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太田述正コラム#3266(2009.5.10)
<テロリズムの系譜(その1)>(2009.9.23公開)
1 始めに
コラム#1161で、英国の「ドイツ史家」マイケル・バーレイ(Michael Burleigh)による'Earthly Powers: The Conflict Between Religion and Politics From the French Revolution to the Great War' をご紹介したところですが、今回は、その後出版された彼の 'BLOOD AND RAGE:A Cultural History of Terrorism'をご紹介したいと思います。
(以下、特に断っていない限り
A:http://www.ft.com/cms/s/2/bc5028ce-305f-11de-88e3-00144feabdc0.html
(5月3日アクセス)、
による。
B:http://www.post-gazette.com/pg/09074/955176-44.stm
(5月10日アクセス。以下同じ)
C:http://www.nytimes.com/2009/04/26/books/review/Richardson-t.html?_r=1&pagewanted=print
D:http://www.telegraph.co.uk/culture/books/non_fictionreviews/3671513/The-theatre-of-cruelty.html
E:http://www.spectator.co.uk/print/the-magazine/books/514156/creating-a-climate-of-fear.thtml
F:http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/reviews/blood--rage-a-cultural-history-of-terrorism-by-michael-burleigh-795528.html
G:http://www.timeshighereducation.co.uk/story.asp?storyCode=401248§ioncode=26
H:http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/non-fiction/article3400123.ece
による。)
2 テロリズムの系譜
(1)テロリズムの系譜
「・・・現代テロリズムをゲリラ戦争、政治的暗殺、経済的サボタージュと区別しつつ、バーレイは、かかる暴力を正当化するために語られる諸イデオロギーではなく、「生きた歴史と行動」に焦点をあてる。・・・」(A)
「・・・彼は、テロリズムを、「中枢がない存在(acephalous entity)である場合と階統的組織(hierarchical organisation)をつくる場合があるところの、特定の国家権力の息のかかっていない活動家達によって、彼らが保有していない正統的政治的権力の代償として恐怖の気運を醸成するために、主として用いられる戦術」であるとする。・・・」(E)
19世紀に始まった、民族的なアイルランド独立を目指すフェニアン達(Fenians)の系譜は、バスク独立を目指すETA、アルジェリア独立を目指したFLNとそれに抵抗したOAS、イスラエル国家樹立を目指したイルグン、パレスティナ独立を目指すPLO等、南アフリカにおいて黒人主権を確立しようとしたANS、北アイルランドで主導権を争ったアイルランド共和派と王党派へとつながり、同じく19世紀に始まった、イデオロギー的なロシアのニヒリスト達、及び(必ずしもテロリストとは言えない)欧州のアナキスト達及び社会主義革命諸党の系譜は、イタリアの赤い旅団(Brigate Rosse)、ドイツの赤軍派(Rote Armee Fraktion)及びバーダー=マインホフ・グループ、更にはイスラム教テロリズムへとつながる。(C、F、G)
「・・・ジョージ・ブッシュやトニー・ブレアがどう言おうと、テロリズムはイデオロギーではない。
それは信条でも政策でも精神病的状態でも征服の計画でもない。
それは、戦闘そのものと同じくらい昔からの兵器<(=戦闘の手段)>なのだ。
聖書<の記述>はテロリズムだらけだ。
バイキング、十字軍、異端審問や串刺しのヴラッド(Vlad the Impaler<。1431〜76年。ルーマニアのワラキア地方の領主。ドラキュラのモデル>)にとって、敵をテロリズムですくみ上がらせることは勝利の方程式の一部だった。
テロリズムの現代的形態も決して新しいものではない。
ロンドンの地下鉄を初めて爆破したのは1883年にディストリクト線をやったフェニアンだった。
最初の自爆テロは1906年のロシアの首相への攻撃だった。
最初にダイナマイトを詰めた飛行機をミサイルとして用いる計画を立てたのは1907年のアナキストのボリス・サヴィンコフ(Boris Savinkov<。1879〜1925年>)だった。
最初の車載爆弾は1920年に<ニューヨークの>ウォール・ストリートを爆破した。・・・
マイケル・バーレイは、本件に関する彼の探査ないしは「文化史」を19世紀中頃のアイルランド人達による英国への攻撃から始める。
ちょうどその頃、ノーベルがニトログリセリンをペースト状にして安定させることができることを発見している。
このことが、ガイ・フォークス(Guy Fawkes)<(コラム#183、1268)>の時代以来のテロ技術の進歩をもたらした。つまり、軍隊を持たなくても大量殺害ができるようになったのだ。
しかも、その効果は新しいマスメディアによって飛躍的に高められることになった。
テロの本質は殺害した人数ではなく、その反響の大きさにあるのだ。・・・」(H)
(2)テロリストのいかがわしさ
「・・・[赤軍派の]誘拐犯達のドイツ経済の高次の機能についての信じられないほどの無知さ加減に目を丸くした、被誘拐者たるドイツの産業家、ハンス・シュレイ(Hans Schley)・・・
バーダー=マインホフ・グループの<このような>政治についての無知さ加減と同じくらい、その共同設立者の<片方の女性の>武器についての無知さ加減は危険千万だった。
元はモードに関するジャーナリストであったウルリケ・マインホフ(Ulrike Meinhof<。写真:http://www.spiegel.de/img/0,1020,794526,00.jpg>)は、手榴弾の輪をを引き抜き、シューという音が始まったというのに、投げなきゃだめだということが分かっていなかった。
マインホフにとっての共同革命家たるアンドレアス・バーダー(Andreas Baader<。写真:http://www.bibliotecamarxista.org/immagini/baader%20andreas/Andreas-Baader.jpg>)は、バーレイの探査対象者達の腹立たしくナルシスティックな性向の多くを体現している人物だ。
すなわち彼は、気むずかしく、怠け者で、醜く、熱に浮かされたような空想にふけり、取るに足らない才能しか持たず、ただただ他人・・当然のことながら彼より才能があり知力もある他人・・を吹き飛ばすことだけしか能がない。・・・
バーダーにとってテロリズムは、オサマ・ビンラディンのように他人の関心を惹き付けようとする連中同様、劇場なのだ。
自分のプロダクションの監督をしてその中で自分の好きなギャング映画・・とりわけ「アルジェの戦い(The Battle of Algiers)」や(ある赤の旅団のメンバーが20回も鑑た)「ワイルドパンチ(The Wild Bunch)」・・のマネをして主役を演じるチャンスだというわけだ。
バーダーは、16ミリカメラを自分の放火攻撃を記録するために借りた。彼はカツラをつけており、車に乗っている時、・・・自分のベンツのバックミラーを見ながら白粉をつけることを好んだ。
彼の知識人たる擁護者のジャン=ポール・サルトルでさえ、彼に会った後、内輪話で「バーダーという奴は何ちゅうアホか」と言ったものだ。・・・」(D)
(続く)
<テロリズムの系譜(その1)>(2009.9.23公開)
1 始めに
コラム#1161で、英国の「ドイツ史家」マイケル・バーレイ(Michael Burleigh)による'Earthly Powers: The Conflict Between Religion and Politics From the French Revolution to the Great War' をご紹介したところですが、今回は、その後出版された彼の 'BLOOD AND RAGE:A Cultural History of Terrorism'をご紹介したいと思います。
(以下、特に断っていない限り
A:http://www.ft.com/cms/s/2/bc5028ce-305f-11de-88e3-00144feabdc0.html
(5月3日アクセス)、
による。
B:http://www.post-gazette.com/pg/09074/955176-44.stm
(5月10日アクセス。以下同じ)
C:http://www.nytimes.com/2009/04/26/books/review/Richardson-t.html?_r=1&pagewanted=print
D:http://www.telegraph.co.uk/culture/books/non_fictionreviews/3671513/The-theatre-of-cruelty.html
E:http://www.spectator.co.uk/print/the-magazine/books/514156/creating-a-climate-of-fear.thtml
F:http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/reviews/blood--rage-a-cultural-history-of-terrorism-by-michael-burleigh-795528.html
G:http://www.timeshighereducation.co.uk/story.asp?storyCode=401248§ioncode=26
H:http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/non-fiction/article3400123.ece
による。)
2 テロリズムの系譜
(1)テロリズムの系譜
「・・・現代テロリズムをゲリラ戦争、政治的暗殺、経済的サボタージュと区別しつつ、バーレイは、かかる暴力を正当化するために語られる諸イデオロギーではなく、「生きた歴史と行動」に焦点をあてる。・・・」(A)
「・・・彼は、テロリズムを、「中枢がない存在(acephalous entity)である場合と階統的組織(hierarchical organisation)をつくる場合があるところの、特定の国家権力の息のかかっていない活動家達によって、彼らが保有していない正統的政治的権力の代償として恐怖の気運を醸成するために、主として用いられる戦術」であるとする。・・・」(E)
19世紀に始まった、民族的なアイルランド独立を目指すフェニアン達(Fenians)の系譜は、バスク独立を目指すETA、アルジェリア独立を目指したFLNとそれに抵抗したOAS、イスラエル国家樹立を目指したイルグン、パレスティナ独立を目指すPLO等、南アフリカにおいて黒人主権を確立しようとしたANS、北アイルランドで主導権を争ったアイルランド共和派と王党派へとつながり、同じく19世紀に始まった、イデオロギー的なロシアのニヒリスト達、及び(必ずしもテロリストとは言えない)欧州のアナキスト達及び社会主義革命諸党の系譜は、イタリアの赤い旅団(Brigate Rosse)、ドイツの赤軍派(Rote Armee Fraktion)及びバーダー=マインホフ・グループ、更にはイスラム教テロリズムへとつながる。(C、F、G)
「・・・ジョージ・ブッシュやトニー・ブレアがどう言おうと、テロリズムはイデオロギーではない。
それは信条でも政策でも精神病的状態でも征服の計画でもない。
それは、戦闘そのものと同じくらい昔からの兵器<(=戦闘の手段)>なのだ。
聖書<の記述>はテロリズムだらけだ。
バイキング、十字軍、異端審問や串刺しのヴラッド(Vlad the Impaler<。1431〜76年。ルーマニアのワラキア地方の領主。ドラキュラのモデル>)にとって、敵をテロリズムですくみ上がらせることは勝利の方程式の一部だった。
テロリズムの現代的形態も決して新しいものではない。
ロンドンの地下鉄を初めて爆破したのは1883年にディストリクト線をやったフェニアンだった。
最初の自爆テロは1906年のロシアの首相への攻撃だった。
最初にダイナマイトを詰めた飛行機をミサイルとして用いる計画を立てたのは1907年のアナキストのボリス・サヴィンコフ(Boris Savinkov<。1879〜1925年>)だった。
最初の車載爆弾は1920年に<ニューヨークの>ウォール・ストリートを爆破した。・・・
マイケル・バーレイは、本件に関する彼の探査ないしは「文化史」を19世紀中頃のアイルランド人達による英国への攻撃から始める。
ちょうどその頃、ノーベルがニトログリセリンをペースト状にして安定させることができることを発見している。
このことが、ガイ・フォークス(Guy Fawkes)<(コラム#183、1268)>の時代以来のテロ技術の進歩をもたらした。つまり、軍隊を持たなくても大量殺害ができるようになったのだ。
しかも、その効果は新しいマスメディアによって飛躍的に高められることになった。
テロの本質は殺害した人数ではなく、その反響の大きさにあるのだ。・・・」(H)
(2)テロリストのいかがわしさ
「・・・[赤軍派の]誘拐犯達のドイツ経済の高次の機能についての信じられないほどの無知さ加減に目を丸くした、被誘拐者たるドイツの産業家、ハンス・シュレイ(Hans Schley)・・・
バーダー=マインホフ・グループの<このような>政治についての無知さ加減と同じくらい、その共同設立者の<片方の女性の>武器についての無知さ加減は危険千万だった。
元はモードに関するジャーナリストであったウルリケ・マインホフ(Ulrike Meinhof<。写真:http://www.spiegel.de/img/0,1020,794526,00.jpg>)は、手榴弾の輪をを引き抜き、シューという音が始まったというのに、投げなきゃだめだということが分かっていなかった。
マインホフにとっての共同革命家たるアンドレアス・バーダー(Andreas Baader<。写真:http://www.bibliotecamarxista.org/immagini/baader%20andreas/Andreas-Baader.jpg>)は、バーレイの探査対象者達の腹立たしくナルシスティックな性向の多くを体現している人物だ。
すなわち彼は、気むずかしく、怠け者で、醜く、熱に浮かされたような空想にふけり、取るに足らない才能しか持たず、ただただ他人・・当然のことながら彼より才能があり知力もある他人・・を吹き飛ばすことだけしか能がない。・・・
バーダーにとってテロリズムは、オサマ・ビンラディンのように他人の関心を惹き付けようとする連中同様、劇場なのだ。
自分のプロダクションの監督をしてその中で自分の好きなギャング映画・・とりわけ「アルジェの戦い(The Battle of Algiers)」や(ある赤の旅団のメンバーが20回も鑑た)「ワイルドパンチ(The Wild Bunch)」・・のマネをして主役を演じるチャンスだというわけだ。
バーダーは、16ミリカメラを自分の放火攻撃を記録するために借りた。彼はカツラをつけており、車に乗っている時、・・・自分のベンツのバックミラーを見ながら白粉をつけることを好んだ。
彼の知識人たる擁護者のジャン=ポール・サルトルでさえ、彼に会った後、内輪話で「バーダーという奴は何ちゅうアホか」と言ったものだ。・・・」(D)
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
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