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太田述正コラム#3401(2009.7.17)
<中共における豪州鉄鋼会社幹部逮捕事件>(2009.8.17公開)
1 始めに
このところの日本の主要メディアの電子版にほとんど登場しないニュースがあります。
直接日本には関わらないニュースだからでしょうが、英米では、アングロサクソン仲間の豪州の企業の話であるから、ということももちろんあるわけですが、それ以上に、新疆ウイグル地区騒乱と対で取り上げることによって、中共の現体制のうさんくささが浮き彫りになってくるからこそ積極的にこのニュースを取り上げている、という趣があります。
それでは、それがいかなるニュースであるかをご説明しましょう。
2 中共における豪州鉄鋼会社幹部逮捕事件
「・・・英豪の鉱業の巨人企業であるリオ・ティント(Rio Tinto)の4人の社員が、先週、国家秘密を盗んだ廉で逮捕されるずっと以前から、中共の鉄鋼産業で働いている人々は、賄賂、詐欺(deceit)、そしてシステムの腐敗をこぼしてきた。
<この鉄鋼産業における>インチキの一つが広く話題とされてきた。
大きな政府所有の鉄鋼メーカー各社は、各社に与えられていた輸入ライセンスを必要量以上の鉄鉱石の購入に使ってきた。
それからこれら各社は、違法に、過剰な鉄鉱石を不可欠な原料であるところの鉄鉱石を輸入するライセンスを持っていない小規模生産者達に売却することで、利益をあげてきたのだ。
この慣行は、・・・<中共の>産業に係る法令を破るものであり、腐敗の文化を醸成してきたシステムの一環だ・・・。
小規模の鉄鋼生産者達は、大量購入によって割引価格で買う長期契約を結んでいる大きな鉄鋼メーカー各社から原料を買ってはならないこととされている。
彼等は、価格が乱高下する場合があるところの、鉄鉱石市場で買い付けを行うべきこととされているわけだ。
小規模生産者達は、長らく、このシステムは大きな国有の各社を優遇するものであると不満を訴えてきた。
小規模生産者達は言う。こうして、「レント・シーキング(rent seeking)」、すなわち、より大規模な競争相手に贈賄してその<相手が購入した>過剰な鉄鉱石を購入する、というインチキを行うインセンティブが働く、と。・・・
政府の息がかかっているウェブサイトは、当局の捜査官達は、リオ・ティントの社員達が国有の鉄鋼所各社における生産と在庫の水準を示す政府の秘文書群へのアクセスを得るために、鉄鋼業の幹部達に贈賄した証拠を持っていると詳細な形で示唆している。
この種データは、リオ・ティントが中共の鉄鋼所各社と毎年の価格交渉を行うにあたって優位に立つことを可能にするのではないか、というのだ。・・・
中共の国家機密法の文面は漠然としており、国有企業各社の商業的秘密にさえ適用できる。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/07/15/world/asia/15riotinto.html?ref=world&pagewanted=print
「・・・<支那系豪州人の>フー<(Stern Hu)>氏が一週間以上前に逮捕された時、彼は英豪の鉱業の巨大企業であるリオ・ティントのための機微に触れる鉄鉱石価格交渉を統括していた。
同じく逮捕されたところの、<残りの>3人のリオ・ティントの社員は、全員中共の市民だ。・・・
・・・当地では、彼等の逮捕は、国有の中共の企業であるチャイナルコ(Chinalco)が計画していた<195億米ドルにのぼる>投資を先月解約したリオ・ティントに対する報復であるとの憶測がなされている。
この取引は、チャイナルコのリオ<の資本金>における<現行の>シェア9.3%を18%以上に引き上げるというものだったが、鉱物の富がその経済にとって重要で中共の豪州における力を恐れ始めた豪州において、強硬な政治的反対を招いた。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/07/15/world/asia/15australia.html?pagewanted=print
(7月15日アクセス)
「・・・今週中共を訪問中である米国の商務長官のゲアリー・ロック(Gary Locke)は、北京における15日と16日の会合において、リオ・ティントの社員達が公正に扱われるよう求め、<豪州の政府や産業界だけでなく、米国政府や>米国の産業界もまた、<中共における>法的保護のあり方について心配を抱いていることをはっきりと伝えておいた、と語った。・・・
リオ・ティントは、鉄鉱石採掘業者の中で、最近中共の鉄鋼所各社との間で毎年行われる鉄鉱石交渉において合意に達しなかった者のうちの一つでもあった。
両陣営は、価格削減幅をめぐって激烈な戦いを繰り広げてきた。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/07/17/world/asia/17riotinto.html?ref=world&pagewanted=print
(7月17日アクセス)
「・・・この・・<フーの逮捕という>出来事は、極めて憂慮されるべきことだ。
中共当局は、上海をベースにしているこの豪州市民(漢人系)にスパイ罪の嫌疑をかけており、彼が違法に中共の鉄鋼所各社の鉄鉱石に係る交渉の手の内(bids)を入手したことを示唆している。
チャイナルコがリオ・ティントにおける資本金のシェアを増やそうと提案したがそれが失敗に終わった直後に逮捕が行われたというタイミングは、特に疑惑を呼ぶところだ。
しかも、仮にスターン・フーが違法にかかる情報を得たとしても、彼が中共という国家に深刻な経済的損害を与えたとかその国の国益を害したなどと言うことはばかげているように見える。
窃盗罪(larceny)ではなくてスパイ罪の嫌疑がかけられているということは、中共当局が公と私とを分離すること、すなわち、国益や安全保障上の利益と商業的かつビジネス的利益とを区別することに多大なる困難を覚えていることを裏付けるものだ。
各種法律の文言は漠然としていて、役人達に適用上の大きな裁量を与えている。
この事件は、中共当局がその各種法律をその政治的目的のために用いる傾向があることをもまた、指し示している。
更に、中国共産党が各種裁判所を完全に統制下に置いていることは、スターン・フーがその下に置かれることになる中共における司法的適正手続き(judicial due process)は<欧米における>「法の支配」と完全に同じものではないことを意味する。
<新疆ウイグル地区の騒乱と本件という最近の>二つの出来事は、内々のものかもしれないが、強いメッセージを中共の隣国たる各国に送っている。
中共は、大したことのない脅威に対して過剰反応をするし、また、少数民族から経済競争に至るあらゆることにおいて巧みなやり方よりも剛腕を好む、というメッセージを・・。
中共が米国に代わって地域覇権国になろうとしているのであれば、これでは間違ったメッセージを送っていると言わざるをえない。・・・」
http://www.foreignpolicy.com/articles/2009/07/14/chinas_one_hundred_years_of_ineptitude?page=full
(7月15日アクセス)
3 終わりに
要するに、自由民主主義化、すなわち自由主義(=法の支配)と民主主義(=中央政治への普通選挙の導入/中国共産党一党独裁の廃棄)の確立なくして、中共の将来はない、ということです。
このことは、中共と関わる日本の政治家、ジャーナリスト、学者、経済人等が機会あるごとに中共の人士に伝えるべきでしょう。
そしてその際には、支那史における遊牧民的伝統に着目すべきことも付け加えることがお勧めです。
例えば、遊牧民起源との説がある秦が法家の商鞅を重用したり韓非子を高く評価したりして国家制度を整備し、それが漢から始まる漢人王朝にも引き継がれた
http://100.yahoo.co.jp/detail/%E6%B3%95%E5%AE%B6/
http://100.yahoo.co.jp/detail/%E5%95%86%E9%9E%85/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%93%E9%9D%9E%E5%AD%90
こと、支那史に深く関わった遊牧民が、ことごとく首長の有力者による選挙制をとっていたこと、等を指摘し、支那に自由民主主義的伝統があり、この伝統に「回帰」すべきである、と説くべきなのです。
<中共における豪州鉄鋼会社幹部逮捕事件>(2009.8.17公開)
1 始めに
このところの日本の主要メディアの電子版にほとんど登場しないニュースがあります。
直接日本には関わらないニュースだからでしょうが、英米では、アングロサクソン仲間の豪州の企業の話であるから、ということももちろんあるわけですが、それ以上に、新疆ウイグル地区騒乱と対で取り上げることによって、中共の現体制のうさんくささが浮き彫りになってくるからこそ積極的にこのニュースを取り上げている、という趣があります。
それでは、それがいかなるニュースであるかをご説明しましょう。
2 中共における豪州鉄鋼会社幹部逮捕事件
「・・・英豪の鉱業の巨人企業であるリオ・ティント(Rio Tinto)の4人の社員が、先週、国家秘密を盗んだ廉で逮捕されるずっと以前から、中共の鉄鋼産業で働いている人々は、賄賂、詐欺(deceit)、そしてシステムの腐敗をこぼしてきた。
<この鉄鋼産業における>インチキの一つが広く話題とされてきた。
大きな政府所有の鉄鋼メーカー各社は、各社に与えられていた輸入ライセンスを必要量以上の鉄鉱石の購入に使ってきた。
それからこれら各社は、違法に、過剰な鉄鉱石を不可欠な原料であるところの鉄鉱石を輸入するライセンスを持っていない小規模生産者達に売却することで、利益をあげてきたのだ。
この慣行は、・・・<中共の>産業に係る法令を破るものであり、腐敗の文化を醸成してきたシステムの一環だ・・・。
小規模の鉄鋼生産者達は、大量購入によって割引価格で買う長期契約を結んでいる大きな鉄鋼メーカー各社から原料を買ってはならないこととされている。
彼等は、価格が乱高下する場合があるところの、鉄鉱石市場で買い付けを行うべきこととされているわけだ。
小規模生産者達は、長らく、このシステムは大きな国有の各社を優遇するものであると不満を訴えてきた。
小規模生産者達は言う。こうして、「レント・シーキング(rent seeking)」、すなわち、より大規模な競争相手に贈賄してその<相手が購入した>過剰な鉄鉱石を購入する、というインチキを行うインセンティブが働く、と。・・・
政府の息がかかっているウェブサイトは、当局の捜査官達は、リオ・ティントの社員達が国有の鉄鋼所各社における生産と在庫の水準を示す政府の秘文書群へのアクセスを得るために、鉄鋼業の幹部達に贈賄した証拠を持っていると詳細な形で示唆している。
この種データは、リオ・ティントが中共の鉄鋼所各社と毎年の価格交渉を行うにあたって優位に立つことを可能にするのではないか、というのだ。・・・
中共の国家機密法の文面は漠然としており、国有企業各社の商業的秘密にさえ適用できる。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/07/15/world/asia/15riotinto.html?ref=world&pagewanted=print
「・・・<支那系豪州人の>フー<(Stern Hu)>氏が一週間以上前に逮捕された時、彼は英豪の鉱業の巨大企業であるリオ・ティントのための機微に触れる鉄鉱石価格交渉を統括していた。
同じく逮捕されたところの、<残りの>3人のリオ・ティントの社員は、全員中共の市民だ。・・・
・・・当地では、彼等の逮捕は、国有の中共の企業であるチャイナルコ(Chinalco)が計画していた<195億米ドルにのぼる>投資を先月解約したリオ・ティントに対する報復であるとの憶測がなされている。
この取引は、チャイナルコのリオ<の資本金>における<現行の>シェア9.3%を18%以上に引き上げるというものだったが、鉱物の富がその経済にとって重要で中共の豪州における力を恐れ始めた豪州において、強硬な政治的反対を招いた。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/07/15/world/asia/15australia.html?pagewanted=print
(7月15日アクセス)
「・・・今週中共を訪問中である米国の商務長官のゲアリー・ロック(Gary Locke)は、北京における15日と16日の会合において、リオ・ティントの社員達が公正に扱われるよう求め、<豪州の政府や産業界だけでなく、米国政府や>米国の産業界もまた、<中共における>法的保護のあり方について心配を抱いていることをはっきりと伝えておいた、と語った。・・・
リオ・ティントは、鉄鉱石採掘業者の中で、最近中共の鉄鋼所各社との間で毎年行われる鉄鉱石交渉において合意に達しなかった者のうちの一つでもあった。
両陣営は、価格削減幅をめぐって激烈な戦いを繰り広げてきた。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/07/17/world/asia/17riotinto.html?ref=world&pagewanted=print
(7月17日アクセス)
「・・・この・・<フーの逮捕という>出来事は、極めて憂慮されるべきことだ。
中共当局は、上海をベースにしているこの豪州市民(漢人系)にスパイ罪の嫌疑をかけており、彼が違法に中共の鉄鋼所各社の鉄鉱石に係る交渉の手の内(bids)を入手したことを示唆している。
チャイナルコがリオ・ティントにおける資本金のシェアを増やそうと提案したがそれが失敗に終わった直後に逮捕が行われたというタイミングは、特に疑惑を呼ぶところだ。
しかも、仮にスターン・フーが違法にかかる情報を得たとしても、彼が中共という国家に深刻な経済的損害を与えたとかその国の国益を害したなどと言うことはばかげているように見える。
窃盗罪(larceny)ではなくてスパイ罪の嫌疑がかけられているということは、中共当局が公と私とを分離すること、すなわち、国益や安全保障上の利益と商業的かつビジネス的利益とを区別することに多大なる困難を覚えていることを裏付けるものだ。
各種法律の文言は漠然としていて、役人達に適用上の大きな裁量を与えている。
この事件は、中共当局がその各種法律をその政治的目的のために用いる傾向があることをもまた、指し示している。
更に、中国共産党が各種裁判所を完全に統制下に置いていることは、スターン・フーがその下に置かれることになる中共における司法的適正手続き(judicial due process)は<欧米における>「法の支配」と完全に同じものではないことを意味する。
<新疆ウイグル地区の騒乱と本件という最近の>二つの出来事は、内々のものかもしれないが、強いメッセージを中共の隣国たる各国に送っている。
中共は、大したことのない脅威に対して過剰反応をするし、また、少数民族から経済競争に至るあらゆることにおいて巧みなやり方よりも剛腕を好む、というメッセージを・・。
中共が米国に代わって地域覇権国になろうとしているのであれば、これでは間違ったメッセージを送っていると言わざるをえない。・・・」
http://www.foreignpolicy.com/articles/2009/07/14/chinas_one_hundred_years_of_ineptitude?page=full
(7月15日アクセス)
3 終わりに
要するに、自由民主主義化、すなわち自由主義(=法の支配)と民主主義(=中央政治への普通選挙の導入/中国共産党一党独裁の廃棄)の確立なくして、中共の将来はない、ということです。
このことは、中共と関わる日本の政治家、ジャーナリスト、学者、経済人等が機会あるごとに中共の人士に伝えるべきでしょう。
そしてその際には、支那史における遊牧民的伝統に着目すべきことも付け加えることがお勧めです。
例えば、遊牧民起源との説がある秦が法家の商鞅を重用したり韓非子を高く評価したりして国家制度を整備し、それが漢から始まる漢人王朝にも引き継がれた
http://100.yahoo.co.jp/detail/%E6%B3%95%E5%AE%B6/
http://100.yahoo.co.jp/detail/%E5%95%86%E9%9E%85/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%93%E9%9D%9E%E5%AD%90
こと、支那史に深く関わった遊牧民が、ことごとく首長の有力者による選挙制をとっていたこと、等を指摘し、支那に自由民主主義的伝統があり、この伝統に「回帰」すべきである、と説くべきなのです。
太田述正ブログは移転しました 。
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