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太田述正コラム#2393(2008.2.29)
<あたごの事故狂騒曲>
1 始めに
防衛省をめぐる大問題だと言うのに、これまでまとまったコラム一つ書いていませんでしたが、雑誌「フォーラム21」に本件について寄稿することになったので、近々有料コラムでその下書きを配信するほか、3月14日放送予定の日テレの「太田総理・・」でも私が本件に絡む発言をすることになりそうなので乞うご期待。
2 「左」も「右」もおかしい
(1)総括
「左」の代表朝日新聞の29日付社説(
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
。2月29日アクセス(以下同じ))を、「右」の代表産経新聞の評論家の西尾幹二氏の同日付論考(
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080229/plc0802290317000-n1.htm
)をとりあげ、日本の論壇の歪みを批判することにしましょう。
(2)朝日新聞
朝日の社説は次のように論じています。
「・・事故当日に海上自衛隊は、事故直前の当直士官である航海長をヘリコプターで防衛省に呼んで事情を聴いていた。今回の事故では、自衛隊は「被疑者」である。捜査にあたる海上保安庁に当然すべき事前連絡をしなかったのは問題だ。 その事情聴取には石破氏が直接乗り出していたのに、当初その事実は伏せられた。防衛相には聴取した内容を、なぜか後で報告したことにしていたのだ。 大臣室での事情聴取に立ち会っていた増田好平事務次官は、「(聴取が)適切かどうかの認識もなかった」と述べている。そのうえ、自分は記録を取っていないので大臣室での聴取内容は「覚えていない」と平然と言った。 迷走する防衛省の説明を聞いていると、この役所が周到に組織的に情報を隠そうとしているのかどうかは、疑わしい。もっと悪いことに、だれも全体像を把握できず、バラバラに対応しているだけなのではないかと思えてくる。
・・こうなると、防衛省のだれを信じて事実解明を任せたらよいのか分からなくなる。きちんとした原因解明と事後処理を指揮できない石破氏に、このまま仕事を任せていいのかどうか、私たちは疑問に思う。 もはや福田首相が乗り出して、今後の対応の筋道を示すべき段階だ。日本の安全保障を託している組織が、自ら起こした事故に対応できずに機能不全に陥っているのは恐るべきことである。 なのに、首相の記者団に対する発言を聞くと、まるでひとごとのようだ。・・」
この「だれも全体像を把握できず、バラバラに対応しているだけなのではないか」という点を補足しておくと、次のとおりです。
「・・内局が積極的に事故の説明を始めたのは、26日未明の運用企画局長会見から。報道陣に「清徳丸発見」の情報源を問われ、衝突の「2分前」はあたご航海長、「12分前」は横須賀地方総監部幕僚長と公表した。 同時に「12分前」は「19日午後8時半の報告」と明らかにしたため、翌日の衆院安全保障委員会で20時間以上、訂正しなかった点を責められた石破防衛相は「海上保安庁の了承を得ていなかったため」と説明した。 すると「海保の了承」がキーワードとなり、今度は航海長からの事情聴取が「海保の了承」を得たのかが焦点に。石破防衛相は27日、「無断聴取」と断定。増田好平事務次官に至っては海幕の説明を「(虚偽も)排除できない」と述べた。 だが、海幕は28日になっても「間違いなく事前通知した」と譲らない。通報した幹部から供述書をとったほか、ひそかに通話記録を取り寄せ、海保への連絡時刻を確認して自信を深めているという。 海自幹部は「首相官邸の裁定で、防衛省と海保の『言った』『言わない』の争いは終わるはずだった。なぜ、次官がコトを荒立てるのか解せない。次官は石破防衛相による航海長の事情聴取に同席しながら『記憶がない』という。追及の矛先を、石破防衛相一人に向けようとしている」と不満げだ。 一方、石破防衛相が記者会見に先行して自民党国防三部会で事故情報を公表したり、事故を受けた防衛省改革を打ち出したりすることには「独断過ぎる」との批判が内局、海幕双方にある。マニアのように自動操舵に関心を持ったり、28日に現場検証を行ったりしたことについて、「やるべきことはほかにあるだろう」の声も。 とはいえ、海幕に代わって事実関係の公表を始めた内局も、説明するたびに矛盾が出るなど失点続きだ。あまりのお粗末ぶりに、制服組から「持て余した石破防衛相をクビにするのが本当の狙いでは」との憶測さえ呼ぶ。・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008022902091412.html
とりわけ、目を覆いたくなるのは増田好平防衛次官の迷走ぶりです。
「防衛省の増田好平次官は28日の記者会見で、海上自衛隊のイージス艦「あたご」の衝突事故で焦点の一つとなっているあたご航海長の事情聴取に関し、「事情聴取した内容をもとにしてまとめて、ファクスで海上保安庁に送った。少なくとも1人がメモを記録していることがわかっている」と述べ、事故当日の19日の事情聴取メモの存在を認めた。 メモの存在を巡っては、次官が27日夜の記者会見で「(事情聴取の内容は)記憶にない。メモをとっていたかどうかわからない」と繰り返し、議事録はないと説明していた。 次官は28日の会見で、メモの内容について、「出せるものは話すが、捜査に影響を与えるものは控えさせていただく」として開示できないとした。・・」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080228-OYT1T00535.htm
「きちんとした原因解明と事後処理を指揮できない石破氏」という点についても補足しておきましょう。
「・・石破茂防衛相らが海上保安庁から事前了解を得ずに航海長の聴取をしていた問題で、・・石破氏は「乗員に接触していない」としていた前言を撤回し、「話を聞いていたと言うべきだった」と述べた。捜査権のある海保の頭越しに行った聴取を自ら行っていたことで、石破氏の責任追及はさら に強まることも予想される。 石破氏は25日の衆院予算委員会で「捜査の厳正性のため、現時点では乗員に接触していない」と答弁していた。しかし、28日の参院外防委では前言を撤回。「(事故当日は聴いたが)答弁の時点では接触していないという意味。隠すつもりはなかった」と釈明し、虚偽発言は否定した。航海長の聴取について は・・大臣室での再聴取が自らの意向だったこと<を>認めた。・・」
http://mainichi.jp/select/today/news/20080229k0000m040128000c.html
さて、朝日の社説に戻りますが、「だれも全体像を把握できず、バラバラに対応している」のは、国民の「期待」通りに防衛省が機能している、ということであって、今更のように呆れてみせた上でトカゲの尻尾切り的に大臣辞任要求を掲げるのは、「左」メディアが防衛省問題を取り上げる際の定番の偽善であると言うべきでしょう。
自衛隊を軍隊として機能させないという確固たる国民的コンセンサスがあり、しかもこのコンセンサスに基づき、自衛隊、特に自衛隊の運用についてどシロウトに等しい背広組を大臣と制服組の間に介在させ、陸海空を分割統治させ、間違っても防衛省が一体として機能するなんてことがないようにしているのですから・・。
こうした背景の下、背広組キャリアが制服組以上に退廃し、腐敗するのは当然のことなのです。
防衛省キャリアは全員守屋だ、と私が口を酸っぱくして言い続けてきたことを思い出してください。ただし、退廃・腐敗ぶりの発現形態は人によって様々だとも申し上げてきました。どうです、増田君だって守屋とは違ってクリーンかもしれないけれど、やはり丸でダメ人間だったでしょう。
しかも、歴代の大臣は、戦後初期を除いて、外交安全保障のこれまたどシロウトばかりです。吉田ドクトリンという戦後日本の国是を墨守してきたことの当然の帰結です。
石破大臣は、軍事オタクではあるようだけれど、外交安全保障のどシロウトであることに変わりはありません。なまじ本人にその自覚がないだけに、むしろ始末が負えないのです。
それでも私が事務次官なら、海幕(あるいは統幕)に事故調査委員会を即時に立ち上げさせ、その組織にフリーハンドを与えて原因究明に着手させるべきだし、広報については、背広組であることにはこの際目をつぶって、内局の広報官に一元的に担当させるべきだ、と大臣に意見具申したことでしょう。大臣、事務次官や海幕長も広報官が認めた範囲でしか対外的に発言しない、それ以外の者には一切対外的に発言させない、という前提で・・。
しかし、そんな発想や対応は現在の背広組キャリア幹部には求むべくもありませんし、また仮にそのような意見具申を受けたとしても、石破氏なら飲まなかったでしょうね。
(3)産経新聞
西尾氏は次のように論じています。
「・・マスコミは大騒ぎせず、冷静に見守るべきだ。軍艦側の横暴だときめつけ、非難のことばを浴びせかけるのは、悪いのは何ごともすべて軍だという戦後マスコミの体質がまたまた露呈しただけのことで、沖縄集団自決問題とそっくり同じパターンである。 単なる海上の交通事故をマスコミはねじ曲げて自衛隊の隠蔽体質だと言い立て、矛先を組織論にしきりに向けて、それを野党政治家が政争の具にしているが、情けないレベルである。今のところ自衛隊の側の黒白もはっきりしていないのである。防衛省側はまだ最終判断材料を与えられていない。組織の隠蔽かどうかも分からないのだ。
ということは、この問題にも憲法9条の壁があることを示している。自衛隊には「軍法」がなく、「軍事裁判所」もない。だから軍艦が一般の船舶と同じに扱われている。単なる交通事故扱いで、軍らしい扱いを受けていないのに責任だけ軍並みだというのはどこか異様である。・・マスコミは日本の安全保障をめぐる本質論を展開してほしい。当然専守防衛からの転換が必要だ。それを逃げて、今のように軍を乱暴な悪者と見る情緒的反応に終始するのは余りに「鎖国」的である。」
この後段については全く同感ですし、前段中の「悪いのは何ごともすべて軍だという戦後マスコミの体質がまたまた露呈した」、「野党政治家が政争の具にしている」という指摘も気持ちはよく分かります。
しかし、漁船団側、あるいは清徳丸側にも問題があったことは否めないとしても、あたご側に著しい懈怠があったことはこれまで明らかにされた事実に照らしてほぼ間違いのないことでしょう。
また、事故後の防衛省の対応がなっていないことも厳然たる事実です。
このように防衛省/自衛隊側の肩を無条件で持つ記事、或いはそのようなスタンスの部外者の論考を掲載するというのは「右」メディアに共通する偏りであり、防衛省に対する批判的視点を擲っているという誹りを免れないでしょう。
2 終わりに
このような「左」「右」のメディアの報道ぶりを見るにつけ、左翼と右翼が暗黙裏に協調して吉田ドクトリンの延命を図ってきた構図がいまだに崩れていない感を深くします。
日本の夜明けは遠いと嘆息せざるをえません。
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太田述正コラム#2394(2008.2.29)
<アフガニスタンに行ったハリー>
→非公開
<あたごの事故狂騒曲>
1 始めに
防衛省をめぐる大問題だと言うのに、これまでまとまったコラム一つ書いていませんでしたが、雑誌「フォーラム21」に本件について寄稿することになったので、近々有料コラムでその下書きを配信するほか、3月14日放送予定の日テレの「太田総理・・」でも私が本件に絡む発言をすることになりそうなので乞うご期待。
2 「左」も「右」もおかしい
(1)総括
「左」の代表朝日新聞の29日付社説(
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
。2月29日アクセス(以下同じ))を、「右」の代表産経新聞の評論家の西尾幹二氏の同日付論考(
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080229/plc0802290317000-n1.htm
)をとりあげ、日本の論壇の歪みを批判することにしましょう。
(2)朝日新聞
朝日の社説は次のように論じています。
「・・事故当日に海上自衛隊は、事故直前の当直士官である航海長をヘリコプターで防衛省に呼んで事情を聴いていた。今回の事故では、自衛隊は「被疑者」である。捜査にあたる海上保安庁に当然すべき事前連絡をしなかったのは問題だ。 その事情聴取には石破氏が直接乗り出していたのに、当初その事実は伏せられた。防衛相には聴取した内容を、なぜか後で報告したことにしていたのだ。 大臣室での事情聴取に立ち会っていた増田好平事務次官は、「(聴取が)適切かどうかの認識もなかった」と述べている。そのうえ、自分は記録を取っていないので大臣室での聴取内容は「覚えていない」と平然と言った。 迷走する防衛省の説明を聞いていると、この役所が周到に組織的に情報を隠そうとしているのかどうかは、疑わしい。もっと悪いことに、だれも全体像を把握できず、バラバラに対応しているだけなのではないかと思えてくる。
・・こうなると、防衛省のだれを信じて事実解明を任せたらよいのか分からなくなる。きちんとした原因解明と事後処理を指揮できない石破氏に、このまま仕事を任せていいのかどうか、私たちは疑問に思う。 もはや福田首相が乗り出して、今後の対応の筋道を示すべき段階だ。日本の安全保障を託している組織が、自ら起こした事故に対応できずに機能不全に陥っているのは恐るべきことである。 なのに、首相の記者団に対する発言を聞くと、まるでひとごとのようだ。・・」
この「だれも全体像を把握できず、バラバラに対応しているだけなのではないか」という点を補足しておくと、次のとおりです。
「・・内局が積極的に事故の説明を始めたのは、26日未明の運用企画局長会見から。報道陣に「清徳丸発見」の情報源を問われ、衝突の「2分前」はあたご航海長、「12分前」は横須賀地方総監部幕僚長と公表した。 同時に「12分前」は「19日午後8時半の報告」と明らかにしたため、翌日の衆院安全保障委員会で20時間以上、訂正しなかった点を責められた石破防衛相は「海上保安庁の了承を得ていなかったため」と説明した。 すると「海保の了承」がキーワードとなり、今度は航海長からの事情聴取が「海保の了承」を得たのかが焦点に。石破防衛相は27日、「無断聴取」と断定。増田好平事務次官に至っては海幕の説明を「(虚偽も)排除できない」と述べた。 だが、海幕は28日になっても「間違いなく事前通知した」と譲らない。通報した幹部から供述書をとったほか、ひそかに通話記録を取り寄せ、海保への連絡時刻を確認して自信を深めているという。 海自幹部は「首相官邸の裁定で、防衛省と海保の『言った』『言わない』の争いは終わるはずだった。なぜ、次官がコトを荒立てるのか解せない。次官は石破防衛相による航海長の事情聴取に同席しながら『記憶がない』という。追及の矛先を、石破防衛相一人に向けようとしている」と不満げだ。 一方、石破防衛相が記者会見に先行して自民党国防三部会で事故情報を公表したり、事故を受けた防衛省改革を打ち出したりすることには「独断過ぎる」との批判が内局、海幕双方にある。マニアのように自動操舵に関心を持ったり、28日に現場検証を行ったりしたことについて、「やるべきことはほかにあるだろう」の声も。 とはいえ、海幕に代わって事実関係の公表を始めた内局も、説明するたびに矛盾が出るなど失点続きだ。あまりのお粗末ぶりに、制服組から「持て余した石破防衛相をクビにするのが本当の狙いでは」との憶測さえ呼ぶ。・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008022902091412.html
とりわけ、目を覆いたくなるのは増田好平防衛次官の迷走ぶりです。
「防衛省の増田好平次官は28日の記者会見で、海上自衛隊のイージス艦「あたご」の衝突事故で焦点の一つとなっているあたご航海長の事情聴取に関し、「事情聴取した内容をもとにしてまとめて、ファクスで海上保安庁に送った。少なくとも1人がメモを記録していることがわかっている」と述べ、事故当日の19日の事情聴取メモの存在を認めた。 メモの存在を巡っては、次官が27日夜の記者会見で「(事情聴取の内容は)記憶にない。メモをとっていたかどうかわからない」と繰り返し、議事録はないと説明していた。 次官は28日の会見で、メモの内容について、「出せるものは話すが、捜査に影響を与えるものは控えさせていただく」として開示できないとした。・・」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080228-OYT1T00535.htm
「きちんとした原因解明と事後処理を指揮できない石破氏」という点についても補足しておきましょう。
「・・石破茂防衛相らが海上保安庁から事前了解を得ずに航海長の聴取をしていた問題で、・・石破氏は「乗員に接触していない」としていた前言を撤回し、「話を聞いていたと言うべきだった」と述べた。捜査権のある海保の頭越しに行った聴取を自ら行っていたことで、石破氏の責任追及はさら に強まることも予想される。 石破氏は25日の衆院予算委員会で「捜査の厳正性のため、現時点では乗員に接触していない」と答弁していた。しかし、28日の参院外防委では前言を撤回。「(事故当日は聴いたが)答弁の時点では接触していないという意味。隠すつもりはなかった」と釈明し、虚偽発言は否定した。航海長の聴取について は・・大臣室での再聴取が自らの意向だったこと<を>認めた。・・」
http://mainichi.jp/select/today/news/20080229k0000m040128000c.html
さて、朝日の社説に戻りますが、「だれも全体像を把握できず、バラバラに対応している」のは、国民の「期待」通りに防衛省が機能している、ということであって、今更のように呆れてみせた上でトカゲの尻尾切り的に大臣辞任要求を掲げるのは、「左」メディアが防衛省問題を取り上げる際の定番の偽善であると言うべきでしょう。
自衛隊を軍隊として機能させないという確固たる国民的コンセンサスがあり、しかもこのコンセンサスに基づき、自衛隊、特に自衛隊の運用についてどシロウトに等しい背広組を大臣と制服組の間に介在させ、陸海空を分割統治させ、間違っても防衛省が一体として機能するなんてことがないようにしているのですから・・。
こうした背景の下、背広組キャリアが制服組以上に退廃し、腐敗するのは当然のことなのです。
防衛省キャリアは全員守屋だ、と私が口を酸っぱくして言い続けてきたことを思い出してください。ただし、退廃・腐敗ぶりの発現形態は人によって様々だとも申し上げてきました。どうです、増田君だって守屋とは違ってクリーンかもしれないけれど、やはり丸でダメ人間だったでしょう。
しかも、歴代の大臣は、戦後初期を除いて、外交安全保障のこれまたどシロウトばかりです。吉田ドクトリンという戦後日本の国是を墨守してきたことの当然の帰結です。
石破大臣は、軍事オタクではあるようだけれど、外交安全保障のどシロウトであることに変わりはありません。なまじ本人にその自覚がないだけに、むしろ始末が負えないのです。
それでも私が事務次官なら、海幕(あるいは統幕)に事故調査委員会を即時に立ち上げさせ、その組織にフリーハンドを与えて原因究明に着手させるべきだし、広報については、背広組であることにはこの際目をつぶって、内局の広報官に一元的に担当させるべきだ、と大臣に意見具申したことでしょう。大臣、事務次官や海幕長も広報官が認めた範囲でしか対外的に発言しない、それ以外の者には一切対外的に発言させない、という前提で・・。
しかし、そんな発想や対応は現在の背広組キャリア幹部には求むべくもありませんし、また仮にそのような意見具申を受けたとしても、石破氏なら飲まなかったでしょうね。
(3)産経新聞
西尾氏は次のように論じています。
「・・マスコミは大騒ぎせず、冷静に見守るべきだ。軍艦側の横暴だときめつけ、非難のことばを浴びせかけるのは、悪いのは何ごともすべて軍だという戦後マスコミの体質がまたまた露呈しただけのことで、沖縄集団自決問題とそっくり同じパターンである。 単なる海上の交通事故をマスコミはねじ曲げて自衛隊の隠蔽体質だと言い立て、矛先を組織論にしきりに向けて、それを野党政治家が政争の具にしているが、情けないレベルである。今のところ自衛隊の側の黒白もはっきりしていないのである。防衛省側はまだ最終判断材料を与えられていない。組織の隠蔽かどうかも分からないのだ。
ということは、この問題にも憲法9条の壁があることを示している。自衛隊には「軍法」がなく、「軍事裁判所」もない。だから軍艦が一般の船舶と同じに扱われている。単なる交通事故扱いで、軍らしい扱いを受けていないのに責任だけ軍並みだというのはどこか異様である。・・マスコミは日本の安全保障をめぐる本質論を展開してほしい。当然専守防衛からの転換が必要だ。それを逃げて、今のように軍を乱暴な悪者と見る情緒的反応に終始するのは余りに「鎖国」的である。」
この後段については全く同感ですし、前段中の「悪いのは何ごともすべて軍だという戦後マスコミの体質がまたまた露呈した」、「野党政治家が政争の具にしている」という指摘も気持ちはよく分かります。
しかし、漁船団側、あるいは清徳丸側にも問題があったことは否めないとしても、あたご側に著しい懈怠があったことはこれまで明らかにされた事実に照らしてほぼ間違いのないことでしょう。
また、事故後の防衛省の対応がなっていないことも厳然たる事実です。
このように防衛省/自衛隊側の肩を無条件で持つ記事、或いはそのようなスタンスの部外者の論考を掲載するというのは「右」メディアに共通する偏りであり、防衛省に対する批判的視点を擲っているという誹りを免れないでしょう。
2 終わりに
このような「左」「右」のメディアの報道ぶりを見るにつけ、左翼と右翼が暗黙裏に協調して吉田ドクトリンの延命を図ってきた構図がいまだに崩れていない感を深くします。
日本の夜明けは遠いと嘆息せざるをえません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
太田述正コラム#2394(2008.2.29)
<アフガニスタンに行ったハリー>
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