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太田述正コラム#3429(2009.7.31)
<欧州へのイスラム移民(その1)>(2009.12.9公開)
1 始めに
米国人のクリストファー・コールドウェル(Christopher Caldwell)が(地理的意味での)欧州におけるイスラム移民問題について書いた'Reflections on the Revolution in Europe: Immigration, Islam, and the West'についての英米での書評は、私のアングロサクソン/欧州論、更には米国論の有効性を検証する素材として極めて興味深いものがあります。
どういうことかは、お読みいただければ分かります。
(以下、下掲の各書評による。)
A:http://www.nytimes.com/2009/07/30/books/30garner.html?_r=1&hpw=&pagewanted=print
(7月30日アクセス。以下同じ)
B:http://newhumanist.org.uk/2093
C:http://www.guardian.co.uk/books/2009/may/17/christopher-caldwell-immigration-islam
D:http://www.ft.com/cms/s/2/106c266a-35dd-11de-a997-00144feabdc0.html
E:http://www.guardian.co.uk/books/2009/jun/13/christopher-caldwell-revolution-in-europe
F:http://www.prospect-magazine.co.uk/article_details.php?id=10749
なお、コールドウェルは、米国の保守的なジャーナリストであり、米国のウィークリー・スタンダード誌・・悪名高い豪州人たる新聞王ルパート・マードック(Rupert Murdoch)が所有するネオコン雑誌・・の編集者であって、英国のファイナンシャルタイムスのコラムニストでもあります(D、E)。
2 序論
「・・・1850年から1930年の間に、5000万人以上の移民が欧州を後にした。
これは、これは人類の書かれた歴史における、短期間における最も激しい人口移動であったと言えよう。
その間に、更に5,000万人が支那を後にしている。
大不況と第二次世界大戦の小休止の後、欧州からの人口の流出が再開されたが、1950年代の半ばから方向が逆になり、上昇気流に乗った欧州は労働者達を<欧州外から>吸い込むようになった。
現在では、EU加盟の15の欧州諸国の3億7,000万人の住民のうち約1,500万人が移民であり、それよりはるかに多い人々がもっと早い時期の移民の子孫だ。・・・」(D)
「・・・植民地支配の罪の意識を捨象すれば、「<欧州諸国によるかつての欧州以外の世界への>植民と<戦後の欧州へのイスラム世界からの>労働移民との間に根本的な違いはない」ことをコールドウェルは示唆する。
<つまり、どちらも、自分達の生活様式を変えようとか、現地に溶け込もうなんてしなかったのだ。>・・・
<しかし、そもそも、欧州への戦後の移民が、それ以前における欧州への移民と違って>受け入れ国に簡単に同化しない、という観念は神話だ」と歴史家のマックス・シルヴァーマン(Max Silverman)は記してきた。
1930年代には、フランスの人口の3分の1近くは、主として南欧からの移民だった。
現在でこそ、イタリアやポルトガルからの移民は受け入れ国であるフランス<の人々>と文化的に近似していると我々には思える。
しかし、70年前には、彼等は犯罪や暴力沙汰を起こしやすい外国人であってフランスの社会に同化するようには思えないと見られていたのだ。・・・
英国では最初の移民法である外国人法(Aliens Act)が1905年にできたが、それができた主たる目的は、非英国的であると見られていた、欧州のユダヤ人を閉め出すことだった。・・・」(B)
3 イスラム世界からの移民
「・・・コールドウェルは、余り見たことのないような直截的な疑問を投げかける。
異なった人々がいるのに同じ欧州であり続けられるのか、こんなにわずかの人しか本当にそんなことなど望まなかったというのにどうして大量の移民受け入れが始まったのか、移民はよりよい生活を望んでいるがそのうちのどれくらいが欧州人的な生活を送ることを望んでいるのだろうか、なにゆえに少数民族の民族的プライドは良いことで欧州人のナショナリズムは病なのだろうか、<欧州における>ポリティカル・コレクトネスは恐怖を寛容として装っているだけではないのか、と。・・・
コールドウェルは、・・・欧州の移民<受け入れ>は、少なくとも受け入れた各社会にとって成功であったとは言い難いと考えている。
ただし、彼は、反移民の立場ではなく、米国の<人種の>坩堝についての大いなる支持者であると述べている。・・・」(C)
「・・イスラム教徒達は、・欧州のもてなし上手な都市へのその何十年にもわたる大量移民を通じ、同化しないという強い傾向から、欧州の外観を、恐らくは決定的に変貌せしめつつある。
これらのイスラム教徒たる移民達は、欧州の文化を高めつつあるというよりは置き換えつつある。
敵対的な文化の下で生まれたこれらの移民達と彼等の宗教であるイスラム教は、「欧州の諸都市の通りを一つずつ根気よく征服しつつある。」・・・
20世紀の中頃には西欧にはほとんどイスラム教徒はいなかったが、21世紀になった現在、西欧には1,500万人から1,700万人のイスラム教徒がおり、うちフランスに500万人、ドイツに400万人、そして英国に200万人いる」とコールドウェルは記す。
これらの移民達は、その高い出生率により、欧州を人口的に圧倒しようとしている、と彼は付け加える。・・・
イスラム教徒達は溶け込んでいない。
彼等は、彼が呼ぶところの、「平行社会(parallel society)」を形成している。
新たにイギリスにやってきた者達は、今やBBCではなくアル・ジャジーラに耳を傾ける。
彼等は自分達が養子に来た国で軍役に就こうとしない。
(2007年に、英国軍にはわずかに330人のイスラム教徒しかいない、とコ-ルドウェルは記す。)
より悪いことに、これらの移民達は、欧州に反ユダヤ主義を再び持ち込んでいるのだ。・・・」(A)
(続く)
<欧州へのイスラム移民(その1)>(2009.12.9公開)
1 始めに
米国人のクリストファー・コールドウェル(Christopher Caldwell)が(地理的意味での)欧州におけるイスラム移民問題について書いた'Reflections on the Revolution in Europe: Immigration, Islam, and the West'についての英米での書評は、私のアングロサクソン/欧州論、更には米国論の有効性を検証する素材として極めて興味深いものがあります。
どういうことかは、お読みいただければ分かります。
(以下、下掲の各書評による。)
A:http://www.nytimes.com/2009/07/30/books/30garner.html?_r=1&hpw=&pagewanted=print
(7月30日アクセス。以下同じ)
B:http://newhumanist.org.uk/2093
C:http://www.guardian.co.uk/books/2009/may/17/christopher-caldwell-immigration-islam
D:http://www.ft.com/cms/s/2/106c266a-35dd-11de-a997-00144feabdc0.html
E:http://www.guardian.co.uk/books/2009/jun/13/christopher-caldwell-revolution-in-europe
F:http://www.prospect-magazine.co.uk/article_details.php?id=10749
なお、コールドウェルは、米国の保守的なジャーナリストであり、米国のウィークリー・スタンダード誌・・悪名高い豪州人たる新聞王ルパート・マードック(Rupert Murdoch)が所有するネオコン雑誌・・の編集者であって、英国のファイナンシャルタイムスのコラムニストでもあります(D、E)。
2 序論
「・・・1850年から1930年の間に、5000万人以上の移民が欧州を後にした。
これは、これは人類の書かれた歴史における、短期間における最も激しい人口移動であったと言えよう。
その間に、更に5,000万人が支那を後にしている。
大不況と第二次世界大戦の小休止の後、欧州からの人口の流出が再開されたが、1950年代の半ばから方向が逆になり、上昇気流に乗った欧州は労働者達を<欧州外から>吸い込むようになった。
現在では、EU加盟の15の欧州諸国の3億7,000万人の住民のうち約1,500万人が移民であり、それよりはるかに多い人々がもっと早い時期の移民の子孫だ。・・・」(D)
「・・・植民地支配の罪の意識を捨象すれば、「<欧州諸国によるかつての欧州以外の世界への>植民と<戦後の欧州へのイスラム世界からの>労働移民との間に根本的な違いはない」ことをコールドウェルは示唆する。
<つまり、どちらも、自分達の生活様式を変えようとか、現地に溶け込もうなんてしなかったのだ。>・・・
<しかし、そもそも、欧州への戦後の移民が、それ以前における欧州への移民と違って>受け入れ国に簡単に同化しない、という観念は神話だ」と歴史家のマックス・シルヴァーマン(Max Silverman)は記してきた。
1930年代には、フランスの人口の3分の1近くは、主として南欧からの移民だった。
現在でこそ、イタリアやポルトガルからの移民は受け入れ国であるフランス<の人々>と文化的に近似していると我々には思える。
しかし、70年前には、彼等は犯罪や暴力沙汰を起こしやすい外国人であってフランスの社会に同化するようには思えないと見られていたのだ。・・・
英国では最初の移民法である外国人法(Aliens Act)が1905年にできたが、それができた主たる目的は、非英国的であると見られていた、欧州のユダヤ人を閉め出すことだった。・・・」(B)
3 イスラム世界からの移民
「・・・コールドウェルは、余り見たことのないような直截的な疑問を投げかける。
異なった人々がいるのに同じ欧州であり続けられるのか、こんなにわずかの人しか本当にそんなことなど望まなかったというのにどうして大量の移民受け入れが始まったのか、移民はよりよい生活を望んでいるがそのうちのどれくらいが欧州人的な生活を送ることを望んでいるのだろうか、なにゆえに少数民族の民族的プライドは良いことで欧州人のナショナリズムは病なのだろうか、<欧州における>ポリティカル・コレクトネスは恐怖を寛容として装っているだけではないのか、と。・・・
コールドウェルは、・・・欧州の移民<受け入れ>は、少なくとも受け入れた各社会にとって成功であったとは言い難いと考えている。
ただし、彼は、反移民の立場ではなく、米国の<人種の>坩堝についての大いなる支持者であると述べている。・・・」(C)
「・・イスラム教徒達は、・欧州のもてなし上手な都市へのその何十年にもわたる大量移民を通じ、同化しないという強い傾向から、欧州の外観を、恐らくは決定的に変貌せしめつつある。
これらのイスラム教徒たる移民達は、欧州の文化を高めつつあるというよりは置き換えつつある。
敵対的な文化の下で生まれたこれらの移民達と彼等の宗教であるイスラム教は、「欧州の諸都市の通りを一つずつ根気よく征服しつつある。」・・・
20世紀の中頃には西欧にはほとんどイスラム教徒はいなかったが、21世紀になった現在、西欧には1,500万人から1,700万人のイスラム教徒がおり、うちフランスに500万人、ドイツに400万人、そして英国に200万人いる」とコールドウェルは記す。
これらの移民達は、その高い出生率により、欧州を人口的に圧倒しようとしている、と彼は付け加える。・・・
イスラム教徒達は溶け込んでいない。
彼等は、彼が呼ぶところの、「平行社会(parallel society)」を形成している。
新たにイギリスにやってきた者達は、今やBBCではなくアル・ジャジーラに耳を傾ける。
彼等は自分達が養子に来た国で軍役に就こうとしない。
(2007年に、英国軍にはわずかに330人のイスラム教徒しかいない、とコ-ルドウェルは記す。)
より悪いことに、これらの移民達は、欧州に反ユダヤ主義を再び持ち込んでいるのだ。・・・」(A)
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
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