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太田述正コラム#5084(2011.10.30)
<中野雅至『天下りの研究』を読む(その9)>(2012.2.15公開)

<脚注:戦前の天下り批判の事例>

 「<戦前における>天降り規制の嚆矢ともなった日本発送電株式会社法をめぐる議論の中では、官業と民間企業の比較あるいは官業経営の非効率性などが議会で取り上げられる中で、天降り規制についての議論が起こり、政友会と民政党の共同修正という形で天降り規制の条文が議会で挿入されている。ちなみに、同様の議論はその後の特殊会社をめぐる議論でも当然のことながら起きている。・・・
 <例えば、>昭和14年3月8日・・・国際電気通信株式会社法の改正をめぐる議論の中で、小林絹治衆議院議員が「私の申すのは事務官或いは法学士或いは局長を辞めた人であるとかいうような人達が、そういう会社が出来ると直ぐに重役になるとか、専務になるとかいうように入っていかれる、これは大変私は苦々しく思っているのです…世間はこれに対して色々天降り人事とかなんとか言って面白く思っておらぬ、しかも従来官界から入った人たちの成績がどこもかもよろしかったら世間も、それは非難は致しませぬ、けれども従来どうもよろしくない、そういう会社を作ることにつきましても、何時か同種の会社が出来て、法律案が通る時に、貴衆両院とも希望を何かつけたと思ひますが、ああいうことについて何かお考えがありませうか、それをお伺いします」と政府に問いただしている。・・・
 <繰り返すが、>昭和13年の時点ですでにマスコミや国会において、各省から今日の特殊法人・認可法人・独立行政法人に当たる特殊会社への天下りが問題視される中で、国会において天下り規制が導入されているのである。
 戦後の国家公務員法においては、天下りは私企業からの隔離という観点からとらえられ、人事院の慈善昇任による規制が行われてきたが、その一方で、特殊法人や認可法人・独立行政法人といった非営利法人への再就職について特別の規制が存在しなかった。それと比べると、むしろ、対照的な様相を呈している。」(447、491頁)
 
→日本発送電や国際電気通信などといった、国策上設立された特殊会社については、それらの会社の性格上、民間出身者だけで幹部や管理職を構成するわけにはいかず、高級官僚を含め、官僚を出向ないし再就職の形でかなりの数を送り込むことは必要不可欠であったと言えるでしょう。
 従ってこれは天下りには該当しないのであり、国会における議論はためにするものであったと言えそうです。
 恐らくは、「規制」後においても、「規制」前同様、官僚は、かなりの数、送り込まれ続けたものと推察されます。(太田) 
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 「どうして天下りをコントロールすることは難しいのだろうか。・・・まず、・・・安倍内閣<は>・・・各省斡旋を禁止したが、・・・OB同士でポストを融通しあうようなことをすればどうなるだろうか。・・・
 第二に、再就職や転職は職業選択の自由と関連した問題であるため、・・・離職後2年間の関連営利法人への再就職禁止措置を超えたものが許されるとは考えにくい。・・・
 第三に、・・・特殊法人や独立行政法人に対して、職員を募集する時には必ず公募にしなければいけないこと、あるいは、もっと極端な措置として「公務員出身者は採用してはいけないこと」などを強制できるだろうか。」(509〜510頁)

→第一については、「官僚OBが出身省庁の仲間同士で、独法や公益法人のポストを融通し合うケース」があることが、例えば、2010年4月23日付の新聞記事に出てくる
http://blog.goo.ne.jp/teramachi-t/e/c8845d7881ffde8654484351a9f2c51d
ところ、中野が本書を上梓した時点(2009年9月)までに知るに至っていなかったとすれば、調査不足の誹りは免れないでしょう。
 第二については、「2007年6月に成立した改正国家公務員法で、退職後2年間は原則として職務に関わる営利企業に再就職することを禁じた<それまで>の規制を廃止する代わりに、再就職後に出身省庁に対して口利きをすることに対し刑事罰を設けた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E4%B8%8B%E3%82%8A
ことに、言及して欲しかったところです。
 第三については、鳩山内閣が、2009年11月30日、独立行政法人・特殊法人の役員公募を初めて実施し、28法人50ポストに2386人(うち公務員OBは122人)が応募しています。
http://blog.goo.ne.jp/yamame1235/e/e961f8c3d88ae4d1ada1a0b650270a9b
 従って、第三の前段については、実現したわけであり、この点では中野の見通しの甘さ、というか、あえて厳しく言えば、中野の天下りに対する姿勢の寛大さが問われることになりそうです。
 もっとも、独立行政法人や特殊法人の整理が続くという前提の下、これら法人の性格に鑑み、立ち上がりはともかく、中長期的には、公募制の下でも、公務員OBがその役員の過半を占めることになったとしても、私は驚きません。(太田)

(続く)

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