太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/
太田述正コラム#3082(2009.2.7)
<帝国の喪失のロシア>(2009.3.23公開)
1 始めに
「・・・我々は、核武装した超大国が、弾を一発も撃たずに巨大な大陸的帝国を投げ出して降伏したことに改めて敬意を表すべきだ。不幸なことに、これは驚くべきことではないが、多くのロシア人達は、爾来、かかる歴史的なと言ってよいところの寛大な行為を後悔してきた。
ロシアの新しい役割がいかなるものになるかについて、ロシア人達はいまだ発見していない。それには時間がかかる。
英国・・この国で「帝国を喪失し役割をまだ見いだしていない」という言葉が最初につくられた・・においては、帝国喪失後、国家再定義に半世紀をかけてきたが、英国はいまだにそれを見いだしていないのだから。・・・」
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-garton5-2009feb05,0,3323085,print.story
(2月7日アクセス。以下同じ。)
もう一つ例があるよ、と言いたくなりますよね。
そう、日本です。
英国は戦って辛勝したけれど帝国を失い、ロシアは戦わずして敗れて帝国を失ったのに対し、日本は戦って壊滅的敗北を喫し帝国を失いました。
この3カ国のうち、どの国が一番心理的打撃が大きかったか、むつかしいところです。
さて、プーチンの大統領就任以来、彼の推進したファシズム(ロサンゼルスタイムス上掲は、大国的専制主義的資本主義(Great-power authoritarian capitalism)と呼ぶ)政策によって良かれ悪しかれ帝国喪失の傷を少しずつ癒しつつあるかのように見えたロシアが、現在の世界経済危機に直面し、どうなっているのか、が本日のテーマです。
2 ロシアの現状
(1)ファシズム
「・・・プーチンのロシアは、・・・国際的境界の維持、どんな小さな国であれその主権の尊重、更には紛争の非暴力的解決へのコミットメント・・・といった原則・・・を尊重して来なかった。・・・
<要するにロシアは、>自分自身の主権は完全に尊重するよう固執しつつ、必要に応じて他国の主権は侵犯する<というのだ。>」
(以上、ロサンゼルスタイムス上掲)
「ロシアのジャーナリストのアナスターシャ・バブロヴァ(Anastasia Baburova)は、1月19日、25歳で亡くなった。・・・
彼女は、<人権派弁護士の男性と一緒にいた所を共に撃たれ死亡したものだ。>
・・・二人はモスクワの中心部で真っ昼間に殺された。翌日、ロシアのナショナリスト達の一群が殺害場所にシャンパンを持参して、敵の「抹殺」を祝った。・・・
彼女は、ノーヴァヤ・ガゼッタ紙が過去8年間に失った4番目のジャーナリストだ。
ペレストロイカの設計者たるミハイル・ゴルバチョフが共同創設者であるところの、このロシアで最も批判的な新聞に彼女が勤めていたのはごく自然なことだった。
彼女は1983年生まれだ。・・・
彼女は<英語、漢語を身につけ、>武道をたしなんでいた。彼女は、ソ連時代にエリートの子弟が外交官を目指して入学したモスクワ国際関係学院(Moscow Institute of International Relations =MGIMO)への入学を果たした。
これは、<現在ウクライナ領の>セバストポール出身の何のコネもない少女にとっては奇跡と言えた。
試験の成績が抜群であったことから、彼女は米エール大学に留学することになった。しかし、彼女はジャーナリストになることを望み、自らこの学院を後にした。
彼女は、イズヴェスチャ紙に入ったが、しばらく勤務して辞めた。近年ナショナリズム、体制順応主義、そして冷笑主義に染まってしまっている同紙では居心地が悪かったからだ。・・・
彼女とその友人達は、正しく、ファシズムがロシアにとって最大かつ最も切迫した脅威であると認識していた。彼女はこれと戦う決意をした。彼女は、スターリニズムとファシズムの親縁性を正確に感じ取っていたのだ。・・・
ツルゲーネフの詩に「敷居(The Threshold)」がある。
ある若い女性がドアの前に立っている。
声が聞こえる。
その声が彼女に、向こう側で彼女を待っているところの寒さ、飢え、嘲笑、牢獄、そして死に対する心の準備はできているのかと問いかける。
彼女は、そのすべてについて「はい」と答え、敷居を越える。
「馬鹿者よ!」とその声は彼女の後ろから叫ぶ。
しかし、別の声が囁いた。「聖女よ!」と。」
http://www.economist.com/obituary/PrinterFriendly.cfm?story_id=13055783
(2)経済
「ロシアの・・・株式市場はその価値の70%以上を失い、外貨準備は急速に蕩尽しつつある。・・・」(ロサンゼルスタイムス上掲)
「・・・昨年の夏以来のエネルギーと商品の価格の下落はロシアの脆弱性を露呈した。天然ガスと金属が輸出額の4分の3以上を占めているからだ。
経済ブームは、高騰したところの、石油とごくわずかの他のものの上に築かれたものに他ならなかった。過去5年間にわたって平均して毎年7%以上に達した経済成長率は下落し、政府は今年の成長率は0.2%にまで下がると予想している。・・・過去5年間にわたって平均賃金は毎年25%も伸びてきたというのに。・・・
資本は逃げ出している。投資家達は、昨年8月以来、ロシアから2,450億米ドルを引き揚げ、ルーブルは下降圧力の下にある。・・・
ロシアの公表失業率は長らく6%未満にとどまってきたが、2009年にはその倍に達することだろう。・・・」
http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,1877377,00.html
<帝国の喪失のロシア>(2009.3.23公開)
1 始めに
「・・・我々は、核武装した超大国が、弾を一発も撃たずに巨大な大陸的帝国を投げ出して降伏したことに改めて敬意を表すべきだ。不幸なことに、これは驚くべきことではないが、多くのロシア人達は、爾来、かかる歴史的なと言ってよいところの寛大な行為を後悔してきた。
ロシアの新しい役割がいかなるものになるかについて、ロシア人達はいまだ発見していない。それには時間がかかる。
英国・・この国で「帝国を喪失し役割をまだ見いだしていない」という言葉が最初につくられた・・においては、帝国喪失後、国家再定義に半世紀をかけてきたが、英国はいまだにそれを見いだしていないのだから。・・・」
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-garton5-2009feb05,0,3323085,print.story
(2月7日アクセス。以下同じ。)
もう一つ例があるよ、と言いたくなりますよね。
そう、日本です。
英国は戦って辛勝したけれど帝国を失い、ロシアは戦わずして敗れて帝国を失ったのに対し、日本は戦って壊滅的敗北を喫し帝国を失いました。
この3カ国のうち、どの国が一番心理的打撃が大きかったか、むつかしいところです。
さて、プーチンの大統領就任以来、彼の推進したファシズム(ロサンゼルスタイムス上掲は、大国的専制主義的資本主義(Great-power authoritarian capitalism)と呼ぶ)政策によって良かれ悪しかれ帝国喪失の傷を少しずつ癒しつつあるかのように見えたロシアが、現在の世界経済危機に直面し、どうなっているのか、が本日のテーマです。
2 ロシアの現状
(1)ファシズム
「・・・プーチンのロシアは、・・・国際的境界の維持、どんな小さな国であれその主権の尊重、更には紛争の非暴力的解決へのコミットメント・・・といった原則・・・を尊重して来なかった。・・・
<要するにロシアは、>自分自身の主権は完全に尊重するよう固執しつつ、必要に応じて他国の主権は侵犯する<というのだ。>」
(以上、ロサンゼルスタイムス上掲)
「ロシアのジャーナリストのアナスターシャ・バブロヴァ(Anastasia Baburova)は、1月19日、25歳で亡くなった。・・・
彼女は、<人権派弁護士の男性と一緒にいた所を共に撃たれ死亡したものだ。>
・・・二人はモスクワの中心部で真っ昼間に殺された。翌日、ロシアのナショナリスト達の一群が殺害場所にシャンパンを持参して、敵の「抹殺」を祝った。・・・
彼女は、ノーヴァヤ・ガゼッタ紙が過去8年間に失った4番目のジャーナリストだ。
ペレストロイカの設計者たるミハイル・ゴルバチョフが共同創設者であるところの、このロシアで最も批判的な新聞に彼女が勤めていたのはごく自然なことだった。
彼女は1983年生まれだ。・・・
彼女は<英語、漢語を身につけ、>武道をたしなんでいた。彼女は、ソ連時代にエリートの子弟が外交官を目指して入学したモスクワ国際関係学院(Moscow Institute of International Relations =MGIMO)への入学を果たした。
これは、<現在ウクライナ領の>セバストポール出身の何のコネもない少女にとっては奇跡と言えた。
試験の成績が抜群であったことから、彼女は米エール大学に留学することになった。しかし、彼女はジャーナリストになることを望み、自らこの学院を後にした。
彼女は、イズヴェスチャ紙に入ったが、しばらく勤務して辞めた。近年ナショナリズム、体制順応主義、そして冷笑主義に染まってしまっている同紙では居心地が悪かったからだ。・・・
彼女とその友人達は、正しく、ファシズムがロシアにとって最大かつ最も切迫した脅威であると認識していた。彼女はこれと戦う決意をした。彼女は、スターリニズムとファシズムの親縁性を正確に感じ取っていたのだ。・・・
ツルゲーネフの詩に「敷居(The Threshold)」がある。
ある若い女性がドアの前に立っている。
声が聞こえる。
その声が彼女に、向こう側で彼女を待っているところの寒さ、飢え、嘲笑、牢獄、そして死に対する心の準備はできているのかと問いかける。
彼女は、そのすべてについて「はい」と答え、敷居を越える。
「馬鹿者よ!」とその声は彼女の後ろから叫ぶ。
しかし、別の声が囁いた。「聖女よ!」と。」
http://www.economist.com/obituary/PrinterFriendly.cfm?story_id=13055783
(2)経済
「ロシアの・・・株式市場はその価値の70%以上を失い、外貨準備は急速に蕩尽しつつある。・・・」(ロサンゼルスタイムス上掲)
「・・・昨年の夏以来のエネルギーと商品の価格の下落はロシアの脆弱性を露呈した。天然ガスと金属が輸出額の4分の3以上を占めているからだ。
経済ブームは、高騰したところの、石油とごくわずかの他のものの上に築かれたものに他ならなかった。過去5年間にわたって平均して毎年7%以上に達した経済成長率は下落し、政府は今年の成長率は0.2%にまで下がると予想している。・・・過去5年間にわたって平均賃金は毎年25%も伸びてきたというのに。・・・
資本は逃げ出している。投資家達は、昨年8月以来、ロシアから2,450億米ドルを引き揚げ、ルーブルは下降圧力の下にある。・・・
ロシアの公表失業率は長らく6%未満にとどまってきたが、2009年にはその倍に達することだろう。・・・」
http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,1877377,00.html
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/