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時事コラム

2001年12月10日 
<太田述正コラム#0004>
世界の近現代史を貫く文明の対立 
         
 以前のコラムで、私は英国のブレア首相が、経済的観点から欧州通貨同盟に加盟すべきだと考えていると申し上げました。しかし、この問題の本質は経済問題ではないのです。
 かつてウィンストン・チャーチルは、「我々は欧州と共にあるが、欧州に属してはいない。」と述べました(http://www.nytimes.com/2001/12/09/international/europe/09EURO.html)が、この問題は、ハンチントンばりの(ただし、ハンチントンが意識的にか無意識的にか避けて通っている)、アングロサクソンと欧州という二つの文明の深刻な対立の一つの現れなのです。
 英国は、EC結成への動きがでてきた1950年の時点から、一貫してEC(後のEU)及びEC(EU)加盟欧州諸国に対して冷笑的な態度を採ってきました。いわく、欧州諸国の労働市場は流動性がないし利子も硬直的だ、欧州諸国の政府は機動的な財政金融政策がとれない、欧州諸国は福祉過剰だ、欧州諸国はシティーのような国際金融市場は育めない、だからこれらの国々が寄り集まったEC(EU)も同様だ、等々。
 しかし、ECがEUとなり、通貨統合を果たし、政治統合も視程に入ってきたとなると、いくら英国は資源大国だ(北海油田がある!)、米国や英連邦諸国と強い政治的経済的絆があるといばったところで、目と鼻の先に成立しようとしている、人口三億にもなろうかという巨大な政治経済圏の蚊帳の外に置かれる愚を避けようと思い始めるのは当然のことです。
 ブレア首相は、どうせ避けて通れないのなら、できるだけ早く通貨同盟に加盟し、政治統合が現実化する前に、EUにおいて英国の主導権を確保してしまおうと考えているのでしょう。同時多発テロが勃発し、英国が米国との特別の関係をプレイアップし、その国際情報収集力と軍事的即応性を世界に顕示した機会をとらえて、彼が通貨同盟加盟を英国民に強く訴えた機を見るに敏と言うべきでしょう。しかし、ブレア首相をもってしても、EURO採用に三分の二もの英国民が反対している現状を打破する、つまりは文明の対立を乗り越えるのは、容易なことではありますまい。

 アングロサクソンの異端児にして20世紀と21世紀にまたがる覇権国たる米国に至っては、文明の対立を乗り越えることなど、全く念頭にありません。これこそが、昨今の米国中心主義(unilateralism)のよってきたるゆえんなのです。
 同時多発テロへの対処のため、そのunilateralismも少しトーンダウンしたかと思われたのですが、なかなかどうして、あれだけ自ら炭疽菌テロに痛めつけられながら、米国内企業の査察を認めると技術情報を盗まれてしまう等として、生物兵器禁止条約の実効性を高める国際会議の審議を最終日(12月7日)という土壇場で無に帰してしまったのは米国でした。(http://www.nytimes.com/2001/12/09/international/europe/09EURO.html)。
 そして同じ日に、米上院は、米国自身を始めとする139カ国もの国が1998年に調印している、国際刑事裁判所(ICC)設置条約の批准に反対する法案を、英独仏等が既に批准しているにもかかわらず、(下院に引き続いて)可決しました。(http://www.asahi.com/column/aic/Wed/d_tan/20011017.html
 この法案の趣旨は、?@訴追対象から米兵が除外される確約がない限り、米国は国連の平和維持活動(PKO)に参加してはならない。?A米国領土での捜査活動は禁止する。?BICC設置条約を批准した国に対しては、共同訓練も含む米国の軍事援助を停止する。?C米兵が戦犯容疑で拘束された場合、軍事行動を意味する「必要なあらゆる手段」を取る権限を大統領に付与する、などの条項から明らかでしょう。(http://www.asahi.com/international/update/1208/011.html
 たまたま同じ日における行政府と立法府これらの動きは、米国が、アングロサクソン以外の他のすべての文明の善導役を自認しているが故に、他の文明による自らへの介入は一切許さないという意思表示なのです。

 このように、ミドルパワーたる英国のように相手の懐に飛び込んで主導権を握ろうとするのか、覇権国たる米国のように力で相手をねじ伏せて主導権を維持しようとするのか、同じアングロサクソンとはいっても国によって手法は異なりますが、私は、世界の近現代史が、現在に至ってもなお、「アングロサクソン文明」対「その他の文明、就中欧州文明」の主導権争い、という構図を中心に動いてきていることを直視すべきだと思っているのです。

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