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太田述正コラム#2553(2008.5.17)
<ミャンマーと中共の大災害(その3)>(2008.6.21公開)

  イ 民の声

 中共当局は、今回の大震災に関しては一切インターネット規制をしないという前例のない措置をとりましたが、中共のネチズン達は、「どうしてこんなに沢山学校が崩壊したのに役所の建物はびくともしていないんだ。ひどい話だ。」、「役人達は自分達の命の方が大事だと思ってるのさ。学校の多くはおから工事(注)でできているんだ。そんな工事のやり方を役所の建物でやるわきゃない。」、「一段落したら、誰がこれらの学校を建設したのか、資材に問題はなかったのか、汚職がなかったのか、調査が行われるべきだ。」、と声を挙げています。

 (注)「おから(bean-curd dregs)工事」とは、汚職などが原因で建築費を安くあげた手抜き工事のことだ。

 また、中共当局は外国人記者に被災現場での自由な取材を許すという前例のない措置をとりましたが、被災者の間からも、「役人達と建設会社は癒着している。連中は手抜き工事をして儲けてるんだ。」、「われわれの子供達のためにまともな学校を建てるカネがないわけがない。役人達は余りにも腐敗していてあくどい。」、「回りの建物は20年も前から建っているが崩壊していない。学校は建設されてから10年しか経っていない。連中は建設に回すべきカネを横取りすることで何百人もの子供達の命を奪った。連中は売春婦達や二号達のためのカネはあってもわれわれの子供達のためのカネはないってわけだ。」、「資格のないような建設会社が建てたに違いない。豆腐のような建物だったんだ。どうかこの話をニュースとして伝えて欲しい。」、「これは自然災害じゃない。人災だ。」、「調査を行うべきだ。さもなきゃ何千人もの親達が役人どもを殴り殺すだろう。」と息巻く声が噴出しています。

 13日に国務院(内閣)が行った記者会見で、国営英字紙のChina Dailyの記者が、以上のような声をぶつけたところ、建設省(Ministry of Civil Affairs)の災害救助局長は、「崩壊したのは学校だけではないが、子供達が生き埋めになったことにわれわれは強い関心を抱いている。北川(Beichuan)県では役所の建物も崩壊して恐らく多数の死傷者が出ているはずだ。政府の建物だってみんな堅固なわけではない。」と苦しい答弁を行いました。
 そして16日には、教育省の役人が、既に学校の崩壊により教員と生徒、計7,000人の死亡が確認されているとした上で、「もし学校の建物で手抜きが発見されたら、われわれはその責めを負う人々を容赦なく処罰するつもりだ」と表明しました。

 (以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/4f4356b8-2127-11dd-a0e6-000077b07658.html
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1739622,00.html
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20080513-OYT1T00367.htm
http://www.guardian.co.uk/world/2008/may/14/china.naturaldisasters2
(いずれも5月14日アクセス)、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-construct14-2008may14,0,1369661,print.story
(5月15日アクセス)、
http://www.nytimes.com/2008/05/17/world/asia/17china.html?ref=world&pagewanted=print
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1807137,00.html
http://www.guardian.co.uk/world/2008/may/17/chinaearthquake.china1
(いずれも5月17日アクセス)による。)

 耐震強度が十分ではない学校は発展途上国ではめずらしくありません(
http://www.nytimes.com/2008/05/14/world/14codes.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
。5月14日アクセス)し、日本にだってあります(
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/ba/43/
。5月14日アクセス)。

 とはいえ、内外に向けて情報公開した結果、この問題は世界中に知れ渡ってしまいました。
 中共当局がこの問題にどのように落とし前をつけるのか、いやつけられないのか、今後が注目されます。

 なお、広東省の日刊紙・南方都市報が、14、15の両日、同紙の姉妹紙、南方週末の元副編集長で、現在は香港在住の銭剛氏のコラムを掲載し、「救助隊の現場入りは1976年の唐山大地震に比べても遅い・・・<また、>唐山地震の時のように兵士ら救助隊を徒手空拳で現場に送り込んではならない。救助隊員の命を使って報道用のショーを演じさせては絶対にならない・・・中国は防災・減災を担う部門がばらばらで、常設の担当機構もない。指揮のレベルと効率は膨大な人々の命に直接かかわる」といった中共当局批判を行った(
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080512-2403370/news/20080516-OYT1T00061.htm?from=yoltop
(5月16日アクセス)ことも附記しておきましょう。

 (3)核の問題

 大地震が起こった四川省では、ここが中共にとって四囲の国境から最も遠いことから、中共の核兵器の設計、生産、貯蔵が行われています。
 ですから、偵察衛星等の手段で、欧米諸国はこれら施設に被害が生じ、放射能が洩れていないか、懸命に監視を続けています。
 中共が四川省に核関連施設の建設を始めたのは1960年代です。
 まず、廣元(Guangyuan)市の北西15マイルには核弾頭用プルトニウムを生産する中心施設であるプラント821があります。
 より震源に近い綿●(こざと偏に日)(Mianyang)市の郊外には核兵器設計の中心施設である中国物理工学アカデミー(Chinese Academy of Engineering Physics)があり、ここにも研究用の小さな原子炉があります。このアカデミーは核兵器の研究・開発・評価を行っており、四川省内にいくつかの支所を持っています。
 また、同市の西方に車で2時間行った、更に震源に近い所に、急速爆発原子炉(prompt-burst reactor)を持つ施設があります。この原子炉は、核爆発による最初の数ミリ秒における核分裂物資の発生をシミュレーションすることができます。
 最後に、同市の北方の、やはり震源に近い、人跡希な峻険な山中には、山腹の巨大トンネル群の中に核兵器を貯蔵している施設があります。
 (以上、 
http://www.nytimes.com/2008/05/16/world/asia/16nuke.html?ref=world&pagewanted=print
(5月16日アクセス)による。)
 5月16日、フランスの核監視機関は、中共当局が、地震発生後速やかに上記諸核施設の活動を停止させたことを称賛しました(
http://www.guardian.co.uk/world/2008/may/17/chinaearthquake.china1
前掲)。
 今回の大震災では、日本のマスコミも被災現場入りして活躍していますが、日本は唯一の核被災国であるにもかかわらず、この種の日本発のニュースが皆無なのは、まことに悲しむべきことです。
 いずれにせよ、こんな物騒な場所である以上、中共が日本等の援助要員受け入れについて3日間かけて慎重にその是非を検討したのは当然ですよね。
 日本は諜報活動を行う意思も能力もないからまず受け入れを決め、次いで、勝手知ったる三つの民間機関に限定して台湾からの受け入れを決めた理由は、ミエミエではないでしょうか。
 まことに名誉なことだと思いませんか、日本国民の皆さん。

(完)

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