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太田述正コラム#3154(2009.3.15)
<原理主義的自由主義と精神疾患(続)>(2009.4.20公開)
1 始めに
一年ちょっと前、(コラム#2290-2で)
「1982年から2000年の間に米国、英国、豪州といった利己的資本主義国・・・において精神疾患は2倍近くに増えた。 現在、これら諸国の精神疾患罹患率はおおむね(不平等度が低く集団主義的な)非利己的資本主義国であるところの西欧諸国のそれの2倍に達している。・・・ 利己的資本主義(新自由主義経済、ないし(太田の言うところの)原理主義的自由主義・・・)こそ、1970年代以英国等において精神疾患の著しい増加をもたらした原因だ。・・・」
という説をご紹介したところです。
この話をフォローする記事がガーディアンに2篇出たので、その内容をかいつまんでご紹介しましょう。
なお、この2つの記事の中で、Richard Wilkinson と Kate Pickettの共著の 'The Spirit Level: Why More Equal Societies Almost Always Do Better' と、Richard Layard(コラム#2290-2)の 'Happiness' という2つの本への言及がなされていたことを申し添えます。
2 原理主義的自由主義と精神疾患
「・・・不平等はより短い、より不健康な、そしてより幸福でない生活をもたらす。
すなわちそれは十代の妊娠、暴力、肥満、収監、中毒を増大させる。
それは社会そのもの、その社会の異なった階級へと生まれ落ちた個々人の相互の関係を破壊する。また、不平等は、人々を消費へと駆り立て、地球資源の枯渇をもたらす。・・・
生活の質、健康、あるいは零落(deprivation)といったあらゆる指標について、ある国の経済的不平等度との間に強い相関関係があるという傾向が見られる。
<この観点からすると、>おおむね常に、日本とスカンディナビア諸国は好ましい「低い」端に位置し、英、米、及びポルトガルは好ましからざる「高い」端に位置し、また、加、豪、そして欧州大陸諸国はその間に位置する。・・・
・・・単に貧困層だけでなく、上層から下層までの社会の全構成員が不平等によって悪影響を受けている。
英国は他のOECD諸国と比較すると状況が悪い(上、・・・先進国では子供にとって最も状況が悪い国でもある)にもかかわらず、英国が抱える社会的諸問題は米国においてほど知られていない。
米国に比べると、英国のあらゆる階級の人々の罹病率は低いけれど、勤労年齢帯のスウェーデンの男性達の状況は英国よりも良い。
米国人の糖尿病罹患率は、教育水準が高いか低いかに関わりなく、英国人の2倍に達している。・・・
・・・一番衝撃的なのは、・・・英国の4分の1前後の人々、そして米国の4分の1を超える人々が一年の間に精神的問題を経験しているということだ。ところが日、独、スウェーデン、伊ではそんな人は10%未満なのだ。・・・
ここで予想される茶々は、世界で最も平等な先進国である日本とスウェーデンにおいて、個々人が、集団的健康への脅威となるとみなされることなく、自分自身の考えを表明する余地が果たして十分あるのか、だろう。
この二つの国に批判的な人々は、この二つの国では、平等によって創り出され、かつ平等を維持するために必要であるところの大勢順応性に抗することは頗る付きに困難である、と主張する。
個々人の不平不満を退けたり去勢したりする傾向があることで、・・・この二つの国において、もっと不平等な諸国に比べて自殺率が高い理由を説明できるかもしれない。
<この二つの国で、>うまくいっていないと感じたり、うまくいかなくなったと感じた人は、<平等な国であるからこそ、>自分達自身以外に責めを負わす人などはいないと感じる、ということなのかもしれないと・・。・・・」
http://www.guardian.co.uk/books/2009/mar/13/the-spirit-level
(3月14日アクセス)
「・・・世界保健機関(WHO)が11日に発表した調査によれば、・・・これは欧州全域を調査したものであるところ、金持ちだが所得と社会において不平等度が高い英国のような国で精神面での健康上の問題が多い、という結果が出た。・・・
ある国が金持ちになった場合にそれが物理的な健康の状況に及ぼす傾向を見ると、生存率にはプラスの影響をもたらすものの、精神的健康についてはその反対の影響をもたらす、ということが分かった。・・・
「不平等度が高まると社会的地位を巡る競争が激化し、地位に係る不安感がすべての所得階層において、かつすべての成人と未成人において高まる」と。
つまり、「経済成長が高まる」と「社会的不況」というコストが生じる、というわけだ。・・・」
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2009/03/15/2003438475
(3月15日アクセス)
3 終わりに
最初のガーディアンの記事は日本を極めて平等な国であるとしていますが、
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/4/45/Lisgini.png
を見ると、日本は仏独並の平等度であり、平等であるところのスウェーデンを始めとする北欧諸国と、不平等であるところのアングロサクソン諸国、とりわけ米英との中間くらいに位置していることが分かります。
また、日本の不平等度が、一貫して上昇傾向にあることも分かります。
これは、日本の再アングロサクソン化の動きが背景にあると解すべきです。
いずれにせよ、米英の不平等度の上昇傾向には著しいものがあることは確かであり、これは、それぞれレーガノミックスとサッチャリズムの影響によると解すべきです。
金融危機に発した今次世界不況もこれあり、米英が、不平等の行き過ぎを是正すべく経済政策の転換を図ることは必至です。
日本も、民主党を中心とする政権が樹立されれば、不平等度の上昇傾向に歯止めをかける政策が実行に移されることになることでしょう。
<原理主義的自由主義と精神疾患(続)>(2009.4.20公開)
1 始めに
一年ちょっと前、(コラム#2290-2で)
「1982年から2000年の間に米国、英国、豪州といった利己的資本主義国・・・において精神疾患は2倍近くに増えた。 現在、これら諸国の精神疾患罹患率はおおむね(不平等度が低く集団主義的な)非利己的資本主義国であるところの西欧諸国のそれの2倍に達している。・・・ 利己的資本主義(新自由主義経済、ないし(太田の言うところの)原理主義的自由主義・・・)こそ、1970年代以英国等において精神疾患の著しい増加をもたらした原因だ。・・・」
という説をご紹介したところです。
この話をフォローする記事がガーディアンに2篇出たので、その内容をかいつまんでご紹介しましょう。
なお、この2つの記事の中で、Richard Wilkinson と Kate Pickettの共著の 'The Spirit Level: Why More Equal Societies Almost Always Do Better' と、Richard Layard(コラム#2290-2)の 'Happiness' という2つの本への言及がなされていたことを申し添えます。
2 原理主義的自由主義と精神疾患
「・・・不平等はより短い、より不健康な、そしてより幸福でない生活をもたらす。
すなわちそれは十代の妊娠、暴力、肥満、収監、中毒を増大させる。
それは社会そのもの、その社会の異なった階級へと生まれ落ちた個々人の相互の関係を破壊する。また、不平等は、人々を消費へと駆り立て、地球資源の枯渇をもたらす。・・・
生活の質、健康、あるいは零落(deprivation)といったあらゆる指標について、ある国の経済的不平等度との間に強い相関関係があるという傾向が見られる。
<この観点からすると、>おおむね常に、日本とスカンディナビア諸国は好ましい「低い」端に位置し、英、米、及びポルトガルは好ましからざる「高い」端に位置し、また、加、豪、そして欧州大陸諸国はその間に位置する。・・・
・・・単に貧困層だけでなく、上層から下層までの社会の全構成員が不平等によって悪影響を受けている。
英国は他のOECD諸国と比較すると状況が悪い(上、・・・先進国では子供にとって最も状況が悪い国でもある)にもかかわらず、英国が抱える社会的諸問題は米国においてほど知られていない。
米国に比べると、英国のあらゆる階級の人々の罹病率は低いけれど、勤労年齢帯のスウェーデンの男性達の状況は英国よりも良い。
米国人の糖尿病罹患率は、教育水準が高いか低いかに関わりなく、英国人の2倍に達している。・・・
・・・一番衝撃的なのは、・・・英国の4分の1前後の人々、そして米国の4分の1を超える人々が一年の間に精神的問題を経験しているということだ。ところが日、独、スウェーデン、伊ではそんな人は10%未満なのだ。・・・
ここで予想される茶々は、世界で最も平等な先進国である日本とスウェーデンにおいて、個々人が、集団的健康への脅威となるとみなされることなく、自分自身の考えを表明する余地が果たして十分あるのか、だろう。
この二つの国に批判的な人々は、この二つの国では、平等によって創り出され、かつ平等を維持するために必要であるところの大勢順応性に抗することは頗る付きに困難である、と主張する。
個々人の不平不満を退けたり去勢したりする傾向があることで、・・・この二つの国において、もっと不平等な諸国に比べて自殺率が高い理由を説明できるかもしれない。
<この二つの国で、>うまくいっていないと感じたり、うまくいかなくなったと感じた人は、<平等な国であるからこそ、>自分達自身以外に責めを負わす人などはいないと感じる、ということなのかもしれないと・・。・・・」
http://www.guardian.co.uk/books/2009/mar/13/the-spirit-level
(3月14日アクセス)
「・・・世界保健機関(WHO)が11日に発表した調査によれば、・・・これは欧州全域を調査したものであるところ、金持ちだが所得と社会において不平等度が高い英国のような国で精神面での健康上の問題が多い、という結果が出た。・・・
ある国が金持ちになった場合にそれが物理的な健康の状況に及ぼす傾向を見ると、生存率にはプラスの影響をもたらすものの、精神的健康についてはその反対の影響をもたらす、ということが分かった。・・・
「不平等度が高まると社会的地位を巡る競争が激化し、地位に係る不安感がすべての所得階層において、かつすべての成人と未成人において高まる」と。
つまり、「経済成長が高まる」と「社会的不況」というコストが生じる、というわけだ。・・・」
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2009/03/15/2003438475
(3月15日アクセス)
3 終わりに
最初のガーディアンの記事は日本を極めて平等な国であるとしていますが、
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/4/45/Lisgini.png
を見ると、日本は仏独並の平等度であり、平等であるところのスウェーデンを始めとする北欧諸国と、不平等であるところのアングロサクソン諸国、とりわけ米英との中間くらいに位置していることが分かります。
また、日本の不平等度が、一貫して上昇傾向にあることも分かります。
これは、日本の再アングロサクソン化の動きが背景にあると解すべきです。
いずれにせよ、米英の不平等度の上昇傾向には著しいものがあることは確かであり、これは、それぞれレーガノミックスとサッチャリズムの影響によると解すべきです。
金融危機に発した今次世界不況もこれあり、米英が、不平等の行き過ぎを是正すべく経済政策の転換を図ることは必至です。
日本も、民主党を中心とする政権が樹立されれば、不平等度の上昇傾向に歯止めをかける政策が実行に移されることになることでしょう。
太田述正ブログは移転しました 。
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