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太田述正コラム#6577(2013.11.16)
<『史上最大のボロ儲け』を読む(その2)>(2014.3.3公開)
さて、406頁もの大著なので、何回かに分けて紹介していくつもりだったのですが、カネ亡者の話が延々と続くことに嫌気がさしたのと、翻訳の出来が悪すぎる(後述)ことから、今回で終わらせることにしました。
「ポールソンは・・・十分な金を確実に手に入れるには大学教育が必要だとつくづく実感し・・・1976年にニューヨーク大学に復学した・・・。」(36)
→大学を何と心得る、と言いたくなる私の方がオカシイのでしょうか。(太田)
「彼らは・・・ロングアイランドの南海岸・・・の友人の家に・・・週末・・・100人もの客が集まった。・・・パーティは一時頃から、サーモンのグリルとパスタのランチで始まり、夜まで続く。・・・こうしたパーティにはたいてい、実業界、ファッション業界、芸術界の友人同士による魅力的な会話、おいしい食べ物、あり余るほどの飲み物があふれていた。また希望者には、各種の脱法ドラッグが振る舞われた。」(40)
→日にちも時間帯はほぼ同じですが、太田コラムのオフ会は、第三のビールが一缶100円で提供されるというわけで、これに比べると実に健全そのものですねえ。(太田)
「ポールソンは以前よりも・・・健全な生活スタイルを送るようになり、一日を通して健康によい食べ物を少量口にするだけになった。・・・ポールソン・・・はこう言っていた。『長生きできれば、それだけ長く富を築くことができる』とね。」(84〜85)
→大学観といい、健康観といい、ポールソンの発想は転倒しており、重篤の拝金主義の病に罹っている、と言うべきでしょう。(太田)
ポールソン同様、世界金融危機を見越して大儲けしたアンドリュー・ラーデ<(注2)>は、2008年10月27日付けで顧客に宛てて下掲の公開書簡を送り、この世界からドロップアウトしました。
(注2)Andrew Lahde。1971年〜。ミシガン州立大卒、カリフォルニア大ビジネススクールMBA。2008年までカリフォルニアのヘッジファンドのマネジャー。
http://en.wikipedia.org/wiki/Andrew_Lahde
「・・・私はこれまでマネーゲームに携わってきました。世の中には大して頭がいいわけでもないのに、親が金持ちだというだけで甘い汁を吸っている人間がざらにいます。彼らは労せずして私立の中学校からエール大学やハーバード大学へ進学し、MBAを取得しています。
→ここは誤訳です。
エールにビジネススクール(Yale School of Management)ができたのは1976年にもなってからであり、
http://en.wikipedia.org/wiki/Yale_School_of_Management
1908年にできた世界最初の(MBAを授与する)ビジネススクールである、余りにも有名なハーヴァード・ビジネススクール
http://en.wikipedia.org/wiki/Business_school
と通常並列表記することなどありえないので、すぐおかしいことに気付きました。
(ついでに言えば、「私立の中学校」にも首をひねりました。
http://ejje.weblio.jp/content/preparatory+school )
案の定、原文は"low hanging fruit, i.e. idiots whose parents paid for prep school, Yale, and then the Harvard MBA, was there for the taking."(ウィキペディア上掲)であり、「彼らは労せずして私立の全寮制高校からエール大学を経てハーバード・ビジネススクールMBAを取得しています」とでも訳すべきでした。
こんな短いセンテンスだけでも2カ所・・数えようによっては3カ所・・も誤りがあるのですから、推して知るべしです。
皆さん、昨今の翻訳書はまともな知識を身に付けるために読む類のものではない、と達観した方がよさそうですよ。(太田)
そして、受けた(と思われる)教育に値するほどの価値もない(ことが多い)のに、AIGやベアー・スターンズ、リーマン・ブラザーズなどの企業の幹部に成り上がっています。あるいは政府機関のあらゆる役職に就いています。こうした人間は貴族社会の恩恵を受けているだけであり、実は私とは正反対の取引をするほど愚かなのです。・・・
私はドロップアウトさせていただきます・・・
この場を借りて、アメリカ政府の問題についてささやかな提案をしておきたいと思います。何よりも立法過程に明らかな欠陥があります。過去8年間にわたり、議会に同じような法案が繰り返し提出されていました。その法案が可決されていれば、現在破綻しかけている企業がかつて行っていた略奪的な貸し付け行為を抑制することができたでしょう。しかしこれらの企業は共和・民主両党に資金を提供し、その見返りに、一般市民の保護を目的とするこの法律を否決してもらっていたのです。トーマス・ジェファーソンとアダム・スミスが亡くなって以来、この国は尊敬すべき哲学者を輩出していません。
→原文が分かりませんが、ここも、間違いなく誤訳でしょう。
ラーデもそうですが、アダム・スミスが米国人だと思い込んでいるような修士取得以上の米国人は、さすがに一人もいないでしょうからね。
翻訳者の山田美明という人物がどんな教育を受けているのか、興味津々です。
(ラーデが、あの人種主義の権化のジェファーソンをここで持ち出していることには目くじらを立てないことにしましょう。)
この山田美明という翻訳者は、大活躍であり、彼が、英仏語にわたって、多彩で面白そうな本をたくさん手掛けている
http://www.amazon.co.jp/%E6%9C%AC/s?ie=UTF8&field-author=%E5%B1%B1%E7%94%B0%E7%BE%8E%E6%98%8E&page=1&rh=n%3A465392%2Cp_27%3A%E5%B1%B1%E7%94%B0%E7%BE%8E%E6%98%8E
ところを見ると、どうやら、日本の翻訳文化は劣化して久しいようです。
日本の出版社も、本離れの時代になってカネがなくなってきていて経営が苦しく、まともな翻訳者、監訳者を確保できなくなっているのでしょうね。
それにしても、これだけ翻訳能力のない山田が、臆面もなく4頁にも及ぶ長文の駄文的後書きを付けていることには、呆れるのを通り越して悲しくなりました。(太田)
少なくとも政治システムの改善に目を向ける哲学者はいません。資本主義は200年もの間機能してきましたが、時代は変わり、システムは腐敗してしまいました。・・・」(376〜379)
→資本主義の歴史は200年なんてものではない・・イギリスはもともと資本主義だった!・・ことについても、ラーデを批判しないことにしましょう。(太田)
3 終わりに
私だったら、ポールソンではなく、ラーデを事実上の主人公にしたノンフィクションに仕立て上げていたでしょう。
そうしておれば、読者にカタルシスを与える形でストーリーが完結するからです。
そうしなかったところを見ると、著者のリッカーマン自身が根っからの拝金主義者であって、ラーデよりもポールソンに親近感を覚えた、いうことなのでしょうね。
米国社会の現状、というか本質は度し難い、ということが再確認できた思いです。
(完)
<『史上最大のボロ儲け』を読む(その2)>(2014.3.3公開)
さて、406頁もの大著なので、何回かに分けて紹介していくつもりだったのですが、カネ亡者の話が延々と続くことに嫌気がさしたのと、翻訳の出来が悪すぎる(後述)ことから、今回で終わらせることにしました。
「ポールソンは・・・十分な金を確実に手に入れるには大学教育が必要だとつくづく実感し・・・1976年にニューヨーク大学に復学した・・・。」(36)
→大学を何と心得る、と言いたくなる私の方がオカシイのでしょうか。(太田)
「彼らは・・・ロングアイランドの南海岸・・・の友人の家に・・・週末・・・100人もの客が集まった。・・・パーティは一時頃から、サーモンのグリルとパスタのランチで始まり、夜まで続く。・・・こうしたパーティにはたいてい、実業界、ファッション業界、芸術界の友人同士による魅力的な会話、おいしい食べ物、あり余るほどの飲み物があふれていた。また希望者には、各種の脱法ドラッグが振る舞われた。」(40)
→日にちも時間帯はほぼ同じですが、太田コラムのオフ会は、第三のビールが一缶100円で提供されるというわけで、これに比べると実に健全そのものですねえ。(太田)
「ポールソンは以前よりも・・・健全な生活スタイルを送るようになり、一日を通して健康によい食べ物を少量口にするだけになった。・・・ポールソン・・・はこう言っていた。『長生きできれば、それだけ長く富を築くことができる』とね。」(84〜85)
→大学観といい、健康観といい、ポールソンの発想は転倒しており、重篤の拝金主義の病に罹っている、と言うべきでしょう。(太田)
ポールソン同様、世界金融危機を見越して大儲けしたアンドリュー・ラーデ<(注2)>は、2008年10月27日付けで顧客に宛てて下掲の公開書簡を送り、この世界からドロップアウトしました。
(注2)Andrew Lahde。1971年〜。ミシガン州立大卒、カリフォルニア大ビジネススクールMBA。2008年までカリフォルニアのヘッジファンドのマネジャー。
http://en.wikipedia.org/wiki/Andrew_Lahde
「・・・私はこれまでマネーゲームに携わってきました。世の中には大して頭がいいわけでもないのに、親が金持ちだというだけで甘い汁を吸っている人間がざらにいます。彼らは労せずして私立の中学校からエール大学やハーバード大学へ進学し、MBAを取得しています。
→ここは誤訳です。
エールにビジネススクール(Yale School of Management)ができたのは1976年にもなってからであり、
http://en.wikipedia.org/wiki/Yale_School_of_Management
1908年にできた世界最初の(MBAを授与する)ビジネススクールである、余りにも有名なハーヴァード・ビジネススクール
http://en.wikipedia.org/wiki/Business_school
と通常並列表記することなどありえないので、すぐおかしいことに気付きました。
(ついでに言えば、「私立の中学校」にも首をひねりました。
http://ejje.weblio.jp/content/preparatory+school )
案の定、原文は"low hanging fruit, i.e. idiots whose parents paid for prep school, Yale, and then the Harvard MBA, was there for the taking."(ウィキペディア上掲)であり、「彼らは労せずして私立の全寮制高校からエール大学を経てハーバード・ビジネススクールMBAを取得しています」とでも訳すべきでした。
こんな短いセンテンスだけでも2カ所・・数えようによっては3カ所・・も誤りがあるのですから、推して知るべしです。
皆さん、昨今の翻訳書はまともな知識を身に付けるために読む類のものではない、と達観した方がよさそうですよ。(太田)
そして、受けた(と思われる)教育に値するほどの価値もない(ことが多い)のに、AIGやベアー・スターンズ、リーマン・ブラザーズなどの企業の幹部に成り上がっています。あるいは政府機関のあらゆる役職に就いています。こうした人間は貴族社会の恩恵を受けているだけであり、実は私とは正反対の取引をするほど愚かなのです。・・・
私はドロップアウトさせていただきます・・・
この場を借りて、アメリカ政府の問題についてささやかな提案をしておきたいと思います。何よりも立法過程に明らかな欠陥があります。過去8年間にわたり、議会に同じような法案が繰り返し提出されていました。その法案が可決されていれば、現在破綻しかけている企業がかつて行っていた略奪的な貸し付け行為を抑制することができたでしょう。しかしこれらの企業は共和・民主両党に資金を提供し、その見返りに、一般市民の保護を目的とするこの法律を否決してもらっていたのです。トーマス・ジェファーソンとアダム・スミスが亡くなって以来、この国は尊敬すべき哲学者を輩出していません。
→原文が分かりませんが、ここも、間違いなく誤訳でしょう。
ラーデもそうですが、アダム・スミスが米国人だと思い込んでいるような修士取得以上の米国人は、さすがに一人もいないでしょうからね。
翻訳者の山田美明という人物がどんな教育を受けているのか、興味津々です。
(ラーデが、あの人種主義の権化のジェファーソンをここで持ち出していることには目くじらを立てないことにしましょう。)
この山田美明という翻訳者は、大活躍であり、彼が、英仏語にわたって、多彩で面白そうな本をたくさん手掛けている
http://www.amazon.co.jp/%E6%9C%AC/s?ie=UTF8&field-author=%E5%B1%B1%E7%94%B0%E7%BE%8E%E6%98%8E&page=1&rh=n%3A465392%2Cp_27%3A%E5%B1%B1%E7%94%B0%E7%BE%8E%E6%98%8E
ところを見ると、どうやら、日本の翻訳文化は劣化して久しいようです。
日本の出版社も、本離れの時代になってカネがなくなってきていて経営が苦しく、まともな翻訳者、監訳者を確保できなくなっているのでしょうね。
それにしても、これだけ翻訳能力のない山田が、臆面もなく4頁にも及ぶ長文の駄文的後書きを付けていることには、呆れるのを通り越して悲しくなりました。(太田)
少なくとも政治システムの改善に目を向ける哲学者はいません。資本主義は200年もの間機能してきましたが、時代は変わり、システムは腐敗してしまいました。・・・」(376〜379)
→資本主義の歴史は200年なんてものではない・・イギリスはもともと資本主義だった!・・ことについても、ラーデを批判しないことにしましょう。(太田)
3 終わりに
私だったら、ポールソンではなく、ラーデを事実上の主人公にしたノンフィクションに仕立て上げていたでしょう。
そうしておれば、読者にカタルシスを与える形でストーリーが完結するからです。
そうしなかったところを見ると、著者のリッカーマン自身が根っからの拝金主義者であって、ラーデよりもポールソンに親近感を覚えた、いうことなのでしょうね。
米国社会の現状、というか本質は度し難い、ということが再確認できた思いです。
(完)
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
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