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太田述正コラム#2852(2008.10.15)
<顰蹙を買う米国(その2)>(2008.12.1公開)
(脚注)
米特殊作戦軍(Special Operations Command=SOCOM)は、グリーン・ベレー、陸軍レンジャー、海軍シール(SEALs)、デルタ・フォース等を統括しているが、その司令官のオルソン海軍大将は、2007年7月に着任以来、反テロ戦術の中心を、それまでの軍事力を使った襲撃から、間接的アプローチ(indirect approach)・・その国の内部におけるテロリストや暴力的分離主義者達とよりうまく戦えるようにその国の軍隊に訓練を施すこと・・へと切り替えた。
「ブラックホーク・ダウン」(本・映画)に出てくるところの、1993年にソマリアのモガジシオで包囲された米陸軍部隊を救出した特殊戦部隊、を指揮して名をとどろかせたのがこのオルソンだったのですが、オルソン自身は、こういうど派手な襲撃は地域の住民を怒らせ、その国の指導者達の立場をなくさせる虞がある、と主張し続けてきました。
しかし、米軍の中で、このような先覚的な考えを抱いている者は、特殊作戦軍内を除いてはまだほとんどいない。
しかし、イラクにおける新しいアプローチが成功を収めたことから、間接的アプローチへの理解が米軍全体に浸透し始めた。
(以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-na-specialops13-2008oct13,0,362458,print.story
(10月15日アクセス)による。)
なお、揚げ足をとるようだが、米国の人々が、軍事力の直接的行使を避ける戦術という意味で間接的アプローチ(indirect approach)という言葉を使っているのは、ちょっと無神経だと思う。
英国の軍事戦略家リデル・ハート(Sir Basil Henry Liddell Hart。1895〜1970年)が唱えたところの、有名な間接的アプローチ(indirect approach)と紛らわしいからだ。
ハートの間接的アプローチは、
相手に対する直接的アプローチは、攻撃側を消耗させるだけでなく、防御側を圧縮して固めてしまう。それに対し間接的アプローチは、防御側を、そのバランスを崩すことで軟化させる。・・・成功の秘訣は、敵をして状況と我の意図について疑心暗鬼を生じせしめ、かつ敵が予期していなかったこと、従って備えていなかったことをやってのけるところにある(
http://en.wikipedia.org/wiki/Basil_Liddell_Hart
。10月15日アクセス)。
というものであって、明確に異なる。
英国人にしてみれば、米国の人々が最近言い出している indirect approach など、当たり前すぎて噴飯物に違いない。
5 米国の有色人種差別意識
数年前、米国の二人の心理学者が共同で行った研究によれば、志願者達に有名人の名前を挙げて、それを米国人と非米国人に分けさせる実験を行ったところ、アジア系米国人であるところのパーソナリティのコニー・チャン(Connie Chung)とプロ・テニスプレヤーのマイケル・チャン(Michael Chang)を米国人と、そして、英国人俳優であるヒュー・グラント(Hugh Grant)とエリザベス・ハーレー(Elizabeth Hurley)を英国人と答えられなかった者はいませんでした。
ところが、これらの人物の名前を聞いた時、米国の象徴である米国旗、米議会の建物、ラシュモア山、及び一般に外国の象徴とされているところのジュネーブの国連の建物、ウクライナの100リューヴェン(hryven)札、ルクセンブルグの地図、のどちらを連想するかを被験者に質問して即時に答えるように促したところ、圧倒的多数が前の2者のアジア系米国人の名前を聞いて外国を、後の2者の英国人の名前を聞いて米国を連想すると答えました。
これは、無意識のレベルでは、米国の人々は、民族性(ethnicity)を米国人らしさの代用物(proxy)とみなしており、白人を、それがたとえ外国人たる白人であったとしても、米国的であるとみなすことを意味しています
この偏見が大統領選挙にいかなる影響を及ぼすかの実験が、同じ二人によって最近行われました。
まず、オバマ候補とかつてのヒラリー・クリントン候補とでは、後者の方が前者より一層米国人的であると人々が無意識のレベルで考えていることが分かりました。
それどころか、英国の前首相のブレアの方がオバマより一層米国人的であると考えていることも分かったのです。
同じことですが、マケイン候補の方がオバマ候補より一層米国人的であると考えていることも分かりました。
これは民主党支持者、共和党支持者にかかわりなく見られる傾向でした。
深刻なのは、オバマが米国人的でないと考えている度合いが大きい人であればあるほど、オバマには投票しないと答える人が多かったことです。
この研究結果が示しているのは、いまだに米国おける有色人種差別意識は強く残っているということであり、この意識をストレートに表明できないので、オバマは外国人的であるとかオバマの正体は不明であるとか、オバマはイスラム教徒ではないか、といった言い方がなされるのだ、ということです。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/10/12/AR2008101201873_pf.html
(10月14日アクセス)による。)
やはり、オバマはマケインによほどの大差を事前の世論調査でつけていない限り、ブラッドレー効果(コラム#2294、2361)でマケインに負けてしまう可能性がある、と思っていた方がいいでしょう。
6 終わりに
こういう風に見てくると、どうしてこんな愚かで偏見の固まりの米国が、ホンモノのアングロサクソンたる英国に取って代わって世界の覇権国になることができたのかが不思議に思えてきませんか。
明日の「ディスカッション」で私の大胆な仮説を提示するつもりです。
(完)
<顰蹙を買う米国(その2)>(2008.12.1公開)
(脚注)
米特殊作戦軍(Special Operations Command=SOCOM)は、グリーン・ベレー、陸軍レンジャー、海軍シール(SEALs)、デルタ・フォース等を統括しているが、その司令官のオルソン海軍大将は、2007年7月に着任以来、反テロ戦術の中心を、それまでの軍事力を使った襲撃から、間接的アプローチ(indirect approach)・・その国の内部におけるテロリストや暴力的分離主義者達とよりうまく戦えるようにその国の軍隊に訓練を施すこと・・へと切り替えた。
「ブラックホーク・ダウン」(本・映画)に出てくるところの、1993年にソマリアのモガジシオで包囲された米陸軍部隊を救出した特殊戦部隊、を指揮して名をとどろかせたのがこのオルソンだったのですが、オルソン自身は、こういうど派手な襲撃は地域の住民を怒らせ、その国の指導者達の立場をなくさせる虞がある、と主張し続けてきました。
しかし、米軍の中で、このような先覚的な考えを抱いている者は、特殊作戦軍内を除いてはまだほとんどいない。
しかし、イラクにおける新しいアプローチが成功を収めたことから、間接的アプローチへの理解が米軍全体に浸透し始めた。
(以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-na-specialops13-2008oct13,0,362458,print.story
(10月15日アクセス)による。)
なお、揚げ足をとるようだが、米国の人々が、軍事力の直接的行使を避ける戦術という意味で間接的アプローチ(indirect approach)という言葉を使っているのは、ちょっと無神経だと思う。
英国の軍事戦略家リデル・ハート(Sir Basil Henry Liddell Hart。1895〜1970年)が唱えたところの、有名な間接的アプローチ(indirect approach)と紛らわしいからだ。
ハートの間接的アプローチは、
相手に対する直接的アプローチは、攻撃側を消耗させるだけでなく、防御側を圧縮して固めてしまう。それに対し間接的アプローチは、防御側を、そのバランスを崩すことで軟化させる。・・・成功の秘訣は、敵をして状況と我の意図について疑心暗鬼を生じせしめ、かつ敵が予期していなかったこと、従って備えていなかったことをやってのけるところにある(
http://en.wikipedia.org/wiki/Basil_Liddell_Hart
。10月15日アクセス)。
というものであって、明確に異なる。
英国人にしてみれば、米国の人々が最近言い出している indirect approach など、当たり前すぎて噴飯物に違いない。
5 米国の有色人種差別意識
数年前、米国の二人の心理学者が共同で行った研究によれば、志願者達に有名人の名前を挙げて、それを米国人と非米国人に分けさせる実験を行ったところ、アジア系米国人であるところのパーソナリティのコニー・チャン(Connie Chung)とプロ・テニスプレヤーのマイケル・チャン(Michael Chang)を米国人と、そして、英国人俳優であるヒュー・グラント(Hugh Grant)とエリザベス・ハーレー(Elizabeth Hurley)を英国人と答えられなかった者はいませんでした。
ところが、これらの人物の名前を聞いた時、米国の象徴である米国旗、米議会の建物、ラシュモア山、及び一般に外国の象徴とされているところのジュネーブの国連の建物、ウクライナの100リューヴェン(hryven)札、ルクセンブルグの地図、のどちらを連想するかを被験者に質問して即時に答えるように促したところ、圧倒的多数が前の2者のアジア系米国人の名前を聞いて外国を、後の2者の英国人の名前を聞いて米国を連想すると答えました。
これは、無意識のレベルでは、米国の人々は、民族性(ethnicity)を米国人らしさの代用物(proxy)とみなしており、白人を、それがたとえ外国人たる白人であったとしても、米国的であるとみなすことを意味しています
この偏見が大統領選挙にいかなる影響を及ぼすかの実験が、同じ二人によって最近行われました。
まず、オバマ候補とかつてのヒラリー・クリントン候補とでは、後者の方が前者より一層米国人的であると人々が無意識のレベルで考えていることが分かりました。
それどころか、英国の前首相のブレアの方がオバマより一層米国人的であると考えていることも分かったのです。
同じことですが、マケイン候補の方がオバマ候補より一層米国人的であると考えていることも分かりました。
これは民主党支持者、共和党支持者にかかわりなく見られる傾向でした。
深刻なのは、オバマが米国人的でないと考えている度合いが大きい人であればあるほど、オバマには投票しないと答える人が多かったことです。
この研究結果が示しているのは、いまだに米国おける有色人種差別意識は強く残っているということであり、この意識をストレートに表明できないので、オバマは外国人的であるとかオバマの正体は不明であるとか、オバマはイスラム教徒ではないか、といった言い方がなされるのだ、ということです。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/10/12/AR2008101201873_pf.html
(10月14日アクセス)による。)
やはり、オバマはマケインによほどの大差を事前の世論調査でつけていない限り、ブラッドレー効果(コラム#2294、2361)でマケインに負けてしまう可能性がある、と思っていた方がいいでしょう。
6 終わりに
こういう風に見てくると、どうしてこんな愚かで偏見の固まりの米国が、ホンモノのアングロサクソンたる英国に取って代わって世界の覇権国になることができたのかが不思議に思えてきませんか。
明日の「ディスカッション」で私の大胆な仮説を提示するつもりです。
(完)
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/