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太田述正コラム#1891(2007.8.2)
<ダルフールとわが外務省>(2007.9.4公開)
1 始めに
8月1日、国連安保理はスーダンのダルフール(Darfur) 地方に国連とアフリカ連合(AU=African Union)の合同部隊を派遣することを決議しました。
本件に関し、朝日新聞は、「日本は国連の分担金比率に従って初年度500億円を支援することになる。だが、スーダン南部に展開する国連スーダン派遣団(UNMIS)に出向している外務省職員は1人だけ。現地情勢の情報を分析できる態勢にはなっていない。政府は政府途上国援助を組み合わせた支援や人的貢献を検討している。自衛隊の派遣については「安全確保ができるかが課題。欧米にとってアフリカは裏庭だが、日本とは風土も文化も違う。行け行けどんどんにはならない」(外務省幹部)などと消極的だ。」 と報じました(
http://www.asahi.com/politics/update/0802/TKY200708010481.html
。8月2日アクセス)。
自衛隊の派遣云々はともかくとして、外務省が、「欧米にとってアフリカは裏庭だが、日本とは風土も文化も違う。行け行けどんどんにはならない」という認識で、カネは出すけれど、「現地情勢の情報を分析できる態勢にはなっていない」ことはもってのほかです。
2 背景
このことを説明する前に、本件の背景にざっと触れておきましょう。
2003年2月に始まったスーダンにおける内紛は、空軍とアラブ人民兵を駆使するスーダン政府に対するに非アラブ人の叛乱分子、という図式であり、前者による後者の民族浄化・ジェノサイドという側面があります。
この内紛で20万〜40万人が死亡し、今なお毎月約7,000人が死亡し、200〜250万人の難民が発生しています。
スーダンには既にAUの平和維持軍7,000名が派遣されていますが、兵力不足もあって、一般住民の保護やNGOの保護が碌にできていないため、英仏や米国は国連平和維持軍を派遣しようとしたのですが、スーダン政府がその受け入れを拒み続けたために実現に至りませんでした。
そのスーダン政府が6月、ようやく受け入れを認めたのですが、安保理常任理事国の中共が、もともと受け容れには消極的なスーダン政府の肩を持っているため、違法な武器没収権限を国連平和維持軍に与えないといった骨抜きの内容の安保理決議が英仏の共同発議でようやく7月31日に成立したのです。
米国が共同発議に加わらなかったのは、骨抜きの内容の決議だったからです。
英仏は、とにかく国連平和維持軍の派遣を行いさえすれば、スーダン政府が非協力的であった場合、より厳しい安保理決議を引き出しやすくなる、という腹づもりです。米国はスーダン政府が非協力的なら、直接米軍を介入させることもありうる、ということまで示唆しています。
いずれにせよ、こうしてAUの7,000人を含めた最大19,555人の軍人と6,432人の文民警察官からなるところの、史上最大規模の国連平和維持軍の派遣が実現し、スーダンにおける民族浄化・ジェノサイドを止めさせるという目的の実現に向けて、遅まきながら国際社会は第一歩を踏み出すことができたのです。
3 もってのほかの外務省
そもそも、上記安保理決議は、米国の後押しの下、英国とフランスの共同発議で議決に漕ぎつけたものです。
確かに、英仏両国は、アフリカの旧宗主国として、またアフリカが欧州の裏庭であることから、アフリカに関する諸問題に特に強い関心を持っていることは事実です。
しかし、日本が国連安保理常任理事国になるつもりが本当にあるのなら、世界のいかなる地域のことにも強い関心を持ってしかるべきです。
しかもアフリカは、資源の宝庫であり、近年では産油地域としても注目されていることから、中東と並ぶ世界の戦略の要衝であると認識されるようになりました。
事実、中共は鋭意アフリカに進出してきています。
だからこそ、中共を牽制するためにも米国はアフリカ軍を新設しようとしています。
(以上、コラム#1683、1837参照。)
資源小国の日本、そして中共の隣国としての日本は、従って、アフリカには特に強い関心を持つべきなのです。
冒頭に掲げた朝日新聞の記事が正確だとして、この記事が引用するわが外務省の「幹部」のピンボケぶりには、ただただ嘆息するほかありません。
(以上、事実関係は、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2139747,00.html、
http://www.nytimes.com/2007/08/01/world/africa/01nations.html?ref=world&pagewanted=print、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/07/31/AR2007073101731_pf.html
(8月2日アクセス)による。)
<ダルフールとわが外務省>(2007.9.4公開)
1 始めに
8月1日、国連安保理はスーダンのダルフール(Darfur) 地方に国連とアフリカ連合(AU=African Union)の合同部隊を派遣することを決議しました。
本件に関し、朝日新聞は、「日本は国連の分担金比率に従って初年度500億円を支援することになる。だが、スーダン南部に展開する国連スーダン派遣団(UNMIS)に出向している外務省職員は1人だけ。現地情勢の情報を分析できる態勢にはなっていない。政府は政府途上国援助を組み合わせた支援や人的貢献を検討している。自衛隊の派遣については「安全確保ができるかが課題。欧米にとってアフリカは裏庭だが、日本とは風土も文化も違う。行け行けどんどんにはならない」(外務省幹部)などと消極的だ。」 と報じました(
http://www.asahi.com/politics/update/0802/TKY200708010481.html
。8月2日アクセス)。
自衛隊の派遣云々はともかくとして、外務省が、「欧米にとってアフリカは裏庭だが、日本とは風土も文化も違う。行け行けどんどんにはならない」という認識で、カネは出すけれど、「現地情勢の情報を分析できる態勢にはなっていない」ことはもってのほかです。
2 背景
このことを説明する前に、本件の背景にざっと触れておきましょう。
2003年2月に始まったスーダンにおける内紛は、空軍とアラブ人民兵を駆使するスーダン政府に対するに非アラブ人の叛乱分子、という図式であり、前者による後者の民族浄化・ジェノサイドという側面があります。
この内紛で20万〜40万人が死亡し、今なお毎月約7,000人が死亡し、200〜250万人の難民が発生しています。
スーダンには既にAUの平和維持軍7,000名が派遣されていますが、兵力不足もあって、一般住民の保護やNGOの保護が碌にできていないため、英仏や米国は国連平和維持軍を派遣しようとしたのですが、スーダン政府がその受け入れを拒み続けたために実現に至りませんでした。
そのスーダン政府が6月、ようやく受け入れを認めたのですが、安保理常任理事国の中共が、もともと受け容れには消極的なスーダン政府の肩を持っているため、違法な武器没収権限を国連平和維持軍に与えないといった骨抜きの内容の安保理決議が英仏の共同発議でようやく7月31日に成立したのです。
米国が共同発議に加わらなかったのは、骨抜きの内容の決議だったからです。
英仏は、とにかく国連平和維持軍の派遣を行いさえすれば、スーダン政府が非協力的であった場合、より厳しい安保理決議を引き出しやすくなる、という腹づもりです。米国はスーダン政府が非協力的なら、直接米軍を介入させることもありうる、ということまで示唆しています。
いずれにせよ、こうしてAUの7,000人を含めた最大19,555人の軍人と6,432人の文民警察官からなるところの、史上最大規模の国連平和維持軍の派遣が実現し、スーダンにおける民族浄化・ジェノサイドを止めさせるという目的の実現に向けて、遅まきながら国際社会は第一歩を踏み出すことができたのです。
3 もってのほかの外務省
そもそも、上記安保理決議は、米国の後押しの下、英国とフランスの共同発議で議決に漕ぎつけたものです。
確かに、英仏両国は、アフリカの旧宗主国として、またアフリカが欧州の裏庭であることから、アフリカに関する諸問題に特に強い関心を持っていることは事実です。
しかし、日本が国連安保理常任理事国になるつもりが本当にあるのなら、世界のいかなる地域のことにも強い関心を持ってしかるべきです。
しかもアフリカは、資源の宝庫であり、近年では産油地域としても注目されていることから、中東と並ぶ世界の戦略の要衝であると認識されるようになりました。
事実、中共は鋭意アフリカに進出してきています。
だからこそ、中共を牽制するためにも米国はアフリカ軍を新設しようとしています。
(以上、コラム#1683、1837参照。)
資源小国の日本、そして中共の隣国としての日本は、従って、アフリカには特に強い関心を持つべきなのです。
冒頭に掲げた朝日新聞の記事が正確だとして、この記事が引用するわが外務省の「幹部」のピンボケぶりには、ただただ嘆息するほかありません。
(以上、事実関係は、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2139747,00.html、
http://www.nytimes.com/2007/08/01/world/africa/01nations.html?ref=world&pagewanted=print、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/07/31/AR2007073101731_pf.html
(8月2日アクセス)による。)
太田述正ブログは移転しました 。
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