太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/

太田述正コラム#4118(2010.7.8)
<映画評論5:サルバドル/遥かなる日々(その1)>(2010.8.8公開)

1 始めに

 今回、映画評の対象として、私が「米国人がイメージしている中南米的なものを見事に全部つめこんだ映画だと思った」『サルバドル/遥かなる日々』(1986年)(コラム#4098)をとりあげることにしました。
 この映画の監督はオリバー・ストーン(Oliver Stone。1946年〜。『ミッドナイト・エクスプレス(Midnight Express)』(1978年)でアカデミー賞脚本賞、『プラトーン(Platoon)』(1986年)と『7月4日に生まれて(Born on the Fourth of July)』(1989年)でアカデミー賞監督賞を受賞
http://en.wikipedia.org/wiki/Oliver_Stone
)で、脚本はこのオリバー・ストーンとリチャード・ボイルの共同執筆です。
 私の結論を最初に記しておきます。
 これは失敗作です。
 どうして失敗作なのか、それが本シリーズのテーマです。

2 映画の簡単な紹介

 「・・・1980年、ジャーナリストのリチャード・ボイル<(脚本を書いた本人)>は・・・取材のためエルサルバドルに向かう。現地は右派の政府軍と左派の反政府ゲリラによって内乱が起こっており、多くの死者・行方不明者を出していた。・・・政府軍のマックス少佐率いる勢力は、政敵であるカトリック教会のロメロ大司教を暗殺。さらにはボランティアのシスターらを敵の家族を助けているとし、部下に命じて強姦・殺害させる。・・・ボイルは真実を追う決意をする。・・・」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%89%E3%83%AB/%E9%81%A5%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%82%8B%E6%97%A5%E3%80%85
(7月7日アクセス。以下同じ)

 「ストーンの描き方は、<エルサルバドルの>左翼の農民革命家達に同情的だが、大事な場面で彼等が捕虜を殺害するのを嘆く。
 彼は、米国が支援していた右翼の軍部とそれと組んだ殺人団(death squad)群に対して強く批判的であり、・・・4人の米国人教会関係者たる女性達の暗殺に焦点をあてる。
 ストーンがカトリック教会を正義の力として描くのは、当時の様々な出来事を反映している。
 その一つとして例示的に示されるのが、殺人団によって暗殺される前にオスカー・ロメロ(Oscar Romero)大司教<(後出)>が行ったところの政治的説教に基づいた場面だ。・・・」
http://en.wikipedia.org/wiki/Salvador_(film)

3 ニューヨークタイムスの映画評

 「・・・ストーンは、米国における保守主義勢力をエルサルバドルにおける恐怖<の出来>をそそのかしたとして非難する形の歴史解釈を<この映画で>提示する。・・・
 本当らしくない人々が信じがたいことをやってのけることを見せるために現実的なセッティングがしつらえられる。
 主要登場人物達はグロテスクかステレオタイプかのどちらかに傾きがちであり、<この映画の中で、>彼等が、米国人が好む悪口(epithet)のおおむね諸変形からなるところの、つじつまのあわない議論を行う。・・・
 彼等のうちの魅力的な<叛乱側の>連中が、捕虜にした何人かの<政府軍>兵士達を処刑するのに対し、<登場人物の一人をして>「お前らもあいつら<(政府側)>と全く同じになっちゃうぜ」と叫ばせてはいるけれど、それは<ストーン>自身の罪を免れるための、<エルサルバドル政府及び米国批判なる>正文のテーマに付された脚注に過ぎない。
 ストーンは、政治的諸現実を指し示すふりをしつつ、色彩に満ちている<はずの>「サルバドル」を黒白<映画>にしてしまった。・・・
 <暴力的・活劇的>ショーと<政治的>メッセージとの間で、余りにも多くの現実がこぼれ落ちてしまっているのだ。・・・」
http://movies.nytimes.com/movie/review?_r=3&res=9A0DEFDB1F3AF936A35750C0A960948260&pagewanted=print

 私はこのNYタイムスの書評子の見解の多くに首肯します。
 ただし、私に言わせれば、限られた時間の映画の中で、現実の総体を描くことなどそもそも不可能である以上、「こぼれ落ちてしまっ<た>・・・余りにも多くの現実」が問題であると言ってみたところでせんないことなのであって、むしろ、ストーンの黒白への割り切り方が、逆、すなわち180度誤り、であったことこそが問題視されるべきだったのです。

(続く)

太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/