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太田述正コラム#2060(2007.9.13)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃>

 (本篇は、即時公開します。)

1 始めに

 イスラエルの空軍機が9月6日、シリア領空内に侵入し、シリア北東部の目標を少なくとも一箇所爆撃してから帰還しました。
 この空軍機は5機であり、地中海からトルコとの国境沿いにシリア空域に侵入したとされ、ラッカ(Rakka)という町の北方約100マイルで目撃されたとの情報があります。
 シリアはこのイスラエルの領空侵犯行為を非難しましたが、イスラエルは沈黙を保っています。
 このイスラエル空軍機の目標が何であったのかについて、三つの説が出ています。

2 三つの説

 (1)北朝鮮がらみの核施設

 ブッシュ政権筋が主張している説なのですが、ここ半年間、とりわけこの一ヶ月間の衛星画像をイスラエルが解析して、北朝鮮が協力していると思われるシリアの核施設らしきものを見つけたという情報が前米国連大使のボルトン(John Bolton)らによって流布していたところ、実際、北朝鮮が核物資をシリアに売却した可能性があり、その倉庫をイスラエル空軍機が爆撃したのではないか、というのです。
 なお、これは単なる倉庫ではなく、北朝鮮から移設された濃縮ウラン製造施設である可能性があるとする説もあります。
 2003年に北朝鮮が、核物質を第三国に移す(transfer)するかもしれないと脅した際、米国が北朝鮮が核技術を第三国に提供するようなことがあれば、一線を越えたと判断する、つまりは対北朝鮮攻撃もありうる、と警告したことがあることを覚えておられるでしょうか。
 ちなみに、シリアは核拡散防止条約に調印していますが、IAEAによる強化査察を受け容れるとの追加議定書にはまだ同意していません。

 (2)ヒズボラ用武器施設

 2006年6月にイスラエル空軍機がシリア領空に侵入し、アサド・シリア大統領の夏の邸宅の上を低空飛行した上で、イスラエルが、これはシリアのハマスへの支援に対する警告のメッセージであると発表したことがあることを引き合いに出し、国連安保理決議で禁止されているにもかかわらず、シリアがレバノンのヒズボラへの武器供給を行っていることへの警告のメッセージとして、イスラエルがレバノンのヒズボラ(Hezbollah)用の地対地ミサイルの倉庫ないし製造工場を爆撃した可能性がある、というのです。

 (3)防空ミサイル施設

 最近のロシア製の防空ミサイルの導入により、シリアの防空能力が強化されたかどうかを見極めるためにイスラエルが空軍機を侵入させた、という見方もあります。
 この説は、類似の防空ミサイルを導入しているイランの核施設を近い将来イスラエルが空軍機で爆撃するための予行であるとする説と、近い将来ヒズボラ用の武器の集積所等を爆撃するための予行であるとする説に分かれています。

 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/12/AR2007091202430_pf.html
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/6991718.stm
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,2163764,00.html
http://www.nytimes.com/2007/09/12/world/middleeast/12syria.html?pagewanted=print
http://www.dailymail.co.uk/pages/live/articles/news/worldnews.html?in_article_id=481446&in_page_id=1811&ito=1490
(いずれも9月13日アクセス)による。)

3 コメント

 一つの事件についてこれだけ沢山の説が乱れ飛ぶのは、情報が寸時に全世界を駆け巡る昨今では極めてめずらしいことです。
 シリアがはっきりしたことを言わないのは、またもイスラエルに鼻を明かされた屈辱からでしょうが、イスラエルが完全黙秘を貫いていること、米国の関係者も極めて口が重いことは、北朝鮮がらみの核施設攻撃説またはイラン攻撃予行説のどちらかが正しいのではないか、ということを推測させます。
 いずれにせよ、イスラエルによるシリア本格攻撃のための予行である、という説だけは出ていないことは、興味深いところです。

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