太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/

太田述正コラム#2394(2008.2.29)
<アフガニスタンに行ったハリー>(2008.4.8公開)

1 始めに

 英国のチャールス皇太子とダイアナの子供で、兄のウィリアム王子に次いで、英国王位継承順位3番目のヘンリー(ハリー)王子(現在23歳)がアフガニスタンで戦闘任務に従事していたことが明るみに出ました。
 日本のメディアよりちょっと詳しくご説明しましょう。

2 ハリーの戦い

 ハリーはもともとは近衛騎兵連隊で4台の偵察戦車を率いる立場であり、昨年、イラク派遣を希望していた(コラム#1741)のですが、テロリスト等に狙われ、ハリーだけでなく回りの英軍兵士達も危険に晒すというので英国防省はこのハリーの希望を却下しました。
 ハリーはそれなら陸軍を辞めると言い出したのですが、英国防省は、イラクに代わってアフガニスタン派遣を検討し、ハリーに航空管制について再教育を施し、12月14日、アフガニスタンに派遣したのです。通常の兵士に与えられる2週間の休暇なしで14週間現地にとどまり、今年4月には英国に戻る予定でした。
 このことを国防省内で知らされていたのは15名だけであり、知っていたのは後は祖母にあたるエリザベス女王を始めとするごくわずかのハリーの身内と友人だけでした。
 ハリーの任務は、アフガニスタン南部のヘルマンド州(Helmand Province)のパキスタン国境付近の堅固な基地から、統合戦術航空管制(Joint Tactical Air Control=JTAC)グループに属する前線航空管制員(forward air controller=FAC)として、タリバンの所在情報をもとに、米英仏の戦闘爆撃機に、ハリーの受け持ち地域(restricted operating zone=ROZ)における空爆ないし航空支援目的で爆撃目標を指示し、友軍からの誤射等を避けつつ爆撃地点までこれら航空機を誘導し、最終的には爆撃許可を与えることでした。
 ハリーの階級は少尉(cornet)であり、現在の直属の上司は、王立グルカ射撃連隊(Royal Gurkha Rifles)の第1大隊B中隊長の陸軍少佐です。
 ちなみに、これまで英軍兵士はイラクで170名、アフガニスタンでは82名が亡くなっています。

3 英メディアの協力と露見

 英陸軍は、昨年9月から12月にかけて英国の主要メディアほぼ全て及び米国のCNN等若干の海外メディアの計30〜40のメディアと交渉し、ハリーのアフガン派遣が終わるまで、一切報道をしない代わり、取材に様々な便宜を図るというという紳士協定を結びました。
 こんな紳士協定は1週間ともたないだろうと噂されていたのですが、英国では一切報道されることなくつい最近まで推移していたのです。
 ところが、オーストラリアの女性誌ニューアイディア(New Idea)のウェッブサイトが1月7日、初めてハリーのアフガン派遣の噂を報じ、これにドイツの新聞ビルド(Bild)が続き、更に2月28日にニューアイディア誌の上記記事を引用する形で、世界中で数百万人が読んでいる米国の政治ブログのドラッジュ・レポート(Drudge Report)が本件を報じるに至って、英国のメディアも一斉に報道を始めたのです。
 そこで、英陸軍参謀総長は、これが事実であることを認めるとともに、報道に対し遺憾の意を表明しました。
 案の定、イスラム系のウェッブサイトのいくつかが、ハリーを発見するように努めよと煽り立て始めました。
 結局、ハリーは予定を繰り上げて英国に帰国させられることになりそうです。

4 終わりに代えて

 ハリーの祖父のフィリップ殿下は第二次世界大戦中軍艦勤務をし、彼の曾祖父の英国王ジョージ6世は国王になる前でしたが、第一次世界大戦の時にユトランド(Jutland)沖海戦に参加し、伯父のアンドルー王子(コラム#26、939、1214、1741、2348)は1982年のフォークランド戦争に海軍ヘリコプターの操縦士として参加しています。
 (もっとも、国王として部隊を率いて戦ったのはジョージ2世が1743年にデッティンゲン(Dettingen)の戦いでフランス軍を破ったのが最後です。)
 また、エリザベス女王について、ハリーは、舌を巻くほど英陸軍のことに通じていると語っています。
 ハリーのアフガニスタン派遣報道がなされるや、英陸軍参謀総長は、「王子のアフガニスタンでの勤務ぶりは模範的なものだ」と語り、ブラウン首相や保守党のキャメロン党首等の政治家はハリーを褒め称えました。
 ブラウン首相は、「王子が行っている傑出した奉仕を英国民全体が誇りに思っている」と語ったほどです。
 戦争を生業とするアングロサクソンの本家ならでは、という感がありますね。

 (以上、事実関係は、
http://www.guardian.co.uk/uk/2008/feb/29/military.monarchy1
http://www.guardian.co.uk/media/2008/feb/28/royalsandthemedia.pressandpublishing
http://www.guardian.co.uk/uk/2008/feb/29/military.monarchy3
http://www.guardian.co.uk/uk/2008/feb/29/military.monarchy
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/02/28/AR2008022801881_pf.html
http://www.nytimes.com/2008/02/29/world/europe/29harry.html?ref=world&pagewanted=print
http://www.cnn.com/2007/WORLD/europe/10/05/harry.statue/index.html
http://www.cnn.com/2008/WORLD/asiapcf/02/28/prince.afghanistan/index.html
(いずれも2月29日アクセス)による。)

太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/