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太田述正コラム#4202(2010.8.19)
<イスラエルのイラン攻撃論争(その4)>(2010.9.19公開)

2 論争 

 このゴールドバーグ・・名前からお気づきになっていた方もおられるでしょうが、ゴールドバーグはユダヤ人で、イスラエル軍に勤務したことがあり、かねてからネタニヤフの意向を伝える役割を担っているという目で見られている人物
http://opinionator.blogs.nytimes.com/2010/08/17/why-not-to-bomb-iran/?pagemode=print
(8月19日アクセス)
です・・による論考に対し、鋭い疑問を提起をしたのが、レヴェレット両名(夫妻?)・・Flynt LeverettとHillary Mann Leverett・・による論考です。
 そのさわりは次のとおりです。

 「・・・<ゴールドバーグ自身、次のように記している。>
 「仮に、イスラエルの核武器庫を創造したユダヤ人の物理学者達が時空の連続体に穴をあけることができ、1942年へと<イスラエルの>戦闘機編隊を送り込むことができたとすれば、アウシュヴィッツの問題は1942年に解決できていたはずだ。
 換言すれば、核爆弾とかイスラエル空軍といったまともなユダヤ人の軍事能力を<ユダヤ人が>第二次世界大戦中に創造しておれば、ホロコーストを早期に終焉に導くことができたかもしれない。
 そうだとすれば、イスラエル空軍とイスラエルの核武器庫が<現在においては既に>存在しているのであるからして、自明の理として、イランの核計画がアウシュヴィッツと同等の存在であるはずがないことになる、と言っても決しておかしくなどない」と。・・・
 <このことをゴールドバーグが認めている>以上、イランが核能力を持つことが、イスラエルに存続の脅威を与えるとは<彼は>言えないはずだ。>

 しかも、<イランという>イスラム共和国は、とりわけユダヤ人に関し、ヒットラーのドイツとは違っている。
 ゴールドバーグ・・・等がどれだけイランの政治家達による反シオニズム的な言辞や場合によっては実に反ユダヤ的な言辞を並べ立てようと、不都合な真実が「イスラム共和国/第三帝国」アナロジーを堀崩してしまうのだ。
 というは、25,000〜30,000人のユダヤ人がイランに住んでおり、その民事上の地位はその他のイラン人と平等であり、また、憲法上、<彼等の代表が>議会に席を占めることが保証されているからだ。
 それに、このイスラム共和国では、イスラム教徒がアルコールを消費することは違法だけれど、ユダヤ人(とキリスト教徒)は、宗教儀式と個人的消費のためにワインを用いることが認められている。・・・・
 ・・・<第一、>アフマディネジャドにしても、他のどのイランの指導者にしても、イスラエルを、軍事紛争を仕掛けることによって破壊する、などと脅したことはないのだ。

 <激しい反イスラエル的言辞を弄する>アフマディネジャドのレトリックに拘泥することは、1970年代にエジプトのアンワル・サダト大統領と手を結ぶことによって、<中東>地域の動的状況が決定的に変化し、再度全面的なアラブ・イスラエル戦争が起きる可能性を完全に排除したのとまさに同じように、正常化された米・イラン関係がイスラエルにとって深甚なる利益となる、という事実を覆い隠してしまう。
 公然たるヒットラー崇拝者にして、第二次世界大戦中、ドイツと協働して英国に敵対し、悪しき反イスラエルや反ユダヤ的諸声明を発出しただけでなく、戦争を仕掛けて何千というイスラエル人を殺傷したサダトが、「平和の人」と描写されるようになったのは、彼に対する追憶の中においてではあるが・・。・・・

 <ゴールドバーグは、ネタニヤフ首相が父親の>ベンジオン・ネタニヤフ<を尊敬していると言うが、この父親>は、リクードの<当時の>メナヘム・ベギン首相がエジプトと和平することに反対したし、昨年のインタビューで、アラブ人について、彼等は「本質的に敵であり…アラブ人をその拒否主義者的立場から動かすかもしれない唯一の手段は力だ」と語った<人物だ>。
 <こんな父親の呪縛下にネタニヤフがあるとすれば、イスラエルの展望は全く開けない。>

 ゴールドバーグによる、イスラエルの将軍達や国家安全保障政策立案者達や政治家達との会話の報告は、実のところ、イスラエルの政治秩序の頂点にいる人々は、イランの核計画が「<イスラエルにとっての>存続の脅威」ではないことを理解していることをはっきりさせた。
 彼の対話相手達は、イランが、イスラエルを直接攻撃することで自らの破壊を呼び寄せるようなことは考えにくい、という認識を持っている。
 そうではなくて、彼等は、国防相のエフード・バラクのように、核能力を持ったイランが「[イスラエルの]その最も創造的で生産的な市民達を引き留めておく能力を次第に堀崩すであろう」と<いう懸念について>語る。・・・

 ・・・<考えて見れば、帝政時代のイランとイスラエルはもとより、>イスラム共和国<になってからのイラン>とイスラエルだって常に敵であったわけではない。
 イスラエルは、イラン・イラク戦争の間、米国政府の反対を押し切ってまでして、イランに武器を売ったし、ロナルド・レーガン米大統領のその後のイラン政府に対する啓蒙活動(outreach)・・結局、イラン・コントラ不祥事で自壊した・・にも関与した。・・・

 この5月、イスラエルの元軍事将校達、元外交官達、そして元諜報要員達が、イランが「核兵器能力」を獲得したと仮定して戦争ゲームを行った。
 参加者達は、その後、ロイター通信に対し、このような能力は、イスラエルにとって「存続の脅威」たりえず、「イスラエルの軍事的自主性(autonomy)を低下(blunt)させる<だけ>だろう」と伝えた。・・・」
http://www.foreignpolicy.com/articles/2010/08/11/the_weak_case_for_war_with_iran?print=yes&hidecomments=yes&page=full
(8月12日アクセス)

→あたかもネタニヤフとバラク・オバマの間で交わされても不思議ではないような、真剣そのもののやりとりであり、いつもの調子で、私がコメントを軽々に挟むことを許さない趣があります。
 一点だけ指摘しておきますが、世俗的なサダトとシーア派原理主義者のアフマディネジャドとは同列で論じられないのではないでしょうか。(太田)


(続く)

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