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太田述正コラム#0026(2002.3.28)
<台湾機密費問題>

 台湾で李登輝政権当時の90年に、予算の剰余金を流用して密かにつくられた1億ドルにのぼる機密費の存在がメディアにリークされ、台湾や香港で大騒ぎになっています。
 台湾政府の国家安全局は、この機密費から得られる利子をスパイ活動や対外工作に使ってきたようです。
 台湾政府は、内容を報道しようとした台湾の雑誌社と新聞社を家宅捜査し、出版を差し止めました。しかし、この話は香港等のメディアにもリークされており、台湾の対中国本土スパイ網の存続が危機に瀕していると報じられています(http://newssearch.bbc.co.uk/hi/english/world/asia-pacific/newsid_1887000/1887708.stmhttp://newssearch.bbc.co.uk/hi/english/world/asia-pacific/newsid_1892000/1892690.stmhttp://newssearch.bbc.co.uk/hi/english/world/asia-pacific/newsid_1893000/1893971.stm)。

 日本のかつての植民地だった隣国(あえて「国」と言わせてもらいます)のこのようなビッグ・ニュースを日本のメディアがほとんど伝えていないのは理解に苦しみますが、その中で毎日が見過ごすことのできない記事を報じました。

「台湾の情報機関、国家安全(国安)局の機密費疑惑で、25日付の香港紙「星島日報」は、国安局が橋本龍太郎・元首相に接近を図り、99年には歳暮として1万ドル(約130万円)の商品券を贈ることを決めていたと報じた。同紙が入手した98年9月2日付の機密文書によると、国安局が日本や米国とのパイプづくりの組織「明徳グループ」に橋本氏を参加させることを計画。米国の大使が訪日して橋本氏を説得することになり、旅費などとして1万5000ドル(約195万円)を支出することを決めた。橋本氏は同年7月に首相を辞職していたが、国安局は政界への影響力を重視していたという。一方、99年12月15日付の文書によると、日本の歳暮の習慣に従い、対日工作の対象者に1人2000ドル(約26万円)の商品券を贈ることにしたが、李登輝総統(当時)の側近の提案で橋本氏は1万ドルと特別扱いにした。・・・・・(中略)・・・・・・同文書はまた、97年9月に決まった日米防衛新指針(ガイドライン)で重要な役割を果たしたとして、当時の防衛事務次官を米ハーバード大学に留学させ、学者として台湾に協力させる計画も記載。機密費から10万ドル(約1300万円)を米国の別団体にいったん振り込むなどして支援が表面化しないことを確認している。元次官は98年11月、防衛庁調達実施本部の背任事件に絡む証拠隠滅疑惑で依願退職していた。橋本政権下で決まった日米防衛新指針では、日米が協力する「周辺事態」に台湾を含むかどうかで論議を呼んだ。日本政府は地理的な特定はしなかったが、当時の李総統は新指針を評価する発言をしている。」(2002年3月25日23時32分)
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20020326k0000m030159000c.html

 橋本元総理の話も問題ですが、政治家の「不祥事」には読者もいささか食傷気味ででしょうし、最近の週刊誌に橋本氏の病院建設利権の話が出ていることもあり、橋本氏については今後の日本のメディアの追求に期待することにして、本稿では記事の後半に焦点をあてたいと思います。
 記事の中の「当時の防衛事務次官」とは、秋山昌廣氏であり、防衛庁に大蔵省(当時)から審議官として出向されてきてから、高校の先輩であったこともあり、私が防衛庁に在職中、公私ともお世話になった人です。次官をお辞めになってからハーバード大学に客員研究員として赴かれ、現在は、出身の財務省の関係団体に勤めておられます。
 この記事だけでは、(橋本氏のケースも同様ですが、)台湾の国家安全局の計画通りにことが進められたかどうかはあきらかではありません。しかし、秋山氏のハーバード行きについては、ご自分のカネで行かれたわけではなく、さりとてハーバード側の招待でもないと当時から囁かれていたことから、この計画が実行に移され、秋山氏が台湾政府の機密費をもらってハーバード大学に「遊学」された可能性は否定できないと思います。

 仮にそうだとすると、ことは重大です。
 第一に、記事の中でも言及されているように、当時秋山氏は「防衛庁調達実施本部の背任事件に絡む証拠隠滅疑惑で依願退職し」たばかりであり、本来、謹慎していなければならないところ、自分のカネならぬ、他人の、しかも素性の定かでないカネで「遊学」したこと自体が問題です。
 第二に、このカネが「日米防衛新指針(ガイドライン)で重要な役割を果たした」ことへの謝礼の意味があったことが問題です。秋山氏本人は否定されるでしょうし、私個人としても、そんなことはありえないと断言したいところですが、カネを受け取った以上は、カネで国策を売ったというそしりを受けても仕方がないでしょう。
 第三に、「学者として台湾に協力させ」られたことが一番深刻な問題です。実際、私のかすかな記憶では、秋山氏のハーバード在籍中、北京寄りのクリントン政権の台湾政策を批判する内容の同氏の投稿記事が朝日新聞に掲載されています。どこの国の前国防省次官であっても、その発言は重く受け止められますが、経済大国日本の前国防省次官ともなればなおさらです。(前防衛事務次官であれ誰であれ、元防衛庁幹部の発言など省みられない日本国内が異常なのです。)百歩譲って、秋山氏が本当に持論を展開されただけだったとしても、カネをもらっている国の利益になるような発言は慎むべきでした。
 
 秋山氏ご自身の弁明をぜひともうかがいたいものです。

 この毎日の記事が出てから、毎日自身も含め、日本のすべてのメディアが後追い報道を全くしていません。劇場型政治の大根役者達を連日連夜追っかけ回す暇があったら、このような事案こそ取り上げて欲しいものです。

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