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太田述正コラム#3828(2010.2.13)
<法の支配(その1)>(2010.3.17公開)
1 始めに
法の支配(rule of law)という言葉を私のコラムで幾たびとなく使ってきていますが、それが何を意味するのか、余り突き詰めて考えたことがありません。
このたび、トム・ビンガム(<Thomas Henry >Bingham<, Baron Bingham of Cornhill。1933年〜
http://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_Bingham,_Baron_Bingham_of_Cornhill
>)によって、'The Rule of Law' という本が上梓されたので、さっそく書評を手がかりに、彼がどんなことを書いているか、探ってみることにしました。
A:http://www.ft.com/cms/s/2/405e03d4-175f-11df-87f6-00144feab49a.html
(2月13日アクセス。以下同じ)
B:http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/features/the-rule-of-law-by-tom-bingham-1880966.html
C:http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/book_reviews/article7007013.ece?print=yes&randnum=1266045094437
D:http://www.spectator.co.uk/print/books/5765838/weighed-in-the-balance.thtml
E:http://www.newstatesman.com/books/2010/02/law-rule-rights-british
F:http://www.guardian.co.uk/books/2010/feb/07/rule-of-law-thomas-bingham
ちなみに、ビンガムは、英上院の法官貴族(Law Lord=Lords of Appeal in Ordinary )として、上訴裁判所(Appellate Committee of the House of Lords)民事部長(Master of the Rolls)、上訴裁判所刑事部長(Lord Chief Justice of England and Wales)、上訴裁判所長(Senior Law Lord=Senior Lord of Appeal in Ordinary)を歴任して、2008年に退職した人物です(注1)。(B)(F)
http://en.wikipedia.org/wiki/Master_of_the_Rolls
http://en.wikipedia.org/wiki/Lord_Chief_Justice_of_England_and_Wales
http://en.wikipedia.org/wiki/President_of_the_Supreme_Court_of_the_United_Kingdom
http://en.wikipedia.org/wiki/Judicial_functions_of_the_House_of_Lords
(注1)英上院に代わって、新しく設置された最高裁判所(Supreme Court of the United Kingdom)が、2009年10月1日をもって、イギリス英国における上訴裁判所機能を果たすことになった。
これに伴い、上訴裁判所長の職責は、最高裁判所長官(President of the Supreme Court of the United Kingdom)が果たすこととなった。
ここに立法権が司法権から切り離され、英国において、三権が形の上で分立することになった。
(ちなみに、かつては、行政官たる国璽尚書(=大法官=Lord Chancellor)が、法官貴族の最高位として司法への関与が認められていたが、2005年にこの職が廃止され、この時点で、行政権が司法権から切り離されている。(コラム#1334)
とはいえ、今でも英国は議会(Queen/King-in-Parliament)主権(コラム#1334、1695、1789、1798、1805、1809、2244、2472、2482、2922)の国であり、実質的には三権は分立していない。
要するに、英国は、21世紀になって、ようやく、日本等と同じ、普通の議院内閣制の国になったというわけだ。
なお、この一連の司法改革がなされるまでにおいても、上訴は、技術的には上院に対してではなく、(主権が所在する)英議会に対してなされるものと認識されてはいたところだ。
(事実関係については、
http://en.wikipedia.org/wiki/Judicial_functions_of_the_House_of_Lords
上掲による。)
2 法の支配
(1)序
「・・・英語と法の支配は、人類に対する英国の最大の貢献のうちの二つだとしばしば言われる。・・・
ビンガムは、彼の定義を、紋切り型ではあるが、英国の法律家、AV・ダイシー(<Albert Venn >Dicey<。1835〜1922年。An Introduction to the Study of the Law of the Constitution (1885)の著者として著名
http://en.wikipedia.org/wiki/A._V._Dicey (太田)
>)の英国法の三つの意味から始める。
それは、市民は適正に制定された法に違反した場合にのみ起訴されうる、誰も法の上に立つ者はなく、誰もが同じように適用される同じ法で律せられる、そして、コモンローは事案(case)ごとになされた決定の緩慢なる累積(accretion)を反映している<(コラム#90)>、だ。・・・」(A)
「・・・20世紀におけるイギリスの裁判官中の最も偉大な者の一人であるトム・ビンガムは、2008年に退職するまで、上訴裁判所を8年間にわたって主宰した。
この期間には、たまたまイギリスの憲法的な法において、驚くべき二つの発展があった。
最初の発展は2000年であり、欧州人権規約(European Convention on Human Rights)が初めてイギリスにおける法としての効力を与えられた。・・・
第二の発展は、・・・集団訴訟(group litigation)(注2)の圧力の増大だ。・・・」(D)
(注2)・英国における集団訴訟は、裁判所が、そのイニシアティブで単一の事実または法に係る複数の訴訟を一本化することで初めて可能となる。
対象は税金に係る訴訟に限定されている。
http://www.dorsey.com/files/Publication/e4df401d-6da5-4f75-8b25-23b6c3ca0b8e/Presentation/PublicationAttachment/b0b871ce-dd88-4788-a39a-8ff62b240902/4-Group_Litigation.pdf
「・・・ビンガムは、憲法史について確かな知識を持っている。
彼は、権利の請願(1628年)を「法の支配が成熟した瞬間」としている。
また、ラムバート(<John >Lambert<。1619〜84年>)・・クロムウェルではない!・・が1653年に起草した「政治法典(Instrument of Government)」(注3)の先見性を語っている。・・・」(E)
(注3)政治法典は、共和制英国(Commonwealth of England, Scotland and Ireland)の憲法であり、英語圏における、主権を持った地域による成文憲法だ。
この政治法典は、護国卿(Lord Protector)に行政権を与えた。護国卿は世襲ではないが、終身職とされた。議会についての規定もある。
http://en.wikipedia.org/wiki/Instrument_of_Government_(1653) (太田)
(続く)
<法の支配(その1)>(2010.3.17公開)
1 始めに
法の支配(rule of law)という言葉を私のコラムで幾たびとなく使ってきていますが、それが何を意味するのか、余り突き詰めて考えたことがありません。
このたび、トム・ビンガム(<Thomas Henry >Bingham<, Baron Bingham of Cornhill。1933年〜
http://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_Bingham,_Baron_Bingham_of_Cornhill
>)によって、'The Rule of Law' という本が上梓されたので、さっそく書評を手がかりに、彼がどんなことを書いているか、探ってみることにしました。
A:http://www.ft.com/cms/s/2/405e03d4-175f-11df-87f6-00144feab49a.html
(2月13日アクセス。以下同じ)
B:http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/features/the-rule-of-law-by-tom-bingham-1880966.html
C:http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/book_reviews/article7007013.ece?print=yes&randnum=1266045094437
D:http://www.spectator.co.uk/print/books/5765838/weighed-in-the-balance.thtml
E:http://www.newstatesman.com/books/2010/02/law-rule-rights-british
F:http://www.guardian.co.uk/books/2010/feb/07/rule-of-law-thomas-bingham
ちなみに、ビンガムは、英上院の法官貴族(Law Lord=Lords of Appeal in Ordinary )として、上訴裁判所(Appellate Committee of the House of Lords)民事部長(Master of the Rolls)、上訴裁判所刑事部長(Lord Chief Justice of England and Wales)、上訴裁判所長(Senior Law Lord=Senior Lord of Appeal in Ordinary)を歴任して、2008年に退職した人物です(注1)。(B)(F)
http://en.wikipedia.org/wiki/Master_of_the_Rolls
http://en.wikipedia.org/wiki/Lord_Chief_Justice_of_England_and_Wales
http://en.wikipedia.org/wiki/President_of_the_Supreme_Court_of_the_United_Kingdom
http://en.wikipedia.org/wiki/Judicial_functions_of_the_House_of_Lords
(注1)英上院に代わって、新しく設置された最高裁判所(Supreme Court of the United Kingdom)が、2009年10月1日をもって、イギリス英国における上訴裁判所機能を果たすことになった。
これに伴い、上訴裁判所長の職責は、最高裁判所長官(President of the Supreme Court of the United Kingdom)が果たすこととなった。
ここに立法権が司法権から切り離され、英国において、三権が形の上で分立することになった。
(ちなみに、かつては、行政官たる国璽尚書(=大法官=Lord Chancellor)が、法官貴族の最高位として司法への関与が認められていたが、2005年にこの職が廃止され、この時点で、行政権が司法権から切り離されている。(コラム#1334)
とはいえ、今でも英国は議会(Queen/King-in-Parliament)主権(コラム#1334、1695、1789、1798、1805、1809、2244、2472、2482、2922)の国であり、実質的には三権は分立していない。
要するに、英国は、21世紀になって、ようやく、日本等と同じ、普通の議院内閣制の国になったというわけだ。
なお、この一連の司法改革がなされるまでにおいても、上訴は、技術的には上院に対してではなく、(主権が所在する)英議会に対してなされるものと認識されてはいたところだ。
(事実関係については、
http://en.wikipedia.org/wiki/Judicial_functions_of_the_House_of_Lords
上掲による。)
2 法の支配
(1)序
「・・・英語と法の支配は、人類に対する英国の最大の貢献のうちの二つだとしばしば言われる。・・・
ビンガムは、彼の定義を、紋切り型ではあるが、英国の法律家、AV・ダイシー(<Albert Venn >Dicey<。1835〜1922年。An Introduction to the Study of the Law of the Constitution (1885)の著者として著名
http://en.wikipedia.org/wiki/A._V._Dicey (太田)
>)の英国法の三つの意味から始める。
それは、市民は適正に制定された法に違反した場合にのみ起訴されうる、誰も法の上に立つ者はなく、誰もが同じように適用される同じ法で律せられる、そして、コモンローは事案(case)ごとになされた決定の緩慢なる累積(accretion)を反映している<(コラム#90)>、だ。・・・」(A)
「・・・20世紀におけるイギリスの裁判官中の最も偉大な者の一人であるトム・ビンガムは、2008年に退職するまで、上訴裁判所を8年間にわたって主宰した。
この期間には、たまたまイギリスの憲法的な法において、驚くべき二つの発展があった。
最初の発展は2000年であり、欧州人権規約(European Convention on Human Rights)が初めてイギリスにおける法としての効力を与えられた。・・・
第二の発展は、・・・集団訴訟(group litigation)(注2)の圧力の増大だ。・・・」(D)
(注2)・英国における集団訴訟は、裁判所が、そのイニシアティブで単一の事実または法に係る複数の訴訟を一本化することで初めて可能となる。
対象は税金に係る訴訟に限定されている。
http://www.dorsey.com/files/Publication/e4df401d-6da5-4f75-8b25-23b6c3ca0b8e/Presentation/PublicationAttachment/b0b871ce-dd88-4788-a39a-8ff62b240902/4-Group_Litigation.pdf
「・・・ビンガムは、憲法史について確かな知識を持っている。
彼は、権利の請願(1628年)を「法の支配が成熟した瞬間」としている。
また、ラムバート(<John >Lambert<。1619〜84年>)・・クロムウェルではない!・・が1653年に起草した「政治法典(Instrument of Government)」(注3)の先見性を語っている。・・・」(E)
(注3)政治法典は、共和制英国(Commonwealth of England, Scotland and Ireland)の憲法であり、英語圏における、主権を持った地域による成文憲法だ。
この政治法典は、護国卿(Lord Protector)に行政権を与えた。護国卿は世襲ではないが、終身職とされた。議会についての規定もある。
http://en.wikipedia.org/wiki/Instrument_of_Government_(1653) (太田)
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
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