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太田述正コラム#2233(2007.12.13)
<お年の志方俊之さん>(予定を変更し、2007.12.17公開)
1 始めに
志方俊之さんは、方面総監まで勤め上げた幹部自衛官のOBとしてはめずらしく、大学で教鞭をとるかたわら、防衛問題の評論活動を行ってこられました。
この志方さんをどう評価するか。
皆さんにお考えいただきたいと思ってこのコラムを書きました。
志方さんの言っておられることを転載したので、お読み下さい。
2 私が防衛省を飛び出した頃
志方俊之『自衛隊に誇りを』(小学館文庫2001年3月)
かっては内局のシビリアンが制服を着ている者に対して威張っているという面があった。・・今はそれも改善されていると思う。・・一つは、シビリアン側の人たちに防衛庁生粋<(プロパー)>の人材が育ってきたということ。今までは植民地人事と呼ばれていろいろな省庁から集められた人がいて、その中にはシビリアン・コントロールの真の意味を知らない人がいた。最近になってようやく防衛庁プロパーが育ってきた。その人たちがアメリカのハーバード大学やプリンストン大学に留学し、ほんとうの意味のアメリカのシビリアンコントロールは何かを勉強してきている。・・それから、制服組の中にも相当勉強している者が出てきたということ・・勉強しているから内局の人と対等に論議ができるようになったのだ。・・両者が無意味に反撥し合うことなく、うまく補完し合って力を発揮しはじめているということだ。彼らはこれまで難しいとされてきた変革を次々と成し遂げている。」(PP134-136)、「若い世代の防衛庁プロパーと制服組の非常にインテレクチュアル(知性的)な人間が出てきた・・ポリティコ・ミリタリーのリーダーシップが確立してきた・・」(PP136)、「今の自衛隊には変革が必要である。これは確かだ。しかし、自分達の努力でできることは全部したというのが自衛隊の総意といえる。」(PP154)
→現時点に立って振り返ってみると、この超楽観的な志方さんの見方に唖然とされる読者が多いのではありませんか?(太田)
3 現在
産経新聞2007年12月13日 正論 志方俊之
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/071213/plc0712130332002-n1.htm
政軍関係について外国では政治優先(Political Leadership)という表現を使っている。これは政治が軍事に優先するということで、わが国ではなぜかこれを文民統制(Civilian Control)と呼んでいるから、その意味を誤解する者が出てくる。
・・・
そうなると、防衛官僚の中に、文民統制とは背広を着た官僚が制服を着た自衛官を統制することだと思い込む者が出てくる。しばしば制服組と内局官僚間の確執を問題視する向きもあるが、現実には、マスコミが興味本位に取りざたするほどではない。
制服組はこれを仕事を進める上での「秩序」と受け止め極めて冷静に対応している。
制服自衛官には激しい異動があり、しかも中央を離れることが多い。第一線部隊での教育訓練、災害派遣、海外での活動に忙しく、政治に対して細部まで説明するほどの余裕はない。
したがって、背広組の防衛官僚が政治との接点に立ち、予算を取り、装備を取得し、施設を整備し、これらを維持・管理するのが当然なのである。
→ここでは志方さんは、自衛官は内部部局に勤務する必要はない、勤務すべきでないとおっしゃっているとしか読めませんね。(太田)
ところが、志方さんは続いて次のように言っておられます。
防衛官僚と制服自衛官との関係であるが、トップレベルの調整の場である防衛参事官会議の制度を見直すとき、制服組と文民官僚との役職分担のサンドイッチ構造を防衛省の各局レベルまで拡大して両者の接触面積を大きくすることが必要だ。
→分かりにくい書き方ですが、仮に自衛官も防衛官僚とともに内局で勤務すべきだとおっしゃっているのだとすれば、志方さんの先程のご主張と整合性がありません。(太田)
国家公務員の上級試験に合格すると、現場を知らないまま出世の階段をのぼる。その弊害をなくすため、まず幹部候補生学校に3カ月ないし半年程度の体験課程を新設し、両者の相互理解を深めるシステムを構築することを考えてもよい。
さらに、地方協力本部だけでなく、第一線部隊の何らかの職場、例えば業務隊などを若い文民官僚にも開放し、若いころから制服組と接触させることが重要だろう。
→これでは、自衛官と文官の区分がぼやけてしまいます。文官が勤務できるようなポストであれば、そもそも自衛官のポストになっていることがおかしいのです。そもそも先進諸国の中で、日本は、国防省職員(自衛隊員)全体に占める(相対的に人件費が低い)文官の比率が極めて低い(典拠省略)おかしな国なのですよ。(太田)
防衛装備品の調達見直しでは、現在商社に任せている仕事(情報収集と分析、製造者との折衝、資料整備、アフターケアなど)を省内部に持つとなれば、多くの専門的識見を持つ人材を省内に抱え込む必要がある。
・・
特定の装備に関する識見しかない自衛官は、民間では全く「つぶし」が利かないから、定年後に装備を扱う商社勤めをすることは本人にも商社にも一石二鳥である。
・・
これを「天下り」と指弾するのは簡単だ。だが、若年定年制をやめれば自衛隊員の超高齢化が進む。
→自衛官OBに商社(民間)勤めを奨励されているところを見ると、自衛官は民間で「つぶし」が利くと志方さんは見ているということになり、一つの文章の中に論理矛盾があります。
それに、自衛官OBが商社勤めができるのであれば、若年定年制を廃止し、自衛官を若年で定年退職させずに防衛省の中で商社的業務に従事させることもできそうですよね。ですから、この段落全体としても志方さんの論理に矛盾があります。(太田)
3 終わりに
私は、志方さんは6年半前の時点で既にお年を召されておられる、と考えているのですが、それがどうしてなのか、皆さんにもおぼろげなりにお分かりいただけたのではないでしょうか。
<お年の志方俊之さん>(予定を変更し、2007.12.17公開)
1 始めに
志方俊之さんは、方面総監まで勤め上げた幹部自衛官のOBとしてはめずらしく、大学で教鞭をとるかたわら、防衛問題の評論活動を行ってこられました。
この志方さんをどう評価するか。
皆さんにお考えいただきたいと思ってこのコラムを書きました。
志方さんの言っておられることを転載したので、お読み下さい。
2 私が防衛省を飛び出した頃
志方俊之『自衛隊に誇りを』(小学館文庫2001年3月)
かっては内局のシビリアンが制服を着ている者に対して威張っているという面があった。・・今はそれも改善されていると思う。・・一つは、シビリアン側の人たちに防衛庁生粋<(プロパー)>の人材が育ってきたということ。今までは植民地人事と呼ばれていろいろな省庁から集められた人がいて、その中にはシビリアン・コントロールの真の意味を知らない人がいた。最近になってようやく防衛庁プロパーが育ってきた。その人たちがアメリカのハーバード大学やプリンストン大学に留学し、ほんとうの意味のアメリカのシビリアンコントロールは何かを勉強してきている。・・それから、制服組の中にも相当勉強している者が出てきたということ・・勉強しているから内局の人と対等に論議ができるようになったのだ。・・両者が無意味に反撥し合うことなく、うまく補完し合って力を発揮しはじめているということだ。彼らはこれまで難しいとされてきた変革を次々と成し遂げている。」(PP134-136)、「若い世代の防衛庁プロパーと制服組の非常にインテレクチュアル(知性的)な人間が出てきた・・ポリティコ・ミリタリーのリーダーシップが確立してきた・・」(PP136)、「今の自衛隊には変革が必要である。これは確かだ。しかし、自分達の努力でできることは全部したというのが自衛隊の総意といえる。」(PP154)
→現時点に立って振り返ってみると、この超楽観的な志方さんの見方に唖然とされる読者が多いのではありませんか?(太田)
3 現在
産経新聞2007年12月13日 正論 志方俊之
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/071213/plc0712130332002-n1.htm
政軍関係について外国では政治優先(Political Leadership)という表現を使っている。これは政治が軍事に優先するということで、わが国ではなぜかこれを文民統制(Civilian Control)と呼んでいるから、その意味を誤解する者が出てくる。
・・・
そうなると、防衛官僚の中に、文民統制とは背広を着た官僚が制服を着た自衛官を統制することだと思い込む者が出てくる。しばしば制服組と内局官僚間の確執を問題視する向きもあるが、現実には、マスコミが興味本位に取りざたするほどではない。
制服組はこれを仕事を進める上での「秩序」と受け止め極めて冷静に対応している。
制服自衛官には激しい異動があり、しかも中央を離れることが多い。第一線部隊での教育訓練、災害派遣、海外での活動に忙しく、政治に対して細部まで説明するほどの余裕はない。
したがって、背広組の防衛官僚が政治との接点に立ち、予算を取り、装備を取得し、施設を整備し、これらを維持・管理するのが当然なのである。
→ここでは志方さんは、自衛官は内部部局に勤務する必要はない、勤務すべきでないとおっしゃっているとしか読めませんね。(太田)
ところが、志方さんは続いて次のように言っておられます。
防衛官僚と制服自衛官との関係であるが、トップレベルの調整の場である防衛参事官会議の制度を見直すとき、制服組と文民官僚との役職分担のサンドイッチ構造を防衛省の各局レベルまで拡大して両者の接触面積を大きくすることが必要だ。
→分かりにくい書き方ですが、仮に自衛官も防衛官僚とともに内局で勤務すべきだとおっしゃっているのだとすれば、志方さんの先程のご主張と整合性がありません。(太田)
国家公務員の上級試験に合格すると、現場を知らないまま出世の階段をのぼる。その弊害をなくすため、まず幹部候補生学校に3カ月ないし半年程度の体験課程を新設し、両者の相互理解を深めるシステムを構築することを考えてもよい。
さらに、地方協力本部だけでなく、第一線部隊の何らかの職場、例えば業務隊などを若い文民官僚にも開放し、若いころから制服組と接触させることが重要だろう。
→これでは、自衛官と文官の区分がぼやけてしまいます。文官が勤務できるようなポストであれば、そもそも自衛官のポストになっていることがおかしいのです。そもそも先進諸国の中で、日本は、国防省職員(自衛隊員)全体に占める(相対的に人件費が低い)文官の比率が極めて低い(典拠省略)おかしな国なのですよ。(太田)
防衛装備品の調達見直しでは、現在商社に任せている仕事(情報収集と分析、製造者との折衝、資料整備、アフターケアなど)を省内部に持つとなれば、多くの専門的識見を持つ人材を省内に抱え込む必要がある。
・・
特定の装備に関する識見しかない自衛官は、民間では全く「つぶし」が利かないから、定年後に装備を扱う商社勤めをすることは本人にも商社にも一石二鳥である。
・・
これを「天下り」と指弾するのは簡単だ。だが、若年定年制をやめれば自衛隊員の超高齢化が進む。
→自衛官OBに商社(民間)勤めを奨励されているところを見ると、自衛官は民間で「つぶし」が利くと志方さんは見ているということになり、一つの文章の中に論理矛盾があります。
それに、自衛官OBが商社勤めができるのであれば、若年定年制を廃止し、自衛官を若年で定年退職させずに防衛省の中で商社的業務に従事させることもできそうですよね。ですから、この段落全体としても志方さんの論理に矛盾があります。(太田)
3 終わりに
私は、志方さんは6年半前の時点で既にお年を召されておられる、と考えているのですが、それがどうしてなのか、皆さんにもおぼろげなりにお分かりいただけたのではないでしょうか。
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
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