太田述正コラム#2375(2008.2.20)
<皆さんとディスカッション(続x68)>

<Pixy>

 コソボ関連でよく出てくるのは、コソボへの国連の介入を認めた安保理決議1244です。UNMIKもKFORも同決議を根拠としています。同決議ではコソボの将来的な地位協議に触れつつも、ユーゴスラビア(現セルビア)のコソボ自治州に対する主権、領土についても認めているため、セルビアとロシアはコソボ独立は、同決議の違反であり、独立には新たな安保理決議が必要(ロシア拒否権で決議は事実上不可能)と主張しています。また、UNMIKに取って代わる警察・文民をEUが派遣することが独立宣言前に決定されてましたが、ロシアはこれも決議違反だと言ってますね。

 まあ、そもそもどういう条件が整えば国際法上問題はないと断定できるのかはよく知りませんが、コソボに関してはそれらしい法的根拠は全くないと言えると思います。

 (正直セルビアが、ハーグの国際刑事裁判所に戦犯を引き渡せとか、コソボ独立とか、ここまで一方的に欧米に虐げられる合理的理由の見当はつきませんが(同じスラブ人であるロシアの潜在的友好国だから?先のミロシェビッチ大統領が欧米に刃向った罰?)ただ、BBCのHave You Sayとかのコメントを見る限り、先のクロアチア、ボスニア、コソボの民族紛争以来、セルビア=独裁国家、絶対悪という欧米メディアが発信したイメージが完全に定着しています。欧米の動きは、それらの世論をベースに「彼らに任せていたらバルカン半島の安定・民主化は望めないから、俺たちが代わりに再構築してあげてやっているんだ。むしろ感謝しろ」と思ってるんじゃないか?という印象を受けますね。)

Resolution 1244 (1999)
http://www.nato.int/Kosovo/docu/u990610a.htm

Kosovo MPs proclaim independence
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7249034.stm

Green light for EU Kosovo mission
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7226959.stm

 無理やり根拠らしきものを探すのであれば、国連憲章第1章第1条にある"民族自決"(self-determination)の原則でしょうかね。

CHAPTER I - Article 1
The Purposes of the United Nations are:
2. To develop friendly relations among nations based on respect for the principle of equal rights and self-determination of peoples, and to take other appropriate measures to strengthen universal peace;

 台湾はいち早くコソボ独立を歓迎し承認しましたが、台湾外交部の声明は民族自決を引き合いに出しているみたいです。

Kosovo shows Taiwan the way, Su Tseng-chang says
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2008/02/19/2003401925

In an official press release, MOFA touted Kosovars and said self-determination was a right recognized by the UN and that the people should be the masters of their nation's fate.

 コソボを独立国家として承認するか、認めないかでそれぞれのお国の事情が分かって興味深いです。

承認:
Germany, Italy, France, UK, Austria, US, Turkey, Albania, Afghanistan, Taiwan(承認する資格無いだろと中国がツッコミ),(Japan:近日中)
反対:
Russia, Spain, Romania, Slovakia, Cyprus, (China:公式には反対でなく懸念表明)

 ガーディアンのブログのコメントとか見てると、これは国家主権の侵害だ、お前はそこらかしこで住人が独立したいと言ったら無条件で認めるのか?秩序も何もあったもんじゃない。という方向の人と、市民あっての国家であり、住民の意思は最優先せよ、もしスコットランドが独立したいといったら俺は認めてやる!みたいな方向の人がいて面白いです。

Miscalculating Kosovo
http://commentisfree.guardian.co.uk/simon_tisdall/2007/07/miscalculating_kosovo.html

 結局、乱暴にまとめると「主権・領土保全」と「民族自決」のどちらに重きを置くのか?「民族自決」は「主権・領土保全」を踏みにじってまでして尊重されるべきものなのか?ということになるんじゃないですかね。

 もちろん、コソボよりはるかに民主主義国家である台湾が「民族自決」をいくら唱えても独立承認の国際社会のコンセンサスが得られないように、実際には個々のケースでは関係国の力関係、利害、情勢、歴史、背景等から対応が決定されるもので、あまり一般化はできないでうが、欧米のセルビアは民族浄化をした悪者であって、何をやってもいいんだとも言いたげな見下した態度(EU内への移動にビザ無しにしてやるからコソボはあきらめろ・・とか)を取りつつ、口では「民族自決」とかもっともらしくのたまっている振舞いに、お前らは何様なんだ?と個人的には憤りを感じます。

<太田>

 ここまでよくお調べいただければ、私がコラムを書く必要はなさそうです。
 以下、2点だけ簡単な留保をつけておきます。

 第一に、現在われわれは、人道上の理由から国内問題に介入できるという慣習国際法が形成されつつある時代に生きているということです。
 旧ユーゴスラビアのボスニアやコソボで、国連安保理の決議という明確な法的根拠なしに、それぞれ1994年と1999年にNATOの軍事介入が行われたのがかかる慣習国際法形成への大きな契機となったと言ってよいでしょう。
 第二に、コソボについて言えば、旧ユーゴスラビア連邦のセルビア共和国のコソボ自治州では1974年憲法により大幅な自治権が認められていたというのに、セルビア当局が1990年、自治州政府・議会を廃止し、事実上自治権を剥奪したため、アルバニア人議員が「コソボ共和国」の独立を宣言したという経緯、更に1998年にセルビア(改めユーゴ連邦)政府がこの「コソボ共和国」に軍隊を送り込み、この軍隊やセルビア人民兵が少なくとも1万人以上のアルバニア人を虐殺したと推定されるという経緯を踏まえなければならないということです。
 (以上、コソボに係る事実関係については、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%BD%E3%83%9C%E7%B4%9B%E4%BA%89
(2月20日アクセス)、によったが、詳しくは、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/feb/18/kosovo.serbia  
(2月18日アクセス)、及び
http://www.slate.com/id/2184478/  
(2月19日アクセス)参照のこと。)

<FUKO>

 太田氏、あたごの件についてどう思われますか?
 まさかイージス艦が漁船を捕捉できなかったってことはありませんよね?
 そうなると、可能性が高いのは過失ですか?
 キャリアが腐りきっているというのは太田氏のおかげで分かりましたが、現場もそうなのでしょう・・。
 やはり、自衛隊が本来の目的を喪失しているから、隊員のモチベーションが下がっているのでしょうか。
 (国民2人死亡では、モチベーション云々どころではありませんが・・)

<太田>

 とりあえず、証言者達が真実を語っているという前提で、この事故についてコメントしてみましょう。

一、被害者の人間像

 「清徳丸」に乗っていた<親子のうち息子の方の>吉清哲大さん(23)は、東京・上野公園のホームレスを支援するため、ここ4年ほど一年に3〜4回、自分で取った魚を届けていた(
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008022090071644.html。2月20日アクセス。以下、特に言及しない場合は同様)。

→エライ!(太田)

二、ルール

 海上衝突予防法では、2隻の船が互いを真向かいに見て近づく場合は、それぞれが右に回避し、前方を船が横切る進路の場合は、相手を右舷側に見る船が回避するのが原則。
http://www.asahi.com/national/update/0220/TKY200802190418.html

→あくまで「原則」であることに注意。(太田)

三、「あたご」側の証言

 ・・海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」(基準排水量7750トン、全長165メートル)が、マグロはえ縄漁船清徳丸(7トン、同12メートル)と衝突した海難事故・・。
http://www.asahi.com/national/update/0220/TKY200802190418.html上掲
 19日午前4時5分ごろ、野島崎沖を北に向かって10ノット(時速約18.5キロ)で航行、漁船1隻が右前方から進路を横切った。そのころ、見張りの乗組員が右方向に緑の灯火を視認した。実際は清徳丸の灯火だったが、この時点では漁船の灯火かどうか分からなかったという。同6分ごろ、緑の灯火がスピードを上げて動いたため漁船と確認。全力の後進をかけて回避動作をした。清徳丸は前方約100メートルで大きく面舵(おもかじ)(右舵)を切った。同7分に衝突。レーダーに清徳丸が映っていたか、それを乗組員が認識していたかどうかは不明という。海上衝突予防法では、清徳丸の場合、左舷に赤、右舷に緑、後部に白の灯火が義務づけられている。あたごから見て清徳丸は右から左に航行していたとすれば、赤の灯火が見えることになり、乗組員の証言とは矛盾する。漁をしている時はこのほかに緑の灯火が必要だが、当時は操業していなかったという
http://mainichi.jp/select/today/news/20080220k0000m040144000c.html

→緑の灯火が見えていたので衝突する可能性がないと愛宕の見張り員らが思いこんだ可能性が高い。(太田)

四 「清徳丸」の僚船側の証言

 午前3時半ごろ、幸運丸のレーダーに、左舷前方約9キロから接近してくる船影が映った。12〜13ノットで東京湾に向かっているようだった。「なんの船だ」「タンカーか、フェリーか」後続の漁船同士が無線などでやりとりを始めた。しかし、その中に清徳丸の吉清船長の声はなかったという。・・ 後続の船は無線で連絡しあい、衝突を回避するため、次々とかじを切った。イージス艦は、曲がったり止まったりする様子がなかったという。清徳丸はこのときも無線連絡に反応しなかった。幸運丸のレーダーには、直進している清徳丸の影が映っていた。・・清徳丸と船団を組んでいた金平丸の市原義次船長は、事故があった場所の近くで、午前4時過ぎに大きな船と遭遇した。このとき、金平丸や清徳丸など漁船5隻が約3キロ内に集まっていた。大きな船は青い明かりを見せ、正面から向かって来た。市原さんはすぐに右にかじを切ったが、それでも衝突の危険性があるとみて、左にかじを切り直した。「船は真っすぐ近づいてきた。こちらは左右どちらによけるか迷ったが、最後は左によけた」と話す。
http://www.asahi.com/national/update/0220/TKY200802200006.html

→衝突回避にあたっては、法律がどうなっているかはともかく、臨機応変の措置がとられなければならないことが分かる。何せ相手はぶつかったら一方的に漁船側が致命的な被害を受ける巨大な鋼鉄船(清徳丸は強化プラスティック製)であるし、鈍重で舵も簡単には効かないし簡単には止まれないのに、漁船は舵が簡単に効き、後進をかければ簡単に止まれるのだから・・。
 清徳丸が一貫して無線に反応しなかったことも気になる。操船者等がいねむりをしていた可能性も否定できない。(太田)

五 平和ボケの日本

 昨年12月、停泊中の護衛艦「しらね」(5,200トン)で起きた火災について、・・海上幕僚監部は・・、無許可で持ち込まれた「保冷温庫」の異常過熱が原因だった可能性が高いとする調査結果をまとめた。・・保冷温庫は缶入り飲料などを冷やしたり温めたりする装置で、中国製のポータブルタイプ。CIC内の冷蔵庫の上に置かれて保温用に使われていたが、何らかの理由で過熱し、出火した可能性が高いという。市販の家電製品を護衛艦に持ち込むには所要の手続きが必要だが、無断で持ち込まれたとみられる。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008021902088790.html
。2月19日アクセス

→これだけでも、海上自衛隊の平和ボケの程度が推し量れる。
 しかし、海上自衛隊を取り巻く日本社会そのものが以下のように平和ボケでは、海上自衛隊だけで平和ボケを克服することは容易ではない。
 考えてもみていただきたい。
 この種の衝突事故が起きると、海自艦艇の艦長も海難審判庁の審判を受け、検察によって起訴されると裁判所で刑事罰を科すべきかどうかが判断される。
http://www.asahi.com/national/update/0219/TKY200802190147.html
。2月19日アクセス
 他方、米原子力潜水艦グリーンヴィルとえひめ丸のハワイ沖での衝突事件では、当時のグリーンヴィルの艦長スコット・ワドル(当時中佐)は事件の責任について軍法会議で審議されることはなく、司令官決裁による減俸処分を受けただけで、後に軍を名誉除隊した(懲戒解雇に相当する不名誉除隊ではなく、軍人年金などの受給資格のある一般退職。退職後ただちに海軍関連の企業に再就職した)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%88%E3%81%B2%E3%82%81%E4%B8%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6
 日本の場合、今回の事故を受け、第3管区海上保安本部(横浜市)が19日夜、業務上過失往来危険の疑いであたごの艦内を捜索したわけだが、高度の防衛機密を持つイージス艦が強制捜査を受けるのは異例だと朝日新聞まで書いているほどだ。
http://www.asahi.com/national/update/0220/TKY200802190418.html前掲
 航海日誌を閲覧し、CICだって立ち入ったのだろうが、これでは機密の保護を叫んでもむなしい。
 あたごの艦長や当直士官も訴追される可能性が高い。
 讀賣新聞は、「万が一、自爆テロの船だったらどうするんだ」との渡辺金融相の指摘がもっともだと記している。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080219-OYT1T00764.htm
 しかし、日本の平和ボケを維持・助長してきた自民党の政治家にそんなことを言われても、ただただしらじらしいだけだ。
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太田述正コラム#2376(2008.2.20)
<パキスタン議会選挙(その1)>

→非公開

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