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太田述正コラム#3254(2009.5.4)
<天才はつくられる(その1)>(2009.6.14公開)
1 始めに
米国で、昨年、ジョフ・コルヴィン(Geoff Colvin)の“Talent Is Overrated”、またつい最近、ダニエル・コイル(Daniel Coyle)の"The Talent Code”が上梓され、どちらの著者も、天才は生来のものではなくつくられる、と主張しています。
永遠のテーマとも言える、nature対nurture論争の一環として、極めて興味深いものがあります。
さっそく、彼らの主張をご紹介することにしましょう。
2 両著を一括りにした書評から
「・・・天才達と並才達を分かつのは、聖なる火花なんてものではない。・・・それは練習なのだ。・・・
典型的な天才がどのように生まれるかを図式的に知りたいのであれば、平均よりちょっと上の言語能力を持った少女を例にとってみるとよかろう。
それが大きな才能である必要はない。彼女が自分は特別だという気がすればそれで十分だ。
それからあなたは、少女を、例えば小説家に引き合わせる。生い立ち等が少女と共通している人物であればなおよい。
同じ町出身とか、同じ民族的背景を持つとか、誕生日が同じだとか、親近感を醸成するものであれば何でもよいのだ。
この接触によって、少女は将来の自分についてのビジョンを与えられることだろう。・・・
少女の両親のうちどちらかが、彼女が12歳の時に亡くなるとすれば、それも悪くない。
少女は深刻な不安感を抱くようになり、何が何でも成功しなければならないという思いをかき立てられるからだ。・・・
<大事なことは、>行為者(performer)の自動化プロセス<の確立>を遅らせることだ。
大脳は、新しく意図的に学んだ技術を、無意識的かつ自動的に行為が行われる技術へと変換しようとする。
しかし大脳はだらしがない存在であり、適当なところで妥協しようとする。
だから、技術を細かい部分に分解し、繰り返す形で徐々に練習していくことで、精力的な学び手は、大脳により良いパターンと行為(performance)を強制的に植え付けるのだ。
それから、我らが若き作家は、日常的にフィードバックのシャワーを浴びせかけてくれる教師(mentor)を見つけることになる。
この教師は、彼女の行為を外から眺め、最も小さなエラーをも矯正し、彼女をより厳しい挑戦へと立ち向かわせる。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/05/01/opinion/01brooks.html?ref=opinion&pagewanted=print
(5月2日アクセス)
3 コイルの本の書評ないし自評
(1)書評
「・・・我々が繰り返し「特定の回路に火を付ける」とつくられる神経絶縁体であるところの、髄(myelin)<(髄鞘(myelin sheath)=神経細胞の軸索を取り囲む鞘、を形作る物質)>。特定の回路に沿って髄がつくられればつくられるほど、「より強く、より速く、そしてより正確に、我々の<それに係る>動きと思考がなっていくことになるのだ。・・・」
http://thetalentcode.com/press/
(5月4日アクセス)
(2)自評
「・・・1990年代末に、それまでには全くなかったことだが、モスクワからテニスのスターが続々と出現した。<一体こういったことをどう考えればよいのだろうか。>・・・
・・・<また、>ピアニスト達の研究の結果、髄と呼ばれる特定の神経物質が練習に比例して増加することが分かった。・・・
私が深い練習と呼ぶところの特定の種類の練習は、浅い練習に比べて技術を10倍の速度で身につけさせる。・・・
・・・我々は、彼らが練習に10分間しか費やさなかったとしても気にかけない。というのは、深い練習は、浅い練習の何時間分にも相当するからだ。・・・
子供が、何かと自己同一化した時、つまりは、彼または彼女が自分自身がそれを長きにわたってやることになると思った時、それはロケット燃料のように深い、生産的な練習の燃料となる。
この点火の瞬間は、クールで神秘的なものだが、何がそれを起こさせるのだろうか。
それは、間違いなく論理的なものではなく、純粋な感情かつ根源的な結びつきであって、大きな結果をもたらす。・・・
<それまで楽器をやったことのない子供達に楽器をやらせる実験が行われた。その結果判明したことは次のとおりだ。>
<音楽演奏の天才をつくるのは>IQか(否)。音を聞き分ける能力か(否)。数学の能力か(否)、リズムをとる能力か(否)。社会経済的地位か、収入か、両親か(否、否、否)。
彼らの進歩を決定した唯一の要素は、彼らが<楽器の練習を>始める前に質問されたことへの答えだったのだ。
その質問は、「君はこの楽器をどれくらい長く演奏することになると思いますか」というものだった。
「私は一年かちょっとくらい演奏すると思う」と答えた子供はほとんど進歩しなかった。
「私は小学校時代の間は演奏すると思う」と答えた子供は中くらいの進歩をした。
そして、点火されていて「私は生涯演奏すると思う」と答えた子供は猛進し、他の子供達より400%も速く進歩した。・・・
ある子供のアイデンティティーが目標によって包まれた時、彼らは巨大な燃料源にぶちあたったのだ。・・・
・・・スタンフォード大学の心理学者のキャロル・ドゥウェック(Carol Dweck)は気の利いたルールを持っている。
彼女は、あらゆる子育て<の秘訣>は、二つの簡単なルールに集約できると言う。
第一は、あなたの子供が何を凝視しているかに注意を払うことであり、第二は、彼らの努力を褒めてやることだ。
これは、本当にうまく働くのだ。・・・
私は、(モスクワの、インドアに一面だけのコートを持つテニスクラブである)スパルタク(Spartak)のテニス・コーチに会った時のことを思い出す。
彼女は一つのルールを持っていた。3年間は試合をさせないことだ。
彼女の生徒達は、試合をするまでに3年間、ストロークの練習だけをする。その理由は、試合をすると、勝ちたいがゆえに悪い習慣(技術回路)を身につけてしまうからだ。・・・ <国、地域によって様々な天才のつくり方の文化があるが、>文化が(子供の尻を叩きすぎるといった)過ちを犯すのは、才能のメカニズムが本当はどう機能しているのかが分かっていないからだ。
例えば、もしあなたが才能は純粋に遺伝であって、人間は聖なる火花をもって生まれるのだとだと信じる文化の一員であれば、あなたは厳しい練習をさせようとは思わないかもしれない。・・・
また、もしあなたがあらゆる才能は厳しい練習のたまものであると信じる文化の一員であれば、タイガー・ウッドのようになるためにと、子供は毎日ゴルフの練習を1,000スイングやらされるかもしれないが、それは、尻の叩きすぎというものだ。
しかし、もしあなたが才能には深い練習と点火の両方が必要であり、モチベーションは子供から来なければならず、またそのモチベーションは特定の種類の生産的な練習へと誘導されなければならないことを理解している文化の一員であれば、あなたは本当に何が有効なのかが分かりかけていると言えよう。・・・
我々は、我々の技術とは、文字通り我々の大脳内の、我々の筋肉と全く同じように動くようにつくられているところの、回路であることに気付きつつある。
もし我々がこれらの諸回路を正しいやり方で働かせることができれば、それらはより速く、より強く、より流暢になるのだ。・・・」
http://49writers.blogspot.com/2009/04/dan-coyles-talent-code-read-about-it.html
(5月4日アクセス)
(続く)
<天才はつくられる(その1)>(2009.6.14公開)
1 始めに
米国で、昨年、ジョフ・コルヴィン(Geoff Colvin)の“Talent Is Overrated”、またつい最近、ダニエル・コイル(Daniel Coyle)の"The Talent Code”が上梓され、どちらの著者も、天才は生来のものではなくつくられる、と主張しています。
永遠のテーマとも言える、nature対nurture論争の一環として、極めて興味深いものがあります。
さっそく、彼らの主張をご紹介することにしましょう。
2 両著を一括りにした書評から
「・・・天才達と並才達を分かつのは、聖なる火花なんてものではない。・・・それは練習なのだ。・・・
典型的な天才がどのように生まれるかを図式的に知りたいのであれば、平均よりちょっと上の言語能力を持った少女を例にとってみるとよかろう。
それが大きな才能である必要はない。彼女が自分は特別だという気がすればそれで十分だ。
それからあなたは、少女を、例えば小説家に引き合わせる。生い立ち等が少女と共通している人物であればなおよい。
同じ町出身とか、同じ民族的背景を持つとか、誕生日が同じだとか、親近感を醸成するものであれば何でもよいのだ。
この接触によって、少女は将来の自分についてのビジョンを与えられることだろう。・・・
少女の両親のうちどちらかが、彼女が12歳の時に亡くなるとすれば、それも悪くない。
少女は深刻な不安感を抱くようになり、何が何でも成功しなければならないという思いをかき立てられるからだ。・・・
<大事なことは、>行為者(performer)の自動化プロセス<の確立>を遅らせることだ。
大脳は、新しく意図的に学んだ技術を、無意識的かつ自動的に行為が行われる技術へと変換しようとする。
しかし大脳はだらしがない存在であり、適当なところで妥協しようとする。
だから、技術を細かい部分に分解し、繰り返す形で徐々に練習していくことで、精力的な学び手は、大脳により良いパターンと行為(performance)を強制的に植え付けるのだ。
それから、我らが若き作家は、日常的にフィードバックのシャワーを浴びせかけてくれる教師(mentor)を見つけることになる。
この教師は、彼女の行為を外から眺め、最も小さなエラーをも矯正し、彼女をより厳しい挑戦へと立ち向かわせる。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/05/01/opinion/01brooks.html?ref=opinion&pagewanted=print
(5月2日アクセス)
3 コイルの本の書評ないし自評
(1)書評
「・・・我々が繰り返し「特定の回路に火を付ける」とつくられる神経絶縁体であるところの、髄(myelin)<(髄鞘(myelin sheath)=神経細胞の軸索を取り囲む鞘、を形作る物質)>。特定の回路に沿って髄がつくられればつくられるほど、「より強く、より速く、そしてより正確に、我々の<それに係る>動きと思考がなっていくことになるのだ。・・・」
http://thetalentcode.com/press/
(5月4日アクセス)
(2)自評
「・・・1990年代末に、それまでには全くなかったことだが、モスクワからテニスのスターが続々と出現した。<一体こういったことをどう考えればよいのだろうか。>・・・
・・・<また、>ピアニスト達の研究の結果、髄と呼ばれる特定の神経物質が練習に比例して増加することが分かった。・・・
私が深い練習と呼ぶところの特定の種類の練習は、浅い練習に比べて技術を10倍の速度で身につけさせる。・・・
・・・我々は、彼らが練習に10分間しか費やさなかったとしても気にかけない。というのは、深い練習は、浅い練習の何時間分にも相当するからだ。・・・
子供が、何かと自己同一化した時、つまりは、彼または彼女が自分自身がそれを長きにわたってやることになると思った時、それはロケット燃料のように深い、生産的な練習の燃料となる。
この点火の瞬間は、クールで神秘的なものだが、何がそれを起こさせるのだろうか。
それは、間違いなく論理的なものではなく、純粋な感情かつ根源的な結びつきであって、大きな結果をもたらす。・・・
<それまで楽器をやったことのない子供達に楽器をやらせる実験が行われた。その結果判明したことは次のとおりだ。>
<音楽演奏の天才をつくるのは>IQか(否)。音を聞き分ける能力か(否)。数学の能力か(否)、リズムをとる能力か(否)。社会経済的地位か、収入か、両親か(否、否、否)。
彼らの進歩を決定した唯一の要素は、彼らが<楽器の練習を>始める前に質問されたことへの答えだったのだ。
その質問は、「君はこの楽器をどれくらい長く演奏することになると思いますか」というものだった。
「私は一年かちょっとくらい演奏すると思う」と答えた子供はほとんど進歩しなかった。
「私は小学校時代の間は演奏すると思う」と答えた子供は中くらいの進歩をした。
そして、点火されていて「私は生涯演奏すると思う」と答えた子供は猛進し、他の子供達より400%も速く進歩した。・・・
ある子供のアイデンティティーが目標によって包まれた時、彼らは巨大な燃料源にぶちあたったのだ。・・・
・・・スタンフォード大学の心理学者のキャロル・ドゥウェック(Carol Dweck)は気の利いたルールを持っている。
彼女は、あらゆる子育て<の秘訣>は、二つの簡単なルールに集約できると言う。
第一は、あなたの子供が何を凝視しているかに注意を払うことであり、第二は、彼らの努力を褒めてやることだ。
これは、本当にうまく働くのだ。・・・
私は、(モスクワの、インドアに一面だけのコートを持つテニスクラブである)スパルタク(Spartak)のテニス・コーチに会った時のことを思い出す。
彼女は一つのルールを持っていた。3年間は試合をさせないことだ。
彼女の生徒達は、試合をするまでに3年間、ストロークの練習だけをする。その理由は、試合をすると、勝ちたいがゆえに悪い習慣(技術回路)を身につけてしまうからだ。・・・ <国、地域によって様々な天才のつくり方の文化があるが、>文化が(子供の尻を叩きすぎるといった)過ちを犯すのは、才能のメカニズムが本当はどう機能しているのかが分かっていないからだ。
例えば、もしあなたが才能は純粋に遺伝であって、人間は聖なる火花をもって生まれるのだとだと信じる文化の一員であれば、あなたは厳しい練習をさせようとは思わないかもしれない。・・・
また、もしあなたがあらゆる才能は厳しい練習のたまものであると信じる文化の一員であれば、タイガー・ウッドのようになるためにと、子供は毎日ゴルフの練習を1,000スイングやらされるかもしれないが、それは、尻の叩きすぎというものだ。
しかし、もしあなたが才能には深い練習と点火の両方が必要であり、モチベーションは子供から来なければならず、またそのモチベーションは特定の種類の生産的な練習へと誘導されなければならないことを理解している文化の一員であれば、あなたは本当に何が有効なのかが分かりかけていると言えよう。・・・
我々は、我々の技術とは、文字通り我々の大脳内の、我々の筋肉と全く同じように動くようにつくられているところの、回路であることに気付きつつある。
もし我々がこれらの諸回路を正しいやり方で働かせることができれば、それらはより速く、より強く、より流暢になるのだ。・・・」
http://49writers.blogspot.com/2009/04/dan-coyles-talent-code-read-about-it.html
(5月4日アクセス)
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/