太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/

太田述正コラム#6781(2014.2.26)
<江戸時代における外国人の日本論(その3)>(2014.6.13公開)

  ト その他

 「工芸は国をあげて非常に盛んである。工芸品のいくつかは完璧なまでに仕上がっており、ヨーロッパの芸術品を凌駕している・・・
 日本人が家で使う家具は、台所や食事のさいに使う物を除けば、他は極めて少ない。しかし衣服その他の必需品は、どの町や村でも、信じられないほど多数の物が商店で売られている・・・。」

→日本の技術水準の高さ、質素さ、そして生活必需品の多彩さにツンベルクは瞠目しています。(太田)

  チ 国民性

 「(日本人の)国民性は賢明にして思慮深く、自由であり、従順にして礼儀正しく、好奇心に富み、勤勉で器用、節約家にして酒は飲まず、清潔好き、善良で友情に厚く、率直にして公正、正直にして誠実、疑い深く、迷信深く、高慢であるが寛容であり、悪に容赦なく、勇敢にして不屈である・・・。・・・
 日本人の親切なことと善良なる気質については、私はいろいろな例について驚きをもって見ることがしばしばあった・・・
 国民は大変に寛容でしかも善良である。やさしさや親切をもってすれば、国民を指導し動かすことができるが、脅迫や頑固さをもって彼らを動かすことはまったくできない・・・。・・・
 正直と忠実は、国中に見られる。・・・
 一般大衆は富に対して貪欲でも強欲でもなく、また常に大食いや大酒飲みに対して嫌悪を抱く・・・。・・・
 この国民は絶えず清潔を心がけており、家でも旅先でも自分の体を洗わずに過ごす日はない・・・。」

→日本人の人間主義性を的確に描写し、称賛していますね。
 なお、「疑い深く、迷信深く、高慢である」は、一見負の評価のようですが、「疑い深」いということは慎重であるということでしょうし、「高慢である」のは、プライドを持っているということでしょうし、「迷信深」いというのは、単に、神道や仏教を信じているというだけのことではないかと想像されます。(太田)

  リ 法と道徳

 「自由は日本人の生命である。それは、我儘や放縦へと流れることなく、法律に準拠した自由である・・・
 日本人は、オランダ人の非人間的な奴隷売買や不当な奴隷の扱いをきらい、憎悪を抱いている。身分の高低を問わず、法律によって自由と権利は守られており・・・正義は広く国中で遵守されている。・・・裁判所ではいつも正義が守られ、訴えは迅速にかつ策略なしに裁決される。有罪については、どこにも釈明の余地はないし、人物によって左右されることもない。また慈悲を願い出る者はいない・・・
(外国人に対しても)・・・いったん契約が結ばれれば、ヨーロッパ人自身がその原因をつくらない限り、取り消されたり、一字といえども変更されたりすることはない・・・。・・・
 法学について・・・広範囲な研究はなされていない<し、そもそも、>こんなにも法令集が薄っぺらで、裁判官の数が少ない国はない。法解釈や弁護士といった概念はまったくない。それにもかかわらず、法が人の身分によって左右されず、一方的な意図や権力によることなく、確実に遂行されている国は他にない。法律は厳しいが手続きは簡潔である・・・。
 日本の法律は厳しいものである。そして警察がそれに見合った厳重な警戒をしており、秩序や習慣も十分に守られている。その結果は大いに注目すべきであり、重要なことである。なぜなら日本ほど放埒なことが少ない国は、他にほとんどないからである。さらに人物の如何を問わない。また法律は古くから変わっていない。説明や解釈などなくても、国民は幼時から何をなし何をなさざるかについて、確かな知識を身に付ける。そればかりでなく、高齢者の見本や正しい行動を見ながら成長する・・・
 当地では犯罪の発生もその処罰も、人口の多い他の国に比して確かにずっと少ないといえよう・・・。
 この国ほど盗みの少ない国はほとんどないであろう。強奪はまったくない。窃盗はごく稀に耳にするだけである。それでヨーロッパ人は幕府への旅の間も、まったく安心して自分が携帯している荷物にほとんど注意を払わない・・・。」

→私は、少し前に(コラム#6717で)板倉勝重を取り上げ、(人間主義に立脚し、民事法に一般的規定しか設けず、先例拘束性がなく具体的個別的解決を旨とする)日本で、裁判等において、脈々と精妙なる裁定がなされてきたことを踏まえた上で、このような日本人の法意識の(手続き重視で先例拘束性があり、法・先例の詳細性・普遍性を重視するところの)アングロサクソンの法意識(立憲主義/人権思想を含む)に対する優位を指摘したところですが、ツンベルクが、短期間の日本滞在で、日本人の人間主義的法意識をここまで的確に把握できたことに驚嘆を禁じえません。
 実は、外国人によるところの、日本人の人間主義的法意識についてのこのような高い評価は、下掲のように、日本の歴史を通じて一貫して見られるところです。

 「<まだ日本が広義の弥生時代であったと言ってよい>3世紀に<支那で>書かれた『魏志倭人伝』<(注3)>(正確には『三国志』・「魏書」の東夷伝[倭人条])には、「窃盗せず、訴訟少なし」という記述があ・・・る。・・・

 (注3)「著者は西晋の陳寿で、3世紀末(280年(呉の滅亡)〜297年(陳寿の没年)の間)に書かれ<た。>・・・中国の正史中で、はじめて日本に関するまとまった記事が書かれている。『後漢書』東夷伝のほうが扱う時代は古いが、『三国志』魏志倭人伝のほうが先に書かれた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%8F%E5%BF%97%E5%80%AD%E4%BA%BA%E4%BC%9D ([]内も)

 <また、太田が言うところの日本の第一次弥生モードの末期の>1549年・・・8月19日に鹿児島に上陸したスペイン人イエズス会宣教師、フランシスコ・ザビエル<(注4)>は、ゴア・・・にいた・・・修道士宛の書簡のなかでこう述べている。

 (注4)Francisco de Xavier(1506〜52年)、「スペイン・ナバラ生まれのカトリック教会の司祭、宣教師。イエズス会の創設メンバーの1人。バスク人。」1549〜51年に日本滞在。インドのゴアで病死。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%93%E3%82%A8%E3%83%AB

 「此の国の人は礼儀を重んじ、一般に善良にして悪人を攘(ゆず)らず、何よりも名誉を大切にすることは驚くべきことなり」
 「俗人の間には罪悪少なく、また道理に従ふことは坊主と称するパードレ(神父)及び祭司に勝れり」
 また、ザビエルに同行した・・・コスメ・デ・ドレス<(注5)>が布教地の山口からスペインのバレンシアのイエズス会士に宛てた書簡にも同様の記述がある。「日本人はきわめて理知的であり、道理によって身を処することはスペイン人に劣らず、あるいはそれ以上である」と、褒め讃えている。・・・

 (注5)コスメ・デ・トーレス(Cosme de Torres。1510〜70年)。「スペイン・バレンシア出身<で>若くして司祭となり、・・・メキシコに渡った。さらに・・・東南アジアのモルッカ諸島までやってきた。1546年、そこで・・・たまたま同地に来ていたザビエルと・・・出会<う>。ザビエル<と>・・・共にインドのゴアへ渡り、同地でイエズス会に入会した。<そして、>ザビエルや日本人ヤジロウと共に・・・1549年8月15日・・・鹿児島に到着。・・・彼の目指した「適応主義」・・・はサビエルの意志でもあった<が、>日本では<欧州>人の宣教師たちに対して日本文化を尊重し、日本式の暮らしを行うことを求めた・・・。トーレス自身、肉食をやめ、質素な日本食を食べ、日本の着物を着て後半生を過ごした。・・・天草・・・で死去。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%82%B9

 <太田が言うところの第二次縄文モードの江戸時代の末期はどうか。ゴローニン(後出)の>『日本幽囚記』に感動して、日本での伝道活動を決意したロシア人宣教師ニコライ<(注6)>も、日本人について「上は武人から下は町人に至るまで礼儀正しく、弱いものを助ける美しい心をもっている。忠義と孝行が尊ばれ、これほど精神の美しさをもつ民族は見たことがない」と絶賛している。」
http://www.h2.dion.ne.jp/~apo.2012/browse1303-07.html

 (注6)Nicholas of Japan(1836〜1912年。「神学大学生であった頃、在日本ロシア領事館附属聖堂司祭募集を知り、日本への正教伝道に駆り立てられたニコライは、その生涯を日本への正教伝道に捧げ、日露戦争中も日本にとどまり、・・・日本人正教徒に、日本人の務めとして、日本の勝利を祈るように勧め・・・<その>日本で永眠した。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%82%A4_(%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%A4%A7%E4%B8%BB%E6%95%99)

(続く)

太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/