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太田述正コラム#3395(2009.7.14)
<文明的とは何ぞや(その1)>(2009.8.14公開)

1 始めに

 オーストラリアのメルボルン・ビジネススクールの哲学教授のジョン・アームストロング(John Armstrong。1966年〜)が上梓した本'In Search of Civilization: Remaking a Tarnished Idea' の内容の概要を、例によって書評に依拠してご説明しましょう。
 彼は、スコットランドのグラスゴー生まれで、オックスフォード大学卒、ロンドン大学を経て2001年にオーストラリアに赴きました。

2 本の内容の概要

 まずは、この本を絶賛する書評から始めましょう。

 「・・・アームストロングは、哲学を、我々が賢明(wisely)かつ十全(well)に生きることを助けるという、最も緊急性のある、伝統的かつ気高い任務に戻そうとする動きの先頭に立っている。・・・
 アームストロングは、文明という概念は問題を引き起こしてきたことを認める。
 というのは、それは植民地主義ともったいぶった、地位がしからしめる芸術への関心とだぶって映るのを常としてきたからだ。
 しかし彼は、我々が色んな意味で(もう一つのタブー用語である)「野蛮人」に堕してしまったことを率直に認めつつ、我々は、文明という言葉を、それがかつて持っていた積極的連想でもって満たすことを再学習しなければならない、と巧みに強く主張する。・・・
 彼は、真に文明化された世界とは、人々が真、美、善に傾倒する世界であることを示唆することを躊躇しない。
 このような主張が盛り込まれた本など、まともな出版社は少なくともこの120年、出してはくれなかったものだ。
 しかし、私の感じでは、アームストロングは歴史の潮流を味方にしている。・・・
 彼は、欧米文明の問題は、物質的繁栄は速く増進したけれど同程度には精神的繁栄が増進していないことだと言う。
 この意味するところは、欧米の物質的富とこの富を自己実現(self-actualisation)のために使う能力との間に全般的不均衡がある、ということだ。・・・
 彼は、我々に対し、完全に世俗的な観点から、心(soul)を開発することに関心を持つように促している。
 そうすることによって、我々はもっと共感的、友好的、親切、黙想的、かつ感受性が鋭敏になる可能性がある、というのだ。・・・
 ・・・彼は、資本主義を右翼と左翼の双方からの批判者に対して擁護するという良い感覚と勇気を持っている。・・・
 彼は、市場を改革するのではなく、消費者の心を改革したいと思っているのだ。供給のメカニズムではなく、需要の進路(tenor)を・・。・・・
 彼は、学問を通じて身につけたことを現実の行動に影響を与え始めるべきであり、「将軍や総督や元老員議員のような決して学者になることがない人々と関わるように」と説いた古代ローマの最も有名で人気がある哲学者たるキケロ(Cicero)を薦める。
 アームストロングは、「人々が道理をわきまえ、忍耐強く、機知に富み、成熟し、洗練され、勇敢で自制的であることを奨励するような広汎な社会的枠組み」が必要であると言う。・・・
 彼は、黄金時代のアテネ、フィレンツェ、パリといった、誰でもあげそうなあらゆるもの(all the usual suspects)を好む。
 また、彼は、プーサン(<Nicolas >Poussin<。1594〜1665年。フランスの古典派の画家>)(注1)と日本の茶道を称賛する。・・・

 (注1)彼の作品を含め、
http://en.wikipedia.org/wiki/Nicolas_Poussin
参照のこと。(太田)

 アームストロングは、サンドニ(Saint-Denis)大修道院の改革を行ったシュジェ大修道院長(Abbot Suger<。1081?〜1151年。政治家にして歴史家にしてゴシック建築の初期のパトロン>)(注2)のことを語っているが、それは同時に、彼自身のことを語っているとも言えそうだ。

 (注2)http://en.wikipedia.org/wiki/Abbot_Suger (太田)

 すなわち、「シュジェの主たる関心は、大衆文化からエリート文化へと人々を引き上げることだった。そのための彼の方法は、衒学ぶったり日常的な楽しみを咎めたりすることではなかった。彼の見解は、大衆文化は、単に、高い文化がより直接的かつより大きな洞察(insight)でもって与えてくれるのと全く同じものに低開発状態にして初歩的な方法で取り組んでいるだけのことだ、というものだ。・・・」と。
http://www.guardian.co.uk/books/2009/jun/28/search-civilization-john-armstrong-review
(6月29日アクセス)

(続く)

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