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太田述正コラム#2020(2007.8.24)
<中共経済概観>(2007.10.1公開)
1 始めに
中共経済を概観した最近の記事をご紹介しましょう。
なお、以下では、「中共」ではなく、「中国」を用いたことをお断りしておきます。
2 低下する労働分配率
「一般的な中国人、なかでも都市部住民の暮らしは、約30年前に始まった改革開放路線による市場経済への移行によって、かなり豊かになった。しかし相対的に、国民所得に占める労働分配率は減少している。・・IMF・・によると、1980年代半ば以降の労働分配率の下落は相当なもので、・・GDP・・の67%だったものが、今では56%に下落している。世界銀行が調べた労働分配率の低下はさらに顕著で、1998年から現在までに9ポイントも下落しているという。
中国の指導者たちは表向きは、雇用拡大が急務だと主張する。しかしその一方で政府は、様々な経済インセンティブを繰り出して、資本集約的な産業を優遇している。よりたくさんの就職機会を作り出せるサービス分野は、優遇されているとはいえない。資本集約的な産業分野がここ数年の間に生み出した莫大な利益は、国家投資機関と当局関係者に還流したのであって、労働者に振り分けられたのではない。中国経済急成長のもうひとつの「勝ち組」は、外国の多国籍企業だ。こうした企業は、中国の地元企業とのジョイントベンチャーに参加し、中国を輸出基地として使っている。
中国では何年も前から人件費が上昇しつつあるが、せっかくの上昇分を生産性の上昇が相殺してしまうため、賃金レベルは依然として相対的に低い。加えて、自分たちの労働条件を飛躍的に向上させられるほど、中国の労働者たちが団結できずにいることも、要因のひとつだ。」
(以上、
http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20070808-01.html
(フィナンシャル・タイムズ 2007年8月1日掲載記事の邦訳)(8月10日アクセス)による。)
3 拡大する所得不平等
「アジア開発銀行の最近のレポートは、中国がネパールとともに、アジアで最も不平等な所得分配国であるとしている。・・1970年代と1980年代、韓国と台湾が高度成長をしていた時だって、今日の中国ほど所得分配が不平等にはならなかった。・・中国の指導者達は、経済が年8%で伸びなければ安定は保てないと計算したものだ。この20年間にわたって彼らはこの目標を達成してきた。新たな課題は、この顕著な経済拡大を維持しつつ成長による果実をより平等に行き渡らせることだ。・・今や指導層は、貧者による暴動を心配しなければならなくなっている。」
(以上、
http://www.ft.com/cms/s/1e938d5a-4697-11dc-a3be-0000779fd2ac.html
(8月10日アクセス)による。)
4 中国のマクロ経済統計は信用できない。
まず、このところ中国は年10%成長を続けていることになっているが、農村地帯はGDPの70%を占めており、中国政府は農村地帯は成長していないと言っているところ、それなら都市部は年33%成長をしていないとならない計算だ。
しかし、年33%もの成長をしているはずがない。
次に、中国の統計は香港の統計と整合性がない。
2001年には香港は不況でGDPが低下したが、その香港を取り巻く人口2億の広東省ではGDPが10%伸びたことになっている。
とちらかの統計が間違っている可能性が大だ。
第三に、電力消費量は経済成長率より伸びが大きいという一般的傾向がある。これは特に発展途上国においてあてはまる。事実、中国政府は、GDP当たりの電力消費量は増大してきているとしている。
高度成長を経験した国の中で、経済成長率に比して最も電力消費量の伸びが小さかったのが1970年代の日本だが、その日本でさえ、GDPの成長率は電力消費量の伸びの60%だった。こういったことを考慮すると、中国の電力消費量の伸びから逆算して、その経済成長率は4.5%から6%といったところが本当の数値だろう。
要するに、中国政府が発表する経済成長率は、都市部だけの経済成長率だと思えばよいことになる。
5 21世紀中には米国に追いつけない中国
中国経済は今世紀中に米国経済を凌駕するだろうか。
経済後進国が、世界一の一人当たり所得国に、一人当たり所得で追いつくには100年以上かかるという歴史的事実がある。
例えば、米国は19世紀を通じて英国より高い経済成長率を達成したが、第一次世界大戦まで英国に追いつかなかった。
日本は150年前の明治維新以降近代化に努めてきたが、現時点で名目値では米国に追いついたけれど、購買力ではいまだに米国の80%程度にとどまっている。
それに米国の一人当たり所得だって伸び続けている。現に、1990年から現在まで、他の経済大国の大部分より伸び率が高い。
さて、中国の一人当たり実質経済成長率が、これからずっと年4%程度で推移するものとしよう。これは、100年間にわたる成長率としては、これまでで最も高い数値だ。他方米国は、この15年間の平均値である年3%の一人当たり経済成長率を維持し続けるものとしよう。
次に、一人っ子政策と男女の数の不均衡から、中国の人口は、今世紀末には現在より減っている可能性が高いけれど、仮に現在の13億人を維持できると想定しよう。他方、米国の人口は、移民もあって現在の年1%の増加率が続くものと想定すれば、今世紀末には現在の2倍以上になる。
そうすると、米中の人口比率は現在の約1対4から今世紀末には約1対2になろう。
簡単な計算をすれば、人口比率が約1対4のままなら今世紀末には中国の経済規模は米国に追いつくけれど、人口比率は恐らく約1対2になるであろうから、今世紀末までには逆立ちしても追いつけないことが分かる。
(以上4と5は、MITの経済学教授のレスター・サロー(Lester Thurow)のコラム
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/08/21/2003375177
(8月22日アクセス)による。)
5 感想
最後の予想は、米国についてはドル暴落が米国経済に及ぼす影響、中国については政治的不安定化が中国経済に及ぼす影響を無視した、楽観的すぎる予想のような気がします。
それにしても、日本の行く末が気にかかります。
<中共経済概観>(2007.10.1公開)
1 始めに
中共経済を概観した最近の記事をご紹介しましょう。
なお、以下では、「中共」ではなく、「中国」を用いたことをお断りしておきます。
2 低下する労働分配率
「一般的な中国人、なかでも都市部住民の暮らしは、約30年前に始まった改革開放路線による市場経済への移行によって、かなり豊かになった。しかし相対的に、国民所得に占める労働分配率は減少している。・・IMF・・によると、1980年代半ば以降の労働分配率の下落は相当なもので、・・GDP・・の67%だったものが、今では56%に下落している。世界銀行が調べた労働分配率の低下はさらに顕著で、1998年から現在までに9ポイントも下落しているという。
中国の指導者たちは表向きは、雇用拡大が急務だと主張する。しかしその一方で政府は、様々な経済インセンティブを繰り出して、資本集約的な産業を優遇している。よりたくさんの就職機会を作り出せるサービス分野は、優遇されているとはいえない。資本集約的な産業分野がここ数年の間に生み出した莫大な利益は、国家投資機関と当局関係者に還流したのであって、労働者に振り分けられたのではない。中国経済急成長のもうひとつの「勝ち組」は、外国の多国籍企業だ。こうした企業は、中国の地元企業とのジョイントベンチャーに参加し、中国を輸出基地として使っている。
中国では何年も前から人件費が上昇しつつあるが、せっかくの上昇分を生産性の上昇が相殺してしまうため、賃金レベルは依然として相対的に低い。加えて、自分たちの労働条件を飛躍的に向上させられるほど、中国の労働者たちが団結できずにいることも、要因のひとつだ。」
(以上、
http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20070808-01.html
(フィナンシャル・タイムズ 2007年8月1日掲載記事の邦訳)(8月10日アクセス)による。)
3 拡大する所得不平等
「アジア開発銀行の最近のレポートは、中国がネパールとともに、アジアで最も不平等な所得分配国であるとしている。・・1970年代と1980年代、韓国と台湾が高度成長をしていた時だって、今日の中国ほど所得分配が不平等にはならなかった。・・中国の指導者達は、経済が年8%で伸びなければ安定は保てないと計算したものだ。この20年間にわたって彼らはこの目標を達成してきた。新たな課題は、この顕著な経済拡大を維持しつつ成長による果実をより平等に行き渡らせることだ。・・今や指導層は、貧者による暴動を心配しなければならなくなっている。」
(以上、
http://www.ft.com/cms/s/1e938d5a-4697-11dc-a3be-0000779fd2ac.html
(8月10日アクセス)による。)
4 中国のマクロ経済統計は信用できない。
まず、このところ中国は年10%成長を続けていることになっているが、農村地帯はGDPの70%を占めており、中国政府は農村地帯は成長していないと言っているところ、それなら都市部は年33%成長をしていないとならない計算だ。
しかし、年33%もの成長をしているはずがない。
次に、中国の統計は香港の統計と整合性がない。
2001年には香港は不況でGDPが低下したが、その香港を取り巻く人口2億の広東省ではGDPが10%伸びたことになっている。
とちらかの統計が間違っている可能性が大だ。
第三に、電力消費量は経済成長率より伸びが大きいという一般的傾向がある。これは特に発展途上国においてあてはまる。事実、中国政府は、GDP当たりの電力消費量は増大してきているとしている。
高度成長を経験した国の中で、経済成長率に比して最も電力消費量の伸びが小さかったのが1970年代の日本だが、その日本でさえ、GDPの成長率は電力消費量の伸びの60%だった。こういったことを考慮すると、中国の電力消費量の伸びから逆算して、その経済成長率は4.5%から6%といったところが本当の数値だろう。
要するに、中国政府が発表する経済成長率は、都市部だけの経済成長率だと思えばよいことになる。
5 21世紀中には米国に追いつけない中国
中国経済は今世紀中に米国経済を凌駕するだろうか。
経済後進国が、世界一の一人当たり所得国に、一人当たり所得で追いつくには100年以上かかるという歴史的事実がある。
例えば、米国は19世紀を通じて英国より高い経済成長率を達成したが、第一次世界大戦まで英国に追いつかなかった。
日本は150年前の明治維新以降近代化に努めてきたが、現時点で名目値では米国に追いついたけれど、購買力ではいまだに米国の80%程度にとどまっている。
それに米国の一人当たり所得だって伸び続けている。現に、1990年から現在まで、他の経済大国の大部分より伸び率が高い。
さて、中国の一人当たり実質経済成長率が、これからずっと年4%程度で推移するものとしよう。これは、100年間にわたる成長率としては、これまでで最も高い数値だ。他方米国は、この15年間の平均値である年3%の一人当たり経済成長率を維持し続けるものとしよう。
次に、一人っ子政策と男女の数の不均衡から、中国の人口は、今世紀末には現在より減っている可能性が高いけれど、仮に現在の13億人を維持できると想定しよう。他方、米国の人口は、移民もあって現在の年1%の増加率が続くものと想定すれば、今世紀末には現在の2倍以上になる。
そうすると、米中の人口比率は現在の約1対4から今世紀末には約1対2になろう。
簡単な計算をすれば、人口比率が約1対4のままなら今世紀末には中国の経済規模は米国に追いつくけれど、人口比率は恐らく約1対2になるであろうから、今世紀末までには逆立ちしても追いつけないことが分かる。
(以上4と5は、MITの経済学教授のレスター・サロー(Lester Thurow)のコラム
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/08/21/2003375177
(8月22日アクセス)による。)
5 感想
最後の予想は、米国についてはドル暴落が米国経済に及ぼす影響、中国については政治的不安定化が中国経済に及ぼす影響を無視した、楽観的すぎる予想のような気がします。
それにしても、日本の行く末が気にかかります。
太田述正ブログは移転しました 。
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