太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/
太田述正コラム#6084(2013.3.14)
<映画評論37:ゼロ・ダーク・サーティ(その2)>(2013.6.29公開)
3 評論
(1)拷問
冒頭に、アリソンによる、この事件の総括コラムの紹介を持ってきたのは、彼が、この映画を、以下のように批判しているからでもあります。
「キャスリン・ビグロー監督の映画が主としてフィクションとして提供されたのであれば、それは技術的ないし劇的な出来によってもっぱら評価されるべきであるところ、<確かに>高い評価が与えられるだろう。
しかし、オサマ・ビンラディンについての、事実に立脚した「ジャーナリスティックな映画制作」を宣伝している以上は、真実に照らしてどうか、という更なる問から免れることはできない。・・・<すなわち、>
・「強化尋問(enhanced interrogation)」<(=拷問)>によって抽出された情報は、3,000人の米国人を2001年9月11日に殺害したテロの主犯を見つけ出す鍵となったのだろうか?
・一人の若き女性CIA工作員の粘り強いリスクをものともしない姿勢がなければ、「体制」(すなわち、対テロ専門家と対テロ手法(practices))は失敗した、というのか?
・ホワイトハウス、就中オバマ大統領は、要するに、ビンラディンを抹殺するために、容易で速やかな早期の行動をとるべきだったのに、それを遅延させたところの、いてもいなくても同じか、むしろ邪魔な存在だったのか?
私が話をした大部分の観衆が、この映画に基いてこれらの問に対して出した答えは、全てイエスだった。
しかし、実は、三つとも、答えはノーなのだ。
第一の問いである、「強化尋問」ないし拷問がビンラディンをつきとめるための鍵になる情報を提供したか、については、徹底的に議論されてきた。
その評決は、<私が下すとすれば、>この映画は拷問の広播性(pervasiveness)と効果性(effectiveness)について誇張している、というものだ。
第二の問いである、一人の女性CIA係員の気概(grit)なかりせば、CIAは失敗していたのか否かについては、数千人の諜報係員達・・文字通り数千人だ・・があらゆる種類のソースから情報を集め、小さな手がかりを求めてそれを分析し、点をつなぎ、導いた諸結論を次いで他の点をつないだ競合する分析群と突き合わせ、反対の諸結論に導く、という想像を絶する作業に10年間専念した、というのが真実なのだ。
これらの分析者達のうちの相当数が傑出した若い女性達であった<ことは確かだ>。
しかし、この映画がフィクションである<一人の>ヒロインを誇大に宣伝し、彼女が「体制」をものともせずに<その鼻を明かすことに>成功した、というのは根本的に<人を>誤解させるものだ。
第三に、この映画は、オバマ氏が本件の成功にとっての障害であったと描写しているが、実際には、彼は2009年にビンラディン探索を活発化させたところの決定的張本人(critical energizer)だったのだ。
また、彼こそが、米国が最も探し求めていたテロリストを殺害する襲撃方法を選択した決定者だったのだ。
仮定のことを語るのは評価が困難で議論の分かれるところではあるけれど。私の判断では、仮にジョージ・W・ブッシュが引き続き大統領であったならば、彼にとっての最後のCIA長官が証言したように、2009年2月には「迷宮入りしていた(gone cold)」ビンラディン探索が再び活発化することを期待できる理由はなかったのだ。
そして、これは疑問の余地がないのだが、仮に副大統領のジョー・バイデンや国防長官のロバート・ゲーツが大統領であったならば、それぞれが語ったように、この襲撃を命じることはなかったのだ。
フィクションではなく、現実に起こった事実を踏まえれば、市民達はこの劇的な出来事からいかなる教訓を引き出すべきだろうか?
第一に、オバマと彼の国家安全保障チームが示したのは、消息通のワシントン人士の認識とは違って、米国政府は秘密を守ることができるということだ。
この事例においては、政府は、この最大の秘密を事前に報道機関によって公にされることを完全に封じた。
<良く言われているところの、>ホワイトハウスは政治的得点の観点から5か月間も<襲撃を>躊躇し続けたという話とは裏腹に、オバマとCIAの指導者達は、あらゆる角度から証拠を検証し、より高度な選択肢を探求するために必要な時間をかけ、最終的に困難な結論を下したのだ。
大統領がその決定を下す数か月前に、この映画のヒロインは<邸内にビンラディンがいることについては>「100%の確信がある」と主張したけれど、<その昔、>CIA長官のジョージ・テネットは、イラクで大量破壊兵器を見つけるのは「お安い御用だ(slam mdunk)」と請け合う形で、同程度の確信をブッシュ大統領に伝えたものだ。
実際、テネット氏は、イラクの大量破壊兵器の存在についての証拠を、海軍のSEALsが2011年5月2日の夜に襲撃した時にビンラディンが邸内にいることについての証拠、よりもたくさん握っていたのだ。
第二に、この<襲撃という>任務は、オバマが、2009年の米国政府の最高司令官ではなく、2000年の米国政府の最高司令官であったならば、成功しなかっただろう。
この10年間で、諜報コミュニティと国防省が、諸テクノロジーを高度化させ、プロのテロリスト狩り人種を訓練したことによって、オバマは、彼より前の米国の大統領であれこの地球上の他の指導者であれ、誰も手にしていなかった諸選択肢を手にするに至っていたのだ。
最後に、流行のハリウッド流の言葉づかい(trope)とは反対に、ビンラディン狩りのキモ(dominant storyline)は、米国政府は機能した、ということを言いたい。・・・
・・・<すなわち、>このビンラディン作戦から得られた最も重要な調理済み持ち出し料理(takeaway)は、米国政府は見事に機能した(performed)、ということなのだ。
政府は、最高度に困難な使命を果たすことに成功しただけではない。
政府は、特異な異端者(maverick)ではなく、何千人もの無名のヒロイン達やヒーロー達のおかげで多数の機関にまたがった高い水準のパフォーマンスを達成することによってそれに成功したのだ。
このことに、全米国人は誇りを持ってしかるべきだ。」
http://www.csmonitor.com/layout/set/print/Commentary/Opinion/2013/0222/Zero-Dark-Thirty-has-the-facts-wrong-and-that-s-a-problem-not-just-for-the-Oscars
(2月24日アクセス)
(続く)
<映画評論37:ゼロ・ダーク・サーティ(その2)>(2013.6.29公開)
3 評論
(1)拷問
冒頭に、アリソンによる、この事件の総括コラムの紹介を持ってきたのは、彼が、この映画を、以下のように批判しているからでもあります。
「キャスリン・ビグロー監督の映画が主としてフィクションとして提供されたのであれば、それは技術的ないし劇的な出来によってもっぱら評価されるべきであるところ、<確かに>高い評価が与えられるだろう。
しかし、オサマ・ビンラディンについての、事実に立脚した「ジャーナリスティックな映画制作」を宣伝している以上は、真実に照らしてどうか、という更なる問から免れることはできない。・・・<すなわち、>
・「強化尋問(enhanced interrogation)」<(=拷問)>によって抽出された情報は、3,000人の米国人を2001年9月11日に殺害したテロの主犯を見つけ出す鍵となったのだろうか?
・一人の若き女性CIA工作員の粘り強いリスクをものともしない姿勢がなければ、「体制」(すなわち、対テロ専門家と対テロ手法(practices))は失敗した、というのか?
・ホワイトハウス、就中オバマ大統領は、要するに、ビンラディンを抹殺するために、容易で速やかな早期の行動をとるべきだったのに、それを遅延させたところの、いてもいなくても同じか、むしろ邪魔な存在だったのか?
私が話をした大部分の観衆が、この映画に基いてこれらの問に対して出した答えは、全てイエスだった。
しかし、実は、三つとも、答えはノーなのだ。
第一の問いである、「強化尋問」ないし拷問がビンラディンをつきとめるための鍵になる情報を提供したか、については、徹底的に議論されてきた。
その評決は、<私が下すとすれば、>この映画は拷問の広播性(pervasiveness)と効果性(effectiveness)について誇張している、というものだ。
第二の問いである、一人の女性CIA係員の気概(grit)なかりせば、CIAは失敗していたのか否かについては、数千人の諜報係員達・・文字通り数千人だ・・があらゆる種類のソースから情報を集め、小さな手がかりを求めてそれを分析し、点をつなぎ、導いた諸結論を次いで他の点をつないだ競合する分析群と突き合わせ、反対の諸結論に導く、という想像を絶する作業に10年間専念した、というのが真実なのだ。
これらの分析者達のうちの相当数が傑出した若い女性達であった<ことは確かだ>。
しかし、この映画がフィクションである<一人の>ヒロインを誇大に宣伝し、彼女が「体制」をものともせずに<その鼻を明かすことに>成功した、というのは根本的に<人を>誤解させるものだ。
第三に、この映画は、オバマ氏が本件の成功にとっての障害であったと描写しているが、実際には、彼は2009年にビンラディン探索を活発化させたところの決定的張本人(critical energizer)だったのだ。
また、彼こそが、米国が最も探し求めていたテロリストを殺害する襲撃方法を選択した決定者だったのだ。
仮定のことを語るのは評価が困難で議論の分かれるところではあるけれど。私の判断では、仮にジョージ・W・ブッシュが引き続き大統領であったならば、彼にとっての最後のCIA長官が証言したように、2009年2月には「迷宮入りしていた(gone cold)」ビンラディン探索が再び活発化することを期待できる理由はなかったのだ。
そして、これは疑問の余地がないのだが、仮に副大統領のジョー・バイデンや国防長官のロバート・ゲーツが大統領であったならば、それぞれが語ったように、この襲撃を命じることはなかったのだ。
フィクションではなく、現実に起こった事実を踏まえれば、市民達はこの劇的な出来事からいかなる教訓を引き出すべきだろうか?
第一に、オバマと彼の国家安全保障チームが示したのは、消息通のワシントン人士の認識とは違って、米国政府は秘密を守ることができるということだ。
この事例においては、政府は、この最大の秘密を事前に報道機関によって公にされることを完全に封じた。
<良く言われているところの、>ホワイトハウスは政治的得点の観点から5か月間も<襲撃を>躊躇し続けたという話とは裏腹に、オバマとCIAの指導者達は、あらゆる角度から証拠を検証し、より高度な選択肢を探求するために必要な時間をかけ、最終的に困難な結論を下したのだ。
大統領がその決定を下す数か月前に、この映画のヒロインは<邸内にビンラディンがいることについては>「100%の確信がある」と主張したけれど、<その昔、>CIA長官のジョージ・テネットは、イラクで大量破壊兵器を見つけるのは「お安い御用だ(slam mdunk)」と請け合う形で、同程度の確信をブッシュ大統領に伝えたものだ。
実際、テネット氏は、イラクの大量破壊兵器の存在についての証拠を、海軍のSEALsが2011年5月2日の夜に襲撃した時にビンラディンが邸内にいることについての証拠、よりもたくさん握っていたのだ。
第二に、この<襲撃という>任務は、オバマが、2009年の米国政府の最高司令官ではなく、2000年の米国政府の最高司令官であったならば、成功しなかっただろう。
この10年間で、諜報コミュニティと国防省が、諸テクノロジーを高度化させ、プロのテロリスト狩り人種を訓練したことによって、オバマは、彼より前の米国の大統領であれこの地球上の他の指導者であれ、誰も手にしていなかった諸選択肢を手にするに至っていたのだ。
最後に、流行のハリウッド流の言葉づかい(trope)とは反対に、ビンラディン狩りのキモ(dominant storyline)は、米国政府は機能した、ということを言いたい。・・・
・・・<すなわち、>このビンラディン作戦から得られた最も重要な調理済み持ち出し料理(takeaway)は、米国政府は見事に機能した(performed)、ということなのだ。
政府は、最高度に困難な使命を果たすことに成功しただけではない。
政府は、特異な異端者(maverick)ではなく、何千人もの無名のヒロイン達やヒーロー達のおかげで多数の機関にまたがった高い水準のパフォーマンスを達成することによってそれに成功したのだ。
このことに、全米国人は誇りを持ってしかるべきだ。」
http://www.csmonitor.com/layout/set/print/Commentary/Opinion/2013/0222/Zero-Dark-Thirty-has-the-facts-wrong-and-that-s-a-problem-not-just-for-the-Oscars
(2月24日アクセス)
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/