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太田述正コラム#4898(2011.7.29)
<終末論・太平天国・白蓮教(その1)>(2011.10.19公開)

1 始めに

 支那の歴史における自由民主主義的要素をめぐる議論はこれまで、何度か行ってきたところですが、リチャード・ランデス(Richard Landes)の本、『地上の天国(Heaven on Earth)] の書評がウォールストリートジャーナルに載っていて、欧州の終末論の話の中に、太平天国の話も出てきた時、そういえば、支那の歴史における共産主義(スターリン主義)的要素を論じたことがないことに気付きました。
 そして、私が、支那の歴史には自由民主主義的要素がないわけではないと一方で指摘しながら、支那の歴史におけるスターリン主義的要素について論じるのを怠ってきたことを反省したわけです。
 以下、申し上げるのは、私の仮説です。
 もっとも、既にこの種の指摘がなされているとしても不思議ではありません。
 もしご存じなら、ご教示ください。

 なお、ランデスは、米ボストン大学の歴史学准教授であり、千年王国問題の専門家です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Landes

2 ランデスの主張
 
 終末論については、かつてかなり詳しくとりあげたことがあったかと思いますが、復習も兼ね、ランデスの主張をまずご紹介しましょう。

 「・・・<ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の>三つの一神教の宗教においては、終末論的啓示(apocalyptic revelation)はまことにお馴染みだ。・・・
 <しかし、>終末論的逆上(frenzy)は宗教分野にとどまらない。
 常識的理解が可能と見える世俗的世界においても<終末論は>その底に横たわっているのだ。・・・
 20世紀の最も血腥い何十年かにおいて、世界の広範な地域がマルクス主義ないしナチの千年王国主義(millennialism)に一身を捧げた人々によって統治された。・・・
 ランデス氏が「部族的(tribal)千年王国主義」と呼ぶものが、彼の主張によれば、アフリカのコサ(Xhosa)族<(注1)>の事例において観察できる。

 (注1)白人がやってきた当時に、(現在の)南アフリカの南西部に居住していた、バンツー系の言語を用いる部族。現在南アフリカに約800万人が住む。ネルソン・マンデラ、タボ・ムベキ(マンデラの次の南ア大統領)、デスモンド・ツツ(英国教会ケープタウン大司教でノーベル平和賞受賞者)がコサ族だ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Xhosa_people

 この部族は、1856年に、若い預言者的少女によって、彼らの先祖達が彼らを白人から救い自分達の畜牛と穀物を過去の偉大な時代の水準へと回復してくれると説得された。
 この幸せな結果をもたらすためには、コサ族は、単に、魔法(witchcraft)を擲ち、畜牛を殺し、穀物を植えるのを止めればよかった。
 その予言が次々にはずれたことについては、コサが計画の全体をきちんと実行することに失敗したことに帰せしめられた。<(注2)>

 (注2)コサ族約40,000人が餓死し、その畜牛約400,000頭が殺された。ことのきっかけは、恐らくは白人が持ち込んだ疫病による、畜牛の大量死だった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Cattle-killing_movement#Xhosa_cattle-killing_movement_and_famine

 また、ランデス氏が「農業的(agrarian)千年王国主義」と定義づけるものは、19世紀央の太平天国の乱<(1850〜64年。後述)>によって例示される。
 預言者の洪秀全(Hong Xiuquan。1814〜64年。後述)は、自分自身をイエスの弟と解釈した。
 この千年王国的冒険と清帝国のそれへの対応が終わってみると、推定で2,000万人の支那人が殺されていた。
 終末論的思考が常にこういった恐ろしい(grim)勘定書を必然的に伴うわけではないとランデス氏は明言するが、それは歴史においてしばしば起こることであって(it does come freighted with history)、多くの人々が認めようとするよりもはるかに深刻な考慮に値する。・・・」
http://online.wsj.com/article/SB10001424052702303812104576440703134161980.html?mod=WSJ_Opinion_LEFTTopOpinion
(7月28日アクセス。以下同じ)

(続く)

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