太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/
太田述正コラム#2890(2008.11.3)
<米国民の知的劣化(その1)>(2008.12.12公開)
1 始めに
米大統領選挙の期日が目前ですが、間違いなくオバマが当選するであろうものの、最後まで、世論調査で、オバマがマケインを二桁引き離すことはできませんでした。
あれだけブッシュ共和党政権が外交、内政面で失政を続けたというのに、なお民主党大統領候補に圧倒的支持が集まらないというのですから、米国民の知的レベルが推し量れるというものです。
リンカーンは、彼が大統領に当選する5年前の1854年に、次のように記しています。
「われわれは早い速度で劣化しつつある。わが国は、「すべての人は平等につくられた」と宣言したところから始まった。しかし、実際にはわれわれはこれを「すべての人は、黒人を除いて平等につくられた」と読んでいる。全く無知な連中が支配的立場に就くようになれば、これを「すべての人は、黒人と外国人とカトリック教徒を除いて平等につくられた」と読むようになるだろう。そうなった暁には、自由を愛するふりなどしない国、例えば、純粋な専制主義が行われ、偽善の下卑た混ぜ物が入っていないロシア等に、私は移住したいくらいだ」と(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/10/30/AR2008103003538_pf.html
。11月2日アクセス)。
このような意味での米国民の道徳的劣化は、150年余りを経て、今や黒人(と白人の混血)のオバマが大統領に当選しようというのですから、もはやほぼ完全に昔の話になりつつあると言えるでしょう。
しかし、今度は米国は、国民の知的劣化という、もう一つの深刻な問題に直面しています。
(以下、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/oct/28/us-education-election-obama-bush-mccain
(10月30日アクセス)
http://www.susanjacoby.com/、
http://www.salon.com/books/review/2008/02/15/susan_jacoby/、
http://articles.latimes.com/2008/feb/10/books/bk-winslow10、
http://www.nytimes.com/2008/03/11/books/11kaku.html?_r=1&pagewanted=print&oref=slogin
(いずれも11月3日アクセス)による。)
2 米国民の知的劣化
世界の大学のランキングを見るまでもなく、米国は世界で最も質の高い大学を多数擁しており、米国には世界中の最高の頭脳が集まってきていて、米国は科学や医学の研究において世界の最先端を走っています。米国の巨大な経済力と権力の淵源が知であることは疑いの余地がありません。
しかし、ブッシュを見る限り、米国の大統領の質は、凡庸以外の何物でもありません。
しかも、ブッシュは彼の凡庸さを、知的に秀でている専門家の助言に耳を傾けることによって補おうとすらしませんでした。
地球温暖化問題やイラク占領統治へのブッシュの取り組みを思い出してください。
もちろん、知的に秀でていた大統領は、最近でも決して少なくはありません。
フランクリン・ローズベルト、J.F.ケネディ、ビル・クリントン等がそうですが、彼らは知性を隠すことで政治的に生き残ることができたのです。
アドレイ・スティブンソン(Adlai Stevenson)やアル・ゴア(Al Gore)やジョン・ケリー(John Kerry)は、知的エリートであると攻撃されたために大統領になり損ねました。
こんなことは、他の先進国では、オーストラリアを除き、全く見られない現象です。
他方、米国の建国の父達である、ベンジャミン・フランクリン、トーマス・ジェファーソン(後大統領)、ジェームス・マディソン(後大統領)、ジョン・アダムス(後大統領)、アレキサンダー・ハミルトン等々は、いずれ劣らぬ知性の持ち主であり、誰もそれを隠そうとなどしませんでした。
ずっと時代を下って、リンカーンだって傑出した知性の人であり、もちろん彼もその知性を隠す必要などありませんでした。
ところが、最近の米大統領には凡庸な人間か、知性を隠せる人間しか当選しなくなってしまったわけです。
これは、米国民が、知的に劣化したせいだと考えられるのです。
とにかく、米国の成人の5人に1人は天動説を信じていますし、26%しか進化論を信じていません。そもそも、高卒以下の人々の約45%は聖書に書かれていることはすべて真実だと信じています。それどころか、白人の原理主義的(evangelical)キリスト教徒の60%は、議会ではなく、聖書に拠って米国の法律が制定されるべきだと考えているのです。
また、成人のたった57%しか年間に1冊以上ノンフィクションの本を読んでおらず、若い成人の3分の2はイラクがどこにあるか地図上で示すことができず、成人の3分の2は米国の3権を列挙することができず、同じく3分の2は1人の最高裁判事の名前も挙げることができません。15歳の数学の力はOECD加盟29カ国中24位ですし、2007年の研究では読む力が男女とも、しかも教育レベルの相違にかかわらず、低下気味であることが明らかになっています。
ひどい状況だとお思いになるでしょう。
(続く)
<米国民の知的劣化(その1)>(2008.12.12公開)
1 始めに
米大統領選挙の期日が目前ですが、間違いなくオバマが当選するであろうものの、最後まで、世論調査で、オバマがマケインを二桁引き離すことはできませんでした。
あれだけブッシュ共和党政権が外交、内政面で失政を続けたというのに、なお民主党大統領候補に圧倒的支持が集まらないというのですから、米国民の知的レベルが推し量れるというものです。
リンカーンは、彼が大統領に当選する5年前の1854年に、次のように記しています。
「われわれは早い速度で劣化しつつある。わが国は、「すべての人は平等につくられた」と宣言したところから始まった。しかし、実際にはわれわれはこれを「すべての人は、黒人を除いて平等につくられた」と読んでいる。全く無知な連中が支配的立場に就くようになれば、これを「すべての人は、黒人と外国人とカトリック教徒を除いて平等につくられた」と読むようになるだろう。そうなった暁には、自由を愛するふりなどしない国、例えば、純粋な専制主義が行われ、偽善の下卑た混ぜ物が入っていないロシア等に、私は移住したいくらいだ」と(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/10/30/AR2008103003538_pf.html
。11月2日アクセス)。
このような意味での米国民の道徳的劣化は、150年余りを経て、今や黒人(と白人の混血)のオバマが大統領に当選しようというのですから、もはやほぼ完全に昔の話になりつつあると言えるでしょう。
しかし、今度は米国は、国民の知的劣化という、もう一つの深刻な問題に直面しています。
(以下、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/oct/28/us-education-election-obama-bush-mccain
(10月30日アクセス)
http://www.susanjacoby.com/、
http://www.salon.com/books/review/2008/02/15/susan_jacoby/、
http://articles.latimes.com/2008/feb/10/books/bk-winslow10、
http://www.nytimes.com/2008/03/11/books/11kaku.html?_r=1&pagewanted=print&oref=slogin
(いずれも11月3日アクセス)による。)
2 米国民の知的劣化
世界の大学のランキングを見るまでもなく、米国は世界で最も質の高い大学を多数擁しており、米国には世界中の最高の頭脳が集まってきていて、米国は科学や医学の研究において世界の最先端を走っています。米国の巨大な経済力と権力の淵源が知であることは疑いの余地がありません。
しかし、ブッシュを見る限り、米国の大統領の質は、凡庸以外の何物でもありません。
しかも、ブッシュは彼の凡庸さを、知的に秀でている専門家の助言に耳を傾けることによって補おうとすらしませんでした。
地球温暖化問題やイラク占領統治へのブッシュの取り組みを思い出してください。
もちろん、知的に秀でていた大統領は、最近でも決して少なくはありません。
フランクリン・ローズベルト、J.F.ケネディ、ビル・クリントン等がそうですが、彼らは知性を隠すことで政治的に生き残ることができたのです。
アドレイ・スティブンソン(Adlai Stevenson)やアル・ゴア(Al Gore)やジョン・ケリー(John Kerry)は、知的エリートであると攻撃されたために大統領になり損ねました。
こんなことは、他の先進国では、オーストラリアを除き、全く見られない現象です。
他方、米国の建国の父達である、ベンジャミン・フランクリン、トーマス・ジェファーソン(後大統領)、ジェームス・マディソン(後大統領)、ジョン・アダムス(後大統領)、アレキサンダー・ハミルトン等々は、いずれ劣らぬ知性の持ち主であり、誰もそれを隠そうとなどしませんでした。
ずっと時代を下って、リンカーンだって傑出した知性の人であり、もちろん彼もその知性を隠す必要などありませんでした。
ところが、最近の米大統領には凡庸な人間か、知性を隠せる人間しか当選しなくなってしまったわけです。
これは、米国民が、知的に劣化したせいだと考えられるのです。
とにかく、米国の成人の5人に1人は天動説を信じていますし、26%しか進化論を信じていません。そもそも、高卒以下の人々の約45%は聖書に書かれていることはすべて真実だと信じています。それどころか、白人の原理主義的(evangelical)キリスト教徒の60%は、議会ではなく、聖書に拠って米国の法律が制定されるべきだと考えているのです。
また、成人のたった57%しか年間に1冊以上ノンフィクションの本を読んでおらず、若い成人の3分の2はイラクがどこにあるか地図上で示すことができず、成人の3分の2は米国の3権を列挙することができず、同じく3分の2は1人の最高裁判事の名前も挙げることができません。15歳の数学の力はOECD加盟29カ国中24位ですし、2007年の研究では読む力が男女とも、しかも教育レベルの相違にかかわらず、低下気味であることが明らかになっています。
ひどい状況だとお思いになるでしょう。
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/