じ、見通しうる未来にかけて再び開くことはないだろう。
<もっとも、>これらの諸出来事は、今日におけるプーチンの諸活動の言い訳にはいかなる意味においてもならない。
彼のリーダーシップの下で、ロシアは非民主主義化、検閲、及び亢進する同性愛者嫌いに外国人嫌いを経験してきた。
ロシアの諸隣国は、侵略、エネルギー供給諸停止、そして、軍事的諸侵入(incursions)<という不快な経験>を味わわせられてきた。
プーチンのロシアを大きな(significant)欧米の諸同盟や政治的諸構造に統合するという観念は、今や望ましくないし賢明でもない。
しかし、1989年の米国政府の戦略の結果、プーチンに抵抗するためには、欧米は、力による諸選択肢を除く政治的諸手段を殆んど持ち合わせていない。
換言すれば、欧米は、その戦略が、欧州におけるより大きな自由<の実現>に貢献したことを寿がなければならないものの、同時に、単なる自己満悦(self-congratulation)に耽ることについてもまた、慎重でなければならないのだ。
1989年と1990年は、米国政府が巧みにソ連/ロシア政府を欧州の端っこへと追いやった(relegated)時だった。
その成功に伴う長期的諸コストについても、覚えておく必要がある。」
http://www.latimes.com/opinion/op-ed/la-oe-sarotte-putin-berlin-wall-20141109-story.html
⇒ロシアの場合とは逆に、(前回引用した記事や下掲の記事からも明らかなように、)欧米が除外ではなく統合の戦略を追求したハンガリーが、現在、プーチンのロシアと同じ方向性を示しているということだけでも、問題が、米国政府が、或いは欧米全体が旧ソ連圏の諸国に対して追求した戦略それ自体に存したわけではないことは明白です。
このコラムの筆者も米国の政治学者(南カリフォルニア大学教授)ですが、現在の米国の政治学者一般、ひいては米国の知識人一般は、自分達の言の初歩的な論理的整合性にすら無頓着なのか、と私は呆れています。
1970年代後半にスタンフォードに留学していた当時に比べて、米国の政治学が著しく劣化している感が否めません。
恐らく、これは、米国の人文社会科学全般について言えるのではないでしょうか。
先の大戦前から後にかけて、欧州のユダヤ人、リベラル、マルクス主義者等がファシズムや戦乱を逃れて米国にやってきたおかげで、一時的に米国の人文社会科学が超一流へと押し上げられ、戦後、そのような人材流入がなくなったために、いつしか元の木阿弥になってしまった、といったところではないでしょうか。(太田)
3 プーチンのプロト欧州文明志向に賛同するハンガリー(続)
「・・・ハンガリーの最近の動きは・・・、プーチンのお好みのプロジェクトであって、欧州向けのロシアの天然ガス諸輸出のためにウクライナの周りの迂回を提供することを眼目とするところの、南流(South Stream)パイプラインの建設を認めることだった。・・・
南流は、天然ガスを黒海の海底からブルガリア、セルビア、スロヴェニア、ハンガリーを経て、最終的にオーストリアに至ろうとしている。
このプロジェクトは、ロシアからウクライナを迂回して欧州に至るもう一つの代替的パイプラインを提供することが眼目だ。・・・
オルバン<首相>がこのプロジェクトを支持したことはとりわけ特記すべきだ。
というのは、彼がまだ野党の立場であった2008年に、ロシアとのこの南流取引をハンガリーに敵対する「クーデタ」に等しいとこき下ろしていたからだ。・・・
しかし、ハンガリーの、EU本部(Brussels)に対する二指の敬礼(two-finger salute)<(注1)>は、孤立した事件ではないのだ。
(注1)「ポーランドの国章たる白い鷲の紋章がついた帽子を着用している際に、この形式の敬礼が行なわれる。この敬礼の起源は明確ではなく、18世紀から19世紀に掛けて諸説ある。この敬礼は、第二次世界大戦中には、西部戦線に従軍したポーランド軍部隊にトラブルを引き起こした。二指の敬礼はカブスカウト<や>・・・ビーバースカウト・・・の敬礼でもあったため、他の連合軍将兵からは故意に不適切な礼式をとっているように見え、逮捕された者も生じた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E6%8C%87%E3%81%AE%E6%95%AC%E7%A4%BC
ボーイスカウト中、ビーバースカウトは小学校入学前年の9月 〜小学校2年生、カブスカウトは、小学校2年生二学期〜小学校5年生が対象。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A6%E3%83%88%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%80%A3%E7%9B%9F#.E6.A7.8B.E6.88.90
<ロシアの>ガズプロム(Gazprom)の中のアレクセイ・ミラー(Alexei Miller)の訪問の直後、ハンガリーは、ロシアの天然ガスが6月から得られておらず、欧州諸国がそれを裏口から供給するのに頼らざるをえなかったウクライナへの自身の諸配送(shipments)を、突然停止した。・・・
今春、ハンガリーは、ロシア政府が資金投入をしているロシアのロサトム(Rosatom)から原子炉を購入する140億ドルの契約に最終的調印をした。
(続く)
<米国知識人のロシア認識(番外編)(続)(その1)>(2015.2.24公開)
1 始めに
同じ問題意識を抱きつつ米国の主要メディアの電子版を眺めていると、前回と同工異曲の記事が目につきます。
改めて、そのうちの2篇のさわりをご紹介し、私の簡単なコメントを付そうと思います。
2 米国知識人の憤激(続)
「・・・米国政府が、1989年に統合(integration)ではなく除外(exclusion)の戦略を追求したため、それまでの諸敵との協力の機会の窓は用いられないまま閉じ、見通しうる未来にかけて再び開くことはないだろう。
<もっとも、>これらの諸出来事は、今日におけるプーチンの諸活動の言い訳にはいかなる意味においてもならない。
彼のリーダーシップの下で、ロシアは非民主主義化、検閲、及び亢進する同性愛者嫌いに外国人嫌いを経験してきた。
ロシアの諸隣国は、侵略、エネルギー供給諸停止、そして、軍事的諸侵入(incursions)<という不快な経験>を味わわせられてきた。
プーチンのロシアを大きな(significant)欧米の諸同盟や政治的諸構造に統合するという観念は、今や望ましくないし賢明でもない。
しかし、1989年の米国政府の戦略の結果、プーチンに抵抗するためには、欧米は、力による諸選択肢を除く政治的諸手段を殆んど持ち合わせていない。
換言すれば、欧米は、その戦略が、欧州におけるより大きな自由<の実現>に貢献したことを寿がなければならないものの、同時に、単なる自己満悦(self-congratulation)に耽ることについてもまた、慎重でなければならないのだ。
1989年と1990年は、米国政府が巧みにソ連/ロシア政府を欧州の端っこへと追いやった(relegated)時だった。
その成功に伴う長期的諸コストについても、覚えておく必要がある。」
http://www.latimes.com/opinion/op-ed/la-oe-sarotte-putin-berlin-wall-20141109-story.html
⇒ロシアの場合とは逆に、(前回引用した記事や下掲の記事からも明らかなように、)欧米が除外ではなく統合の戦略を追求したハンガリーが、現在、プーチンのロシアと同じ方向性を示しているということだけでも、問題が、米国政府が、或いは欧米全体が旧ソ連圏の諸国に対して追求した戦略それ自体に存したわけではないことは明白です。
このコラムの筆者も米国の政治学者(南カリフォルニア大学教授)ですが、現在の米国の政治学者一般、ひいては米国の知識人一般は、自分達の言の初歩的な論理的整合性にすら無頓着なのか、と私は呆れています。
1970年代後半にスタンフォードに留学していた当時に比べて、米国の政治学が著しく劣化している感が否めません。
恐らく、これは、米国の人文社会科学全般について言えるのではないでしょうか。
先の大戦前から後にかけて、欧州のユダヤ人、リベラル、マルクス主義者等がファシズムや戦乱を逃れて米国にやってきたおかげで、一時的に米国の人文社会科学が超一流へと押し上げられ、戦後、そのような人材流入がなくなったために、いつしか元の木阿弥になってしまった、といったところではないでしょうか。(太田)
3 プーチンのプロト欧州文明志向に賛同するハンガリー(続)
「・・・ハンガリーの最近の動きは・・・、プーチンのお好みのプロジェクトであって、欧州向けのロシアの天然ガス諸輸出のためにウクライナの周りの迂回を提供することを眼目とするところの、南流(South Stream)パイプラインの建設を認めることだった。・・・
南流は、天然ガスを黒海の海底からブルガリア、セルビア、スロヴェニア、ハンガリーを経て、最終的にオーストリアに至ろうとしている。
このプロジェクトは、ロシアからウクライナを迂回して欧州に至るもう一つの代替的パイプラインを提供することが眼目だ。・・・
オルバン<首相>がこのプロジェクトを支持したことはとりわけ特記すべきだ。
というのは、彼がまだ野党の立場であった2008年に、ロシアとのこの南流取引をハンガリーに敵対する「クーデタ」に等しいとこき下ろしていたからだ。・・・
しかし、ハンガリーの、EU本部(Brussels)に対する二指の敬礼(two-finger salute)<(注1)>は、孤立した事件ではないのだ。
(注1)「ポーランドの国章たる白い鷲の紋章がついた帽子を着用している際に、この形式の敬礼が行なわれる。この敬礼の起源は明確ではなく、18世紀から19世紀に掛けて諸説ある。この敬礼は、第二次世界大戦中には、西部戦線に従軍したポーランド軍部隊にトラブルを引き起こした。二指の敬礼はカブスカウト<や>・・・ビーバースカウト・・・の敬礼でもあったため、他の連合軍将兵からは故意に不適切な礼式をとっているように見え、逮捕された者も生じた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E6%8C%87%E3%81%AE%E6%95%AC%E7%A4%BC
ボーイスカウト中、ビーバースカウトは小学校入学前年の9月 〜小学校2年生、カブスカウトは、小学校2年生二学期〜小学校5年生が対象。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A6%E3%83%88%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%80%A3%E7%9B%9F#.E6.A7.8B.E6.88.90
<ロシアの>ガズプロム(Gazprom)の中のアレクセイ・ミラー(Alexei Miller)の訪問の直後、ハンガリーは、ロシアの天然ガスが6月から得られておらず、欧州諸国がそれを裏口から供給するのに頼らざるをえなかったウクライナへの自身の諸配送(shipments)を、突然停止した。・・・
今春、ハンガリーは、ロシア政府が資金投入をしているロシアのロサトム(Rosatom)から原子炉を購入する140億ドルの契約に最終的調印をした。
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
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