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太田述正コラム#6052(2013.2.26)
<フォーリン・アフェアーズ抄(その19)>(2013.6.13公開)
「アメリカの大戦略に派生するもう一つの厄介な問題は、友人たちがいわゆる安全保障のフリーライド(ただ乗り)をしていることだ。冷戦期のNATOと日米同盟を、ワシントンがその後も維持しようと試みた結果、・・・冷戦終結以降、イギリスを例外とするヨーロッパ諸国は国防予算を15%削減しているし、イギリスも、緊縮財政の必要性から、今後、他のヨーロッパ諸国に続くと考えられる。
・・・日本の防衛支出もこの10年にわたって、削減されるか、横ばいをたどっている。しかも、日本の指導者たちは、中国パワーの台頭、特に、中国の空軍力、ミサイル戦力、海軍力の増強に懸念を募らせているにもかかわらず、不可解にも地上部隊(陸上自衛隊)に多くの資金を注ぎ込んでいる。
ヨーロッパとアジアで大規模な戦争が起きていないのは事実だが、平和を維持するのに必要な重荷のますます多くをアメリカが引き受けざるを得なくなっている。アメリカはGDPの4.6%を軍事に投資しているが、ヨーロッパのNATO同盟諸国のそれはわずか1.6%、日本の防衛支出も1%だ。」(23〜24)
→ポーゼン(1952年〜)は、カリフォルニア大学バークレー校で修士号・博士号を取得し、ランドと米国防省での勤務経験もあります
http://en.wikipedia.org/wiki/Barry_Posen
が、北東アジアの政治軍事事情の知識に乏しいのではないでしょうか。
日本の自衛隊は、もともと、朝鮮戦争の時に急遽つくられた、警察予備隊・・朝鮮半島に出兵した米軍の予備部隊・・、つまりはいざという場合に朝鮮半島(大陸)に派遣される部隊・・ただし、日本側がサボって攻撃的機能や兵站機能が極端に弱体・・として出発させられており、現在の在日米軍がそうであるように、現在の自衛隊も日本防衛のための部隊ではありません。
陸上自衛隊の規模が大きいのは、大陸派遣時に中心となるのは地上部隊だからです。
このような兵力構成は、日本が集団的自衛権行使を解禁さえすれば、米軍が北東アジアに前方展開している間は、中東等に派遣されれば効果的に役割を果たすことができますし、米軍が北東アジアから撤退する運びとなり、しかもその時点において韓国の兵力が不十分なままであれば、(中東等に派遣される場合に加えて、)いざという時に朝鮮半島に派遣されればやはり効果的に役割を果たすことができることでしょう。
いずれにせよ、欧州諸国と日本が米国に安全保障のただ乗りをしているのは、冷戦が終わってからも、米国が、欧州諸国や日本と調整することなく、勝手に、国防費を余り減らさなかっただけでなく、対テロ戦争が始まってからはどんどん増やしてきたこと、の論理的帰結に他なりません。(太田)
一方、アメリカの安全保障の傘のなかにいる同盟国のなかには、「最終的にアメリカが助けてくれる」と信じて、よりパワフルな国に挑戦する無謀な友人もいる。これはモラルハザードの典型であ<る。>・・・
この構図で<アメリカが>不必要な戦争に引きずり込まれた例はこれまでのところ存在しないが、その瀬戸際に追い込まれたケースはある。陳水扁が台湾の総統だった2000〜2008年に、アメリカは(中国との)紛争の瀬戸際に追い込まれている。台湾の独立を示唆する発言を繰り返して中国政府を不必要に挑発した陳水扁の行動<がその一つだ。>・・・
グルジアもこのゲームルールを利用して、アメリカを厄介な状況に追い込んだ。・・・<この結果起こった、2008年の>ロシア・グルジア戦争
<(南オセチア紛争) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E3%82%AA%E3%82%BB%E3%83%81%E3%82%A2%E7%B4%9B%E4%BA%89_(2008%E5%B9%B4) >
は、皮肉にもロシアの毅然さを際だたせ、(紛争に介入しなかった)アメリカの信頼性を損なう結果に終わった。」(24〜25)
→ここも、ローゼンが北東アジア政治軍事事情に疎いことを示しているように思われる箇所です。
台湾海峡の場合、米国が海空兵力を台湾周辺に派遣すれば、自分の海空兵力など鎧袖一触であることを知っている中共が、実際にことを起こす可能性は、(現在もそうですが、)当時ゼロだったと言ってよいでしょうし、ロシア・グルジア戦争に米国が介入しなかったのは、ロシアがグルジアの接壌国であることから、地上部隊中心の派遣となり、圧倒的に地の利のあるロシア軍に補給面等で極めて不利な立場に立たされることが予想されたからでしょう。
中台関係について付言すれば、最も緊張が高まったのは、李登輝政権の時であり、中共は、「1996年3月に予定されていた中華民国総統の初の直接選挙の直前にも大規模な軍事演習計画を発表し、中台間の緊張が極度に高まった。しかし<米国>が空母2隻を中心とする機動部隊を台湾海峡に派遣したため、中国軍は演習規模の大幅な縮小を余儀なくされ、李登輝が対中感情の悪化した台湾世論の圧倒的支持で当選した」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%A1%E5%B2%B8%E9%96%A2%E4%BF%82%E5%8F%B2
ことは記憶しているむきも多いと思います。
また、陳水扁は「陳水扁総統は<2000>年5月の就任演説で、在任中に台湾独立宣言しないなどの穏健的現実路線を表明(五つのノー)。2001年、2002年の新年談話でも将来的な「政治統合」にも言及し、中国当局に対話を呼び掛けた」(同上)くらいであって、「よりパワフルな国に挑戦する無謀な」ことなどしておらず、中共側が一方的に民進党の陳水扁をいじめた、というのが実態に近いと言うべきでしょう。(太田)
「ユーラシアでの覇権が確立されるのを阻止するために、アメリカはドイツや日本と第二次世界大戦を戦い、戦後も、対ソ封じ込め策をとった。いずれ中国がユーラシアの覇権を確立しようと試みる可能性はあるが、それが必然なわけでも、その時期が差し迫っているわけでもない。」
→このくだりの前段については、ローゼンを含むところの、米国の知識人全般の偏見が現われていますが、日本は赤露によるユーラシアでの覇権の確立を阻止するために大陸進出をしたというのに、米国は、その日本の足をすくい、結果として赤露によるユーラシアでの覇権を確立させ、冷戦時代を自ら招来したのですから、日本に関しては完全に誤りです。
後段については、またまた、ローゼンの、北東アジア政治軍事事情についての疎さが露呈しており、中共が、南シナ海や東シナ海で覇権を確立しようという試みを実践中である、ということを忘れたかのような彼の筆致には呆れます。(太田)
(続く)
<フォーリン・アフェアーズ抄(その19)>(2013.6.13公開)
「アメリカの大戦略に派生するもう一つの厄介な問題は、友人たちがいわゆる安全保障のフリーライド(ただ乗り)をしていることだ。冷戦期のNATOと日米同盟を、ワシントンがその後も維持しようと試みた結果、・・・冷戦終結以降、イギリスを例外とするヨーロッパ諸国は国防予算を15%削減しているし、イギリスも、緊縮財政の必要性から、今後、他のヨーロッパ諸国に続くと考えられる。
・・・日本の防衛支出もこの10年にわたって、削減されるか、横ばいをたどっている。しかも、日本の指導者たちは、中国パワーの台頭、特に、中国の空軍力、ミサイル戦力、海軍力の増強に懸念を募らせているにもかかわらず、不可解にも地上部隊(陸上自衛隊)に多くの資金を注ぎ込んでいる。
ヨーロッパとアジアで大規模な戦争が起きていないのは事実だが、平和を維持するのに必要な重荷のますます多くをアメリカが引き受けざるを得なくなっている。アメリカはGDPの4.6%を軍事に投資しているが、ヨーロッパのNATO同盟諸国のそれはわずか1.6%、日本の防衛支出も1%だ。」(23〜24)
→ポーゼン(1952年〜)は、カリフォルニア大学バークレー校で修士号・博士号を取得し、ランドと米国防省での勤務経験もあります
http://en.wikipedia.org/wiki/Barry_Posen
が、北東アジアの政治軍事事情の知識に乏しいのではないでしょうか。
日本の自衛隊は、もともと、朝鮮戦争の時に急遽つくられた、警察予備隊・・朝鮮半島に出兵した米軍の予備部隊・・、つまりはいざという場合に朝鮮半島(大陸)に派遣される部隊・・ただし、日本側がサボって攻撃的機能や兵站機能が極端に弱体・・として出発させられており、現在の在日米軍がそうであるように、現在の自衛隊も日本防衛のための部隊ではありません。
陸上自衛隊の規模が大きいのは、大陸派遣時に中心となるのは地上部隊だからです。
このような兵力構成は、日本が集団的自衛権行使を解禁さえすれば、米軍が北東アジアに前方展開している間は、中東等に派遣されれば効果的に役割を果たすことができますし、米軍が北東アジアから撤退する運びとなり、しかもその時点において韓国の兵力が不十分なままであれば、(中東等に派遣される場合に加えて、)いざという時に朝鮮半島に派遣されればやはり効果的に役割を果たすことができることでしょう。
いずれにせよ、欧州諸国と日本が米国に安全保障のただ乗りをしているのは、冷戦が終わってからも、米国が、欧州諸国や日本と調整することなく、勝手に、国防費を余り減らさなかっただけでなく、対テロ戦争が始まってからはどんどん増やしてきたこと、の論理的帰結に他なりません。(太田)
一方、アメリカの安全保障の傘のなかにいる同盟国のなかには、「最終的にアメリカが助けてくれる」と信じて、よりパワフルな国に挑戦する無謀な友人もいる。これはモラルハザードの典型であ<る。>・・・
この構図で<アメリカが>不必要な戦争に引きずり込まれた例はこれまでのところ存在しないが、その瀬戸際に追い込まれたケースはある。陳水扁が台湾の総統だった2000〜2008年に、アメリカは(中国との)紛争の瀬戸際に追い込まれている。台湾の独立を示唆する発言を繰り返して中国政府を不必要に挑発した陳水扁の行動<がその一つだ。>・・・
グルジアもこのゲームルールを利用して、アメリカを厄介な状況に追い込んだ。・・・<この結果起こった、2008年の>ロシア・グルジア戦争
<(南オセチア紛争) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E3%82%AA%E3%82%BB%E3%83%81%E3%82%A2%E7%B4%9B%E4%BA%89_(2008%E5%B9%B4) >
は、皮肉にもロシアの毅然さを際だたせ、(紛争に介入しなかった)アメリカの信頼性を損なう結果に終わった。」(24〜25)
→ここも、ローゼンが北東アジア政治軍事事情に疎いことを示しているように思われる箇所です。
台湾海峡の場合、米国が海空兵力を台湾周辺に派遣すれば、自分の海空兵力など鎧袖一触であることを知っている中共が、実際にことを起こす可能性は、(現在もそうですが、)当時ゼロだったと言ってよいでしょうし、ロシア・グルジア戦争に米国が介入しなかったのは、ロシアがグルジアの接壌国であることから、地上部隊中心の派遣となり、圧倒的に地の利のあるロシア軍に補給面等で極めて不利な立場に立たされることが予想されたからでしょう。
中台関係について付言すれば、最も緊張が高まったのは、李登輝政権の時であり、中共は、「1996年3月に予定されていた中華民国総統の初の直接選挙の直前にも大規模な軍事演習計画を発表し、中台間の緊張が極度に高まった。しかし<米国>が空母2隻を中心とする機動部隊を台湾海峡に派遣したため、中国軍は演習規模の大幅な縮小を余儀なくされ、李登輝が対中感情の悪化した台湾世論の圧倒的支持で当選した」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%A1%E5%B2%B8%E9%96%A2%E4%BF%82%E5%8F%B2
ことは記憶しているむきも多いと思います。
また、陳水扁は「陳水扁総統は<2000>年5月の就任演説で、在任中に台湾独立宣言しないなどの穏健的現実路線を表明(五つのノー)。2001年、2002年の新年談話でも将来的な「政治統合」にも言及し、中国当局に対話を呼び掛けた」(同上)くらいであって、「よりパワフルな国に挑戦する無謀な」ことなどしておらず、中共側が一方的に民進党の陳水扁をいじめた、というのが実態に近いと言うべきでしょう。(太田)
「ユーラシアでの覇権が確立されるのを阻止するために、アメリカはドイツや日本と第二次世界大戦を戦い、戦後も、対ソ封じ込め策をとった。いずれ中国がユーラシアの覇権を確立しようと試みる可能性はあるが、それが必然なわけでも、その時期が差し迫っているわけでもない。」
→このくだりの前段については、ローゼンを含むところの、米国の知識人全般の偏見が現われていますが、日本は赤露によるユーラシアでの覇権の確立を阻止するために大陸進出をしたというのに、米国は、その日本の足をすくい、結果として赤露によるユーラシアでの覇権を確立させ、冷戦時代を自ら招来したのですから、日本に関しては完全に誤りです。
後段については、またまた、ローゼンの、北東アジア政治軍事事情についての疎さが露呈しており、中共が、南シナ海や東シナ海で覇権を確立しようという試みを実践中である、ということを忘れたかのような彼の筆致には呆れます。(太田)
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
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