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太田述正コラム#2210(2007.12.2)
<皆さんとディスカッション(続x11)>

<読者SM>

 憲法改正ではとかく注目されるのが第9条で、この点を中心に護憲か改憲かという議論に成りがちな世論です。ですが、9条議論も大事ですが、それ以外にも時代にそぐわない改めるべき条文条項は少なからずあると思いますし、国民の皆さんも議員の皆さん(自民から共産まで)もほとんど同意見だと思うのです。だからどの条文を改めるかという考えは人それぞれだとしても、実は皆さんほとんど改憲派なのです。もちろん私も改憲派です。
 しかしこの先も改憲はなかなか難しいでしょうし、改憲できたとしても大多数が納得できる新憲法ができるとは思えません。何故かと言えば現憲法では、改正=全体改正であり、国民の認識もそうだからです。憲法とはいえ、神から与えられた聖典などではなく、私たち不完全な人間があくまでも世界の現時点を踏まえて作ったものであり、ましてや未来を予測する事もできないのであれば完璧な憲法など作れるはずがないからです。
 ただ日本国憲法はアメリカに押し付けられたものですが、一応61年間続いてきたのですからそれなりにまともな憲法でもあります。改めなくてよいと思う条文条項も当然あります。(どの条文かはもちろん人それぞれですが)

 そこで私は思います。まず日本国憲法を全体改正方式から条文条項改正方式へと、「憲法の改正方式のみを変更する手続き」を国会議員投票なり国民投票なりしてはどうかと。国民アンケートなどでもわかるように多くの皆さんは「憲法には時代にそぐわない部分がある」と思っているのですから。
 そうしておいて、次に憲法全体を私たち国民も含めて一条一条丹念に条文条項を検討・議論して、残すべき部分は残し、大きく議論が分かれる9条などもひとまず残し、大多数が一刻も改めるべきという部分を改めていけば、どんな新憲法草案よりも磨き上げられて国民の考えを反映したものであろうし、必然的に国民の憲法への理解も深くなると思います。そして何よりもこの方が効率的・合理的だと思います。
 現在の憲法改正論議は(国会あるいは政治に関する報道などもそうだと思うが)まさに木を見て森を見ずというか、本質を見落としてるというか・・・。 一部にとらわれずにもっと全体を見渡したものになっていけばと思います。
 以上、長くなりましたが、太田さんあるいは今この太田さんのブログをみてる皆さん、ちょっと軍事関係とは違いますが、憲法改正についてどうお考えでしょうか。

<太田>

 私の見解は全く異なります。
 「マグナ・カルタは世界最初の成文憲法」とコラム#96に記しましたが、より正確に言えば、イギリスには成文憲法はないのであって、判例法体系であるコモンローとこのコモンロー由来のマグナカルタ等の文書の集積が実質的な意味でのイギリス憲法なのであり、このような意味においてイギリスの憲法は不文憲法なのです。
 さて、このマグナ・カルタは、「アンジュー帝国」の「皇帝」であるフランス王兼イギリス王等のジョン王から「帝国軍」の軍事費の負担を求められたイギリス貴族等がこれに怒って「アンジュー帝国」からのイギリスの独立を勝ち取った独立宣言である、という趣旨のことを上記コラムで記したところです。
 では、世界最初の成文憲法である米国憲法はどのような経緯でつくられたのでしょうか。これは、イギリス本国軍の英北米植民地駐留軍経費の一部負担を求められた北米植民地のイギリス人達がこれに怒ってイギリスからの独立を勝ち取った独立宣言である、という趣旨のことを同じコラムや拙著防衛庁再生宣言に記しました。
 すなわち、憲法的なものはアングロサクソンに由来するのであり、その核心部分は、軍事指導者(行政権の長)は領域構成員が選出する(コラム#372)という前提の下、軍事費(租税)は領域構成員の同意なくして課されてはならない、という哲学なのです。
 (コモンローについてはコラム#90、マグナ・カルタについてはコラム#96参照。イギリスの不文憲法については、コラム#1153、1809で言及した。)
 
 そもそも、アングロサクソンの生業はゲルマン人同様軍事であり(コラム#41)、彼らが軍事を最も重視したのは当然です。
 (このことも含め、アングロサクソン文明が純粋のゲルマン文明であることについては、コラム#41、125、372、852、854、857参照。これらのコラムや上の括弧内に列挙したコラムも私のアングロサクソン論の一環だと言ってよい。)
 
 このようなアングロサクソンが、といってもできそこないのアングロサクソンたる米国が、憲法第9条を敗戦日本に「押しつけた」のは、日本が領域国家として存立する必要条件を剥奪するのが目的であり、日本国憲法の改正規定が極めて厳格であることともあいまって、日本を半永久的に米国に隷属させようという魂胆だったのです。
 爾来日本という隷属国家の軍隊は自衛隊ではなく米軍なのであり、この米軍の維持経費の一部を日本は「主権回復」以降も負担させられるという屈辱を味わわされます。
 現在の日本政府よりは覚醒していた当時の日本政府の努力で、この米軍経費の一部負担は一旦ゼロになるものの、それほど時間をおかず、国賊金丸によって1978年に復活して現在に至っています。
 第9条をいまだに改正せず、かといって米国の議会に代表を送ろうともせず、しかも米国の軍事費の一部まで負担している日本及び日本人を米国の指導層がどんなに蔑視しているかに気付かずして・・。
 結論的に申し上げれば、第9条の改正抜きの日本国憲法の改正など、何の意味もない、ということです。
 
 とはいえ、実際問題として日本国憲法の改正は不可能です。
 しかし幸か不幸か、施行後60年を経て、既に大日本帝国憲法存続期間以上の期間日本国憲法が全く改正されなかった結果、日本は事実上不文憲法の国になったと考えることもできるのではないでしょうか。
 そもそも、随分以前から、日本政府の憲法第9条の公定解釈は、条文の字義通りの解釈とは全くかけ離れたものになっています。
 そうである以上、首相が一声、憲法第9条は集団的自衛権の行使を妨げるものではない、と宣言すればいいのです。それでもはや憲法第9条を改正する必要はなくなります。
 後は、いつの時点かに最高裁が、この政府の新しい公定解釈を追認するか、判断を回避する判決を下せばよいのです。
 憲法第9条以外についても、同じことです。
 不文憲法の国がイギリス(英国)以外にあったって悪くないでしょう。

<バグってハニー>

>12月14日放送「太田総理・・」マニフェスト:「不祥事を内部告発をした人には国から褒賞金1000万円(仮)をあげます」 (未公開コラム#2209)

 日本は内部告発後進国です。これ読むべし。
http://chizai-tank.com/Otsuka/Otsuka.htm
 米国の内部告発者制度(三つの法律)がどのように整備されていったのか、典拠つきで非常に分かりやすく述べられています。Federal False Claims Actは南北戦争のときに不良武器を売りつける業者に痺れを切らしたリンカーン大統領が制定させたんですねえ。軍需にまつわる水増し請求というのは古くて新しい問題なんですねえ。だからこそ、根性とか気合とか個人の責任に帰すのではなくて、構造的に取り組むことが肝要でしょう。

<太田>

 どうもありがとうございます。
 今度も平沢議員が出るらしいので、ますます明日の収録が楽しみになってきました。
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太田述正コラム#2211(2007.12.2)
<額賀さん大好き(続x4)>

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