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太田述正コラム#2647(2008.7.4)
<皆さんとディスカッション(続x184)>

<ぽん夫人>

 コラム#2580「「朝生」出演記」を読みました。
 朝生は司会を変えたほうがいいですよね。最近田原さんは耳が遠いのかもしれません。パネリストにえっ何?と聞きなおすことがしばしばあります。
 あれ、時間の無駄遣いだなと思います。そのせいでパネリストは同じ事を2回言わなきゃならないので。

<スワン>

 7月4日の、France 2(フランス国営テレビ)夜のニュースのトップは、コロンビアでゲリラに6年間誘拐されていた、元同国大統領候補イングリッド・ベタンクール(Ingrid Betancourt Pulecio。1961年〜)の人質解放でした。
http://www.lemonde.fr/ameriques/article/2008/07/04/ingrid-betancourt-est-attendue-a-paris_1066575_3222.html#ens_id=1065672
 (このル・モンドの記事の真ん中にあるVIDEOで、ベタンクールのスピーチが聞けます。)
 予備知識のないままTVニュースを観たら、ベタンクールがサルコジ大統領に感謝の意を述べており、解説者がこの二人の距離が近い(tres chaleureux)と評していたので、またもサルコジ大統領が政府専用機で現地に飛んでいって、自ら人質解放に尽力したのかと思いました。
 2007年7月、まずサルコジ大統領のセシリア夫人(当時)がリビアに赴き、次いでサルコジ自身がリビアに赴くことによって、リビアで8年間も拘束されていたブルガリア人看護士とジャーナリストを解放させることに成功しているからです(
http://www.ilyfunet.com/ovni/2007/617/apropo.php
)。
 当時、これは人気取りのパフォーマンスだとかいう批判がありましたが、私は、行動力のある大統領で立派だと思いました。
 今回の解放交渉の詳細は私にはわかりませんが、身代金を払った(
http://www.guardian.co.uk/world/2008/jul/04/betancourt.france
)というニュースは、私の見た限り、まだフランス主要メディアでは報道されていないようです。
 以前から、パリ市とサルコジ大統領もベタンクール解放に力を尽くしていました(パリ市のキャンペーンは実際に市庁舎前で見聞きしたので典拠省略)が、実際にどれほどの効果があったのかが、知りたいところです。

 日本ではこのニュース、どのように報道されているのでしょうか。
 知人のコロンビア人女性(40代)は、「ベタンクールは半分フランス人・・コロンビアとフランスの二重国籍者・・だから特別扱いされているだけ。コロンビアには、他に誘拐されている人はたくさんいる」と醒めた意見でした。

<バグってハニー>

 最近のNature(Vol454, 3 July 2008)の論文'Arize cliodynamics'で歴史動力学(Cliodynsmics)という学問が提唱されています。
 歴史を自然科学のように定量的に扱って理論とそこから導かれる予測を活用しようじゃないか、というお話です。それだけなんですけど...。

 この研究者たちは反社会性罰(Antisocial punishment)というのが汎文化的に存在することを発見しました。この反社会性罰というのはいってみれば「お礼参り」みたいなものです。

 研究者たちは社会投資(税金と公共事業)を模した囚人のジレンマゲームを各国の都市で実施して互いに見知らぬ被験者たちがどのような方略を取るのかを比較しました。
 このゲームでは手持ちのトークン(実験終了後にお金に換えてもらえる)から任意の額を共同の場に提供します。投資額は各自の裁量に任せられているのですが、それから得られる利益(利子)は全員で平等に分割されます。これを10回繰り返します。最適な方略は言うまでもなく全員が手持ちのトークンを毎回全額提供することです。そうすれば最も大きな利益を得ることができるのですが、そうは問屋が卸しません。世の中には自分は働かずにちゃっかりいいところだけ持って行こうとするニートのようなフリーライダーが必ずいます。その結果、毎回トークンを大盤振る舞いしていた善良な市民まで投資が馬鹿らしくなって平均投資額は回を重ねるごとにだんだん目減りしていきます。ホッブズが言うところの万人の万人に対する戦いのような様相ですな。

 これだとおもしろくないのでルールをひとつだけ変更して「罰」の概念を導入します。
 これはどういうことかというと、自分のトークンを代償にして、集団の規律を破ろうとする者からトークンを取り上げることができる権利です。実際の社会でに正義感に燃え、頼まれてもないのに自腹でニートのような不届き者を罰することを買って出る人がいるのと同じですね。フリーライダーたちは正義漢によって罰せられ深く反省し協力し始めることが期待されます。
 実際、このルールによって北欧・西欧・アングロサクソン諸国・韓国・中国では人々の間についに協調が現れ、回を重ねるごとに投資額は最大値に近づいて行きます。一方で、旧ソ連諸国(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)、イスラム諸国(トルコ、サウジアラビア、オマーン)とギリシャは投資額が伸び悩みます。これらの国では罰せられた被験者が何をしているかというと罰した人を逆に罰し返してるんですね。つまり社会の規律に背いた廉で罰を受けた人がその後、罰を与えた人に仕返しをすると。これを「反社会性罰」と呼んでいるわけです。
 ちなみに、反社会性罰は協調性の高い民主主義先進諸国でも見られたのですが、これら「遅れている」国よりも頻度は低かったとのことです。

 それで、なぜこんな違いが生まれるかについてプレビューの筆者が考察してます。おそらくこれは赤の他人に対する信頼感の違いから来ているのではないかと。赤の他人を簡単に信頼してしまう先進国では罰によって人々を協調させることはたやすい。逆に、旧ソ連・イスラムの各国では赤の他人に対する信頼よりも地縁・血縁が重視されている。そういう土地の人は、罰を受けると「赤の他人の分際で俺の名誉を踏みにじりやがって!」と逆切れして仕返しする。その結果、社会に協調性がなくなり不安定で犯罪、内戦などの危険が高まり、経済的にも立ち遅れてしまうと。そのように解釈してます。

 この実験が日本で行われていないのが非常に残念なのですが、上位グループに含まれることは確実ではないかな、と。 今日の太田さんの講演のトピックと少し似通った話ではないでしょうか。

<太田>

 スワンさん、バグってハニーさん、私の穴埋めをしていただき、ありがとうございます。
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太田述正コラム#2648(2008.7.4)
<イラク・ミャンマー・チベット問題をどう見るか(その2)>

→非公開

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