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太田述正コラム#4896(2011.7.28)
<軽度の精神障害のメリット(その3)>(2011.10.18公開)
(6)総括
「・・・<著者>は、狂気が天才の近しい親戚であると主張した最初の人ではない。
いや、この観念を政治に適用した最初の人ですらない。
しかし、彼はこれまでの人よりも更に遠くまで行き、フランクリン・D・ローズベルト、ウィンストン・チャーチル、ジョン・F・ケネディとともに、ビジネス界の指導者達(CNN創立者のテッド・ターナー)、社会活動家(マーティン・ルーサー・キング、マハトマ・ガンディー)、そして軍事指導者(<米南北戦争の時の>北軍の将軍、ウィリアム・テクムシー・シャーマン)において<精神>病を見出す。
彼の説明は、最新の精神病研究を、巧みに(elegant)、余りにも直感的に正確に、バンクショット(bank off)<(注6)>したものだ。
(注6)「バスケットゴールの下、または側面から片手で行うバスケットボールのショット(そして、通常はバックボードにバンクショットされる)」
http://ejje.weblio.jp/content/banked+off
(<著者>が<鬱であった>エイブラハム・リンカーンと軽度に双極であったチャーチルにおいて見出すところの)鬱は、そのすべての形態において、人をより鮮明な眼力を与えたり、この世界の諸問題を理解したりするのに資すのであって、あたかも真昼の悪魔のように、それら諸問題と対決(face down)することを可能ならしめる。
(<著者>がローズベルトとケネディにおいて探し出すところの)躁は、そのすべての形態において、失敗から学ぶことを助け、しばしば十分な創造性をもって新しい出発を行うための、回復力をもたらす。
最も独創的にも、<著者>は、幸福で健康な状態(well-being)の危難(peril)を意味するところの、「正気の逆説法則(the inverse law of sanity)」という文句を造り出す。
それが、あの可哀そうな(poor)正気のネヴィル・チェンバレンがナチの指導者達とつるんだ(chum around with)のに対し、チャーチルの「亡霊(=黒犬獣=black dog)」<(注7)>が戦いを予見できた理由なのだ。
(注7)チャーチル自らが自分の鬱をそう名付けた。このウィキペディア↓に何と3回も登場する。
http://en.wikipedia.org/wiki/Winston_Churchill
<著者>の見解では、我々の、気違いと目された指導者達でさえ、その時代においては正気過ぎて、国はそのために苦しんだのだ。
リチャード・ニクソンがウォーターゲート危機に直面した時、彼はそれを平均的存在[尋常な人間]が取り扱うように取り扱った。
すなわち、「彼は嘘をつき、塹壕に閉じこもり、そして戦った」のだ。
同様、ジョージ・W・ブッシュは「中道を行くというのが彼の人格的特徴」だったので、彼は9.11の攻撃に対して単純過ぎるところの、全く動揺することなくして、そして何よりも「尋常な(normal)」る対応を行ったわけだ。・・・
・・・卓越は、不健康(unwell)から明確に発し、凡庸(mediocrity)は健康から来るということだ。・・・」
(以上、特に断っていない限り、Aによる。)
「・・・例えば、現実主義(realizm)についてだが、あらゆる研究が、鬱に苦しんでいる人々は、「尋常な(normal)」人々よりもその時の脅威の評価と将来どうなるかの予測において優れているとしている。
他の誰よりもリンカーンとチャーチルを眺め、<著者>は、どれだけ鬱現実主義がこの二人の男が個人的かつ国家的諸挑戦に取り組むことを助けたかを示す。
また、創造性についてだが、しっかりした心理学者達が、双極性障害との関係を詳細に研究してきた。
<この本>は、どれほど、躁がシャーマン将軍とテッド・ターナーを鼓吹して彼らの極めて創造的にして成功を収めた諸戦略を企画し遂行せしめたかを示す。・・・
<著者>は、気分障害の周期的な苦痛なかりせば、悲惨な(dire)諸難局(straits)を耐え忍ぶ手段がない状態に人を置きかねない、と説明する。・・・
・・・彼は、精神疾患を純粋に否定的な現象と見ることを再考するよう促すのだ。・・・」(C)
「「危機の時においては、我々は精神的に尋常な指導者達より病んでいる指導者達に率いられた方がうまくいく(better off)」という命題については、あくまでもしばしばそうであるということ<なので注意すべき>だ。・・・
しばしば、精神異常者的主流逸脱者(lunatic fringe)においてまことに結構なものを発見することがある」とフランクリン・デラノ・ローズベルトは語ったことがある。
通常見出されるのはセックスだ。
米国で最も気になる(fizzy・・この訳には自信がない(太田)・・)大統領であるローズベルトは、小児麻痺をものともせず女誑しに勤しんだ。
<著者>は、彼を感情高揚性気質(hyperthymia)・・恒常的弱躁状況・・であると診断する。
ジョン・F・ケネディも同じ診断を下されるが、<彼が、>ホワイトハウスのプールで「ささいなばかなこと(fiddle-faddle)」をして、<女性達と>ふざけて跳ね回っているのを見かけるのが通常のことだった。
テッド・ターナーも感情高揚性気質だった。
テッド・ターナーは、あらゆるところで女性と寝た。
マハトマ・ガンディーやマーティン・ルーサー・キングもそうした。
双極性のウィンストン・チャーチルは、「我々はみんな蠕虫(worm)だが、私は自分はツチボタル(glowworm)だと信じている」と言った。
ツチボタルは、兎のように発情する。・・・」(B)
3 終わりに
リンカーンのウィキペディアにこそ、リンカーンが鬱病であった可能性がある、という記述が出てきます
http://en.wikipedia.org/wiki/Abraham_Lincoln
が、ローズベルトのウィキペディアには双極性障害の話は出てきませんし、
http://en.wikipedia.org/wiki/Franklin_D._Roosevelt#Personal_life
ケネディのウィキペディアには、彼の非精神病たる持病の治療薬が、彼の性欲を昂進させた可能性がある、と記されているだけです。
http://en.wikipedia.org/wiki/John_F._Kennedy
また、ヒットラーのウィキペディアには、彼がアンフェタミン中毒であったと出てくるだけです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Adolf_Hitler#Other_complaints
結局、確実に精神病患者であったのは、著者のあげた政治家の中では、チャーチルだけです。(チャーチルの英語ウィキペディア前掲参照。ただし、そこでは、鬱病であったとはされているが、彼が双極性障害者であったという記述は出てこない。)
この本の著者は、英米における通説に従い、とりわけ先の大戦におけるチャーチルは偉大な政治家であったということを信じ込んでいるわけですが、著者の「理論」が正しいとすれば、チャーチルは、かなり重篤な鬱病患者であったからこそ、先の大戦の時に致命的な判断ミスを重ね、大英帝国を瓦解させた上、東欧と東アジアをスターリン主義に席巻させた、という形で、私のかねてからの指摘が裏付けられることになります。
めでたしめでたし、と申し上げておきましょう。
(完)
<軽度の精神障害のメリット(その3)>(2011.10.18公開)
(6)総括
「・・・<著者>は、狂気が天才の近しい親戚であると主張した最初の人ではない。
いや、この観念を政治に適用した最初の人ですらない。
しかし、彼はこれまでの人よりも更に遠くまで行き、フランクリン・D・ローズベルト、ウィンストン・チャーチル、ジョン・F・ケネディとともに、ビジネス界の指導者達(CNN創立者のテッド・ターナー)、社会活動家(マーティン・ルーサー・キング、マハトマ・ガンディー)、そして軍事指導者(<米南北戦争の時の>北軍の将軍、ウィリアム・テクムシー・シャーマン)において<精神>病を見出す。
彼の説明は、最新の精神病研究を、巧みに(elegant)、余りにも直感的に正確に、バンクショット(bank off)<(注6)>したものだ。
(注6)「バスケットゴールの下、または側面から片手で行うバスケットボールのショット(そして、通常はバックボードにバンクショットされる)」
http://ejje.weblio.jp/content/banked+off
(<著者>が<鬱であった>エイブラハム・リンカーンと軽度に双極であったチャーチルにおいて見出すところの)鬱は、そのすべての形態において、人をより鮮明な眼力を与えたり、この世界の諸問題を理解したりするのに資すのであって、あたかも真昼の悪魔のように、それら諸問題と対決(face down)することを可能ならしめる。
(<著者>がローズベルトとケネディにおいて探し出すところの)躁は、そのすべての形態において、失敗から学ぶことを助け、しばしば十分な創造性をもって新しい出発を行うための、回復力をもたらす。
最も独創的にも、<著者>は、幸福で健康な状態(well-being)の危難(peril)を意味するところの、「正気の逆説法則(the inverse law of sanity)」という文句を造り出す。
それが、あの可哀そうな(poor)正気のネヴィル・チェンバレンがナチの指導者達とつるんだ(chum around with)のに対し、チャーチルの「亡霊(=黒犬獣=black dog)」<(注7)>が戦いを予見できた理由なのだ。
(注7)チャーチル自らが自分の鬱をそう名付けた。このウィキペディア↓に何と3回も登場する。
http://en.wikipedia.org/wiki/Winston_Churchill
<著者>の見解では、我々の、気違いと目された指導者達でさえ、その時代においては正気過ぎて、国はそのために苦しんだのだ。
リチャード・ニクソンがウォーターゲート危機に直面した時、彼はそれを平均的存在[尋常な人間]が取り扱うように取り扱った。
すなわち、「彼は嘘をつき、塹壕に閉じこもり、そして戦った」のだ。
同様、ジョージ・W・ブッシュは「中道を行くというのが彼の人格的特徴」だったので、彼は9.11の攻撃に対して単純過ぎるところの、全く動揺することなくして、そして何よりも「尋常な(normal)」る対応を行ったわけだ。・・・
・・・卓越は、不健康(unwell)から明確に発し、凡庸(mediocrity)は健康から来るということだ。・・・」
(以上、特に断っていない限り、Aによる。)
「・・・例えば、現実主義(realizm)についてだが、あらゆる研究が、鬱に苦しんでいる人々は、「尋常な(normal)」人々よりもその時の脅威の評価と将来どうなるかの予測において優れているとしている。
他の誰よりもリンカーンとチャーチルを眺め、<著者>は、どれだけ鬱現実主義がこの二人の男が個人的かつ国家的諸挑戦に取り組むことを助けたかを示す。
また、創造性についてだが、しっかりした心理学者達が、双極性障害との関係を詳細に研究してきた。
<この本>は、どれほど、躁がシャーマン将軍とテッド・ターナーを鼓吹して彼らの極めて創造的にして成功を収めた諸戦略を企画し遂行せしめたかを示す。・・・
<著者>は、気分障害の周期的な苦痛なかりせば、悲惨な(dire)諸難局(straits)を耐え忍ぶ手段がない状態に人を置きかねない、と説明する。・・・
・・・彼は、精神疾患を純粋に否定的な現象と見ることを再考するよう促すのだ。・・・」(C)
「「危機の時においては、我々は精神的に尋常な指導者達より病んでいる指導者達に率いられた方がうまくいく(better off)」という命題については、あくまでもしばしばそうであるということ<なので注意すべき>だ。・・・
しばしば、精神異常者的主流逸脱者(lunatic fringe)においてまことに結構なものを発見することがある」とフランクリン・デラノ・ローズベルトは語ったことがある。
通常見出されるのはセックスだ。
米国で最も気になる(fizzy・・この訳には自信がない(太田)・・)大統領であるローズベルトは、小児麻痺をものともせず女誑しに勤しんだ。
<著者>は、彼を感情高揚性気質(hyperthymia)・・恒常的弱躁状況・・であると診断する。
ジョン・F・ケネディも同じ診断を下されるが、<彼が、>ホワイトハウスのプールで「ささいなばかなこと(fiddle-faddle)」をして、<女性達と>ふざけて跳ね回っているのを見かけるのが通常のことだった。
テッド・ターナーも感情高揚性気質だった。
テッド・ターナーは、あらゆるところで女性と寝た。
マハトマ・ガンディーやマーティン・ルーサー・キングもそうした。
双極性のウィンストン・チャーチルは、「我々はみんな蠕虫(worm)だが、私は自分はツチボタル(glowworm)だと信じている」と言った。
ツチボタルは、兎のように発情する。・・・」(B)
3 終わりに
リンカーンのウィキペディアにこそ、リンカーンが鬱病であった可能性がある、という記述が出てきます
http://en.wikipedia.org/wiki/Abraham_Lincoln
が、ローズベルトのウィキペディアには双極性障害の話は出てきませんし、
http://en.wikipedia.org/wiki/Franklin_D._Roosevelt#Personal_life
ケネディのウィキペディアには、彼の非精神病たる持病の治療薬が、彼の性欲を昂進させた可能性がある、と記されているだけです。
http://en.wikipedia.org/wiki/John_F._Kennedy
また、ヒットラーのウィキペディアには、彼がアンフェタミン中毒であったと出てくるだけです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Adolf_Hitler#Other_complaints
結局、確実に精神病患者であったのは、著者のあげた政治家の中では、チャーチルだけです。(チャーチルの英語ウィキペディア前掲参照。ただし、そこでは、鬱病であったとはされているが、彼が双極性障害者であったという記述は出てこない。)
この本の著者は、英米における通説に従い、とりわけ先の大戦におけるチャーチルは偉大な政治家であったということを信じ込んでいるわけですが、著者の「理論」が正しいとすれば、チャーチルは、かなり重篤な鬱病患者であったからこそ、先の大戦の時に致命的な判断ミスを重ね、大英帝国を瓦解させた上、東欧と東アジアをスターリン主義に席巻させた、という形で、私のかねてからの指摘が裏付けられることになります。
めでたしめでたし、と申し上げておきましょう。
(完)
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/