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太田述正コラム#3337(2009.6.15)
<北朝鮮の「核」をめぐって(その1)>(2009.7.12公開)

1 始めに

 このあたりで、北朝鮮の「核」をめぐる現況に触れておくことにしましょう。

2 北朝鮮の「核」

 (1)ウラン濃縮作業への着手を表明した北朝鮮

 「・・・北朝鮮は13日、対外発表の形式で最もレベルが高い「外務省声明」で、「安保理決議1874を断固糾弾、排撃する」とし、▲ウラン濃縮作業の着手▲新たに抽出されるプルトニウムを全量武器化▲(船舶検査など北朝鮮に対する)封鎖に対する軍事的対応−という3項目の措置を取ると主張した。・・・
 ウラン濃縮は北朝鮮が既に寧辺地区の施設で行っているプルトニウム再処理とは異なり、大規模な施設が必要なく、放射能放出もほとんどないため発覚しにくい。ウラン濃縮を行うためには、主に遠心分離機が使われるが、これは990平方メートルほどの用地があれば、関連設備を十分に設置可能だ。その上、北朝鮮が既に建設済みの地下施設に設備を設置できると当局はみている。寧辺のように米偵察衛星を通じた摘発は容易ではない。
 また、ウラン濃縮による核兵器開発は、臨界量(20キログラム)さえあれば容易に爆発させられる長所があり、核実験も必要ない。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090615000016
(6月15日アクセス。以下同じ)

 しかし、「・・・北朝鮮には遠心分離機に必要な高強度ベアリングなどを独自で生産する能力がなく、これら物資の輸出入は厳しく規制されており、外部から購入できない状態とみられる。・・・
 一般的にウラン濃縮方式で核兵器1個を作るのに25−30キログラムの高濃縮ウランが必要だ。それだけの濃縮ウランを集めるためには、P1型遠心分離機で2500−3000台、P2型遠心分離機を1000−1200台を1年間稼働させる必要があるとされる。
 <とはいえ、>北朝鮮が入手した<ことが確認されている>高強度アルミニウム150トンは、遠心分離機約2600台が必要な分量に当たるため、これを全て遠心分離機の材料として使用すれば、年間1−2個のウラン爆弾を生産できる計算だ。」
http://www.chosunonline.com/news/20090615000017

→北朝鮮がウラン濃縮に本格的に乗り出すと言明したことは、もっと注目されてしかるべきかも。(太田)

 (2)ウラン濃縮

 「北朝鮮は、いわゆる第2次核危機が始まった2002年以来、一貫してウラン濃縮関連の疑惑を否定してきた。ところが今月13日、北朝鮮外務省の報道官は、既に「ウラン濃縮の試験段階に入った」との声明を発表した。これまで国際社会を相手に「詐欺行為」をはたらいていた、と自ら告白したわけだ。
 北朝鮮の核問題に関連しウラン濃縮が話題となったのは、2002年10月に当時の米国国務省ジェームズ・ケリー国務次官補が平壌を訪問してからのことだった。ケリー次官補は、独自に入手した証拠を元に北朝鮮側に対し高濃縮ウラン(HEU)疑惑を質し、これに対し北朝鮮外務省の姜錫柱(カン・ソクチュ)副相が「われわれはHEU計画を推進する権利があり、それよりもっと強力な兵器も作ることになっている」と語ったことが分かっている。この一言で米国は北朝鮮への重油供給を中断、北朝鮮はこれに反発し核拡散防止条約(NPT)からの脱退などを行い、それまで8年以上も続いてきた「ジュネーブ合意」は紙切れと化した。いわゆる第2次核危機の始まりだった。・・・
 米国は当初から、北朝鮮に徹底してだまされていた形になるわけだ。」
http://www.chosunonline.com/news/20090615000018

 「・・・ウラン濃縮計画がないと言い張ってきた北朝鮮政府は、2007年に米国の外交官をミサイル工場に連れて行ったが、そこには、何人かの専門家達がウラン濃縮に使うことができると指摘していたところの、アルミニウムの筒が何本かあった。
 北朝鮮は、この外交官に若干のサンプルを持ち帰ることを認めた。
 <ところが、>予期せぬことに、これらのサンプルに濃縮ウランの痕跡が付着していることが発見された。
 また、北朝鮮の非核化に関する今や中断されてしまった交渉の一環として、2008年に米国に渡された北朝鮮の原子炉の記録のいくつかのページでやはり<濃縮ウランの>痕跡が発見された。
 この数年、米国の役人達は、北朝鮮はウラン濃縮を試みたけれど余りうまくは行っていないことを示唆していた。
 しかし北朝鮮は、13日、<ウラン濃縮で同国が>前進を遂げたと言明した。
 「核実験の実施(experimental procedure)を可能にするだけの核燃料を供給するウラン濃縮技術の開発に関する十分なる成功を遂げた」と同国政府は言明したのだ。そして、「ウラン濃縮プロセスに着手されることになろう」とも。
 これは、少なくとも当面のところは、からいばりの可能性が大だ。
 かつてのロス・アラモス国立実験所(Los Alamos National Laboratory)の所長で現在スタンフォード大学の国際安全保障・協力センターの共同センター長をしていて、ヨンビョン施設群を定期的に訪問しているシーグフリード・S・ヘッカー(Siegfried S. Hecker)によれば、北朝鮮がウラン・ルートで原爆を開発するには長い年月がかかるだろうという。
 先月・・・ヘッカーは、北朝鮮はウラン濃縮のための器具、技術、及びノウハウを持っていないと記した。
 ただし彼は、イランはこの技術を修得しており、北朝鮮がウラン濃縮で前進することを助けることができる、と警告した。」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/06/13/AR2009061300636_pf.html

→北朝鮮は、ウラン濃縮についても、これまで国際社会にウソをつきとおしてきたってわけです。いやはや。(太田)

 (3)長距離ミサイル技術とプルトニウム生産

 「北朝鮮とイランは、核弾頭を搭載できる長距離ミサイル技術を両国で交換し合っている。
 北朝鮮は、13日に、ヨンビョン原子炉における使用済み核燃料棒が再処理されつつあり、その結果として得られるプルトニウムは核兵器に用いられる、ということも表明した。
 同国政府は、同国が上記の三分の一以上の再処理を終わっていることを表明した。
 ヘッカーは、最近のインタビューの際、使用済み核燃料棒によって得られるプルトニウムは「更に一つか二つの」核実験を行うために十分な量であると述べた。
 彼はまた、北朝鮮がヨンビョンの工場を再起動するには約6ヶ月かかるだろうが、それ以降は、10年間にわたって毎年約一つの核爆弾を作るために十分な量のプルトニウムを生産できる、と述べた。
 <ちなみに、>本年初め、北朝鮮の役人達は、技術者達は、これまでヨンビョンで製造されたプルトニウムをすべて核兵器を作るために使い切ったと述べている。・・・」
(ワシントンポスト上掲)

→これから1年半は北朝鮮の手持ち核弾頭はせいぜい1〜2個増えるだけで、それ以降も年1個ずつ増えていくだけである、ということのようです。(太田)

 (4)2回目の核実験は行われたのか?

 「・・・地震学者達は10日、あの爆発が核実験であったという風には思っていると言明した。
 しかし本来は、放射性のガスの形をとる放射性核種(注)の証拠を検知することが強い状況証拠(smoking gun)になるはずなのだ。

 (注)例えば、天然に存在するカリウム(原子番号19)は、質量数39のK-39、質量数40のK-40、質量数41のK-41の3種類があり、このうちK-39とK-41は放射能がないので安定核種とよび、K-40は放射能を持つので放射性核種という。
http://www.weblio.jp/content/%E6%94%BE%E5%B0%84%E6%80%A7%E6%A0%B8%E7%A8%AE

 これに関する大ニュースは、その兆候がこれまでのところ発見されていないことだ。・・・
 ・・・北朝鮮の2006年の核実験の後<、>・・・12日経った時点で・・・数百個の稀少ガスであるキセノン(Xenon)133が・・・カナダで拾得された。・・・
 ・・・果たして北朝鮮の人々は爆発を封じ込めるべく意図的に努力したのだろうか、それとも、たまたま偶然爆発が封じ込められたのだろうか。
 もう少し大きな核爆発であれば、その周辺の岩を「溶かす」ので、漏出する稀少ガスはより少なくなるものなのだが・・。・・・」
http://www.bbc.co.uk/blogs/newsnight/susanwatts/2009/06/no_noble_gas_from_north_korea.html 

→北朝鮮の言うことはすべて疑ってかかる必要がありますが、いくらなんでも、今回の核実験がウソだったなんてことはないんでしょうね。(太田)

(続く)

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