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太田述正コラム#6685(2014.1.9)
<またもや人間主義について(その4)>(2014.4.26公開)
これまで、私がグリーンに対して批判的コメントを加えていないのは、これから紹介する、新アメリカ財団(New America Foundation)シニア・フェローのロバート・ライト(Robert Wright)<(注5)>が、結論的には私と同じ考えに基づいて、グリーン批判を展開してくれているからです。
(注5)1957年〜。米国のジャーナリスト、学者、そして、科学、進化心理学、歴史、宗教、ゲーム理論についてのベストセラー著述家。米プリンストン大学で進化心理学の前身である社会生物学を専攻。
http://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Wright_%28journalist%29
しかし、結論に至るまでのライトの論理は必ずしも分かり易くはない上、その論理には私が同意できない部分がある、とあらかじめ申し上げておきましょう。
「1999年にジョシュア・グリーンは・・・トロッコ(trolley)問題と呼ばれる思考実験<を発表したが、それは、>・・・この数年、かなりの注目を集めてきた。・・・
暴走するトロッコが、このままでは5人の人を殺してしまうが、あなたが<転轍機の>レバーを引いて軌道を変更すれば1人の人が死ぬだけで済む。
あなたはレバーを引くか、いや、引かなければならないか?
さて、この映像を巻き戻して、今度は、5人全員を、レバーを引くことによってではなく、とても大きな男を歩道橋から軌道に押し落としてその体でもって列車の速度を緩めることで、(当然のことながら本人以外を除いて)救うことができるとしよう。
あなたはそうするだろうか?
そして、もしあなたが1回目の時には「ハイ」と言い、2回目の時には(多くの人がそう言うであろうが)「ノー」と言うとすれば、あなたの理屈は何なのだろうか?
どちらも1対5の交換(swap)ではないのか?
グリーンの霊感は、人々がトロッコ問題を考えている時に彼らの脳をスキャンすることだった。
その結果は、無辜の第三者を押し落として殺すことで5人の命を救うことを拒否した人々は自分達の脳の感情的諸部位によって揺り動かされたことが示唆されていたのに対し、できるだけ多くの人を生き残らせるという、より功利主義的な解決を選んだ人々は、論理的思考に関連している脳の諸部位がより活動していることが示された。・・・
<グリーンによれば、このような、人間の不合理な行動を是正すること、すなわち、>人類を救済することは可能だが、そのためには一致した努力を行う必要があるのだ。
グリーンは、読者達に、「メタ道徳性(metamorality)」と彼が呼ぶものを指示する機会(chance)であるところの、「同様の考えを持つ他人達の一団に加わる動機と機会(opportunity)」を読者達に提供する。
そして、このメタ道徳性が普及するにつれて、我々は、妊娠中絶と同性愛者の諸権利についての諸議論に理性をもたらし、インドとパキスタンの間の、そして、イスラエルとパレスティナの間の、等々の諸緊張関係を緩和する、といった、国内、国際双方の諸前線における諸問題を解決することが期待できるようになる、と。
私は<グリーンのものだろうが誰のものだろうが、このような>大志は好きだ!
また、私はちょっとした救世主主義(messianism)は悪くないとも思う。
なぜなら、我々が、国内的にかつ国際的に目撃している激しい部族主義は、我々が真に全地球的な危機(peril)に接近しつつあるかもしれないことを示唆しているからだ。
私は、グリーンに、このような状況は、我々に、劇的な行動・・人間の諸意識に一種の改変(transformation)をもたらすことのできる規模の行動・・を取ることを求めている、という点で同意する。
しかし、私は、グリーンの頭の中にある改変は、魅力的ではあるが、本当に緊急性のあるものではないと思う。
私は、彼による診断は、我々を最も紛争へと運命付けてきたところの、人間心理の部分を軽く片付け過ぎていると思う。・・・
<しかし、もう少し、グリーンの考えを紹介しよう。>
彼は、問題は、我々が、相対的に小さな狩猟採集諸社会という特定の文脈の中で一緒にやっていくために設計された点にあると言う。
だから、我々の頭脳は、我々がその一部である諸集団と我々との折り合いを付けさせることには長けているのだけれど、諸集団に相互に妥協をさせることには余り長けていない、と。
「<人間の性来の>道徳性は、普遍的協力を推進するためには進化していない」、と彼は記している。
(続く)
<またもや人間主義について(その4)>(2014.4.26公開)
これまで、私がグリーンに対して批判的コメントを加えていないのは、これから紹介する、新アメリカ財団(New America Foundation)シニア・フェローのロバート・ライト(Robert Wright)<(注5)>が、結論的には私と同じ考えに基づいて、グリーン批判を展開してくれているからです。
(注5)1957年〜。米国のジャーナリスト、学者、そして、科学、進化心理学、歴史、宗教、ゲーム理論についてのベストセラー著述家。米プリンストン大学で進化心理学の前身である社会生物学を専攻。
http://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Wright_%28journalist%29
しかし、結論に至るまでのライトの論理は必ずしも分かり易くはない上、その論理には私が同意できない部分がある、とあらかじめ申し上げておきましょう。
「1999年にジョシュア・グリーンは・・・トロッコ(trolley)問題と呼ばれる思考実験<を発表したが、それは、>・・・この数年、かなりの注目を集めてきた。・・・
暴走するトロッコが、このままでは5人の人を殺してしまうが、あなたが<転轍機の>レバーを引いて軌道を変更すれば1人の人が死ぬだけで済む。
あなたはレバーを引くか、いや、引かなければならないか?
さて、この映像を巻き戻して、今度は、5人全員を、レバーを引くことによってではなく、とても大きな男を歩道橋から軌道に押し落としてその体でもって列車の速度を緩めることで、(当然のことながら本人以外を除いて)救うことができるとしよう。
あなたはそうするだろうか?
そして、もしあなたが1回目の時には「ハイ」と言い、2回目の時には(多くの人がそう言うであろうが)「ノー」と言うとすれば、あなたの理屈は何なのだろうか?
どちらも1対5の交換(swap)ではないのか?
グリーンの霊感は、人々がトロッコ問題を考えている時に彼らの脳をスキャンすることだった。
その結果は、無辜の第三者を押し落として殺すことで5人の命を救うことを拒否した人々は自分達の脳の感情的諸部位によって揺り動かされたことが示唆されていたのに対し、できるだけ多くの人を生き残らせるという、より功利主義的な解決を選んだ人々は、論理的思考に関連している脳の諸部位がより活動していることが示された。・・・
<グリーンによれば、このような、人間の不合理な行動を是正すること、すなわち、>人類を救済することは可能だが、そのためには一致した努力を行う必要があるのだ。
グリーンは、読者達に、「メタ道徳性(metamorality)」と彼が呼ぶものを指示する機会(chance)であるところの、「同様の考えを持つ他人達の一団に加わる動機と機会(opportunity)」を読者達に提供する。
そして、このメタ道徳性が普及するにつれて、我々は、妊娠中絶と同性愛者の諸権利についての諸議論に理性をもたらし、インドとパキスタンの間の、そして、イスラエルとパレスティナの間の、等々の諸緊張関係を緩和する、といった、国内、国際双方の諸前線における諸問題を解決することが期待できるようになる、と。
私は<グリーンのものだろうが誰のものだろうが、このような>大志は好きだ!
また、私はちょっとした救世主主義(messianism)は悪くないとも思う。
なぜなら、我々が、国内的にかつ国際的に目撃している激しい部族主義は、我々が真に全地球的な危機(peril)に接近しつつあるかもしれないことを示唆しているからだ。
私は、グリーンに、このような状況は、我々に、劇的な行動・・人間の諸意識に一種の改変(transformation)をもたらすことのできる規模の行動・・を取ることを求めている、という点で同意する。
しかし、私は、グリーンの頭の中にある改変は、魅力的ではあるが、本当に緊急性のあるものではないと思う。
私は、彼による診断は、我々を最も紛争へと運命付けてきたところの、人間心理の部分を軽く片付け過ぎていると思う。・・・
<しかし、もう少し、グリーンの考えを紹介しよう。>
彼は、問題は、我々が、相対的に小さな狩猟採集諸社会という特定の文脈の中で一緒にやっていくために設計された点にあると言う。
だから、我々の頭脳は、我々がその一部である諸集団と我々との折り合いを付けさせることには長けているのだけれど、諸集団に相互に妥協をさせることには余り長けていない、と。
「<人間の性来の>道徳性は、普遍的協力を推進するためには進化していない」、と彼は記している。
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
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