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太田述正コラム#2854(2008.10.16)
<米国はどうして覇権国になれたのか(その1)>(2008.12.2公開)
1 始めに
コラム#2853で「米国が世界の覇権国になれたのは、それが賭博師の国だからだ、というのが私の考えです。 正確に言うと、その賭博師で成功を収めた個々人が同時に無償の慈善活動や社会活動を担ったことが米国をして覇権国たらしめたのです。」と申し上げたところです。
少し補足しておきましょう。
2 米国はどうして覇権国になれたのか
(1)賭博師の国
ドイツの大蔵大臣のシュタインブルック(Peer Steinbruck)は、先般、「一つ大いにありそうなことがある。それは、米国が世界の金融システムにおける超大国としての地位を失うだろうということだ。」と述べました(
http://www.nytimes.com/2008/10/12/weekinreview/12leonhardt.html?hp=&pagewanted=print
。10月13日アクセス)。
一方、オーストラリアの首相のラッド(Kevin Rudd)は10月15日、「われわれが目にしているのは<米国における>極端な資本主義の完全な失敗だ。極端な資本主義は、今度は将来の失敗を防止するために政府に助けを求めている。」と述べ、世界は現在恐怖と貪欲という「双子の悪」と格闘しており、政府が盛んに救いの手を差し伸べているのは前者に対処するためであり、後者に対処するためには今後<金融産業の>幹部達への巨額の給与や賞与を是正しなければならない」と続けました(
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2008/10/16/2003426051
。10月16日アクセス)。
しかし、私に言わせれば、一攫千金を夢見て新大陸に移住してきた賭博師的な人々(コラム#307)の「貪欲」とすってんてんになるのではないかという「恐怖」こそが米国を覇権国まで押し上げた(注)のであり、このような米国人のメンタリティーを変えることは容易ではありませんし、また、このようなメンタリティーが変わらない限り、米国が人口減少に見舞われでもしない限り、「世界の金融システムにおける超大国としての地位」を失う可能性もまたほとんど考えられないのです。
(注)後述の説明参照のこと。なお、雑ぱくに過ぎることは承知の上で申し上げるが、同じく一攫千金を夢見ていたとはいえ、中南米にやってきた人々は、一攫千金に成功したらそのカネを持って本国に戻ろうと思っていたし、後にカナダとなる地域にやってきた人々は、そもそも賭博師的な人々ではなかった、といったところか。このスタート地点での違いが尾を引き、米国>カナダ>中南米、という経済成長率格差を生んだと私は考えている。
米国が英国に倣って、欧州大陸諸国同様、金融危機回避のため、資本注入を行うこととしたことも、米国が極端な資本主義から変針する兆候と見ることはできません。
2001年のノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ(Joseph Stiglitz)は次のように記しています。
「英国は何らかのアカウンタビリティのシステムを信奉していることを示した。<資本注入の見返りに>銀行の頭取達は辞任したからだ。この類のことは米国では起きなかった。
・・・はっきりしているのは、われわれは<銀行等に>投票権を持たないであろうことだ。ウォール街はわれわれのカネを与えられるけれど、そのカネを連中がどう使うかについて十分な発言権を持たないであろうということだ。・・・
ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)がゴールドマン・サックスに資本を提供した時に確保した条件とは比べものにならない。バフェットは、<同社の株式を>将来、現在の<下がった>株価以下で買うことができる保証を得た。ところが、ポールソン<財務長官>は、将来、その時点での時価で買うことができる保証を得たにとどまる。バフェットは彼が投じたカネの価値に100%見合う保証を得たのに、米国の納税者は15%しか得ていないのだ。しかも、ジョージ・ソロス(George Soros)が指摘したように、何年か経って、経済情勢が好転した時、諸銀行は、政府に資本<注入>の見返りを提供することが義務づけられていないのだ。政府は転換社債(convertible shares)の形で資本注入をすることで、将来株価が上がった時に自動的に利益が帰属するようにすべきだったのだ。
(以上、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/oct/16/useconomy-usa
(10月16日アクセス)による。)
(2)無償の慈善活動や社会活動の国
では、私が、米国をして世界の覇権国たらしめたもう一つの要素である、無償の慈善活動や社会活動の方はどんな具合になっているのでしょうか。
(続く)
<米国はどうして覇権国になれたのか(その1)>(2008.12.2公開)
1 始めに
コラム#2853で「米国が世界の覇権国になれたのは、それが賭博師の国だからだ、というのが私の考えです。 正確に言うと、その賭博師で成功を収めた個々人が同時に無償の慈善活動や社会活動を担ったことが米国をして覇権国たらしめたのです。」と申し上げたところです。
少し補足しておきましょう。
2 米国はどうして覇権国になれたのか
(1)賭博師の国
ドイツの大蔵大臣のシュタインブルック(Peer Steinbruck)は、先般、「一つ大いにありそうなことがある。それは、米国が世界の金融システムにおける超大国としての地位を失うだろうということだ。」と述べました(
http://www.nytimes.com/2008/10/12/weekinreview/12leonhardt.html?hp=&pagewanted=print
。10月13日アクセス)。
一方、オーストラリアの首相のラッド(Kevin Rudd)は10月15日、「われわれが目にしているのは<米国における>極端な資本主義の完全な失敗だ。極端な資本主義は、今度は将来の失敗を防止するために政府に助けを求めている。」と述べ、世界は現在恐怖と貪欲という「双子の悪」と格闘しており、政府が盛んに救いの手を差し伸べているのは前者に対処するためであり、後者に対処するためには今後<金融産業の>幹部達への巨額の給与や賞与を是正しなければならない」と続けました(
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2008/10/16/2003426051
。10月16日アクセス)。
しかし、私に言わせれば、一攫千金を夢見て新大陸に移住してきた賭博師的な人々(コラム#307)の「貪欲」とすってんてんになるのではないかという「恐怖」こそが米国を覇権国まで押し上げた(注)のであり、このような米国人のメンタリティーを変えることは容易ではありませんし、また、このようなメンタリティーが変わらない限り、米国が人口減少に見舞われでもしない限り、「世界の金融システムにおける超大国としての地位」を失う可能性もまたほとんど考えられないのです。
(注)後述の説明参照のこと。なお、雑ぱくに過ぎることは承知の上で申し上げるが、同じく一攫千金を夢見ていたとはいえ、中南米にやってきた人々は、一攫千金に成功したらそのカネを持って本国に戻ろうと思っていたし、後にカナダとなる地域にやってきた人々は、そもそも賭博師的な人々ではなかった、といったところか。このスタート地点での違いが尾を引き、米国>カナダ>中南米、という経済成長率格差を生んだと私は考えている。
米国が英国に倣って、欧州大陸諸国同様、金融危機回避のため、資本注入を行うこととしたことも、米国が極端な資本主義から変針する兆候と見ることはできません。
2001年のノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ(Joseph Stiglitz)は次のように記しています。
「英国は何らかのアカウンタビリティのシステムを信奉していることを示した。<資本注入の見返りに>銀行の頭取達は辞任したからだ。この類のことは米国では起きなかった。
・・・はっきりしているのは、われわれは<銀行等に>投票権を持たないであろうことだ。ウォール街はわれわれのカネを与えられるけれど、そのカネを連中がどう使うかについて十分な発言権を持たないであろうということだ。・・・
ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)がゴールドマン・サックスに資本を提供した時に確保した条件とは比べものにならない。バフェットは、<同社の株式を>将来、現在の<下がった>株価以下で買うことができる保証を得た。ところが、ポールソン<財務長官>は、将来、その時点での時価で買うことができる保証を得たにとどまる。バフェットは彼が投じたカネの価値に100%見合う保証を得たのに、米国の納税者は15%しか得ていないのだ。しかも、ジョージ・ソロス(George Soros)が指摘したように、何年か経って、経済情勢が好転した時、諸銀行は、政府に資本<注入>の見返りを提供することが義務づけられていないのだ。政府は転換社債(convertible shares)の形で資本注入をすることで、将来株価が上がった時に自動的に利益が帰属するようにすべきだったのだ。
(以上、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/oct/16/useconomy-usa
(10月16日アクセス)による。)
(2)無償の慈善活動や社会活動の国
では、私が、米国をして世界の覇権国たらしめたもう一つの要素である、無償の慈善活動や社会活動の方はどんな具合になっているのでしょうか。
(続く)
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
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