太田述正コラム#5758(2012.10.2)
<世界の顰蹙を買っている中共>(2013.1.17公開)

1 始めに

 本日のディスカッション(コラム#5757)でご紹介したとおりであり、
http://online.wsj.com/article/SB10000872396390444138104578029660439605002.html
を取り上げます。

2 世界の顰蹙を買っている中共

 「・・・数年前のことだが・・・中共による先進国の高価値輸出品の購入が、ダライラマの<これら諸国への>公式訪問の後の2年間、12.5%も減ったことがある。
 北京当局は、米国と欧州諸国が台湾に武器を売った時に多数の大口契約の解約を吹聴したこともある。・・・
 非政府機関であるノーベル委員会が、2010年の平和賞を反体制派の劉曉波(Liu Xiaobo)に与えた時、ノルウェー製の鮭に新たな検査が求められることとなり、その結果、昨年には輸入が60%も減った。
 係争地であるスカボロー礁(Scarborough Shoal)<(注1)>を巡って今年少し前に生じた海上での対峙<(注2)>の後、フィリピン産のバナナが同じ扱いを受けた。

 (注1)Scarborough Reefとも呼ばれる。「フィリピン共和国のルソン島西方沖にある島。・・・18世紀にこの地点で難破した茶貿易船「Scarborough号」にちなんだ名前である。フィリピンと中華民国(台湾)と中華人民共和国が領有権を主張している。南シナ海の中沙諸島中で唯一海面から露出している島で、北緯15度7分、東経117度51分、フィリピンのスービックから100海里。・・・フィリピン名<は>Bajo de Masinloc[1]、Kulumpol ng Panatag、Karburo<、>・・・1947年末、中華民国<は>・・・「民主礁」と呼ん<だ。また、>・・・1983年、中華人民共和国<は>・・・「黄岩島」を標準名称とした。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%9C%E3%83%AD%E3%83%BC%E7%A4%81
 (この礁(ShoalないしReef)のイメージを掴むには、写真を見るのが手っ取り早い。↓
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Scarborough_Shoal_Landsat.jpg
http://www.ellentordesillas.com/wp-content/uploads/2012/06/Panatag-shoal.jpg )
 このように、三つ巴になっているところは尖閣と似ているが、違うのは、「1998年1月から、中華人民共和国海南省の4艘の漁船が2ヶ月の間に領海侵犯しフィリピン海軍に拿捕され、51名の漁民がフィリピンに半年間拘禁される。・・・2000年、フィリピン海軍が領海侵犯した中華人民共和国の漁船船長を射殺した。2012年4月8日、フィリピン海軍<は>スカボロー礁近くに中華人民共和国の漁船8隻が停泊しているのを発見し拿捕した・・・。」(同上)という具合に、実効支配(effective exercise of jurisdiction)しているフィリピンが、尖閣における日本よりも強く中共にあたっていることだ。(ちなみに、英語ウィキペディアは、これらのことに全く触れていない。)
 (注2)直ぐ上で引用した拿捕「を受け、中華人民共和国の監視船が現場に急行、フィリピン海軍の進行を阻止し、睨み合う状況とな」ったもの。(同上)

 あらゆる国がある程度は「経済的強制」手段・・外交的諸目的を達成するための人参と棍棒の提供・・を用いる。
 しかし、これらの国は、通常、条約上の種々の約束を違えることはしないし、違えた場合はその反響が長く残る。
 中共のふるまいが不穏なのは、それが気まぐれに、しばしば公衆の怒りの爆発と結びついた形で行われることだ。
 これは、中共で投資をしている外国の企業が、他の大部分の国では見出すことができないところの、政治的リスクを勘案しなければならない、ということを意味する。
 これまでのところ、これらの秘密裡の諸制裁は、おおむね象徴的にして短期間のものだった。
 しかし、これらは不信を生む。
 なぜなら、これらは、北京政府が国際貿易システムの諸ルールを順守しなければならないと思っていないことを示唆しているからだ。
 そして、北京政府が、政治的理由で交易(shipments)を阻止していることを認めない以上、貿易相手国が世界貿易機構(WTO)を通じて救済を求めることを困難にしている。
 これは、WTOシステムを掘り崩すものだ。
 どうして北京政府はこんな風にふるまうのだろうか。
 手がかりは、その貿易諸制裁がそれが自分の市民達の間の反体制派を処罰する方法そっくりだという事実から得られる。
 学者のペリー・リンク(Perry Link)は、当局が、どのように、中国共産党が批判の許容限度について明確なルールを示すのを拒否しているかを描写するために、「シャンデリアにいるアナコンダ」という句を作り出した。
 時折、あたかも、蛇が、晩餐会の客人を一飲みにするために落ちてくるように、この政府は、違背者を、その者が最も声高に言挙げした訳では必ずしもない場合ですら厳しく処罰する。
 その結果、全国的な政治的議論は、言論について明示的な諸限界が存在する場合に比して、より一層制約されてしまうのだ。
 埒外になるのはどこからかが分からないと、安全であり続ける唯一の方法は自己検閲することだ。
 台湾を支援することが今や世界の諸政府において過ちとみなされるに至っていることからすれば、同じような<自己検閲>が国際的に起こっているように見える。
 その理由の大宗は、中共で投資をしている外国諸企業が自分達の政府に対して北京政府のための陳情活動を行っているからだ。
 このような<北京政府による>いじめはコストを伴う。
 アジアでパックス・アメリカーナが人気があるのは、それが共通の利益のためのルールに基盤を置くシステムを創造したからだ。
 中共が、(それによって<自分が>同時に裨益しながら、)このシステムを掘り崩そうとするのを見るにつけ、隣国達は、均衡をとるために米国との関係を密にしようとしている。
 北京政府が貿易を武器として使っていることは、WTOに加盟することで制約を受けるどころか、中共はそのただ乗りをしている、ということの証拠だ。
 そして、それは、民主主義諸国が、より信頼に足るパートナーであることの証拠だ。
 政府が自分の市民達を扱う方法は、その政府がその隣国達をどのように扱うかの良い指標なのだ。」

3 終わりに

 支那の歴代王朝の支配者達は、法家の思想のみを(ホンネの)イデオロギーとした始皇帝と毛沢東を除き、法家の思想をホンネのイデオロギー、そして、儒教をタテマエ上のイデオロギー、としてきた、と以前、「中共と毛沢東主義」シリーズ(コラム#5626、5628、5630、5632、5634、5654、5656)で申し上げたことがあります。
 その全てに共通しているのは、法家の思想の重要な柱であるところの、法治主義が実践されることはなかったという点です。
 すなわち、法(ルール)は、支配者達の自利を達成するための手段に過ぎないものとされ、自分達自身がそれに縛られることはなかったのです。
 簡単に言えば、被支配者は、法に違背すれば当然罰せられるけれど、法に違背しなくても罰せられる場合がある、という状態が続いてきたのです。

 (参考までに付言すれば、法の支配とは、法でもって改正することができないところの、手続き的正義や人権に係る事項がある、という考え方であり、形式的な手続きを踏むことで、支配者達が、恣に、いかなる法改正・法制定をもできるとする法治主義とは異なります。言うまでもなく、法の支配はアングロサクソン文明に特有なものであり、それがイデオロギーとして普遍化して現在に至っているわけですが、法治主義は、それ以外の文明で、少なくともイデオロギー的には広範にみられたところです。(典拠省略))

 このような支那は、19世紀後半から成立した全球的な国際社会の中では問題児であり続けました。
 「押し付けられた」不平等条約に不満だとして、条約の規定を平気で破り、それならと平等条約にしてやれば、今度はその条約も蔑にして自利を押し通そうとする。
 それに対して、法治主義を信奉する大国が早い段階で協力して支那を嗜めるべきだった・・そもそも、当時の支那は弱体だった・・のに、足の引っ張り合いをやってしまったわけです。
 今では支那は、往時に比べて相対的にはるかに強力になっているけれど、国際的ルールを平気で破り、自利を追求する、という点では全く変わっていません。
 そのことが、改めて今回の尖閣問題を通じて再確認されたわけです。
 まだ間に合うので、今こそ、法治主義を信奉する全ての諸国が協力して支那を嗜める体制を可及的速やかに構築する必要がある、と私は考えます。